【実施例】
【0044】
実施例及び比較例において、ケイ酸塩蛍光体の発光強度は下記の方法により測定した。
【0045】
[ケイ酸塩蛍光体の発光強度の測定方法]
ケイ酸塩蛍光体に、励起光を照射して発光スペクトルを測定する。得られた発光スペクトルの最大ピークの高さを求め、この高さを発光強度とする。励起光が波長146nmもしくは波長172nmの真空紫外光の場合は光源にエキシマランプを使用し、励起光が波長254nmもしくは波長400nmの紫外光の場合は光源にキセノンランプを使用する。
【0046】
[実施例1](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
(1)SMS青色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム粉末(純度:99.99質量%、平均粒子径:2.73μm)、酸化マグネシウム粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積:8m
2/g)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化ストロンチウム粉末(純度:99.9質量%)を、SrCO
3:MgO:SiO
2:Eu
2O
3:SrCl
2のモル比が2.845:1:2.000:0.015:0.125となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径は、いずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0047】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0048】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物はメルウィナイト結晶構造を有することが確認された。また、粉末焼成物に波長146nm、波長172nm、波長254nm及び波長400nmの光を照射したところ、青色の発光が確認された。これらの結果から、得られた粉末焼成物は、Sr
2.97MgSi
2O
8:Eu
2+0.03の組成式で表されるSMS青色発光蛍光体であることが確認された。得られたSMS青色発光蛍光体について、波長146nm、波長172nm、波長254nm及び波長400nmの光を励起光としたときの発光強度を上記の方法により測定した。以下、ここで測定した発光強度を初期発光強度という。
【0049】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したSMS青色発光蛍光体100質量部に対して0.5質量部のフッ化アンモニウムを加えて混合した。得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて400℃の温度で3時間加熱した後、室温まで放冷した。放冷後のSMS青色発光蛍光体について、AC型PDPで主に利用される波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。表1にその結果を示す。なお、表1に記載した発光強度は、(1)で測定した初期発光強度を100とした相対値である。
【0050】
(3)大気雰囲気下での加熱処理(耐熱性の評価)
上記(2)の加熱処理を行なったSMS青色発光蛍光体を、アルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気下にて、500℃で30分間加熱した後、室温まで放冷した。放冷後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を測定した。表1にその結果を示す。なお、表1に記載した発光強度は、(1)で測定した初期発光強度を100とした相対値である。
【0051】
[実施例2](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して5.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して10.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、(3)の大気雰囲気下での加熱処理を行なった。大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性の評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して20.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性の評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して30.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長146nmと波長172nmの真空紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例1の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0057】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例1〜3)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例1)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長146nm励起と波長172nm励起のいずれにおいても高い発光強度を示す。また、比較例2、3の結果から、フッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後の波長146nm励起での発光強度が大きく低下することが分かる。
【0058】
[実施例4](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して1.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、CCFLで主に利用される波長254nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表2に示す。
【0059】
[実施例5](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して2.5質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと白色LEDで主に利用される波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0060】
[実施例6](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して4.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0061】
[実施例7](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して7.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0062】
[実施例8](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の製造と耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して10.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にして、(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理と(3)の大気雰囲気下での加熱処理とを行なった。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後と、大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0063】
