(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770337
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/05 20060101AFI20150806BHJP
B22D 11/04 20060101ALI20150806BHJP
B22D 11/108 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
B22D11/05 Z
B22D11/04 311D
B22D11/04 311H
B22D11/108 N
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-93964(P2014-93964)
(22)【出願日】2014年4月30日
(62)【分割の表示】特願2010-115794(P2010-115794)の分割
【原出願日】2010年5月19日
(65)【公開番号】特開2014-133264(P2014-133264A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2014年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 俊太
(74)【代理人】
【識別番号】100105441
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久喬
(74)【代理人】
【識別番号】100166707
【弁理士】
【氏名又は名称】香取 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大川 武士
(72)【発明者】
【氏名】植田 和則
(72)【発明者】
【氏名】福永 新一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 康彰
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−323741(JP,A)
【文献】
実開平04−134248(JP,U)
【文献】
国際公開第2003/053611(WO,A1)
【文献】
米国特許第05579824(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/05
B22D 11/04
B22D 11/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の短辺鋳型板を2枚の長辺鋳型板で挟み込む連続鋳造用鋳型を用い、前記短辺鋳型板は溶湯に接する短辺銅板とそれを保持する背面側の短辺フレームからなり、短辺鋳型板を移動するための短辺駆動装置が前記短辺フレームに接続されてなる連続鋳造用鋳型短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法であって、短辺フレームの背面側表面ならびに、短辺フレーム背面側に接続された前記短辺駆動装置、冷却配管およびフレームに液体を散布又は気体を吹き付けることを特徴とする連続鋳造用鋳型短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法。
【請求項2】
前記液体は水であり、又は前記気体は空気であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の短辺鋳型板を2枚の長辺鋳型板で挟み込む連続鋳造用鋳型の短辺鋳型板背面側へのパウダー付着を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼などのスラブを連続鋳造するための連続鋳造においては、
