【0025】
(2)
(2−1)本発明はシールハウジングに嵌合する金属環を折り曲げ、フランジ部を設けることによりハウジング端面にリップシール装置を位置決めすることができ、更に、軸方向の支えとしては金属環のフランジ部で支えており、シール流体により圧力を受けることにより、シール装置が軸方向に移動するような場合でも金属環の折り曲げ部の弾性力により、移動を許容することができる。
(2−2)また、本発明の形状は金属環に折り曲げフランジ部を形成した状態で、リップ部材・樹脂製シール・カシメた支持板、の順で挿入し、金属環のフランジ側とは反対部分をカシメることによりシール装置を作成するが、金属環のカシメについて、シール部材を挿入した状態で金属環をカシメるため、シール部材が設計値とずれが無いように設けなければならず、厳しい寸法の要求がある。
(2−3)しかし、本発明のような形状の場合、平らなフランジ部が設けられているため、カシメ荷重をかけ易い構造であり、そのため、寸法の制御がし易い。
(2−4)これに対して、先行文献(上記特許文献1:実開平5−30637号公報)の場合は、本発明と同様の作成方法(金属環にOリング保持部を形成した後、リップ部材等を挿入し、金属環のOリング保持部とは反対側をカシメる)を採った場合、Oリング保持部はOリングが入る分の径方向深さしかないため、金属環をカシメる際に治具等を固定し難く、カシメ荷重がかけ難く、そのため、寸法の制御がし難い。(上記とは逆にOリング保持部を最後に形成する方法はシール部の寸法に影響を与えるため、このような方法は考え難い。)
【実施例】
【0026】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施例に係るリップタイプシール1を装着するウォーターポンプ71の全体図を示しており、すなわちハウジング(ケーシング)72にベアリング73を介して回転可能に支持された軸(回転軸)74の一端にプーリー75が固定されるとともに他端にインペラー76が固定されており、プーリー75に駆動トルクが伝達されるとインペラー76が回転して冷却水を圧送する。リップタイプシール1は、ハウジング72の軸孔内周に装着されて軸74の周面に摺動自在に密接することにより機内の密封流体(冷却水)が大気側(ベアリング側)へ漏洩するのを抑制する。
【0028】
図2は、当該実施例に係るリップタイプシール1の要部断面を示しており、当該リップタイプシール1は以下のように構成されている。図の右側が密封流体側A、図の左側が大気側Bである。
【0029】
すなわち当該リップタイプシール1は、ハウジング72の軸孔内周に装着されて軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、密封流体側Aに配置されるゴム状弾性体製のシールリップ24と、大気側Bに配置される樹脂製のシールリップ33とを有して二段のリップ構造とされている。
【0030】
また、当該リップタイプシール1はその構成部品として、ハウジング72の軸孔内周に嵌合される保持環11と、この保持環11の内周側に配置されたゴム状弾性体製の第一リップシール部材21と、保持環11の内周側であって第一リップシール部材21の大気側Bに配置された樹脂製の第二リップシール部材31と、保持環11の内周側であって第二リップシール部材31の大気側Bに配置されたバックアップリング41とを有し、更にゴム状弾性体製の第一リップシール部材21の内部に補強環51が埋設されている。
【0031】
このうち先ず、保持環11は、金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、ハウジング72の軸孔内周に嵌合される筒状部12を有し、この筒状部12の密封流体側端部に内向きフランジ部13が一体成形されるとともに筒状部12の大気側端部に環状のカシメ部14が一体成形されている。また内向きフランジ部13は、その内周端部
において密封流体側A
に180度転回して径方向外方へ折り曲げられる折り返し部15が一体成形されるとともに、この折り返し部15に連続して外向きフランジ部16が一体成形されている。外向きフランジ部16はその大気側端面が内向きフランジ部13の密封流体側端面に接触するように配置されるとともに、その外径寸法は内向きフランジ部13および筒状部12の外径寸法よりも大きく設定されている。
【0032】
