【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH−OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記運搬システムは、ポンプによって供給される酸素以外のガス、及び、加圧容器によって供給される酸素以外のガスからなる群から選択される流体又は真空源を含む、請求項3記載の装置。
複数の前記複数の微小孔性で疎水性の中空管が一つ以上の群として配置され、前記酸素吸収材は、前記一つ以上の群の長さの少なくとも一部分を囲む、請求項9記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書及び特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容がそうではないことを明瞭に定めない限り、複数の言及を含む。よって、例えば、「吸着剤」への言及は、複数個のこのような吸着剤と、当業者に知られたこのような吸着剤の均等物などを含み、「上記吸着剤」への言及は、1個以上のこのような吸着剤と、当業者に知られたこのような吸着剤の均等物などへの言及である。
【0040】
複数の実施形態では、装置、システム、及び/又は、方法が、赤血球を含む流体のような生体液から酸素のようなガスを除去することが記載されている。本明細書に記載された一定数の代表的な実施形態では、酸素は、赤血球懸濁液、赤血球懸濁液製品、又は、赤血球懸濁液成分(ヒト又はそれ以外)から除去される。本願において使用されるような生体液という用語は、生物源(例えば、ヒトを含む動物)に由来する流体を指す。本願において使用されるような赤血球懸濁液という用語は、流体(例えば、血漿、抗凝血溶液、添加溶液、及び/又は、食塩水の混合物であり、例えば、残りの血小板及び白血球を含むことができる混合物)の中に浮遊する赤血球として定義される。
【0041】
本明細書で検討された複数の代表的な実施形態、装置、システム及び方法では、酸素は、保存及び最終的な輸血のために処理されたヒト赤血球懸濁液から除去される。処理直後のヒト赤血球懸濁液又はヒト赤血球懸濁液(例えば、抗凝血溶液中に採取され、血小板、白血球及びその他の血液成分を除去する処理がされた血液)を含む流体からの酸素の除去は、保存期間を30%から100%まで延長することが分かった。赤血球懸濁液、赤血球懸濁液製品、又は、赤血球を含むその他の流体(本明細書では血液として総称されることがある)のような赤血球を含む流体から酸素を除去する装置又はシステムは、本明細書では、酸素減損装置、すなわち、ODDとして総称されることがある。
【0042】
本明細書で検討されたODD装置の複数の代表的な実施形態では、装置は、少なくとも一群又は一束のポリマー製(例えば、ポリカーボネート製)ハウジングの内部にマニフォールド化された疎水性中空ファイバ膜を含んでいた。赤血球を含む流体又は赤血球懸濁液のような生体液は、例えば、中空ファイバの中を流れ、血液からの酸素が中空ファイバの膜を越えてハウジング内部かつファイバの外部の容積へ輸送され、酸素の濃度が低く保たれる。検討されたODDでは、キャリア若しくはガス吸着材、又は、(典型的に、逆流中の)不活性キャリア若しくはスイープ・ガスの流れのいずれかが、ファイバ内部の流体から除去されたO
2のようなガスを取り除くためファイバ束の環状空間の周りに使用され、それによって、拡散を促進するための濃度勾配を維持した。
【0043】
代替的な実施形態では、赤血球を含む流体又は赤血球懸濁液のような生体液は、不活性キャリアガスが中を流れることができる複数の中空ファイバを囲むハウジング又はエンクロージャの内部の容積の中を流れることができるので、ファイバの外部を流れる赤血球を含む流体からの酸素を、ファイバの中を流れるキャリアガスの中へ押し進めるため濃度勾配を維持する。
【0044】
更に別の実施形態では、赤血球を含む流体又は赤血球懸濁液のような生体液は、1つ以上のガス吸収又はガス吸着部材又は要素が存在するハウジング又はエンクロージャの内部の容積の中を流れることができる。酸素吸着部材のようなガス吸着部材は、例えば、ガス透過又はガス多孔質層又は膜の内部に入れられた吸着材を含むことができる。
【0045】
一定数の検討では、ODDは、赤血球懸濁液を含む代表的な流体が中を流れる内径150
μmと壁厚25