図6に示すように、2枚の短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込む連続鋳造用鋳型が用いられる。長辺鋳型板4と短辺鋳型板1で囲まれた長方形断面の部分が、溶湯を注湯する領域となる。長辺鋳型板4、短辺鋳型板1ともに、溶湯に接する側に銅板が配置され、銅板の背面側に鋼製のフレームを配置して銅板を保持する。銅板にはスリットが刻まれ、スリットを冷却水路として冷却水を流すことにより、水冷銅鋳型としている。長辺鋳型板4の一方とフレーム21との間には長辺押し付け装置22が接続され、長辺押し付け装置22によって長辺鋳型板4の間の距離を狭める方向の力を加えることにより、長辺鋳型板4によって短辺鋳型板1を挟み込むことができる。
【0003】
スラブ連続鋳造においては、種々のスラブ幅のスラブを鋳造するため、2枚の短辺鋳型板1の間隔を可変とする。短辺鋳型板1をスラブ幅方向に移動するための短辺駆動装置7が準備され、短辺鋳型板1の背面に配置された短辺フレーム3に短辺駆動装置7が接続される。短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込んだまま、短辺駆動装置7を駆動することにより、短辺鋳型板相互間の距離を変化させることができる。短辺鋳型板1を駆動する短辺駆動装置7としては、油圧シリンダーなどが用いられる。
【0004】
鋳造開始前、長辺押し付け装置22の作動によって長辺銅板間距離を短辺鋳型板の幅より若干広げ、短辺駆動装置7の作動によって短辺鋳型板1の相互間距離を所定の距離にセットし、その後長辺押し付け装置22の作動によって長辺鋳型板4で短辺鋳型板1を挟み込み、鋳造したいスラブ鋳片サイズの鋳型を形成し、鋳造を開始する。
【0005】
鋳造中に幅変更を行うに際しては、短辺鋳型板1を長辺鋳型板4で挟み込んだ状態のまま、短辺鋳型板1の背面に接続した短辺駆動装置7を動作させることにより、短辺銅板間の距離を変更することでスラブ幅変更を行っている。
【0006】
溶湯の連続鋳造中において、鋳型内の溶湯表面に連続鋳造パウダーが供給される。鋳型内の溶湯表面を被覆する連続鋳造パウダーは、溶湯に接することによって溶解し、鋳型壁と凝固シェルとの間に溶融パウダーフィルムが流れ込み、鋳型壁と凝固シェルの間の潤滑を保持する機能、溶湯内を浮上した酸化物を吸着する機能、溶湯表面を保温する機能を有する。
【0007】
連続鋳造用パウダーを鋳型内に投入するに際し、パウダーが粉塵として舞い上がり、その一部は短辺鋳型板の背面側と2枚の長辺鋳型板とで囲まれた空間(以下「短辺鋳型板背面空間12」ともいう。)にも入り込む。特許文献1においては、鋳型上端からのパウダーの侵入を防止するためのカバーを取り付け、カバー内を気体にてパージすることにより、短辺鋳型板背面空間へのパウダーの侵入を防止する対策を講じている。しかし、この方法を採用してもパウダーの侵入を完全に防止することは難しく、短辺鋳型板背面空間へ少なからずパウダーが侵入することになる。
【0008】
短辺鋳型板背面空間12に入り込んだ連続鋳造用パウダーは、鋳型下方で鋳片冷却用に噴霧される水及び蒸気と混じり合い、短辺鋳型板背面空間に面する長辺銅板表面に付着する。長辺銅板表面にパウダーが付着しこれが蓄積すると、除去することが困難となる。特許文献2に記載のように、短辺鋳型板背面空間に面した長辺銅板表面に散水して濡れ壁を形成することにより、パウダーが長辺銅板表面に付着することを防止できる。これにより、鋳造幅変更時に短辺鋳型板を移動するに際しても、長辺銅板表面との摺動部へのパウダー等の異物噛み込みが抑制されるために、鋳型摺り疵が減少し、鋳型寿命アップが可能になるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−124710号公報
【特許文献2】特開平10−323741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の方法により、短辺鋳型板背面空間において、長辺銅板表面にパウダーが付着する現象を防止することが可能になった。これにより、鋳型摺り疵が減少し、鋳型寿命アップが可能になった。
【0011】
連続鋳造においては、鋳型オッシレーションを付与する。鋳造中において、鋳型を上下方向に振動させる。2枚の短辺鋳型板を2枚の長辺鋳型板で挟み込む連続鋳造用鋳型においては、長辺鋳型板にオッシレーション付与装置を連結して長辺鋳型板を振動させ、短辺鋳型板については長辺鋳型板の振動に同調して振動することとなる。ところが、新たな問題として、鋳型にオッシレーションを付与するに対し、長辺鋳型板を振動させても短辺鋳型板が長辺の振動に同調しないという現象が見られることがあった。
