特許第5770180号(P5770180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770180
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】注入材、注入材の製造方法及び注入工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20150806BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 17/42 20060101ALI20150806BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20150806BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
   C09K17/02 P
   C09K17/14 P
   C09K17/06 P
   C09K17/42 P
   E02D3/12 101
   C09K103:00
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-521339(P2012-521339)
(86)(22)【出願日】2011年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2011052577
(87)【国際公開番号】WO2011161978
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2010-145026(P2010-145026)
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】石田秀朗
(72)【発明者】
【氏名】平野健吉
(72)【発明者】
【氏名】吉野亮悦
【審査官】 服部 芙美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−041455(JP,A)
【文献】 特開2007−217453(JP,A)
【文献】 特開2010−126610(JP,A)
【文献】 特開2003−306368(JP,A)
【文献】 特開2009−299291(JP,A)
【文献】 特開2011−026572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K17/00−17/52
C04B 2/00−32/02
C04B40/00−40/06
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ、分散剤、及び水を含有する湿式分散処理したA材と、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する湿式粉砕分散処理したB材とを混合したものからなる注入材であって、前記微粒子シリカが金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造したものであり、前記カルシウム化合物が水酸化カルシウムで、前記微粒子シリカ100質量部に対して、20〜200質量部であり、前記分散剤がナフタレンスルホン酸系分散剤であり、前記A材の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であり、前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であることを特徴とする注入材。
【請求項2】
前記A材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する湿式分散処理した懸濁液に、分散剤を混合したものである請求項1に記載の注入材。
【請求項3】
前記A材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する湿式分散処理した懸濁液に、分散剤及び水を混合したものである請求項1に記載の注入材。
【請求項4】
前記微粒子シリカは、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカである請求項1に記載の注入材。
【請求項5】
前記B材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する湿式粉砕分散処理した懸濁液に、さらに水を混合したものである請求項1に記載の注入材。
【請求項6】
さらに、アルカリ金属硫酸塩及び/又は有機酸類から選ばれる一種又は二種以上の硬化時間調整剤を、A材の微粒子シリカ100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなる請求項1〜のうちのいずれか1項に記載の注入材。
【請求項7】
金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子シリカに水を加え、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式分散処理して、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する懸濁液とし、この懸濁液に分散剤さらに必要に応じて水を混合してA材を製造し、一方、カルシウム化合物に分散剤及び水を加え、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式粉砕分散処理して、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下であるカルシウム化合物、分散剤及び水を含有する懸濁液とし、この懸濁液にさらに必要に応じて水を混合してB材を製造し、前記A材及び前記B材を混合する注入材の製造方法であって、前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであり、前記微粒子シリカ100質量部に対して、20〜200質量部であり、前記分散剤がナフタレンスルホン酸系分散剤であり、前記A材の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であり、前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であることを特徴とする注入材の製造方法。
