(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の成形断熱材の製造方法は、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程であって、スラリーに含まれる遊離フェノールが150ppm以下である前記工程、(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を成形する工程(以下、吸引成形工程と称する)、及び(c)前記予備成形体を焼成する工程、を含む。
また、本発明の成形断熱材用の予備成形体の製造方法は、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程であって、スラリーに含まれる遊離フェノールが150ppm以下である前記工程、及び(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を成形する工程(以下、吸引成形工程と称する)、を含み、前記方法により、成形断熱材用の予備成形体を提供することができる。本明細書においては、前記成形断熱材の製造方法及び前記成形断熱材用の予備成形体の製造方法を会わせて、本発明の製造方法と称することがある。
【0013】
[1]糸浮遊現象
《糸浮遊現象の発生》
本発明が解決しようとする課題である「糸浮遊現象」の発生について、本発明の製造方法の1つの実施態様に基づき、
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。
本発明の製造方法におけるスラリー調製工程(a)は、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程である。具体的には、例えばフェノール樹脂を分散槽(1)を用いて、水に分散させ、フェノール樹脂分散液(12)を作成する。また、フェノール樹脂とは別に、炭素繊維を混合槽(2)を用いて、溶媒に分散させ炭素繊維分散液を調製し、この炭素繊維分散液に分散槽からフェノール樹脂分散液を混合することによって、フェノール樹脂及び炭素繊維が分散したスラリー(23)を調製することができる。混合槽(2)におけるスラリーを調製するための攪拌は、例えばエアレーション手段(21)によって行うことができる。
得られたスラリーは、成形槽(33)に移送され、吸引成形工程(b)において、スラリーから溶媒を吸引除去することにより、2次元ランダム配向を有する炭素繊維中にフェノール樹脂の混在した予備成形体として、成形される。そして、スチーム加熱によりフェノール樹脂を溶かして繊維間をわたらせこれを冷却することで結合させ、硬化した予備成形体を得ることができる。得られたスチーム処理予備成形体は、乾燥機(4)に移動し、十分乾燥させる。そして、乾燥したスチーム処理予備成形体を、焼成炉(5)に移動し、黒鉛化焼成を行い、成形断熱材が得られる。
【0014】
スラリーの「糸浮遊現象」は、前記混合槽ではほとんど発生しないが、吸引成形工程(b)において、スラリーが移送された成形槽(33)で発生することにより問題となる。糸浮遊現象の発生を、
図3の模式図を用いて説明する。
糸浮遊現象は、炭素繊維とフェノール樹脂とが気泡を巻き込んで成形槽の上部に浮遊する状態であり、一年を通じて発生しているが、水温の低い冬季においては全く発生しないことも多く、水温の上昇にしたがって発生が増加する。また、糸浮遊現象における浮遊層の厚さも水温の上昇につれて厚くなる傾向がある。例えば、
図3(A)は、薄い糸浮遊層(37)が発生した場合を示しているが、このように薄い糸浮遊層であれば、或る程度容易に解消することができ、正常な2次元配向を有する良好な予備成形体を得ることができる。一方、
図3(B)に示すように、厚い糸浮遊層(38)が発生すると解繊作業が困難になり、結果的に予備成形体の上部が不良成形部となり製品収率が低下する。
【0015】
糸浮遊物は、炭素繊維、フェノール樹脂及び気泡から形成されており、気泡によって浮遊していると考えられた。従って、気泡の発生を抑えることによって、糸浮遊現象は解消するものと考えられた。本発明者らは、スラリー法において気泡の発生に影響を与えている前記エアレーションによるスラリーの攪拌を、攪拌機(22)に変更した。攪拌機を用いることにより、「糸浮遊現象」の発生及び糸浮遊層の厚さを抑制することができた。しかしながら、「糸浮遊現象」の発生を完全に抑えることはできなかった。
一方、「糸浮遊現象」は、水温の高くなる夏季に頻発し、水温の低下とともに発生が減少する。従って、前記分散槽、混合槽、及び成形槽の温度を低温、例えば10℃に保つことによって、糸浮遊現象の発生を抑制することが可能である。しかしながら、この解決方法は夏季においては、水を冷却するための費用が掛かるため、実用的ではなかった。
【0016】
《糸浮遊現象の抑制》
本発明者らは、糸浮遊現象を解消するため、フェノール樹脂に着目し、従来スラリー法において使用されていたノボラック型フェノール樹脂、又はレゾール型フェノール樹脂とは物性の異なるフェノール樹脂を用いることを試みた。その結果、後述の実施例に示すように、フェノール樹脂A(ベルパールS890:エア・ウォーター社)及びフェノール樹脂B(ベルパールS899:エア・ウォーター社)を用いた場合、糸浮遊現象の発生をほぼ完全に抑制することができた。更に、従来スラリー法に使用していなかったタイプのノボラック型フェノール樹脂Cを用いた場合においても、糸浮遊現象の発生を抑制することができることを見出した。
【0017】
従来、使用していたノボラック型フェノール樹脂D(RD−319A:ヘキシオン社)と、フェノール樹脂A等の相違点としては、フェノール樹脂の物性である粒子径、分子量、硬化速度、融点、及び残炭率などがあり、これらの相違点が糸浮遊現象の発生に影響を与えている可能性が考えられた。しかしながら、本発明者らはフェノール樹脂に含まれる化合物に着目し、それらの糸浮遊現象の発生に対する影響を検討した。フェノール樹脂に含まれる可能性のある化合物としては、遊離フェノール、又はヘキシミンなどがある。後述の実施例5で示すように、本発明者らは、それらの中でも遊離フェノールに着目し、スラリー中に遊離フェノールを添加することにより気泡の発生が増加すること、更に発生した気泡が破泡することなく蓄積していくことを見出した。これらの結果は、スラリー中の遊離フェノール濃度が高くなることにより、糸浮遊現象の発生が増加し、逆に遊離フェノール濃度を低下させることにより、糸浮遊現象の発生を抑制することが可能であることを示している。表1に、それぞれのフェノール樹脂を使用した場合の、スラリー中の遊離フェノール濃度と、糸浮遊現象の発生についてまとめた。
