(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770298
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】発光物質と当該発光物質を有する発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/79 20060101AFI20150806BHJP
C09K 11/73 20060101ALI20150806BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20150806BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20150806BHJP
C02F 1/32 20060101ALI20150806BHJP
F21V 9/16 20060101ALI20150806BHJP
F21V 5/00 20150101ALI20150806BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20150806BHJP
F21Y 101/00 20060101ALN20150806BHJP
F21Y 101/02 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
C09K11/79CPR
C09K11/73CPX
A61L2/10
A61L9/20
C02F1/32
F21V9/16 100
F21V5/00 510
H01L33/00 410
F21Y101:00 300
F21Y101:02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-534429(P2013-534429)
(86)(22)【出願日】2011年10月17日
(65)【公表番号】特表2014-500890(P2014-500890A)
(43)【公表日】2014年1月16日
(86)【国際出願番号】IB2011054589
(87)【国際公開番号】WO2012052905
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年10月15日
(31)【優先権主張番号】10188525.9
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114753
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】グロウエル ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】ジュステル トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ベッテントラップ ヘルガ
(72)【発明者】
【氏名】プレワ ジュリアン
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−077153(JP,A)
【文献】
特表2007−514631(JP,A)
【文献】
特開2008−274254(JP,A)
【文献】
特開2005−048146(JP,A)
【文献】
特表2008−536282(JP,A)
【文献】
特開2008−163061(JP,A)
【文献】
特開2006−342336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00−11/89
A61L2/00−12/14
C02F1/20−1/38
F21V1/00−15/04
H01L33/00−33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Y1―xLux)9LiSi6O26:Lnを有するグループから選択される成分を有する発光物質であって、ここで、Lnが三価のPr、Nd又はこれらの混合物を有するグループから選択され、0.0≦x≦1.0である、発光物質。
【請求項2】
前記発光物質が、UVスペクトル範囲内の励起スペクトルを持つ光により励起されるとき、UVC範囲内に放射ピークを持つ、請求項1に記載の発光物質。
【請求項3】
第1の紫外線の少なくとも一部を吸収し、第1のUVスペクトル範囲と異なる第2のUVスペクトル範囲内の第2の紫外線を放射するため、請求項1又は2に記載の発光物質を有する、第1のUVスペクトル範囲内の第1の紫外線を放射できる、発光装置。
【請求項4】
前記発光装置は、放電維持成分を持つガス充填物を有する放電容器を具備する放電ランプを有し、前記放電容器の少なくとも壁の一部が前記発光物質で被覆されている、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記放電ランプが、Hg若しくは希ガス放電ランプ及び/又はLEDランプを有する、請求項3に記載の発光装置。
