特許第5770156号(P5770156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770156チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770156
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/041 20060101AFI20150806BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B22D11/041 D
   B22D11/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-283092(P2012-283092)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-124664(P2014-124664A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大喜
(72)【発明者】
【氏名】石田 斉
(72)【発明者】
【氏名】松若 大介
(72)【発明者】
【氏名】大山 英人
(72)【発明者】
【氏名】金橋 秀豪
(72)【発明者】
【氏名】堤 一之
(72)【発明者】
【氏名】中岡 威博
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−000624(JP,A)
【文献】 特開2006−299302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22,
C22B 9/20−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、
前記鋳型の断面形状は円形であって、前記鋳型内の前記溶湯の上方であって前記鋳型の径方向の中心を通る中心線上にプラズマトーチが1本配置されており、
前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記鋳型の内側面から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、および、前記鋳型の内側面の半径をパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、
前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、
を有することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【請求項2】
プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、
前記鋳型の断面形状は矩形であって、
前記鋳型内の前記溶湯の上方に配置されたプラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記鋳型の内側面上における前記プラズマトーチから最も離れたコーナー部から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、前記鋳型の内側面における長辺の長さ、および、前記鋳型の内側面における短辺の長さをパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、
前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、
を有することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【請求項3】
プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、
前記鋳型の断面形状は矩形であって、
前記鋳型内の前記溶湯の上方に配置された複数のプラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記プラズマトーチ毎に設定されたプラズマ照射範囲の各々における前記プラズマトーチの中心と前記鋳型の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、前記鋳型の内側面における長辺の長さ、および、前記鋳型の内側面における短辺の長さをパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、
前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、
を有することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【請求項4】
記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記鋳型の内側面から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面の半径をR、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、
(1930+2.2Q+144.4d−1.1L−11.03h−11.0V−1.17R)/MP≧1
の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【請求項5】
記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記鋳型の内側面上における前記プラズマトーチから最も離れたコーナー部から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面における長辺の長さをa、前記鋳型の内側面における短辺の長さをb、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、
(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0)/MP≧1
の関係を満足することを特徴とする請求項に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【請求項6】
数の前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記プラズマトーチ毎に設定されたプラズマ照射範囲の各々における前記プラズマトーチの中心と前記鋳型の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面における長辺の長さをa、前記鋳型の内側面における短辺の長さをb、前記プラズマトーチの数をM、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、
(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0M)/MP≧1