μmとを有する、ポリプロピレン製中空ファイバ膜を含んでいた。ODDは、例えば、所定の時間的制約の範囲内で95%を超える酸素除去を達成し、そして、製造可能性を実現しやすくするために最適な構成変数を検討する目的で、ファイバ長、ファイバ本数、吸着剤に対するファイバの構成、及び、不活性ガスに対する吸着剤の構成を変化させて検討された。
【0046】
検討されたODDの結果は、ODDの数値モデルと比較された。モデルは、実験結果との比較によって妥当性が確認された。モデルは、その後、続いて設計される装置のためのパラメータ値を特定するために使用された。動作及び設計の一定数の原理が後述される。
【0047】
酸素は、血漿中に溶解し、赤血球内のヘモグロビン分子に付着し、赤血球懸濁液として運搬される。酸素のうちの95%より多くが赤血球の内部で運搬される。赤血球懸濁液から酸素を除去するため、本明細書中の代表的なODDは、平行に配置されている疎水性中空ファイバ膜の束のルーメンの中へ赤血球懸濁液を導くように設計された。中空ファイバ膜の壁は、非常に薄く、微小孔性であった。ファイバ膜材料は、同様に疎水性とすることもできるので、血液は、ファイバルーメンの中に留まり、孔はガスが充填されたままである。中空ファイバの壁の外部にある酸素の濃度は、例えば、ファイバ壁の外側を越えてファイバハウジング内部の不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)を一掃することによって、又は、ファイバ壁の外側にあるハウジングの内部に酸素吸収又は吸着材(例えば、酸素吸収微小孔性ファイバ又は粒子)を位置付けることによって、およそゼロに維持することができる
【0048】
数台の装置が米国ニューヨーク州バッファロー所在のMultisorb Technologies製の酸素吸収粒子の配置を変えて製作された。この酸素吸収粒子は、著しい酸素の運搬容量があり、検討されたODDの内部に十分な量で組み入れられたとき、ODDのシェル側又は外側酸素含有量を0.01%未満に維持することができた。酸素吸収材は、例えば、米国特許第6,156,231号、第6,248,690号、第6,436,872号、第6,558,571号、第6,899,822号、及び、第7,125,498号に記載されている。
【0049】
ファイバの外側の低いO
2濃度は、ファイバの中を流れる流体から出て、ファイバ膜を越える酸素の拡散を促進する濃度勾配を設定する。ファイバのガス充填微小孔性壁を越える酸素拡散に対する抵抗は、不活性ガスによって一掃されるか、又は、周囲の吸着粒子によって吸収されるかのいずれかである壁から気相の中への酸素の拡散抵抗の場合と同様に無視できる。支配的な抵抗は、中空ファイバの内部を流れる流体の境界層に存在する。この抵抗は、流体の特性(粘性及び密度)と、ファイバの中を通る流体の流速と、ファイバの内径とによって支配される。ファイバ径がより小さく、かつ、流速がより速いほど、ファイバ壁に隣接する流体の境界層の中を通る酸素拡散に対する抵抗は小さい。しかし、赤血球懸濁液の中には多量の酸素が保持されているので、赤血球懸濁液がファイバ内に滞留する期間(滞留時間)は、除去できる酸素総量に影響を与える。ファイバが長くなると、滞留時間を増加させるが、装置の中を通る赤血球懸濁液の流れを促進するために必要とされる圧力も増加させる。平行な束の中で使用されるファイバの本数が増加すると、装置の中の赤血球懸濁液の流れに対する全抵抗を低下させることが可能であるが、ハウジングのサイズを増大させる。
【0050】
中空ファイバ膜を含むODDの設計及び性能を支配する物理的な関係の概要は、後述される。この概要は、適切な装置パラメータがモデル化され、数個の制約条件を用いて(例えば、制約付き期間に亘って、許容可能な装置サイズを用いて、及び、流れを促進するために必要とされる圧力ヘッドに関して許容可能な抵抗を用いて)を用いて酸素除去を実施するためどのようにモデル化し、そして使用されるかを例示する。
【0051】
この点において、ファイバの外側にある酸素の濃度がゼロであると仮定して、複数の関係が平行なファイバの束の中を流れる保存されたヒト赤血球懸濁液の標準単位(例えば、400ミリリットル)からの酸素除去をモデル化するために使用された。以下の説明は、検討された代表的なODDの設計検討事項を記載する4つのセクションに分割される。
【0053】
処理時間T
ODDは、ODDが1単位の赤血球懸濁液から酸素を除去するために要する時間として定義される。