【請求項6】
前記発光装置により放射された光により殺菌されるべき対象物を照射できるユニットと、請求項3乃至5の何れか一項に記載の発光装置とを有する、システム。
【請求項7】
請求項3乃至5の何れか一項に記載の発光装置により放射された光により殺菌されるべき対象物を照射するステップを有する、殺菌付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光物質、特に、紫外線を放射する発光装置のための発光物質の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線源は、分光学、美容皮膚治療、医学皮膚治療、水及び空気の消毒又は浄化、ポリマー硬化、光化学、表面硬化及びウエハー処理のような多くのアプリケーション領域を見出してきた。
【0003】
上述のアプリケーション領域の多くは、濃い紫外線、すなわちUVC(200―280nm)、又は、温度変化に対する不変性及び速い切換サイクルが所望の特徴である真空紫外放射(100―200nm)さえ必要とする。
【0004】
低圧水銀放電ランプは、紫外線源として現在広く使われていて、これらは2本のライン、すなわち185nm及び254nmにより支配される放射スペクトルを持つ。しかしながら、Hg蒸気圧を増大することは、結果的に濃いUVから濃い赤のスペクトル範囲まで延在するほぼ連続のスペクトルになる。その上、Hgの適用は、速い切換サイクルに対する感度及び温度にむしろ強く依存することを意味する。
【0005】
10年より長い間、誘電バリア(DB)希ガスエキシマ放電のアプリケーションは、UV発光放射線源の開発のための代替的放電概念と考えられていた。Xeエキシマ放電は、例えば、主に172nm放射線を放射し、充填ガスとしてXeを有するDB駆動石英ランプは30%より大きい入力電力に対する光効率(wall plug efficiency)を示す。Xeエキシマ放電に基づく石英ランプは、何れのタイプの有機結合も分解するために、放射された172nm(VUV)光子の十分に高いエネルギーにより、ウエハー表面のクリーニングのために広く使われている。一つ以上のVUVからUVーCへのダウン変換蛍光体を使用している蛍光Xeエキシマ放電ランプは、消毒又は浄化目的のために特に興味がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらXe、Ne又はXe/Neエキシマランプのため現在適用されるUV発光物質は、例えば、低い変換効率、低い光化学的安定性、低い化学的安定性、殺菌作用曲線との低いスペクトル重複を含む、幾つかの欠点を依然持つ。
【0007】
従って、例えば蛍光Xeエキシマ放電ランプから、例えば消毒又は浄化領域で、より適切に使用できる放射線スペクトルへ紫外線を変換するための代替の発光物質を開発するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、紫外線を放射する発光装置のための代替の発光物質を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、殺菌作用スペクトルによく適合するスペクトルパワー分布を持つ強くて効果的なUVC放射を示す、発光物質を有する発光装置を提供することにある。
【0010】
更に本発明の他の目的は、空気又は水等を消毒又は浄化するために発光装置により放射される光を使用できる、発光装置を有するシステムを提供することにある。
【0011】
本発明の実施例によると、(Y
1―xLu
x)
9LiSi
6O
26:Ln及び/又はAE
5(PO
4)
3F:Ln,Aを有するグループから選択される成分を有する発光物質であって、ここで、Lnは、三価の希土類金属であり、AEは、二価のアルカリ土類金属であり、Aは、一価のアルカリ金属であり、0.0≦x≦1.0である、発光物質が提供される。
【0012】
好ましい実施例によると、Lnは、三価のPr、Nd又はこれらの混合物を有するグループから選択される。AEは、二価のCa、Sr、Ba又はこれらの混合物を有するグループから選択される。Aは、一価のLi、Na、K、Rb、Cs又はこれらの混合物を有するグループから選択される。
【0013】
前記発光物質は、UVスペクトル範囲、好ましくはYUV又はUVC範囲内の励起スペクトルを持つ光により励起されるとき、UVC範囲(すなわち、200−280nm)内に放射ピークを持つ。斯様な励起スペクトルを持つ光は、水銀又は希ガス放電ランプ、例えば、185nm程度の放射ピークを持つアマルガムランプ、254nm程度の放射ピークを持つ低圧水銀放電ランプ、265nm程度の放射ピークを持つ中圧水銀放電ランプ、及び172nm程度の放射ピークを持つXe、Ne又はXe/Neエキシマランプを使用して達成できる。代わりに、(Al,Ga)NのLEDランプのような新しく開発されたLEDランプ、他のタイプの既存のランプ、及び、まだ開発中の幾つかの新しいタイプのランプは、発光物質がUVCを放射するために必要である適当な励起スペクトルを斯様なランプが放射できる限り、励起スペクトルを出力するための光源として使用できる。