【0012】
鋳型振動の同調不良が発生した際に、鋳型の短辺鋳型板背面空間を観察したところ、長片銅板表面にはパウダー付着が見られないものの、短辺鋳型板の背面側(短辺フレームが設置された側)において、短辺鋳型板に大量のパウダーが堆積していることが判明した。このような短辺鋳型板の背面へのパウダー付着が、短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の原因であると推定された。
【0013】
本発明は、短辺鋳型板背面へのパウダー堆積を防止し、短辺鋳型板のオッシレーション同調不良を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
短辺鋳型板は、短辺銅板を背後から短辺フレームで保持する形態をとっている。そのため、
図4に示すように、短辺鋳型板1の背面25側(短辺銅板2が設置された側の反対側)には、短辺フレーム3とそれに接続される構造物、例えば短辺鋳型板を移動させる短辺駆動装置7等が露出している。短辺鋳型板背面空間12に入り込んだ連続鋳造用パウダーは、鋳型下方で鋳片冷却用に噴霧される水及び蒸気と混じり合い、短辺鋳型板背面空間12に面する短辺フレーム3の表面や、短辺フレームに接続される短辺駆動装置7のシリンダー等の構造物の表面に付着し、堆積物30が堆積していく。堆積量が増大するに従って、堆積物は遂に長片銅板表面に接触するまでになる。さらに、
図5に示すように短辺フレーム3の側面26にも堆積物30が浸入する。短辺鋳型板のオッシレーション同調不良は、短辺鋳型板の背面に堆積したパウダーが長片銅板表面に接触すること、及び短辺フレームの側面に堆積した堆積物が長片銅板表面に接触することによって発生することが明らかになった。
【0015】
そして、短辺フレーム3の背面25側に液体を散布又は気体を吹き付けることによって、短辺鋳型板の背面へのパウダー堆積を防止することができ、結果として短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の発生を防止できることを見出した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)2枚の短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込む連続鋳造用鋳型を用い、短辺鋳型板1は溶湯に接する短辺銅板2とそれを保持する背面側の短辺フレーム3からなり、短辺鋳型板1を移動するための短辺駆動装置7が短辺フレーム3に接続されてなる連続鋳造用鋳型
短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法であって、
短辺フレーム3の背面側表面ならびに、短辺フレーム背面側に接続された前記短辺駆動装置7、冷却配管およびフレームに液体を散布又は気体を吹き付けることを特徴とする連続鋳造用鋳型
短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法。
(2)前記液体は水であり、又は前記気体は空気であることを特徴とする上記(1)に記載の連続鋳造用鋳型
短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の防止方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、2枚の短辺鋳型板を2枚の長辺鋳型板で挟み込む連続鋳造用鋳型を用い、前記短辺鋳型板は溶湯に接する短辺銅板とそれを保持する背面側の短辺フレームからなり、短辺鋳型板を移動するための駆動装置が前記短辺フレームに接続されてなる連続鋳造用鋳型において、短辺フレームの背面側に液体を散布又は気体を吹き付けることにより、短辺鋳型板背面へのパウダー堆積を防止し、短辺鋳型板のオッシレーション同調不良の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を適用する連続鋳造用鋳型の一例を示す図であり、(a)はA−A矢視断面図、(b)は部分正面図、(c)はC−C矢視断面図である。
