特許第5770205号(P5770205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770205高い発光特性と耐湿性とを示すケイ酸塩蛍光体及び発光装置
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  • 特許5770205-高い発光特性と耐湿性とを示すケイ酸塩蛍光体及び発光装置 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770205
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】高い発光特性と耐湿性とを示すケイ酸塩蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20150806BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20150806BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20150806BHJP
【FI】
   C09K11/59CPR
   C09K11/08 G
   C09K11/08 B
   H01L33/00 410
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-545762(P2012-545762)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2011076892
(87)【国際公開番号】WO2012070565
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-260256(P2010-260256)
(32)【優先日】2010年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-260257(P2010-260257)
(32)【優先日】2010年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-42279(P2011-42279)
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-221080(P2011-221080)
(32)【優先日】2011年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】天谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】野口 誠司
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 真樹
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−068343(JP,A)
【文献】 特開2008−007734(JP,A)
【文献】 特開2006−312654(JP,A)
【文献】 特表2007−535615(JP,A)
【文献】 特開2007−189239(JP,A)
【文献】 特開平10−125240(JP,A)
【文献】 特開2007−238814(JP,A)
【文献】 特表2002−539925(JP,A)
【文献】 特開2009−132916(JP,A)
【文献】 特開平06−158041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00−11/89
H01L33/00−33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式、但し、Aは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩青色発光蛍光体、(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式、但し、Bは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩緑色発光蛍光体、及び(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示されるケイ酸塩赤色発光蛍光体からなる群より選ばれるケイ酸塩蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体。
【請求項2】
上記混合物が、フッ化アンモニウムをケイ酸塩蛍光体100質量部に対して1〜10質量部の範囲の量にて含む請求項1に記載のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体。
【請求項3】
温度が60℃で、相対湿度が90%の環境下で720時間静置した後の波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度が、被覆層を持たない当該蛍光体の波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度に対して0.85〜1.5倍の範囲にある請求項1もしくは2に記載のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体。
【請求項4】
波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、該半導体発光素子からの発光で励起させると、それぞれ、青色光の発光、緑色光の発光、そして赤色光の発光を示す、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、そして赤色発光蛍光体が樹脂バインダ中に分散されてなる蛍光体含有樹脂組成物とを含む発光装置であって、青色発光蛍光体が、(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式、但し、Aは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体である発光装置
【請求項5】
上記緑色発光蛍光体が、(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式、但し、Bは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体である請求項4に記載の発光装置
【請求項6】
上記赤色発光蛍光体が、(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示されるケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体である請求項4もしくは5に記載の発光装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発光特性と耐湿性とを示すケイ酸塩蛍光体及びその製造方法に関する。本発明はさらに、その被覆ケイ酸塩蛍光体を可視光発光源として用いた発光装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
真空紫外光や紫外光などの光によって励起されると可視光を発光する蛍光体として、ケイ酸塩蛍光体が知られている。例えば、青色発光蛍光体としては、Sr3MgSi28:Euの組成式で示されるケイ酸塩蛍光体(以下、SMS青色発光蛍光体ともいう)が知られている。また、緑色発光蛍光体としては、(Ba,Sr)2SiO4:Euの組成式で示されるケイ酸塩蛍光体が知られている。さらに赤色発光蛍光体としてはBa3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示されるケイ酸塩蛍光体が知られている。
【0003】
真空紫外光や紫外光などの光を蛍光体に照射して、蛍光体を励起させることによって可視光を発光する発光装置としては、交流型プラズマディスプレイパネル(AC型PDP)、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)及び白色発光ダイオード(白色LED)などが知られている。