【0014】
驚くべきことに、上記の提案された発光物質は、殺菌作用スペクトルによく適合するスペクトルパワー分布を持つ強くて効果的なUVC放射を示すことが分かった。
【0015】
本発明の他の実施例によると、第1の紫外線の少なくとも一部を吸収し、第1のUVスペクトル範囲と異なる第2のUVスペクトル範囲内の第2の紫外線を放射するため、上記で提案された発光物質を有する、第1のUVスペクトル範囲内の第1の紫外線を放射できる、発光装置が提供される。
【0016】
斯様な発光装置は、広範囲にわたるアプリケーションのために、特に殺菌アプリケーションのために、以下の利点の少なくとも一つを持つことが分かった:
−発光物質による少ない再吸収のため、またアプリケーションの動作曲線に関して最適化された放射スペクトルのため、改良された効率;
−UVC出力の改良された安定性、よって、発光装置の改良された動作寿命;
−温度についての効率のより少ない依存性。
【0017】
好ましい実施例によると、前記発光装置は、放電維持成分を持つガス充填物を有する放電容器を具備する放電ランプを有し、前記放電容器の少なくとも壁の一部が前記発光物質で被覆されている。代わりに、前記放電ランプは、Hg又は希ガス放電ランプを有する。代わりに、発光装置は、(Al、Ga)NのLEDランプのような新しく開発されたLEDランプ、又は既存のランプタイプ若しくは更に開発中の新しいタイプのランプを有する。LEDランプに対して、発光物質は、LEDチップをカバーするか、又はレンズ若しくはバルブのような光学部品に被覆されるドームとして設けられる。
【0018】
本発明の他の実施例によると、上記で提案された発光装置の少なくとも一つを有するシステムであって、前記発光装置により放射された光により殺菌されるべき対象物を照射できるユニットを更に有するシステムが提供される。このシステムは、例えば空気、水又は表面の消毒又は浄化において、発光装置により放射される光の助けを借りた光化学物質処理を介した殺菌アプリケーションで使用できる。斯様なユニットは、光が表面を殺菌するために表面を直接照射できるように、例えば、発光装置から表面まで光を移送するための光ガイド手段である。代わりに、斯様なユニットは、光がその浄化のために空気を直接照射できるように、特定の空気をシステムへ流すように構成される吸入装置を有する。
【0019】
本発明の他の実施例によると、上記で提案された発光装置により放射された光により殺菌されるべき対象物を照射するステップを有する、殺菌付与方法も提供される。
【0020】
代わりに、当該方法は、空気、水若しくは表面の消毒又は浄化に使用できる。このように、上記発光装置により放射される光で空気、水又は表面を照射することにより、空気、水又は表面は、殺菌できる。
【0021】
提案されたシステム及び方法が、殺菌作用スペクトルに良好に適合するスペクトルパワー分布を持つUVC放射のため、良好な殺菌効果を持つことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の上記及び他の目的並びに特徴は、添付の図面を参照して、実施例の様々な態様の以下の詳細な説明から明らかになるだろう。
【0023】
【
図1】本発明による第1の例示的な発光物質のXRDパターンを示す(例I:Ca
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%))。
【
図2】本発明による第1の発光物質の励起スペクトル(左側のスペクトル)、放射スペクトル(右側のスペクトル)及び反射スペクトル(上の右側のスペクトル)を示す(例I)。
【
図3】第1の発光物質の放射スペクトルと殺菌作用の所望のスペクトルとの間の比較を示す(例I)。
【
図4】本発明による第2の例示的な発光物質のXRDパターンを示す(例II:Sr
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%))。
【
図5】本発明による第2の発光物質の励起スペクトル(左側のスペクトル)、放射スペクトル(右側のスペクトル)及び反射スペクトル(上の右側のスペクトル)を示す(例II)。
【
図6】第2の発光物質の放射スペクトルと殺菌作用曲線の所望のスペクトルとの間の比較を示す(例II)。
【
図7】本発明による第3の例示的な発光物質のXRDパターンを示す(例III:Y
9LiSi
6O
26:Pr
3+(1%))。
【