【0019】
本発明の製造方法において、スラリーに含まれる遊離フェノールは150ppmであり、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは80ppm以下であり、更に好ましくは50ppm以下であり、最も好ましくは25ppm以下である。
表1のノボラック型フェノール樹脂Cを用いた場合から明らかなように、スラリー中の遊離フェノールが160ppmでは、糸浮遊現象は解消されない。また、後述の実施例6から明らかなように、スラリー中の遊離フェノールが24ppmにおいて、気泡の発生を抑えることが可能である。
【0020】
更に、本発明者らは、糸浮遊物が炭素繊維、フェノール樹脂及び気泡から形成されており、自然には解繊しないことから、糸浮遊物が何らかの作用で接着しており、それにより糸浮遊現象の発生が増加しているのではないかと考えた。この原因を解明するため、ノボラック型フェノール樹脂Dを用いた場合において、発生した糸浮遊物の電子顕微鏡写真を撮影した。後述の比較例7及び実施例6に示すように、糸浮遊物においては、フェノール樹脂が融解しており、炭素繊維を接着していることがわかった。更に、糸浮遊現象が発生した場合に、灰色の泡が、水面上に発生するが、この泡は炭素繊維と融解したフェノール樹脂によって気泡に膜が構成されたものであることが判明した。この結果は、水温が上昇することにより、フェノール樹脂が融解し、炭素繊維と融解したフェノール樹脂により膜が形成され、気泡の破泡性を悪化させていることを示している。
本発明者らは、更にフェノール樹脂の融点に着目し、糸浮遊現象が抑制されたフェノール樹脂A、フェノール樹脂B、及びノボラック型フェノール樹脂C、並びに糸浮遊現象が発生したノボラック型フェノール樹脂Dの融点を測定した。その結果、ノボラック型フェノール樹脂Dと比較して、フェノール樹脂A、フェノール樹脂B、及びノボラック型フェノール樹脂Cの融点が高いことが判明した。更に、後述の実施例6に示すように、フェノール樹脂Aと、ノボラック型フェノール樹脂Dとを、10℃、20℃、及び30℃の条件で水に分散させ、気泡を発生させることより、フェノール樹脂の溶解及び気泡へのフェノール樹脂の巻き込みを調べた。温度が上昇するにつれて、ノボラック型フェノール樹脂Dでは、フェノール樹脂の溶解がおきるが、フェノール樹脂Aでは、フェノール樹脂の溶解は観察されなかった。表2に、それぞれのフェノール樹脂の融点と、水への溶解性についてまとめた。
【0022】
本発明の製造方法において、使用するフェノール樹脂の融点は、特に限定されるものではないが、好ましくは50℃〜130℃、より好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは64℃以上であり、最も好ましくは65℃以上である。融点が50℃未満であると分散液中で溶融し繊維成分と凝集が生じ密度むらが多くなることがあり、130℃を超えるとスチーミングを行った場合に硬化し難くなることがある。
【0023】
本発明の製造方法におけるスラリーの温度は、通常スラリー法において用いられる温度であれば、限定されるものではないが、通常は室温で行うことが多いため、0℃〜35℃であり、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは22℃以下であり、更に好ましくは15℃以下であり、最も好ましくは12℃以下である。30℃を超えるとフェノール樹脂の溶解が増加することがある。また12℃以下では、スラリー中の遊離フェノールの濃度が高い場合でも、糸浮遊現象の発生を抑えることができる。
【0024】
以下に、本発明の製造方法におけるスラリー調製工程、吸引成形工程、及び焼成工程について、詳しく説明する。
【0025】
[2]製造工程
〔a〕スラリー調製工程
スラリー調製工程(a)においては、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維(以下、炭素繊維等と称することがある)、並びにフェノール樹脂、更に必要により、フェノール樹脂以外のバインダー及び/又はその他の材料を同時に溶媒に分散させ、スラリーを調製することも可能である。しかしながら、フェノール樹脂の分散と、炭素繊維等の分散とを別の槽、例えばそれぞれ分散槽(1)及び混合槽(2)で行い、混合することができる。別の槽でそれぞれの分散液を調製し、混合することによって、より均一なスラリーを調製することが可能である。前記フェノール樹脂以外のバインダー及びその他の材料についても、更に別の槽において分散させ、混合することも可能である。しかし、フェノール樹脂及び炭素繊維等と比較すると添加する量が少ないため、フェノール樹脂を分散させる分散槽、又は炭素繊維等を分散させる混合槽に加えて分散させることも可能である。
【0026】
なお、本明細書において、「炭素繊維」とは炭素化糸及び黒鉛化糸を含み、「炭素化糸」とは、出発材料を、650〜1500℃で焼成したものを意味し、「黒鉛化糸」とは、出発材料、又は炭素化糸を1500〜3000℃で焼成したものを意味する。黒鉛化糸は、具体的には炭素化糸を不活性ガス雰囲気で「減圧焼成」又は「常圧焼成」することにより得ることができる。
【0027】
混合したスラリー中の炭素繊維等及びフェノール樹脂の濃度は、適宜決定することができるが、溶媒に対して、炭素繊維等は1〜5重量%、フェノール樹脂は0.5〜3重量%とすることができ、両方をあわせたスラリーの濃度としては、1〜7重量%、好ましくは1.5〜6重量%、より好ましくは、2〜5重量%が好ましい。しかしながら、糸浮遊現象を抑えるためには、低い濃度とすることが好ましい。
【0028】