【0004】
AC型PDPは、Xeガスの放電により発生した真空紫外光を、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体にそれぞれ照射して、各蛍光体を励起させることにより発生した青色光、緑色光及び赤色光を組み合わせることによって画像を得る発光装置である。Xeガスの放電により起こる発光は、主にXeの共鳴線発光とXe2の分子線発光である。共鳴線発光では中心波長が146nm(147nmと記載されている文献もある)の真空紫外光が発生する。分子線発光では中心波長が172nm(173nmと記載されている文献もある)の真空紫外光が発生する。
【0005】
CCFLは、Hgガスの放電により発生した紫外光を、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体に照射して、各蛍光体を励起させることによって発生した青色光、緑色光及び赤色光の混色させることにより白色光を得る発光装置である。Hgガスの放電により発生する紫外光は、波長が254nmである。
【0006】
白色LEDとしては、電気エネルギーの付与によって青色光を発光する半導体発光素子と黄色発光蛍光体を樹脂バインダ中に分散した蛍光体含有樹脂組成物と組み合わせて、半導体発光素子からの青色光と、その青色光で黄色発光蛍光体を励起することによって発生した黄色光とを混色させることにより白色光を得る二色混色タイプのものが広く利用されている。しかしながら、この二色混色タイプの白色LEDが発する白色光は色純度が低いという問題がある。このため、最近では、電気エネルギーの付与によって波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体そして赤色発光蛍光体の三種類の蛍光体を、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂バインダ中に分散した蛍光体含有樹脂組成物とを組み合わせ、半導体発光素子からの光で、それぞれの蛍光体を励起することによって発生した青色光と緑色光及び赤色光の三色を混色させることにより白色光を得る三色混色タイプの白色LEDの開発が行なわれている。
【0007】
ケイ酸塩蛍光体は、水分との反応性が高く、水分との接触による発光強度の低下が大きいことが知られている。このため、白色LEDに用いるケイ酸塩蛍光体では、樹脂バインダを透過した空気中の水分によって発光強度が低下しないように、耐湿性を向上させることが要望されている。ケイ酸塩蛍光体の耐湿性を向上させる方法として、ケイ酸塩蛍光体の表面に被覆層を形成する方法が検討されている。
【0008】
特許文献1には、ケイ酸塩蛍光体の耐湿性を向上させる方法として、蛍光体の表面を金属酸化物マトリックス相に金属酸化物粒子を分散させて形成した防湿膜で被覆すること、防湿膜中の金属酸化物粒子に粒子径が2nmから1μmで、厚みが粒子径の1/5以下で且つ100nm以下の平板状粒子を用いることが記載されている。
【0009】
特許文献2には、水に敏感な無機粒子の耐湿性を改善する方法として、無機粒子とフッ化アンモニウムあるいは二フッ化アンモニウム粒子との混合物を、少なくても500℃の温度で加熱して、無機粒子の表面を湿気不浸透性の被覆層によって被覆することが記載されている。この特許文献2に記載の発明で、特に耐湿性の改善対象とする無機粒子はアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍燐光体である。また、特許文献2の明細書本文には、上記蛍燐光体と共に焼成されるフッ化アンモニウムの量は、約1:3から1:6の重量比範囲に変化できるとの記載がある。このフッ化アンモニウムの添加量は、蛍燐光体100質量部に対する量とすると16.7〜33.3質量部の範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−68792号公報
【特許文献2】特表2002−539925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されている、蛍光体の表面を微細な平板状粒子を分散させた防湿膜で被覆する方法は、防湿膜中の平板状粒子を均一に分散させるのが難しく、また平板状粒子が凝集粒子を形成すると、防湿膜の光の透過性が低下し、蛍光体の発光強度が低下するおそれがある。また、特許文献2に記載されている、無機粒子とフッ化アンモニウムとを含む混合物を加熱して無機粒子の表面を湿気不浸透性の被覆層で被覆する方法は、本発明者の検討によると、無機粒子がケイ酸塩蛍光体である場合には、蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを15質量部を超えて多量に添加すると、蛍光体の発光強度が被覆層を形成する前よりも発光強度が大きく低下することがあることが判明した。
従って、本発明の目的は、ケイ酸塩蛍光体が有する発光強度を低下させずに、ケイ酸塩蛍光体の耐湿性を向上させる技術を提供することにある。すなわち、本発明の目的は、発光強度が高く、耐湿性が高いケイ酸塩蛍光体及びその製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、長期間にわたって安定して高い発光強度を示す発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ケイ酸塩蛍光体100質量部に対して0.5〜15質量部のフッ化アンモニウムを添加した混合物を200〜600℃の温度にて加熱することよって、ケイ酸塩蛍光体が有する発光強度を大きく低下させずに、ケイ酸塩蛍光体の耐湿性を向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。ケイ酸塩蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理することによって、ケイ酸塩蛍光体の耐湿性が向上する理由は、フッ化アンモニウムを加熱することによって生成するフッ化アンモニウムの熱分解ガスとケイ酸塩蛍光体とが接触することにより、熱分解ガスに含まれるフッ素含有ガス(主にHFガス)とケイ酸塩蛍光体とが反応して、通常は厚さが30〜1500nmの範囲にあるフッ素含有化合物被覆層がケイ酸塩蛍光体の表面に全体的もしくは部分的に形成されるためであると考えられる。
【0013】
従って、本発明は、ケイ酸塩蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体にある。
【0014】
上記本発明のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体の好ましい態様は次の通りである。
(1)混合物が、フッ化アンモニウムをケイ酸塩蛍光体100質量部に対して1〜10質量部の範囲の量にて含む。
(2)ケイ酸塩蛍光体が、(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式、但し、Aは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩青色発光蛍光体、(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式、但し、Bは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩緑色発光蛍光体、及び(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示されるケイ酸塩赤色発光蛍光体からなる群より選ばれる蛍光体である。
(3)温度が60℃で、相対湿度が90%の環境下で720時間静置した後の波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度が、被覆層を持たない当該蛍光体の波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度に対して0.85〜1.5倍の範囲にある。
【0015】