[比較例4](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の耐熱性評価)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、(3)の大気雰囲気下での加熱処理を行なった。大気雰囲気下での加熱処理後のSMS青色発光蛍光体について、波長254nmと波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表2と3に示す。
【0064】
【表2】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例4の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0065】
表2に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例4〜8)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例4)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長254nmの紫外光励起による発光強度が高い値を示す。
【0066】
【表3】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、SMS青色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例4の括弧内の発光強度は、大気雰囲気下での加熱処理前の発光強度である。
【0067】
表3に示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例5〜8)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例4)と比較して、大気雰囲気下での加熱処理後の波長400nmの紫外光励起による発光強度が高い値を示す。
【0068】
[実施例9](フッ素含有化合物被覆SMS青色発光蛍光体の吸湿による質量増加率)
前述の実施例2で得た、100質量部のSMS青色発光蛍光体に対して5.0質量部のフッ化アンモニウム存在下で加熱処理したSMS青色発光蛍光体を2g量り取り、温度30℃、相対湿度80%に調整した恒温恒湿槽内にて、24時間、48時間、72時間の各時間静置した。各時間静置後のSMS青色発光蛍光体について1000℃の温度で1時間加熱したときの質量減少率を測定した。得られた質量減少率から、恒温恒湿槽で静置する前のSMS青色発光蛍光体を1000℃の温度で1時間加熱したときの質量減少率を差し引いた値を吸湿率として算出した。その結果を表4に示す。
【0069】
[比較例5](被覆層を持たないSMS青色発光蛍光体の吸湿による質量増加率)
実施例1(1)で製造したSMS青色発光蛍光体(フッ化アンモニウム処理なし)について、実施例9と同様にして、温度30℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽内にて24時間、48時間、72時間の各時間静置した後の質量減少率を測定し、吸湿率を算出した。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4示す結果から明らかなように、本発明に従って、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理による表面処理を施したSMS青色発光蛍光体(実施例9)は、表面処理を施していないSMS青色発光蛍光体(比較例5)と比較して吸湿による重量増加率が少ない。
【0072】
[実施例10](フッ素含有化合物被覆層の成分分析)
実施例1(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをSMS青色発光蛍光体100質量部に対して2.0質量部加えたこと以外は、実施例1と同様にしてフッ化アンモニウム存在下での加熱処理を行なった。加熱処理後のSMS青色発光蛍光体の表面を、TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、SMS青色発光蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。SMS青色発光蛍光体の表面の被覆層をEDS(UTW型エネルギー分散型X線装置、NORAN製)を用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして分析したところ、SrとFとが多く検出された。さらにSMS青色発光蛍光体のX線回折パターンを下記の条件にて測定したところ、SrF
2に起因するピークが検出された。また、前述の比較例2で得た100質量部のSMS青色発光蛍光体に対して20.0質量部のフッ化アンモニウム存在下で加熱処理したSMS青色発光蛍光体についてX線回折パターンを測定すると、SrF
2に起因するピークが検出された。これらの結果からフッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって、SMS青色発光蛍光体の表面のSrとフッ化アンモニウムの熱分解ガス中のFとが反応して、SrF
2を含むフッ素含有化合物被覆層が形成されたと考えられる。
【0073】
[X線回折パターンの測定条件]
測定:連続測定
X線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット幅:1/2deg
散乱スリット幅:1/2deg
受光スリット幅:0.30mm
スキャンスピード:2deg/分
スキャンステップ:0.02deg
【0074】
[実施例11](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)(Sr,Ba)
2SiO
4:Eu緑色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム粉末(純度:99.99質量%、平均粒子径:2.73μm)、炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化ストロンチウム粉末(純度:99.9質量%)をSrCO
3:BaCO
3:SiO
2:Eu
2O
3:SrCl
2のモル比が、0.945:1:1.000:0.0200:0.015となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0075】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0076】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質である(Sr,Ba)
2SiO
4の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、緑色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はSr
0.96BaSiO
4:Eu
2+0.04の組成式で表されるケイ酸塩緑色発光蛍光体であることが確認された。
【0077】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表5に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0078】
(3)フッ素含有化合物被覆層の厚さの測定
