特許第5770133号(P5770133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770133
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】偏流検知システム
(51)【国際特許分類】
   F23J 15/06 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   F23J15/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-101457(P2012-101457)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-228166(P2013-228166A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】恵 晶
(72)【発明者】
【氏名】針井 哲夫
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−195544(JP,A)
【文献】 特開2006−275317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入されたガスの温度を低下させる減温塔と、
前記減温塔の上流側に設けられ、前記減温塔の内部空間の前記ガスに液滴を供給する液滴供給部と、
前記減温塔の前記内部空間での前記ガスの偏流を検知する第1の偏流検知部と、を備え、
前記第1の偏流検知部は、
前記減温塔の壁部に設けられ、当該壁部の温度を検知する、少なくとも第1の温度検知部、第2の温度検知部、及び第3の温度検知部と、
前記第1の温度検知部、前記第2の温度検知部、及び前記第3の温度検知部による前記壁部の検知温度に基づいて前記ガスの偏流を判定する第1の判定部と、を有し、
前記第1の温度検知部は、前記減温塔の上流側に設けられ、
前記第3の温度検知部は、前記減温塔の下流側に設けられ、
前記第2の温度検知部は、前記第1の温度検知部と前記第3の温度検知部との間に設けられ、
前記第1の判定部は、前記第1の温度検知部による検知温度が前記第2の温度検知部による検知温度よりも高く、且つ、前記第2の温度検知部による検知温度が前記第3の温度検知部による検知温度よりも高いという条件を満たしていない場合、前記ガスの偏流が生じていると判定する、偏流検知システム。
【請求項2】
前記第1の温度検知部、前記第2の温度検知部、及び前記第3の温度検知部は、前記減温塔の前記壁部の内側の表面よりも、前記内部空間側へ突出しない、請求項1記載の偏流検知システム。
【請求項3】
前記第1の判定部は、最も下流側の温度検知部以外の検知温度が、100℃以下となっているか否かを判定する、請求項1または2記載の偏流検知システム。
【請求項4】
前記減温塔の前記内部空間での前記ガスの偏流を検知する第2の偏流検知部を更に備え、
前記第2の偏流検知部は、
前記減温塔の上流側の部分の壁部に、前記減温塔の周方向において互いに異なる位置に設けられ、前記壁部の温度を検知する、少なくとも三つの温度検知部と、
当該温度検知部による前記壁部の検知温度のうち、最大検知温度と最小検知温度との差に基づいて、前記ガスの偏流を判定する第2の判定部と、を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載の偏流検知システム。
【請求項5】
前記第2の偏流検知部の前記温度検知部は、前記液滴供給部よりも上流側に設けられている、請求項1〜4の何れか一項記載の偏流検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減温塔内のガスの偏流を検知する偏流検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に示すような、廃棄物燃焼処理装置などのガスを処理する減温塔が知られている。この減温塔は、上部からガスを導入するガス導入部と、流入したガスに水分を噴霧して冷却する散水ノズルと、下部からガスを排出するガス排出部と、を備えている。このように、高温のガスに水分を噴霧して液滴を蒸発させることでガスを急冷することで、ダイオキシン類の再合成を予防している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−19554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、減温塔の内部のガスに偏流が生じている場合、ガス中に含まれるダストが減温塔の内壁面に堆積するなどの問題があるため、減温塔内のガスの流速分布は均一であることが望まれる。