【
図2】本発明を適用する連続鋳造用鋳型の一例を示す図であり、(a)はA−A矢視断面図、(b)は部分正面図、(c)はC−C矢視断面図である。
【
図3】従来の連続鋳造用鋳型を示す部分平面図である。
【
図4】従来の連続鋳造用鋳型におけるパウダー堆積状況を示す図であり、(a)はA−A矢視断面図、(b)は部分正面図、(c)はC−C矢視断面図である。
【
図5】従来の連続鋳造用鋳型におけるパウダー堆積状況を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1、2に基づいて本発明を説明する。
【0020】
本発明は、2枚の短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込む連続鋳造用鋳型であって、短辺鋳型板1は溶湯に接する短辺銅板2とそれを保持する背面側の短辺フレーム3からなり、短辺鋳型板1を移動するための短辺駆動装置7が短辺フレーム3に接続されてなる連続鋳造用鋳型を対象とする。2枚の短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込み、長辺鋳型板相互間の圧力によって短辺鋳型板1を保持する。油圧シリンダーなどによる短辺駆動装置7が短辺フレーム3に接続されており、短辺鋳型板1を長辺鋳型板4で挟み込みつつ短辺駆動装置7を駆動して短辺鋳型板1を移動することにより、鋳造中であっても鋳造する鋳片幅を変更することができる。
【0021】
溶湯の連続鋳造中において、鋳型内の溶湯表面に連続鋳造パウダーが供給される。連続鋳造用パウダーを鋳型内に投入するに際し、パウダーが粉塵として舞い上がり、その一部は短辺鋳型板の背面側と2枚の長辺鋳型板とで囲まれた空間(短辺鋳型板背面空間12)にも入り込む。
【0022】
短辺鋳型板背面空間12に入り込んだ連続鋳造用パウダーは、鋳型下方で鋳片冷却用に噴霧される水及び蒸気と混じり合い、
図4に示すように、短辺鋳型板背面空間12に面する長辺銅板表面及び短辺鋳型板背面の短辺フレーム3や短辺駆動装置7に付着する。長片銅板表面に付着するパウダーについては、
図3に示すように、短辺鋳型板背面空間12に面した長辺銅板5表面に長辺銅板ノズル14から散水して濡れ壁を形成することにより、パウダーが長辺銅板表面に付着することを防止できる。
【0023】
短辺鋳型板背面の短辺フレーム3には、短辺鋳型板1を移動するための短辺駆動装置7が接続されているほか、冷却水配管8、鋳型下方の短辺サポートロール11や短辺プレートを保持するためのフレーム9が接続されている。従って、短辺鋳型板背面は決して平面ではなく、複雑な形状の構造物を形成している。そして、短辺鋳型板背面空間12に入り込んだ連続鋳造用パウダーは、短辺鋳型板背面の複雑形状の構造物上に付着し、付着パウダーは水分を含有しているので固着・堆積していく。長片銅板表面に散水したのみではこれら短辺鋳型板背面へのパウダーの付着・堆積を防止することができない。短辺鋳型板背面の構造物へのパウダーの堆積が進行すると、
図4に示すように、堆積物30の鋳型幅方向における幅が短辺鋳型板1の幅に等しくなる。
【0024】
前述のように、2枚の長辺鋳型板4は、
図6に示す長辺押し付け装置22の作動により、その間に挟み込んだ2枚の短辺鋳型板1を所定の押し付け力で押し付けている。鋳造開始前、長辺押し付け装置22の作動によって長辺銅板間距離を短辺鋳型板の幅より若干広げ、短辺駆動装置7の作動によって短辺鋳型板1の相互間距離を所定の距離にセットし、その後長辺押し付け装置22の作動によって長辺鋳型板4で短辺鋳型板1を挟み込み、鋳造したいスラブ鋳片サイズの鋳型を形成し、鋳造を開始する。短辺鋳型板背面の構造物へのパウダーの堆積が進行し、堆積物30の鋳型幅方向における幅が短辺鋳型板1の幅に等しくなった段階で、鋳造開始時に長片銅板間距離を短辺鋳型板の幅よりも拡げると、堆積物30の堆積幅が同じように短辺鋳型板の幅よりも広がることとなる。またこのとき、短辺鋳型板と長辺銅板との間に隙間ができるので、短辺鋳型板背面の構造物に堆積したパウダー堆積物の一部が、