【0055】
ここで、V=1単位の赤血球懸濁液の体積であり、Q
ODD=全体的な装置流速である。V=400ミリリットル、及び、Q
ODD=5ミリリットル/分に対し、例えば、T
ODD=80分である。
【0057】
滞留時間λは、赤血球懸濁液がファイバの長さを通過するために要する時間として定義される。滞留時間が長いほど、より多くの酸素が除去される。
【0059】
ここで、V
fiber=ファイバ内部の容積、Q
fiber=単一ファイバを通る流速、R=ファイバの内径、L=ファイバの長さ、及び、N
f=装置内のファイバの本数である。
【0060】
数2は、装置流速が滞留時間に反比例すること、すなわち、流速が遅いほど、より多くのガスが除去されることを明らかにする。例えば、最低流速が数1から求められる処理時間制約に基づいて設定される場合、ファイバの長さ及び本数が処理時間に与える影響を評価するために数2を使用できる。設定された装置流速に対し、ファイバの本数を増加することにより、ファイバ1本当たりの流速を減少させ、滞留時間が改善(増加)される。設定された流速に対し、装置長さを減少させることは、滞留時間に悪影響をもたらす。この式から、ファイバ内径を減少させることは、滞留時間を短縮することによる悪影響をもたらすことになることは、直観に反しているように見えるが、固定装置流速の観点からこの式を見ると、半径を減少することは、赤血球懸濁液のより速い速度をもたらす(流速=面積×速度)。
【0061】
装置パラメータが滞留時間に与える影響を評価する代替的な方法は、管の中を通るニュートン性層流のための式に基づいてQ
fiberを定義することであり、この式は、次の通りである。
【0063】
ここで、ΔP=ファイバ長さに亘る圧力降下であり、μ=赤血球懸濁液の粘度である。よって、滞留時間は、次式のように記述することができる。
【0065】
この観点から、ファイバをわたったときの固定圧力降下に対し、ファイバ半径の減少は、4の累乗によってファイバ流速を減速することにより滞留時間を増加させることが明白である。
【0067】
出口pO
2は、例えば、赤血球懸濁液に対し非線形対流拡散式を数値解法することにより推定できる。この式の無次元形式は、以下の通りである。
【0069】
ここで、r
*=r/R(無次元半径)、p
*=pO
2/pO
2in(無次元酸素分圧)、z
*=z▲D▼/V
maxR
2)(無次元長さ)、▲D▼は、赤血球懸濁液中の酸素拡散率であり、V
maxは、ファイバの中心線での赤血球懸濁液の速度であり、f(p
*)は、酸素分圧の変化と共にヘモグロビンに付着した酸素の変化を表現する無次元シンク関数である。
【0070】
このように、上記式を解法するとき、ファイバから出るpO
2のための解に影響を与えるパラメータは、
・R(ファイバ内径)と、
・pO
2in(入口酸素分圧)と、
・▲D▼(血液中の酸素の拡散率)と、
・V
max(ファイバ中の血液の速度)と、
・f(p
*)=(BC
Hb/σ)dSO
2/dpO
2(C
Hbは、ヘモグロビンの濃度であり、Bは、ヘモグロビンの酸素容量であり、σは、血液中の酸素の溶解度であり、dSO
2/dpO
2は、オキシヘモグロビン解離曲線の勾配である)と、
を含む。
【0071】
V
maxの式は、装置を通る全流量、又は、ファイバをわたったときの圧力降下のいずれかの観点から次の通り表現することができる。
【0073】
数6が長さに対する独立変数を無次元化する表現に代入されるとき、z
*は、
【0075】
指定された固定装置流速に基づいてパラメータが出口pO
2に与える影響を評価したい場合、中間的な関係は、ファイバ半径に影響がないことを明らかにする。指定された固定Q
ODDに対する結果に影響を与えるパラメータは、拡散率と、ファイバの本数と、(数5からの)オキシヘモグロビン解離曲線の勾配と、(数7からではなく、z方向において、長さが増加するとき、解がゼロ酸素分圧に接近し続けるので)ファイバの長さとだけである。
【0077】
酸素減損プロセス上の時間制約は、最終的に全体的な装置流速に最低限度を課し、この最低限度は、削除可能な酸素の量に影響を与えるパラメータを支配する。最低流速が設定されると、ファイバの本数及びファイバの長さは、酸素の除去を最大限にするため選択することができる。ファイバ半径は、指定された流速に対して除去される酸素の量に見かけの影響を与えないが、赤血球懸濁液の流れを促進するために1単位の赤血球懸濁液がODDに関してどの程度の高さに固定されるべきかという点で装置の全体的な寸法とプロセスセットアップの構成とに影響を与えることになる。