特許文献1では、減温塔内の温度を検知することにより、減温塔内のガスの偏流を検知している。しかしながら、従来のシステムでは、十分に高い精度にて偏流を検知することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、減温塔内のガスの偏流を精度よく検知することができるガスの偏流検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る偏流検知システムは、導入されたガスの温度を低下させる減温塔と、減温塔の上流側に設けられ、減温塔の内部空間のガスに液滴を供給する液滴供給部と、減温塔の内部空間でのガスの偏流を検知する第1の偏流検知部と、を備え、第1の偏流検知部は、減温塔の壁部に設けられ、当該壁部の温度を検知する、少なくとも第1の温度検知部、第2の温度検知部、及び第3の温度検知部と、第1の温度検知部、第2の温度検知部、及び第3の温度検知部による壁部の検知温度に基づいてガスの偏流を判定する第1の判定部と、を有し、第1の温度検知部は、減温塔の上流側に設けられ、第3の温度検知部は、減温塔の下流側に設けられ、第2の温度検知部は、第1の温度検知部と第3の温度検知部との間に設けられ、第1の判定部は、第1の温度検知部による検知温度が第2の温度検知部による検知温度よりも高く、且つ、第2の温度検知部による検知温度が第3の温度検知部による検知温度よりも高いという条件を満たしていない場合、ガスの偏流が生じていると判定する。
【0007】
減温塔の内部空間で偏流が発生すると、小さい偏流であっても減温塔の壁部が濡れる場合がある。このように壁部が濡れる部分ではガス内のダストが堆積し易い。通常、減温塔の内部空間は上流側から下流側へ向かって単調に温度が下がるが、このように壁部が濡れる部分では、部分的に温度が下がり、下流側の部分よりも温度が低くなる。従って、本発明に係る偏流検知システムでは、第1の偏流検知部が、減温塔の上流側に設けられる第1の温度検知部と、減温塔の下流側に設けられる第3の温度検知部と、第1の温度検知部と第3の温度検知部との間に設けられる第2の温度検知部とを有している。また、第1の偏流検知部は、各温度検知部によって検知された壁部の検知温度に基づいてガスの偏流を判定し、第1の温度検知部による検知温度が第2の温度検知部による検知温度よりも高く、且つ、第2の温度検知部による検知温度が第3の温度検知部による検知温度よりも高いという条件を満たしていない場合、ガスの偏流が生じていると判定する第1の判定部を有している。これにより、第1の偏流検知部は、上流側から下流側に向かって単調に温度が低下していないことを検知することが可能であり、これによって小さな偏流によって生じる減温塔の壁部の濡れを検知することができる。以上によって、減温塔内のガスの偏流を精度よく検知することができる。
【0008】
本発明に係る偏流検知システムにおいて、第1の温度検知部、第2の温度検知部、及び第3の温度検知部は、減温塔の壁部の内側の表面よりも、内部空間側へ突出しないことが好ましい。これによって、温度検知部の部分でダストが堆積することを防止できる。
【0009】
本発明に係る偏流検知システムにおいて、第1の判定部は、最も下流側の温度検知部以外の検知温度が、100℃以下となっているか否かを判定することが好ましい。最も下流側でないにも関わらず100℃以下となっている部分は、壁部が濡れている可能性が高いため、より正確に壁部の濡れを検知することができる。
【0010】
本発明に係る偏流検知システムにおいて、減温塔の内部空間でのガスの偏流を検知する第2の偏流検知部を更に備え、第2の偏流検知部は、減温塔の上流側の部分の壁部に、減温塔の周方向において互いに異なる位置に設けられ、壁部の温度を検知する、少なくとも三つの温度検知部と、当該温度検知部による壁部の検知温度のうち、最大検知温度と最小検知温度との差に基づいて、ガスの偏流を判定する第2の判定部と、を有することが好ましい。減温塔内に大きな偏流が発生する場合、減温塔の周方向において温度分布が大きく変化する。従って、第2の偏流検知部は、周方向において互いに異なる位置に設けられた少なくとも三つの温度検知部による壁部の検知温度に基づいて判定することにより、大きな偏流を直ちに検知することができる。
【0011】
