【実施例】
【0058】
次に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。
実施例1
ニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬であるメトロニダゾールに感受性のある微生物と非感受性の微生物を用いて比較した。使用した微生物は、バクテロイデス・フラジリス(ATCC25285)及び大腸菌(ATCC25922)を用いた。バクテロイデス・フラジリスは、メトロニダゾールに感受性のある代表的な微生物である偏性嫌気性菌である。大腸菌は、メトロニダゾールに非感受性の微生物である通性嫌気性菌である。各微生物の培養法は、バクテロイデス・フラジリスは変法GAM培地、大腸菌はミューラーヒントン培地を用いて、37℃で1日から2日間培養した各微生物を実験に使用した。嫌気培養はアネロパック(三菱ガス化学)を用いて行った。リン酸緩衝生理食塩水は高圧蒸気滅菌処理後に急冷することで、脱気したものを使用した。また、微生物を取り扱う時は、窒素ガスを充填させた環境下で扱った。大気中で作業する際は、大気中の酸素が溶け込まないように細菌の入った容器を密封し実施した。
【0059】
下記のニトロイミダゾール誘導体を用いて実施した。
【0060】
【化5】
【0061】
化合物1:[
125I]N1−[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミド
【0062】
【化6】
【0063】
化合物2:N1−[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミド
【0064】
【化7】
【0065】
化合物3:[
67Ga]Ga−DOTA−(メトロニダゾール)
2【0066】
【化8】
【0067】
ニトロイミダゾール誘導体の代表例として、治療薬として頻繁に用いられているメトロニダゾール、画像診断薬の研究に多く用いられているFMISOを用いて、インビトロ試験を実施した。メトロニダゾールはシグマから、[
19F]FMISOはエービーエックスアドバンスドバイオケミカルコンパウンズから入手した。
【0068】
試験管に、メトロニダゾールは100μM、[
19F]FMISOは70μM、各細菌をそれぞれマクファーランド6.0になるようにリン酸緩衝生理食塩水に氷冷しながら加えた。試験管を撹拌した後、水浴37℃で各設定時間までインキュベートした。インキュベート後、直ちに氷冷し、遠心分離(3000rpm、20分、4℃)により細菌を分離し、上清を得た。その上清をろ過滅菌フィルター(ボアサイズ200nm)でろ過し、メトロニダゾールは318nm、[
19F]FMISOは322nmの吸光度を測定した(上清吸光度)。また、ニトロイミダゾール誘導体を添加していない、つまり、細菌のみの溶液を各設定時間までインキュベートして得られた上清の吸光度(バックグランド吸光度)とした。
【0069】
取り込み率(%)を以下の式で求めた。
取り込み率(%)=100−(B/A×100)
A:ニトロイミダゾール誘導体の最終濃度の吸光度
B:(上清吸光度)−(バックグランド吸光度)
各インキュベート時間における生存菌量は、定量培養法により求め、10
8コロニー形成単位(CFU)当たりの取り込み率を求めた。メトロニダゾールの結果を
図1に、[
19F]FMISOの結果を
図2に示す。
【0070】
ニトロイミダゾール誘導体で代表的なメトロニダゾールは、偏性嫌気性菌のバクテロイデス・フラジリス(B.fragilis)への取り込みが多く、通性嫌気性菌の大腸菌(E.coli)にはほとんど取り込みは認められなかった。本結果により、メトロニダゾールは感受性のある微生物に多く取り込まれることを見出した。この新知見を利用することにより、体外診断薬等への利用が可能になる。例えば、検体を嫌気培養した際、通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌が培養されるが、その中から偏性嫌気性菌を確認するためには、煩雑な作業が必要になる。このニトロイミダゾール誘導体の集積の特性を利用することで、偏性嫌気性菌の存在を容易に確認でき、迅速に診断することができる。
【0071】
[
19F]FMISOは、メトロニダゾールと同様に通性嫌気性菌より偏性嫌気性菌に多く取り込まれることを見出した。[