の関係を満足することを特徴とする請求項に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク溶解や電子ビーム溶解によって溶融させた金属を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、鋳塊を連続的に鋳造することが行われている。
【0003】
特許文献1には、チタンを電子ビーム溶解させた溶湯を鋳型内に注入するハースを振動させて、ハース内の溶湯の湯面を波立たせることで、溶湯からの不純物の放出を促進させて、高純度のチタン鋳塊を得る、チタンインゴットの製造方法が開示されている。しかし、真空中で行われる電子ビーム溶解においては、チタン合金中の成分が揮発してしまうので、電子ビーム溶解ではチタン合金からなる鋳塊を鋳造することができない。
【0004】
そこで、特許文献2には、チタンまたはチタン合金を不活性ガス雰囲気中でプラズマアーク溶解して鋳型内に注入して凝固させる、自動制御プラズマ溶解鋳造方法が開示されている。不活性ガス雰囲気中で行われるプラズマアーク溶解においては、純チタンだけでなく、チタン合金も鋳造することが可能である。
【0005】
ここで、鋳造された鋳塊の鋳肌に凹凸や傷があると、その後の圧延過程で表面欠陥となる。そのため、鋳肌に凹凸や傷が無い鋳塊を鋳造することが求められる。
【0006】
そこで、特許文献3には、プラズマアーク溶解により活性金属を連続的に溶解・凝固して鋳塊を鋳造する際に、フラックスを溶解して活性金属と同時に鋳込むことで、平滑な鋳肌を有する鋳塊を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−350051号公報
【特許文献2】特許第3077387号公報
【特許文献3】特開昭53−86603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度が、鋳塊の鋳肌の状態に影響を及ぼす因子であることが、実験結果から明らかとなっている。そこで、鋳塊の鋳肌の状態を改善する手法の一つとして、壁面近傍の溶湯への入熱量と、壁面近傍の溶湯からの抜熱量とのバランスを適正化することが考えられる。
【0009】
ここで、壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上であれば、壁面近傍の溶湯の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができると考えられる。そこで、壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上となるように、壁面近傍の溶湯への入熱量と、壁面近傍の溶湯からの抜熱量とのバランスを調整することが望まれる。しかし、プラズマアーク溶解においては、溶湯の湯面を加熱するプラズマトーチが発生させるプラズマアークが邪魔をするため、壁面近傍の溶湯の温度を測定することは困難である。
【0010】
本発明の目的は、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊を鋳造することが可能なチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法は、プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、前記鋳型の断面形状は円形であって、前記鋳型内の前記溶湯の上方であって前記鋳型の径方向の中心を通る中心線上にプラズマトーチが1本配置されており、前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記鋳型の内側面から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、および、前記鋳型の内側面の半径をパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、を有することを特徴とする。また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法は、プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、前記鋳型の断面形状は矩形であって、前記鋳型内の前記溶湯の上方に配置されたプラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記鋳型の内側面上における前記プラズマトーチから最も離れたコーナー部から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、前記鋳型の内側面における長辺の長さ、および、前記鋳型の内側面における短辺の長さをパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、鋳塊の鋳肌の状態に影響を及ぼす因子である、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上であれば、壁面近傍の溶湯の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができると考えられる。しかし、プラズマアーク溶解においては、プラズマトーチが発生させるプラズマアークが邪魔をするために、壁面近傍の溶湯の温度を測定することは困難である。そこで、溶湯への入熱量および溶湯からの抜熱量に関係する各パラメータから壁面近傍の溶湯の温度を推測し、推測した温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。これにより、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊を鋳造することができる。
【0013】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法は、プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法であって、前記鋳型の断面形状は矩形であって、前記鋳型内の前記溶湯の上方に配置された複数のプラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚み、前記プラズマトーチ毎に設定されたプラズマ照射範囲の各々における前記プラズマトーチの中心と前記鋳型の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離、前記鋳型の熱伝達係数、前記鋳塊の引抜速度、前記鋳型の内側面における長辺の長さ、および、前記鋳型の内側面における短辺の長さをパラメータとして、前記鋳型内の前記溶湯の湯面直下であって前記鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を推測する推測ステップと、前記推測ステップで推測した前記壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する調整ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、鋳塊の鋳肌の状態に影響を及ぼす因子である、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上であれば、壁面近傍の溶湯の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができると考えられる。しかし、プラズマアーク溶解においては、プラズマトーチが発生させるプラズマアークが邪魔をするために、壁面近傍の溶湯の温度を測定することは困難である。そこで、溶湯への入熱量および溶湯からの抜熱量に関係する各パラメータから壁面近傍の溶湯の温度を推測し、推測した温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。これにより、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊を鋳造することができる。
