(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
盛土からの土圧を保持するコンクリートパネル等の壁面材と、盛土中に設けられて盛土を補強する補強材とから構成される補強土壁の工法として、補強材に帯鋼を用いるテールアルメ工法や、補強材にジオテキスタイルを用いるジオテキスタイル工法等が公知となっている。
【0003】
また、壁面材にコンクリートパネルを用い、補強材として壁面材に結合したチェーンを用いる補強土壁工法も知られている(特許文献1)。
【0004】
上記工法では、補強材にチェーンを用いることにより摩擦抵抗、支圧抵抗およびせん断抵抗の三つで補強効果を発揮できるものの、土圧に耐え得るだけの厚みを有するコンクリートパネルは重いため、コンクリートパネルの運搬・設置等のために高コストとなるという難点があった。
【0005】
一方、壁面材として、
図15に示すように、複数のハニカムセル91aに仕切られた枠体91内に掘削土(図示省略)を充填して壁面材を構成するとともに、ジオテキスタイル92をハニカムセル91aに挿入し巻き回して補強材とし、この壁面材を上下に積み重ねて構成する補強土壁構造9も知られている(特許文献2)。
【0006】
上記補強土壁構造では、軽量な枠体91を施工現場まで運搬し、施工現場で枠体91を展開し、その中に掘削土を充填して壁面材を組み立てるので、壁面材自体は低コストで構築することができるというメリットがある。しかし、補強材たるジオテキスタイル92を、結合部のハニカムセルに挿入して巻き回す必要があるため、ジオテキスタイル92を大量に必要とし、さらに補強材の敷設と盛土層の形成とが複雑に入り組むため、補強土壁構造9全体の構築が高コストとなるという問題があった。また、補強材として帯状のジオテキスタイル92を用いているため、壁面材を補強材に結合するには、枠体のセルの形状は辺が直線であるようなハニカムや、矩形である必要があり、曲線の辺で囲まれたセルを有する枠体が使用できないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、補強土壁を構成する各部材が軽量で部材運搬の負担が小さく、また容易な施工方法でありながら壁面と補強材との連結が強固であり、全体として低コストとなる補強土壁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、壁面材が上下に積み重ねられて成る擁壁と、前記擁壁の後方に形成される盛土と、前記擁壁に結合され前記盛土中を後方に延びるチェーンとを備え、前記壁面材が、上下に開口するセルに仕切られた枠体内に充填材が充填されて成り、前記枠体が、平面視で弧状に形成された弧状片を一対備え、対向配置された一対の前記弧状片により前記セルが区画され、前記弧状片が、上下方向に延びる複数の縦筋と周方向に延びる複数の横筋とが格子状に交差して形成されており、隣接する前記弧状片の前記縦筋同士をまとめて、螺旋状の線材から成る結合材が巻きついて、前記弧状片同士が結合され、当該結合材に巻きつかれた前記縦筋に、前記チェーンが係止されていることを特徴とする補強土壁構造である、
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、壁面材を構成する枠体が上下に開口するセルに仕切ら
れているため、軽量であり運搬の負担が小さく、また補強材がチェーンであるため、壁面
材と補強材との結合および盛土の形成が容易であり、低コストでの構築が可能な補強土壁
構造を提供することができる。また、非組立時はコンパクトであるため施工現場への運搬
が容易であり且つ施工現場での組立が容易な枠体を使用することにより、低コストでの構
築が可能な補強土壁構造を提供することができる。しかも枠体が軽量であり且つ施工現場における組立が容易であり、擁壁の形状の自由度の高い補強土壁構造を提供することができるとともに、壁面材のうち強度の高い箇所をチェーンで支持することにより、安定した構造の補強土壁構造を提供することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明は、壁面材が上下に積み重ねられて成る擁壁と、前記擁壁の後方に形成される盛土と、前記擁壁に結合され前記盛土中を後方に延びるチェーンとを備え、前記壁面材が、上下に開口するセルに仕切られた枠体内に充填材が充填されて成り、前記枠体が、平面視で弧状に形成された弧状片を複数備え、対向配置された一対の前記弧状片により前記セルが区画され、前記弧状片が、上下方向に延びる複数の縦筋と周方向に延びる複数の横筋とが格子状に交差して形成されており、隣接する前記弧状片の前記縦筋同士をまとめて、螺旋状の線材から成る結合材が巻きついて、前記弧状片同士が結合され、前記枠体に設けられた係止部材に前記チェーンが係止されており、前記係止部材が、前記枠体を補強土壁の幅方向に串刺しするように貫通して、前記縦筋に係止されている筋材であって、前記セル内においてこの筋材に前記チェーンが繋ぎ止められていることを特徴とする補強土壁構造である。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、壁面材を構成する枠体が上下に開口するセルに仕切ら
