(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、業務システムのハードウェア構成例を示す図である。以下の実施形態では、保険業務を管理するシステムについて説明し、保険加入時の契約書記入時の動作について説明するが、態様はこれに限定されない。以下の実施形態は、マルチタッチ対応のタッチパネルディスプレイ上に、文字や図柄が描かれる際に適用することができる。
【0013】
保険業務システム300は、モバイル端末機1(手書き入力装置)、サーバシステム2、ネットワーク3を有する。尚、モバイル端末機1が複数となる構成でもよく、サーバシステム2が複数となる構成でもよい。
【0014】
モバイル端末機1は、例えばスレートPCやタブレットPCであり、演算処理装置であるプロセッサ101、主記憶装置であるメモリ102、フラッシュメモリやHDD(ハードディスクドライブ)等の補助記憶装置103を有する。またモバイル端末機1は、外部とのデータ通信を制御する通信デバイス104、タッチパネルディスプレイ105を有する。これら各ユニットはデータバス108を介して互いにコマンド送受信、データ送受信を行っている。
【0015】
タッチパネルディスプレイ105は、ユーザに契約書の書式を表示するディスプレイと、マルチタッチ対応のタッチパネルを含んだ構成となっている。本実施形態では、正電容量方式のタッチパネルとするが、方式については特に限定されず、抵抗膜方式、光学式等のタッチパネルでもよい。またタッチパネルディスプレイ105は、例えば10点同時に検知することができ、またユーザの押下している複数の位置を、それぞれ座標情報で取得するとともに、接触している時間や接触面積も取得できる。タッチパネルディスプレイ105は、ペン先や指先の押下、移動、離間等、どのような操作が行われているかのモーションイベントを検知することができ、これらイベントに応じた制御も可能となる。
【0016】
サーバシステム2は、複数のサーバ2A〜2Eを含む。サーバ2A〜2Eは、それぞれプロセッサやメモリ、補助記憶装置等のハードウェアを含んだ従前のコンピュータである。サーバ2A〜2E内の各補助記憶装置には、ハードウェアを制御するソフトウェア、および業務用ソフトウェアが事前に導入されている。サーバシステム2は、
図1に示すように無停電電源装置(UPS)を含む構成であってもよく、また入力用のキーボード、マウスや表示用のディスプレイ等を有する構成でもよい。
【0017】
モバイル端末機1は、通信デバイス104、ネットワーク3を介してサーバシステム2とデータの送受信を行う。ネットワーク3は、本実施形態ではLAN(Local Area Network)とし、IPアドレス(IP:Internet Protocol)が装置個別に割り当てられているとするが、態様はこれに限定されず、インターネット網を経由する形態であってもよい。また通信手段は有線、無線を問わない。
【0018】
図2に、モバイル端末機1の外観図を示す。モバイル端末機1は、タッチパネルディスプレイ105上に、保険加入の契約フォームF1を表示する。契約フォームF1の表示用画像や表示用データ、データ構造定義は、事前にモバイル端末機1内の補助記憶装置103に導入されていてもよく、サーバシステム2から必要に応じて都度取得されてもよい。ユーザは、導電性の専用ペンT1または指先で契約フォームF1に必要事項を記載する。ここでは、一例として契約フォームF1の署名欄Sig1に、ユーザ(契約者)が署名するときのモバイル端末機1の動作や描画状態について説明する。
【0019】
まず、従来のモバイル端末機の描画について説明する。
図3は、従来のモバイル端末機を用いた場合の署名欄の描画状態である。従来のモバイル端末機では、正規の筆跡以外に手指等の意図しない接触跡がノイズとして形成される。このノイズにより、正規の筆跡情報が正確に得られない場合がある。また、作業従事者や文字認識システムによって文字の識別作業が行われる場合、ノイズは誤認識の要因となり得る。
【0020】
モバイル端末機1は、このような意図しない手指の接触跡を除外し、正規の筆跡を残して描画するとともに、ノイズを伴わない正規の筆跡が描かれた画像データを取得する。
【0021】
図4は、モバイル端末機1の機能ブロック構成を示す図である。モバイル端末機1は、入力検知部10、距離算出部20、候補選出部30、移動量算出部40、正規筆跡特定部50(特定部)、描画部60を有する。
図4に示す各ブロックは、補助記憶装置103に事前に記憶されているプログラムがメモリ102に展開され、プロセッサ101が演算実行することで実現される。入力検知部10は、これに加えてタッチパネルディスプレイ105の入力部(すなわちタッチパネル)も含まれ、描画部60は、タッチパネルディスプレイ105の表示部(すなわちディスプレイ)も含まれる。
