(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
前面衝突等により車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、助手席の乗員を保護する手段の1つとして、例えば特許文献1に記載された助手席用エアバッグ装置がある。この助手席用エアバッグ装置は、
図6に示すように、エアバッグケース81及びエアバッグリッド84を備え、インストルメントパネル(図示略)の内部に配置されている。エアバッグケース81は、エアバッグ85を収容した状態で車両に固定されている。エアバッグリッド84は、エアバッグケース81を上側から覆い、かつエアバッグ85により押上げられて開放されるドア部86と、ドア部86よりも下側でエアバッグケース81の少なくとも上部を取り囲む筒状壁部87とを備えている。
【0003】
筒状壁部87には上下方向に延びる係止孔88が設けられ、エアバッグケース81の壁部82には、外方へ延びるフック83が設けられている。そして、フック83が係止孔88内に挿通されることにより、エアバッグリッド84がエアバッグケース81に係止されている。
【0004】
上記助手席用エアバッグ装置によれば、前面衝突等により車両に対し前方から衝撃が加わると、乗員が慣性により前傾する。また、上記衝撃に応じてエアバッグ85に膨張用ガスが供給されて、同エアバッグ85が膨張を開始する。このエアバッグ85の押上げ力によりエアバッグリッド84のドア部86が開放され、エアバッグ85の展開を許容する開口(図示略)が形成される。エアバッグ85がこの開口を通り、前傾する乗員の前方で展開膨張し、その乗員を衝撃から保護する。
【0005】
ところで、上記
図6の助手席用エアバッグ装置では、エアバッグ85が展開膨張しない程度の低速走行中等に前面衝突等が起こった場合に、助手席の乗員が前傾してインストルメントパネル(エアバッグリッド84)に当たったときのエネルギーを吸収して、乗員に加わる衝撃を小さくする構造(衝撃吸収構造)が採用されている。このエネルギーの吸収は、エアバッグリッド84が変形して下方へ変位することにより行なわれる。
【0006】
ただし、下方への変位のために単にエアバッグリッド84を脆弱にしただけでは、展開するエアバッグ85によって内側から押された場合に、エアバッグリッド84(特に筒状壁部87)が大きく変形するおそれがある。エアバッグリッド84には、エアバッグ85によって内側から押されても大きく変形しない強度も要求される。上記
図6の助手席用エアバッグ装置では、この点を考慮した衝撃吸収構造が採用されている。
【0007】
ここで、衝撃吸収構造が設けられていない助手席用エアバッグ装置を、従来技術1というものとする。
図7(A)は、この従来技術1における係止孔88及びフック83の位置関係を示している。この
図7(A)に示すように、従来技術1では、係止孔88が上下方向に短く形成されている。
【0008】
一方、
図8中の特性線L11は、従来技術1におけるエアバッグリッド84の変位量(ストローク)と乗員に加わる衝撃の大きさ(衝撃力)との関係を示している。エアバッグリッド84の下方への変位に伴い係止孔88とフック83との位置関係が変化する。衝撃吸収構造の設けられていない従来技術1では、特性線L11に示すように、エアバッグリッド84が少し下方へ変位する(ストロークが少し大きくなる)だけで衝撃力が急激に増加する。そして、係止孔88の上壁面89がフック83に当接することで上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が減少する。
【0009】
これに対し、衝撃吸収構造が設けられている上記
図6の助手席用エアバッグ装置を、従来技術2というものとする。
図7(B)は、この従来技術2における係止孔88及びフック83の位置関係を示している。この係止孔88は、上記従来技術1よりも上方に長く形成されている。そのため、エアバッグリッド84の下方への変位代が
図7(A)よりも多い。
【0010】
図8中の特性線L12は、従来技術2におけるエアバッグリッド84の変位量(ストローク)と乗員に加わる衝撃力との関係を示している。この特性線L12に示すように、従来技術2では、エアバッグリッド84の下方への変位に伴い、係止孔88の長くなった領域でフック83が変位することでエネルギーの吸収が行なわれ、衝撃力が緩やか増加する。そして、係止孔88の上壁面89が
図7(B)において二点鎖線で示すフック83に当接することで上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が減少する。衝撃力の最大値は、上記従来技術1よりも小さくなる。
