特許第5770109号(P5770109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5770109-リップタイプシール 図000002
  • 特許5770109-リップタイプシール 図000003
  • 特許5770109-リップタイプシール 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770109
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】リップタイプシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/32 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   F16J15/32 311M
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-552267(P2011-552267)
(86)(22)【出願日】2011年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2011062052
(87)【国際公開番号】WO2012017726
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2013年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-177348(P2010-177348)
(32)【優先日】2010年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】池田 康浩
【審査官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−030637(JP,U)
【文献】 特開2002−364759(JP,A)
【文献】 特開2009−133465(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの軸孔内周に装着されて軸の周面に摺動自在に密接することにより機内の密封流体が大気側へ漏洩するのを抑制するリップタイプシールであって、
前記軸孔内周に嵌合される保持環と、前記保持環の内周側に配置されたゴム状弾性体製の第一リップシール部材と、前記保持環の内周側であって前記第一リップシール部材の大気側に配置された樹脂製の第二リップシール部材と、前記保持環の内周側であって前記第二リップシール部材の大気側に配置されて該第二リップシール部材を大気側から支持する作用をなすバックアップリングとを有し、
前記保持環は、前記軸孔の内周側に嵌合される筒状部と、前記筒状部の密封流体側端部に設けられた内向きフランジ部と、前記筒状部の大気側端部に設けられた環状のカシメ部とを一体に有し、
前記バックアップリングは、断面L字形の環状に形成され、円筒部と、この円筒部の密封流体側端部から径方向内方へ向けて設けられたフランジ部とを一体に有し、前記円筒部の大気側端部に円周上一部の切溝が設けられ、前記フランジ部の密封流体側側面に円周上一部の突起部が密封流体側へ向けて設けられ、
前記保持環の筒状部の内周側に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを配置した状態で前記カシメ部を全周にわたって径方向内方へ折り曲げるローラーカシメ加工することにより前記内向きフランジ部と前記カシメ部との間に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを非接着で挟み込み、
前記ローラーカシメ加工時のカシメ荷重により、
前記第二リップシール部材と前記バックアップリングとの間に、前記バックアップリングに設けた前記突起部が前記第二リップシール部材に食い込んで係合する第一固定構造が形成されて前記第二リップシール部材と前記バックアップリングとが回り止めされるとともに径方向に相対変位するのが防止され、
前記バックアップリングと前記保持環との間に、前記環状のカシメ部の円周上一部が前記バックアップリングに設けた前記切溝に押し込められて係合する第二固定構造が形成されて前記バックアップリングと前記保持環とが回り止めされるとともに径方向に相対変位するのが防止されることを特徴とするリップタイプシール。
【請求項2】
請求項1記載のリップタイプシールにおいて、
前記保持環は、前記内向きフランジ部の内周端部において密封流体側に180度転回して径方向外方へ折り曲げられる折り返し部が一体に設けられるとともに前記折り返し部に連続して外向きフランジ部が一体に設けられ、
前記内向きフランジ部は、当該リップタイプシールを組み立てるに際して前記第一リップシール部材および補強環が軸方向一方から突き当てられる端壁部として作用し、組み立て後はカシメ部との間に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを挟み込む端壁部として作用し、