スラリーを調製する場合、炭素繊維、すなわち炭素化糸又は黒鉛化糸、或いは炭素繊維化可能な繊維は、単独で、又は2つ以上を組み合わせて用いることができるが、黒鉛化糸を含んだものを用いることが好ましい。黒鉛化糸を含むことによって、焼成後の成形断熱材の変形を抑えることができる。また、炭素化糸及び/又は炭素繊維化可能な繊維(以下、炭素化糸等と称することがある)としては、炭素繊維を用いる方が好ましい。
黒鉛化糸と炭素化糸等との組み合わせを用いる場合、黒鉛化糸と、炭素化糸等との比率は、特に限定されるものではないが、25:75〜100:0(重量%)が好ましい。炭素化糸等が75重量%を超えると、焼成時に歪が生じ割れ易くなるからである。
【0029】
スラリー調製工程(a)において使用される溶媒は、特に限定されるものではないが、水、炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類、又はケトン類、或いはこれらの溶媒を2種以上混合した溶媒を用いることができる。特に好ましい溶媒としては、フェノール樹脂の溶解度が低い水を挙げることができる。
以下に、スラリー調製工程(a)の1つの態様を具体的に説明するが、スラリー調製工程(a)は、この態様に限定されるものではない。
【0030】
図1及び2に示すように、スラリー調製工程(a)においては、フェノール樹脂を分散槽(1)を用いて、溶媒(例えば、水)に分散させ、フェノール樹脂分散液(12)を作成することができる。また、フェノール樹脂とは別に、炭素繊維を混合槽(2)を用いて、溶媒(例えば、水)に分散させ炭素繊維分散液を調製し、この炭素繊維分散液に分散槽からフェノール樹脂分散液を混合することによって、フェノール樹脂及び炭素繊維が分散したスラリー(23)を調製することができる。
【0031】
分散槽(1)においては、攪拌機(11)によって溶媒を攪拌しながら、前記フェノール樹脂を、少量ずつ投入し、フェノール樹脂分散液を調製する。溶媒の量に対するフェノール樹脂の量は、フェノール樹脂が均一に分散される範囲で、適宜決定することができるが、10〜30重量%が好ましく、15〜27重量%がより好ましく、18〜26重量%が最も好ましい。
【0032】
混合槽(2)において、溶媒に炭素繊維を加え、炭素繊維分散液を調製することができる。炭素繊維は、前記炭素化糸又は黒鉛化糸を単独で用い、炭素繊維分散液を調製することも可能であるが、炭素化糸又は黒鉛化糸を組み合わせて用いることが好ましい。
【0033】
また、溶媒の量に対する炭素繊維の量は、炭素繊維が均一に分散される範囲で、適宜決定することができるが、溶媒に対する炭素繊維の量は、0.1〜5.0重量%が好ましく、0.5〜4.0重量%がより好ましく、1.0〜3.0重量%が最も好ましい。炭素繊維が0.1重量%未満になると成形に時間を要することがあり、5.0重量%を超えると分散不良が生じることがある。
【0034】
混合槽(2)における攪拌は、例えば、エアレーション手段(21)によって行い、炭素繊維分散液を得ることができる。エアレーション手段で攪拌する場合、空気の供給量は、20〜150Nm
3/hが好ましく、40〜100Nm
3/hがより好ましい。また、混合槽における攪拌は攪拌機(22)によっても行うことができる。「糸浮遊現象」を抑えるためには、エアレーション手段による撹拌より、攪拌機(22)による撹拌が好ましい。攪拌機の回転数は、炭素繊維分散液の沈降が妨げられる回転数であれば良く、バッフル、邪魔板を敷設することもできる。エアレーション手段及び攪拌機による攪拌時間は、炭素繊維が均一になる時間であれば、特に限定されるものではない。
【0035】
混合槽(2)において、炭素繊維分散液を分散させた後に、分散槽からフェノール樹脂分散液(12)を混合槽に移送し、エアレーション手段(21)又は攪拌機(22)によって攪拌混合することによって、スラリー(23)を調製することができる。混合槽における炭素繊維分散液とフェノール樹脂分散液との混合の、エアレーション手段又は攪拌機による攪拌の条件は、前記の炭素繊維分散液を
調製した条件と同じ条件で行うことができる。なお、本態様においては、混合槽でスラリーを調製しているが、フェノール樹脂分散液及び炭素繊維分散液を、別々に成形槽に移送して、成形槽においてスラリーを調製することも可能である。
【0036】
〔b〕吸引成形工程
吸引成形工程(b)においては、前記スラリー調製工程において得られたスラリー中の溶媒を吸引除去するにより、予備成形体を吸引成形する。吸引成形の方法は、少なくとも炭素繊維及びフェノール樹脂が分散されたスラリーを、吸引により成形する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、前記特許文献2(特開平2−208264号公報)に記載のように、スラリーが充填されたスラリー槽に、中心部が中空の円筒形の吸引成形型を挿入し、吸引ポンプで吸引することによって、円筒形の吸引成形型の外面に炭素繊維及びフェノールを堆積させることによって、中空筒状の予備成形体を得ることができる。
【0037】
また、
図2の成形槽(3)に示すように、スラリーを含む成形槽の下部の底面から吸引を行い、成形槽の形状に沿った層状の予備成形体を得ることもできる。成形槽の形状及び大きさは、目的とする成形断熱材の大きさに合わせて、適宜選択することが可能であり、立方体、直方体、円盤、円筒状などの目的の形状の層状予備成形体を製造することができる。
【0038】
吸引成形の終了後、未処理予備成形体を、硬化させるために、水蒸気によりスチーミング(スチーム加熱)を行う。スチーミング(スチーム加熱)の時間は、特に限定されるものではないが、1時間〜4時間が好ましい。スチーム加熱によりフェノール樹脂を溶解し、繊維間をわたらせ、更に冷却することで結合させ、硬化した予備成形体を得ることができる。
なお、本明細書において、「予備成形体」は、特に断らない限り、水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行う前のもの、及び水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行った後のものの両方を意味するが、特に水蒸気によるスチーミング(スチーム加熱)を行った後の予備成形体を意味する場合「スチーム処理予備成形体」と称し、水蒸気によるスチーミングを行った前の予備成形体を意味する場合「未処理予備成形体」と称する。すなわち、本発明の予備成形体の製造方法によって製造される「予備成形体」は、「未処理予備成形体」及び「スチーム処理予備成形体」の両方を含む。