図8】本発明による第3の発光物質の励起スペクトル(左側のスペクトル)、放射スペクトル(右側のスペクトル)及び反射スペクトル(上の右側のスペクトル)を示す(例III)。
【
図9】本発明による第4の例示的な発光物質のXRDパターンを示す(例IV:Ba
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%))。
【
図10】本発明による第4の発光物質の励起スペクトル(左側のスペクトル)、放射スペクトル(右側のスペクトル)及び反射スペクトル(上の右側のスペクトル)を示す(例IV)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施例の詳細な説明は、発光物質の例に主に焦点を当てている。本発明で提案される発光装置、システム及び方法に関しては、以前の部分が有益な説明を与えていて、既存の関連文献又は製品が参照できる。
【0025】
例I:
例Iは、以下のようにして作られるCa
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%)を参照する。
開始材料1.009gのCaCO
3、4.0004gのCaHPO
4.2H
2O、0.32gのナノスケールCaF
2、及び0.076gのPrF
3及び0.016gのNaFが、0.5時間粉砕された。混合は、その後1時間、窒素の下で、約1100℃でアニールされた。最後に、物質は、粉砕され、36μmの篩にかけられた。
【0026】
図1は、例Iの物質のXRDパターンを示す。
図2は、例Iの物質の励起スペクトル(左側のスペクトル)、放射スペクトル(右側のスペクトル)及び反射スペクトル(上の右側のスペクトル)を示す。
図3は、例Iの放射スペクトル(以下の参照される同じタイプの他の図と同様に、図における波長に沿った比較的狭い伸展を持つ曲線)と殺菌作用の所望のスペクトルとの間の比較を示す。Ca
5(PO
4)
3F:Pr,Naの放射の最大は約245nmであり、これは、殺菌作用曲線と良好な重複部分を示す。この物質は、UVC放射線用の放電ランプに用いられる優れた物質であることが明らか分かった。
【0027】
例II
例IIは、以下のようにして作られるSr
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%)を参照する。
開始材料5.036gのSrCO
3、2.675gの(NH
4)
2HPO
4.2H
2O、0.487gのナノスケールのSrF
2及び0.076gのPrF
3及び0.016gのNaFが、0.5時間粉砕された。混合は、その後1時間、窒素の下で、約1100℃でアニールされた。最後に、物質は、粉砕され、36μmの篩にかけられた。
【0028】
Sr
5(PO
4)
3F:Pr,Naの放射最大は、約240nmであり、これも、殺菌作用曲線と良好な重複部分を示す。
図4乃至
図6から、この物質がUVC放射線用の放電ランプに用いられる優れた物質であることが明らかに分かった。
【0029】
例III:
例IIIは、以下のようにして作られるY
9LiSi
6O
26:Pr
3+(1%)を参照する。
開始材料4.000gのY
2O
3、0147gのLi
2CO
3、1.433gのナノスケールのSiO
2及び0.061gのPr
6O
11は、エタノールに懸濁され、溶媒が完全に蒸発するまで、物質は、かき混ぜられた。その後、乾燥物質は、6時間、COの下で1000℃で焼成され、その後かき混ぜられ、6時間、COの下で1100℃で焼成された。最後に、物質は、粉砕され、36μmの篩にかけられた。
図7及び
図8から、この物質がUVC放射線用の放電ランプに用いられる優れた物質であることが明らかに分かった。
【0030】
例IV:
例IVは、以下のようにして作られるBa
5(PO
4)
3F:Pr
3+(1%)Na
+(1%)を参照する。
開始材料5.036gのBaCO
3、2.675gの(NH
4)
2HPO
4.2H
2O、0.487gのナノスケールのBaF
2及び0.076gのPrF
3及び0.016gのNaFが、0.5時間粉砕された。混合は、その後1時間、窒素の下で、約1100℃でアニールされた。最後に、物質は、粉砕され、36μmの篩にかけられた。
図9及び
図10から、この物質がUVC放射線用の放電ランプに用いられる優れた物質であることが明らかに分かった。
【0031】
上記の実施例は、本発明の単なる好ましい実施例である。開示された実施例の他のバリエーションは、図面、詳細な説明及び添付の請求の範囲の学習から、請求された本発明を実施する際の当業者により理解され、遂行される。これらのバリエーションも、本発明の範囲内であるとみなされる。請求項及び説明において、動詞「有する」及びその派生語の使用は、他の要素又はステップを除外しないし、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。