特許第5770317号(P5770317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770317射出成形機の型締力設定装置および型締力設定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770317
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】射出成形機の型締力設定装置および型締力設定方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   B29C45/76
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-5496(P2014-5496)
(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公開番号】特開2015-131472(P2015-131472A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2015年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大輔
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−075382(JP,A)
【文献】 特開2007−030496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定型締力に基づいて金型を閉じて型締力を発生させる型締部と、前記金型内に溶融樹脂を射出する射出部とを備える射出成形機において、
型締機構部の互いに異なる箇所で型締力を検出する複数の型締力検出部と、
任意の設定型締力で射出を行い、前記複数の型締力検出部が検出した前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記金型内に溶融樹脂を射出する際に発生する射出中の型締力の最大値との差に基づく型締力最大増加量を前記複数の型締力検出部毎に求める型締力最大増加量算出部と、
前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記型締力最大増加量を対応させて前記複数の型締力検出部毎に記憶する記憶部と、
少なくとも1つの前記型締力検出部において、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組であって、型締力最大増加量が異なり、かつ、金型が開かない設定型締力を有する組の中で2つ以上の前記組を前記型締力検出部毎に抽出する抽出部と、
前記2つ以上の前記組を抽出した型締力検出部について、
前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組から設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を当該型締力検出部の関係式として求める関係式算出部と、
前記複数の型締力検出部のうち前記関係式算出部によって前記関係式を求めた型締力検出部について、
当該型締力検出部に対応して抽出した前記2つ以上の組の設定型締力より小さい設定型締力で射出を行い、前記型締力最大増加量を算出し、該型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づいて決められた所定の閾値を超えた際の設定型締力を求める型締力算出部と、
前記型締力算出部により求めた設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定する型締力設定部とを備えることを特徴とする射出成形機の型締力設定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に2つ以上抽出し、
前記関係式算出部は、設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、
前記型締力算出部は、型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づく前記閾値を超える設定型締力を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、
前記型締力設定部は、前記型締力算出部が前記各型締力検出部毎に求めた設定型締力のうち最も大きい設定型締力を求めた型締力検出部について当該型締力検出部における最も大きい設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定することを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の型締力設定装置。
【請求項3】
前記抽出部で抽出する設定型締力は、前記型締力最大増加量が所定の値より大きい場合の設定型締力であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締力設定装置。
【請求項4】
前記抽出部で抽出する設定型締力は、成形品が良品と判断できる場合の設定型締力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定装置。
【請求項5】
前記抽出部は、最大射出圧と金型の投影面積から算出した型締力に十分に足りている設定型締力で設定型締力の抽出を開始し、該設定型締力を下げながら設定型締力の抽出を行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定装置。
【請求項6】
設定型締力に基づいて金型を閉じて型締力を発生させる型締部と、前記金型内に溶融樹脂を射出する射出部とを備える射出成形機において、
型締機構部の互いに異なる箇所で型締力を検出する複数の型締力検出部を備え、
任意の設定型締力で射出を行い、前記複数の型締力検出部が検出した前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記金型内に溶融樹脂を射出する際に発生する射出中の型締力の最大値との差に基づく型締力最大増加量を前記複数の型締力検出部毎に求める型締力最大増加量算出工程と、
少なくとも1つの前記型締力検出部において、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組であって、型締力最大増加量が異なり、かつ、金型が開かない設定型締力を有する組の中で2つ以上の前記組を前記型締力検出部毎に抽出する抽出工程と、
前記2つ以上の前記組を抽出した型締力検出部について、