【0022】
入力検知部10は、タッチパネルディスプレイ105の押下等による接触を1つまたは複数検知し、当該検知点に識別情報や座標情報等、検知点に関するデータを生成する。本実施形態では、識別情報はシーケンシャルな番号であり、また座標情報は、タッチパネルディスプレイ105の検知領域のうち、いずれの位置に接触があったかを示す位置情報であり、移動する場合は移動中や移動後の位置も含まれる。座標情報は、検知領域の左上最端を基準としたXY座標系で示される。
【0023】
距離算出部20は、タッチパネルディスプレイ105に複数の同時接触がある場合、座標情報に基づきタッチパネルディスプレイ105で検知される点の位置間の距離を算出する。
【0024】
候補選出部30は、距離算出部20によって算出される距離が閾値以上となる検知点を1つまたは複数特定することで、検知点のうちからペン先や指先の検知点の候補を選出する。
【0025】
移動量算出部40は、検知点のうち、1つまたは複数の検知点の規定時間当たりの移動距離を算出する。本実施形態では、移動量算出部40は、候補選出部50によって特定される検知点候補についての規定時間当たりの移動距離を算出する。
【0026】
正規筆跡特定部50は、距離算出部20で算出される距離と、移動量算出部40で算出される規定時間当たりの移動距離とに基づき、ペン先または指先の接触である正規の検知点を特定する。
【0027】
描画部60は、正規筆跡特定部50によって特定される検知点の筆跡(移動跡)を描画し、その他の検知点の移動跡は消画もしくは描画しないようにする。
【0028】
サイズの大きいデータや不揮発性に記憶させておきたいデータ等は、補助記憶装置103に一時的に記憶される。本実施形態では、描画部60により描画された画像データ等、ユーザ(契約者)から入力されたデータが補助記憶装置103に一時的に記憶される。また必要に応じて、処理上生成された中間データも補助記憶装置103に記憶される。尚、ユーザからの入力データは、サーバシステム2に送信されて蓄積される。蓄積の確認が出来次第、補助記憶装置103から当該入力データは消去される。
【0029】
次に、モバイル端末機1の動作例について、
図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0030】
タッチパネルディスプレイ105が接触を検知すると(S101、Yes)、入力検知部10は、当該検知点に識別情報を付与し、また検知点の座標情報を取得する(S102)。識別情報ごとに座標情報や移動距離、接触面積や接触時間がメモリ102に記憶され、管理される。
【0031】
入力検知部10は、複数点を検知したかを判定する(S103)。複数点でない場合(S103、No)、処理はステップS101に戻る。一方、複数点検知している場合(S103、Yes)、距離算出部20は、各検知点間の距離を、それぞれの座標情報に基づき計算し、計算結果をメモリ102に記憶する(S104)。候補選出部30は、検知点間の距離が閾値(例えば10mm)以上となっている点があるか否かを判定し(S105)、閾値以上となる検知点がある場合は当該検知点にフラグデータを付与する等、他の検知点と識別可能となるように設定する。
【0032】
ステップS104、S105について、
図6を参照しつつ説明する。ステップS101で検知された点が
図6のP1〜P7である場合、距離算出部20は、検出点P1〜P7の全ての検出点間の距離を総当たりで算出する。例えばP1の場合、P1−P2間、P1−P3間、・・・、P1−P6間、P1−P7間の全ての距離が算出され、P2の場合、P2−P3間、P2−P4間、・・・P2−P6間、P2−P7間の全ての距離が算出される。尚、態様はこれに限定されない。他点との距離が閾値以内であるものが見つかり次第、処理中の検知点についての距離計算を終了させてもよい。
【0033】
候補選出部30は、距離算出部20で算出された距離が全て閾値以上となっている検知点を、ペン先候補(正規の筆跡の候補)として選出する。
図6には、検出点P1〜P7を中心とし、この閾値を半径とした円が点線で示されている(