【0039】
また、未処理予備成形体を硬化させる手段としては、前記スチーミング(スチーム加熱)を含む、加熱処理を用いることができる。加熱処理の熱媒体としては、スチーム、又は熱風を挙げることができる。
加熱処理の温度としては、フェノール樹脂が溶融し、繊維間に浸潤することができ、且つ硬化することのできる温度であれば、限定されない。熱処理の温度の下限は、フェノール樹脂の軟化温度以上である必要がある。熱媒体(例えば、スチーム又は熱風)の温度は、70℃以上であり、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。温度が上昇するほど、
加熱を短時間で行うことができる。従って、加熱処理の温度の上限は、特に限定されるものではない。
【0040】
前記スチーミングと同じように、本明細書において、「予備成形体」は、特に断らない限り、加熱処理を行う前のもの、及び加熱処理を行った後のものの両方を意味するが、特に加熱処理を行った後の予備成形体を意味する場合、「加熱処理予備成形体」と称し、水蒸気によるスチーミングを行った前の予備成形体を意味する場合「未処理予備成形体」と称する。すなわち、本発明の予備成形体の製造方法によって製造される「予備成形体」は、「未処理予備成形体」及び「加熱処理予備成形体」の両方を含む。
以下に、吸引成形工程(b)の1つの態様を具体的に説明するが、吸引成形工程(b)は、この態様に限定されるものではない。
【0041】
図2に示すように、吸引成形工程(b)においては、架台(32)と枠(31)からなる成形槽(33)の上方からラッパ管(36)によりスラリーを成形槽に注入し、架台の下から吸引ポンプ(35)により吸引し、予備成形体を調製する。より具体的には、
図2の成形槽(33)の架台(32)の上に濾布を敷き、枠(31)を濾布の上におきクランプで枠と架台と固定する。次に、スラリー調製工程(a)において得られたスラリーを成形槽の上方から注入する。成形槽に注入されるスラリーの水位を一定に保ちながら、底面から吸引ポンプにより吸引する。吸引により成形槽の下部にスラリー中の炭素繊維及びフェノールが、順次堆積し、未処理予備成形体(40)が形成される。未処理予備成形体が成形され、溶媒が、ほぼ排出された後、更に15〜20分間程度、吸引を継続することによって、未処理予備成形体中の溶媒を排出することが好ましい。
【0042】
前記の濾布は炭素繊維のかさ密度、及び繊維径、並びにフェノール樹脂の粒径に応じて適宜選択することができるが、例えば、目開きが100〜200Meを用いることができる。また、吸引のための減圧度も、濾布の目開き、スラリーの量、炭素繊維、及びフェノールの量などに応じて適宜選択することが可能であるが、例えば−20〜40kPaで行うことができる。
【0043】
得られた未処理予備成形体を硬化させるために、枠の上部に蓋をし、スチーム供給手段(41)により、水蒸気を供給し、スチーミングを行う。スチーミングが終了し、形を整えたスチーム処理予備成形体は、乾燥機(4)に移動し、十分乾燥させる。乾燥したスチーム処理予備成形体は、焼成炉(5)に移動し、黒鉛化焼成を行い、成形断熱材を得ることができる。
【0044】
〔c〕焼成工程
更に、得られたスチーム処理予備成形体を、乾燥し、そして焼成することによって、成形断熱材を得ることができる。
前記スチーム処理予備成形体は、焼成の前に充分乾燥させることが好ましい。例えば、乾燥は、乾燥機を用いて窒素雰囲気下で、80〜180℃の範囲の適当な温度で行うことができる。乾燥時間は、特に限定されるものではないが、溶媒の蒸発によるスチーム処理予備成形体の重量減少が見られなくなるまで続けることが好ましい。
【0045】
乾燥終了後に、焼成炉を用いて、スチーム処理予備成形体を不活性ガス雰囲気下又は真空下で、焼成する。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを挙げることができる。焼成温度は、650〜3000℃で行うことが可能であり、650〜1500℃では炭素化が起き、1500〜3000℃で黒鉛化が起きる。
【0046】
[3]原材料
《炭素繊維》
本発明の製造方法において使用する炭素繊維、又は炭素繊維化可能な繊維としては、断熱材の製造に用いることのできるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、炭素繊維化可能な繊維としては、石油ピッチ繊維、石炭ピッチ繊維、レーヨン、ポリアクリロニトリル繊維、又はフェノール樹脂繊維を挙げることができ、炭素繊維としては、これらの出発材料から得られたピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、又はフェノール樹脂系炭素繊維を挙げることができる。
【0047】
本発明の製造方法においては、前記の炭素繊維化可能な繊維(具体的には、石油ピッチ繊維、石炭ピッチ繊維、レーヨン、ポリアクリロニトリル繊維、又はフェノール樹脂繊維)、あるいはピッチ系、レーヨン系、ポリアクリロニトリル系、又はフェノール樹脂系の、それぞれの炭素化糸又は黒鉛化糸を、単独で、又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
炭素繊維、又は炭素繊維化可能な繊維のかさ密度は成形断熱材の機能を得ることができる限り、限定されるものではないが、かさ密度は0.1〜0.5g/cm
3が好ましく、0.15〜0.25g/cm
3がより好ましい。かさ密度が0.1g/cm
3未満になると毛玉となることがあり、0.5g/cm
3を超えると濾過面の目詰まりとなることがある。
【0049】
炭素繊維又は炭素繊維化可能な繊維の繊維径も成形断熱材としての機能を得ることができる限り、限定されるものではないが、5〜30μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。繊維径が5μm未満になると成形断熱材から炭素繊維が飛散しやすくなり、30μmを超えると断熱特性が低下することがある。