れているため、軽量であり運搬の負担が小さく、また補強材がチェーンであるため、壁面
材と補強材との結合および盛土の形成が容易であり、低コストでの構築が可能な補強土壁
構造を提供することができる。また、非組立時はコンパクトであるため施工現場への運搬
が容易であり且つ施工現場での組立が容易な枠体を使用することにより、低コストでの構
築が可能な補強土壁構造を提供することができる。しかも枠体が軽量であり且つ施工現場における組立が容易であり、擁壁の形状の自由度の高い補強土壁構造を提供することができるとともに、枠体とチェーンとが、少数の部品で結合できるものである。
【0025】
請求項3に記載の発明は、壁面材が上下に積み重ねられて成る擁壁と、前記擁壁の後方に形成される盛土と、前記擁壁に結合され前記盛土中を後方に延びるチェーンとを備え、前記壁面材が、上下に開口するセルに仕切られた枠体内に充填材が充填されて成り、前記枠体が、平面視で弧状に形成された弧状片を複数備え、対向配置された一対の前記弧状片により前記セルが区画され、前記弧状片が、上下方向に延びる複数の縦筋と周方向に延びる複数の横筋とが格子状に交差して形成されており、隣接する前記弧状片の前記縦筋同士をまとめて、螺旋状の線材から成る結合材が巻きついて、前記弧状片同士が結合され、前記枠体に設けられた係止部材に前記チェーンが係止されており、前記係止部材が、前記枠体の後方に当接する係止金具からなり、係止金具はその全長が弧状片の格子の目より長く構成されており、この係止金具にチェーンが繋ぎ止められていることを特徴とする補強土壁構造である。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、壁面材を構成する枠体が上下に開口するセルに仕切られているため、軽量であり運搬の負担が小さく、また補強材がチェーンであるため、壁面材と補強材との結合および盛土の形成が容易であり、低コストでの構築が可能な補強土壁構造を提供することができる。また、非組立時はコンパクトであるため施工現場への運搬が容易であり且つ施工現場での組立が容易な枠体を使用することにより、低コストでの構築が可能な補強土壁構造を提供することができる。しかも枠体が軽量であり且つ施工現場における組立が容易であり、擁壁の形状の自由度の高い補強土壁構造を提供することができるとともに、係止金具の全長が、弧状片の格子の目より長く構成されているため、セルから抜け出ることなくチェーンとの係止が維持される。
【0027】
請求項4に記載の発明は、上段の前記壁面材が下段の前記壁面材より後退して積み重ねられて、前記擁壁が形成されることを特徴とする
請求項1〜3のいずれかに記載の補強土壁構造である。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、傾斜した法面を有する擁壁を設けることができ、さらに後退した壁面材から露出する充填材の上面部分の緑化が可能な、補強土壁構造を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、壁面材を構成する枠体が上下に開口するセルに仕切られているため、軽量であり運搬の負担が小さく、また補強材がチェーンであるため、壁面材と補強材との結合および盛土の形成が容易であり、低コストでの構築が可能な補強土壁構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る補強土壁構造の全体構成を示す平面図および断面図である。
【
図2】第一の実施形態に係る補強土壁構造のうち壁面材とチェーンとを、充填材および盛土を除いて見た斜視模式図である。
【
図3】第一の実施形態の第一の実施例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図4】第一の実施形態の第二の実施例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図5】第一の実施形態の第三の実施例の第一の結合例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図6】第一の実施形態の第三の実施例の第二の結合例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図7】第一の実施形態の第三の実施例の第三の結合例および第四の結合例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た平面図および断面図である。