前記外向きフランジ部は、前記内向きフランジ部をその背後から補強する作用を奏し、
前記外向きフランジ部はその大気側端面が前記内向きフランジ部の密封流体側端面に接触して配置されるとともに、前記外向きフランジ部の外径寸法は前記内向きフランジ部および前記筒状部の外径寸法よりも大きく設定されていることを特徴とするリップタイプシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置の一種であるリップタイプシールに関するものである。本発明のリップタイプシールは例えば、自動車等車両用ウォーターポンプ(W/P)向けシャフトシールとして用いられ、または汎用W/P向けシャフトシール等として用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図3に示すように、ハウジング72の軸孔内周に装着されて軸74の周面に摺動自在に密接することにより機内Aの密封流体が大気側Bへ漏洩するのを抑制するリップタイプシール81であって、軸孔内周に嵌合される保持環82を有し、この保持環82の密封流体側端部にOリング83を保持する段差状の保持部82aを設けるとともに大気側端部にカシメ部82bを設け、この保持部82aとカシメ部82bとの間に、ゴム状弾性体製の第一リップシール部材84、樹脂製の第二リップシール部材85およびバックアップリング86を挟み込んでなる構造のリップタイプシール81が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この従来技術には、以下の問題点がある。
【0004】
すなわち上記従来技術では、カシメ部82bをカシメ加工するときのカシメ荷重によってゴム状弾性体製の第一リップシール部材84、樹脂製の第二リップシール部材85およびバックアップリング86を一体に保持する構造であるところ、これら3部材84,85,86のうちの中間に位置する第二リップシール部材85はその両側に位置する第一リップシール部材84とバックアップリング86との間にただ単に挟み込まれているだけである。したがってこの第二リップシール部材85が軸74との摺動に伴って共回りをはじめたり径方向内方へ抜け出るように変位したりすることがあり、このようなことがあると、もはやシール性を十分に発揮することができない。
【0005】
また、上記従来技術では、保持環82に設けた保持部82aが上記したようにOリング83を保持する機能を有し、副次的に上記カシメ部82bとの間で上記3部材84,85,86を挟み込む機能を有するものとされている。したがってこの保持部82aにはその径方向幅がもっぱらOリング83の線径の大きさ如何によって定められると云う事情があるため、Oリング83の線径が小さな場合に上記副次的な機能を十分に発揮することができず、すなわち両リップシール部材84,85およびバックアップリング86を強固にカシメ固定することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−30637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、ゴム状弾性体製の第一リップシール部材およびバックアップリングとともに保持環の内周に組み付けられる樹脂製の第二リップシール部材を強固に固定することができ、もって該部材が軸に対して共回りしたり径方向へ変位したりするのを抑制することができるリップタイプシールを提供することを目的とし、またこれに加えて、両リップシール部材およびバックアップリングを強固にカシメ固定することができるリップタイプシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるリップタイプシールは、ハウジングの軸孔内周に装着されて軸の周面に摺動自在に密接することにより機内の密封流体が大気側へ漏洩するのを抑制するリップタイプシールであって、
前記軸孔内周に嵌合される保持環と、前記保持環の内周側に配置されたゴム状弾性体製の第一リップシール部材と、前記保持環の内周側であって前記第一リップシール部材の大気側に配置された樹脂製の第二リップシール部材と、前記保持環の内周側であって前記第二リップシール部材の大気側に配置されて該第二リップシール部材を大気側から支持する作用をなすバックアップリングとを有し、
前記保持環は、前記軸孔の内周側に嵌合される筒状部と、前記筒状部の密封流体側端部に設けられた内向きフランジ部と、前記筒状部の大気側端部に設けられた環状のカシメ部とを一体に有し、
前記バックアップリングは、断面L字形の環状に形成され、円筒部と、この円筒部の密封流体側端部から径方向内方へ向けて設けられたフランジ部とを一体に有し、前記円筒部の大気側端部に円周上一部の切溝が設けられ、前記フランジ部の密封流体側側面に円周上一部の突起部が密封流体側へ向けて設けられ、