本発明はまた、ケイ酸塩蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱するフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法にもある。混合物は、フッ化アンモニウムをケイ酸塩蛍光体100質量部に対して1〜10質量部の範囲の量にて含むことが好ましい。
【0016】
本発明はまた、表面に厚さが30〜1500nmの範囲にあるフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩蛍光体からなるフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体にもある。
【0017】
上記本発明のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体の好ましい態様は次の通りである。
(1)ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式、但し、Aは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩青色発光蛍光体であって、フッ素含有化合物被覆層の厚さが30〜150nmの範囲にある。
(2)ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式、但し、Bは付活元素を示す、で示されるケイ酸塩緑色発光蛍光体であって、フッ素含有化合物被覆層の厚さが100〜800nmの範囲にある。
(3)ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示されるケイ酸塩赤色発光蛍光体であって、フッ素含有化合物被覆層の厚さが30〜300nmの範囲にある。
【0018】
本発明はまた、波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、該半導体発光素子にて発生した光で励起させると、青色光の発光を示す青色発光蛍光体、緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体、そして赤色光の発光を示す赤色発光蛍光体がそれぞれ樹脂バインダ中に分散されてなる蛍光体含有樹脂組成物とを含む発光装置であって、少なくとも青色発光蛍光体が、ケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体である発光装置にもある。
【0019】
上記発光装置の好ましい態様は、次の通りである。
(1)緑色発光蛍光体も、ケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体である。
(2)赤色発光蛍光体も、ケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを0.5〜15質量部の範囲の量にて含む混合物を200〜600℃の温度にて加熱する方法によって得られたフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体である。
【0020】
本発明はさらに、波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、該半導体発光素子にて発生した光で励起させると、青色光の発光を示す青色発光蛍光体、緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体、そして赤色光の発光を示す赤色発光蛍光体がそれぞれ樹脂バインダ中に分散されてなる蛍光体含有樹脂組成物とを含む発光装置であって、少なくとも青色発光蛍光体が、表面に厚さが30〜1500nmの範囲にあるフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩青色発光蛍光体からなるフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体である発光装置にもある。
【0021】
上記発光装置の好ましい態様は、次の通りである。
(1)緑色発光蛍光体も、表面に厚さが30〜1500nmの範囲にあるフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩緑色発光蛍光体からなるフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体である。
(2)赤色発光蛍光体も、表面に厚さが30〜1500nmの範囲にあるフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩赤色発光蛍光体からなるフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩蛍光体は、被覆層を持たないケイ酸塩蛍光体と同等の発光強度を示し、高湿環境下に静置した後の発光強度の低下が少ない。従って、本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体は、蛍光体を樹脂バインダに分散させて利用する白色LEDのような発光装置の可視光発光源として有利に使用することができる。本発明のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体はまた、後述の実施例のデータから明らかなように、被覆層を持たないケイ酸塩蛍光体と比較して耐熱性が向上する。AC型PDPやCCFLなどの発光装置では、蛍光体は通常、基体の上に蛍光体層として配置されている。この蛍光体層は、蛍光体の分散液を基体に塗布し、次いでその塗布膜を乾燥した後、大気雰囲気下にて200〜600℃の温度で、特に300〜600℃の温度で焼成することにより形成するのが一般的である。この焼成により蛍光体層を形成する発光装置では、蛍光体層の形成時に、蛍光体が加熱されることによって蛍光体の発光特性が低下することがある。従って、高い耐熱性を有するフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体は、AC型PDPやCCFLなどの焼成により蛍光体層を形成する発光装置の可視光発光源としても有利に使用することができる。
【0023】
また、本発明の製造方法を利用することによって、耐熱性と耐湿性が向上したフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体を工業的に有利に製造することができる。さらに、本発明の発光装置は、可視光発光源であるケイ酸塩蛍光体が高い耐湿性を有するため、長期間にわたって安定して高い発光強度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に従う発光装置の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のフッ素含有化合物被覆ケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体と、そのケイ酸塩蛍光体の表面を被覆するフッ素含有化合物被覆層とを含む。ケイ酸塩蛍光体は、アルカリ土類金属を含むケイ酸塩蛍光体であることが好ましい。アルカリ土類金属を含むケイ酸塩蛍光体の例としては、(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式(但し、Aは付活元素を示す)で示される青色発光蛍光体、(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式(但し、Bは付活元素を示す)で示される緑色発光蛍光体、及び(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示される赤色発光蛍光体を挙げることができる。
【0026】
(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式で示される青色発光蛍光体において、Aで表される付活元素はEuを主成分として含むことが好ましい。Euの含有量は、蛍光体1モル当たりの含有量として0.001〜0.2モルの範囲にあることが好ましい。付活元素としてさらにSc、Y、Gd、Tb及びLaを含んでいてもよい。このケイ酸塩青色発光蛍光体は、Sr3MgSi28:Aの組成式で示されるSMS青色発光蛍光体または(Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式で示されるSMS青色発光蛍光体であることが好ましい。これらのSMS青色発光蛍光体は、一般にメルウィナイトの結晶構造を有する。