【0011】
さらに、上記特許文献1には、
図7(C)に示す衝撃吸収構造が設けられた助手席用エアバッグ装置が記載されている。この助手席用エアバッグ装置を従来技術3というものとする。従来技術3では、上記従来技術2における係止孔88の構成に加え、互いに対向した状態で上下方向に延びる一対の対向壁面91の各々から、互いに接近する方向へ向けて一対の突出部92が突設されている。
【0012】
図8中の特性線L13は、従来技術3におけるエアバッグリッド84の変位量(ストローク)と乗員に加わる衝撃力との関係を示している。この特性線L13に示すように、従来技術3では、フック83が突出部92を弾性変形させながら乗り越える際にも、エネルギーの吸収が起こり、衝撃力の最大値が上記従来技術1及び従来技術2よりも小さくなる。フック83が突出部92を乗り越えた後のエアバッグリッド84の下方への変位によってエネルギーの吸収が行なわれ、衝撃力が緩やかに増加する。そして、係止孔88の上壁面89が
図7(C)において二点鎖線で示すフック83に当接することで上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が減少する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
係止孔88の両対向壁面91にそれぞれ突出部92が設けられた上記従来技術3では、フック83に、突出部92を弾性変形させながら乗り越えさせることで、乗員がインストルメントパネル(エアバッグリッド84)に当たったときのエネルギーを吸収することが可能である。しかし、その乗り越えを適切に行なわせるために、突出部92の材料の品質や、突出部92の形状を厳格に管理することが重要となる。例えば、突出部92によって規制される係止孔88の最狭部の幅は、フック83の幅よりも狭く、しかも上記エネルギーが適切な量だけ吸収される幅に管理される必要がある。
【0015】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、より簡単な管理で衝撃吸収性能を安定して得ることのできる助手席用エアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、エアバッグを収容した状態で車両に固定されるエアバッグケースと、前記エアバッグケースを上側から覆い、かつ前記エアバッグにより開放されるドア部が設けられるとともに、前記ドア部よりも下側で前記エアバッグケースの少なくとも上部を取り囲む筒状壁部が設けられたエアバッグリッドと
を備え、前記筒状壁部には上下方向に延びる係止孔が設けられ、前記エアバッグケースに設けられたフックが前記係止孔内に上下方向への変位可能に挿通されることで、前記エアバッグリッドが前記エアバッグケースに対し下方への変位可能に構成された助手席用エアバッグ装置であって、前記係止孔において、互いに対向した状態で上下方向に延びる一対の対向壁面
が連結部により連結され、前記連結部は、前記係止孔を、変位前の前記フックが配置される下孔部と、前記下孔部の上側に隣接する上孔部とに仕切り、かつ前記エアバッグリッドの下方への変位に伴い前記フックにより破断さ
れ、前記連結部には、同連結部の他の箇所よりも強度の低い破断予定部が同連結部の両端部に設けられており、前記連結部は少なくとも一方の破断予定部において破断されることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、エアバッグケースに設けられたフックは、エアバッグリッドが下方へ変位する前は、係止孔の下孔部内に位置する。
エアバッグが展開膨張しない程度の低速走行中等に車両の前面衝突等が起こり、助手席の乗員が前傾してエアバッグリッドに当たると、乗員に加わる衝撃は、エアバッグリッドが変形して下方へ変位することにより、以下のようにして小さくなる。
【0018】
エアバッグリッドの下方への変位に伴い、係止孔(下孔部)とフックとの位置関係が変化する。乗員がエアバッグリッドに当たったときのエネルギーは、連結部がフックに当接するまでは、エアバッグリッドの変位により吸収される。そのため、乗員に加わる衝撃は、エアバッグリッドの変位量の増加に伴い緩やかに増加する。
【0019】
連結部がフックに当接した後も、エアバッグリッドの下方への変位が続くと、連結部がフックによって破断される。この破断により、上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が一旦減少する。
【0020】