本発明に係る偏流検知システムにおいて、第2の偏流検知部の温度検知部は、液滴供給部よりも上流側に設けられていることが好ましい。液滴供給部の上流側は温度分布の変化がより顕著であるため、より正確に大きな偏流を検知することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、減温塔内のガスの偏流を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る偏流検知システムの構成を示す概略構成図である。
図2】偏流が発生しているときの減温塔の壁部の温度分布の一例を示す温度分布図であり、(a)は大きなレベルの偏流が発生しているとき、(b)は小さなレベルの偏流が発生しているときの温度分布図である。
図3】(a)は減温塔の周方向の温度分布を示すグラフであり、(b)は偏流指数の演算結果を示す表である。
図4】減温塔の周方向の所定位置における上下方向の温度分布を示すグラフである。
図5】比較例に係る偏流検知システムの構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。なお、「上」、「下」の語は鉛直方向の「上方」、「下方」に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るガスの偏流検知システムの構成を示す概略構成図である。偏流検知システム1は、ガスを冷却する減温塔2内に導入されたガスの偏流を検知するためのシステムである。図1に示すように、偏流検知システム1は、減温塔2と、ガス導入部3と、ガス排出部4と、散水ノズル(液滴供給部)6と、第1の偏流検知部20と、第2の偏流検知部30と、を備えている。なお、第1の偏流検知部20の温度検知部TA1〜TA3の位置関係、及び第2の偏流検知部30の温度検知部TB1〜TB3の位置関係を理解し易くするために、図1(a)には第1の偏流検知部20の温度検知部TA1〜TA3のみが示されており、図1(b)には第2の偏流検知部30の温度検知部TB1〜TB3のみが示されているが、各温度検知部TA1〜TA3及び各温度検知部TB1〜TB3は、減温塔2に同時に設けられている。また、図1(a)及び図1(b)の上段の図は、減温塔2の中心軸線と直交する方向から当該減温塔2を見たときの概略構成を示しており、図1(a)及び図1(b)の下段の図は、減温塔2の中心軸線の延びる方向から当該減温塔2を見たときの概略構成を示している。
【0016】
減温塔2は、塔内部を流通する高温のガスの温度を所定値まで低下させる冷却装置(冷却塔)であり、例えばセメント製造設備や廃棄物処理設備等に設置されている。減温塔2は、筒状形状を有しており、例えば、直径数mの配管形状を呈している。減温塔2は内部空間を有しており、当該内部空間を導入されたガスが通過する。減温塔2の内壁には、高温の耐久性を有する耐火キャスタ等の耐火物(以下、単に「耐火物」という)で形成されていることが好ましい。なお、減温塔2の下方には、一般的にホッパが設けられている。
【0017】
減温塔2の上部には、ガスを導入するためのガス導入部3が設けられている。ガス導入部3は、セメント製造設備や廃棄物処理設備等からの高温のガスを減温塔2の内部空間へ流入させるものである。減温塔2の下部には、当該減温塔2内で減温されたガスを排出するためのガス排出部4が設けられている。ガス排出部4は、減温されたガスを減温塔2の内部空間から排出して、当該ガスを集塵機などへ供給するものである。なお、ガス導入部3及びガス排出部4の形状や導入方向や導出方向などは特に限定されない。ガスは、減温塔2内をガス導入部3からガス排出部4へ向かって流れるので、ガス導入部3側が「上流側」に該当し、ガス排出部4側が「下流側」に該当する。本実施形態では、ガス導入部3が減温塔2の上部に設けられ、ガス排出部4が減温塔2の下部に設けられているので、減温塔2の上側が「上流側」に該当し、下側が「下流側」に該当する。ただし、ガス導入部3及びガス排出部4が設けられる位置や方向は特に限定されず、それに応じて「上流側」「下流側」の位置も変化する。例えば、ガス導入部3が減温塔2の下部に設けられ、ガス排出部4が減温塔2の上部に設けられる場合は、減温塔2の下側が「上流側」に該当し、上側が「下流側」に該当する。
【0018】
散水ノズル6は、減温塔2の内部空間を流通するガスに液滴を供給するものである。ここでは、散水ノズル6は、微粒化した水滴を減温塔2の内部空間に噴霧する。散水ノズル6は、減温塔2の上流側の部分(上端側の所定の位置)に、径方向内側に液滴を噴霧可能な向きで複数設けられている。これら複数の散水ノズル6は、減温塔2の所定の高さ位置において、減温塔2の中心軸線周りに等間隔に設けられている。ただし、散水ノズル6の構成や位置は、減温塔2の内部空間に液滴を供給できるものであれば、特に限定されない。