【0078】
流れに対するODDの抵抗は、パイプ流れにおける粘性エネルギー損失に関する経験的な関係からヘッドロスの観点から推定することができる。
【0080】
ここで、D=ファイバの内径、g=重力定数、L=ファイバの長さ、▲V
av▼=ファイバ内の赤血球懸濁液の流れの平均速度、f=ダルシー摩擦係数=64/Re、Re=レイノルズ数=ρ▲V
av▼D/μ、かつ、ρ=流体密度である。
【0081】
毎分5gの赤血球懸濁液流速と150
μmのファイバ内径で、長さ30cmの8000本のファイバの場合、ヘッドロスは、およそ20cmということになる。240
μmのファイバ内径の場合、ヘッドロスは、僅か8cmということになる。この高さの差は、150
μm対240
μmのファイバ内径の要件を正当化するために十分に大きくない。しかし、より小さい内径は、より緊密なパッキング密度と、プロセスの最後に装置から排出されるべき赤血球懸濁液のより小さい体積とを可能にさせる。
【0082】
本明細書の装置、システム及び方法のいくつかの検討において、一連の9台のODD装置が製作された。以下の表1は、検討された装置の仕様の概要を記載する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0083】
すべての検討された装置は、ファイバ外径200
μm、及び、ファイバ内径150
μmをもつCelgard社製ポリプロピレン微小孔性中空ファイバ膜ファブリック(ノースカロライナ州シャーロットのCelgard LLCから入手できる)からなる1インチ当たり66本のファイバ(Celgard 200/150−66FPI)を用いて製作された。
【0084】
ファイバの本数と、ファイバ及び装置全体の寸法と、シェル側配置(すなわち、吸着剤粒子に対する不活性ガスの流れ)と、ファイバに相対的な吸着剤粒子の配置とを含む一定数の変数又は仕様は、検討された装置の間で変えられた。
【0085】
いくつかの代表的な実施形態では、検討されたODDの製作は、例えば、取り外し可能な中心コアの周りに中空ファイバ膜のファブリックを同心円状に巻き付けることによって、環状ファイバ束を構築することから開始された。取り外し可能な中心コアは、例えば、ポッティングのためファイバに支持体を提供し、そして、更に、例えば、装置の内部に酸素吸着材(ニューヨーク州バッファロー所在のMultisorb Technologies,Inc.)の設置のための領域を提供する。Delrin(登録商標)(デラウェア州ウィルミントンのE.I. DuPont De Nemours and Companyから入手できるアセタール樹脂)から作られた2部品型再利用可能金型がODDハウジング内のファイバの位置を制御するため使用された。ファイバは、(ノースカロライナ州グリーンズバラのVertellusから入手できる)2液混合型ポリウレタン接着剤を金型に注入することにより、ODD装置の両端にポッティングされ、成形された。接着剤が乾燥させられた後、金型が取り外され、ポッティングされたファイバは、その後、露出させられ、すべてのファイバ間に共通の経路を確立するために治具の中に入れられた。ODDは、(ニューヨーク州アルバニーのProfessional Plastics, Inc.から入手できる)ポリカーボネートのようなポリマー材料から製造された主ハウジングと2個のエンドキャップとを更に含んでいた。
【0086】
例えば、表1においてBAL0001及びBAL0002と呼ばれる装置に対応する装置10(
図1A及び
図1Bを参照されたし)は、ハウジング30の内部に上述されているように複数の中空ファイバ22(
図1Bを参照されたし)を備える中空ファイバ束20を含んでいた。同様に上述されるように、ハウジング30は、このハウジングの各端部にエンドキャップ40を含む。ハウジングは、不活性キャリアガス(本検討ではアルゴンガス)がハウジングに入るときに通る入口50と、中空ファイバ22の微小孔性壁を通して赤血球懸濁液から拡散するO
2のようなガスを除去するために中空ファイバ22の周りを流れた後に前記不活性キャリアガスがハウジングから出るときに通る出口60とを更に含んでいた。キャリアガスの比較的小さい加圧導管52(
