(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセルと、
前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板と、
マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールドと、
を備えた燃料電池のスタック構造体であって、
前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と前記複数のセルの一端部とを連通するための1つ又は複数の孔が形成され、
前記各セルの一端部が、対応する前記孔に対応して位置付けられ、
前記接合材が、前記各孔と対応する前記セルの一端部との接合部のそれぞれにおいて前記孔と前記セルの一端部との間に存在する空間に充填されるよう設けられることによって、前記各孔と対応する前記セルの一端部とがそれぞれ接合され、
前記接合材は、アルカリ金属を含有する物質で構成されるとともに、前記接合材における、前記燃料電池の稼働中にて前記マニホールドを介して前記ガス流路に供給される燃料ガスが通過する空間に向いた表面が、前記アルカリ金属を含有しない物質の膜で覆われた、燃料電池のスタック構造体。
それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセルと、
前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板と、
マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールドと、
を備えた燃料電池のスタック構造体であって、
前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と連通するとともに前記複数のセルの一端部を挿入するための複数の挿入孔が形成され、
前記各セルの一端部が、対応する前記挿入孔に遊嵌され、
前記接合材が、前記各挿入孔と対応する前記セルの一端部との接合部のそれぞれにおいて前記挿入孔の内壁と前記セルの一端部の外壁との間に存在する隙間に少なくとも進入するよう設けられることによって、前記各挿入孔と対応する前記セルの一端部とがそれぞれ接合され、
前記接合材は、アルカリ金属を含有する物質で構成されるとともに、前記接合材における、前記燃料電池の稼働中にて前記マニホールドを介して前記ガス流路に供給される燃料ガスが通過する空間に向いた表面が、前記アルカリ金属を含有しない物質の膜で覆われた、燃料電池のスタック構造体。
それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセルと、
前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板と、
マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールドと、
を備えた燃料電池のスタック構造体であって、
前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と前記複数のセルの一端部とを連通するための1つ又は複数の孔が形成され、
前記各セルの一端部が、対応する前記孔に対応して位置付けられ、
前記接合材が、前記各孔と対応する前記セルの一端部との接合部のそれぞれにおいて前記孔と前記セルの一端部との間に存在する空間に充填されるよう設けられることによって、前記各孔と対応する前記セルの一端部とがそれぞれ接合され、
前記接合材は、アルカリ金属を含有する物質で構成されるとともに、前記接合材における、前記燃料電池の稼働中にて酸素を含むガスが通過する空間に向いた表面が、前記アルカリ金属を含有しない物質の膜で覆われた、燃料電池のスタック構造体。
それぞれが、長手方向を有し且つその内部に前記長手方向に沿うガス流路が形成された支持基板と、前記支持基板の表面に設けられ且つ少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極がこの順で積層された発電素子部と、を含む複数のセルと、
前記各セルが支持板の表面から前記長手方向に沿ってそれぞれ突出し且つ前記複数のセルがスタック状に整列するように、前記各セルの前記長手方向の一端部を接合材を用いてそれぞれ接合・支持する支持板と、
マニホールドの内部空間と前記複数のセルの前記ガス流路のそれぞれの一端部とが連通するように、前記支持板が設けられるガスのマニホールドと、
を備えた燃料電池のスタック構造体であって、
前記支持板の表面には、前記マニホールドの内部空間と連通するとともに前記複数のセルの一端部を挿入するための複数の挿入孔が形成され、
前記各セルの一端部が、対応する前記挿入孔に遊嵌され、
前記接合材が、前記各挿入孔と対応する前記セルの一端部との接合部のそれぞれにおいて前記挿入孔の内壁と前記セルの一端部の外壁との間に存在する隙間に少なくとも進入するよう設けられることによって、前記各挿入孔と対応する前記セルの一端部とがそれぞれ接合され、
前記接合材は、アルカリ金属を含有する物質で構成されるとともに、前記接合材における、前記燃料電池の稼働中にて酸素を含むガスが通過する空間に向いた表面が、前記アルカリ金属を含有しない物質の膜で覆われた、燃料電池のスタック構造体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(スタック構造体に使用されるセルの構成の一例)
先ず、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のスタック構造体に使用されるセル100について説明する。
図1に示すように、このセル100は、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0018】
このセル100の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さL1が50〜500mmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さL2が10〜100mmの長方形である(L1>L2)。このセル100の全体の厚さL3は、1〜5mmである(L2>L3)。このセル100の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、
図1に加えて、このセル100の
図1に示す2−2線に対応する部分断面図である
図2を参照しながら、このセル100の詳細について説明する。
図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、
図2に示す構成と同様である。
【0019】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する
図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0020】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl
2O
4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
【0021】
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0022】
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl
2O
4(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y
2O
3(イットリア)が使用されてもよい。
【0023】
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0024】
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0025】
図2及び