前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組から設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を当該型締力検出部の関係式として求める関係式算出工程と、
前記複数の型締力検出部のうち前記関係式算出工程において前記関係式を求めた型締力検出部について、
当該型締力検出部に対応して抽出した前記2つ以上の組の設定型締力より小さい設定型締力で射出を行い、前記型締力最大増加量を算出し、該型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づいて決められた所定の閾値を超えた際の設定型締力を求める型締力算出工程と、
前記型締力算出工程において求めた設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定する型締力設定工程とから成ることを特徴とする射出成形機の型締力設定方法。
【請求項7】
前記抽出工程は、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に2つ以上抽出し、
前記関係式算出工程は、設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、
前記型締力算出工程は、型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づく前記閾値を超える設定型締力を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、
前記型締力設定工程は、前記型締力算出工程において前記各型締力検出部毎に求めた設定型締力のうち最も大きい設定型締力を求めた型締力検出部について当該型締力検出部における最も大きい設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定することを特徴とする請求項6に記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項8】
前記抽出工程で抽出する設定型締力は、前記型締力最大増加量が所定の値より大きい場合の設定型締力であることを特徴とする請求項6または7に記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項9】
前記抽出工程で抽出する設定型締力は、成形品が良品と判断できる場合の設定型締力であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定方法。
【請求項10】
前記抽出工程は、最大射出圧と金型の投影面積から算出した型締力に十分に足りている設定型締力で設定型締力の抽出を開始し、該設定型締力を下げながら設定型締力の抽出を行なうことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において、金型内に樹脂を射出する際に発生する樹脂圧力に応じてバリを発生させることがなく、かつ、金型の変形が生じない適正な型締力を求める型締力設定装置および型締力設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形サイクルでは型閉じ工程において金型を閉じ、さらに型締め工程において型締力を発生させた後、金型内に溶融樹脂を射出する。金型内に溶融樹脂を射出する際、溶融樹脂が発生する圧力に対して型締力が不足すると金型が開いてバリが発生する恐れがある。一方、型締力が過大な場合にはバリの心配はないものの、ガス抜けが悪く品質が低下したり、必要以上の型締力が金型にかかり金型の寿命が短くなるという問題がある。そのため型締力は、射出する際に金型が開かない最小限の値にすることでバリの発生を防ぎ、かつ、ガス抜けが生じやすい状態や金型に必要以上の負担をかけないことを可能にするため、このような金型が開かない最小限の型締力を求め設定することが望ましい。
【0003】
最小限の型締力を求める技術として、特許文献1では型締力を徐々に変化させ、検出された型締力の変化に基づいて金型に加えるべき最低型締力を求める型締力設定方法が開示されている。また特許文献2では、設定型締力と、射出中の型締力の最大値と設定型締力の差である型締力最大増加量の間に成り立つ近似的線形関係の変化に着目し、最低型締力を求める型締力設定方法を開示している。特許文献1、2に開示された型締力設定方法では、効率性や正確性に問題がある。
【0004】
特許文献3に開示される技術はこの問題点を解決するものである。金型が閉じた際に発生する型締力と、射出中の型締力の差を型締力最大増加量として検出し、金型が開かない最低型締力を求める方法である。金型が開くことにより生じるバリを防ぐことができ、またガス抜けが生じやすい状態で成形することによる品質の向上や、金型に必要以上の負担をかけず金型の寿命を不必要に短くしないことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−6651号公報
【特許文献2】特開平8−252849号公報
【特許文献3】特開2013−75382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現実的に特許文献1、2に開示された型締力設定方法を使用する場合、金型が初めに開く場所を特定し、その周辺に加わる型締力を検出して指標とする必要がある。
図3−1は設定型締力と射出時の金型状態を示す図である(特許文献3参照)。また、図3−2は、射出時に金型の上部から金型が開き始めている様子を示している。本発明においては図3−2で示される状態3のような金型の状態を、「金型が初めに開く場所は金型の上部である状態」と表現する。このような状態においては、上側のタイバーは型締完了時点よりも引き伸ばされているのに対して、下側のタイバーは型締完了時点の長さとほぼ同じ長さを保っている。型締力を検出するには、タイバーの伸びを検出する複数本のタイバーのうち1本のタイバーに型締力検出器を設けることが多い。そのため、図3−2の状態3のようになった場合に、上側のタイバーに型締力検出器を設けていれば、金型を閉じた後の射出中に型締力が増加するのを検出でき、金型が開いたことを検知できる。これに対して、下側のタイバーに型締力検出器を設けていると、下側のタイバーの型締力検出器では射出中に型締力の変化が検出されず、金型が開いたことを検知できない。
金型が開く場所では、金型に作用している型締力を樹脂圧による型開き力が上回っており、その場所は、金型が溶融樹脂から受ける力の分布や型締力バランスなどによって複合的に決まる。金型が溶融樹脂から受ける力の分布は、キャビティの形状や配置に依存し、力の分布の推測が容易な場合もあれば、困難な場合も多々ある。型締力バランスは射出成形機の調整具合や金型のパーティング面同士の平行度などにより、その都度測定しなければ正確に把握することは困難である。
【0007】