図5に示すように短辺鋳型板1の側面26に入り込むこととなる。
【0025】
鋳造を開始するに際し、長辺押し付け装置22を作動して、拡げていた長辺鋳型板間の間隔を狭め、2枚の長辺鋳型板4を短辺鋳型板1に押し付ける。鋳造中において、短辺鋳型板1は長辺鋳型板4に拘束されており、長辺鋳型板4にオッシレーションを付与すると、短辺鋳型板1も長辺鋳型板4に同調してオッシレーション動作を行う。ところが、堆積物30そのものの幅が短辺鋳型板1の幅よりも広くなると、長辺鋳型板4による押し付け力の一部を堆積物30が引き受けることとなり、短辺鋳型板1を押し付ける押し付け力が減殺されるとともに、長辺銅板5と短辺銅板2側面とが接触せずにギャップ27が生じることとなる(
図5)。また、短辺フレーム3の側面26にパウダーが堆積することにより、短辺フレーム3と堆積物30を合わせた幅が短辺鋳型板2の幅よりも広くなると、長辺銅板の押し付け力を短辺フレーム側面に堆積した堆積物が受けることとなり、同じく長辺銅板と短辺銅板側面とが接触せずにギャップ27が生じることとなる。
【0026】
また、鋳造中に鋳片の幅変更を行い、狭幅から広幅に幅を変更する際には、短辺駆動装置7の動作によって短辺鋳型板1を鋳型中央の側から外方に向けて移動することになる。このとき、短辺鋳型板背面へのパウダー堆積が進行していると、堆積したパウダーが短辺鋳型板の側面と長辺銅板との間の隙間に入り込むこととなる。
【0027】
このように、長辺銅板の押し付け力が短辺銅板に働くのではなく堆積物に働くようになると、長辺鋳型板による短辺鋳型板の拘束力が減少し、長辺鋳型板にオッシレーションを付与したときに、短辺鋳型板が長辺鋳型板に追従してオッシレーション動作を行うことが困難となり、オッシレーション同調不良が発生することとなる。オッシレーション同調不良とは、例えば、長辺鋳型板に振幅が±8mm、周波数が100cpmの正弦波形オッシレーションを付与したときに、(1)短辺鋳型板のオッシレーションと長辺鋳型板のオッシレーションとの間で位相ずれが発生、(2)短辺鋳型板の振幅が長辺鋳型板の振幅に比べて小さくなる、(3)振動が停止したりする、の1つ以上の現象が発生することをいう。短辺鋳型板のオッシレーション同調不良が発生すると、鋳型内の溶湯表面に形成した溶融パウダーの流れ込み不良、初期凝固シェルの形成不良が発生し、ブレークアウトの発生につながる危険性がある。
【0028】
本発明においては、
図1、2に示すように、短辺フレーム3の背面側に液体を散布又は気体を吹き付けることを特徴とする。短辺フレーム3の背面側は、短辺フレームの背面側表面が露出するとともに、短辺駆動装置7が接続され、冷却配管8が接続され、さらに鋳型下方の短辺サポートロール11や短辺プレートを保持するためのフレーム9が接続されている。短辺フレーム3の背面側に液体を散布又は気体を吹き付けるに際し、短辺フレームの背面側表面のみならず、短辺フレーム背面側に接続されたこれら短辺駆動装置7、冷却配管8、フレーム9などの構造物にも、液体を散布又は気体を吹き付けることが有効である。これにより、短辺鋳型板の背面側において、構造物表面にパウダーが付着・堆積することを防止することができる。
【0029】
短辺フレームの背面側に液体を散布する場合、液体として鋳型冷却用の循環水を用いると好ましい。鋳型冷却用の循環水は、短辺鋳型板背面空間12へ散布するのに最も安価な液体だからである。鋳型冷却用の循環水以外でも、液体として鋳型外から水道水等で散布は可能で、取り出しも容易なのでこれを用いることができる。但し、短辺鋳型板は一般的に幅変更機構を有しているため、鋳型外から配管等を施工し散布するのは散布位置の調整等が難しく、鋳型冷却用の循環水が最も適当である。液体を散布するに際し、ノズル13からの流速を高めずに単純に液体を対象にかけるだけで十分に堆積防止効果を発揮することができる。さらにノズル13から流速をつけて勢いよく液体を噴射することで、すでに固着した堆積物を除去する効果も発揮するのでより好ましい。液体と圧縮気体を混合し、液体を噴霧状態として対象に吹き付けることとしても良い。