図1Bに概略的に示される)は、例えば、装置10に設けることができる。赤血球懸濁液(又は赤血球懸濁液製品流体)は、入口70を介して中空ファイバ20に入り、赤血球懸濁液は、この入口70を通って中空ファイバ束20の中空ファイバ22に分配された。脱酸素化赤血球懸濁液は、共通出口80を介して中空ファイバ束20の中空ファイバ22から出た。中空ファイバ22の微小孔性壁を通って拡散する酸素は、
図1Bにおいて破線矢印で概略的に表される。BAL0001は、有効ファイバ長さ13cmを使って製造されたが、BAL0002は、有効ファイバ長さ28cmを使って製造された。BAL0001とBAL0002とは、どちらも酸素吸着剤を含んでいなかった。
【0087】
図2A及び
図2Bは、表1においてBAL0003と呼ばれる装置を表す装置10aの実施形態を示す。装置10は、(
図2A及び
図2Bにおいて個別に描かれていない)複数の中空ファイバを含む中空ファイバ束20aをハウジング30a内に含んでいた。装置10は、(ファイバ束20aと相対的に)ほぼ中心に位置付けられた(複数の)酸素吸着材28aを更に含んでいた。BAL0003の場合、中空ファイバ束20aの中心コアは、125グラムの吸着材28aが充填された。装置10と同様に、装置10aのハウジング30aは、ハウジングの各端部にエンドキャップ40aを含んでいた。赤血球懸濁液は、入口70aを介して中空ファイバ束20aに入り、この入口を通って赤血球懸濁液は、中空ファイバ束20aの個別の中空ファイバへ分配され、脱酸素化赤血球懸濁液は、共通出口80aを介して中空ファイバ束20aから出た。
【0088】
図3A及び
図3Bは、表1においてBAL0004と呼ばれる装置を表す装置10bの実施形態を示す。装置10bは、ハウジング30bの内部に複数の(検討された実施形態では、10束の)中空ファイバ束20b(個々の束は、
図3A及び
図3Bには個別に示されていない複数の中空ファイバ(検討された実施形態において500本のファイバ)を含む)を含んでいた。全部で200グラムの吸着材28bが個別の中空ファイバ束20bの間の容積の中に置かれた。装置10a及び10bと同様に、装置10bのハウジング30bは、ハウジングの各端部にエンドキャップ40bを含んでいた。赤血球懸濁液は、入口70bを介して中空ファイバ束20bに入り、この入口70bを通って赤血球懸濁液は、中空ファイバ束20bの個別の中空ファイバへ分配され、一方、脱酸素化赤血球懸濁液は、共通出口80bを介して中空ファイバ束20bから出た。
【0089】
BAL0005は、種々の量(表1を参照されたし)のO
2不活性吸着剤包材(Multisorb)が詰め込まれた(
図2A及び
図2Bに関連して説明されたように)中心コアを用いて構築された。
【0090】
BAL0009、BAL0010、BAL0011及びBAL0012は、118グラムの活性化済吸着剤包(Multisorb DSR#5353C)が詰め込まれた(
図2A及び
図2Bに関連して説明されたように)中心コアを用いて個々に構築された。
【0091】
表1の装置の設計では、上記数値モデルからの予測結果は、
図4A及び
図4Bに例示されたようなBAL0004の実験結果と比較された。前記モデルはその後、他の装置用のより数の多いファイバを選択するために用いられた。
【0092】
酸素フラックスに対するシェル側抵抗(すなわち、ファイバ壁から装置の吸着剤充填コアまでの酸素の拡散)の推定値は、この抵抗がファイバ内部の流体境界層における酸素フラックスに対する抵抗と比べて無視できることを示す。シェル側抵抗が無視できることの結果は、ファイバと相対的な吸着剤の配置が製造の簡易化に基づいて選択でき、選択された構成が別の構成と比べて酸素除去の量に重大な悪影響を与えることがない、ということである。このような推定値を確認するため、吸着剤コアからの半径方向距離の関数としてのシェル側酸素分圧のモデルが開発され、種々の吸着剤構成の予備推定値及びベンチテスト結果と比較された。
【0094】
例えば、赤血球懸濁液が装置の中を流れているとき、赤血球懸濁液充填ファイバからの酸素の半径方向拡散は、ファイバ壁から吸着剤コアへ拡散する酸素の量に等しくなる。酸素拡散の量Jは、拡散の方向における酸素濃度勾配に正比例し、次の通りとなる。
【0096】
ここで、Dは、赤血球懸濁液又はファイバを囲むガス(原則的に窒素ということになる)のいずれかにおける酸素の拡散率を表す比例定数である。上記成分を並べ替えると次式になる。