上記連結部の破断により、フックの位置が下孔部から上孔部に変わる。連結部の破断後もエアバッグリッドの下方への変位が続き、係止孔の上孔部内でフックが変位すると、上記エネルギーの吸収が行なわれ、衝撃力が緩やかに増加する。そして、上孔部の上壁面がフックに当接することで上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が減少する。
【0021】
ところで、係止孔の両対向壁面に突出部が設けられ、フックに、突出部を弾性変形させながら乗り越えさせることで、乗員がエアバッグリッドに当たったときのエネルギーを吸収するようにした上記従来技術3では、その乗り越えを適切に行なわせるために、突出部の材料の品質や、突出部の形状を適切に管理することが重要となる。
【0022】
この点、連結部を破断させることで、乗員がエアバッグリッドに当たったときのエネルギーを吸収して衝撃力を減少させる請求項1に記載の発明では、連結部が係止孔の両対向壁面間に架設されていればよい。突出部を弾性変形させながら乗り越えさせる場合ほど厳格に材料の品質や形状を管理しなくても、所望の衝撃吸収性能を安定して得ることが可能である。
【0023】
また、連結部がフックに当接した後も、エアバッグリッドの下方への変位が続くと、連結部は、他の箇所よりも強度の低い破断予定部において破断される。
【0025】
そして、連結部がフックに当接した後も、エアバッグリッドの下方への変位が続くと、連結部は、その両端部に設けられた一対の破断予定部の少なくとも一方において破断される。
【0026】
また、連結部がその両端部の破断予定部において破断された場合には、連結部が、フックの下孔部から上孔部への相対的な変位の妨げとなりにくく、エアバッグリッドが下方へ変位しやすい。
【0027】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の発明において、前記連結部における前記両破断予定部間は、同破断予定部よりも幅広に形成されていることを要旨とする。
上記の構成によれば、連結部における両破断予定部間が同破断予定部よりも幅広に形成されることで、両破断予定部が、連結部の他の箇所よりも幅狭となり、強度が低くなる。そのため、連結部がフックに当接した後も、エアバッグリッドの下方への変位が続くと、連結部は、少なくとも一方の破断予定部において破断されやすい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の助手席用エアバッグ装置によれば、係止孔を下孔部及び上孔部に仕切り、かつエアバッグリッドの下方への変位に伴いフックにより破断される連結部を設けたため、より簡単な管理で衝撃吸収性能を安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、
図1〜
図5を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方として説明し、車両の後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の車幅方向であって前進時の左右方向と一致するものとする。
【0031】
図2(A)に示すように、車両における前席(運転席及び助手席)の前方には、インストルメントパネル11が配置されている。インストルメントパネル11の主要部は、硬質の樹脂によって形成された基材12によって構成されている。基材12において、助手席の前方となる箇所には開口部17が設けられている。
【0032】
基材12の上側及び開口部17の上側には表皮13が積層されている。この表皮13は一層からなるものであってもよいし、二層からなるものであってもよい。本実施形態では、表皮13は、樹脂によって形成された表皮本体14と、表皮本体14の下側に積層された発泡層15とからなる二層構造をなしている。表皮13は、発泡層15の下面において、上記基材12に接着されている。
【0033】
インストルメントパネル11の内部には、車幅方向に細長いパイプ状をなすインパネリインホース16が配置されている。インパネリインホース16は、その両端部において、車両のフロントフェンダ(図示略)に固定されている。
【0034】
上記車両には、前面衝突等により前方から衝撃が加わった場合に、助手席の前方近傍でエアバッグ21を展開膨張させて乗員を衝撃から保護する助手席用エアバッグ装置20が設けられている。この助手席用エアバッグ装置20は、車両に固定されたエアバッグケース22と、インストルメントパネル11の一部を構成し、かつ上記エアバッグケース22に係止されるエアバッグリッド26とを備えている。次に、助手席用エアバッグ装置20の各構成部材について説明する。