【請求項8】
前記微粒子シリカは、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカである請求項に記載の注入材の製造方法。
【請求項9】
前記A材にさらに、アルカリ金属硫酸塩及び/又は有機酸類から選ばれる一種又は二種以上の硬化時間調整剤を、A材の微粒子シリカ100質量部に対して、0.1〜10質量部混合した請求項7又は8に記載の注入材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のうちのいずれか1項に記載の注入材を注入してなることを特徴とする注入工法。
【請求項11】
前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、地盤に注入する、請求項10に記載の注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入材及び注入工法に関する。特に、高水圧下においても、優れた浸透性、止水性、高耐久性を示す注入材、注入材の製造方法及び地盤注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LPGの地下備蓄、放射性廃棄物の地下封じ込め、ダム・トンネル等の止水等、岩盤の微細な亀裂に浸透する高耐久の注入材が要望されている。
【0003】
従来、高浸透性の注入材としては一般に溶液型注入材と呼ばれる、水ガラスやシリカゾル、あるいは水ガラスを陽イオン交換樹脂又はイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分とした注入材、活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定化したシリカコロイド注入材等が用いられてきた(特許文献1及び2)。
【0004】
しかしながら、高水圧下では、上述の溶液型注入材は、注入材自体の強度(ホモゲル強度という)が小さいため、水圧で押し出され、耐久性が悪い。そこで、懸濁型注入材である微粒子セメントが検討されているが、平均粒子径は5μm程度と大きく、微細な亀裂には浸透しないため、十分な止水効果が得られていないのが現状である。
【0005】
そこで、微粒子シリカを主体とする注入材が提案された(特許文献3)。特許文献3は、微粒子シリカを主体とする注入材を地盤に注入するものであり、カルシウム化合物を含有する懸濁液を使用することについての記載はない。
また、特許文献4には、シリカ、ライム、分散剤の記載はあるが、シリカを含有する懸濁液、ライムを含有する懸濁液のそれぞれに分散剤を含有することの記載はない。
【0006】
特許文献5には、「粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーと、第1の高分散化低粘性超微粒子スラリーの微粒子材料と異なる粉体の超微粒子材料に水と分散剤とを添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌した第2の高分散化低粘性超微粒子スラリーとを混合し、超微粒子材料を解砕し攪拌し、さらに分散剤を添加し、超微粒子材料を解砕し攪拌することを特徴とする高分散化低粘性超微粒子スラリーの製造方法。」(請求項3)の発明が記載され、「超微粒子材料が、シリカフュームおよび/または消石灰であること」(請求項6、段落[0034]、[0068])が記載され、レーザー回折/散乱式粒度分析装置で測定したシリカライム(消石灰/シリカフューム=1)の一次粒子平均粒径が0.10μmであること(段落[0068]、[0072]表1)、浸透率は平均凝集粒子径が1μm程度以下で100%になること([0070])も記載されている。
しかしながら、特許文献5に記載の発明は、平均粒径を1μm以下とするために、上記のように、超微粒子材料(シリカフュームおよび消石灰)の解砕、攪拌、分散剤の添加を繰り返し行うという複雑な工程を経なければならないという問題があり、また、一次粒子に近い高分散化低粘性超微粒子グラウトを作製するためには、解砕方式として、ボール(ビーズ)を媒体にしてスラリーをミキサーで撹拌するという方式を適用する必要があった(段落[0021])。そして、レーザー回折/散乱式粒度分析装置を用いて測定する場合には、通常はJIS R 1629に記載の通り、前処理として超音波分散処理を行うものであるから、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折/散乱式粒度分析装置を用いて測定した場合の平均粒径は明らかではない。また、超微粒子材料として、シリカフューム以外の微細シリカ粉末についての記載はなく、高分散化低粘性超微粒子スラリーを注入材とした場合の耐久性についても記載されていない。
【0007】