19F]FMISOは、原子核スピンを持つ
19Fを含むので、核磁気共鳴画像装置、又は類似の手段により検出できる。すなわち、原子核スピンを持つニトロイミダゾール誘導体は、核磁気共鳴画像装置又は類似の手段による非侵襲的なニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬に感受性を持つ微生物の感染症診断法の診断薬として実施することができる。
【0072】
実施例2
化合物1:[
125I]N1−[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
【0073】
2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩の合成
2−メチル−4−ニトロイミダゾール(1.136g)のジメチルホルムアミド溶液(25mL)にN−(2−ブロモエチル)フタルイミド(2.367g)と炭酸カリウム(1.284g)を加え、110℃で3時間撹拌した後、ろ過した。ろ液の溶媒を留去した後、残渣に水を加え冷蔵保存した。得られた析出物をろ取し、洗浄後、減圧乾燥した。得られた化合物にエタノールを加え、ヒドラジン水和物(0.38mL)を加えて、3時間還流した。エタノールを加えて冷蔵保存して得た析出物をろ過し、溶媒を留去した。得られた残渣に塩酸水溶液を加え、析出物をろ過した。溶媒を留去後、得られた残渣をメタノール溶解し、酢酸エチルを加えた。得られた析出物をろ取し、標題化合物(0.581g)を得た。
1H−NMR(400MHz,D
2O)δ:2.47(3H,s),3.47−3.51(2H,t,J=6.1Hz),4.40−4.43(2H,t,J=6.3Hz),8.19(1H,s).
【0074】
N1―[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンズアミドの合成
2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩(17mg)のジメチルホルムアミド溶液(3mL)にトリエチルアミン(34μL)と2,5−ジオキソテトラヒドロ−1H−1−ピロリル−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンゾエート(50mg)のジメチルホルムアミド溶液(2mL)を加え、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、残渣にジクロロメタンを加え、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標題化合物(38.4mg)を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ:0.83−1.49(27H,m),1.84(3H,s),3.81−3.85(2H,m),4.16−4.19(2H,t,J=5.1),7.30−7.33(1H,t,J=7.6Hz),7.57(1H,d),7.69(1H,d),7.83(1H,d),7.89(1H,s).
ESI−MS(m/z):565(M−H
+)
【0075】
N1―[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩(50mg)のジメチルホルムアミド溶液(5mL)にトリエチルアミン(100μL)と2,5−ジオキソテトラヒドロ−1H−1−ピロリル−3−ヨードベンゾエート(100mg)のジメチルホルムアミド溶液(3mL)を加え、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、残渣にジクロロメタンを加え、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、得られた残渣にジクロロメタンを加え溶解し、不溶物をろ取することにより、標題化合物(63.4mg)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6)δ:2.30(3H,s),3.58−3.63(2H,m),4.15−4.18(2H,t,J=5.3),7.25−7.29(1H,t,J=7.8Hz),7.75−7.78(1H,m),7.79−7.90(1H,m)8.09(1H,d).8.29(1H,s).