【0035】
<エアバッグケース22>
図2(A)において二点鎖線で示すように、エアバッグケース22は、鋼板等の板材によって、上面を開放した矩形箱型状に形成されている。エアバッグケース22は、上記インパネリインホース16に対し、ブラケット等の別部材(図示略)を介し、ボルト等の締結部材(図示略)によって締結されている。
【0036】
ここで、上記エアバッグケース22の各壁部を区別するために、車両の前後方向に相対向する一対の壁部を「壁部23」といい、車幅方向に相対向する一対の壁部を「壁部24」というものとする。
【0037】
エアバッグケース22には、二点鎖線で示すエアバッグ21が折り畳まれた状態で収容されている。エアバッグ21は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸やポリアミド糸等を用いて形成した織布等によって袋状に形成されている。エアバッグ21は、インストルメントパネル11と助手席に着座した乗員との間で膨張展開し得る大きさを有している。
【0038】
エアバッグケース22には、膨張用ガス供給器としてのインフレータ(図示略)が取付けられている。インフレータは、車両に対し、前方から一定の大きさよりも大きな衝撃が加わった場合に、エアバッグ21に膨張用ガスを供給する。この膨張用ガスの供給されたエアバッグ21は、折り状態を解消(展開)しながら、助手席側へ膨張する。
【0039】
エアバッグケース22において前後方向に相対向する両壁部23の各々であって、車幅方向に互いに離間した複数箇所にはフック25が設けられている。各フック25は、各壁部23から外方へ延びている。すなわち、車両前側の壁部23からはフック25が前方へ延び、車両後側の壁部23からはフック25が後方へ延びている。各フック25の外端部は、下方向に屈曲した鍵状をなしている。
【0040】
<エアバッグリッド26>
エアバッグリッド26は、それぞれ弾性変形可能な樹脂によって形成されたドア部27及び筒状壁部28を備えている。
【0041】
ドア部27は、上記基材12の開口部17の直上に配置されており、その開口部17、ひいては上記エアバッグケース22を上側から覆っている。ドア部27は、膨張用ガスにより膨張するエアバッグ21の内側からの押上げ力により助手席側へ開放されて、同エアバッグ21の助手席側への展開膨張を許容する。
【0042】
筒状壁部28は、ドア部27から下方へ突出し、そのドア部27よりも下側でエアバッグケース22の上部を取り囲んでいる。ドア部27と筒状壁部28とは、樹脂によって一体に形成されている。
【0043】
筒状壁部28において、車両の前後方向に相対向する一対の壁部の各々であって、上記フック25に対応する複数箇所、すなわち、車幅方向に互いに離間した複数箇所には係止孔31,32が設けられている。ここでは、車両前側の係止孔31と、車両後側の係止孔32とで形状が異なっている。各係止孔31,32は、上記フック25が上下方向への変位可能に挿通されて係止される箇所である。
【0044】
図1及び
図2(B)に示すように、車両後側の各係止孔32は、それぞれ上下方向に細長い形状をなしている。各係止孔32の上下方向の長さは、インストルメントパネル11の衝撃吸収性能として要求される基準ストロークよりも長く設定されている。ここで、「要求される基準ストローク」とは、安全規格等を満足するためのストローク量であって、エネルギー吸収時にインストルメントパネル11が変形するのに必要なエアバッグリッド26の変位量(ストローク量)よりも長い。
【0045】
表現を変えると、安全規格によってインストルメントパネル11で吸収されるべきエネルギー量(加速度)が規定されている。上記吸収されるべきエネルギー量から、インストルメントパネル11の材質、強度、形状のほか、周辺の全てのエネルギー吸収状況が加味され、逆算により、インストルメントパネル11自体が充分に残りのエネルギーを吸収するのに必要な変形ストローク量が求められる。この求められた変形ストローク量の値が「基準ストローク量」とされる。
【0046】
ここで、各係止孔32において、車幅方向に互いに対向した状態で上下方向に延びる一対の壁面を、対向壁面33というものとする。各係止孔32において、両対向壁面33間の間隔、すなわち、各係止孔32の車幅方向の幅は、エアバッグケース22(フック25)に対するエアバッグリッド26(係止孔32)の変位を阻害しないように、上記フック25の車幅方向の幅よりも若干大きく設定されている。
【0047】