【
図8】第一の実施形態の第四の実施例の第一の結合例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図9】第一の実施形態の第四の実施例の第二の結合例に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【
図10】本発明に係る補強土壁構造を構築する工程を示す断面図であり、(a)は枠体を展開してチェーンと結合した状態を示し、(b)は枠体のセル内に充填材を充填した状態の図である。
【
図11】本発明に係る補強土壁構造を構築する工程を示す断面図であり、(a)は最下段の壁面材および盛土層を構築した状態を示し、(b)は下から二段目の壁面材および盛土層を構築した状態を示す。
【
図12】本発明に係る補強土壁構造を構築する工程を示す断面図であり、(a)は最上段の壁面材および盛土層を構築した状態を示し、(b)は道路面となる路盤を仕上げた状態を示す。
【
図13】第二の実施形態に係る補強土壁構造のうち壁面材を、充填材および盛土を除いて見た斜視図である。
【
図14】第二の実施形態に係る補強土壁構造における壁面材とチェーンとの結合部を、充填材および盛土を除いて見た側面図である。
【
図15】従来の補強土壁構造のうち、壁面材の形状、およびジオテキスタイルから成る補強材と壁面材との位置関係を示す斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0032】
(第一の実施形態)
まず、本発明の第一の実施形態に係る補強土壁構造の全体構成について、
図1および
図2に基づき説明する。
図1(a)は本発明に係る補強土壁構造の平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)における断面A−Aを示す断面図である。
図2は、補強土壁構造のうち壁面材とチェーンとを、充填材および盛土を除いて見た斜視模式図である。
【0033】
補強土壁構造1は、壁面材3が上下に積み重ねられて成る擁壁2を備える。
図1に示す補強土壁構造1では、上段の壁面材3を下段の壁面材3より後方に後退させるよう壁面材3が積み重ねられている。これによって傾斜する法面が実現している。また、各壁面材3の後方には層状に盛土層41が設けられ、全体として盛土4を形成している。盛土層41の層間には後方に延びるチェーン5が敷設され、チェーン5の後端は固定具6により地盤に固定されている。壁面材3はチェーン5に結合されており、これにより擁壁2が補強されている。また壁面材3は、枠体31のセルに充填材32が充填されて構成されている。上段の壁面材3が下段の壁面材3より後退して配置されているため充填材32の上面部分が露出し、充填材32を土で構成した場合、当該部の緑化が可能となる。
【0034】
次に第一の実施形態に係る補強土壁構造1の主要な構成部材である壁面材3およびチェーン5について、
図1および
図2に基づき説明する。
図2は、上段が下段より後退するように二段積み重ねられた壁面材3について盛土および充填材を除いて見た斜視模式図である。
【0035】
枠体31は、長手方向に延びる三つの帯片33,34,35が接合部31fにおいて交互に接合されて構成されており、展開状態での各帯片33,34,35は平面視で波状曲線となり、帯片同士の間にセル31a,・・・,31aが形成される。すなわち、各セル31aは平面視で略正弦波状の曲線の二辺で囲まれて区画された形状となり、前後方向については前方仕切壁および後方仕切壁で仕切られ、上下については上部開口および下部開口で開口している。
図2に示す形態では、一つの枠体31は前後に二列のセル31aを有し、前列の五つのセル31aは第一帯片33を前方仕切壁とし、第二帯片34を後方仕切壁として形成され、後列の四つのセル31aおよび二つの半割セル31gは、第二帯片34を前方仕切壁とし、第三帯片35を後方仕切壁として形成される。
【0036】
なお、非展開状態での枠体31は帯状であり、軽量且つコンパクトであるため容易に施工現場まで運搬できる。そして施工現場において展開されると、枠体31は区画された複数のセル31aに仕切られることになる。
【0037】
