(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面を用いて説明する。
(実施の形態1)
本実施形態の薬剤注入装置は、
図1、
図2に示すように、ほぼ円筒形状の本体ケース2と、薬剤シリンジ装着部3と、薬剤シリンジ4と、ピストン5と、駆動機構6と、制御部7と、姿勢検出センサ8とを備えている。本体ケース2は、先端側に注射針出没開口部1を有している。薬剤シリンジ装着部3は、本体ケース2内に設けられている。薬剤シリンジ4は、薬剤シリンジ装着部3内に装着されている。ピストン5は、薬剤シリンジ4に対して可動自在に設けられている。駆動機構6は、ピストン5を駆動する。制御部7は、駆動機構6に電気的に接続されている。姿勢検出センサ8は、制御部7に電気的に接続されている。
【0012】
なお、姿勢検出センサ8は、制御部7を有する基板7a上に装着されている。そして、基板7aがピストン5の駆動方向に対して平行かつピストンの移動軸47に沿うように設置されることで、薬剤注入装置の姿勢を適切に検知することができる。
【0013】
また、駆動機構6は、ピストン5の後端開口部内に挿入されたボルト9と、ボルト9を駆動するためのピストン駆動モータ10とによって構成されている。すなわち、ピストン駆動モータ10を一方向に回転させると、ボルト9の回転によってピストン5が注射針出没開口部1方向に押し出される。逆に、ピストン駆動モータ10を逆方向に回転させると、ピストン5がピストン駆動モータ10方向に引き戻される。
【0014】
ピストン駆動モータ10およびピストン5は、薬剤シリンジ4とともに、薬剤シリンジ装着部3内に配置されている。薬剤シリンジ装着部3の後端側外方側には、雌ネジ11が設けられている。雌ネジ11には、穿刺・抜針駆動モータ12のボルト13が螺合している。穿刺・抜針駆動モータ12を駆動すると、雌ネジ11とボルト13との螺合によって、薬剤シリンジ装着部3が注射針出没開口部1に対して前後に移動する。これにより、注射針出没開口部1から薬剤シリンジ4の先端側に設けられた注射針14を出没させることができる。
【0015】
薬剤シリンジ4は、
図9(a)に示すように、円筒状のシリンダ15と、先端パッキン16と、押込みパッキン17と、分離パッキン18と、固体剤19と、液剤20と、バイパス路21と、を有している。先端パッキン16は、シリンダ15内の先端側に設けられている。押込みパッキン17は、シリンダ15内における後端側に設けられている。分離パッキン18は、シリンダ15内における中部内に設けられている。固体剤19は、先端パッキン16と分離パッキン18との間のシリンダ15内に収納されている。液剤20は、押込みパッキン17と分離パッキン18との間のシリンダ15内に収納されている。バイパス路21は、先端パッキン16と分離パッキン18との間のシリンダ15部分において、シリンダ15の外周方向に突出している。
【0016】
制御部7は、姿勢検出センサ8による姿勢位置検出後、駆動機構6によってピストン5で押込みパッキン17を先端パッキン16側に押圧する。
また、ピストン5による押込みパッキン17の押し込み速度は、分離パッキン18がバイパス路21に到達するまでの押し込み速度をV1、分離パッキン18がバイパス路21を通過する時の押し込み速度をV2、分離パッキン18がバイパス路21を通過した後の空気抜き時の押し込み速度をV3、空気抜き後の薬剤注入時の押し込み速度をV4とすると、押し込み速度V2は押し込み速度V1より遅くなるように設定されている。
【0017】
本体ケース2は、収納部22とその先端側の先端キャップ23とによって構成されている。先端キャップ23は、収納部22に対して着脱自在となっている。先端キャップ23の外周部には、製剤の容量を確認するための確認窓24が設けられている。
【0018】
薬剤シリンジ装着部3内へ薬剤シリンジ4が装着された後、薬剤シリンジ4の外周にはシリンジカバー25が被せられた状態となる。そして、薬剤シリンジ4の先端側において、シリンジカバー25の上から注射針14が先端パッキン16に装着されている。
【0019】
ピストン5が押込みパッキン17を前方側に押すことで、液剤20がバイパス路21を通じて固体剤19側へと流れ込む。そして、押込みパッキン17を前方側に進めることで、注射針14から固体剤19と液剤20とが混合した薬剤が流出する。
【0020】