ESI−MS(m/z):400(M
+)
【0076】
[
125I]N1−[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
0.5mg/mLのN1―[2−(2−メチル−5−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンズアミドのメタノール溶液20μL、リン酸ナトリウム緩衝溶液pH5.5)70μL、[
125I]ヨウ化ナトリウム溶液(5mCi)10μLの混合溶液にp−トルエンスルホンクロロアミドナトリウム水溶液20μLを添加した。2分間放置した後、二亜硫酸ナトリウム水溶液100μLを添加して反応を終了させた。反応混合物を逆相HPLC(Mightsil RP−18、6.0×150mm)にて分離精製した。このとき安定化剤としてベンジルアルコールを添加した。分取溶液を減圧下で留去し、水を適量添加した後、濾過して目的物の溶液を調製した。放射化学的純度をTLCで分析した結果、95%以上であり、比放射能は約2200Ci/mmolであった。
【0077】
化合物2:[
125I]N1−[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
【0078】
2−(2−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩の合成
2−ニトロイミダゾール(0.255g)のジメチルホルムアミド溶液(20mL)にN−(2−ブロモエチル)フタルイミド(0.607g)と炭酸カリウム(0.330g)を加え、110℃で3時間撹拌した後、ろ過した。ろ液の溶媒を留去した後、残渣に水を加え冷蔵保存した。得られた析出物をろ取し、洗浄後、減圧乾燥した。得られた化合物にエタノールを加え、ヒドラジン水和物(0.22mL)を加えて、3時間還流した。エタノールを加えて冷蔵保存して得た析出物をろ過し、溶媒を留去した。得られた残渣に塩酸水溶液を加え、析出物をろ過した。溶媒を留去後、得られた残渣をメタノール溶解し、酢酸エチルを加えた。得られた析出物をろ取し、標題化合物(0.284g)を得た。
1H−NMR(400MHz,D
2O)
δ:3.57−3.60(2H,t,J=6.3Hz),4.81−4.84(2H,t,J=6.3Hz),7.26(1H,d),7.55(1H,d).
【0079】
N1―[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンズアミドの合成
2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩(16.3mg)のジメチルホルムアミド溶液(3mL)にトリエチルアミン(34μL)と2,5−ジオキソテトラヒドロ−1H−1−ピロリル−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンゾエート(50mg)のジメチルホルムアミド溶液(1mL)を加え、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、残渣にジクロロメタンを加え、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標題化合物(26.8mg)を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)
δ:0.85−1.54(27H,m),3.88−3.93(2H,m),4.71−4.74(2H,t,J=5.8),6.84(1H,s),7.02(1H,d),7.32−7.36(1H,m)7.59(1H,d),7.64(1H,d),7.86(1H,d).
ESI−MS(m/z):551(M−H
+)
【0080】
N1―[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)−1−エチルアミン塩酸塩(23.3mg)のジメチルホルムアミド溶液(5mL)にトリエチルアミン(50.3μL)と2,5−ジオキソテトラヒドロ−1H−1−ピロリル−3−ヨードベンゾエート(50mg)のジメチルホルムアミド溶液(1mL)を加え、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、残渣にジクロロメタンを加え、水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、得られた残渣にジクロロメタンを加え溶解し、不溶物をろ取することにより、標題化合物(21.8mg)を得た。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6)
δ:3.66−3.70(2H,m),4.54−4.57(2H,t,J=6.3),7.12(1H,t,J=0.98Hz),7.24−7.28(1H,t,J=7.8Hz),7.52(1H,s),7.71−7.73(1H,m),7.86−7.89(1H,m)8.04(1H,d).