【0050】
《フェノール樹脂》
本発明の予備成形体又は成形断熱材の製造方法においては、用いるフェノール樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が、300以上であり、1,000〜10,000が好ましく、2,000〜10,000がより好ましく、4,000〜10,000が最も好ましい。重量平均分子量が300未満であると分散液中で溶融し、繊維成分と凝集が生じ、密度むらが多くなることがあり、10,000を超えるとスチーミングを行った場合に硬化し難くなることがある。
【0051】
フェノール樹脂は固体であり、その形状は、特に限定されるものではないが、例えば粒状又は繊維状のフェノール樹脂を用いることができる。粒状のフェノール樹脂の平均粒径は、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。平均粒径が5μm未満であると未処理予備成形体への樹脂保持量の低下により強度が低下することがあり、100μmを超えるとスラリーを調製する場合に分散不良となることがある。
【0052】
フェノール樹脂の残炭率は、炭素繊維等を結合させることができる限り、特に限定されるものではないが、50%以上が好ましい。残炭率が50%未満であると強度低下がおきることがある。
【0053】
フェノール樹脂に含まれる遊離フェノールの含有量は、1重量%(10000ppm)以下であり、好ましくは0.67重量%(6700ppm)以下であり、より好ましくは0.53重量%(5300ppm)以下であり、更に好ましくは0.33重量%以下であり、最も好ましくは0.17重量%(1700ppm)以下である。遊離フェノール樹脂の含有量が1重量%以下であることによって、前記スラリー調製工程におけるスラリー中に含まれる遊離フェノールの量を抑えることが可能になり、糸浮遊現象の発生を防止することができる。
遊離フェノールの含有量が1重量%以下であるフェノール樹脂は、前記スラリー調製工程〔a〕及び吸引成形工程〔b〕を含む成型断熱材用の予備成形体の製造のために使用することができる。すなわち、焼成することにより成型断熱材となる予備成形体の製造方法であって、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、及び(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、そして得られた成形体にスチーム加熱を行う、吸引成形工程を含み、前記スラリー
調製工程において
調製したスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、予備成形体の製造のために使用することが可能である。
また、遊離フェノールの含有量が1重量%以下であるフェノール樹脂は、前記スラリー調製工程〔a〕、吸引成形工程〔b〕及び焼成工程〔c〕を含む成型断熱材の製造のために使用することができる。すなわち、炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を含む予備成形体を焼成することにより得られる成型断熱材の製造方法であって、(a)炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂を溶媒に分散し、スラリーを調製する工程、(b)前記スラリーから溶媒を吸引除去し、そして得られた成形体にスチーム加熱を行う、吸引成形工程、及び(c)前記吸引成形工程において得られた予備成形体を焼成する工程、を含み、前記スラリー
調製工程において
調製したスラリーに含まれる遊離フェノールの濃度が150ppm以下であることを特徴とする、成形断熱材の製造に使用することができる。
【0054】
《フェノール樹脂以外のバインダー》
本発明の製造方法においては、フェノール樹脂以外にバインダーとして、フラン樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、熱硬化性アクリル樹脂、ポリイミド、ビニルエステル樹脂、熱硬化性アクリル系樹脂、又はシリコーン系樹脂などの熱硬化性樹脂を添加することもできる。
【0055】
《その他の材料》
更に前記炭素繊維及び/又は炭素繊維化可能な繊維、並びにフェノール樹脂以外に、その他の材料を添加することもできる。その他の材料としては、有機繊維、カチオン系樹脂、界面活性剤(高分子凝集剤)、分散剤、安定剤、粘度調整剤、又は充填剤を挙げることができる。更に、有機繊維としては、例えば、木材パルプ、麻等の天然繊維、レーヨン等の半合成繊維、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアミド等の合成繊維を挙げることができる。
【0056】
本発明に用いる、炭素繊維、又は炭素繊維化可能な繊維の各物性値、すなわち、繊維径、比重、及び炭素含有率は以下の方法によって測定する。
【0057】
(1)繊維径
30mLの三角フラスコに流動パラフィン5mLを量り取る。次いで混合した試料の袋の3ヶ所からランダムにミクロスパチュラで試料を取り、該三角フラスコに加えた後、混合して流動パラフィンに分散させた。該三角フラスコからマイクロピペットで300μLの分散液を取り、1枚目のスライドガラスに付け2枚目のスライドガラスを重ねて圧着させた。圧着した該スライドガラスを画像解析装置株式会社ニレコ製ルーゼックスIIIUに取付けて測定本数100本各々単繊維の繊維径を測定後、該画像解析装置から出力されたヒストグラフ及び繊維径が印字されたチャートから繊維径を求めた。
【0058】
(2)比重(密度勾配管法による比重)
《比重液の
調製》
塩化亜鉛と1%塩酸の所定量をビーカーに量り取った後、混合した。これを500mLのメスシリンダーに移しかえ、20±1.0℃の低温恒温水槽に浸し、20±1.0℃に調整後、比重計を浮かべて比重を測定した。塩化亜鉛と1%塩酸の相対量を適宜変えて10種類の比重液を調製した。
《試料の比重測定》