また、特許文献6及び7には、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が20〜70%、または5〜60%であるスラリーを火炎中に少なくとも10m/秒以上、または少なくとも20m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微細シリカ粉末(微細球状シリカ)が示されているが、この微細球状シリカを注入材として使用することは示されていない。
【0008】
特許文献8には、「予めポゾラン物質と水を含有するA材と、予めカルシウム含有物質と水を含有するB材を、別々に注入する注入材の施工方法。」(請求項1)、「A材が予め分散剤を含有する請求項1記載の注入材の施工方法。」(請求項2)の発明が記載され、「又、分散性を高めるためB材に分散剤を併用することも可能である。」(段落[0014])と記載されているが、カルシウム含有物質と水を含有するB材に分散剤を併用することについては具体的な記載がなく、A材とB材を同時注入した場合は、注入材が直ちに硬化してしまい、注入ができない(段落[0022])という問題があった。また、ポゾラン物質として、「平均粒径1μm以下に粉砕した原料珪石を高温の火炎中で溶融し、球状にした球状シリカ」を使用することが示されているが、A材中に分散した球状シリカの平均粒径が1μm以下であることは示されていない。カルシウム含有物質を1μm以下に粉砕し、分散させることも示されていない。
【0009】
非特許文献1には、超微粒子球状シリカ及び水を含有するA剤と、超微粒子水酸化カルシウム、分散剤及び水を含有するB剤とを混合したものからなるグラウト材料(注入材)が記載されているが、A剤に分散剤を含有させることについては記載がなく、超微粒子水酸化カルシウムの添加量を多くすると流動性が低下するため、A剤とB剤の配合割合が限定されるという問題があった。また、超微粒子球状シリカと超微粒子水酸化カルシウムの粒度はそれぞれ概ね1μm以下であることが示されているが、粒度分布を測定する場合、通常はJIS R 1629に記載の通り、前処理として超音波分散処理を行うものであるから、超音波分散処理を行うことなく粒度分布を測定した場合の平均粒径は明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3205900号公報
【特許文献2】特開2004−35584号公報
【特許文献3】特開2007−217453号公報
【特許文献4】国際公開第2005/123623号
【特許文献5】特開平8−41455号公報
【特許文献6】特開2001−354409号公報
【特許文献7】特開2002−20113号公報
【特許文献8】特開2009−299291号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】土木学会第64回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM)平成21年8月3日、第145頁〜第146頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題に鑑み、高い浸透性が得られ、優れた止水効果及び耐久性を有する注入材及び注入工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ、分散剤、及び水を含有する湿式分散処理したA材と、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する湿式粉砕分散処理したB材とを混合したものからなる注入材であって、前記微粒子シリカが金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造したものであり、前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムで、前記微粒子シリカ100質量部に対して、20〜200質量部であり、前記分散剤がナフタレンスルホン酸系分散剤であり、前記A材の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であり、前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であることを特徴とする注入材である。
(2)前記A材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する湿式分散処理した懸濁液に、分散剤を混合したものである前記(1)の注入材である。
(3)前記A材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する湿式分散処理した懸濁液に、分散剤及び水を混合したものである前記(1)の注入材である。
(4)前記微粒子シリカは、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカである前記(1)前記(1)〜(3)のうちのいずれかの注入材である。
(5)前記B材が、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径1.0μm以下のカルシウム化合物、分散剤、及び水を含有する湿式粉砕分散処理した懸濁液に、さらに水を混合したものである前記(1)〜(4)のうちのいずれかの注入材である。
)さらに、アルカリ金属硫酸塩及び/又は有機酸類から選ばれる一種又は二種以上の硬化時間調整剤を、A材の微粒子シリカ100質量部に対して、0.1〜10質量部含有してなる前記(1)〜()のうちのいずれかの注入材である。