前記保持環の筒状部の内周側に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを配置した状態で前記カシメ部を全周にわたって径方向内方へ折り曲げるローラーカシメ加工することにより前記内向きフランジ部と前記カシメ部との間に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを非接着で挟み込み、
前記ローラーカシメ加工時のカシメ荷重により、
前記第二リップシール部材と前記バックアップリングとの間に、前記バックアップリングに設けた前記突起部が前記第二リップシール部材に食い込んで係合する第一固定構造が形成されて前記第二リップシール部材と前記バックアップリングとが回り止めされるとともに径方向に相対変位するのが防止され、
前記バックアップリングと前記保持環との間に、前記環状のカシメ部の円周上一部が前記バックアップリングに設けた前記切溝に押し込められて係合する第二固定構造が形成されて前記バックアップリングと前記保持環とが回り止めされるとともに径方向に相対変位するのが防止されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2によるリップタイプシールは、上記した請求項1記載のリップタイプシールにおいて、
前記保持環は、前記内向きフランジ部の内周端部において密封流体側に180度転回して径方向外方へ折り曲げられる折り返し部が一体に設けられるとともに前記折り返し部に連続して外向きフランジ部が一体に設けられ、
前記内向きフランジ部は、当該リップタイプシールを組み立てるに際して前記第一リップシール部材および補強環が軸方向一方から突き当てられる端壁部として作用し、組み立て後はカシメ部との間に前記第一リップシール部材、前記第二リップシール部材および前記バックアップリングを挟み込む端壁部として作用し、
前記外向きフランジ部は、前記内向きフランジ部をその背後から補強する作用を奏し、
前記外向きフランジ部はその大気側端面が前記内向きフランジ部の密封流体側端面に接触して配置されるとともに、前記外向きフランジ部の外径寸法は前記内向きフランジ部および前記筒状部の外径寸法よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明のリップタイプシールにおいては、保持環におけるカシメ部をカシメ加工するときのカシメ荷重によってゴム状弾性体製の第一リップシール部材、樹脂製の第二リップシール部材およびバックアップリングを一体に保持する構造であるところ、これら3部材のうちの中間に位置する樹脂製の第二リップシール部材とその隣のバックアップリングとに、バックアップリングに設けた突起部がカシメ荷重により第二リップシール部材に食い込んで係合する固定構造(第一固定構造)が設けられ、先ずはこれにより樹脂製の第二リップシール部材とバックアップリングとが強固に固定されている。また併せて、バックアップリングと保持環とに、環状のカシメ部の円周上一部がカシメ荷重により、バックアップリングに設けた切溝に押し込められて係合する第二固定構造が設けられ、これによりバックアップリングと保持環とが強固に固定されている。したがって、これらの第一および第二固定構造によって樹脂製の第二リップシール部材、バックアップリングおよび保持環の3部材が強固に固定されているため、樹脂製の第二リップシール部材が軸に対して共回りしたり径方向へ変位したりするのを抑制することが可能とされている。
【0012】
また、上記構成を備える本発明のリップタイプシールにおいては、上記従来技術における段差状の保持部に代わるものとして内向きフランジ部が保持環の密封流体側端部に設けられており、この内向きフランジ部は、Oリングを保持するものでないため、その径方向幅をOリングの線径の大小如何にかかわらず任意の大きさに設定することができる。したがって上記従来技術のようにその径方向幅が不足して両リップシール部材およびバックアップリングを強固にカシメ固定することができないという事態が発生するのを抑制することが可能とされている。
【0013】
尚、この内向きフランジ部については、その内周端部に折り返し部を一体に設けるとともに折り返し部に連続して外向きフランジ部を一体に設けることが考えられ、この場合には、以下のメリットが発揮される。
【0014】
すなわち、外向きフランジ部の大気側端面を内向きフランジ部の密封流体側端面に接触させることにより、これら両フランジ部によるフランジ2枚重ねの構造が実現される。したがってカシメ構造における荷重の受け部となる内向きフランジを外向きフランジ部によってその背後から補強することになり、よって内向きフランジ部の強度を高めることができる(メリット1)。
【0015】
また、外向きフランジ部の外径寸法を内向きフランジ部および筒状部の外径寸法よりも大きく設定することにより、外向きフランジ部は内向きフランジ部および筒状部よりも径方向外方へ突出したものとされる。したがってハウジングの軸孔にリップタイプシールを挿入するに際してこの外向きフランジ部を軸孔開口周縁部に突き当てることにより、軸孔に対するリップタイプシールの挿入深さを常に一定とすることができる(メリット2)。