また、両対向壁面33間には、車幅方向に延びる連結部34が設けられている。連結部34は、上下方向については、各係止孔32の下端から、上述した「要求される基準ストローク」分、上方へ離れた箇所又はその近傍に位置している。この連結部34により、各係止孔32は、変位前の上記フック25が配置される下孔部36と、下孔部36の上側に隣接する上孔部35とに仕切られている。下孔部36は略正方形状に形成され、上孔部35は、車幅方向よりも上下方向の寸法の短い横長の略長方形状に形成されている。
【0048】
さらに、各連結部34は、エアバッグリッド26の下方への変位に伴いフック25により破断されやすくするための構成を有している。すなわち、連結部34の両端部には、同連結部34の他の箇所よりも強度の低い破断予定部37が設けられている。連結部34における両破断予定部37間には、同破断予定部37よりも上下方向に幅の広い幅広部38が形成されている。本実施形態では、幅広部38は、連結部34において、両破断予定部37間の部分が同破断予定部37よりも上方へ突出することにより形成されている。このように、各破断予定部37は幅広部38よりも幅狭であることから、幅広部38よりも低い強度を有している。
【0049】
一方、車両前側の各係止孔31は、上述した車両後側の各係止孔32における下孔部36と同様の構成を有している。すなわち、各係止孔31は、下孔部36と同様の形状をなすが、係止孔32とは異なり、連結部34及び上孔部35に対応する部分を有していない。
【0050】
次に、上記のようにして構成された本実施形態の助手席用エアバッグ装置20の作用について、
図5のグラフを参照して説明する。
図5中の特性線L13は既述した
図8中の従来技術3を示す特性線L13と同じものを示している。また、
図5中の特性線L1は、本実施形態の助手席用エアバッグ装置20におけるエアバッグリッド26の変位量(ストローク)と乗員に加わる衝撃の大きさ(衝撃力)との関係を示している。
【0051】
車両に対し前方から衝撃が加わらない通常時には、助手席の乗員が前傾してインストルメントパネル11に当たることがなく、乗員からエアバッグリッド26に対し外力が加わらない。このときには、助手席用エアバッグ装置20では、インフレータから膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ21に供給される膨張用ガスがなく、同エアバッグ21は折り畳まれた状態に保持され続ける。
図2(A),(B)に示すように、エアバッグケース22における車両前側の壁部23から前方へ延びるフック25は、筒状壁部28における前側の係止孔31内に位置する。また、エアバッグケース22における車両後側の壁部23から後方へ延びるフック25は、筒状壁部28における後側の係止孔32の下孔部36内に位置する。
【0052】
このときには、前側のフック25は、上下寸法の小さな係止孔31内に位置し、上下方向の動きを規制される。また、後側のフック25は、係止孔32において上下寸法の小さな下孔部36内に位置し、上下方向の動きを規制される。これらの規制により、フック25の係止孔31,32内でのがたつきが軽減される。
【0053】
低速走行中等に前面衝突等が起こり、車両に対し前方から衝撃が加わると、助手席の乗員が慣性により前傾する。このときの衝撃が予め設定された判定値よりも小さいと、インフレータから膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ21に供給される膨張用ガスがなく、同エアバッグ21は折り畳まれた状態に保持され続ける。
【0054】
一方、上記のように前傾した乗員の頭部等がインストルメントパネル11に当たると、その乗員から表皮13を介してエアバッグリッド26に対し外力が加わる。このとき乗員に加わる衝撃は、表皮13及びドア部27が変形してエアバッグリッド26が下方へ押下げられる(変位する)ことにより、以下のようにして小さくなる(衝撃が吸収されて緩和される)。
【0055】
エアバッグリッド26の下方への変位に伴い、係止孔31,32が下方へ変位し、同係止孔31,32とフック25との位置関係が変化する。
乗員がインストルメントパネル11(エアバッグリッド26)に当たったときのエネルギーは、前側の係止孔31については、その係止孔31の上壁面がフック25に当接するまでは、エアバッグリッド26の下方への変位により吸収される。また、上記エネルギーは、係止孔31の上壁面がフック25に当接することによっても吸収される。
【0056】
これに対し、上記エネルギーは、後側の係止孔32については、