)金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子シリカに水を加え、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式分散処理して、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下である微粒子シリカ及び水を含有する懸濁液とし、この懸濁液に分散剤さらに必要に応じて水を混合してA材を製造し、一方、カルシウム化合物に分散剤及び水を加え、高圧水を使用した粉砕機を用いて湿式粉砕分散処理して、超音波分散処理を行うことなくレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した平均粒径が1.0μm以下であるカルシウム化合物、分散剤及び水を含有する懸濁液とし、この懸濁液にさらに必要に応じて水を混合してB材を製造し、前記A材及び前記B材を混合する注入材の製造方法であって、前記カルシウム化合物が、水酸化カルシウムであり、前記微粒子シリカ100質量部に対して、20〜200質量部であり、前記分散剤がナフタレンスルホン酸系分散剤であり、前記A材の分散剤の使用量が、微粒子シリカ100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であり、前記B材の分散剤の使用量が、カルシウム化合物100質量部に対して、5〜30質量部(固形分換算)であることを特徴とする注入材の製造方法である。
)前記微粒子シリカは、球形度の平均値が95%以上の微粒子球状シリカである前記()の注入材の製造方法である。
)前記A材にさらに、アルカリ金属硫酸塩及び/又は有機酸類から選ばれる一種又は二種以上の硬化時間調整剤を、A材の微粒子シリカ100質量部に対して、0.1〜10質量部混合した前記(7)又は(8)の注入材の製造方法である。
10前記(1)〜(6)のうちのいずれかの注入材を注入してなることを特徴とする注入工法である。
11)前記A材と前記B材とを、1ショット方式、1.5ショット方式及び2ショット方式のいずれかの方式により混合し、地盤に注入する、前記(10)の注入工法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、例えば、亀裂を有する岩盤注入において、高い浸透性が得られ、優れた止水効果及び耐久性を有する注入材及び注入工法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は、記載が無い限りは、質量部、質量%を意味する。
【0016】
本発明においては、微粒子シリカとして、金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造したもの(微粒子球状シリカ)を使用する。この微粒子球状シリカは、凝集(ストラクチャー)が少なく、浸透性が大きい点で、好ましい。
【0017】
本発明において、微粒子シリカの粒度は、浸透性、圧縮強さ特性を向上させるために、平均粒径1.0μm以下とするが、0.05〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.6μmがより好ましい。例えば、可燃ガスと助燃ガスとによって形成される高温火炎中に金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が5〜70%であるスラリーを、少なくとも10m/秒以上の突出速度で噴射して溶融球状化することにより、球状シリカ粉末を製造する。更に、分級処理によって、流動性の助長効果に優れた平均粒子径を有する微粒子球状シリカ粉末を捕集することができる。例えば、特許文献6や特許文献7の方法によって製造することができる。
【0018】
また、かかる微粒子シリカは、浸透性、圧縮強さ特性の点で、球形度の平均値は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上が特に好ましい。
【0019】
球形度は、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−T200型」)と画像解析装置(日本アビオニクス社製)を用いて測定することができる。例えば、先ず、粉末のSEM写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/B×100(%)として表示できる。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πrであるから、B=π×(PM/2π)となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B×100(%)=A×4π/(PM)×100(%)として算出することができるので、任意の粒子200個の平均値を粉末の球形度として求めることができる。
【0020】
更に、微粒子シリカの非晶化率は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、100%が特に好ましい。
【0021】
非晶化率は、粉末X線回折装置(例えば、RIGAKU社製「Mini Flex」)を用い、CuKα線の2θが26〜27.5°の範囲において試料のX線回折分析を行い、特定回折ピークの強度比から測定することができる。かかる微粒子シリカとしては、例えば、電気化学工業社製商品名「SFP−20M」、「SFP−30M」や、アドマテックス社製商品名「アドマファイン」等が挙げられる。
【0022】
本発明のカルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、石膏等の無機物質、ギ酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩等が挙げられる。これらの中では、圧縮強さの点で、水酸化カルシウムが好ましい。
【0023】