【0016】
また、バックアップリングについてはこれを、保持環における筒状部の内周側に配置される円筒部と、この円筒部の密封流体側端部から径方向内方へ向けて設けられたフランジ部とを一体に有する断面L字形として、このうちのフランジ部の密封流体側端面に上記第一固定構造に係る突起部を設けるとともに、円筒部の大気側端部に上記第二固定構造に係る切溝を設けることが考えられ、これによれば、これら突起部および切溝を設けたこのバックアップリングを介して樹脂製の第二リップシール部材と保持環とを強固に連結することができる。
【0017】
また、ここで切溝に言及したので、併せてこの切溝による上記第二固定構造について説明すると、この第二固定構造は上記したように、環状のカシメ部の円周上一部をカシメ荷重により切溝に押し込めて係合させるものであって、環状のカシメ部は押し込め・係合後においても環状であることを維持するものである。これに対する比較例としては例えば、切溝と爪との組み合わせを挙げることができるが、この切溝と爪との組み合わせの場合には、リップタイプシールの組み立てに際していちいち切溝と爪との円周上の位置合わせをしなければならない。これに対して上記構造によれば、円周上の位置合わせをしなくても良いメリットがあり、よってこの分、組み立て工程を容易化することができる。カシメの方法としては、プレスカシメ法よりもローラーカシメ法のほうが適している。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、樹脂製の第二リップシール部材とその隣のバックアップリングとに、バックアップリングに設けた突起部がカシメ荷重により第二リップシール部材に食い込んで係合する固定構造が設けられているために、これら樹脂製の第二リップシール部材とバックアップリングとが強固に固定されている。またバックアップリングと保持環とに、環状のカシメ部の円周上一部がカシメ荷重により、バックアップリングに設けた切溝に押し込められて係合する第二固定構造が設けられているために、これらバックアップリングと保持環とが強固に固定されている。したがって両固定構造によって樹脂製の第二リップシール部材、バックアップリングおよび保持環の3部材が強固に固定されるために、樹脂製の第二リップシール部材が軸に対して共回りしたり径方向へ変位したりするのを抑制することができ、シール性を安定化させることができる。
【0019】
また、保持環の密封流体側端部に設けられる内向きフランジ部がOリングを保持するものでなく、その径方向幅を任意の大きさに設定することができるものであるために、十分な径方向幅を確保して、両リップシール部材およびバックアップリングを強固にカシメ固定することができる。
【0020】
また、内向きフランジ部の内周端部に折り返し部を一体に設けるとともに折り返し部に連続して外向きフランジ部を一体に設ける場合には、外向きフランジ部によって内向きフランジ部の強度を高めることができ、また軸孔に対するリップタイプシールの挿入深さを常に一定とすることができる。
【0021】
また、バックアップリングに円筒部およびフランジ部を一体に設けて、フランジ部の密封流体側端面に突起部を設けるとともに円筒部の大気側端部に切溝を設ける場合には、これら突起部および切溝を設けたバックアップリングを介して樹脂製の第二リップシール部材と保持環とを強固に連結することができる。
【0022】
更にまた、環状のカシメ部の円周上一部をカシメ荷重によって切溝に押し込めて係合させる構造の第二固定構造によれば、円周上の位置合わせをする必要がないために、リップタイプシールの組み立て工程を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例に係るリップタイプシールを装着するウォーターポンプの断面図
図2】同リップタイプシールの半裁断面図
図3】従来例に係るリップタイプシールの半裁断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
尚、本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)
(1−1)本発明では、第一金属環(保持環)の端面部を折り返した形状とし、ゴム製シール(第一リップシール部材)、樹脂製シール(第二リップシール部材)および第二金属環(バックアップリング)を第一金属環のもう一方の端面部でローラーカシメする構造とした。これによりプレスカシメの場合に発生する金属バリの発生なく組み立てられ、ゴム製シールの傾斜バラツキも軽減することができる。
(1−2)また、樹脂製シールと回転軸とのとも回りに対しては、第二金属環に突起を設けて固定し、さらに第二金属環の端面に設けた切溝に第一金属環をローラーカシメ時に押し付け変形させて引っ掛けることにより、樹脂製シール、第二金属環および第一金属環を固定することとした、これにより生産工程で位置合わせする必要なく単純に組み立てられ、非常に生産性が良い。