ESI−MS(m/z):387(M−H
+)
【0081】
[
125I]N1−[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−ヨードベンズアミドの合成
0.5mg/mLのN1−[2−(2−ニトロ−1H−1−イミダゾリル)エチル]−3−(1,1,1−トリブチルスタニル)ベンズアミドのメタノール溶液20μL、リン酸ナトリウム緩衝溶液pH5.5)70μL、[
125I]ヨウ化ナトリウム溶液(5mCi)10μLの混合溶液にp−トルエンスルホンクロロアミドナトリウム水溶液20μLを添加した。2分間放置した後、二亜硫酸ナトリウム水溶液100μLを添加して反応を終了させた。反応混合物を逆相HPLC(Mightsil RP−18、6.0×150mm)にて分離精製した。このとき安定化剤としてベンジルアルコールを添加した。分取溶液を減圧下で留去し、水を適量添加した後、濾過して目的物の溶液を調製した。放射化学的純度をTLCで分析した結果、95%以上であり、比放射能は約2200Ci/mmolであった。
【0082】
[
18F]FMISOの合成
H
218Oをターゲットとし、
18O(p,n)
18F反応により生成した
18Fイオンを強塩基性陰イオン交換樹脂であるQMAカートリッジに通じて吸着させた後、炭酸カリウム水溶液(4.56mg/mL)0.6mLで反応容器に溶出させた。クリプトフィックス222無水アセトニトリル溶液(20mg/mL)0.6mLを加え、窒素気流下で加熱し、溶媒を留去した。更に、無水アセトニトリル1mLを加え、窒素気流下で加熱し、共沸により乾燥させた。1−(2’−ニトロ−1’−イミダゾリル)−2−O−テトラハイドロピラニル−3−O−トルエンスルホニルプロパンジオール無水アセトニトリル溶液(10mg/mL)0.5mLを加え、100℃で10分間加熱し、フッ素化反応を行った。この反応液を濃縮乾固した後、塩酸を加え、加水分解を行った。続いて、酢酸ナトリウムを加え、中和した後にC
18カートリッジを用いて未反応の
18Fイオンを除去した。その後、逆相HPLC(YMC−Pack ODSA A−323、10mm i.d.×250mm)にて分離精製した。分取液をQMAカートリッジに通じた溶出液を、ロータリーエバポレータのフラスコ(アスコルビン酸注射液を含む)に分取し、溶媒を留去した後、生理食塩水に溶解し、濾過して目的物の溶液を調製した。
【0083】
試験管に、放射性核種で標識されたニトロイミダゾール誘導体を26から37KBq、各細菌をマクファーランド1.0から2.0になるようにリン酸緩衝生理食塩水に氷冷しながら加えた。試験管を撹拌後、水浴37℃で各設定時間までインキュベートした。インキュベート後、直ちに氷冷したリン酸緩衝生理食塩液を加え、遠心分離(3000rpm、20分、4℃)により細菌を分離した。上清を除去後、分離した細菌に氷冷したリン酸緩衝生理食塩液を加え、遠心分離を行った。その操作を2回繰り返し、分離した細菌の放射能(cpm)をガンマカウンターで測定した。各インキュベート時間における生存菌量は、定量培養法により求め、10
8コロニー形成単位(CFU)当たりの取り込み率を求めた。化合物1の結果を
図3に、化合物2の結果を
図4に、[
18F]FMISOの結果を
図5に示す。
【0084】
化合物1、化合物2及び[
18F]FMISOは、通性嫌気性菌より偏性嫌気性菌に多く取り込まれることを見出した。この結果により、例えばニトロイミダゾール誘導体は、用途に応じた放射性核種で標識することで、ニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬に感受性を持つ微生物の感染症の体外または体内の放射性診断薬として実施することができる。
【0085】
実施例3
本発明のニトロイミダゾール誘導体がメトロニダゾールと同様な取り込み機序で取り込まれていることを確認するため、メトロニダゾールによる影響について実施した。実施例2の実験法に、37℃インキュベート前にメトロニダゾール1.5mMになるように加えて行った場合、化合物1の取り込み率は71%減少し、化合物2の取り込み率は42%減少した。すなわち、メトロニダゾールと同様な取り込み機序であることを確認した。
【0086】
実施例4
化合物3:[
67Ga]Ga−DOTA−(メトロニダゾール)
2の合成
【0087】
1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの合成