図3(A),(B)に示すように、連結部34がフック25に当接するまでは、エアバッグリッド26の下方への変位により吸収される。そのため、乗員に加わる衝撃力は、エアバッグリッド26の変位量(ストローク)の増加に伴い緩やかに増加する。
【0057】
連結部34がフック25に当接した後も、エアバッグリッド26の下方への変位が続くと、連結部34は、他の箇所よりも強度の低い破断予定部37において、より詳しくは、連結部34の両端部に設けられた一対の破断予定部37の少なくとも一方において、破断される。この破断により、上孔部35及び下孔部36が繋がった状態となる。
【0058】
ここで、本実施形態では、連結部34における両破断予定部37間の幅広部38が同破断予定部37よりも上下方向に幅広に形成されることで、この幅広部38の強度が破断予定部37よりも高くされている。表現を変えると、両破断予定部37が、幅広部38よりも幅狭とされることで、強度が低くされている。そのため、連結部34がフック25に当接した後も、エアバッグリッド26が下方へ変位すると、連結部34は、少なくとも一方の破断予定部37において破断される。連結部34は、幅広部38においては破断されにくい。この破断により、エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が一旦減少する。
【0059】
また、連結部34がその両端部の破断予定部37において破断された場合(
図4(B)参照)には、連結部34が、フック25の下孔部36から上孔部35への相対的な変位の妨げとなりにくく、エアバッグリッド26が下方へ変位しやすい。
【0060】
ここで、係止孔88の一対の対向壁面91に突出部92がそれぞれ設けられていて、フック83が両突出部92を弾性変形させながら乗り越える場合(
図7(C)参照)であっても、乗員がインストルメントパネル(エアバッグリッド84)に当たったときのエネルギーが吸収される(
図5の特性線L13参照)。しかし、上記エネルギーの吸収量は、フック25によって連結部34が破断されるときの方が、フック83が突出部92を乗り越えるときよりも大きい。そのため、本実施形態では、フック83が突出部92を乗り越える場合よりも衝撃力が小さくなる(
図5の特性線L1,L13参照)。
【0061】
連結部34の上記破断により、フック25の位置が下孔部36から上孔部35に変わる。連結部34の破断後もエアバッグリッド26が引き続き下方へ変位し、上孔部35内でフック25が相対的に変位すると、エネルギーの吸収が行なわれ、衝撃力が緩やかに増加する。そして、上孔部35の上壁面35Aがフック25に当接することで上記エネルギーの吸収が行なわれ、乗員に加わる衝撃力が減少する。
【0062】
ところで、フック83に、突出部92を弾性変形させながら乗り越えさせることで、乗員がインストルメントパネル(エアバッグリッド84)に当たったときのエネルギーを吸収するようにした上記従来技術3では、その乗り越えを適切に行なわせるために、突出部92の材料の品質や、突出部92の形状を適切に管理することが重要となる。例えば、突出部92によって規制される係止孔88の最狭部の幅は、フック83の幅よりも狭い幅であって、しかも上記エネルギーが適切な量だけ吸収される幅に管理される必要がある。
【0063】
この点、連結部34を破断させることで、乗員がエアバッグリッド26に当たったときのエネルギーを吸収して衝撃力を減少させる本実施形態では、連結部34が係止孔32の両対向壁面33間に架設されていればよい。フック83に、突出部92を弾性変形させながら乗り越えさせる場合ほど厳格に材料の品質や形状を管理しなくても、所望の衝撃吸収性能が安定して得られる。
【0064】
なお、中・高速走行時中等に前面衝突等が起こり、車両に前方からの衝撃が加わると、乗員が慣性により前傾する。このときの衝撃が判定値以上であると、インフレータから膨張用ガスが噴出され、エアバッグ21に供給される。この膨張用ガスが供給されたエアバッグ21は、折り状態を解消しながら膨張(展開膨張)する。この展開膨張の過程で、エアバッグ21の押圧力がエアバッグリッド26のドア部27に加わる。この押圧力によってドア部27が助手席側へ開放され、エアバッグ21の展開膨張を許容する開口(図示略)が形成される。エアバッグ21は、この開口を通ってインストルメントパネル11と前傾する乗員との間で展開膨張し、前面衝突に伴い同乗員に加わる衝撃を緩和する。
【0065】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)係止孔32における一対の対向壁面33間に、その係止孔32を、変位前のフック25が配置される下孔部36と、下孔部36の上側に隣接する上孔部35とに仕切り、かつエアバッグリッド26の下方への変位に伴いフック25により破断される連結部34を設けている(