【0027】
Sr3MgSi28:Aの組成式で示されるSMS青色発光蛍光体は、Srを置換したCaやBaを実質的に含有しないものであることが好ましい。ここで、CaやBaを実質的に含有しないとは、Ca及びBaの含有量がSMS青色発光蛍光体1モル当たりの含有量として0.01モル以下であることを意味する。(Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式で示されるSMS青色発光蛍光体は、SrとCaの含有量のモル比(Sr:Ca)が、通常は1:0.10〜1:0.30の範囲、好ましくは1:0.13〜1:0.23の範囲である。
【0028】
(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式で示される緑色発光蛍光体において、Bで表される付活元素はEuを主成分として含むことが好ましい。付活元素としてさらにCr、Mn、Sm、Tm、Ybを含んでいてもよい。この蛍光体は、(Ba,Sr)2SiO4:Euの組成式で示される蛍光体であることが好ましい。
【0029】
(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示される赤色発光蛍光体は、Ba3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示される蛍光体であることが好ましい。
【0030】
本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体において、フッ素含有化合物被覆層は、フッ素を20原子%以上含む。フッ素含有化合物被覆層中のフッ素の含有量(原子%)は、フッ素含有化合物被覆層に含まれる全ての元素の原子数に対するフッ素の原子数の百分率を意味する。フッ素含有化合物被覆層に含まれるフッ素量の上限は、通常は90原子%である。
【0031】
フッ素含有化合物被覆層の厚さは、一般に30〜1500nmの範囲、好ましくは50〜1500nmの範囲、特に好ましくは100〜800nmの範囲である。ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Aの組成式で示される青色発光蛍光体である場合には、フッ素含有化合物被覆層の厚さは30〜150nmの範囲にあることが好ましい。ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Bの組成式で示される緑色発光蛍光体である場合は、フッ素含有化合物被覆層の厚さが100〜800nmの範囲にあることが好ましい。ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示される赤色発光蛍光体である場合は、フッ素含有化合物被覆層の厚さが30〜300nmの範囲にあることが好ましい。
【0032】
フッ素含有化合物被覆層は、ケイ酸塩蛍光体がアルカリ土類金属を含む場合には、アルカリ土類金属のフッ化物を含有することが好ましい。例えば、ケイ酸塩蛍光体がSMS青色発光蛍光体である場合には、フッ素含有化合物被覆層はSrF2を含有することが好ましい。ケイ酸塩蛍光体が(Ba,Sr)2SiO4:Euの組成式で示される緑色発光蛍光体の場合には、フッ素含有化合物被覆層は(Ba,Sr)F2を含有することが好ましい。ケイ酸塩蛍光体がBa3MgSi28:Eu,Mnの組成式で示される赤色発光蛍光体の場合には、フッ素含有化合物被覆層はBaF2を含有することが好ましい。
【0033】
フッ素含有化合物被覆層は、ケイ酸塩蛍光体とフッ化アンモニウムとを含む混合物を加熱する方法、すなわちケイ酸塩蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理する方法により形成することができる。混合物のフッ化アンモニウム含有量は、ケイ酸塩蛍光体100質量部に対する量として、一般に0.5〜15質量部の範囲の量、好ましくは1〜10質量部の範囲の量である。混合物の加熱温度は、一般に200〜600℃の範囲、好ましくは200〜500℃の範囲、より好ましくは200〜480℃の範囲、特に好ましくは300〜480℃の範囲である。混合物の加熱時間は、一般には1〜5時間の範囲にある。
【0034】
混合物の加熱処理は、大気雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、アルゴンガス雰囲気下のいずれかの雰囲気下で行なうことが好ましく、特に大気雰囲気下で行なうことが好ましい。混合物の加熱処理は、混合物を坩堝などの耐熱性容器に入れ、耐熱性容器に蓋をした状態で行なうことが好ましい。大気雰囲気下にて加熱処理を行なっても、フッ化アンモニウムの熱分解は比較的低温で起こるため、大気雰囲気下での加熱による発光強度の低下が起こる前に、蛍光体の表面がフッ化アンモニウムの熱分解ガスで処理されてフッ素含有化合物被覆層が形成されるため、発光強度は低下しない。
【0035】
本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体は、被覆層を持たないケイ酸塩蛍光体と比較して耐熱性とが向上する。ここで、耐湿性が向上しているとは、蛍光体を水分と接触させた後の発光特性(発光強度)の低下が起こりにくいことをいう。本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体は、温度が60℃で、相対湿度が90%の環境下で720時間静置した後の、波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度が、被覆層を持たない当該蛍光体(温度が60℃で、相対湿度が90%の環境下で720時間静置していない)の、波長400nmの光で励起させたときの可視光の発光ピーク強度に対して、通常は0.85〜1.5倍の範囲、好ましくは0.90〜1.5倍の範囲にある。
【0036】
本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体はまた、被覆層を持たないケイ酸塩蛍光体と比較して耐熱性も向上している。ここで、耐熱性が向上するとは、蛍光体を大気雰囲気下で加熱処理した後の発光特性(発光強度)の低下が改善されることをいう。大気雰囲気下にて、500℃の温度で加熱する処理を30分間行なった後の発光ピーク強度を、本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体と、被覆層を持たない当該蛍光体とを比較すると、本発明の被覆ケイ酸塩蛍光体の方が、一般に1.05倍以上、特に1.05〜2.00倍の範囲、また処理条件によっては1.10〜1.80倍の範囲で高い値を示す。
【0037】
次に、本発明のケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置について、添付図面の図1を参照しながら説明する。
【0038】
図1は、本発明に従う発光装置の一例の断面図である。図1に示す発光装置は三色混色タイプの白色LEDである。図1において、白色LEDは、基板1と、基板1の上に接着材2により固定された半導体発光素子3、基板1の上に形成された一対の電極4a、4b、半導体発光素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5b、半導体発光素子3を被覆する樹脂層6、樹脂層6の上に設けられた蛍光体含有樹脂組成物層7、そして樹脂層6と蛍光体含有樹脂組成物層7の周囲を覆う光反射材8、そして電極4a、4bと外部電源(図示せず)とを電気的に接続するための導電線9a、9bからなる。
【0039】
基板1は、高い絶縁性と高い熱導電性とを有していることが好ましい。基板1の例としては、アルミナや窒素アルミニウムなどのセラミックから形成された基板及び金属酸化物やガラスなどの無機物粒子を分散させた樹脂材料から形成された基板を挙げることができる。半導体発光素子3は、電気エネルギーの付与によって波長350〜430nmの光を発光するものであることが好ましい。半導体発光素子3の例としては、AlGaN系半導体発光素子を挙げることができる。