【0019】
第1の偏流検知部20及び第2の偏流検知部30は、それぞれ減温塔2の内部空間でのガスの偏流を検知する機能を有している。ここで、減温塔2の内部空間で生じるガスの偏流には、減温塔2等での構造上やシステム上の問題などにより、システムの停止が必要となる程度の大きなレベルの偏流と、システム内の制御の微調整で解消できる程度の小さなレベルの偏流の二段階に大別される。このうち、第1の偏流検知部20は、後者の小さなレベルの偏流を検知することを目的としており、第2の偏流検知部30は、前者の大きなレベルの偏流を検知することを目的としている。
【0020】
図2(a)は大きなレベルの偏流が発生しているときの減温塔2の壁部の温度分布の一例を示す温度分布図である。図2(a)では、色が薄い部分ほど温度が高く、色が濃いほど温度が低いことを示している。図2(a)に示すように、大きなレベルの偏流が発生したときは、所定の高さ位置における周方向の壁の温度分布の変化が大きい。例えば、散水ノズル6の高さ位置付近では、紙面左側の領域AE1の温度が高くなっているのに対し、紙面右側の領域AE2では温度が低くなっている。当該領域AE2は、減温塔2の上流側の部分であるにも関わらず、領域AE1の下方の領域AE3(領域AE2より下流側)よりも温度が低くなっている。例えば、図3(a)の「Case1」に示す測定結果によれば、減温塔2の周方向において、高い温度(350℃付近)で安定している部分があるのに対して、急激に温度が下がっている部分も存在している。
【0021】
このような大きなレベルの偏流を検知する第2の偏流検知部30は、図1(b)に示すように、減温塔2の上流側の部分の壁部に設けられ、当該壁部の温度を検知する温度検知部TB1,TB2,TB3と、当該温度検知部TB1,TB2,TB3による壁部の検知温度に基づいて偏流の発生を判定する演算部(第2の判定部)10と、を有している。
【0022】
減温塔2の中心軸線方向の所定の位置、すなわち所定の高さ位置には、測定位置ST2が設定される。減温塔2の壁部の当該測定位置ST2には、減温塔2の周方向において互いに異なる位置に第1の温度検知部TB1、第2の温度検知部TB2、第3の温度検知部TB3が設けられる。測定位置ST2の位置は、偏流を検知することができる場所であれば特に限定されないが、減温塔2の上流側の領域が好ましく、散水ノズル6付近の領域が好ましい。図1では、散水ノズル6の下流側に測定位置ST2が設定されているが、散水ノズル6の上流側に測定位置ST2を設定してもよい。散水ノズル6の上流側では、減温塔2の周方向の温度分布の変化がより顕著になるため、当該位置に温度検知部TB1〜TB3を設けることにより、大きなレベルの偏流を精度よく検知することができる。なお、各温度検知部TB1〜TB3は、減温塔2の中心軸線方向における位置が互いに完全に一致している必要はなく、検知精度に影響がない範囲で、互いに異なる位置に配置されていてもよい。また、測定位置ST2を中心軸線方向における複数個所に設定し、各測定位置ST2にそれぞれ少なくとも三つの温度検知部を設けてもよい。
【0023】
測定位置ST2、及び第1の温度検知部TB1、第2の温度検知部TB2、第3の温度検知部TB3の周方向における位置は、事前にシミュレーションを行うことによって、偏流が発生し易い場所を予め特定しておき、温度分布の変化を特定し易くなるような位置に設定する。例えば、偏流の発生により、周方向における一部において他の部分より急激に温度が低くなる場所がある場合、当該場所に少なくとも一つ温度検知部を配置し、温度が低くならない場所に他の温度検知部を配置することができる。なお、図1では、三つの温度検知部TB1〜TB3を等角に配置しているが、等角でなくともよい。第2の偏流検知部30は、少なくとも三つの温度検知部を有していれば、偏流検知を行えるが、四つ以上の温度検知部を有していてもよい。
【0024】
温度検知部TB1〜TB3は、減温塔2の壁部の温度を検知できるものであればどのようなものを用いてもよく、所定の温度センサや熱電対を適用することができる。温度検知部TB1〜TB3は、減温塔2の壁部の内側の表面よりも、内部空間側へ突出していないことが好ましい。例えば、温度検知部TB1〜TB3を減温塔2の内部に埋設してよい。または、減温塔2の壁部の内側の表面に凹部を形成し、温度検知部TB1〜TB3を当該凹部内に設置すると共に、当該凹部をカバーで覆ってもよい。
【0025】