これらにあって前者の内向きフランジ部13は、当該リップタイプシール1を組み立てるに際してゴム状弾性体製の第一リップシール部材21および補強環51が軸方向一方から突き当てられる端壁部として作用し、組み立て後はカシメ部14との間に第一リップシール部材21、第二リップシール部材31およびバックアップリング41を挟み込む端壁部として作用する。後者の外向きフランジ部16は、内向きフランジ部13をその背後から補強する作用を奏し、また当該リップタイプシール1をハウジング72の軸孔に挿入するに際してハウジング72の軸孔開口周縁部に突き当たることにより挿入長さ(軸方向挿入深さ)を規定する作用を奏する。尚、この最後の作用はリップタイプシール1が軸孔の奥深くに装着される場合は不要となるので、この場合には、外向きフランジ部16の外径寸法が内向きフランジ部13および筒状部12の外径寸法と同等以下に設定されることがあり、あるいはこの外向きフランジ部16、または折り返し部15および外向きフランジ部16が形成されずに省略されることもある。また、筒状部12の外周面には、当該保持環11と軸孔内周面との間に介在してシール作用をなすための弾性皮膜よりなる外周シール部17が全周に亙って被着されている。
【0033】
第一リップシール部材21は、所定のゴム状弾性体(例えばH−NBR)よりなり、全体として環状に成形され、保持環11の筒状部12の内周側に非接着で嵌合された円筒部22を有し、この円筒部22の大気側端部から径方向内方へ向けて環状の径方向部23が一体成形され、径方向部23の内周端部から密封流体側Aへ向けてシールリップ(第一シールリップ)24が一体成形されている。シールリップ24はそのリップ端で軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、摺動部には軸回転時にポンピング作用をなすネジ部(ネジシール)25が設けられている。
【0034】
第一リップシール部材21に埋設された補強環51は、金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、第一リップシール部材21の円筒部22に埋設された筒状部52と、径方向部23に埋設された内向きのフランジ部53とを一体に有して断面L字形に成形されている。フランジ部53には、これを厚み方向に貫通する貫通穴54が円周上所要数設けられている。
【0035】
第二リップシール部材31は、所定の樹脂材料(例えばPTFE)よりなり、全体として環状に成形され、環状の平面部32を有し、この平面部32の内周端部にシールリップ(第二シールリップ)33が密封流体側Aへ傾斜するように一体成形されている。シールリップ33はそのリップ端で軸74の周面に摺動自在に密接するものであって、第一シールリップ24の大気側Bに配置されているので、第一シールリップ24が一次シールをなすのに対して、二次シールをなすことになる。
【0036】
バックアップリング41は、保持環11等と同じく金属等所定の剛材、例えば金属板のプレス品よりなり、全体として環状に成形され、円筒部42を有し、この円筒部42の密封流体側端部から径方向内方へ向けてフランジ部43が一体成形されて断面L字形に成形されている。このバックアップリング41は第二リップシール部材31の大気側Bに配置され、第二リップシール部材31をその大気側Bから支持する作用をなす。フランジ部43には回り止めおよび抜け防止のための突起部44が形成され、円筒部42には切溝45が設けられているが、これらについては後述する。
【0037】
ゴム状弾性体製の第一リップシール部材21、樹脂製の第二リップシール部材31およびバックアップリング41は、上記したように保持環11によってカシメ保持されており、保持環11の筒状部12の内周側であって内向きフランジ部13とカシメ部14との間にこれら第一リップシール部材21、第二リップシール部材31およびバックアップリング41が軸方向に並んでカシメ固定されている。カシメ加工は、比較的薄肉に設定されたカシメ部14を全周に亙って径方向内方へ折り曲げることにより行なわれる。
【0038】
また、第一リップシール部材21およびバックアップリング41間に配置された第二リップシール部材31が軸74との摺動に伴って軸74に共回りしたり径方向内方へ抜け出るように変位したりすることがないように、以下のような第一固定構造61および第二固定構造62が設けられている。
【0039】
第一固定構造61・・・
すなわち、バックアップリング41におけるフランジ部43の密封流体側端面に円周上一部の突起部44が密封流体側Aへ向けて設けられ、この突起部44が第二リップシール部材31の平面部32と円周方向に係合することによりバックアップリング41と第二リップシール部材31とが回り止めされるとともに径方向に係合することによりバックアップリング41と第二リップシール部材31とが径方向に相対変位するのが防止されている。係合は、カシメ加工時にカシメ荷重によって突起部44が第二リップシール部材31の表面に食い込むことによってなされることになる。突起部44は円周上に所要数設けられ、すなわち円周上一箇所または複数箇所に設けられ、複数個所に設けられる場合には等配状とするのが好ましい。