【0040】
樹脂層6は透明樹脂から成形される。樹脂層6を形成する透明樹脂材料の例としては、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂を挙げることができる。蛍光体含有樹脂組成物層7は、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、そして赤色発光蛍光体がそれぞれ樹脂バインダ中に分散された蛍光体含有樹脂組成物から形成される。青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体は、それぞれ上記のフッ素含有化合物被覆層を有するケイ酸塩蛍光体であることが好ましい。樹脂バインダは透明樹脂であり、その例としてはエポキシ樹脂及びシリコーン樹脂を挙げることができる。光反射材8は、蛍光体含有樹脂組成物層7にて発生した可視光を外部に向けて反射することによって可視光の発光効率を向上させる。光反射材8の形成材料の例としては、Al、Ni、Fe、Cr、Ti、Cu、Rh、Ag、Au、Ptなどの金属、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの白色金属化合物、及び白色顔料を分散させた樹脂材料を挙げることができる。
【0041】
図1の白色LEDにおいて、導電線9a、9bを介して電極4a、4bに電圧を印加すると、半導体発光素子3が発光して波長350〜430nmの範囲にピークを有する発光光が発生し、この発光光が蛍光体層7中の各色発光蛍光体を励起させることによって青色、緑色及び赤色の可視光が発生する。そして、それらの青色光、緑色光及び赤色光の混色により白色光が発生する。
【0042】
白色LEDは、例えば、次のようにして製造することができる。基板1に所定のパターンで電極4a、4bを形成する。次に、基板1の上に接着剤2により半導体発光素子3を固定した後、ワイヤボンディングなどの方法により、半導体発光素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5bを形成する。次に、半導体発光素子3の周囲に光反射材8を固定した後、半導体発光素子3の上に透明樹脂材料を流し込み、その透明樹脂材料を固化させて樹脂層6を形成する。そして、樹脂層6の上に蛍光体含有樹脂組成物を流し込み、その蛍光体含有樹脂組成物を固化させて、蛍光体含有樹脂組成物層7を形成する。
【0043】
白色LEDには、蛍光体含有樹脂組成物層7の代わりにガラスに蛍光体を分散させた蛍光体含有ガラス組成物層を用いたものも知られている。このガラスに分散させた蛍光体含有ガラス組成物にも、本発明のケイ酸塩蛍光体を使用することができる。また、白色LEDの可視光光源としてケイ酸塩以外の蛍光体を使用してもよい。ケイ酸塩以外の赤色発光蛍光体の例としては、Y22S:Eu2+、La23S:Eu2+、(Ca,Sr,Ba)2Si58:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、Eu229、(Ca,Sr,Ba)2Si58:Eu2+,Mn2+、CaTiO3:Pr3+,Bi3+、(La,Eu)2312を挙げることができる。ケイ酸塩以外の緑色発光蛍光体の例としては、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、α−SiAlON:Eu2+、β−SiAlON:Eu2+、ZnS:Cu,Alを挙げることができる。
【実施例】
【0044】
実施例及び比較例において、ケイ酸塩蛍光体の発光強度は下記の方法により測定した。
【0045】
[ケイ酸塩蛍光体の発光強度の測定方法]
ケイ酸塩蛍光体に、励起光を照射して発光スペクトルを測定する。得られた発光スペクトルの最大ピークの高さを求め、この高さを発光強度とする。励起光が波長146nmもしくは波長172nmの真空紫外光の場合は光源にエキシマランプを使用し、励起光が波長254nmもしくは波長400nmの紫外光の場合は光源にキセノンランプを使用する。
【0046】
[実施例1](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
(1)SMS青色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム粉末(純度:99.99質量%、平均粒子径:2.73μm)、酸化マグネシウム粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積:8m2/g)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化ストロンチウム粉末(純度:99.9質量%)を、SrCO3:MgO:SiO2:Eu23:SrCl2のモル比が2.845:1:2.000:0.015:0.125となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径は、いずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0047】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0048】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物はメルウィナイト結晶構造を有することが確認された。また、粉末焼成物に波長146nm、波長172nm、波長254nm及び波長400nmの光を照射したところ、青色の発光が確認された。これらの結果から、得られた粉末焼成物は、Sr2.97MgSi28:Eu2+0.03の組成式で表されるSMS青色発光蛍光体であることが確認された。得られたSMS青色発光蛍光体について、波長146nm、波長172nm、波長254nm及び波長400nmの光を励起光としたときの発光強度を上記の方法により測定した。以下、ここで測定した発光強度を初期発光強度という。
【0049】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したSMS青色発光蛍光体100質量部に対して0.5質量部のフッ化アンモニウムを加えて混合した。得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて400℃の温度で3時間加熱した後、室温まで放冷した。放冷後のSMS青色発光蛍光体について、AC型PDPで主に利用される波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。表1にその結果を示す。なお、表1に記載した発光強度は、(1)で測定した初期発光強度を100とした相対値である。
【0050】
(3)大気雰囲気下での加熱処理(耐熱性の評価)
上記(2)の加熱処理を行なったSMS青色発光蛍光体を、アルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気下にて、500℃で30分間加熱した後、室温まで放冷した。放冷後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を測定した。表1にその結果を示す。なお、表1に記載した発光強度は、(1)で測定した初期発光強度を100とした相対値である。
【0051】