枠体31を構成する帯片33,34,35の材質は任意に選択できるが、強度、重量、耐候性、耐環境性、耐薬品性等の面から高密度ポリエチレンが、好適に使用される。また、帯片33,34,35には孔が設けられていてもよく、これにより軽量となり運搬が容易になる。ただし、第一帯片33については無孔に構成することにより、充填材が法面から外に流出することを防ぐことができる。また、接合部31fにおいては、縫合や融着など適宜の方法で帯片同士が接合される。
【0038】
枠体31内に充填材32が充填されて壁面材3が構成される。このとき、充填材32として盛土材を使用すれば、施工現場に材料を別途搬入する必要がなくなり好適である。しかし、充填材32として、充填後に固結するようなセメントを用いることも勿論可能である。チェーン5の一部をセル内に収容して充填材を固結させると、壁面材3とチェーン5との結合が強固となる。
【0039】
チェーン5の後端は固定具6により地盤Gに固定される。固定具6の構成および地盤Gへの固定方法は任意であるが、
図1に図示する固定具6は、L字断面を有する支圧板61およびアンカーピン62から成る。チェーン5の後端が支圧板61に設けられた切り欠き部に差し込まれた上、チェーン5のリンクを通ってアンカーピン62が打設されることで、チェーン5が地盤Gに固定される。
【0040】
壁面材3とチェーン5との結合方法については、以下の実施形態の説明において詳細に説明する。なお、以下の実施形態を説明するために参照する
図3〜9の中の断面図は、いずれも
図1(a)のA−A断面に相当する断面を、充填材および盛土を除いて見た断面図である。
【0041】
(第一の実施例)
第一の実施形態の第一の実施例に係る補強土壁構造1について、
図3に基づき説明する。本実施例においては、チェーン5の前方側の所定の長さ分が、枠体31の前列のセル31a内に収容されて充填材とともに埋められており、充填材がセル31a内で十分に締め固められることによって、摩擦抵抗によりチェーン5と壁面材3とが強固に結合される。本実施例においては、一本のチェーン5が一段の壁面材3に結合されている。
【0042】
(第二の実施例)
次に第一の実施形態の第二の実施例に係る補強土壁構造1について、
図4に基づき説明する。本実施例においては、下段の壁面材3Lの充填材に打設されたアンカーピン36にチェーン5が繋ぎ止められており、なおかつアンカーピン36の上部は上段の壁面材3Uの充填材内に埋設されている。この構成により、上下二段の壁面材3L,3Uが、充填材およびアンカーピン36を介して一本のチェーン5に結合される。なお、打設するアンカーピンの数および打設位置は任意に設定することができる。すなわち、
図4に示す形態においては、チェーン5はアンカーピン37に繋がれており、アンカーピン37は下段の盛土に打設されつつ上段の壁面材の充填材内に埋設された構成であるところ、このアンカーピン37を省略することも、また前方に移して下段の壁面材の充填材に打設することも可能である。
【0043】
本実施形態においては、チェーン5と枠体31とは直接結合されていないため枠体31に集中荷重が作用せず、チェーン5からの支持力が充填材を介して枠体31に均等に作用する。
【0044】
なお、下段の後方仕切壁31eLの上端から、上段の後方仕切壁31eU下端まで延びるプレートを介在させ、アンカーピン37を打設する形態とすることもできる。こうすると、下段の壁面材3Lに対して相対的に所定の位置に上段の壁面材3Uを配置することが容易となる。
【0045】
(第三の実施例)
次に第一の実施形態の第三の実施例に係る補強土壁構造1について、
図5〜7に基づき説明する。第三の実施例に係る補強土壁構造1は、壁面材3の枠体31に設けられた係止部材にチェーン5が係止されて構成された補強土壁構造である。以下に本実施例における四つの結合例について説明する。
【0046】
(第一の結合例)
図5に示す補強土壁構造1は、係止部材としてフックを用いた構成である。下段の枠体31Lの前列のセル31aLの後方仕切壁31eL下端にはフック71aが掛けられており、これにチェーン5が係止されている。上段の枠体31Uの前列のセル31aUの後方仕切壁31eU上端にはフック71bが掛けられており、これにチェーン52が係止されている。そしてチェーン52はチェーン5にボルト51で結合されており、チェーン5の後端は固定具6により地盤に固定されている。この構成により、上下二段の壁面材3L,3Uが一本のチェーン5に結合されることになる。
【0047】