以上のことから金型が開き始める場所を推測することは難しく、実際に成形を行い、バリの発生位置から金型が開き始める場所を推測するのが現状である。また金型が初めに開く場所を特定できた場合、その周辺に加わる型締力を検出するために最寄のタイバーに型締力検出装置を設置する必要がある。金型ごとに、金型が初めに開く場所は異なるため、金型交換に伴い、型締力検出装置を別のタイバーへ設置し直す煩わしさが生じ得る。
【0008】
そこで、本発明の目的は、特許文献3に開示された射出成形機の型締力設定方法と型締力設定装置をさらに改良することであり、金型のキャビティの形状や配置、射出成形機の型締部の型締力バランスなどの影響を受けずに、金型が開かない最低型締力をより確実に求めるための射出成形機の型締力設定方法および型締力設定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、設定型締力に基づいて金型を閉じて型締力を発生させる型締部と、前記金型内に溶融樹脂を射出する射出部とを備える射出成形機において、型締機構部の互いに異なる箇所で型締力を検出する複数の型締力検出部と、任意の設定型締力で射出を行い、前記複数の型締力検出部が検出した前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記金型内に溶融樹脂を射出する際に発生する射出中の型締力の最大値との差に基づく型締力最大増加量を前記複数の型締力検出部毎に求める型締力最大増加量算出部と、前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記型締力最大増加量を対応させて前記複数の型締力検出部毎に記憶する記憶部と、少なくとも1つの前記型締力検出部において、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組であって、型締力最大増加量が異なり、かつ、金型が開かない設定型締力を有する組の中で2つ以上の前記組を前記型締力検出部毎に抽出する抽出部と、前記2つ以上の前記組を抽出した型締力検出部について、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組から設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を当該型締力検出部の関係式として求める関係式算出部と、前記複数の型締力検出部のうち前記関係式算出部によって前記関係式を求めた型締力検出部について、当該型締力検出部に対応して抽出した前記2つ以上の組の設定型締力より小さい設定型締力で射出を行い、前記型締力最大増加量を算出し、該型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づいて決められた所定の閾値を超えた際の設定型締力を求める型締力算出部と、前記型締力算出部により求めた設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定する型締力設定部とを備えることを特徴とする射出成形機の型締力設定装置である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記抽出部は、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に2つ以上抽出し、前記関係式算出部は、設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、前記型締力算出部は、型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づく前記閾値を超える設定型締力を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、前記型締力設定部は、前記型締力算出部が前記各型締力検出部毎に求めた設定型締力のうち最も大きい設定型締力を求めた型締力検出部について当該型締力検出部における最も大きい設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定することを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の型締力設定装置である。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記抽出部で抽出する設定型締力は、前記型締力最大増加量が所定の値より大きい場合の設定型締力であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締力設定装置である。
請求項4に係る発明は、前記抽出部で抽出する設定型締力は、成形品が良品と判断できる場合の設定型締力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定装置である。
請求項5に係る発明は、前記抽出部は、最大射出圧と金型の投影面積から算出した型締力に十分に足りている設定型締力で設定型締力の抽出を開始し、該設定型締力を下げながら設定型締力の抽出を行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定装置である。
【0012】
請求項6に係る発明は、設定型締力に基づいて金型を閉じて型締力を発生させる型締部と、前記金型内に溶融樹脂を射出する射出部とを備える射出成形機において、型締機構部の互いに異なる箇所で型締力を検出する複数の型締力検出部を備え、任意の設定型締力で射出を行い、前記複数の型締力検出部が検出した前記金型が閉じた際に発生する型締力と前記金型内に溶融樹脂を射出する際に発生する射出中の型締力の最大値との差に基づく型締力最大増加量を前記複数の型締力検出部毎に求める型締力最大増加量算出工程と、少なくとも1つの前記型締力検出部において、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組であって、型締力最大増加量が異なり、かつ、金型が開かない設定型締力を有する組の中で2つ以上の前記組を前記型締力検出部毎に抽出する抽出工程と、前記2つ以上の前記組を抽出した型締力検出部について、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組から設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を当該型締力検出部の関係式として求める関係式算出工程と、前記複数の型締力検出部のうち前記関係式算出工程において前記関係式を求めた型締力検出部について、当該型締力検出部に対応して抽出した前記2つ以上の組の設定型締力より小さい設定型締力で射出を行い、前記型締力最大増加量を算出し、該型