【0030】
短辺フレームの背面側に気体を吹き付ける場合、気体として空気を用いると好ましい。空気は最も安価かつ使用が容易な気体だからである。空気以外でも、気体として窒素、アルゴンを用いることができる。気体を吹き付ける場合、付着対象物の表面に気体の流れがあり、付着物を移動(浮遊)させるだけでも効果はあるが、流速をつけて勢いよく気体を噴霧することで固着を防止することができる。
【0031】
短辺鋳型板は、鋳造中において、鋳造する鋳片幅の変更に応じて短辺駆動装置7によって位置を移動する。短辺フレーム3の背面側に液体を散布又は気体を吹き付けるためのノズル13も短辺鋳型板1とともに移動させることが必要である。従って、短辺フレーム3の背面側に液体を散布するに際して液体として短辺銅板冷却水を用い、短辺銅板冷却水の排水側から取り出すのが好ましい。ノズル13が短辺鋳型板1とともに移動可能でありさえすれば、散布する液体として短辺銅板冷却水を用いなくても良い。一方、短辺銅板冷却水の取水側から取り出すこととすると、鋳型冷却水の流量を安定的に確保することができなくなるおそれがあるため好ましくない。
【0032】
短辺鋳型板1の背面側へのパウダー付着は、まず最初に短辺鋳型板の下部に固着・堆積が発生し、その後固着・堆積部位が上方に拡大していく。最初に固着・堆積が発生するのは、短辺鋳型板1の高さ方向で下から1/4の範囲内である。従って、短辺鋳型板1の高さ方向長さで少なくとも下から1/4までの範囲について、短辺フレームの背面側の短辺フレーム表面及び短辺フレームに接続された構造物に液体を散布又は気体を吹き付けることにより、本発明の効果を発揮することができる。
【0033】
短辺鋳型板の背面側には、短辺駆動装置7が接続されている。通常は
図1に示すように、上下に配置された2つの油圧シリンダーによって短辺駆動装置7が構成される。液体を散布又は気体を吹き付けるためのノズル13の配置については、
図1に示すように、上下に配置された2つのシリンダーの中間位置、短辺鋳型板の高さ方向中央部付近に配置し、このノズル13から短辺鋳型板の背面側に向かって液体を散布又は気体を吹き付けることとすると好ましい。ノズル13から供給された液体又は気体は、短辺鋳型板の高さ方向長さで少なくとも下から1/4までの範囲について、短辺フレームの背面側の短辺フレーム表面及び短辺フレームに接続された構造物に到達すればよい。もちろん、
図2に示すように短辺フレームの背面側の高さ方向全域に液体を散布又は気体を吹き付けることとしてもよい。
【0034】
短辺フレームの背面側に液体を散布するに際しては、短辺鋳型板の背面側下部への初期の固着を防止することが重要であるため、短辺鋳型板の表面及び背面側に配置される構造物表面がぬれる程度に散布すればよい。また短辺フレームの背面側に気体を吹き付けるに際しては、付着対象物(短辺鋳型板背面の構造物)表面に流れがあり、付着物を移動(浮遊)させるくらいの流速にて吹き付ければよい。流速が高いほど効果的である。
【実施例】
【0035】
鋳造厚み250mm、鋳造幅900〜1800mmの鋼スラブを鋳造するスラブ連続鋳造機において本発明を適用した。使用する連続鋳造鋳型は、
図6に示すように、2枚の短辺鋳型板1を2枚の長辺鋳型板4で挟み込む連続鋳造用鋳型であって、短辺鋳型板1は溶湯に接する短辺銅板2とそれを保持する背面側の短辺フレーム3からなり、短辺鋳型板を移動するための短辺駆動装置7が短辺フレーム3に接続されている。長辺鋳型板4も長辺銅板5とそれを保持する長辺フレーム6からなる。短辺駆動装置7は、上下2本の油圧シリンダーを短辺フレームに接続している。連続鋳造鋳型の鋳造方向長さは0.9mである。2枚の長辺鋳型板4は、長辺押し付け装置22の作動により、その間に挟み込んだ2枚の短辺鋳型板を所定の押し付け力で押し付けている。鋳造中の押し付け力は3〜5tonである。
【0036】
本発明例、比較例ともに、
図3に示すように、短辺鋳型板1の背面側と2枚の長辺鋳型板4とで囲まれた空間(短辺鋳型板背面空間12)において、長辺銅板ノズル14を用いて長辺銅板表面に水を散布している。
【0037】