切断した蛍光体の表層部分の断面をTEMにて観察しながら、蛍光体の表層部分のフッ素濃度をEDSを用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして測定した。そして蛍光体の表面からフッ素濃度が20原子%以下になった部分までの長さを被覆層の厚さとして求めた。その結果を、表5に示す。
【0079】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(吸湿性の評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を、表5に示す。
【0080】
[比較例6](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例11の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩緑色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体の発光強度、被覆層の厚さ、そして高湿環境下での静置後の発光強度を実施例11と同様にして測定した。その結果を、表5に示す。
【0081】
[比較例7](ケイ酸塩緑色発光蛍光体の耐湿性評価)
実施例11(1)の(Sr,Ba)
2SiO
4:Eu緑色発光蛍光体の製造と同様にして製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例11と同様にして測定した。その結果を、表5に示す。
【0082】
【表5】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、ケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例7の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0083】
上記表5の結果から、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層が形成されたケイ酸塩緑色発光蛍光体(実施例11、比較例6)は、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後を行なっていないケイ酸塩緑色発光蛍光体(比較例7)と比較して、高湿環境下での静置後の発光強度が高い、すなわち耐湿性が高いことが分かる。また、被覆層の厚さが600nmのケイ酸塩緑色発光蛍光体(実施例11)は、被覆層の厚さが1600nmと厚いケイ酸塩緑色発光蛍光体(比較例7)と比較して約10%も発光強度が高いことが分かる。
【0084】
[実施例12](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩緑色発光蛍光体の製造)
(1)Ba
2SiO
4:Eu緑色発光蛍光体の製造
炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、塩化バリウム粉末(純度:99.9質量%)をBaCO
3:SiO
2:Eu
2O
3:BaCl
2のモル比が、1.945:1:0.020:0.015となるようにそれぞれ秤量した。なお、各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0085】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0086】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質であるBa
2SiO
4の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、緑色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はBa
1.96SiO
4:Eu
2+0.04の組成式で表されるケイ酸塩緑色発光蛍光体であることが確認された。
【0087】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理
上記(1)で製造したケイ酸塩緑色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩緑色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度を100とした発光強度は98であり、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理の前後で発光強度はほぼ同じであった。
【0088】
[実施例13](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)Ba
3MgSi
2O
8:Eu,Mn赤色発光蛍光体の製造
炭酸バリウム粉末(純度:99.8質量%、平均粒子径:1.26μm)、酸化マグネシウム粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.2μm)、二酸化ケイ素粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:3.87μm)、塩化バリウム粉末(純度:99質量%)、酸化ユウロピウム粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.71μm)、一酸化マンガン粉末(純度:99.9質量%)をBaCO
3:BaCl
2:MgO:SiO
2:Eu
2O
3:MnOのモル比が、2.705:0.125:1:2.000:0.035:0.100となるようにそれぞれ秤量した。なお、酸化マグネシウム粉末を除く各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0089】
秤量した各原料粉末を、純水と共にボールミルに投入して、24時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた粉末混合物を水で洗浄し、乾燥した。得られた乾燥粉末混合物を、アルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて、800℃の温度で3時間焼成した後、室温まで放冷した。次いで、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて、1200℃の温度で6時間焼成した後、室温まで放冷して粉末焼成物を得た。得られた粉末焼成物を水で洗浄し、乾燥した。
【0090】
乾燥後の粉末焼成物のX線回折パターンを測定した結果、粉末焼成物は目的物質であるBa
3MgSi
2O
8の結晶構造を有することが確認された。さらに、粉末焼成物に波長400nmの紫外線を照射した結果、赤色の発光が確認された。これらの結果から、粉末焼成物はBa
2.830MgSi
2O
8:Eu
2+0.070Mn
2+0.100の組成式で表されるケイ酸塩赤色発光蛍光体であることが確認された。
【0091】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表6に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEMを用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0092】
(3)被覆層の厚さの測定
実施例11と同様にして、被覆層の厚さを測定した。その結果を表6に示す。
【0093】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(耐湿性の評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩赤色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表6に示す。