サイクレン(1.05g)をクロロホルム(50mL)に溶解させ、N−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スクシイミド(2.62g)を加え、室温にて攪拌した。48時間攪拌後、減圧下溶媒留去し、得られた残渣をクロロホルム(50mL)に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒留去、真空乾燥し、標題化合物(2.27g)を得た。
【0088】
1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニル)−4,10−ビス(ベンジロキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの合成
1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(2.40g)を無水アセトニトリル(55mL)に溶解させ、ベンジルブロモアセテート(2.4mL)及び炭酸カリウム(2.13g)を加え、室温にて撹拌した。24時間攪拌後、炭酸カリウムを除去し、ろ液を減圧下溶媒留去し得られた残渣をシリカゲルカラムで分離、精製することで、標題化合物(3.92g)を得た。
【0089】
4,10−(ベンジロキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの合成
1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニル)−4,10−ビス(ベンジロキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(49.2mg)をジクロロメタン(1.4mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(1.4mL)を加えた。90分攪拌後、減圧下溶媒留去し、水酸化ナトリウム水溶液(15mL)に溶解させ、ジエチルエーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒留去、真空乾燥し、標題化合物(33.4mg)を得た。
【0090】
1,7−ビス(ベンジロキシカルボニルメチル)−4,10−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの合成
4,10−(ベンジロキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(2.32g)を無水アセトニトリル(40mL)に溶解させ、tert−ブチルブロモアセテート(1.78mL)及び炭酸カリウム(1.64g)を加え、室温にて撹拌した。24時間後、炭酸カリウムを除去し、ろ液を減圧下溶媒留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムで分離、精製することで、標題化合物(3.20g)を得た。
【0091】
4,10−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,7−二酢酸の合成
1,7−ビス(ベンジロキシカルボニルメチル)−4,10−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(900mg)を無水エタノール(20mL)に溶解させ、10%パラジウム炭素(100mg)を加え、0.2MPaの水素気流下、室温にて撹拌した。60時間攪拌後、パラジウム炭素を除去し、ろ液を減圧下溶媒留去、真空乾燥し、標題化合物(798mg)を得た。
【0092】
メタンスルホン酸 2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルエステルの合成
メトロニダゾール(2.0g)を無水ジクロロメタン(40mL)に溶解させ、トリエチルアミン(2.4mL)とメタンスルホニルクロライド(1.1mL)を加え、アルゴン気流下、室温にて撹拌した。4時間後、析出した固体をろ取し、真空乾燥し標題化合物(2.64g)を得た。
【0093】
1−(2−アジド−エチル)−2−メチル−5−ニトロ−1H−イミダゾールの合成
メタンスルホン酸 2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルエステル(2.36g)をジメチルホルムアルデヒド(30mL)に溶解させ、アジ化ナトリウム(0.73g)を加え、100℃にて撹拌した。2時間後室温に戻し、さらに、2時間撹拌後、飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒留去、真空乾燥し、標題化合物(1.80g)を得た。
【0094】
2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルアミン二塩酸塩の合成