本発明において、カルシウム化合物は、浸透性、圧縮強さ特性を向上させるために、平均粒径1.0μm以下に粉砕するが、平均粒径0.05〜1.0μmに粉砕することが好ましく、0.05〜0.5μmに粉砕することがより好ましい。
【0024】
本発明では、微粒子シリカ及びカルシウム化合物をそれぞれ水に分散し、それぞれA材及びB材を製造する。
【0025】
本発明のA材中の微粒子シリカの濃度は80%以下が好ましく、5〜60%がより好ましく、10〜40%が最も好ましい。微粒子シリカの濃度が80%を超えると高粘度となり浸透性が低下する場合がある。また、本発明では、予め高濃度の微粒子シリカスラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。高濃度で浸透しない場合は、5%以下の低濃度で長時間注入継続することで小さな亀裂に確実に注入することができ、高い改良効果を得ることができる。
【0026】
本発明のB材中のカルシウム化合物の量は、微粒子シリカ100部に対して20〜200部であり、50〜200部が好ましい。カルシウム化合物の量が20部未満では圧縮強さが低下する場合があり、250部を超えると浸透性が低下する場合がある。
【0027】
本発明のB材中のカルシウム化合物の濃度は50%以下が好ましく、2〜40%がより好ましく、5〜30%が最も好ましい。カルシウム化合物の濃度が50%を超えると高粘度となり浸透性が低下する場合がある。また、本発明では、予め高濃度のカルシウム化合物スラリーを製造し、施工時に水により希釈して使用することも可能である。高濃度で浸透しない場合は、2%以下の低濃度で長時間注入継続することで小さな亀裂に確実に注入することができ、高い改良効果を得ることができる。
【0028】
本発明では、A材、B材それぞれに、分散剤を併用することが必要である。A材のみ、或いは、B材のみに、分散剤を添加すると他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、好ましくない。但し、注入状況によっては分散剤の使用量を極少量に低下させることでゲルタイムを短くし、又は瞬結とし、リーク防止や限定注入として活用することができる。
【0029】
散剤としては、ナフタレンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、及びポリエーテル系の各分散剤が使用可能であるが、本発明では、ナフタレンスルホン酸系分散剤を、浸透性、圧縮強さ特性の点で使用する
【0030】
A材の分散剤の使用量は、A材の微粒子シリカ100部に対して〜30部(固形分換算)であり、5〜20部(固形分換算)が好ましい。0.1部未満だと他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、地盤への浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強さが低い場合がある。
金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子シリカは、分散性が良く、最初に分散剤を添加しなくても水に分散させることができるから、後から分散剤を添加しても良い。この水への分散性は、シラノール基濃度が関係していると推定される。
【0031】
B材の分散剤の使用量は、カルシウム化合物100部に対して分散剤の添加量は〜30部(固形分換算)であり、5〜20部(固形分換算)が好ましい。1部未満だと、他方の液と混合した瞬間に反応固化してしまい、地盤への浸透性が悪い場合があり、30部を超えると圧縮強さが低い場合がある。
【0032】
本発明の注入材は、硬化時間を調整するために、硬化時間調整剤を含有することができる。硬化時間調整剤としては特に限定されるものではないが、例えば公知のアルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属燐酸塩等の無機塩や、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸及び乳酸等の有機酸類及び該有機酸類の塩類等から選ばれる1種又は二種以上が挙げられる。これらの中では、圧縮強さの点から、アルカリ金属硫酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩が好ましく、アルカリ金属硫酸塩がより好ましい。アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウムや硫酸カリウム等が挙げられる。
【0033】
硬化時間調整剤の使用量は、A材の微粒子シリカ100部に対して、0.1〜10部が好ましく、1〜10部がより好ましい。硬化時間調整剤が30部を超えると浸透性が悪い場合がある。
【0034】
A材とB材の混合比率は、5:1〜1:5が好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0035】
浸透性を向上させるために、微粒子シリカ及びカルシウム化合物は、各種湿式粉砕機で分散又は粉砕して平均粒径を小さくすることが好ましい。なお、ここで言う平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA−920型」)を用い、湿式分散処理した懸濁液を、通常前処理として行う超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した値である。JIS R 1629では、超音波をかけて凝集物を分散処理してから粒度を測定するため、実際に地盤へ注入しても浸透性が悪い場合がある。そこで、超音波分散処理を行わずに測定することで実際の地盤への浸透性と近い結果となる。超音波分散処理を行わずに測定した微粒子シリカ及びカルシウム化合物の平均粒径が1.0μm以下である場合、浸透性が向上する。湿式分散処理した懸濁液とは、微粒子シリカを湿式分散処理したA材、カルシウム化合物を湿式粉砕とともに分散処理(本明細書において「湿式粉砕分散処理」という)したB材をいう。