図6のC1〜C7)。例えばP7の場合はP6が閾値円C7内にあり、P6の場合はP5、P7が閾値円C6内にある。よって、P7、P6は距離間が閾値以下のとなる他点があるため、ペン先候補とはならない。一方、P1、P2は、他の検知点との距離が全て閾値以上となっている(閾値円C1、C2内には他の検知点が無い)。よって、候補選出部30は、P1、P2をペン先候補として特定する。尚、この手法以外にも、検知点(注目検知点)から他の検出点までの各距離の平均値を算出し、この平均値が閾値以上である検知点をペン先候補とする手法等、さまざまな手法が考えられる。ここでの候補は、1点のみでもよく、複数点でもよい。
【0034】
図4のフローチャートの説明に戻る。候補選出部30により、他点との距離が閾値以上となる検知点は無いと判定される場合(S105、No)、処理はステップS101に戻る。一方、閾値以上となる検知点が有り、当該検知点がペン先の候補として特定される場合(S105、Yes)、移動量算出部40は、候補となった検知点ごとに規定時間当たりの移動量を算出する(S106)。正規筆跡特定部50は、規定時間当たりの移動量が閾値以上となる検知点を特定する(S107)。
【0035】
図7を参照しつつ、ステップS106、S107について説明する。
図7は、
図6に示す検知点P1〜P7が、規定時間後にP1’〜P7’にそれぞれ移動した例を示す図である。人が手書きで記入する際、筆跡を安定させるため、手指の接触点はペン先程移動しない。本実施形態はこの事象を利用する。すなわち、移動量算出部40は、接触時間、座標情報を用いて各候補検知点の規定時間当たりの移動量(移動距離)を算出し、正規筆跡特定部50は、移動量が閾値以上の候補検知点を正規の筆跡点として特定する。ここで閾値以上の点が2つ以上ある場合、正規筆跡特定部50は、最長の移動量となった検知点を正規の筆跡点とする。
図7の例では、P1が正規筆跡の検知点として特定される。尚、移動量算出部40で使用される規定時間は予め定義された値とし、モバイル端末機1の時間識別精度や、人の筆跡速度(実測値や経験則)に基づき導出される。規定時間は、例えば数十ミリ秒〜数百ミリ秒オーダーの値となる。
【0036】
描画部50は、ステップS107でペン先と選出された検知点の筆跡(移動跡)を、座標情報や接触面積に従い描画し、その他の検知点の跡は除去して、タッチパネルディスプレイ105に出力する(S105)。本実施形態では、描画部50は、
図8(A)に示すように、まずは全ての検知点の移動跡を淡い色で一時的に全て描画し、その後、ステップS107の処理が終わる毎に、正規筆跡点以外の検出点を消画する(この際、正規筆跡点の筆跡は、濃い色となる)。これにより、ステップS104〜S107での処理時間によって生ずる描画の遅延を防ぎ、ユーザのストレスを軽減することができる。また、ステップS105の処理で候補選出部30によって検知点候補が選出され次第、当該候補検知点以外の検知点を消画し、その後、S107で正規の筆跡となる検知点が特定されたときに不要な移動跡をさらに消画する実装でもよい。また、正規の筆跡となる検知点以外の検知点の移動跡については、全く描画しないとする実装でもよい。この場合、S107の正規筆跡の特定後に、描画処理が行われる。このようにノイズが除去された画像データや、手書き入力により得られたデータは補助記憶装置103に記憶される。
【0037】
また描画部60は、正規筆跡と特定された検知点の面積が予め定義された規定値以上である判定する場合、
図9に示すように記入欄(本例では署名欄Sig1)の記入枠が大きくなるようにタッチパネルディスプレイ105の表示を制御する。
図9(A)には、ペン先の接触面積の一例が示しており、
図9(B)には、指先の接触面積の一例が示されている。ペンでの記入の場合、接触面積が小さいため記入欄の枠は小さくてよいが、指先での記入の場合、接触面積が大きいため、ペン用の枠内では記入できない可能性がある。描画部60は、接触面積が規定値以上である場合、指先での記入であると判定し、タッチパネルディスプレイ105は、この判定に従いペン先用の記入枠よりも大きい記入枠となるように表示する。
【0038】
ステップS101の接触検知は、ユーザの操作や動作に起因するイベントであり、システム上、いつ発生するかを特定できない。よって、本実施形態では、ステップS101、S102(
図5の処理A)が発生したときは、ステップS104〜S107(
図5の処理B)が随時実行され、新たに検出された点についての検知点間距離、移動量が算出される。ステップS105、107の判定は、この新規検出点も含めて再判定される。記入の際の接触順序として、上述のようにまず手指がタッチパネルに接触し、その後ペン先が接触する可能性がある。上記の実装により、最新の検知点を含めて再実行されるため、ペン先が後半に接触しても、検知の取りこぼしを防止することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