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づいて決められた所定の閾値を超えた際の設定型締力を求める型締力算出工程と、前記型締力算出工程において求めた設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定する型締力設定工程とから成ることを特徴とする射出成形機の型締力設定方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記抽出工程は、前記設定型締力と前記型締力最大増加量との組を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に2つ以上抽出し、前記関係式算出工程は、設定型締力に対する型締力最大増加量を示す関係式を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、前記型締力算出工程は、型締力最大増加量が当該型締力検出部の関係式に基づく前記閾値を超える設定型締力を全ての型締力検出部について各型締力検出部毎に求め、前記型締力設定工程は、前記型締力算出工程において前記各型締力検出部毎に求めた設定型締力のうち最も大きい設定型締力を求めた型締力検出部について当該型締力検出部における最も大きい設定型締力の直前の設定型締力を金型が開かない必要最小限の型締力として設定することを特徴とする請求項6に記載の射出成形機の型締力設定方法である。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記抽出工程で抽出する設定型締力は、前記型締力最大増加量が所定の値より大きい場合の設定型締力であることを特徴とする請求項6または7に記載の射出成形機の型締力設定方法である。
請求項9に係る発明は、前記抽出工程で抽出する設定型締力は、成形品が良品と判断できる場合の設定型締力であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定方法である。
請求項10に係る発明は、前記抽出工程は、最大射出圧と金型の投影面積から算出した型締力に十分に足りている設定型締力で設定型締力の抽出を開始し、該設定型締力を下げながら設定型締力の抽出を行なうことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の射出成形機の型締力設定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、金型のキャビティの形状や配置、射出成形機の型締部の型締力バランスなどの影響を受けずに、金型が開かない最低型締力をより確実に求めるための射出成形機の型締力設定方法および型締力設定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】設定型締力と射出時の型締力最大増加量の関係を示すグラフである。
図2】型締力の時間変化を示すグラフである。
図3-1】設定型締力と射出時の金型状態を示す図である。
図3-2】キャビティに偏りがある金型の射出時の状態を示す図である。
図4-1】型締力最大増加量の変化量判定方法を説明するグラフである。
図4-2】複数の型締力センサによる型締力最大増加量の測定方法を説明する図である。
図5】射出成形機の概略ブロック図である。
図6-1】一つの型締力センサを用いて型締力を求める処理のアルゴリズムを示すフローチャートである(その1)。
図6-2】一つの型締力センサを用いて型締力を求める処理のアルゴリズムを示すフローチャートである(その2)。
図7】複数の型締力センサを用いて型締力を求める処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の前提となる特許文献3に開示される型締力設定装置および型締力設定方法を説明する。溶融樹脂が発生する圧力に対して型締力が不足すると金型が開いてバリが発生することとなる。最大射出圧と金型の投影面積を参考に考えられる十分に足りている型締力から金型が開く状態まで型締力を下げたときの設定型締力と射出時の射出圧力に負けて金型が開いたときの型開き量を表す型締力最大増加量の関係を図1に示す。ここで型締力最大増加量とは図2に示すように設定型締力と射出中の型締力の最大値との差を意味する。この関係を分析すると以下の3つの状態に分けることができる。それぞれの状態における射出時の金型状態を図3−1に示す。金型の型厚はLとする。
【0018】
状態1:設定型締力を下げても射出時の型締力最大増加量が変化しない区間。この区間では、射出圧に対して型締力が十分大きいため金型は押し縮められるようにひずみを生じる。理想的には射出時の型締力最大増加量に変化は生じない。型締力によって金型が縮み量δ1だけ圧縮されて型厚はL−δ1となり、プラテン間(可動プラテンと固定プラテンの間)の距離もL−δ1となる。
【0019】
状態2:設定型締力を下げると射出時の型締力最大増加量が増加する区間。この区間では、状態1よりも型締力が下がることにより射出圧に負けて金型が開こうとするため、状態1で生じていた金型のひずみは徐々に解放される。そのため射出時にひずみが解放された分だけ射出時の型締力最大増加量が増えて行く。ひずみが少し解放され、金型の圧縮はδ1より小さい縮み量δ2(0<δ2<δ1)となり、プラテン間の距離はL−δ2となる
【0020】
状態3:設定型締力を下げると射出時の型締力最大増加量が状態2よりも大きく増加する区間。この区間では状態1,2で生じていた金型のひずみが射出時に完全に解放されるため型厚はLとなり、加えて型開き量δ3が生じるため、プラテン間の距離はL+δ3となる。
【0021】
なお上記の射出とはスクリュを動作させて金型内のキャビティ空間に溶融樹脂を充填させる全ての工程を指しており、保圧工程と呼ばれ溶融樹脂に圧力を加えて金型内のキャビティ空間に溶融樹脂を完全に充填する工程も含む。
【0022】
図4−1は、型締力最大増加量の変化量が状態2から状態3に移行する点を判別する方法を説明するグラフである。横軸は設定型締力(Fs)、縦軸は射出中の型締力最大増加量(Fmax)である。状態2と状態3の移行点を検出するために、まず状態2の変化を近似直線で求める。そのために、図3−1にあるように、金型のひずみの解放が生じて型締力最大増加量に変化が生じる状態2区間の任意の2点で型締力最大増加量の測定を行い、設定型締力Aに対して測定された型締力最大増加量Amax、と設定型締力Bに対して測定された型締力最大増加量Bmaxを取得する。このとき型締力最大増加量AmaxとBmaxが等しい場合は、その点が状態1区間であるため設定型締力を下げて図3−1に示すようなAmax<Bmaxとなる点で再度測定を行う。
【0023】