1−(2−アジド−エチル)−2−メチル−5−ニトロ−1H−イミダゾール(2.93g)を無水テトラヒドロフラン(40mL)に溶解させ、トリフェニルホスフィン(4.87g)を加え、室温にて撹拌した。20時間後、濃塩酸を加え、加熱還流した。5時間後、減圧下溶媒留去し得られた残渣を精製水に溶解させ、酢酸エチルで洗い、減圧下溶媒留去、真空乾燥した。得られた固体をメタノールにて再結晶し、標題化合物(2.69g)を得た。
【0095】
4,10−ビス{[2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルカルバモイル]メチル}−1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの合成
4,10−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,7−二酢酸(60.0mg)を無水ジクロロメタン(5.0mL)と無水ジメチルホルムアルデヒド(1.0mL)に溶解させ、無水トリエチルアミン(132μL)、エチル−(ジメチル)−カルボジイミド(89.4mg)、ハイドロキシベンゾトリアゾール(71.4mg)、2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルアミン二塩酸塩(112.8mg)を加え、アルゴン気流下で撹拌した。48時間後、クロロホルムを加え、精製水で激しく洗い、減圧下溶媒留去し得られた残渣を、メタノールで再結晶し、標題化合物(32.3mg)を得た。
【0096】
4,10−ビス{[2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルカルバモイル]メチル}−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,7−二酢酸の合成
4,10−ビス{[2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルカルバモイル]メチル}−1,7−ビス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(17.0mg)を濃塩酸に溶解させ、室温にて攪拌した。2時間攪拌後、減圧下溶媒留去し、得られた残渣を少量のメタノールに溶解させ、ジエチルエーテルで固体化した後、真空乾燥し、標題化合物(14.0mg)を得た。
【0097】
[
67Ga]Ga−DOTA−(メトロニダゾール)
2の合成
4,10−ビス{[2−(2−メチル−5−ニトロイミダゾール−1−イル)エチルカルバモイル]メチル}−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,7−二酢酸(7μg)を0.2M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.8)(198μL)で溶解させ、[
67Ga]塩化ガリウム(富士フイルムRIファーマ)(2μL)を添加し、95℃で60分間、加熱した。反応混合物を逆相カラム(COSMOCIL 5C18−PAQ 4.6×250mm)を用いて分離精製した。分離精製後、減圧下で分取溶液の溶媒を留去し、乾固させた。
【0098】
ニトロイミダゾールの誘導体の連結基として二官能性配位子やカルボニル化合物等を導入し金属錯体からなる化合物3を用いて、実施例2の試験と同じ方法で、インビトロ試験を実施した。また、バクテロイデス・フラジリスの生存菌量を0.43×10
8CFU/mLから6.75×10
8CFU/mLの範囲で設定した各生存菌量において、37℃、120分間加熱による化合物3の取り込み率を求めた。
【0099】
化合物3は、通性嫌気性菌より偏性嫌気性菌に多く取り込まれることを見出した(
図6)。また、化合物3は偏性嫌気性菌の生存菌数に相関して取り込み率が増加した(
図7)。
【0100】
ニトロイミダゾール誘導体の連結基として二官能性配位子やカルボニル化合物等を導入し金属錯体からなるニトロイミダゾール誘導体は、ニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬に感受性を持つ微生物の生存菌数を測定できる体外または体内の放射性診断薬として実施できることを確認した。すなわち、用途に応じて金属錯体を変えることで、放射性診断薬、核磁気共鳴の造影剤、X線造影剤等に利用することができる。
【0101】
実施例5