【0036】
本発明で使用する湿式粉砕機は、高速攪拌機、媒体攪拌式ミル、及び高圧水を使用した粉砕機等のいずれを使用する方法でも良く、単独又は併用して選択するものであり、粉砕効率が高い点で、高圧水を使用した粉砕機が好ましい。
【0037】
高速攪拌機としては、単純に攪拌子が高速で回転するだけではなく、いわゆる、乱流状態となり、粒子に剪断力が働くような構造が好ましい。例えば、太平洋機工社製商品名「シャープフローミル」、特殊機化工業社製商品名「ホモミクサー」、「ホモミックラインミル」及び「ホモディスパー」等がそれに類する。又、媒体攪拌式ミルとしては、奈良機械製作所社製商品名「マイクロス」、アシザワファインテック社製商品名「スターミル」、三井鉱山社製商品名「SC−ミル」及び寿工業社製商品名「デュアルアペックスミル」等が挙げられる。又、高圧水を使用した粉砕機は、スラリーに50〜400MPaの高圧を加え、このスラリーを二つの流路に分岐させ、再度合流する部分で対向衝突させて粉砕するものである。このような粉砕機としては、スギノマシン社製商品名「スターバースト」や「アルティマイザー」、ナノマイザー社製商品名「ナノマイザー」及びマイクロフルイディスク社製商品名「マイクロフルイタイザー」等が挙げられる。これらの中では、注入材の地盤への浸透性を向上させる点で「スターバースト」が好ましい。
【0038】
本発明の注入材を地盤に注入するにあたっては、A材とB材とを混合する方法として、二重管を用いて先端部でA材とB材を合流混合して注入するいわゆる2ショット方式、A材とB材の両液を注入ポンプから注入管に至る途中で合流混合して注入するいわゆる1.5ショット方式、更にミキサー等の調合槽でA材又はB材を調合した後、他液を加えて混合し、1液としてから注入するいわゆる1ショット方式いずれの方式でも行うことができる。
【0039】
本発明の注入工法は、上記注入材を地盤に注入することを特徴とするものである。本発明の注入工法は、例えば、高浸透水圧下の亀裂のある岩盤の止水や岩盤掘削によって形成された空洞周辺部の止水において、岩盤の亀裂への注入材の充填性に優れ、かつ、高浸透水圧が作用しても注入材が押し出されることなく長期止水性を維持することができる注入工法にかかわるものであって、上記効果を得られるものである。
【0040】
分散剤をA材とB材の両方に使用すると良好な浸透性が得られる理由は不明だが、分散剤が微粒子シリカやカルシウム化合物の表面で反応し、微粒子シリカとカルシウム化合物が接触しても直ちに水和反応しないよう、硬化遅延しているためと考えられる。
【0041】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例は特記しない限り、20℃で行った。
【0043】
(実施例1)
粒径、種類の異なる微粒子シリカ100部、分散剤10部、水500部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し、A材(S1〜7)を作製した。
一方、市販の水酸化カルシウム(平均粒径9.5μm)100部、分散剤10部、水500部を混合し、同様にスギノマシン社製商品名「スターバースト」で粉砕時間を変えて湿式粉砕分散処理しB材(C1〜6)を作製した。
A材とB材を合流した。カルシウム化合物の使用量が、微粒子シリカ100部に対して、100部になるように、A材とB材を混合した。
浸透性試験、圧縮強さ試験を行った。配合及び結果を表1に示す。
微粒子シリカは、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に、2〜150m/秒の突出速度で噴射し燃焼、酸化させて溶融球状化する方法により製造した。
【0044】
(使用材料)
微粒子シリカS1:湿式分散処理後の平均粒径0.05μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に150m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS2:湿式分散処理後の平均粒径0.1μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に120m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS3:湿式分散処理後の平均粒径0.6μm、球形度97%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に100m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS4:湿式分散処理後の平均粒径1.0μm、球形度96%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に50m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
微粒子シリカS5:湿式分散処理後の平均粒径3.5μm、球形度95%、非晶化率100%、金属シリコン粉末を水に分散させた金属シリコン粉末濃度が30%であるスラリーを火炎中に2m/秒以上の突出速度で噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子球状シリカ