【0098】
数10は、ファイバを囲むガス充填シェルにおける平均半径方向酸素濃度勾配と相対的にファイバの中を流れる赤血球懸濁液中の酸素の半径方向濃度勾配の推定値を与えるために使用することができる。0.22cm
2/sである大気条件下での窒素中の酸素拡散率と、およそ1×10
−5cm
2/sである体温での赤血球懸濁液中の酸素拡散率とを使用し、そして、dr
bloodが75
μmであり、dr
gasが1cmであると見積もると、dC
blood対dC
gasの比率は、150である。換言すると、ファイバの中心からファイバ壁までの酸素の濃度勾配は、ファイバ壁から吸着剤コアまでの濃度勾配より150倍大きい。両方の相における安定した酸素フラックスにおいて、このことは、気相における抵抗が赤血球懸濁液流の中の抵抗よりおよそ150倍小さく、よって、無視できると考えられることを示す。
【0099】
シェル側酸素濃度プロファイルのモデル
【0100】
上記推定値を確認するため、シェル側酸素フラックスのモデルが装置のシェル側に適用された質量平衡方程式を使用して開発された。装置のシェル側が吸着剤充填コアで封止され、酸素との吸着剤反応速度が拡散プロセスより遙かに高速である(検討された吸着剤に関して既に実証済みである)と仮定すると、ファイバを囲み、シェルを充填する気相内の酸素に対する質量平衡方程式は、次の通り要約される。
【0102】
ここで、Cは、モル/リットル単位の酸素濃度であり、R
O2は、ファイバによる酸素「製造」の局部的速度(すなわち、ファイバ壁からの酸素拡散の量)を表し、D
effは、有効酸素拡散率である。有効拡散率は、ファイバの周りのファイバ壁からコアへの酸素分子の拡散のための経路の蛇行性と共に、酸素が拡散するときに通過するファイバ束の多孔率を考慮し、次式から決定される。
【0104】
ここで、εは、ファイバ束の多孔率であり、「a」は、蛇行性(酸素の分子が、ファイバ外径によって割り算された外周のちょうど半分、すなわち、π/2である真っ直ぐな経路と比較してファイバの周りを周回すべき経路の長さ)であり、D
O2−N2は、窒素中の酸素の拡散率である。
【0105】
質量平衡方程式の解法は、2個の境界条件を必要とする。r=R
d(外側シェル半径)で、酸素の拡散がゼロである、すなわち、dC(r=R
d)/dr=0でなければならず、コア表面で、酸素の濃度がゼロである、すなわち、C(r=R
c)=0であると仮定される。
図2Aに示されるように、R
cは、吸着剤コアの半径であり、R
dは、装置のシェルの半径(又は、中空ファイバ膜の外側半径)である。
【0106】
これらの境界条件を使用して、質量平衡方程式の解は、以下の通りである。
【0110】
気相へ移動された単位体積当たりの酸素の速度R
O2は、酸素が移動された空隙の容積によって割り算された単位時間当たりの赤血球懸濁液から除去された酸素の総量に基づいて計算され、次の通りである。
【0112】
ここで、Cb
inは、ファイバに入る赤血球懸濁液中の酸素濃度であり、Cb
outは、装置の出口における所望濃度であり、Q
Tは、装置の中を通る総赤血球懸濁液流速であり、N
fは、ファイバの本数であり、R
fは、ファイバの外側半径である。
【0113】
この解法は、マサチューセッツ州ナティックのThe Mathworks Incから入手できるMATLAB(登録商標)コンピュータソフトウェアを使用してプログラムされた。使用されたコードは、
図4Cに示され、使用されたパラメータ値、単位、及び、変換を与える。モデルの出力は、r=R
dでゼロの値をもち、r=R
cで0.2mmHgをもつ酸素プロファイルを明らかにした。ファイバの入口での赤血球懸濁液中の酸素の分圧がおよそ100mmHgである場合、ファイバ内部での酸素分圧の半径方向分布は、最大でおよそ100mmHgであり、ファイバの長手方向に沿って減少することになる。シェル側での0.2mmHgモデル化分布に値するこの分布の平均の比率は、同様に酸素フラックスに対しシェル側で無視できる抵抗を示す予備推定値の比率と一致しているので、ODDによって除去された酸素の量は、ファイバに対する吸着剤の構成と無関係である。
【0114】
この結果は、コア内に格納された吸着剤の量が除去されるべき酸素のすべてと反応するために十分であることと、反応速度が除去期間全体に亘って実質的に瞬時のまま保たれることとを仮定している。検討された装置において使用された吸着剤の仕様は、検討において使用された吸着剤の量に対する酸素容量が必要酸素容量より数倍大きいことと、反応速度は高く維持されるべきこととを示した。