【0040】
第二固定構造62・・・
また、バックアップリング41における円筒部42の大気側端部に円周上一部の切溝45が設けられ、この切溝45にカシメ部14の円周上一部(の部位)14aが円周方向に係合することによりバックアップリング41と保持環11とが回り止めされるとともに径方向に係合することによりバックアップリング41と保持環11とが径方向に相対変位するのが防止されている。係合は、カシメ加工時にカシメ荷重によって切溝45に対しカシメ部14の円周上一部14aが押し込められることによってなされることになり、環状のカシメ部14は押し込め・係合後においても環状であることを維持する構造とされている。カシメの方法としては、プレスカシメではなくローラーカシメを実施する。切溝45は円周上に所要数設けられ、すなわち円周上一箇所または複数箇所に設けられ、複数個所に設けられる場合には等配状とするのが好ましい。
【0041】
上記構成のリップタイプシール1は、上記したように例えば自動車用ウォーターポンプ向けのシャフトシールとして用いられるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0042】
すなわち上記構成のリップタイプシール1においては、保持環11におけるカシメ部14をカシメ加工するときのカシメ荷重によってゴム状弾性体製の第一リップシール部材21、樹脂製の第二リップシール部材31およびバックアップリング41を一体に保持する構造であるところ、これら3部材のうち中間に位置する樹脂製の第二リップシール部材31とその隣のバックアップリング41とに、バックアップリング41に設けた突起部44がカシメ荷重により第二リップシール部材31に食い込んで係合する固定構造(第一固定構造)61が設けられ、これにより樹脂製の第二リップシール部材31とバックアップリング41とが強固に固定されている。また併せて、バックアップリング41と保持環11とに、環状のカシメ部14の円周上一部14aがカシメ荷重により、バックアップリング41に設けた切溝45に押し込められて係合する第二固定構造62が設けられ、これによりバックアップリング41と保持環11とが強固に固定されている。したがって、これらの第一および第二固定構造61,62によって樹脂製の第二リップシール部材31、バックアップリング41および保持環11の3部材が強固に固定されているために、樹脂製の第二リップシール部材31が軸74に対して共回りしたり径方向へ変位したりするのを抑制することができ、シール性を安定化させることができる。
【0043】
また、上記構成を備えるリップタイプシール1においては、上記従来技術における段差状の保持部82aに代わるものとして内向きフランジ部13が保持環11の密封流体側端部に設けられ、この内向きフランジ部13は、Oリングを保持するものでないため、その径方向幅をOリングの線径の大小如何にかかわらず任意の大きさに設定することができる。したがって上記従来技術のようにその径方向幅が不足して両リップシール部材21,31およびバックアップリング41を強固にカシメ固定することができないという事態が発生するのを抑制することができる。内向きフランジ部13は十分な径方向幅を確保して、両リップシール部材21,31およびバックアップリング41を強固にカシメ固定することができる。
【0044】
また、内向きフランジ部13の内周端部に折り返し部15を一体に設けるとともに折り返し部15に連続して外向きフランジ部16を一体に設けたために、外向きフランジ部16によって内向きフランジ部13の強度を高めることができ、また軸孔に対するリップタイプシール1の挿入深さを常に一定とすることができる。
【0045】
また、バックアップリング41に円筒部42およびフランジ部43を一体に設けて、後者のフランジ部43の密封流体側端面に突起部44を設けるとともに前者の円筒部42の大気側端部に切溝45を設けるようにしたために、これら突起部44および切溝45を設けたバックアップリング41を介して樹脂製の第二リップシール部材31と保持環11とを強固に連結することができる。
【0046】
更にまた、環状のカシメ部14の円周上一部14aをカシメ荷重によって切溝45に押し込めて係合させる構造の第二固定構造62を設けたために、円周上の位置合わせをする必要なく組み立てを行なうことができ、リップタイプシール1の組み立て工程を容易化することができる。