皮下感染症ラットモデルを用いてインビボ試験を実施した。ニトロイミダゾール誘導体は化合物1、又は化合物2を用いた。微生物は、メトロニダゾール感受性であるバクテロイデス・フラジリス(ATCC25285、NCTC10581)の2株、又はメトロニダゾール非感受性である大腸菌(ATCC25922)を用いた。雄性SDラット6週齢の左大腿皮下に、生理食塩液に懸濁した細菌5×10
9cfu/0.1mlを投与し、その4日後に評価に用いた。化合物1、又は化合物2を外頚静脈から約0.74MBq投与し、3時間後に採血し、組織を摘出した。また、感染症モデルの炎症の評価のため、炎症の放射性診断薬である[
67Ga]クエン酸ガリウム(富士フイルムRIファーマ)を採血6.5時間前に外頚静脈から約0.15MBq投与した。感染組織中の生存細菌は、感染皮膚組織の一部を培地に擦り、培養により確認した。血液、感染部位皮膚、非感染部位皮膚の
67Gaおよび
125Iの各々の放射能(cpm)を測定した。
125Iの放射能の測定は、
67Gaの放射能を減衰させてから測定を行った。各組織の集積量、%ID/g(投与放射能に対する組織重量あたりの放射能の割合)を算出した。
【0102】
皮下感染症ラットモデルの[
67Ga]クエン酸ガリウムの集積は、感染部位皮膚集積量/血液値で、バクテロイデス・フラジリス(ATCC25285):1.75±0.2、バクテロイデス・フラジリス(NCTC10581):1.89±0.4、大腸菌:1.73±0.7、非感染部位皮膚集積量/血液:0.41±0.06で、細菌による炎症が認められた。[
67Ga]クエン酸ガリウムによる炎症評価は各細菌における炎症に差は認められなかった。
【0103】
皮下感染症ラットモデルの結果を
図8に示した。メトロニダゾール非感受性の大腸菌による感染部位とくらべ、メトロニダゾール感受性のバクテロイデス・フラジリスの感染部位に選択的な集積を示した。このインビボ試験においても、インビトロ試験と一致した結果を得ることができた。この実施例より、例えば、ニトロイミダゾール誘導体はニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬に感受性を持つ微生物の感染症画像診断法の診断薬として実施することができる。
【0104】
実施例6
生存微生物が関与しない炎症モデルを用いて、化合物1、又は化合物2の集積評価を実施した。盲腸内容物の約半分は、細菌かその死骸によって構成されている。その構成菌のほとんどは偏性嫌気性菌である。ラットの盲腸内容物をGAM培地で8倍に希釈し、それをガーゼによりろ過した後、その盲腸内容物をオートクレーブ(121℃、2時間)により滅菌した。滅菌した盲腸内容物は培養法により滅菌されていることを確認した。滅菌盲腸内容物0.1mLを大腿皮下に投与し、その4日後に試験に用いた。化合物1、又は化合物2を外頚静脈から約0.74MBq投与し、3時間後に採血し、組織を摘出した。また、炎症の確認のため、炎症の放射性診断薬である[
67Ga]クエン酸ガリウム(富士フイルムRIファーマ)を採血6.5時間前に外頚静脈から約0.15MBq投与した。血液、炎症側皮膚の
67Gaおよび
125Iの各々の放射能(cpm)を測定した。
125Iの放射能の測定は、
67Gaの放射能を減衰させてから測定を行った。各組織の集積量、%ID/g(投与放射能に対する組織重量あたりの放射能の割合)を算出した。
【0105】
滅菌盲腸内容物皮下炎症モデルの[
67Ga]クエン酸ガリウムの集積は、炎症部位皮膚集積量/血液値で、1.61±0.16で、正常皮膚より[
67Ga]クエン酸ガリウムの集積が認められ、炎症が確認された。
【0106】
化合物1の集積は、炎症部位皮膚集積量/血液値で、0.85±0.25、及び化合物2の集積は0.73±0.11で、バクテロイデス・フラジリスの感染部位より低値であった。この結果により、ニトロイミダゾール誘導体は、ニトロイミダゾール構造を含む抗微生物薬に感受性を持つ生存している微生物に集積することが確認できた。例えば、生存微生物を非侵襲的に短時間で測定することにより、抗微生物薬の短期使用に役立つ等、新しい診断薬として実施することができる。
【0107】
実施例7