[実施例2](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して5.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して10.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、(3)の大気雰囲気下での加熱処理を行なった。大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性の評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して20.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性の評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して30.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例1の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0057】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例1〜3)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例1)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長146nm励起と波長172nm励起のいずれにおいても高い発光強度を示す。また、比較例2、3の結果から、フッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後の波長146nm励起での発光強度が大きく低下することが分かる。
【0058】
[実施例4](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して1.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、CCFLで主に利用される波長254nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表2に示す。
【0059】
[実施例5](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して2.5質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと白色LEDで主に利用される波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0060】
[実施例6](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して4.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0061】
[実施例7](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して7.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0062】
[実施例8](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して10.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0063】
[比較例4](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、(3)の大気雰囲気下での加熱処理を行なった。大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0064】
【表2】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例4の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0065】
表2に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例4〜8)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例4)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長254nmの紫外光励起による発光強度が高い値を示す。
【0066】
【表3】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例4の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0067】
表3に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例5〜8)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例4)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長400nmの紫外光励起による発光強度が高い値を示す。
【0068】
[実施例9](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の吸湿による質量増加率)
前述の実施例2で得た、100質量部のSMS青色発光蛍光体に対して5.0質量部のフッ化アンモニウム存在下で加熱処理したSMS青色発光蛍光体を2g量り取り、温度30℃、相対湿度80%に調整した恒温恒湿槽内にて、24時間、48時間、72時間の各時間静置した。各時間静置後のSMS青色発光蛍光体について1000℃の温度で1時間加熱したときの質量減少率を測定した。得られた質量減少率から、恒温恒湿槽で静置する前のSMS青色発光蛍光体を1000℃の温度で1時間加熱したときの質量減少率を差し引いた値を吸湿率として算出した。その結果を表4に示す。
【0069】
[比較例5](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の吸湿による質量増加率)
実施例1(1)で製造したSMS青色発光蛍光体(フッ化アンモニウム処理なし)について、実施例9と同様にして、温度30℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽内にて24時間、48時間、72時間の各時間静置した後の質量減少率を測定し、吸湿率を算出した。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例9)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例5)と比較して吸湿による重量増加率が少ない。
【0072】
[実施例10](フッ素含有化合物被覆層の成分分析)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して2.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なった。加熱処理後のSMS青色発光蛍光体の表面を、TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、SMS青色発光蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。SMS青色発光蛍光体の表面の被覆層をEDS(UTW型エネルギー分散型X線装置、NORAN製)を用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして分析したところ、SrとFとが多く検出された。さらにSMS青色発光蛍光体のX線回折パターンを下記の条件にて測定したところ、SrF2に起因するピークが検出された。また、前述の比較例2で得た100質量部のSMS青色発光蛍光体に対して20.0質量部のフッ化アンモニウム存在下で加熱処理したSMS青色発光蛍光体についてX線回折パターンを測定すると、SrF2に起因するピークが検出された。これらの結果からフッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって、SMS青色発光蛍光体の表面のSrとフッ化アンモニウムの熱分解ガス中のFとが反応して、SrF2を含むフッ素含有化合物被覆層が形成されたと考えられる。
【0073】
[X線回折パターンの測定条件]
測定:連続測定
X線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット幅:1/2deg