そしてこの測定値AmaxとBmaxの値をもとに状態2の型締力最大増加量を示す近似直線Fmax=a*Fs+bが算出できる。この直線が状態2における金型のひずみの解放による型締力の増加を表すため、状態2区間にある設定型締力Cに対して測定された型締力最大増加量CmaxはCmax−(a*C+b)≦α(α>0)を満たす値となる。このときαは、測定誤差やバラツキを考慮した閾値とし、任意の同じ型締力で数回射出をして型締力最大増加量の検出を行い、検出値の最大値と最小値の差を閾値とすることができる。なお、閾値の求め方はこの方法に限ったものではない。
【0024】
次に状態3区間にある設定型締力Dに対して測定された型締力最大増加量Dmaxは、ひずみの解放は終わり金型が開く状態にあるため型締力の増加量が大きく変化することからDmax−(a*D+b)>αとなる。
【0025】
つまり状態2から状態3への移行点の判別方法は、状態2区間における任意の2点の型締力最大増加量から近似直線Fmax=a*Fs+bを求め、設定型締力Xを下げていく過程で計測された型締力最大増加量Xmaxが2点連続でXmax-(a*X+b)>αとなった場合に最初の点を状態3への移行点として判別する。そして、その移行点の手前の点を金型が開かない最低型締力として検出する。
【0026】
次に、本発明に係る型締力設定装置および型締力設定方法を説明する。本発明では、この最低型締力算出過程を複数の型締力センサにより行う。例として、図4−2に4個の型締力センサCH1、CH2、CH3、CH4によって測定した型締力と型締力最大増加量との関係を示す。次の状態に移行する際の型締力は型締力センサによって異なり、CH1は型締力F1において、CH2は型締力F2において、CH3は型締力F3において、CH4は型締力F4において状態2から状態3に移行している。型締力F1、F2、F3、F4のうちF1が最大であることから、金型が開き始める場所はCH1が測定する領域であり、金型が開き始めるときの型締力はF1であることがわかる。そこで、F1の手前の点を最低型締力として設定する。
【0027】
最低型締力の検出方法として2つ例を挙げる。1つの方法は、設定型締力を十分に大きい型締力から順に小さくしながら、CH1、CH2、CH3、CH4の各々の型締力センサにて測定を行い、いずれか1つの型締力センサで状態2から状態3への移行点が初めに検出されるまで、各型締力センサで処理を行う。図4−2の場合、状態2から状態3への最初の移行点としてF1を検出したら測定を終了し、その移行点の手前の点が最低型締力となる。もう1つの方法は、CH1、CH2、CH3、CH4の全ての型締力センサについて状態3に移行するまで処理を続け、F1〜F4の全てを検出し、それらの移行点のうちで最大の型締力の移行点の手前の点を最低型締力とする。
【0028】
また、最低型締力を検出した型締力センサが測定する領域は金型が初めに開き始めて成形品にバリが出やすいことがわかるため、良品検査の際にどこを重点的に調べればよいかがわかる。
【0029】
なお、わずかなバリも許されない場合にはマージンとして検出された最低型締力を状態2区間の区間内で補正してもよい。
【0030】
金型のひずみの解放が生じる状態2の設定型締力は、最大射出圧と金型の投影面積を参考に考えられる十分に足りている状態1の型締力で射出を行い、型締力を下げながら各射出中の型締力最大増加量を算出し、型締力最大増加量の変化が生じる点から求めることができる。また、前記の状態1から2へ型締力を変化させて状態2の設定型締力を求める方法以外にも、任意の設定型締力で型締力最大増加量を算出し、型締力最大増加量に変化が生じる設定型締力において、オペレータやカメラの監視、良否判別機能によって成形品が良品と判断できる場合の型締力も状態2の設定型締力として求めることができる。
【0031】
本発明の実施形態は、型締力検出装置を備えた射出成形機において、最大射出圧と金型の投影面積を参考に考えられる十分に足りている型締力から射出を試行して、型締力を下げながら各射出中の型締力最大増加量を計測することに対応できる。つまり状態1に該当する任意の型締力を設定することによって、型締力を下げながら各射出中の型締力最大増加量を計測することに対応できる。なお、本発明の実施形態は、状態2において少なくとも異なる2つの型締力を設定し、2つの型締力最大増加量を求め、状態3において少なくとも1つの型締力を設定し1つの型締力最大増加量を求める必要がある。
【0032】
前述したように型締力最大増加量とは設定型締力と射出中の型締力の最大値との差を意味する。金型の大きさや構造によって必ずしも設定型締力と金型に負荷される実際の型締力が一致するとは限らないため、本発明の実施形態では型締め後であって射出前に検出される型締力と射出中に検出される型締力の最大値の差から正確な型締力最大増加量を測定してもよい。そして射出中の型締力最大増加量が状態2から状態3に移行する点(型締力最大増加量が大きく変化する点)を検出し、その直前の型締力を金型が開かない必要最小限の設定型締力として求めることができる。また他の実施形態として、状態2と状態3でそれぞれ線形近似式を求め、それらの線形近似式の交点を基に金型が開かない必要最小限の設定型締力として求めることができる。
【0033】
本発明によって、金型が開かない必要最小限の設定型締力を、従来技術(特許文献3に開示される技術)よりもより確実に求めることができる。必要最小限の設定型締力を求めることで、金型が開くことにより生じるバリの発生を防ぐことができ、ガス抜けしやすい状態で成形することによる品質の向上や、金型に必要以上の負担をかけず金型の寿命を短くしないということが可能となる。
【0034】
図5は、射出成形機の概略ブロック図である。図5に示される射出成形機は、本発明による型締力設定方法を用いて型締力を設定することのできる射出成形機として構成される。射出成形機Mは、機台上(図示省略)に型締部Mc、および射出部Miを備える。射出部Miは樹脂材料(ペレット)を加熱溶融し、当該溶融樹脂を金型40のキャビティ内に射出するものである。型締部Mcは主に金型40(40a、40b)の開閉を行うものである。
【0035】
まず、射出部Miを説明する。射出シリンダ1の先端にはノズル2が取り付けられ、射出シリンダ1内には、スクリュ3が挿通されている。スクリュ3には、スクリュ3に掛る圧力により樹脂圧力を検出するロードセル等を用いた樹脂圧力センサ5が設けられている。樹脂圧力センサ出力信号は、A/D変換器16によりデジタル信号に変換されサーボCPU15に入力される。
【0036】
スクリュ3は、スクリュ回転用サーボモータM2により、プーリ,ベルト等で構成された伝動機構6を介して回転させられる。また、スクリュ3は、スクリュ前後進用サーボモータM1によって、プーリ,ベルト,ボールねじ/ナット機構などの回転運動を直線運動に変換する機構を含む伝動機構7を介して駆動され、スクリュ3の軸方向に移動させられる。なお、符号P1はスクリュ前後進用サーボモータM1の位置,速度を検出することによって、スクリュ3の軸方向の位置、速度を検出する位置・速度検出器であり、符号P2はスクリュ回転用サーボモータM2の位置、速度を検出することによって、スクリュ3の軸周り回転位置、速度を検出する位置・速度検出器である。符号4は射出シリンダ1に樹脂を供給するホッパである。