検知点間の距離、および検知点の規定時間当たりの移動距離に基づき、正規の筆跡点を特定する実装は、上記第1の実施形態の態様以外にも実現可能である。第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なる実装例について説明する。尚、以下に説明する事項以外は、第1の実施形態と同様である。
【0040】
図10に、第2の実施形態のモバイル端末機の機能ブロックの一例を示す。モバイル端末機1Aは、入力検出部10、距離算出部20、移動量算出部40A、正規筆跡特定部50A、描画部60を有する。移動量算出部40Aは、第1の実施形態の移動量算出部40に替わるものであり、正規筆跡特定部50Aは、第1の実施形態の正規筆跡特定部50に替わるものである。
図4と同じ符号が付されたその他のユニットは第1の実施形態と同様である。移動量算出部40A、正規筆跡特定部50Aは、補助記憶装置103に事前に記憶されているプログラムが、メモリ102に展開され、プロセッサ101が演算実行することで実現される。
【0041】
モバイル端末機1Aの動作例を
図11のフローチャートに示す。ステップS101〜S104までは、第1の実施形態と同様である。
【0042】
移動量算出部40Aは、全ての検知点につき、規定時間当たりの移動量を算出する(S106A)。第1の実施形態では、閾値以上の距離間となる検知点を候補とし、その候補となった検知点に対して規定時間当たりの移動量を算出したが、第2の実施形態では、全ての検知点に対して規定時間当たりの移動量を算出する。ステップS104、S106Aの実行順序は限定されない。
図11に示す順序で実行されてもよく、並列実行であってもよい。また順序を入れ替えて実行されてもよい。
【0043】
正規筆跡特定部50Aは、最も近い他点との距離が最も長くなっている検知点を特定し、また規定時間当たりの移動量が最も大きい検知点を特定し、これらが一致しているかを判定する(S110)。ここで、一致している場合、当該検知点が正規の筆跡点として扱われ、ステップS108に進む。一致していない場合は、ステップS101に戻るものとする。
【0044】
その他、ステップS110の後に、導出された検知点の距離や移動量と、閾値とを比較する実装でもよい。この場合、正規筆跡特定部50Aは、ステップS110で導出された検知点について、当該検知点の検知点間距離と閾値とを比較し、また移動量と閾値とを比較する(比較はいずれか一方のみとしてもよい)。比較の結果、距離または移動量が閾値以上である場合、当該検知点を正規の筆跡点として扱う。
【0045】
第1の実施形態と同様の理由により、処理Aが発生したときは、ステップS104〜S110(
図11の処理C)が随時実行され、新たに検出された点についての検知点間距離、移動量が算出される。また、新たに検出された点を含めてステップS110の判定が行われる。
【0046】
第1、第2の実施形態で開示した算出方法や判定方法は、あくまで例示である。算出過程や判定過程で、例えば数値上明らかに特出しているものについては除外したり、平均値算出等の手法で数値補正を行ったり、閾値との比較判定を計算過程内で行ったり等、さまざまな実装がある。
【0047】
図5、
図11に示すフローチャートにおいて、各判定ステップで「No」の判定である場合は最初に戻るとしたが、他の途中のステップに移動させてもよく、また所定のエラーメッセージを表示したり、一度タッチパネルから手を離すよう促すメッセージを表示したりすることも可能である。
【0048】
第1、第2の実施形態では、保険業務システムにおいて、契約書に記入するときの例、特に署名欄への記入について例示したが、態様はこれに限定されない。書式中のいずれの欄でも適用され、いずれの書式でもよく、いずれの業務でも構わない。また、マルチタッチ対応のタッチパネルディスプレイ上に、手書きで文字や図柄を描画可能な装置であれば、どのような態様でも第1、第2の実施形態を適用させることができる。
【0049】
第1、第2の実施形態では、手書き入力装置をモバイル端末機とし、スレートPC、タブレットPCを例示したが、PDA(Personal Digital Assistant)、スマートフォンなどのモバイル機器でもよい。また手書き入力装置は据え置き型のコンピュータでもよい。
【0050】
以上、この実施形態で説明した態様により、正規の筆跡を特定することができ、もって、ノイズを除去した手書きデータを得ることができる。
【0051】
なお、本発明の実施形態を説明したが、当該実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。