ピストン駆動モータ10の回転は、エンコーダ26により検出される。これにより、ピストン5の出没量が検出される。なお、薬剤シリンジ4内部に収納されている固体剤19と液剤20とは、製薬会社などの薬剤の製造元で充填されている。
【0021】
本体ケース2の収納部22には、検出スイッチが収納されている。具体的には、収納部22の先端側において、薬剤シリンジ装着部3の外周に設けた操作桿27の後端には、先端キャップ検出スイッチ28が配置されている。これにより、収納部22の先端に先端キャップ23が装着されると、操作桿27が後方へと押され、先端キャップ検出スイッチ28によって先端キャップ23の装着の有無が検出される。
【0022】
薬剤シリンジ装着部3内には、操作桿29が配置されている。操作桿29がシリンジカバー25で後方に押されると、シリンジカバー検出スイッチ30によってシリンジカバー25の装着の有無が検出される。
【0023】
なお、本実施形態では、基板7aがピストン5の駆動方向に対して平行に設置されているが、ピストン5の駆動方向に対して垂直な方向に沿って設置されていてもよい。
本体ケース2の収納部22外周には、操作ボタンが設けられている。具体的には、電源ボタン31は、収納部22の後端に設けられている。混合ボタン32と薬剤注入ボタン33と完了ボタン34とは、表示部35周辺の収納部22の外周に設けられている。
【0024】
図3は、電気的構成を概略的に示すブロック図を示している。
制御部7は、マイクロプロセッサおよび電気的駆動部品によって構成されている。制御部7および他の電気的駆動部品には、
図3に示す充電式電池36から電気が供給される。
【0025】
制御部7のマイクロプロセッサには、中央演算部37が設けられており、中央演算部37が命令を出して動作制御が行われ、各種プログラムはROM38内に書き込まれている。また、マイクロプロセッサには、姿勢検知部39、ピストン移動距離検知部40、モータ回転制御部41が含まれる。
【0026】
姿勢検知部39は、姿勢判定部39aと姿勢検出センサ8とに接続されており、姿勢検出センサ8からの姿勢検知結果を姿勢判定部39aにおいて姿勢判定するための情報に変換する。
【0027】
姿勢判定部39aでは、姿勢検知部39から得られる姿勢情報を用いて、姿勢検出センサ8で検出した傾きと設定値とを比較し、ピストン駆動モータ10を駆動させるか否かを判定するなど、薬剤注入装置の姿勢に応じた動作制御を行う。
【0028】
ピストン移動距離検知部40は、エンコーダ26に接続されており、ピストン駆動モータ10の回転を検知してピストン5の移動距離を検出する。
モータ回転制御部41は、モータドライブ回路42に接続されており、ピストン移動距離検知部40で検出した値が設定値に達したとき、モータドライブ回路42を制御してピストン5の移動速度を制御する。
【0029】
ピストン駆動モータ10と穿刺・抜針駆動モータ12とは、モータドライブ回路42に接続されている。モータドライブ回路42は、過電流検知回路43に接続されている。
モータドライブ回路42は、モータ回転制御部41によって制御されており、ピストン駆動モータ10と穿刺・抜針駆動モータ12とを駆動する。
【0030】
過電流検知回路43は、モータドライブ回路42からの電流量を検知する回路であって、モータの異常を検知する。
さらに、制御部7は、本体の状態状況をユーザへ伝達するため、警報を発するためのサウンダー44とバイブレータ45とに接続されている。また、制御部7は、本体を操作するための情報および警告を表示する表示部35、各種データを記録するためのメモリ46に接続されている。
【0031】
次に、
図4に示す動作フローチャートを用いて薬剤注入装置の動作制御の説明を行う。
図4に示すように、まず、S1では、混合ボタン32(
図1参照)が押下される。
次に、S2では、シリンジカバー検出スイッチ30によって、シリンジカバー25が装着されているか否かの検知を行う。ここで、シリンジカバー25が未装着の場合は、S3において、表示部35(
図1参照)において「シリンジカバーを装着してください。」との装着を促す警告表示を行う。
【0032】
一方、S2において、シリンジカバー検出スイッチ30によってシリンジカバー25の装着が検知されると、S4において、先端キャップ検出スイッチ28によって、先端キャップ23が装着されているか否かの検知を行う。ここで、先端キャップ23が未装着の場合は、S5において、表示部35において「先端キャップを装着してください。」との装着を促す警告表示を行う。