図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0026】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0027】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0028】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0029】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0030】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0031】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0032】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO
3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO
3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0033】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0034】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0035】
なお、
図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0036】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0037】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O
2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO
3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O
3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0038】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0039】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(
図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0040】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(
図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(
図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0041】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0042】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(
図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(
図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0043】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0044】
以上、説明した
図1に示す「横縞型」のセル100に対して、
図4に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O
2+2e
−→O
2− (於:空気極60) …(1)
H
2+O
2−→H
2O+2e
− (於:燃料極20) …(2)
【0045】
発電状態においては、
図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、
図4に示すように、このセル100全体から(具体的には、
図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0046】
(製造方法)
次に、
図1に示した「横縞型」のセル100の製造方法の一例について
図6〜
図14を参照しながら簡単に説明する。
図6〜
図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0047】
先ず、
図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、
図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す
図7〜
図14を参照しながら説明を続ける。
【0048】
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、
図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、
図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0049】
続いて、
図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO
3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0050】
次に、
図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0051】
次に、
図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0052】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、
図1に示したセル100において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0053】
次に、
図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0054】
次に、
図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0055】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、
図1に示したセル100が得られる。以上、
図1に示したセル100の製造方法の一例について説明した。
【0056】
なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極20中のNi成分が、NiOとなっている。従って、これらの導電性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。
【0057】
(スタック構造体の全体構成の一例)
次に、上述したセル100を用いた本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のスタック構造体について説明する。
図15に示すように、このスタック構造体は、多数のセル100と、多数のセル100のそれぞれに燃料ガスを供給するための燃料ガスのマニホールド200と、を備えている。マニホールド200の全体は、ステンレス鋼等の材料で構成されている。
【0058】
マニホールド200の天板(換言すれば、ガスタンクの天板(平板))は、多数のセル100を支持するための支持板210を兼ねている。また、マニホールド200には、外部からマニホールド200の内部空間に燃料ガスを導入するための導入通路220が設けられている。各セル100が支持板210の表面から長手方向(x軸方向)に沿ってそれぞれ突出し且つ複数のセル100がスタック状に整列するように、各セル100の長手方向の一端部が支持板210に接合・支持されている(接合構造の詳細は後述する)。各セル100の長手方向の他端部は、自由端となっている。従って、このスタック構造は、「片持ちスタック構造」と表現することができる。
【0059】
図16に示すように、支持板210(マニホールド200の天板)の表面には、マニホールド200の内部空間と連通する多数の挿入孔211が形成されている。各挿入孔211には、対応するセル100の一端部がそれぞれ挿入される。