20mLのメスシリンダーに、前記10種類の比重液を各々2mLずつ、比重の高いものから静かに管壁を伝わらせながら注ぎ入れ、密度勾配管を作った。次いで、この密度勾配管を20±1.0℃の低温恒温水槽に浸し、30分経過後、乳鉢で摺り潰して目開き150μmの標準ふるいを通過した炭素繊維試料約0.1gを少量のエタノールに分散させ、密度勾配管に静かに入れ、12時間以上静置した。12時間以上経過後、密度勾配管の中の試料の位置を読み取り、比重換算表より、試料の比重を求めた。
【0059】
(3)炭素含有率
乳鉢で粉砕した試料をスクリューバイアル瓶に約2g入れ、120±5℃の乾燥機で2時間乾燥後デシケーターで放冷する。
ガスバーナーで焼成した白金ボートをボート冷却台にのせて、硝子鐘中で室温まで冷却後、標準試薬として有機元素分析用アントラセン2mg(キシダ化学株会社製)をミクロ天びんで4個の白金ボートに1μgの桁まで量り取った。
乾燥試料約2mgをミクロ天びんで1検体当たり3個の白金ボートに1μgの桁まで量り取った。
試料及び標準試薬が入った白金ボートを元素分析計のオートサンプラーの試料台にセットし元素分析計をスタートさせ、試料中の炭素含有率(%)について繰返し数n=3の平均値をチャートに出力させ、少数点以下の値を整数に丸めた。
測定には、元素分析計はCHNコーダーMT−5(ヤナコ分析工業社製)、ミクロ天びんはスーパーミクロ天秤(ザルトリウス社製;秤量範囲〜4000mg読取限度1μg)を使用した。
【0060】
本発明に用いる、フェノール樹脂の各物性値、すなわち、重量平均分子量、融点、残炭率、及び平均粒径は以下の方法によって測定する。
(4)重量平均分子量
重量平均分子量はJIS K 6910 5.22.1に準拠して測定した。高速液体クロマトグラフィはGL−7400シリーズ(ジーエルサイエンス社製)を使用し、カラムはKF−806M+KF−802+KF−801(昭和電工製)を使用しカラム温度40℃で測定した。GPC解析ソフトはG−7000G形GPCソフトウェア(日立製作所製)を用いた。
標準物質はピークトップ分子量が7450000、3850000、2060000、1190000、736000、205000、52400、30300、13900、33700、1310、1050、580のポリスチレン標準13種(昭和電工製)を使用した。
【0061】
(5)融点
融点は、DSC−15(Mettler社)を用い、試料10mgを窒素気流下で−50℃から250℃まで昇温速度10℃/minで測定した。
【0062】
(6)残炭率
恒温乾燥機で1時間乾燥後、デシケーターで1時間放冷した試料約0.5gを落とし蓋付き磁性ルツボ(以下、磁性ルツボと称する)に0.1mgの桁まで計り取った。磁性ルツボに30mmの深さまでコークスを充填した磁製B型ルツボ(以下B型ルツボ)の中心に固定版を押込みB型ルツボと磁性ルツボの隙間にコークスを詰めB型ルツボの上蓋をした。窒素で置換された電気炉の温度が800℃になっていることを確認してから、B型ルツボを電気炉に挿入し、窒素を導入しながら30分間加熱後、B型ルツボを取出し、ルツボ放冷板に約20分間置き放冷する。B型ルツボから磁性ルツボを取出し、毛筆でルツボの外側に付着しているコークスを払い落とした後、デシケーターで20分間放冷し0.1mgの桁まで量る。
次式により試料の残炭率(%)を小数点以下1桁を四捨五入し整数とした。
A=(B−C)/S×100
A:残炭率(%)
B:加熱前の乾燥試料入り落し蓋付き磁製ルツボの質量(g)
C:加熱放冷後の乾燥試料入り落し蓋付き磁製ルツボの質量(g)
S:乾燥試料の質量
【0063】
(7)平均粒径
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300EX)を用いて粒度分布を測定した。得られた粒度分布の測定結果から平均粒径は求めた。
【0064】
スラリー中における遊離フェノールの濃度は以下の方法によって測定する。
(8)遊離フェノールの濃度
遊離フェノールの濃度はJIS K 6910 5.16に準拠して測定した。ガスクロマトグラフはG−6000(日立サイエンスシステムズ社製)を使用して、カラムはJ&W DB−5(アジレント・テクノロジー社製)を使用し昇温法で測定した。
【実施例】
【0065】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
《実施例1》
(1)スラリーの調製
分散槽に150Lの水を満たし、攪拌機により攪拌を開始した。この分散槽に、フェノール樹脂A(ベルパールS890;エア・ウォーター社)41.8kgを投入し、分散させた。
混合槽に2300Lの水を満たし、炭素化糸40.8kg、及び黒鉛化糸43.0kgを投入した。エアレーション(Air量:80Nm
3/h)を開始し、20分以上エアレーションを続け、炭素化糸及び黒鉛化糸を均一に分散させた。25分後にエアレーションの空気量を50Nm
3/hに落とし、分散槽からフェノール樹脂分散液を移送し、更に約5分間エアレーションを継続し、スラリーを得た。分散槽、及び混合槽の水温は、16℃であった。用いた炭素化糸及び黒鉛化糸の各物性を表3に示す。また、分散槽における水とフェノール樹脂の量、及び混合槽における水と炭素繊維の量を表4に示す。またスラリー中のフェノール樹脂、及び炭素繊維の重量%を表5に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
(2)吸引成形による予備成形体の製造
成形槽の架台と枠(幅106cm×奥行き162cm×深さ60cm)の間に、濾布(ポリエチレンテレフタレート製の目開き150Me)を敷き、クランプで枠と架台とを固定した。成形槽に1000Lの水を満たし、濾布下に溜まった空気を抜いた。
成形槽の下部から、−45kPaで吸引を開始し、混合槽からスラリーの移送を開始した。成形槽の液面が満水のレベルとなるようにスラリーの移送量を調製しながら吸引と移送を続けた。混合槽のスラリーがすべて成形槽に移送された後、そのまま15〜20分間吸引を続け、余分な水分を排水した。成形槽の水温は、16℃であった。吸引終了後、成形枠の上部に蓋をかぶせ、90分間スチーミングを行った。成形枠を取りはずし、一晩放置し、スチーム処理予備成形体を得た。
【0071】
(3)焼成