【0033】
すなわち、本実施形態では、S2,S4において、シリンジカバー25と先端キャップ23とがともに未装着の場合には、以降の動作に進めないようになっている。
シリンジカバー25および先端キャップ23の装着を検知すると、S6において、所定時間の間、表示部35において「先端を上に向けてください。」との表示を行う。
【0034】
S7では、姿勢検出センサ8において、薬剤注入装置の傾きの検出を行う。
以降、傾きの定義は、先端キャップ23を水平面に対して垂直上方向になるように配置した状態で、垂直上方向を0度として説明する。ここで、傾きが設定値を超えると、設定値以内になるまで動作を停止させ、傾きが所定時間、設定値以内であれば動作を再開させる。注射針14からの液漏れを考慮すると、動作を継続させることが可能な傾きの値は30度から45度が望ましい。なお、本実施形態では、30度を閾値として設定している。
【0035】
S7以降の動作時には、
図7に示すように、分離パッキン18の後端位置が、位置L1から位置L3までの区間(
図8参照)は、姿勢検出センサ8によって傾きの検知を続ける(
図7のS26)。そして、本体ケース2の傾きが30度を越えると(
図7のS27)、ピストン駆動モータ10を停止させて(
図7のS28)、表示部35において「本体ケースが傾き過ぎているため、動作を停止します。(
図7のS29)」、「先端を上に向けてください。(
図7のS30)」と警告表示を行う。これにより、ユーザに本体ケース2の傾きが30度以下になるように促すことができる。
【0036】
図7に示すS31では、S30とのループにより、本体ケース2の傾きが30度を越えたことを確認し、傾きが30度以下であることを検知したら、S32では、停止前の動作を再び開始した後、
図4のS8に戻り、傾きの検出を続ける。
【0037】
図4のS8では、
図9(a)に示すように混合動作前の初期状態から、ピストン駆動モータ10を押し込み速度V1で駆動させ、
図4のS9において、ピストン5の駆動中は、エンコーダ26によってピストン5の移動距離が算出される。
【0038】
次に、S10では、分離パッキン18の後端が、
図9(b)の初期位置L0から位置L1に到達するまで、ピストン駆動モータ10を押し込み速度V1で駆動させる。位置L1は、
図9(b)に示すように、分離パッキン18の後端がバイパス路21に接触する位置を示している。位置L1の位置情報は、メモリ46に設定されている。
【0039】
分離パッキン18の後端が位置L1に達すると、混合動作が開始され、
図5のS11において、ピストン駆動モータ10による分離パッキンの押し込み速度はV2になり、押し込み速度V1より遅くなる(V2<V1)。
【0040】
図9(c)では、分離パッキン18の後端がバイパス路21を通過し始めると、液剤20が、バイパス路21を経て、固体剤19側に流れ始める。
S12では、分離パッキン18の先端が、
図9(d)の位置L2に達するまで、つまり、分離パッキン18の後端が押込みパッキン17と接触時の位置(混合動作完了時)に達するまで、ピストン駆動モータ10を押し込み速度V2で駆動させる。なお、位置L2の位置情報は、メモリ46に設定されている。
【0041】
本実施形態では、ピストン駆動モータ10による分離パッキン18の押し込み速度V2を、押し込み速度V1より遅くすることで、液剤20がバイパス路21を通る際において、固体剤19側の圧力が急激に高まるのを抑制することができる。この結果、シリンダ15の先端パッキン16に装着された注射針14の先端から液剤の一部が勢いよく噴出したり、必要以上に溢れ出したりするのを防止することができる。よって、薬剤混合時において、先端パッキン側からの液漏れを低減することができる。
【0042】
分離パッキン18の先端位置が、
図9(d)に示すように、位置L2に達すると、
図5のS13に示すように、表示部35において「装置を軽くふった後、先端を上に向けて完了ボタンを押してください。」と表示させ、ピストン駆動モータ10の動作を一旦停止する。
【0043】
次に、
図5のS14では、完了ボタン34が押されると、空気抜きの動作が開始され、姿勢検出センサ8によって傾きの検知を行いながら、ピストン駆動モータ10による分離パッキン18の押し込み速度V3を、押し込み速度V1より遅くなるようにする(V3<V1)。より好ましくは、押し込み速度V3は、押し込み速度V2より遅くなるようにする(V3<V2)。