図2(B)、
図4(B))。
【0066】
そのため、助手席の乗員がインストルメントパネル11(エアバッグリッド26)と当たったときに受ける衝撃力を小さくすることができる。
また、上記のように衝撃力を減少させるために、連結部34を係止孔32の両対向壁面33間に架設するだけですむ。そのため、フック83に、突出部92を弾性変形させながら乗り越えさせる場合ほど厳格に材料の品質や形状を管理しなくても、所望の衝撃吸収性能を安定して得ることができる。
【0067】
(2)連結部34には、同連結部34の他の箇所よりも強度の低い破断予定部37を設けている(
図2(B))。
そのため、連結部34がフック25に当接した後も、エアバッグリッド26の下方への変位が続いた場合には、連結部34を、他の箇所よりも強度の低い破断予定部37において破断させることができ、上記(1)に記載の効果を得ることができる。
【0068】
(3)破断予定部37を連結部34の両端部に設け、その連結部34を少なくとも一方の破断予定部37において破断させるようにしている(
図4(B))。
そのため、連結部34がフック25に当接した後も、エアバッグリッド26の下方への変位が続いた場合には、連結部34を、その両端部に設けられた一対の破断予定部37の少なくとも一方において破断させることができ、上記(1)に記載の効果を得ることができる。
【0069】
また、連結部34をその両端部の破断予定部37において破断させた場合(
図4(B))には、連結部34が、フック25の下孔部36から上孔部35への変位の妨げとならないようにし、エアバッグリッド26を下方へ変位しやすくすることができる。
【0070】
(4)連結部34における両破断予定部37間を、同破断予定部37よりも幅の広い幅広部38としている(
図2(B))。
そのため、連結部34において、各破断予定部37の強度を幅広部38よりも低くすることができ、連結部34がフック25に当接した後も、エアバッグリッド26の下方への変位が続いた場合には、連結部34を、少なくとも一方の破断予定部37において破断されやすくすることができる。
【0071】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<エアバッグケース22について>
・エアバッグケース22は、車両(インパネリインホース16)に対し、ブラケット等の別部材を用いることなく直接固定されてもよい。
【0072】
・エアバッグケース22は、車両においてインパネリインホース16とは異なる箇所に固定されてもよい。
・エアバッグケース22における各フック25は、下方向に代えて上方向に屈曲した鍵状をなすものであってもよいし、下方向にも上方向にも屈曲しないものであってもよい。
【0073】
また、各フック25は、上記屈曲に代え上方向又は下方向に湾曲したU字状をなすものであってもよい。
・エアバッグケース22の上部は、開放されてエアバッグ21を露出させるものであってもよい。また、エアバッグケース22の上部には、エアバッグ21の良好な膨張展開を妨げない程度の強度を有する規制部材が配置されてもよい。
【0074】
<エアバッグリッド26について>
・下孔部36、連結部34及び上孔部35を有する構成の係止孔32は、筒状壁部28の車両後側の壁部に代え又は加え、車両前側の壁部に設けられてもよい。すなわち、係止孔31についても係止孔32と同様の構成に変更されてもよい。
【0075】
・係止孔31,32は、筒状壁部28の車幅方向に対向する壁部(左右の壁部)に設けられてもよい。この場合、係止孔32は、両壁部の片側のみに設けられてもよいし、両側に設けられてもよい。
【0076】
・筒状壁部28における所定の壁部(前後の壁部、左右の壁部)に設けられる係止孔31,32の数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
・連結部34の上下方向の幅は、車幅方向についてのどの箇所においても同程度に形成されてもよい。
【0077】
・エアバッグリッド26の筒状壁部28は、エアバッグケース22の上部に加え、それよりも下側部分を取り囲むものであってもよい。例えば、筒状壁部28は、エアバッグケース22の全体を取り囲むものであってもよい。
【0078】
<インフレータについて>
・インフレータは、その全体がエアバッグケース22の内部に収容されてもよいし、一部がエアバッグケース22の内部に収容され、残部がエアバッグケース22から下方へ露出されてもよい。