ニトロイミダゾール誘導体は分裂休止期(嫌気的環境下)における抗酸菌に対しても抗菌活性が認められる特徴を有している。ニトロイミダゾール誘導体である化合物2の抗酸菌への取り込みについて評価した。ニトロイミダゾール感受性抗酸菌は、ウシ型弱毒結核菌(Mycobacterium bovis BCG,ATCC35734)を使用した。ニトロイミダゾール非感受性菌は、通性嫌気性菌である大腸菌(Escherichia coli,ATCC25922)を使用した。化合物2の嫌気的環境下におけるウシ型弱毒結核菌及び大腸菌への取り込みについて比較した。ウシ型弱毒結核菌は、ミドルブルック7H9ブロス中、37℃で培養を行い、使用前にメンブランフィルター50μmにより菌塊を取り除いたものを実験に使用した。大腸菌(ATCC25922)に関しては、実施例1の方法により調整した。本実験は、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)処理により脱気したリン酸緩衝生理食塩水(2%DMSO及び0.05%ポリソルベート80含有)中で行った。また、細菌を取り扱う時は、窒素ガスを充填させた環境下で扱った。大気中で作業する際は、大気中の酸素が溶け込まないように細菌の入った容器を密封し実施した。
【0108】
試験管に、化合物2を最終濃度0.1mM、各細菌をマクファーランド3〜4になるようにリン酸緩衝生理食塩水に氷冷しながら加えた。試験管を撹拌した後、水浴37℃で各設定時間までインキュベートした。インキュベート後、直ちに氷冷し、遠心分離(3000rpm、20分、4℃)により細菌を分離し、上清を得た。その上清をろ過滅菌フィルター(ボアサイズ200nm)でろ過し、化合物2を325nmの吸光度で測定した(上清吸光度)。また、化合物2を添加していない細菌のみの溶液を各設定時間までインキュベートして得られた上清の吸光度(バックグランド吸光度)とした。
【0109】
取り込み率(%)を以下の式で求めた。
取り込み率(%)=100−(B/A×100)
A:ニトロイミダゾール誘導体の最終濃度の吸光度
B:(上清吸光度)−(バックグランド吸光度)
各インキュベート時間における生存菌量(コロニー形成単位)は、ウシ型弱毒結核菌はミルブルック7H11寒天培地、大腸菌はミューラーヒントン寒天培地を用いて、定量培養法により求め、10
7コロニー形成単位(CFU)当たりの取り込み率を求めた。結果を
図9に示す。
【0110】
ニトロイミダゾール誘導体である化合物2は、嫌気的環境下において、ニトロイミダゾール誘導体に非感受性である大腸菌よりも、感受性であるウシ型弱毒結核菌に明らかに多く取り込まれることを見出した。この新知見を利用することにより、例えば、化合物2を用途に応じた放射性核種で標識することで、結核感染症の体外または体内の放射性診断薬として実施することができる。特に、分裂休止期の結核菌を検出でき、分裂休止期の結核菌に対する治療効果判定や潜在性結核症等の画像診断薬として有効である。
【0111】
実施例8
画像診断薬の研究に多く用いられているFMISOを用いて、ニトロイミダゾールに感受性のある抗酸菌における取り込みについて評価した。ニトロイミダゾール感受性抗酸菌は、ウシ型弱毒結核菌(ATCC35734)を使用した。ウシ型弱毒結核菌は、ミドルブルック7H9ブロス中、37℃で培養を行い、使用前にメンブランフィルター50μmにより菌塊を取り除いたものを実験に使用した。本実験は、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)処理により脱気したリン酸緩衝生理食塩水(0.05%ポリソルベート80含有)中で行った。また、細菌を取り扱う時は、窒素ガスを充填させた環境下で扱った。大気中で作業する際は、大気中の酸素が溶け込まないように細菌の入った容器を密封し実施した。
【0112】
試験管に、[
19F]FMISOを最終濃度0.09mM、ウシ型弱毒結核菌をマクファーランド3〜4になるようにリン酸緩衝生理食塩水に氷冷しながら加えた。試験管を撹拌した後、水浴37℃で各設定時間までインキュベートした。インキュベート後、直ちに氷冷し、遠心分離(3000rpm、20分、4℃)により細菌を分離し、上清を得た。その上清をろ過滅菌フィルター(ボアサイズ200nm)でろ過し、[
19F]FMISOを322nmの吸光度で測定した(上清吸光度)。また、[
19F]FMISOを添加していない細菌のみの溶液を各設定時間までインキュベートして得られた上清の吸光度(バックグランド吸光度)とした。
【0113】
取り込み率(%)は実施例7と同様の方法により求めた。
結果を
図10に示す。なお、比較のため実施例1の大腸菌に対する[
19F]FMISOの取り込み結果も
図10に重ねて記載した。
【0114】
[
19F]FMISOは、嫌気的環境下において、ニトロイミダゾール誘導体に非感受性である大腸菌よりも、感受性のある分裂休止期の結核菌に多く取り込まれることを見出した。この新知見を利用することにより、例えば、FMISOを用途に応じた放射性核種で標識することで、陽電子放射断層撮影装置(PET)及び核磁気共鳴装置又は類似の手段による非侵襲的な診断法により、分裂休止期の結核菌を検出でき、分裂休止期の結核菌に対する治療効果判定や潜在性結核症等の画像診断薬として実施することができる。