【0094】
[比較例8](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩赤色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例13の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩赤色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩赤色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体の発光強度と高湿環境下での静置後の発光強度を実施例13と同様にして測定した。その結果を表6に示す。
【0095】
[比較例9](被覆層を持たないケイ酸塩赤色発光蛍光体の耐湿性評価)
実施例13(1)のBa
3MgSi
2O
8:Eu,Mn赤色発光蛍光体の製造と同様にして製造した赤色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例13と同様にして測定した。その結果を表6に示す。
【0096】
【表6】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例9の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0097】
上記表6の結果から、ケイ酸塩赤色発光蛍光体についても、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層を形成することによって耐湿性が向上すること、またフッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、蛍光体の発光強度が低下することが分かる。
【0098】
[実施例14]
実施例13の(2)のフッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、加熱温度を400℃としたこと以外は、実施例13と同様にして、ケイ酸塩赤色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩赤色発光蛍光体の発光強度を実施例13と同様に測定したところ、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度を100とした発光強度は110であった。
【0099】
[実施例15](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
(1)Sr
3MgSi
2O
8:Eu,Y青色発光蛍光体の製造
炭酸ストロンチウム(SrCO
3)粉末(純度:99.7質量%、平均粒子径:0.9μm)、塩化ストロンチウム六水和物(SrCl
2・6H
2O)粉末(純度:99質量%)、酸化ユウロピウム(Eu
2O
3)粉末(純度:99.9質量%、平均粒子径:2.7μm)、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)粉末(純度:99.9質量%)、酸化マグネシウム(MgO)粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.2μm)、二酸化ケイ素(SiO
2)粉末(純度:99.9質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.01μm)を、SrCO
3:SrCl
2・6H
2O:Eu
2O
3:Sc
2O
3:MgO:SiO
2のモル比が2.800:0.125:0.035:0.0025:1:2.000となるようにそれぞれ秤量した。秤量した各原料粉末を、水中にてボールミルを用いて15時間湿式混合して原料粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの原料粉末混合物を得た。得られた原料粉末混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気雰囲気下にて800℃の温度で3時間焼成し、次いで、室温まで放冷した後、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて1200℃の温度で3時間焼成して、Sr
2.925MgSi
2O
8:Eu
2+0.070Y
2+0.005の一般式で表されるケイ酸塩青色発光蛍光体を製造した。なお、酸化マグネシウム粉末を除く各原料粉末の平均粒子径はいずれもレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0100】
(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理(フッ素含有化合物被覆層の形成)
上記(1)で製造したケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対してフッ化アンモニウムを5質量部加えて混合して、粉末混合物を得た。得られた粉末混合物をアルミナ坩堝に入れ、アルミナ坩堝に蓋をして、大気雰囲気下にて500℃の温度で6時間加熱した後、室温まで放冷した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表7に示す。また、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後の緑色発光蛍光体について、蛍光体を切断し、蛍光体の表層部分の断面をTEMを用いて観察したところ、蛍光体の表面に被覆層が形成されていることが確認された。
【0101】
(3)被覆層の厚さの測定
実施例11と同様にして、被覆層の厚さを測定した。その結果を表7に示す。
【0102】
(4)高湿環境下での静置後の発光強度の測定(耐湿性評価)
フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、温度60℃、相対湿度90%に調整した恒温恒湿槽内にて720時間静置した。静置後のケイ酸塩青色発光蛍光体について、波長400nmの紫外光励起による発光強度を上記の方法により測定した。その結果を表7に示す。
【0103】
[比較例10](フッ素含有化合物被覆ケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例15の(2)フッ化アンモニウム存在下での加熱処理において、フッ化アンモニウムをケイ酸塩青色発光蛍光体100質量部に対して20質量部加えたこと以外は、実施例15と同様にして、緑色発光蛍光体をフッ化アンモニウム存在下で加熱処理した。フッ化アンモニウム存在下での加熱処理後のケイ酸塩青色発光蛍光体の発光強度と高湿環境下での静置後の発光強度を実施例15と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0104】
[比較例11](被覆層を持たないケイ酸塩青色発光蛍光体の製造と耐湿性評価)
実施例15(1)のSr
3MgSi
2O
8:Eu,Y青色発光蛍光体の製造と同様にして製造した緑色発光蛍光体について、高湿環境下での静置後の発光強度を実施例15と同様にして測定した。その結果を表7に示す。
【0105】
【表7】
注1)フッ化アンモニウムの添加量は、緑色発光蛍光体100質量部に対する相対量である。
注2)発光強度は、初期発光強度(フッ化アンモニウム存在下での加熱処理前の発光強度)を100とした相対値である。なお、比較例11の括弧内の発光強度は、高湿環境下静置前の発光強度である。
【0106】
上記表7の結果から、ケイ酸塩青色発光蛍光体についても、フッ化アンモニウム存在下での加熱処理によって被覆層を形成することによって耐湿性が向上すること、フッ化アンモニウムの添加量が多くなりすぎると、また蛍光体の発光強度が低下することが分かる。