枠体31においてフック71a,71bが掛けられる位置は任意であるが、本実施例では後方仕切壁31eL,31eUにフックが掛けられている。当該部は第二帯片34と第三帯片35とが重合している場所であるため剛性が高く、チェーン5,52に引張られても枠体31は変形し難いため好適である。なお、チェーン5,52をフック71a,71bに係止する工程でチェーン5,52が外れないよう、フック71a,71b、チェーン5,52および枠体31をまとめて、結束バンド(図示省略)を用いて束縛するのが好適である。また、充填材がセル内で十分に締め固められると、充填材とチェーン5,52との間の摩擦抵抗が大きくなるため、係止力だけでなくこの摩擦抵抗もチェーン5,52と壁面材との強固な結合に寄与する。
【0048】
なお、補強土壁構造1の最上段の壁面材3Uについては、
図5(b)に示すように、ずれ止め用のフック71cを設けるのが好適である。すなわち、最上段の壁面材3Uの前列のセル31aUの後方仕切壁31eUにフック71cの鉛直部71dを当接させるとともに、湾曲部71eをチェーン5のリンクに差し込んで掛けることにより、輪荷重が作用した場合でも最上段の壁面材3Uが前方にずれることが防止できる。
【0049】
(第二の結合例)
図6に示す補強土壁構造1は、係止部材としてL字金具72aとピン72bとからなる結合具72を用いた構成である。すなわち、上段の枠体31Uにボルト73で締結されたL字金具72aに設けられた切り欠きに、チェーン52のリンクが差し込まれ、そのリンクにピン72bが挿入されている。これにより、チェーン52と枠体31Uとが結合される。また、図示は省略しているが、下段の枠体にも同様にチェーン5が結合されており、チェーン5とチェーン52とがボルト51で結合されている。そしてチェーン5の後端は固定具6により地盤に固定されている。この構成により、上下二段の壁面材3L,3Uが一本のチェーン5に結合されることになる。また、充填材がセル内で十分に締め固められると、充填材とチェーン5,52との間の摩擦抵抗が大きくなるため、係止力だけでなくこの摩擦抵抗もチェーン5,52と壁面材3との強固な結合に寄与する。
【0050】
なお、固定具6は支圧板61とアンカーピン62とから構成されているところ、支圧板61も断面がL字であるため、L字金具72aと支圧板61とを共通部品とすると必要な部品の種類を減らすことができ好適である。また、枠体31におけるL字金具72aの締結位置は任意であるが、本実施例では前列のセル31aの後方仕切壁31eである。当該部は第二帯片34と第三帯片35とが重合している場所であるため剛性が高く、チェーン5,52に引張られても枠体31は変形し難いため好適である。
【0051】
また、
図6に示す補強土壁構造における結合具72に代えてボルトで直接チェーン5,52のリンクと枠体31とを結合することも勿論可能であり、これにより少ない部品点数で壁面材3とチェーン5,52とを結合することができる。
【0052】
(第三の結合例)
図7(a),(b)に示す補強土壁構造1は、係止部材として長尺の棒材である筋材74を用いた構成である。
図7(a)は本実施例に係る補強土壁構造1の壁面材一段の平面図であり、
図7(b)は断面B−Bを示す断面図である。枠体31の長手方向に並ぶセル31a,・・・,31aを串刺しするように筋材74が枠体31を貫通しており、セル31a内においてこの筋材74にチェーン5が繋ぎ止められている。これによって、枠体31とチェーン5とが、少数の部品で結合されることになる。
【0053】
(第四の結合例)
図7(c),(d)に示す補強土壁構造1は、係止部材として係止金具75を用いた構成である。
図7(c)は本実施例に係る補強土壁構造1の壁面材一段の平面図であり、
図7(d)は断面C−Cを示す断面図である。セル31a内において後方仕切壁31eの曲面に沿って当接する係止金具75に、チェーン5が繋ぎ止められている。これによって、枠体31とチェーン5とが少ない種類の部品で結合されることになる。
【0054】
(第四の実施例)
次に第一の実施形態の第四の実施例に係る補強土壁構造1について、
図8,9に基づき説明する。第四の実施例に係る補強土壁構造1は、壁面材3の枠体31に設けられた係止部材にチェーン5が係止されており、さらにこの係止部材が上下に積み重ねられた壁面材3同士の相対的な位置を規定するよう構成された補強土壁構造1である。以下に本実施例における二つの結合例について説明する。
【0055】
(第一の結合例)