得られたスチーム処理予備成形体が、硬化していることを確認し乾燥機に搬入した。窒素雰囲気下、110℃で、水分蒸発により重量減少が見られなくなるまで、約6日間乾燥させた。乾燥機からスチーム処理予備成形体を取り出し、バッチ式焼成炉を用いて黒鉛化焼成を行い、成形断熱材を得た。
前記成形槽において糸浮遊は、全く発生せず、糸浮遊層の厚さは0mmであった。従って、本実施例では、解繊作業は行っていない。結果を
図4及び表6に示す。
【0072】
《実施例2》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から22℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を
図4及び表6に示す。
【0073】
《実施例3》
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂B(ベルパールS899:エア・ウォーター社)に変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から18℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を
図4及び表6に示す。
【0074】
《実施例4》
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂Bに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、16℃から23℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、成形断熱材を得た。糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を
図4及び表6に示す。
【0075】
《比較例1》
フェノール樹脂Aを、フェノール樹脂D(RD−319A:ヘキシオン社)に変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、9℃に変更したことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。70mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0076】
《比較例2》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を10℃に変更したことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。60mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0077】
《比較例3》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を18℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、75mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0078】
《比較例4》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を19℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、100mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0079】
《比較例5》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を22℃に変更し、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、180mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0080】
《比較例6》
分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を23℃に変更し、攪拌をエアレーションから攪拌機にし、解繊作業を行ったことを除いては、比較例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温が上昇したため、解繊作業を行ったにもかかわらず、90mmの浮遊層が発生した。結果を
図4及び表6に示す。
【0081】
《参考例1》
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、9℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温を低くし、解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を
図4及び表6に示す。
【0082】
《参考例2》
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、11℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。水温を低くし、解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは0mmであった。結果を
図4及び表6に示す。
【0083】
《参考例3》
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、15℃に変更したこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは25mmと改善された。結果を
図4及び表6に示す。
【0084】
《参考例4》
フェノール樹脂Aをノボラック型フェノール樹脂Dに変更したこと、及び分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を、21℃に変更したこと、攪拌をエアレーションから攪拌機にしたこと、並びに解繊作業を行ったことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、成形断熱材を得た。攪拌をエアレーションから攪拌機にしたこと、及び解繊作業を行ったことにより、糸浮遊層の厚さは30mmと改善された。結果を