【0015】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法において、前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記鋳型の内側面から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面の半径をR、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、(1930+2.2Q+144.4d−1.1L−11.03h−11.0V−1.17R)/MP≧1の関係を満足してよい。上記の構成によれば、鋳型の断面形状が円形であって、鋳型の径方向の中心を通る中心線上にプラズマトーチが1本配置されている場合において、上記式を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【0016】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法において、前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記鋳型の内側面上における前記プラズマトーチから最も離れたコーナー部から前記プラズマトーチの中心までの水平方向の距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面における長辺の長さをa、前記鋳型の内側面における短辺の長さをb、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0)/MP≧1の関係を満足してよい。上記の構成によれば、鋳型の断面形状が矩形である場合において、上記式を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【0017】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法において、複数の前記プラズマトーチから前記鋳型内の前記溶湯の湯面に投入される投入電力量をQ、前記鋳型の壁面と前記鋳型内の前記溶湯との界面に形成されるフラックスの厚みをd、前記プラズマトーチ毎に設定されたプラズマ照射範囲の各々における前記プラズマトーチの中心と前記鋳型の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離をL、前記鋳型の熱伝達係数をh、前記鋳塊の引抜速度をV、前記鋳型の内側面における長辺の長さをa、前記鋳型の内側面における短辺の長さをb、前記プラズマトーチの数をM、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0M)/MP≧1の関係を満足してよい。上記の構成によれば、鋳型の断面形状が矩形であってプラズマトーチが複数である場合において、上記式を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法によると、鋳型内の溶湯の湯面直下であって鋳型の壁面近傍の溶湯の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊を鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】連続鋳造装置を示す斜視図である。
図2】連続鋳造装置を示す断面図である。
図3】連続鋳造装置を上方から見たモデル図である。
図4】連続鋳造装置を示す斜視図である。
図5】連続鋳造装置を上方から見たモデル図である。
図6】連続鋳造装置を上方から見たモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
[第1実施形態]
(連続鋳造装置の構成)
本発明の第1実施形態によるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法は、プラズマアーク溶解させたチタンまたはチタン合金の溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法である。この連続鋳造方法を実施するチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置(連続鋳造装置)1は、斜視図である図1、および、断面図である図2に示すように、鋳型2と、コールドハース3と、原料投入装置4と、プラズマトーチ5と、スターティングブロック6と、プラズマトーチ7と、フラックス投入装置(図示せず)と、を有している。連続鋳造装置1のまわりは、アルゴンガスやヘリウムガス等からなる不活性ガス雰囲気にされている。
【0022】
原料投入装置4は、コールドハース3内にスポンジチタンやスクラップ等のチタンまたはチタン合金の原料を投入する。プラズマトーチ5は、コールドハース3の上方に設けられており、プラズマアークを発生させてコールドハース3内の原料を溶融させる。コールドハース3は、原料が溶融した溶湯12を注湯部3aから鋳型2内に注入する。鋳型2は、銅製であって、無底で断面形状が円形に形成されており、円筒状の壁部の少なくとも一部の内部を循環する水によって冷却されるようになっている。スターティングブロック6は、図示しない駆動部によって上下動され、鋳型2の下側開口部を塞ぐことが可能である。プラズマトーチ7は、鋳型2内の溶湯12の上方であって、鋳型2の径方向の中心を通る中心線上に1本設けられており、鋳型2内に注入された溶湯12の湯面をプラズマアークで加熱する。フラックス投入装置は、鋳型2内の溶湯12の湯面に固相のフラックス9を投入する。
【0023】
以上の構成において、鋳型2内に注入された溶湯12は、水冷式の鋳型2との接触面から凝固していく。そして、鋳型2の下側開口部を塞いでいたスターティングブロック6を所定の速度で下方に引き下ろしていくことで、溶湯12が凝固した円柱状の鋳塊11が下方に引抜かれながら連続的に鋳造される。
【0024】