演算部10は、各温度検知部TB1〜TB3と電気的に接続されており、各温度検知部TB1〜TB3で検知された壁部の検知温度を取得可能である。また、演算部10は、各温度検知部TB1〜TB3で検知された検知温度に基づいて演算を行うことにより、偏流が発生しているか否かを判定することができる。具体的には、演算部10は、温度検知部TB1〜TB3の三つの検知温度うち、最大の検知温度をTmaxとし、最小の検知温度をTminとし、減温塔2の入口温度をTinletとして、下記の式(1)を用いて偏流指数Pを演算する。演算部10は、当該演算によって求められた偏流指数Pが所定の閾値よりも大きくなる場合に、大きなレベルの偏流が発生していると判定できる。
【0026】
【数1】
【0027】
図2(b)は小さなレベルの偏流が発生しているときの減温塔2の壁部の温度分布の一例を示す温度分布図である。図2(b)では、色が薄い部分ほど温度が高く、色が濃いほど温度が低いことを示している。大きな偏流ではなく、小さなレベルの偏流が発生した場合であっても、当該偏流により減温塔2の内部空間で液滴が蒸発しきれずに壁部が濡れる場合がある。そのような場合、図2(b)に示すように、減温塔2の周方向における所定位置において、上流側よりも下流側の方が温度が高くなる部分ができる。例えば、領域AE4では、壁部が濡れることによって温度が低くなっている。領域AE4は、当該領域AE4よりも下流側の領域AE5よりもよりも温度が低くなっている。壁部が濡れていない場合であれば、例えば図4のグラフGF1に示すように、上流側から下流側に向かって単調に温度が下がるような温度分布となる。しかしながら、途中で壁部が濡れている部分が存在する場合は、例えば図4のグラフGF2に示すように、上流側から壁部が濡れている部分に向かって温度が下がり、当該壁部が濡れている部分から下流側に向かって温度が上がるような温度分布となる。
【0028】
このような小さなレベルの偏流を検知する第1の偏流検知部20は、図1(a)に示すように、減温塔2の壁部に設けられ、当該壁部の温度を検知する温度検知部TA1,TA2,TA3と、当該温度検知部TA1,TA2,TA3による壁部の検知温度に基づいて偏流の発生を判定する演算部(第1の判定部)10と、を有している。なお、当該演算部10は、第2の偏流検知部30のものと共用してよい。
【0029】
減温塔2の周方向の所定の位置には、測定位置ST1が設定される。減温塔2の壁部の当該測定位置ST1には、減温塔2の上流側に第1の温度検知部TA1が設けられ、減温塔2の下流側に第3の温度検知部TA3が設けられ、第1の温度検知部TA1と第3の温度検知部TA3との間に第2の温度検知部TA2が設けられる。これにより、測定位置ST1には、上流側から下流側に向かって順番に、第1の温度検知部TA1、第2の温度検知部TA2、第3の温度検知部TA3が設けられる。測定位置ST1の位置は、偏流を検知することができる場所であれば特に限定されないが、本実施形態では、減温塔2の中心軸線周りにおいて、ガス導入部3とガス排出部4との間の位置に設定されている。なお、各温度検知部TA1〜TA3は、減温塔2の周方向における位置が互いに完全に一致している必要はなく、検知精度に影響がない範囲で、互いに異なる位置に配置されていてもよい。また、周方向における複数個所に測定位置ST1を設定し、それぞれの測定位置ST1に少なくとも三つの温度検知部を設けてもよい。
【0030】
測定位置ST1、及び第1の温度検知部TA1、第2の温度検知部TA2、第3の温度検知部TA3の上下方向(中心軸線が延びる方向)における位置は、事前にシミュレーションを行うことによって、偏流が発生し易い場所を予め特定しておき、温度分布の変化を特定し易くなるような位置に設定する。例えば、偏流の発生で壁部が濡れることにより、上下方向における一部において他の部分より急激に温度が低くなる場所がある場合、当該場所に少なくとも一つ温度検知部を配置し、その他の場所に他の温度検知部を配置することができる。なお、図1では、三つの温度検知部TA1〜TA3を等間隔に配置しているが、等間隔でなくともよい。第1の偏流検知部20は、少なくとも三つの温度検知部を有していれば、偏流検知を行えるが、四つ以上の温度検知部を有していてもよい。
【0031】
温度検知部TA1〜TA3は、減温塔2の壁部の温度を検知できるものであればどのようなものを用いてもよく、所定の温度センサや熱電対を適用することができる。温度検知部TA1〜TA3は、減温塔2の壁部の内側の表面よりも、内部空間側へ突出していないことが好ましい。例えば、温度検知部TA1〜TA3を減温塔2の内部に埋設してよい。または、減温塔2の壁部の内側の表面に凹部を形成し、温度検知部TA1〜TA3を当該凹部内に設置すると共に、当該凹部をカバーで覆ってもよい。