散乱スリット幅:1/2deg
受光スリット幅:0.30mm
スキャンスピード:2deg/分
スキャンステップ:0.02deg
【0074】
[実施例11](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)(Sr,Ba)2SiO4:Eu緑色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム粉末(純度:99.99質量%、平均粒子径:2.73μm)、炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化ストロンチウム粉末(純度:99.9質量%)をSrCO3:BaCO3:SiO2:Eu23:SrCl2のモル比が、0.945:1:1.000:0.0200:0.015となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0075】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0076】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質である(Sr,Ba)2SiO4の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、緑色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はSr0.96BaSiO4:Eu2+0.04の組成式で表されるケイ酸塩緑色発光蛍光体であることが確認された。
【0077】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表5に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0078】
(3)フッ素含有化合物被覆層の厚さの測定
切断した蛍光体の表層部分の断面をTEMにて観察しながら、蛍光体の表層部分のフッ素濃度をEDSを用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして測定した。そして蛍光体の表面からフッ素濃度が20原子%以下になった部分までの長さを被覆層の厚さとして求めた。その結果を、表5に示す。
【0079】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(吸湿性の評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表5に示す。
【0080】
[比較例6](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例11の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩緑色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体の発光強度、被覆層の厚さ、そして高湿環境下での静置後の発光強度を実施例11と同様にして測定した。その結果を、表5に示す。
【0081】
[比較例7](ケイ酸塩緑色発光蛍光体の耐湿性評価)
実施例11(1)の(Sr,Ba)2SiO4:Eu緑色発光蛍光体の製造と同様にして製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例11と同様にして測定した。その結果を、表5に示す。
【0082】
【表5】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、ケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例7の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0083】
上記表5の結果から、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層が形成されたケイ酸塩緑色発光蛍光体(実施例11、比較例6)は、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後を行なっていないケイ酸塩緑色発光蛍光体(比較例7)と比較して、高湿環境下での静置後の発光強度が高い、すなわち耐湿性が高いことが分かる。また、被覆層の厚さが600nmのケイ酸塩緑色発光蛍光体(実施例11)は、被覆層の厚さが1600nmと厚いケイ酸塩緑色発光蛍光体(比較例7)と比較して約10%も発光強度が高いことが分かる。
【0084】
[実施例12](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造)
(1)Ba2SiO4:Eu緑色発光蛍光体の製造
炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化バリウム粉末(純度:99.9質量%)をBaCO3:SiO2:Eu23:BaCl2のモル比が、1.945:1:0.020:0.015となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0085】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0086】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質であるBa2SiO4の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、緑色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はBa1.96SiO4:Eu2+0.04の組成式で表されるケイ酸塩緑色発光蛍光体であることが確認された。
【0087】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理
上記(1)で製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度を100とした発光強度は98であり、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理の前後で発光強度はほぼ同じであった。
【0088】
[実施例13](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)Ba3MgSi28:Eu,Mn赤色発光蛍光体の製造
炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、酸化マグネシウム粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.2μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、塩化バリウム粉末(純度:99質量%)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、一酸化マンガン粉末(純度:99.9質量%)をBaCO3:BaCl2:MgO:SiO2:Eu23:MnOのモル比が、2.705:0.125:1:2.000:0.035:0.100となるようにそれぞれ秤量した。なお、酸化マグネシウム粉末を除く各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0089】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0090】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質であるBa3MgSi28の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、赤色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はBa2.830MgSi28:Eu2+0.070Mn2+0.100の組成式で表されるケイ酸塩赤色発光蛍光体であることが確認された。