なお、真空雰囲気での電子ビーム溶解では微少成分が蒸発するために、チタン合金の鋳造は困難であるが、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、純チタンだけでなく、チタン合金も鋳造することが可能である。また、真空雰囲気での電子ビーム溶解では、フラックスが飛散するのでフラックスを鋳型2内の溶湯12に投入するのが困難である。これに対して、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、フラックスを鋳型2内の溶湯12に投入することができるという利点を有する。
【0025】
(操業条件)
ところで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊11を連続鋳造した際に、鋳塊11の表面(鋳肌)に凹凸や傷があると、次工程である圧延過程で表面欠陥となる。そのため、圧延する前に鋳塊11表面の凹凸や傷を切削等で取り除く必要があり、歩留まりの低下や作業工程の増加など、コストアップの要因となる。そのため、表面に凹凸や傷が無い鋳塊11を鋳造することが求められる。
【0026】
ここで、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳塊11の鋳肌の状態に影響を及ぼす因子であることが、実験結果から明らかとなっている。そこで、鋳塊11の鋳肌の状態を改善する手法の一つとして、壁面近傍の溶湯12への入熱量と、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量とのバランスを適正化することが考えられる。
【0027】
さらに、壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上であれば、壁面近傍の溶湯12の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができると考えられる。そこで、壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上となるように、壁面近傍の溶湯12への入熱量と、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量とのバランスを調整することが望まれる。しかし、プラズマアーク溶解においては、溶湯12の湯面を加熱するプラズマトーチ7が発生させるプラズマアークが邪魔をするため、壁面近傍の溶湯12の温度を測定することは困難である。
【0028】
そこで、プラズマトーチ7から鋳型2内の溶湯12の湯面に投入される投入電力量(入熱量)、鋳型2の壁面と鋳型2内の溶湯12との界面に形成されるフラックス9の厚み、鋳型2の内側面上におけるプラズマトーチ7から最も離れた箇所からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離、鋳型2の熱伝達係数、鋳塊11の引抜速度、および、鋳型2の内寸法をパラメータとして、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度を推測する。そして、推測した壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。
【0029】
具体的には、連続鋳造装置1を上方から見たモデル図である図3に示すように、プラズマトーチ7から鋳型2内の溶湯12の湯面に投入される投入電力量(入熱量)Q、鋳型2の壁面と鋳型2内の溶湯12との界面に形成されるフラックス9の厚みd、鋳型2の内側面からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離L、鋳型2の熱伝達係数h、スターティングブロック6の引き下ろしによる鋳塊11の引抜速度V、および、鋳型2の内側面の半径Rをパラメータとし、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、下記の式1を満足するように、各パラメータを調整する。ここで、Xは鋳肌状態判定指数である。なお、図3に示すモデルにおいては、鋳型2の周りに冷却水14が設けられている。
【0030】
X=(1930+2.2Q+144.4d−1.1L−11.03h−11.0V−1.17R)/MP≧1 ・・・(式1)
【0031】
ここで、プラズマトーチ7から湯面への投入電力量(入熱量)Qが大きくなるほど、湯面の温度は上昇し、壁面近傍の溶湯12の温度は高くなる。よって、投入電力量(入熱量)Qは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。また、フラックス9には緩冷却作用があるので、フラックス9の厚みdが大きくなるほど壁面近傍の溶湯12の温度は高くなる。よって、フラックス9の厚みdは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。
【0032】
一方、プラズマトーチ7の中心から離れるほど溶湯12の温度は低くなる。そして、鋳型2の内側面からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離Lが長くなるほど、壁面近傍の溶湯12の温度は低くなる。よって、鋳型2の内側面からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離Lは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。また、鋳型2の熱伝達係数hが大きくなるほど、鋳型2への抜熱量が大きくなる。よって、鋳型2の熱伝達係数hは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。
【0033】
また、鋳塊11の引抜速度Vが速くなるほど、壁面近傍の溶湯12が下方に素早く移動して鋳型2により冷却され易くなり、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量が大きくなる。よって、鋳塊11の引抜速度Vは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。また、鋳型2の内側面の半径Rが長くなるほど、鋳型2の中心に位置するプラズマトーチ7から鋳型2の内側面が離れるので、壁面近傍の溶湯12の温度は低くなる。よって、鋳型2の内側面の半径Rは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。
【0034】
鋳肌状態判定指数Xが1以上となるように各パラメータを調整することで、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度は、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になり、壁面近傍の溶湯12は液体の状態となる。これにより、壁面近傍の溶湯12の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができる。よって、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊11を鋳造することができる。