(1−3)本発明によれば、リップシールの密封性能の安定化、リサイクル性の向上および安定した生産性が実現される。
【0025】
(2)
(2−1)本発明はシールハウジングに嵌合する金属環を折り曲げ、フランジ部を設けることによりハウジング端面にリップシール装置を位置決めすることができ、更に、軸方向の支えとしては金属環のフランジ部で支えており、シール流体により圧力を受けることにより、シール装置が軸方向に移動するような場合でも金属環の折り曲げ部の弾性力により、移動を許容することができる。
(2−2)また、本発明の形状は金属環に折り曲げフランジ部を形成した状態で、リップ部材・樹脂製シール・カシメた支持板、の順で挿入し、金属環のフランジ側とは反対部分をカシメることによりシール装置を作成するが、金属環のカシメについて、シール部材を挿入した状態で金属環をカシメるため、シール部材が設計値とずれが無いように設けなければならず、厳しい寸法の要求がある。
(2−3)しかし、本発明のような形状の場合、平らなフランジ部が設けられているため、カシメ荷重をかけ易い構造であり、そのため、寸法の制御がし易い。
(2−4)これに対して、先行文献(上記特許文献1:実開平5−30637号公報)の場合は、本発明と同様の作成方法(金属環にOリング保持部を形成した後、リップ部材等を挿入し、金属環のOリング保持部とは反対側をカシメる)を採った場合、Oリング保持部はOリングが入る分の径方向深さしかないため、金属環をカシメる際に治具等を固定し難く、カシメ荷重がかけ難く、そのため、寸法の制御がし難い。(上記とは逆にOリング保持部を最後に形成する方法はシール部の寸法に影響を与えるため、このような方法は考え難い。)
【実施例】
【0026】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施例に係るリップタイプシール1を装着するウォーターポンプ71の全体図を示しており、すなわちハウジング(ケーシング)72にベアリング73を介して回転可能に支持された軸(回転軸)74の一端にプーリー75が固定されるとともに他端にインペラー76が固定されており、プーリー75に駆動トルクが伝達されるとインペラー76が回転して冷却水を圧送する。リップタイプシール1は、ハウジング72の軸孔内周に装着されて軸74の周面に摺動自在に密接することにより機内の密封流体(冷却水)が大気側(ベアリング側)へ漏洩するのを抑制する。
【0028】
図2は、当該実施例に係るリップタイプシール1の要部断面を示しており、当該リップタイプシール1は以下のように構成されている。図の右側が密封流体側A、図の左側が大気側Bである。
【0029】
すなわち当該リップタイプシール1は、ハウジング72の軸孔内周に装着されて軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、密封流体側Aに配置されるゴム状弾性体製のシールリップ24と、大気側Bに配置される樹脂製のシールリップ33とを有して二段のリップ構造とされている。
【0030】
また、当該リップタイプシール1はその構成部品として、ハウジング72の軸孔内周に嵌合される保持環11と、この保持環11の内周側に配置されたゴム状弾性体製の第一リップシール部材21と、保持環11の内周側であって第一リップシール部材21の大気側Bに配置された樹脂製の第二リップシール部材31と、保持環11の内周側であって第二リップシール部材31の大気側Bに配置されたバックアップリング41とを有し、更にゴム状弾性体製の第一リップシール部材21の内部に補強環51が埋設されている。
【0031】
このうち先ず、保持環11は、金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、ハウジング72の軸孔内周に嵌合される筒状部12を有し、この筒状部12の密封流体側端部に内向きフランジ部13が一体成形されるとともに筒状部12の大気側端部に環状のカシメ部14が一体成形されている。また内向きフランジ部13は、その内周端部において密封流体側Aに180度転回して径方向外方へ折り曲げられる折り返し部15が一体成形されるとともに、この折り返し部15に連続して外向きフランジ部16が一体成形されている。外向きフランジ部16はその大気側端面が内向きフランジ部13の密封流体側端面に接触するように配置されるとともに、その外径寸法は内向きフランジ部13および筒状部12の外径寸法よりも大きく設定されている。
【0032】