【0091】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表6に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEMを用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0092】
(3)被覆層の厚さの測定
実施例11と同様にして、被覆層の厚さを測定した。その結果を表6に示す。
【0093】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(耐湿性の評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表6に示す。
【0094】
[比較例8](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例13の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩赤色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体の発光強度と高湿環境下での静置後の発光強度を実施例13と同様にして測定した。その結果を表6に示す。
【0095】
[比較例9](被覆層を持たないケイ酸塩赤色発光蛍光体の耐湿性評価)
実施例13(1)のBa3MgSi28:Eu,Mn赤色発光蛍光体の製造と同様にして製造した赤色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例13と同様にして測定した。その結果を表6に示す。
【0096】
【表6】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例9の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0097】
上記表6の結果から、ケイ酸塩赤色発光蛍光体についても、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層を形成することによって耐湿性が向上すること、またフッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、蛍光体の発光強度が低下することが分かる。
【0098】
[実施例14]
実施例13の(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、加熱温度を400℃としたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩赤色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体の発光強度を実施例13と同様に測定したところ、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度を100とした発光強度は110であった。
【0099】
[実施例15](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)Sr3MgSi28:Eu,Y青色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末(純度:99.7質量%、平均粒子径:0.9μm)、塩化ストロンチウム六水和物(SrCl2・6H2O)粉末(純度:99質量%)、酸化ユウロピウム(Eu23)粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.7μm)、酸化スカンジウム(Sc23)粉末(純度:99.9質量%)、酸化マグネシウム(MgO)粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.2μm)、二酸化ケイ素(SiO2)粉末(純度:99.9質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.01μm)を、SrCO3:SrCl2・6H2O:Eu23:Sc23:MgO:SiO2のモル比が2.800:0.125:0.035:0.0025:1:2.000となるようにそれぞれ秤量した。秤量した各原料粉末を、水中にてボールミルを用いて15時間湿式混合して原料粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの原料粉末混合物を得た。得られた原料粉末混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて800℃の温度で3時間焼成し、次いで、室温まで放冷した後、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて1200℃の温度で3時間焼成して、Sr2.925MgSi28:Eu2+0.0702+0.005の一般式で表されるケイ酸塩青色発光蛍光体を製造した。なお、酸化マグネシウム粉末を除く各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0100】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表7に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後の緑色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEMを用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0101】
(3)被覆層の厚さの測定
実施例11と同様にして、被覆層の厚さを測定した。その結果を表7に示す。
【0102】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(耐湿性評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表7に示す。
【0103】
[比較例10](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例15の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例15と同様にして、緑色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体の発光強度と高湿環境下での静置後の発光強度を実施例15と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0104】
[比較例11](被覆層を持たないケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例15(1)のSr3MgSi28:Eu,Y青色発光蛍光体の製造と同様にして製造した緑色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例15と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0105】
【表7】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例11の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0106】
上記表7の結果から、ケイ酸塩青色発光蛍光体についても、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層を形成することによって耐湿性が向上すること、フッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、また蛍光体の発光強度が低下することが分かる。
【符号の説明】
【0107】
1 基板
2 接着材
3 半導体発光素子
4a、4b 電極
5a、5b リード線
6 樹脂層
7 蛍光体層
8 光反射材
9a、9b 導電線
図1