【0035】
一方、鋳肌状態判定指数Xが1未満であれば、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度は、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点未満になり、壁面近傍の溶湯12は固体の状態となる。よって、壁面近傍の溶湯12の凝固により鋳肌の状態は悪化することとなる。
【0036】
ここで、鋳型2の熱伝達係数hは、以下の式により求まる。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、d[m]は水冷管断面の相当直径、S[m]は水冷管断面積、L[m]は水冷管ぬれぶち長さ、Re[−]はレイノルズ数、ρ[kg/m]は冷却水密度、u[m/s]は流速、μ[Pa・s]は冷却水粘性、Pr[−]は冷却水プラントル数、v[m/s]は冷却水動粘度、α[m/s]は冷却水熱拡散率、λ[W/m・K]は冷却水熱伝導率、C[J/g・K]は冷却水比熱、f[−]は管摩擦係数、Nu[−]はヌッセルト数、h[W/m・K]は熱伝達係数である。なお、水冷管は鋳型2の内部に設けられるものであり、冷却水は水冷管内を流れるものである。
【0039】
(鋳肌評価)
次に、図3に示すモデルを用いて、各パラメータを変化させて鋳肌の状態を評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
鋳肌状態が良好(○)であるサンプルに対して、鋳肌状態判定指数Xが1以上となるように、各パラメータの係数を設定することで、上記式1を導出することができる。
【0042】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係るチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法によると、溶湯12への入熱量および溶湯12からの抜熱量に関係する各パラメータから壁面近傍の溶湯12の温度を推測し、推測した温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。これにより、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好な鋳塊11を鋳造することができる。
【0043】
また、鋳型2の断面形状が円形であって、鋳型2の径方向の中心を通る中心線上にプラズマトーチ7が1本配置されている場合において、上記式1を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型2内の溶湯12の湯面直下であって鋳型2の壁面近傍の溶湯12の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【0044】
[第2実施形態]
(連続鋳造装置の構成)
次に、本発明の第2実施形態に係るチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造方法について説明する。なお、上述した構成要素と同じ構成要素については、同じ参照番号を付してその説明を省略する。本実施形態の連続鋳造方法を実施する連続鋳造装置201が第1実施形態の連続鋳造装置1と異なる点は、斜視図である図4に示すように、鋳型202の断面形状が矩形であり、角柱状のスラブ211を連続鋳造する点と、鋳型202内の溶湯12の湯面をプラズマアークで加熱するプラズマトーチ7が、複数設けられている点である。本実施形態において、プラズマトーチ7の数は2つであるが、これに限定されない。
【0045】
(操業条件)
本実施形態においても、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上となるように、壁面近傍の溶湯12への入熱量と、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量とのバランスを調整することが望まれる。
【0046】
そこで、2つのプラズマトーチ7から鋳型202内の溶湯12の湯面に投入される投入電力量(入熱量)、鋳型202の壁面と鋳型202内の溶湯12との界面に形成されるフラックス9の厚み、プラズマトーチ7毎に設定されたプラズマ照射範囲の各々におけるプラズマトーチ7の中心と鋳型202の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離、鋳型202の熱伝達係数、スラブ211の引抜速度、および、鋳型202の内寸法をパラメータとして、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度を推測する。そして、推測した壁面近傍の溶湯12の温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。
【0047】
具体的には、連続鋳造装置201を上方から見たモデル図である図5に示すように、2つのプラズマトーチ7から鋳型202内の溶湯12の湯面に投入される投入電力量(入熱量)Q、鋳型202の壁面と鋳型202内の溶湯12との界面に形成されるフラックス9の厚みd、プラズマトーチ7毎に設定されたプラズマ照射範囲15a,15bの各々におけるプラズマトーチ7の中心と鋳型202の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離L、鋳型202の熱伝達係数h、スラブ211の引抜速度V、鋳型202の内側面における長辺の長さa、鋳型202の内側面における短辺の長さb、および、プラズマトーチ7の数Mをパラメータとし、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点をMPとしたときに、下記の式9を満足するように、各パラメータを調整する。ここで、Xは鋳肌状態判定指数である。なお、図5に示すモデルにおいては、鋳型202の周りに冷却水14が設けられている。
【0048】
X=(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0M)/MP≧1 ・・・(式9)
【0049】
ここで、プラズマ照射範囲15aは、図中左側のプラズマトーチ7aに対して設定され、このプラズマトーチ7aによりプラズマ照射される湯面上の領域であり、プラズマ照射範囲15bは、図中右側のプラズマトーチ7bに対して設定され、このプラズマトーチ7bによりプラズマ照射される湯面上の領域である。本実施形態において、図中右側のプラズマトーチ7bは、図中左側のプラズマトーチ7aよりも鋳型202の中心寄りに配置されている。そのため、プラズマ照射範囲15bにおけるプラズマトーチ7bの中心と鋳型202の内側面との間の水平方向の最長距離(プラズマトーチ7bの中心と鋳型202の内側面上のコーナー部との間の水平方向の距離)は、プラズマ照射範囲15aにおけるプラズマトーチ7aの中心と鋳型202の内側面との間の水平方向の最長距離(プラズマトーチ7aの中心と鋳型202の内側面上のコーナー部との間の水平方向の距離)よりも長い。よって、本実施形態においては、前者が最も長い距離Lとなる。