【0032】
演算部10は、各温度検知部TA1〜TA3と電気的に接続されており、各温度検知部TA1〜TA3で検知された壁部の検知温度を取得可能である。また、演算部10は、各温度検知部TA1〜TA3で検知された検知温度に基づいて演算を行うことにより、偏流が発生しているか否かを判定することができる。具体的には、演算部10は、第1の温度検知部TA1による検知温度が第2の温度検知部TA2による検知温度よりも高く、且つ、第2の温度検知部TA2による検知温度が第3の温度検知部TA3による検知温度よりも高いという条件を満たしていない場合、ガスの偏流が生じていると判定する。当該条件に加え、演算部10は、最も下流側の温度検知部(ここでは、第3の温度検知部TA3)以外の検知温度が、100℃以下となっているか否かを判定してもよい。最も下流側以外の温度検知部が100℃以下となっている場合、当該位置では壁部が濡れている可能性が高い。従って、それらの中のいずれかの位置で検知温度が100℃以下となっている場合は、演算部10は偏流が発生していると判定してもよい。なお、最も下流側では、ガスの温度が十分に下がって、100℃以下になる場合もあるので、最も下流側での検知温度が100℃以下となることは許容してもよい。
【0033】
次に、本実施形態に係る偏流検知システム1の作用・効果について説明する。
【0034】
まず、比較例に係る偏流検知システム100について、図5を参照して説明する。図5に示すように、比較例に係る偏流検知システム100は、散水ノズル6の直上の位置1と、散水ノズル6と出口直上との間の中間の位置2と、出口直上の位置3とに、それぞれ周方向に等間隔な六つの温度センサA〜Fを有している。これらの温度センサA〜Fは、減温塔2の壁部の温度ではなく、減温塔2の内部空間のガス温度を測定している。従って、この温度センサA〜Fは、減温塔2内部に差し込む必要があり、具体的には、減温塔2の内部空間に50cm程突出している。また、温度センサA〜Fによる検知温度のうち、位置1〜3の各位置における最大温度Tmax及び最小温度Tminを求め、式(2)を用いて偏流指数Pを演算する。
【0035】
【数2】
【0036】
このような比較例に係る偏流検知システム100は、次のような問題がある。すなわち、各温度センサA〜Fが減温塔2の内部空間のガス温度を測定するものであることにより、当該内部空間に突出しているため、ガス中のダストが温度センサA〜Fの突出している部分に付着する可能性がある。このようにダストが温度センサA〜Fに付着すると、当該部分がダスト付着の起点になり、付着量が増加してダストが堆積してしまう。また、比較例に係る偏流検知システム1では、精度よく偏流を検知することができないという問題がある。
【0037】
例えば、所定の寸法、所定の条件を設定して減温塔2の温度分布についてのシミュレーションを行った。図3(a)は、散水ノズル6付近での周方向の温度分布を示しており、横軸は減温塔2の周方向における位置を示し、縦軸は減温塔2の壁部の温度を示している。「Case1」では、ガスの大きなレベルの偏流が生じる構造についてのシミュレーションを行い、「Case2」では、壁部に耐火物を付加することでガスの偏流を抑えた減温塔2についてシミュレーションを行った。このような各ケースについて、図5に示す比較例に係る偏流検知システム100のシステム構成にて、前述の式(2)を用いて偏流指数Pを演算すると共に、図1に示す実施例に係る偏流検知システム1のシステム構成の第2の偏流検知部30にて、前述の式(1)を用いて偏流指数Pを演算した。当該演算結果を図3(b)に示す。
【0038】
図3(b)から理解されるように、比較例に係る偏流指数Pは、偏流が発生している「Case1」についても、偏流が抑制されている「Case2」についても、略同じくらいの値になっている。このことより、比較例に係る偏流指数Pに基づいて偏流検知を行っても、正確に検知を行うことができないことが理解される。一方、実施例に係る偏流指数Pは、偏流が発生している「Case1」の値が、偏流が抑制されている「Case2」の値に対して2倍以上となっている。このように、偏流の状態の違いが正しく偏流指数Pに反映されているため、当該偏流指数Pに基づいて判定を行うことにより、精度よく偏流を検知することができることが理解される。
【0039】