本発明例1、2においては、短辺フレームの背面側に液体として水を散布した。本発明例1は、
図2に示すように、水散布用のノズル13を、短辺駆動装置7の上側の油圧シリンダーの上方(ノズル13a)と鋳型の高さ方向中央部付近(ノズル13b)の2箇所に配置し、短辺鋳型板の背面側の高さ方向全域に水をかけた。本発明例2は、
図1に示すように、水散布用のノズル13を鋳型の高さ方向中央部付近の1箇所に配置し、短辺鋳型板の背面側の高さ方向で下から1/4の範囲について水をかけることとした。付着対象の表面がぬれる程度の水をかけた。
【0038】
本発明例3においては、短辺フレームの背面側に気体として空気を吹き付けた。付着対象の表面に付着物が堆積しない程度に表面に流れが発生するように空気を吹き付けた。
【0039】
比較例1においては、長辺銅板表面への水の散布のみを行い、短辺フレームの背面側への液体の散布、気体の吹き付けを行わなかった。
【0040】
発明の効果の評価については、短辺鋳型板を使用開始してから3ヶ月後において、短辺フレームの背面側へのパウダーの堆積高さを評価することによって行った。3ヶ月としたのは、連続鋳造用鋳型のメンテナンス・解体を3ヶ月毎に行うからである。そして、3ヶ月後のパウダー堆積高さが20mm以下であれば良好と判断した。3ヶ月間に堆積高さが20mmを超えると、堆積物が短辺フレームの側面側にも堆積し、長辺鋳型板による押し付け力の一部を堆積物が引き受けることとなり、短辺鋳型板を押し付ける押し付け力が減殺されてクランプ力が低下するとともに、長辺銅板と短辺銅板側面とが接触せずにギャップが生じるからである。
【0041】
評価の結果、3ヶ月後の短辺フレームの背面側へのパウダー堆積高さは、本発明例1で0〜1mm、本発明例2で0〜4mm、本発明例3で0〜15mm、比較例1で50〜100mmという結果が得られた。
【0042】
本発明例1、2とも、3ヶ月後のパウダー堆積高さは20mm以下で良好範囲であり、また長辺銅板と短辺銅板間距離も基準値以下で過剰なギャップは生じていなかった。本発明例1に比較して本発明例2はパウダー堆積高さが若干高くなっているが、メンテナンス周期から考えると十分に操業可能なレベルの堆積量である。本発明例1については、駆動装置の上側の油圧シリンダーの上方にも水散布ノズルを配置するため、鋳型冷却水からの水散布用の水を取り出すための取り出し位置や、ノズルを配置する位置の調整、短辺鋳型板の背面側において高さ方向の全域に水を散布することが難しいため、水が散布されていない部分が発生した。それに対し本発明例2は、初期に堆積が発生する高さ方向の下から1/4へ確実に水を散布するように配置しており、確実にパウダー堆積を防止することができる。
【0043】
本発明例3は、3ヶ月後のパウダー堆積高さは20mm以下で良好な範囲であった。しかし、液体と比べ、付着を防止したい部分(短辺鋳型板背面空間の構造物表面)全体に散布することが難しく、液体に比べ堆積量が多くなっている。きちんと空気が吹き付けられている部分は堆積がなかった。
【0044】
それに対し比較例1は、3ヶ月間で短辺フレームの背面側に50〜100mmのパウダー堆積が見られ、短辺鋳型板背面フレームの側面側にも堆積が進行し、短辺銅板と長辺銅板の間のギャップが増大するとともに、クランプ力が低下し、オッシレーションの同調不良に至った。
【0045】
鋳型オッシレーションについては、長辺鋳型板に振幅が±8mm、周波数が100cpmの正弦波形オッシレーションを付与したときに、短辺鋳型板のオッシレーション挙動に基づいて評価を行った。その結果、本発明例1、2、3については長辺と短辺がともに同調し、3ヶ月間にわたってオッシレーションがうまくできたが、比較例1では3ヶ月間で同調不良が発生した。
【符号の説明】
【0046】
1 短辺鋳型板
2 短辺銅板
3 短辺フレーム
4 長辺鋳型板
5 長辺銅板
6 長辺フレーム
7 短辺駆動装置
8 冷却水配管
9 フレーム
10 短辺サポートロール
11 ロール
12 短辺鋳型板背面空間
13 ノズル
14 長辺銅板ノズル
21 鋳型フレーム
22 長辺押し付け装置
25 背面
26 側面
27 ギャップ
30 堆積物