【0116】
装置BAL0002からBAL0004のテストの結果は、シェル側がアルゴン・スイープ・ガスに通じている装置(BAL0002)と、封止されたシェル側及び吸着剤コアをもつ装置(BAL0003)と、ファイバ束の間に均等に分布している封止されたシェル及び吸着剤「ロッド」をもつ装置(BAL0004)とに関して、装置を通る総赤血球懸濁液流速の関数としての酸素除去の比較を可能にする。BAL0003及びBAL0004の断面は、
図2B及び
図3Bにそれぞれ記載され、これらは、吸着剤配置を図示する。テスト結果は、
図4Dにプロットされ、装置BAL0002、BAL0003及びBAL0004より短いファイバ長さを用いて製作されたBAL0001の結果を含む。この結果は、およそ5グラム/分の流速で、すべての装置が目標レベルまで酸素除去したことを示す。アルゴン・スイープ・ガス又はキャリアガスを用いる装置は、吸着剤を用いる装置より僅かに良好に機能した。しかし、差異は、統計的に有意ではなかった。結果は、数学モデルから予測されるように、検討された装置のシェル側配置が(使用された吸着剤の量に対する)装置の酸素除去能力に殆ど影響を与えないことを示す。
【0117】
当業者に明らかであるように、中空ファイバ及び/又はガス吸着材の多数の構成が考えられる。例えば、
図5Aから
図5Dは、ハウジング30cの内部に複数の中空ファイバ束20cを含む装置10cの実施形態を示す。上述のように、ハウジング30cは、ハウジングの各端部にエンドキャップ40c及び40c’を含む。入口70cは、赤血球を含む流体のような生体液が中空ファイバ束20cに入るときに通過するハウジング30cの第1の端部で(ハウジング30cの径と比べて比較的短い長さのファイバ22cを備える)中空ファイバ束20cと流体接続し、そして、脱酸素化血液が中空ファイバ束20cから出るときに通過するハウジングの第2の端部にある出口80cが流体接続している。上側又はキャップ部材92cと吸着剤内容物94cとを含む複数の吸着剤カートリッジ90cは、エンドキャップ40cの開口部42cを介してハウジング30cの内部にモジュール形式で接続可能である。
【0118】
図6Aから
図6Dは、ハウジング30dの内部に1個以上の中空ファイバ束20d(
図6Bから
図6Dを参照されたし)を含む装置10dを示す。上述されているように、ハウジング30dは、このハウジングの各端部にエンドキャップ40dを含む。入口70dは、赤血球を含む流体のような生体液が(複数の)中空ファイバ束20dに入るときに通過するハウジング30dの第1の端部で(ハウジング30dの径と比べて比較的長い長さのファイバ(個別に図示せず)を備える)(複数の)中空ファイバ束20dと流体接続し、そして、脱酸素化流体が(複数の)中空ファイバ束20dから出るときに通過するハウジングの第2の端部にある出口80dが流体接続している。
【0119】
図6Bの実施形態では、中空ファイバの方向に垂直な方向に細長い複数のガス吸着材内容物90dは、(複数の)中空ファイバ束20dの内部又は間にある空隙の内部に位置付けられている。
図6Cの実施形態では、複数の中空ファイバ束20dと吸着剤内容物90dとが同心円状に配置される。
図6Dの実施形態では、ほぼ螺旋状の中空ファイバ束又はファイバ膜ファブリック20dは、同様に螺旋状の吸着材90dの内容物と隣接する。
【0120】
上述の代表的な実施形態では、赤血球懸濁液は、複数の中空ファイバのルーメンの中を流れる。装置10の代表的な実施形態のための
図7に概略的に示されるように、赤血球懸濁液又は他の生体液は、中空ファイバ束20の中空ファイバ22を囲むハウジング10(又は他のハウジング若しくはエンクロージャ)の内部の容積の中を代替的に流れることができる。
図7の実施形態では、不活性キャリアガスは、中空ファイバ22の中を流れるために入口70に入り、そして、出口80から外に出る。濃度勾配が中空ファイバ22の外部を流れる流体から中空ファイバ22の中を流れるキャリアガスへ酸素を進めるために中空ファイバ22の中のキャリアガスの流れによって作られる。
【0121】