図4及び表6に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
表6より、フェノール樹脂A及びフェノール樹脂Bを用いることにより、糸浮遊層が発生しないことが確認された。また、分散槽、混合槽、及び成形槽の水温を低くすること、解繊作業を行うこと、及びエアレーションの代わりに攪拌機を用いることにより、糸浮遊層の厚さが薄くなることがわかった。また、ノボラック型フェノール樹脂Cを用い、スラリーを調製することにより、糸浮遊層が発生しない結果を得た。
【0087】
フェノール樹脂A、フェノール樹脂B、ノボラック型フェノール樹脂C、及びノボラック型フェノール樹脂Dの各物性を表7に示す。
【0088】
【表7】
【0089】
《実施例5》
本実施例では、糸浮遊現象の発生しないフェノール樹脂Aを用いたスラリーに、遊離フェノールを添加し、気泡の発生を調べた。
溶媒の水に、フェノール樹脂A、遊離フェノール、及び炭素化糸を溶解又は分散させ、エアーストンを用いてエアレーションを行い、気泡の発生と、発生した気泡の破泡の様子を観察した。フェノール樹脂A、遊離フェノール、及び炭素化糸の組み合わせを、表8に示す。コントロールとしてフェノール樹脂に含まれる可能性のある化合物の1種であるヘキサミンを添加した場合に、気泡の発生が起こるかも検討した。
【0090】
【表8】
【0091】
遊離フェノールが溶媒中に存在すると、発生する気泡が微細化する(表8B)。更に炭素繊維が存在することにより、気泡の破泡性が悪化することがわかる(表8C)。一方、ヘキサミンは溶媒中に存在しても気泡の発生は少なく(表8D)、従って炭素繊維が存在しても、気泡はほとんど発生しない(表8E)。更に、水にフェノール樹脂Aを分散させた場合、気泡の表面にフェノール樹脂が存在する小さな泡が発生した。しかし、気泡同士の合体によって泡が大きくなり、破泡する状態が繰り返されたが、泡により分散液がオーバーフローすることはなかった(表8F)。これに、遊離フェノール0.08wt%を添加すると微細化された泡同士が合体することなく増加し、10秒以内にビーカーからオーバーフローした(表8G)。
以上のことから、遊離フェノールが存在すると微細な気泡の発生が増加し、更にフェノール樹脂が加わると、微細な気泡の破泡性が悪くなることがわかった。このことは、スラリー中の遊離フェノール濃度が高くなることにより、糸浮遊現象の発生が増加し、逆に遊離フェノール濃度を低下させることにより、糸浮遊現象の発生を抑制することが可能であることを示している。
【0092】
《比較例7》
本比較例では、ノボラック型フェノール樹脂Dを用いた場合に発生した、糸浮遊物の走査電子顕微鏡写真を撮影し、解析した。
成形槽から採取した糸浮遊物を、メンブランフィルター(セルロース、目開き1μm)に乗せた。減圧乾燥機にて、常温、−0.080MPa、及び窒素雰囲気下(常時10L/minチャージ)の条件で、3時間放置した。その後、減圧乾燥機を、大気圧に戻し、窒素をチャージしたまま一晩放置した。試料が乾燥していることを確認し、スパッタリング装置にて金蒸着を実施した後、走査電子顕微鏡で観察を行った。
図5に示したように、糸浮遊物は、炭素繊維の周囲に融解したフェノール樹脂が付着し、炭素繊維同士を接着させている(
図5A、B、C、及びD)。一方、使用前のフェノール樹脂を走査電子顕微鏡で観察したところ、溶解した状態は見られなかった(
図5E及びF)。従って、融解したフェノール樹脂により炭素繊維が接着し、解繊を困難にしていると考えられる。
更に、本発明者は、糸浮遊現象が発生した場合に、水面に存在している破泡しない灰色の泡を、走査電子顕微鏡で観察した。
図6に示すように、この灰色の泡は、炭素繊維と融解したフェノール樹脂によって膜が構成されたものである。従って、糸浮遊物においてもフェノール樹脂が、気泡表面に膜を形成することで破泡性を悪化させていると考えられる。
【0093】
《実施例6》
本実施例では、糸浮遊現象の発生するノボラック型フェノール樹脂Dと糸浮遊現象の発生しないフェノール樹脂Aとについて、分散量及び温度を変化させて、溶媒への溶解の程度、及び気泡の発生の程度について検討した。
水温を10℃、20℃、又は30℃に調整した水に、それぞれのフェノール樹脂を2.0、1.5、1.0、0.5、又は0.1wt%となるように分散させた。手動による振とう撹拌を30cm間隔で上下に150回行い、静置し、10分後及び60分後に観察を行った。10分後の観察結果を表9に示す。
【0094】
【表9】
【0095】
ノボラック型フェノール樹脂Dでは、水温上昇に伴い、液層の色が薄くなり沈降物が減少した。また、液層上部の気泡部分は、水温上昇に伴い気泡の増加と気泡層の上部に大きな気泡が観察された(表9)。これらのことは、水温が上昇するに従って、分散しているフェノール樹脂が溶解し、気泡の破泡性が悪化しているものと考えられる。一方、フェノール樹脂Aでは、水温が上昇してもフェノール樹脂の分散状態は変化せず、ノボラック型フェノール樹脂Dで見られた沈降物の減少、液層の無色化、及び気泡の増加は全く観察されなかった。すなわち、フェノール樹脂Aでは、温度が上昇してもフェノール樹脂の溶解は起こらなかった。
しかしながら、ノボラック型フェノール樹脂Dにおいて、0.5wt%では、若干の気泡の発生が見られたが、0.1wt%では、気泡の発生が見られなかった。この条件(0.1wt%)における分散液中の遊離フェノールの量は24ppmであり、スラリー中の遊離フェノールが、24ppmの場合は、ほぼ完全に気泡の発生が抑えられると思われる。
【0096】
《実施例7》
本解析例ではフェノール樹脂A、フェノール樹脂B、ノボラック型フェノール樹脂C及びノボラック型フェノール樹脂Dの融点を測定した。試料10mgを窒素気流下で−50℃から250℃まで昇温速度10℃/minで測定した。
表8に示すように、フェノール樹脂Aの融点は69.5℃、フェノール樹脂Bの融点は68.8℃、ノボラック型フェノール樹脂Cの融点は71.1℃、及びノボラック型フェノール樹脂Dの融点は63℃であった。糸浮遊現象が発生するノボラック型フェノール樹脂Dの融点が低いことが判明した。