これらにあって前者の内向きフランジ部13は、当該リップタイプシール1を組み立てるに際してゴム状弾性体製の第一リップシール部材21および補強環51が軸方向一方から突き当てられる端壁部として作用し、組み立て後はカシメ部14との間に第一リップシール部材21、第二リップシール部材31およびバックアップリング41を挟み込む端壁部として作用する。後者の外向きフランジ部16は、内向きフランジ部13をその背後から補強する作用を奏し、また当該リップタイプシール1をハウジング72の軸孔に挿入するに際してハウジング72の軸孔開口周縁部に突き当たることにより挿入長さ(軸方向挿入深さ)を規定する作用を奏する。尚、この最後の作用はリップタイプシール1が軸孔の奥深くに装着される場合は不要となるので、この場合には、外向きフランジ部16の外径寸法が内向きフランジ部13および筒状部12の外径寸法と同等以下に設定されることがあり、あるいはこの外向きフランジ部16、または折り返し部15および外向きフランジ部16が形成されずに省略されることもある。また、筒状部12の外周面には、当該保持環11と軸孔内周面との間に介在してシール作用をなすための弾性皮膜よりなる外周シール部17が全周に亙って被着されている。
【0033】
第一リップシール部材21は、所定のゴム状弾性体(例えばH−NBR)よりなり、全体として環状に成形され、保持環11の筒状部12の内周側に非接着で嵌合された円筒部22を有し、この円筒部22の大気側端部から径方向内方へ向けて環状の径方向部23が一体成形され、径方向部23の内周端部から密封流体側Aへ向けてシールリップ(第一シールリップ)24が一体成形されている。シールリップ24はそのリップ端で軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、摺動部には軸回転時にポンピング作用をなすネジ部(ネジシール)25が設けられている。
【0034】
第一リップシール部材21に埋設された補強環51は、金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、第一リップシール部材21の円筒部22に埋設された筒状部52と、径方向部23に埋設された内向きのフランジ部53とを一体に有して断面L字形に成形されている。フランジ部53には、これを厚み方向に貫通する貫通穴54が円周上所要数設けられている。
【0035】
第二リップシール部材31は、所定の樹脂材料(例えばPTFE)よりなり、全体として環状に成形され、環状の平面部32を有し、この平面部32の内周端部にシールリップ(第二シールリップ)33が密封流体側Aへ傾斜するように一体成形されている。シールリップ33はそのリップ端で軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、第一シールリップ24の大気側Bに配置されているので、第一シールリップ24が一次シールをなすのに対して、二次シールをなすことになる。
【0036】
バックアップリング41は、保持環11等と同じく金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、円筒部42を有し、この円筒部42の密封流体側端部から径方向内方へ向けてフランジ部43が一体成形されて断面L字形に成形されている。このバックアップリング41は第二リップシール部材31の大気側Bに配置され、第二リップシール部材31をその大気側Bから支持する作用をなす。フランジ部43には回り止めおよび抜け防止のための突起部44が形成され、円筒部42には切溝45が設けられているが、これらについては後述する。
【0037】
ゴム状弾性体製の第一リップシール部材21、樹脂製の第二リップシール部材31およびバックアップリング41は、上記したように保持環11によってカシメ保持されており、保持環11の筒状部12の内周側であって内向きフランジ部13とカシメ部14との間にこれら第一リップシール部材21、第二リップシール部材31およびバックアップリング41が軸方向に並んでカシメ固定されている。カシメ加工は、比較的薄肉に設定されたカシメ部14を全周に亙って径方向内方へ折り曲げることにより行なわれる。
【0038】
また、第一リップシール部材21およびバックアップリング41間に配置された第二リップシール部材31が軸74との摺動に伴って軸74に共回りしたり径方向内方へ抜け出るように変位したりすることがないように、以下のような第一固定構造61および第二固定構造62が設けられている。
【0039】
第一固定構造61・・・
すなわち、バックアップリング41におけるフランジ部43の密封流体側端面に円周上一部の突起部44が密封流体側Aへ向けて設けられ、この突起部44が第二リップシール部材31の平面部32と円周方向に係合することによりバックアップリング41と第二リップシール部材31とが回り止めされるとともに径方向に係合することによりバックアップリング41と第二リップシール部材31とが径方向に相対変位するのが防止されている。係合は、カシメ加工時にカシメ荷重によって突起部44が第二リップシール部材31の表面に食い込むことによってなされることになる。突起部44は円周上に所要数設けられ、すなわち円周上一箇所または複数箇所に設けられ、複数個所に設けられる場合には等配状とするのが好ましい。
【0040】
第二固定構造62・・・