また、上述の「Case2」のように大きなレベルの偏流を抑制できる場合であっても、小さな偏流の発生により壁部の表面が濡れる場合がある。このような場合のシミュレーション結果を図4のグラフGF2で示す。図4は、減温塔2の周方向の所定位置における上下方向の温度分布を示しており、横軸は減温塔2の壁部の温度を示しており、縦軸は減温塔2の上下方向における位置を示している。壁部の表面が濡れていない場合はグラフGF1のように、壁部の温度は上流側から下流側に向かって単調に温度が下がる。一方、壁部の表面が濡れている場合は、当該濡れるところが100℃(水の沸点)以下に下がることで、グラフGF2のような非単調な温度分布となる。図1に示す実施例に係る偏流検知システム1のシステム構成の第1の偏流検知部20にて検知を行う場合、図4に示すように、第1の温度検知部TA1の検知温度が第2の温度検知部TA2の検知温度よりも高く、第2の温度検知部TA2の検知温度が第3の温度検知部TA3の検知温度よりも低く、且つ、第2の温度検知部TA2の検知温度が100℃よりも低いため、第1の偏流検知部20は、第2の温度検知部TA2の位置において壁部が濡れており、偏流が発生していることを検知することができる。このように、小さなレベルの偏流であっても、精度よく検知することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る偏流検知システム1では、第1の偏流検知部20が、減温塔2の上流側に設けられる第1の温度検知部TA1と、減温塔2の下流側に設けられる第3の温度検知部TA3と、第1の温度検知部TA1と第3の温度検知部TA3との間に設けられる第2の温度検知部TA2とを有している。また、第1の偏流検知部20は、温度検知部TA1〜TA3によって検知された壁部の検知温度に基づいてガスの偏流を判定し、第1の温度検知部TA1による検知温度が第2の温度検知部TA2による検知温度よりも高く、且つ、第2の温度検知部TA2による検知温度が第3の温度検知部TA3による検知温度よりも高いという条件を満たしていない場合、ガスの偏流が生じていると判定する演算部10を有している。これにより、第1の偏流検知部20は、上流側から下流側に向かって単調に温度が低下していないことを検知することが可能であり、これによって小さな偏流によって生じる減温塔2の壁部の濡れを検知することができる。以上によって、減温塔2内のガスの偏流を精度よく検知することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る偏流検知システム1において、温度検知部TA1〜TA3,TB1〜TB3は、減温塔2の壁部の内側の表面よりも、内部空間側へ突出しない。これによって、各温度検知部TA1〜TA3,TB1〜TB3の部分でダストが堆積することを防止できる。すなわち、本実施形態における温度検知部TA1〜TA3,TB1〜TB3は、減温塔2内のガス温度を検知するものではなく、減温塔2の壁部の温度を検知するものである。従って、各温度検知部を減温塔2の内部に挿入する必要が無くなるため、内部空間側へ突出させず、ダスト付着の起点になり得ない構造とすることが可能となる。
【0042】
また、本実施形態に係る偏流検知システム1において、演算部10は、最も下流側の温度検知部TA3以外の検知温度が、100℃以下となっているか否かを判定する。最も下流側でないにも関わらず100℃以下となっている部分は、壁部が濡れている可能性が高いため、より正確に壁部の濡れを検知することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る偏流検知システム1において、第2の偏流検知部30は、周方向において互いに異なる位置に設けられた少なくとも三つの温度検知部TB1〜TB3に基づいて、最大検知温度と最小検知温度の差に基づいて判定することにより、大きな偏流を直ちに検知することができる。
【0044】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、減温塔やガス導入部及びガス排出部の構成は上述の実施形態に限定されず、適宜変更してもよい。また、上述の実施形態では、偏流検知システムが第1の偏流検知部と第2の偏流検知部の両方を備えていたが、少なくとも第1の偏流検知部を有していればよく、第2の偏流検知部を省略してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…偏流検知システム、2…減温塔、3…ガス導入部、4…ガス排出部、6…散水ノズル(液滴供給部)、10…演算部(第1の判定部、第2の判定部)、20…第1の偏流検知部、30…第2の偏流検知部、TA1…第1の温度検知部、TA2…第2の温度検知部、TA3…第3の温度検知部、TB1〜TB3…温度検知部(第2の偏流検知部の温度検知部)。
図1
図3
図4
図5
図2