【0037】
次に、型締部Mcを説明する。型締部Mcは、可動プラテン30を前後進させる可動プラテン前後進用サーボモータM3、リアプラテン31、成形品を金型から押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進用サーボモータM4、可動プラテン30、タイバー32、固定プラテン33、クロスヘッド34、エジェクタ機構35、トグル機構36を備える。リアプラテン31と固定プラテン33とは複数本のタイバー32で連結されており、可動プラテン30はタイバー32にガイドされるように配置されている。可動プラテン30に可動側金型40a,固定プラテン33に固定側金型40bが取り付けられている。トグル機構36は、可動プラテン前後進用サーボモータM3によって駆動されるボールねじ軸38に取り付けられたクロスヘッド34を進退させることによって、作動する。この場合、クロスヘッド34を前進(図における右方向に移動)させると、可動プラテン30が前進させられて型閉じが行われる。そして、可動プラテン前後進用サーボモータM3による推進力にトグル倍率を乗じた型締力が発生させられ、その型締力によって型締が行われる。
【0038】
複数本あるタイバー32の少なくとも2本に型締力センサ41が配設されている。各々の型締力センサ41は、各々が配設されたタイバー32の歪みを検出するセンサであり、型締力検出部に対応する。タイバー32には、型締めの際に型締力に対応して引張力が加わり、型締力に比例してわずかであるが伸長する。したがって、タイバー32の伸び量を型締力センサ41によって検出することで、金型40に実際に印加されている型締力を知ることができる。型締力センサ41としては例えば歪センサを用いることができる。型締力センサ41からの検出信号はA/D変換器27を介してサーボCPU15に送られる。図2に示される型締力と時間との関係のグラフは型締力センサ41からの検出信号を基に得られる。そして、設定型締力と、設定型締力と射出中の最大型締力の差分である型締力最大増加量をサーボCPU15にて算出し、得られたデータをRAM14に記憶する。ここで前記設定型締力には型閉じ終了後であって射出開始前の検出した型締力を用いる。あるいは、設定した型締力の値を用いてもよい。
【0039】
リアプラテン31には型締位置調整用モータM5が配設されている。型締位置調整用モータM5の回転軸には、駆動用歯車が取り付けられている。タイバーナットの歯車および前記駆動用歯車には歯付きベルトなどの動力伝達部材が架け回されている。そのため、型締位置調整用モータM5を駆動して、前記駆動用歯車を回転させると、それぞれのタイバー32のねじ部37に螺合されたタイバーナットが同期して回転させられる。これにより、型締位置調整用モータM5を所定の方向に所定の回転数だけ回転させて、リアプラテン31を所定の距離だけ進退させることができる。型締位置調整用モータM5は図示されるようにサーボモータが好ましく、回転位置検出用の位置検出器P5を備えている。位置検出器P5によって検出された型締位置調整用モータM5の回転位置の検出信号はサーボCPU15に入力される。本発明においては型締位置調整用モータM5を駆動することにより、例えば図6図7に示される処理を実行することによって最適な型締力を設定することができる。
【0040】
射出成形機Mの制御装置は、数値制御用のマイクロプロセッサであるCNCCPU20、プログラマブルマシンコントローラ用のマイクロプロセッサであるPMCCPU17、及びサーボ制御用のマイクロプロセッサであるサーボCPU15を有し、バス26を介して相互の入出力を選択することにより各マイクロプロセッサ間で情報伝達が行えるように構成されている。
【0041】
サーボCPU15には、位置ループ,速度ループ,電流ループの処理を行うサーボ制御専用の制御プログラムを格納したROM13と、データの一時記憶に用いられるRAM14が接続されている。また、サーボCPU15は、A/D(アナログ/デジタル)変換器16を介して射出成形機本体側に設けられた射出圧などの各種圧力を検出する樹脂圧力センサ5からの圧力信号を検出できるように接続されている。サーボCPU15には、サーボCPU15からの指令に基づいて、射出軸に接続されたスクリュ前後進用サーボモータM1,スクリュ回転軸に接続されたスクリュ回転用サーボモータM2を駆動するサーボアンプ11,12が接続され、各サーボモータM1,M2に取り付けられた位置・速度検出器P1,P2からの出力がサーボCPU15に帰還されるようになっている。各サーボモータM1,M2の回転位置は、位置・速度検出器P1,P2からの位置のフィードバック信号に基づいてサーボCPU15により算出され、各現在位置記憶レジスタに更新記憶される。
【0042】
可動プラテン前後進用サーボモータM3,エジェクタ前後進用サーボモータM4には、それぞれサーボアンプ8,9が接続されている。各サーボモータM3,M4に取り付けられた位置・速度検出器P3,P4からの出力がサーボCPU15に帰還されるようになっている。各サーボモータM3,M4の回転位置は位置・速度検出器P3,P4からの位置のフィードバック信号に基づいてサーボCPU15により算出され、各現在位置記憶レジスタに更新記憶される。
【0043】
PMCCPU17には射出成形機のシーケンス動作を制御するシーケンスプログラム等を記憶したROM18および演算データの一時記憶等に用いられるRAM19が接続され、CNCCPU20には、射出成形機を全体的に制御する自動運転プログラム、本発明に関連した型締力設定方法を実現する制御プログラムなどの各種プログラムを記憶したROM21および演算データの一時記憶に用いられるRAM22が接続されている。成形データ保存用RAM23は、不揮発性のメモリであって、射出成形作業に関する成形条件と各種設定値,パラメータ,マクロ変数等を記憶する成形データ保存用のメモリである。表示装置/MDI(手動データ入力装置)25はインタフェース(I/F)24を介してバス26に接続され、機能メニューの選択および各種データの入力操作等が行えるようになっている。数値データ入力用のテンキーおよび各種のファンクションキー等が設けられている。なお、表示装置としては、LCD(液晶表示装置)、CRT、その他の表示装置を用いたものでもよい。
【0044】
以上の射出成形機の構成により、PMCCPU17が射出成形機全体のシーケンスを制御し、CNCCPU20がROM21の運転プログラムや成形データ保存用RAM23に格納された成形条件等に基づいて各軸のサーボモータに対して移動指令の分配を行い、サーボCPU15は各軸に対して分配された移動指令と位置・速度検出器P1,P2,P3,P4,P5で検出された位置および速度のフィードバック信号等に基づいて、ディジタルサーボ処理を実行し、サーボモータM1,M2,M3,M4,M5を駆動制御する。