【0050】
なお、プラズマトーチ7の数が3つ以上である場合、プラズマ照射範囲はプラズマトーチ7の数と同じ数だけ設定されることとなる。
【0051】
ここで、プラズマトーチ7から湯面への投入電力量(入熱量)Qが大きくなるほど、湯面の温度は上昇し、壁面近傍の溶湯12の温度は高くなる。よって、投入電力量(入熱量)Qは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。また、フラックス9には緩冷却作用があるので、フラックス9の厚みdが大きくなるほど壁面近傍の溶湯12の温度は高くなる。よって、フラックス9の厚みdは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。
【0052】
また、鋳型202の内側面における長辺の長さaが長くなるほど、矩形のコーナー部同士の間隔が長くなり、コーナー部における急激な冷却が緩和される。よって、長辺の長さaは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。また、プラズマトーチ7の数Mが多くなるほど、湯面に投入された熱量で壁面近傍の溶湯12が加熱されて、壁面近傍の溶湯12の温度が高くなる。よって、プラズマトーチ7の数Mは、壁面近傍の溶湯12への入熱量に関するパラメータである。
【0053】
一方、プラズマトーチ7の中心から離れるほど溶湯12の温度は低くなる。そして、鋳型202の内側面からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離Lが長くなるほど、壁面近傍の溶湯12の温度は低くなる。よって、プラズマトーチ7毎に設定されたプラズマ照射範囲15a,15bの各々におけるプラズマトーチ7の中心と鋳型202の内側面との間の水平方向の最長距離のうちで最も長い距離Lは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。また、鋳型202の熱伝達係数hが大きくなるほど、鋳型202への抜熱量が大きくなる。よって、鋳型202の熱伝達係数hは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。
【0054】
また、スラブ211の引抜速度Vが速くなるほど、壁面近傍の溶湯12が下方に素早く移動して鋳型202により冷却され易くなり、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量が大きくなる。よって、スラブ211の引抜速度Vは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。また、鋳型202の内側面における短辺の長さbが長くなるほど、プラズマトーチ7と鋳型202のコーナー部との距離が長くなり、壁面近傍の溶湯12の温度は低くなる。よって、短辺の長さbは、壁面近傍の溶湯12からの抜熱量に関するパラメータである。
【0055】
鋳肌状態判定指数Xが1以上となるように各パラメータを調整することで、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度は、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になり、壁面近傍の溶湯12は液体の状態となる。これにより、壁面近傍の溶湯12の凝固により鋳肌の状態が悪化するのを抑制することができる。よって、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好なスラブ211を鋳造することができる。
【0056】
一方、鋳肌状態判定指数Xが1未満であれば、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度は、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点未満になり、壁面近傍の溶湯12は固体の状態となる。よって、壁面近傍の溶湯12の凝固により鋳肌の状態は悪化することとなる。
【0057】
ここで、鋳型202の熱伝達係数hは、第1実施形態と同様の式により求められるので、その説明を省略する。
【0058】
(変形例)
なお、本実施形態においては、連続鋳造装置201を上方から見たモデル図である図6に示すように、プラズマトーチ7の数が1本であってもよい。この場合、パラメータの1つである距離Lは、鋳型202の内側面上におけるプラズマトーチ7から最も離れたコーナー部からプラズマトーチ7の中心までの水平方向の距離となり、鋳肌状態判定指数Xは以下のようになる。
【0059】
X=(2440+1.94Q+163.6d−21.4L−29.5h−50.0V+6.0a−6.2b+380.0)/MP≧1 ・・・(式10)
【0060】
(鋳肌評価)
次に、図5図6に示すモデルを用いて、各パラメータを変化させて鋳肌の状態を評価した。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
鋳肌状態が良好(○)であるサンプルに対して、鋳肌状態判定指数Xが1以上となるように、各パラメータの係数を設定することで、上記式9、式10を導出することができる。
【0063】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係るチタンまたはチタン合金からなるスラブ211の連続鋳造方法によると、溶湯12への入熱量および溶湯12からの抜熱量に関係する各パラメータから壁面近傍の溶湯12の温度を推測し、推測した温度が、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上になるように、各パラメータを調整する。これにより、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度を測定しなくても、鋳肌の状態が良好なスラブ211を鋳造することができる。
【0064】
また、鋳型202の断面形状が矩形であってプラズマトーチ7が複数である場合において、上記式9を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【0065】
また、鋳型202の断面形状が矩形であってプラズマトーチ7が1本である場合において、上記式10を満足するように各パラメータを調整することで、鋳型202内の溶湯12の湯面直下であって鋳型202の壁面近傍の溶湯12の温度を、鋳造対象であるチタンまたはチタン合金の融点以上にすることができる。
【0066】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
1,201 連続鋳造装置
2,202 鋳型
3 コールドハース
3a 注湯部
4 原料投入装置
5 プラズマトーチ
6 スターティングブロック
7,7a,7b プラズマトーチ
9 フラックス
11 鋳塊
12 溶湯
14 冷却水
15a,15b プラズマ照射範囲
211 スラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6