【0044】
ここでは、注射針14の先端からの液漏れが最も生じやすいため、ピストン5を動かすスピードをさらに遅くする(
図5のS15)ことで、できるだけ注射針14の先端からの液漏れを防止する。
【0045】
図5のS16では、分離パッキン18の先端位置が位置L3に達するまで、ピストン駆動モータ10を押し込み速度V3で駆動させる。位置L3は、
図9(e)に示すように、分離パッキン18と押込みパッキン17とが接触した状態でバイパス路21を通過した後の位置を示している。なお、位置L3の位置情報は、メモリ46に設定されている。
【0046】
分離パッキン18の先端位置が位置L3に達すると、
図5のS17に示すように、空気抜きの動作が終了する。
続いて、
図6に示すように、S18において、薬剤の注入動作を開始する。
【0047】
次に、S19において、表示部35に「注射の準備が出来ました。先端部を皮膚にあてて薬剤注入ボタンを押してください」と表示させ、ピストン駆動モータ10の動作を一旦停止させる。
【0048】
S20では、薬剤注入ボタン33が押されたか否かの判定が行われる。
ここで、薬剤注入ボタン33が押下されると、S21において、穿刺の動作が開始される。穿刺の動作は、穿刺・抜針駆動モータ12を駆動させて行われる。なお、刺針動作とは、穿刺・抜針駆動モータ12の駆動によって薬剤シリンジ装着部3を注射針出没開口部1側に移動させ、注射針14を注射針出没開口部1から突出させる動作のことを示す。
【0049】
この時、注射針出没開口部1はすでに人体の注射しようとする部位に押し当てられているため、注射針14が人体に向けて移動し、注射針14が人体に突き刺さって、薬剤の注入前の準備動作(穿刺動作)が完了する。
【0050】
次に、S22において、薬剤注入動作が開始される。
薬剤注入動作時におけるピストン駆動モータ10による分離パッキン18の押し込み速度V4は、押し込み速度V3より速くなるように制御される(V4>V3)。これは、この状態では注射針の先端からの液漏れが生じにくいため、ピストン5を動かすスピードを速くするためである。
【0051】
S23では、分離パッキン18の先端位置が位置L4に達するまで、ピストン駆動モータ10を押し込み速度V4で駆動させる。位置L4は、
図9(f)に示すように、分離パッキン18が薬剤シリンジ4の先端に到達するまでの位置を示している。なお、位置L4の位置情報は、メモリ46に設定されている。
【0052】
最後に、S23において分離パッキン18の先端位置が位置L4に達すると、S24において抜針動作が開始される。抜刺動作は、ピストン駆動モータ10を停止させ、穿刺・抜針駆動モータ12を動かして行われ、穿刺・抜針駆動モータ12の駆動によって、薬剤シリンジ装着部3を後端側に移動させることで、注射針14を注射針出没開口部1内に収納させる動作のことを示す。
【0053】
その後、S25において、薬剤シリンジ装着部3が穿刺動作前の初期の位置まで達すると、抜針動作が完了し、人体への薬剤の注入の動作が完了する。
図8は、本実施形態の薬剤注入装置の混合時における動作状態を示すグラフである。縦軸は、ピストン駆動モータ10を駆動させるためのピストン速度制御信号の電圧(値)、横軸は、分離パッキン18の後端位置もしくは先端位置を示す。
【0054】
押し込み速度は、ピストン速度制御信号の電圧値(例えば、V1とV4は1.0ボルト、V2は0.8ボルト、V3は0.7ボルト)に比例する。
なお、
図8に示すグラフは、一例に過ぎず、例えば、V2とV3の間、V3とV4の間には、必要に応じてユーザ側の操作選択待ちの時間を割り当てることもできる。その場合、混合動作は一旦停止され、それぞれ押し込み速度を“0”とすることも可能である。
【0055】
以上のように、本実施形態の薬剤注入装置では、薬剤混合動作の際において、分離パッキン18がバイパス路21を通過する時の押し込み速度V2が、分離パッキン18がバイパス路21に接触するまで押し込む際の押し込み速度V1より遅くなるように制御される。
【0056】
これにより、液剤20を、バイパス路21を介して、固体剤19側に緩やかに流れ込ませることができる。この結果、薬剤混合時における先端パッキン16側からの液漏れを低減することができる。
【0057】
したがって、ユーザによる薬剤注入装置の操作時に、周辺を薬剤で汚すことなく、環境状態を清潔に保ったまま、簡単にかつ安全に、薬剤の自動混合動作を適切に行わせることができる。