【0045】
上記射出成形機Mを用いた成形動作を説明する。可動プラテン前後進モータM3を正方向に回転させると、ボールねじ軸38が正方向に回転させられ、ボールねじ軸38に螺合したクロスヘッド34は前進(図4における右方向)させられ、トグル機構36が作動させられると、可動プラテン30が前進させられる。
【0046】
可動プラテン30に取り付けられた可動側金型40aが固定側金型40bと接触すると(型閉状態)、型締工程に移行する。型締工程では、可動プラテン前後進用サーボモータM3を更に正方向に駆動することで、トグル機構36によって金型40に型締力が発生する。そして、射出部Miに設けられたスクリュ前後進用サーボモータM1が駆動されてスクリュ3の軸方向に前進することにより、金型40内に形成されたキャビティ空間に溶融樹脂が充填される。型開きを行う場合、可動プラテン前後進モータM3を逆方向に駆動すると、ボールねじ軸38が逆方向に回転させられる。それに伴って、クロスヘッド34が後退し、トグル機構36が屈曲する方向に作動し、可動プラテン30がリアプラテン31の方向に後退する。型開工程が完了すると、成形品を可動側金型40aから押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進モータM4が作動する。これによって、エジェクタピン(図示せず)が可動側金型40aの内面から突き出され、可動側金型40a内の成形品は可動側金型40aより突き出される。
【0047】
次に、本発明の実施形態による型締力設定方法および型締力設定装置について説明する。本発明の実施形態では、射出成形機の適切な型締力を設定するために、タイバー32に取り付けられた型締力センサ41を用いる。型締力センサ41は成形中の型締力を検出するために設けられたセンサである。本発明の実施形態は、型締力センサ41の検出値に基づいて適切な型締力を求める方法および装置である。
【0048】
図6は従来技術(特許文献3)である、最低型締力を1個の型締力センサが検出する流れを示すフローチャートである。以下各ステップに従って説明をする。
[ステップS1]
十分に足りている設定型締力Fs1で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量を計測し、計測値のバラツキや誤差を除くために頻繁値や中心値などを用いて型締力最大増加量Fmax1を特定し、設定型締力Fs1と該設定型締力Fs1に対応する型締力最大増加量Fmax1を一点記憶する。
[ステップS2]
設定型締力Fs2を(Fs1−ΔFs)とする。ΔFsは正の値である。
[ステップS3]
設定型締力Fs2で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量を計測し、計測値のバラツキや誤差を除くために頻繁値や中心値などを用いて型締力最大増加量Fmax2を特定し、設定型締力Fs2と該設定型締力Fs2に対する型締力最大増加量Fmax2を一点記憶する。
[ステップS4]
ステップS1で得られたFmax1とステップS3で得られたFmax2とが、Fmax1<Fmax2の場合(YES)にはステップS5へ移行して、そうでない場合(NO)はステップS6へ移行する。
[ステップS5]
N=2とする。なお、Nは型締力最大増加量を特定するために設定型締力を変更する変更回数を表す。
[ステップS6]
N=2とする。なお、Nは型締力最大増加量を特定するために設定型締力を変更する変更回数を表す。
[ステップS7]
設定型締力Fs3を(Fs2−ΔFs)とする。ΔFsは正の値である。
[ステップS8]
設定型締力Fs3で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量を計測し、計測値のバラツキや誤差を除くために頻繁値や中心値などを用いて型締力最大増加量Fmax3を特定し、設定型締力Fs3と該設定型締力Fs3に対する型締力最大増加量Fmax3を一点記憶する。
[ステップS9]
ステップS3で得られたFmax2とステップS8で得られたFmax3とが、Fmax2<Fmax3の場合(YES)にはステップS10へ移行して、そうでない場合(NO)はステップS11へ移行する。
[ステップS10]
Nに1を加算し、ステップS12へ移行する。
[ステップS11]
Nに1を加算し、ステップS5へ戻る。つまり、FmaxN<FmaxN+1を満たすまでステップ7〜9,11までの処理を繰り返し行う。
[ステップS12]
直前のステップで比較した値(FsN、FmaxN)と(FsN+1、FmaxN+1)を用いて線形近似直線Fmax=a*Fs+bを求める。また、測定データのバラツキや測定誤差を基に閾値α(α>0)を求める。なお、設定型締力と型締力最大増加量との組を示すのに(FsN、FmaxN)などと表記する。
[ステップS13]
設定型締力FsN+1を(FsN−ΔFs)とする。ΔFsは正の値である。
[ステップS14]
設定型締力FsN+1で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量FmaxN+1を計測し、設定型締力FsN+1と型締力最大増加量FmaxN+1を記憶する。
[ステップS15]
設定型締力FsN+1に対するステップS12で求めた線形近似直線から求められる型締力最大増加量a*FsN+1+bとステップS14で計測した型締力最大増加量FmaxN+1が、FmaxN+1−(a*FsN+1+b)≦αの場合(YES)はステップS16へ移行して、そうでない場合(NO)はステップS17へ移行する。
[ステップS16]
Nに1を加算し、ステップS13へ移行する。
[ステップS17]
設定型締力FsN+2を(FsN+1 −ΔFs’)とする。ΔFs’はΔFsよりも小さい正の値である。
[ステップS18]
設定型締力FsN+2で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量FmaxN+2を計測し、設定型締力FsN+2と型締力最大増加量FmaxN+2を記憶する。
[ステップS19]
設定型締力FsN+2に対するステップ8で求めた線形近似直線から求められる型締力最大増加量a*FsN+2+bとステップ13で計測した型締力最大増加量FmaxN+2が、FmaxN+2−(a*FsN+2+b)≦αの場合(YES)はステップS20へ移行して、そうでない場合(NO)はステップS21へ移行する。
[ステップS20]
Nに2を加算し、ステップS13へ移行する。
[ステップS21]
FsNを金型が開かない必要最小限の型締力として設定型締力に設定して処理を終了する。
【0049】