図8Aは、ハウジング130の中に延在する複数のほぼ円柱状のガス吸着剤要素140を含む酸素減損装置10の別の実施形態を示す。赤血球を含む流体のような生体液は、入口170を介してハウジング130に入り、吸着剤要素140の外部にある容積の中を流れ、脱酸素化された流体が出口180を介してハウジング130から出る。流体からの酸素は、吸着剤要素140によって吸収される。
図8Bに示されるように、吸着剤要素140は、例えば、吸着材144(例えば、線維状吸着材の粒子)を取り囲む(例えば、中空ファイバ膜について上述されているように)ガス浸透又は微小孔性層142を含む。流体、流体からのガス、特にO
2は、層142を通って吸着材144の中へ拡散し、このことは、
図8Bに破線矢印によって示されている。
【0122】
いくつかの実施形態では、(例えば、使い捨てできる)実施形態の酸素減損装置は、例えば、保存容器内に保存する前に、酸素(及び/又は他のガス)の赤血球を減損するために既存の血液バンク処理及び/又は保存システムに容易に組み込むことができる。
図9は、例えば、患者から血液(例えば、400ミリリットル)を採血するための静脈切開針310と流体接続しているシステム300の代表的な実施形態を示す。血液は、例えば、抗凝血剤及び/又は他の添加剤を含むことができる初期採取容器又は袋320に、例えば、移動することができる。血液は、血漿の少なくとも一部が血漿容器又は袋332に保存することができる血液から除去されるように、システム330によって処理することができる。除去された血漿は、例えば、容器140からの無酸素添加剤溶液のようなより低粘性の保存溶液(例えば、代表的な例では、200ミリリットル)によって少なくとも部分的に置き換えることができる。例えば、米国特許出願公開第2003/0153074号及び第2005/0208462号を参照されたい。装置10aのような酸素減損装置は、例えば、白血球除去フィルタ、すなわち、LRF 350の下流(例えば、下)でシステム300に組み込むことができ、それによって、LRF 350の抵抗に直列抵抗を加える。装置10a又は他の酸素減損装置を通る流れは、例えば、重力駆動式、又は、ポンプ式とすることができる。装置10a又は他の酸素減損装置は、例えば、赤血球が酸素不浸透血液保存袋360へ流れ込む直前に赤血球のヘモグロビン飽和度を所定のレベル(例えば、2%より下)に低下させることができる。例示された実施形態では、赤血球を含む処理済みの流体は、例えば、酸素不浸透血液保存袋360の内部のPVC袋370の内部に格納される。酸素吸着材380は、(例えば、上述されているように)酸素不浸透血液保存袋360の内部に同様に入れることができる。酸素不浸透血液保存袋360は、処理済みの流体/血液から酸素を除去するために処理済みの流体/血液をこの袋に保存する前に、アルゴンのような不活性ガスで洗浄することも可能である。単独で、又は、保存溶液の使用と組み合わせて、保存前の赤血球の脱飽和は、保存血液の保存期間を著しく延ばすことができる。更に、システム300及び/又は血液処理システムへのこれらの酸素減損装置の組み込みは、血液保存のための現在の処理時間に僅かな時間(例えば、10%未満)しか追加しない。
【0123】
実施形態の酸素減損装置は、例えば、保存前に赤血球懸濁液から酸素を除去するために設計された既存の血液バンク処理システムの使い捨てコンポーネントとして容易に組み込むことができる。(例えば、実施形態の酸素減損装置に取り付けることができるか、又は、これらの酸素減損装置上に形成することができる)ルアーコネクタのような周知のコネクタシステム100a(
図2Aを参照されたし)は、酸素減損装置をこのようなシステムの管類に接続するために使用することができる。装置10Aのような酸素減損装置は、例えば、少なくとも流体接触部分が無菌状態にある(
図2Aに破線で概略的に示された)気密容器110aの中に設けることができる。管類、コネクタなどのような1個以上の他の処理又は他のコンポーネント120a(
図2Aに破線で概略的に示された)は、装置10a又は実施形態の他の酸素減損装置を含むキットとして設けることができる。
【0124】
上記説明及び添付図面は、現時点での複数の代表的な実施形態を示す。様々な変更、追加、及び、代替的な設計は、以上の説明ではなく以下の特許請求の範囲によって示される実施形態の範囲から逸脱することなく、以上の教示に鑑みて、当然に当業者に明白になる。特許請求の範囲の均等物の意義及び範囲に含まれるあらゆる変更及び変形は、実施形態の範囲に包含されることになる。