図8に示す補強土壁構造1は、係止部材として段付金具76aとアイボルト76bとから構成された結合具76を用いた構成である。下段の枠体31Lと上段の枠体31Uとが段付金具76aで結合されており、具体的には、下段の枠体31Lの前列のセル31aLの後方仕切壁31eLと段付金具76aの下部鉛直部76cとが当接し、上段の枠体31Uの前列のセル31aUの後方仕切壁31eUと段付金具76aの上部鉛直部76dとが当接し、それぞれボルトにより結合されている。そして段付金具76aに締結されたアイボルト76bにチェーン5が繋ぎ止められている。この構成により、上下二段の壁面材3L,3Uが一本のチェーン5に結合されることになる。さらに、段付金具76aは上下二段の壁面材3L,3U同士の相対的な位置を規定しており、壁面材3を積み重ねる際に、下段の壁面材3Lに対して相対的に所定の位置に上段の壁面材3Uを配置することが容易となる。なお、アイボルト76bの位置は図示の位置に限られす、任意に設定することができる。また、アイボルト76bに代えて、段付金具から突出する有孔の耳金やクレビスをチェーン5との結合部とすることも可能である。さらに、アイボルト76bに代えて、段付金具76aを通して打設するアンカーピンとし、チェーン5をこのアンカーピンに繋ぎ止めることによって、上下二段の壁面材を一本のチェーン5に結合することも可能である。
【0056】
(第二の結合例)
図9に示す補強土壁構造1は、最下段の壁面材3Lとチェーン5との結合方法の例を示す図であり、係止部材としてL字金具77aとアンカーピン77dとからなる結合具77を用いた構成である。L字金具77aはアンカーピン77dにより地盤に固定され、チェーン5がアンカーピン77dに繋ぎ止められている。ここで、最下段の枠体31Lの前列のセル31aLの後方仕切壁31eLに、アイボルト78がその目をセル31aL内に向けて締結されており、アンカーピン77dがアイボルト78の目を貫通している。さらに、L字金具77aの鉛直部77bが、上段の枠体31Uの前列のセル31aUの後方仕切壁31eUに当接しつつボルトで締結されているとともに、L字金具77aの水平部77cに設けられた孔をアンカーピン77dが貫通している。そして、アンカーピン77dに繋ぎ止められたチェーン5が鉛直部77bに設けられた切り欠きを通過して後方に向けて延びている。したがって、最下段の壁面材3Lが地盤に固定されているのみならず、その上段の壁面材3Uも最下段の壁面材3Lに結合されており、さらにチェーン5がこれら二段の壁面材3L,3Uに結合されている。また、L字金具77aは上下二段の壁面材3L,3U同士の相対的な位置を規定しており、壁面材3を積み重ねる際に、下段の壁面材3Lに対して相対的に所定の位置に上段の壁面材3Uを配置することが容易となる。
【0057】
なお、アイボルト78の使用に代えて、アンカーピン77dを最下段の枠体31Lの前列のセル31aLの後方仕切壁31eLに当接させることによって、最下段の壁面材3Lに対する上段の壁面材3Uの相対的な位置を決めることも可能である。
【0058】
(補強土壁構造構築手順)
次に、第一の実施形態の第二の実施例の第一の結合例に係る補強土壁構造を構築する手順について、
図10〜12および
図5に基づき説明する。
【0059】
展開補助枠81を用いて枠体31を展開し、地盤に設置する。このとき複数の枠体31,・・・,31を長手方向に連結するには、隣接する枠体31の対応する帯片同士を重ねて、ボルト等で締結する。そして、セルの後方仕切壁31eLの下端、特に第二帯片34と第三帯片35とが接合された箇所にフック71aを掛けるとともにチェーン5の先端をフック71aに係止し、外れないように結束バンド71fを用いて束縛する。チェーン5の後部はセルから外に出しておく(
図10(a))。
【0060】
次に、セル内に盛土材からなる充填材32を投入するとともに展開補助枠81を引き抜き、「たこ」等を用いて締固める。セルの上部開口と充填材32の表面とが一致するよう、充填材32の表面を整形する(
図10(b))。チェーン5の一部をセル内に収容したままセル内に充填材32を充填することによって、チェーン5と充填材32との間に強い摩擦抵抗が作用するため、チェーン5が壁面材3Lに強固に結合する。なお、充填材32として、充填後固結するようなセメントを用いると、壁面材3とチェーン5との結合がより強固となる。
【0061】
次に、壁面材3Lの後部に一層目の盛土層41を巻き出し転圧して形成する。なお、枠体31の近傍の締め固めは振動コンパクターを用いて行う。その後、チェーン5を人力で引っ張り、チェーン5の後端を、支圧板61に設けられた切り欠き部に差し込み、アンカーピン62を打設して地盤に固定する(
図11(a))。
【0062】
次に、一層目と同様に二層目の枠体31を展開し、一層目の上に所定の量後退させて枠体31を配置する。そしてセルの後方仕切壁31eUの上端、特に第二帯片34と第三帯片35とが接合された箇所にフック71bを掛けるとともにチェーン52の先端をフック71bに係止し、外れないように結束バンド71fを用いて束縛する。そして、このチェーン52を一層目の盛土層41の上に敷設されたチェーン5に、ボルト51を用いて結合する。そして、一層目と同様の手順でセル内に盛土材からなる充填材32を充填し、壁面材3Uの後部に二層目の盛土層41を巻き出し転圧して形成する(