フェロシリコン副生シリカフュームS6:湿式分散処理後の平均粒径20μm(参考値:超音波分散処理した場合は平均粒径5.5μm)、球形度86%
ゾルゲル法合成シリカS7:湿式分散処理後の平均粒径10.1μm、球形度75%(参考値:超音波分散処理した場合は平均粒径9.8μm)
カルシウム化合物C1:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.05μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C2:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.1μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C3:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.5μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C4:湿式粉砕分散処理後の平均粒径1.0μm、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C5:湿式粉砕分散処理後の平均粒径3.5μm(参考値:超音波分散処理した場合は平均粒径2.1μm)、水酸化カルシウム
カルシウム化合物C6:湿式粉砕分散処理後の平均粒径0.5μm、無水石膏
分散剤α:ナフタレンスルホン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
分散剤β:ポリカルボン酸系分散剤、市販品、液状、固形分濃度40%
【0045】
(評価方法)
平均粒径:レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製「LA−920型」)を用いた。
A材及びB材を、超音波分散処理を行わずに、水媒中で測定した。
浸透性試験:地盤工学会基準JGS0831に準ずる注入装置を用い、直径5cm×長さ20cmの試料槽に8号珪砂を充填し、注入開始から30分後の注入材の浸透長さを浸透長とした。
圧縮強さ:浸透性試験を行った試料槽から硬化体を取り出し、長さ100mmに切断し、アムスラー型圧縮試験機で材齢7日,28日の圧縮強さを測定した。浸透長が100mm以下の場合は硬化体上下を平面仕上げして測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
微粒子シリカの球形度が高く、平均粒径が小さい程、又、カルシウム化合物の平均粒径が小さい程、浸透性、圧縮強さ特性に優れることがわかる。本発明の微粒子シリカおよびカルシウム化合物は、超音波分散処理を行わなくても浸透性、圧縮強さ特性に優れることがわかる。平均粒径20μmのフェロシリコン副生シリカフュームは、浸透性、圧縮強さ特性に劣ることがわかる。
【0048】
(実施例2)
湿式粉砕処理したS3、C3を用い、カルシウム化合物の使用量が、微粒子シリカ100部に対して、表2に示す量になるように、A材とB材を混合したこと以外は実施例1と同様に、浸透性試験、圧縮強さ試験を行った。配合及び結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
分散剤をA材とB材の両方に使用し、カルシウム化合物量、分散剤量を最適化することにより、優れた浸透性、圧縮強さ特性を示すことがわかる。
【0051】
(実施例3)
微粒子シリカ100部に対して表3に示す量の硬化時間調整剤を用い、カルシウム化合物の使用量が、微粒子シリカ100部に対して、表3に示す量になるように、A材とB材を混合したこと以外は実施例2と同様に、浸透性試験、圧縮強さ試験を行った。なお、酸性の硬化時間調整剤であるクエン酸は、水酸化カルシウムと反応する恐れがあるので、A材側に入れ、クエン酸以外の硬化時間調整剤はB材側に入れた。配合及び結果を表3に示す。
【0052】
<使用材料>
硬化時間調整剤T1:硫酸ナトリウム
硬化時間調整剤T2:硫酸カリウム
硬化時間調整剤T3:炭酸ナトリウム
硬化時間調整剤T4:クエン酸
【0053】
【表3】
【0054】
硬化時間調整剤の種類、量を最適化することにより、優れた浸透性、圧縮強さ特性を示すことがわかる。
【0055】
(実施例4)
微粒子シリカS3を100部、水500部を混合し、スギノマシン社製商品名「スターバースト」で湿式分散処理し微粒子シリカスラリーを作製した。この微粒子シリカスラリーに微粒子シリカ100部に対し分散剤10部を混合しA材を作製した。
一方、B材には実施例1のC3を用い、カルシウム化合物の使用量が、微粒子シリカ100部に対して、100部になるように、A材とB材を混合した。
浸透性試験、圧縮強さ試験を行った。配合及び結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
金属シリコン粉末を水に分散させたスラリーを火炎中に噴射し燃焼、酸化させる方法で製造した微粒子シリカは、最初に分散剤を加えなくても水に分散させることができることが確認された。後から分散剤を添加した場合も、実験No.4-1のように、最初から分散剤を添加した実験No.1-3と同程度の浸透性を有し、圧縮強さも同程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の注入材は、岩盤の微細な亀裂に浸透する高耐久の注入材であって、優れた浸透性、圧縮強さ特性を示し、例えば、様々な地山改良の他に、LPGの地下備蓄、放射性廃棄物の地下封じ込め、ダム・トンネル等の止水等に使用できる。
【0059】
本発明の微粒子シリカおよびカルシウム化合物は、超音波分散処理を行わなくても浸透性、圧縮強さ特性に優れるので、経済的効果が大きい。