また、バックアップリング41における円筒部42の大気側端部に円周上一部の切溝45が設けられ、この切溝45にカシメ部14の円周上一部(の部位)14aが円周方向に係合することによりバックアップリング41と保持環11とが回り止めされるとともに径方向に係合することによりバックアップリング41と保持環11とが径方向に相対変位するのが防止されている。係合は、カシメ加工時にカシメ荷重によって切溝45に対しカシメ部14の円周上一部14aが押し込められることによってなされることになり、環状のカシメ部14は押し込め・係合後においても環状であることを維持する構造とされている。カシメの方法としては、プレスカシメではなくローラーカシメを実施する。切溝45は円周上に所要数設けられ、すなわち円周上一箇所または複数箇所に設けられ、複数個所に設けられる場合には等配状とするのが好ましい。
【0041】
上記構成のリップタイプシール1は、上記したように例えば自動車用ウォーターポンプ向けのシャフトシールとして用いられるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0042】
すなわち上記構成のリップタイプシール1においては、保持環11におけるカシメ部14をカシメ加工するときのカシメ荷重によってゴム状弾性体製の第一リップシール部材21、樹脂製の第二リップシール部材31およびバックアップリング41を一体に保持する構造であるところ、これら3部材のうち中間に位置する樹脂製の第二リップシール部材31とその隣のバックアップリング41とに、バックアップリング41に設けた突起部44がカシメ荷重により第二リップシール部材31に食い込んで係合する固定構造(第一固定構造)61が設けられ、これにより樹脂製の第二リップシール部材31とバックアップリング41とが強固に固定されている。また併せて、バックアップリング41と保持環11とに、環状のカシメ部14の円周上一部14aがカシメ荷重により、バックアップリング41に設けた切溝45に押し込められて係合する第二固定構造62が設けられ、これによりバックアップリング41と保持環11とが強固に固定されている。したがって、これらの第一および第二固定構造61,62によって樹脂製の第二リップシール部材31、バックアップリング41および保持環11の3部材が強固に固定されているために、樹脂製の第二リップシール部材31が軸74に対して共回りしたり径方向へ変位したりするのを抑制することができ、シール性を安定化させることができる。
【0043】
また、上記構成を備えるリップタイプシール1においては、上記従来技術における段差状の保持部82aに代わるものとして内向きフランジ部13が保持環11の密封流体側端部に設けられ、この内向きフランジ部13は、Oリングを保持するものでないため、その径方向幅をOリングの線径の大小如何にかかわらず任意の大きさに設定することができる。したがって上記従来技術のようにその径方向幅が不足して両リップシール部材21,31およびバックアップリング41を強固にカシメ固定することができないという事態が発生するのを抑制することができる。内向きフランジ部13は十分な径方向幅を確保して、両リップシール部材21,31およびバックアップリング41を強固にカシメ固定することができる。
【0044】
また、内向きフランジ部13の内周端部に折り返し部15を一体に設けるとともに折り返し部15に連続して外向きフランジ部16を一体に設けたために、外向きフランジ部16によって内向きフランジ部13の強度を高めることができ、また軸孔に対するリップタイプシール1の挿入深さを常に一定とすることができる。
【0045】
また、バックアップリング41に円筒部42およびフランジ部43を一体に設けて、後者のフランジ部43の密封流体側端面に突起部44を設けるとともに前者の円筒部42の大気側端部に切溝45を設けるようにしたために、これら突起部44および切溝45を設けたバックアップリング41を介して樹脂製の第二リップシール部材31と保持環11とを強固に連結することができる。
【0046】
更にまた、環状のカシメ部14の円周上一部14aをカシメ荷重によって切溝45に押し込めて係合させる構造の第二固定構造62を設けたために、円周上の位置合わせをする必要なく組み立てを行なうことができ、リップタイプシール1の組み立て工程を容易化することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 リップタイプシール
11 保持環
12,52 筒状部
13 内向きフランジ部
14 カシメ部
14a 円周上一部
15 折り返し部
16 外向きフランジ部
17 外周シール部
21 第一リップシール部材
22,42 円筒部
23 径方向部
24,33 シールリップ
25 ネジ部
31 第二リップシール部材
32 平面部
41 バックアップリング
43,53 フランジ部
44 突起部
45 切溝
51 補強環
54 貫通穴
61 固定構造
62 第二固定構造
71 ウォーターポンプ
72 ハウジング
73 ベアリング
74 軸
75 プーリー
76 インペラー
A 密封流体側
B 大気側
図1
図2
図3