図11(b))。
【0063】
この手順を繰り返して最上段の層まで施工する。なお、最上段の壁面材3については、輪荷重による前方へのずれを防止するため、ずれ止め用のフック71cを取り付ける(
図12(a))。
【0064】
最後に、道路面となる路盤Rを入念に締め固めて仕上げる。なお、縦断勾配による枠体の段差部分は、土嚢82によって処理する(
図12(b))。
【0065】
このように、枠体の展開、セル内への充填、盛土層の転圧の繰り返しにより構築でき、さらに養生期間も不要であるため、短期間での補強土壁の構築が可能となる。
【0066】
また、一本のチェーン5に、上下に隣接する二段の壁面材3L,3Uが結合されているため、少ない本数のチェーンで壁面材を安定して支持することができる。また、二段の壁面材3L,3Uと一本のチェーン5とを一つのユニットとして扱い、さらにユニットを標準化して設計することによって、設計コストを低減することができる。
【0067】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態に係る補強土壁構造について、
図13および
図14に基づき説明する。
図13は、第二の実施形態に係る補強土壁構造のうち、壁面材を、充填材および盛土を除いて見た斜視図である。
【0068】
本実施形態に係る補強土壁構造の壁面材を構成する枠体37は、平面視で弧状に形成された弧状片38を複数備えており、対向配置された一対の弧状片38,38によりセル37aが区画されている。弧状片38同士は、結合片39により結合されている。
図13(a)に示す枠体37は、四つの弧状片38,・・・,38により、二つのセル37a,37aが区画されている。
【0069】
図13(b)に弧状片38の斜視図を示す。弧状片38は、上下方向に延びる直線状の複数の縦筋38aと、周方向に延びる弧状の複数の横筋38bとが、格子状に交差して形成されている。縦筋38aおよび横筋38bは好適には鉄線からなり、これらが交差点で溶接されて、弧状片38として一体となっている。
【0070】
図13(c)に結合片39の斜視図を示す。結合片39は螺旋状の線材から成り、隣接して配置された縦筋38a同士に巻きつくことによって、複数の弧状片38同士を結合させる。結合片39は好適には鉄線からなり、捻じることにより縦筋38aに巻きつかせる。
【0071】
次に、本実施形態に係る補強土壁構造における、壁面材3とチェーン5との結合方法について、
図14に基づいて説明する。
図14は、壁面材3およびチェーン5について、充填材および盛土を除いて見た側面図である。
【0072】
図14(a)に示す補強土壁構造は、第一の実施形態における
図7(a),(b)に示した結合方法に類似の方法を適用しており、係止部材として長尺の棒材である筋材74を使用している。枠体37の長手方向(図のおける奥行き方法)に並ぶセル37aを串刺しするように筋材74が枠体37を通って貫通しており、セル37a内においてこの筋材74にチェーン5が繋ぎ止められている。これによって、枠体37とチェーン5とが、少数の部品で結合されることになる。
【0073】
図14(b)に示す補強土壁構造は、第一の実施形態における
図7(c),(d)に示した結合方法に類似の方法を適用しており、係止部材として係止金具75を使用している。セル37a内において枠体37の後方に当接する係止金具75に、チェーン5が繋ぎ止められている。係止金具75の全長は、弧状片38の格子の目より長く構成されているため、セル37aから抜け出ることなくチェーン5との係止が維持される。
【0074】
なお、
図14に示す方法以外に、結合片39を巻きつけた縦筋38aにチェーン5を係止することも勿論可能である。この場合、枠体37のうち強度の高い箇所をチェーンで支持することにより、安定した構造の補強土壁構造を提供することができる。
【0075】
上述のとおり、第二の実施形態に係る補強土壁構造と第一の実施形態に係る補強土壁構造との相違点は、壁面材3を構成する枠体の構成方法と、壁面材とチェーンとの結合方法である。上下に開口するセルに仕切られた枠体内に充填材が充填されて壁面材が成り、壁面材が上下に積み重ねられて擁壁を構成し、擁壁の後方に形成される盛土と、擁壁に結合され前記盛土中を後方に延びるチェーンとを備える、という基本的な全体構成は、二つの実施形態で共通している。したがって、第二の実施形態における補強土壁構造の構築手順も、第一の実施形態と同様である。