次に本発明について説明する。本発明では少なくとも2つの型締力センサにて最低型締力を検出する。図7のフローチャートは4つの型締力センサにて最低型締力を検出する例であり、以下各ステップに従って説明をする。なお、図7において紙面の関係から各ステップの内容は記載を略している。
[ステップST1]
各型締力センサに対し割り当てられた状態レジスタ(1)〜状態レジスタ(4)を状態1にする。
[ステップST2]
N及びMを1とし、1個目の型締力センサに対し処理を開始する。なお、Nは型締力を変更する変更回数である。Mは状態レジスタの番号である。
[ステップST3]
状態レジスタ(M)が状態1の場合、ステップST5へ移行する。それ以外の場合、ステップST4へ移行する。
[ステップST4]
状態レジスタ(M)が状態2の場合(YES)、ステップST10へ移行する。それ以外の場合(NO)、ステップST13へ移行する。
[ステップST5]
Nの値が1の場合、ステップST6へ移行する。それ以外の場合、ステップST7へ移行する。
[ステップST6]
十分に足りている設定型締力Fs(1)で5成形サイクルを実行し、射出中の型締力最大増加量を計測し、計測値のバラツキや誤差を防ぐために頻繁値や中心値などを用いて設定型締力Fs(1)に対する型締力最大増加量Fmax(1,M)を一点記憶する。ステップST7へ移行する。
[ステップST7]
設定型締力Fs(N+1)を(Fs(N)−ΔFs)とする。ΔFsは正の値である。設定型締力Fs(N+1)で5成形サイクルを実行し、射出中の型締力最大増加量を計測し、計測値のバラツキや誤差を除くために頻繁値や中心値などを用いて設定型締力Fs(N+1)に対する型締力最大増加量Fmax(N+1,M)を一点記憶する。ステップST8へ移行する。
[ステップST8]
Fmax(N+1,M)>Fmax(N,M)ならば(YES)、ステップST9へ移行する。そうでない場合(NO)は、ステップST16へ移行する。
[ステップST9]
直前のステップまでで計測した値(Fs(N)、Fmax(N,M))と(Fs(N+1)、Fmax(N+1,M))を用いて線形近似直線F(N,M)=a(M)*Fs(N)+b(M)を求める。また、測定データのバラツキや測定誤差を基に閾値α(M) (α(M)>0)を求める。状態レジスタ(M)を状態2にし、ステップST16へ移行する。
[ステップST10]
設定型締力Fs(N+1)で5成形サイクルを実行し、射出中の型締力最大増加量Fmax(N+1,M)を計測し記憶する。
[ステップST11]
ステップST10の設定型締力Fs(N+1)に対するステップST9で求めたF(N+1,M)とステップST11で計測した型締力最大増加量Fmax(N+1,M)について、Fmax(N+1,M)−(a(M)*Fs(N+1)+b(M))≦α(M)の場合(YES)はステップST16へ移行して、そうでない場合(NO)はステップST12へ移行する。
[ステップST12]
状態レジスタ(M)を状態3にする。ステップST16へ移行する。
[ステップST13]
設定型締力Fs(N+1)で5成形サイクル実行し、射出中の型締力最大増加量Fmax(N+1,M)を計測し記憶する。
[ステップST14]
ステップST13の設定型締力Fs(N+1)に対するステップST9で求めたF(N+1,M)とステップST13で計測した型締力最大増加量Fmax(N+1,M)について、Fmax(N+1,M)−(a(M)*Fs(N+1)+b(M))≦α(M)の場合(YES)はステップST15へ移行して、そうでない場合(NO)はステップST19へ移行する。
[ステップST15]
状態レジスタ(M)を状態2にする。ステップST16へ移行する。
[ステップST16]
Mを1増加させ、別の型締力センサの処理へ移行する。
[ステップST17]
4個の型締力センサ全ての処理を終えてM>4となっている場合(YES)は、ステップST18へ移行し、それ以外の場合(NO)は、ステップST3へ移行する。
[ステップST18]
Mを1にして1個目の型締力センサの処理に戻り、Nを1増加させて設定型締力を減らしてから、ステップST3へ移行する。
[ステップST19]
Fs(N−1)を金型が開かない必要最小限の型締力として設定型締力に設定して処理を終了する。
【0050】
ステップST1〜ステップST19の方法では、ステップST19において最低型締力が検出されるまで各型締力センサで処理が行われる。ただし、先に状態2に移行した型締力センサは先に状態3に移行する場合が多い。そのため、型締力センサの1つが状態2に移行した場合に、それ以降は状態2に移行した型締力センサのみにて測定と処理を行ってもよい。
【0051】
また、ステップST1〜ステップST19の方法では、複数の型締力センサのうちどれか1つについてステップST19を実行して、必要最小限の型締力を求めたところで処理を終了する。それ以外の方法として、全ての型締力センサについて状態3に移行するまで処理を続け、状態3に移行する設定型締力を求め、その設定型締力のうちで最大の設定型締力を最低型締力として設定してもよい。
本発明は、複数本のタイバーに型締力センサを設置し型締力を測定することにより、金型が初めに開く場所を特定し、その場所における金型が開かない最低型締力を求めることにより、金型が開くことにより生じるバリを防ぐことができ、またガス抜けが生じやすい状態で成形することによる品質の向上や、金型に必要以上の負担をかけず金型の寿命を不必要に短くしないことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 射出シリンダ
2 ノズル
3 スクリュ
4 ホッパ
5 樹脂圧力センサ
6 伝動機構
7 伝動機構
8 サーボアンプ
9 サーボアンプ
10 サーボアンプ
11 サーボアンプ
12 サーボアンプ
13 ROM
14 RAM
15 サーボCPU
16 A/D変換器
17 PMCCPU
18 ROM
19 RAM
20 CNCCPU
21 ROM
22 RAM
23 成形データ保存用RAM
24 インタフェース
25 表示装置/MDI(手動データ入力装置)
26 バス
27 A/D変換器
30 可動プラテン
31 リアプラテン
32 タイバー
33 固定プラテン
34 クロスヘッド
35 エジェクタ機構
36 トグル機構
37 ねじ部
38 ボールねじ軸
40 金型
40a 可動側金型
40b 固定側金型
41 型締力センサ
M 射出成形機
Mc 型締部
Mi 射出部
M1 スクリュ前後進用サーボモータ
M2 スクリュ回転用サーボモータ
M3 可動プラテン前後進用サーボモータ
M4 エジェクタ前後進用サーボモータ
M5 型締位置調整用モータ
P1 位置・速度検出器
P2 位置・速度検出器
P3 位置・速度検出器
P4 位置・速度検出器
P5 位置検出器
図1
図2
図4-1】
図6-1】
図7
図3-1】
図3-2】
図4-2】
図5
図6-2】