図17に示すように、各挿入孔211の形状は、長さL4、幅L5の長円形状(L4>L5)を呈し、線対称に関する対称軸の方向(y軸方向)を有する。
【0060】
挿入孔211の長さL4は、セル100の一端部の側面の長さL2(
図1を参照)より0.2〜3mm大きい。同様に、挿入孔211の幅L5は、セル100の一端部の側面の幅L3(
図1を参照)より0.2〜3mm大きい。即ち、
図18、19に示すように、セル100の一端部の側面の長さ方向が挿入孔211の対称軸の方向(挿入孔211の長さ方向)に沿うように、セル100の一端部が挿入孔211に挿入された状態では、挿入孔211の内壁とセル100の一端部の外壁との間に隙間が形成される。換言すれば、セル100の一端部が挿入孔211に遊嵌される。なお、
図18、
図19(特に、
図19)では、前記隙間が誇張して描かれている。
【0061】
図18、
図19に示すように、挿入孔211とセル100の一端部との接合部のそれぞれにおいて、固化された接合材300が前記隙間に充填されるように設けられている。これにより、各挿入孔211と対応するセル100の一端部とがそれぞれ接合・固定されている。
図18に示すように、各セル100のガス流路11の一端部は、マニホールド200の内部空間と連通している。
【0062】
また、
図18に示すように、隣接するセル100、100の間には、隣接するセル100、100の間(より詳細には、一方のセル100の燃料極20と他方のセル100の空気極60)を電気的に直列に接続するための集電部材400が介在している。集電部材400は、例えば、ステンレス鋼で構成されたメッシュ等で構成される。加えて、各セル100について表側と裏側とを電気的に直列に接続するための集電部材500も設けられている。
【0063】
接合材300は、例えば、SiO
2-MgO-Al
2O
3−K
2O、SiO
2-MgO-Al
2O
3−Na
2O系等の腐食物質(Na、K等)を含有する結晶化ガラスで構成され得る。また、接合材300は、SiO
2-MgO-CaO−K
2O、SiO
2-MgO-CaO−Na
2O、SiO
2-MgO-ZnO−K
2O、SiO
2-MgO-ZnO−Na
2O等の腐食物質(Na、K等)を含有する物質によっても構成され得る。なお、本明細書では、結晶化ガラスとは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラス(非晶質)を指す。結晶化ガラスの結晶化度は、具体的には、例えば、「XRD等を用いて結晶相を同定し、SEM及びEDS、或いは、SEM及びEPMA等を用いて結晶化後のガラスの組織や組成分布を観察した結果に基づいて、結晶相領域の体積割合を算出する」ことによって得ることができる。接合材300のコーティング膜310、320については、後述する。
【0064】
以上、説明した燃料電池の片持ちスタック構造を稼働させる際には、
図20に示すように、高温(例えば、600〜800℃)の燃料ガス(水素等)及び「酸素を含むガス(空気等)」を流通させる。導入通路220から導入された燃料ガスは、マニホールド200の内部空間へと移動し、その後、各挿入孔211を介して対応するセル100のガス流路11にそれぞれ導入される。各ガス流路11を通過した燃料ガスは、その後、各ガス流路11の他端(自由端)から外部に排出される。空気は、スタック構造の内部における隣接するセル100間の隙間に沿って、セル100の幅方向(y軸方向)に流される。
【0065】
上述した片持ちスタック構造は、例えば、以下の手順で組み立てられる。先ず、必要な枚数の完成したセル100、並びに、完成したマニホールド200が準備される。次いで、所定の治具等を用いて、複数のセル100がスタック状に整列・固定される。次に、複数のセル100がスタック状に整列・固定された状態が維持されながら、複数のセル100のそれぞれの一端部が、支持板210の対応する挿入孔211に一度に挿入される。次いで、接合材300用の材料を含んだペーストが、挿入孔211とセル100の一端部との接合部のそれぞれの隙間に充填される。その際、
図18に示すように、ペーストが支持板210の表面から上方に向けてはみ出す程度まで前記接合部に供給されてもよい。
【0066】
次に、上記のように充填されたペーストに熱処理が加えられる。この熱処理によってペーストが固化・セラミックス化される。これにより、接合材300が機能を発揮し、各セルの一端部が対応する挿入孔211にそれぞれ接合・固定される。換言すれば、各セル100の一端部が接合材300を用いて支持板210にそれぞれ接合・支持される。その後、前記所定の治具が複数のセル100から取り外されて、上述した片持ちスタック構造体が完成する。接合材300のコーティング膜310、320については、後述する。
【0067】
ここで、支持板210は、「燃料極20に供給される燃料ガスと空気極60に供給される空気との混合を防止するための仕切り部材」としても機能する。従って、接合材300は、支持板210と各セル100の一端部とを接合する機能のみならず、燃料ガスと空気との混合を防止するためのシール機能をも備える。
【0068】
(接合材から蒸発した腐食物質の燃料ガス及び空気への混入の抑制)
上述したように、接合材300を構成する物質には、接合材300のシール機能を高めるため、腐食物質(Na、K)が含まれる。これは、接合材300に腐食物質が含まれることによって、接合材300(より具体的には、接合材300の前駆体であるペースト)の「ぬれ性」が高まり、接合材300によって接合される部分(表面)の密着性が高まることに基づく。
【0069】
しかしながら、接合材300の材料として腐食物質を含有する物質が使用される場合、燃料電池の作動温度において、接合材300から腐食物質が蒸発し、蒸発した腐食物質が、「燃料ガスが通過する空間に面して存在するステンレス部材」(例えば、マニホールド200の内壁等)、並びに、「空気が通過する空間に面して存在するステンレス部材」(例えば、マニホールド200の外壁、集電部材400等)に到達し得る。腐食物質がステンレス部材に到達すると、ステンレス部材が腐食され易い、という問題が発生し得る。
【0070】
そこで、
図21に示すように、このスタック構造体では、接合材300における「マニホールド200の内部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて燃料ガスが通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含有しない物質で構成された膜(コーティング膜)310で覆われている。なお、この「表面」は、「コーティング膜310で覆われないと仮定したときに、燃料電池の稼働中にて燃料ガスにさらされる表面」と記載することもできる。同様に、接合材300における「マニホールド200の外部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて空気が通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含有しない物質で構成された膜(コーティング膜)320で覆われている。なお、この「表面」は、「コーティング膜320で覆われないと仮定したときに、燃料電池の稼働中にて空気にさらされる表面」と記載することもできる。
【0071】
コーティング膜310、320は、例えば、SiO
2−ZnO−BaO−La
2O
3系、SiO
2−ZnO−BaO系等の腐食物質を含有しない結晶化ガラスで構成され得る。コーティング膜310、320を構成する材質は、同じであっても異なっていてもよい。コーティング膜310、320は、緻密質であっても多孔質であってもよい。コーティング膜310、320の厚さは5〜50μmである。コーティング膜310、320は、上記固化・セラミックス化された接合材300の表面に、コーティング膜310、320の材料を含んだペーストの膜をスプレー法、刷け塗り法等を利用して形成し、形成されたペースト膜に熱処理を加えることによって、形成され得る。
【0072】
(コーティング膜310、320が設けられることによる作用・効果)
以上、本発明の実施形態に係るSOFCのスタック構造体では、接合材300における「燃料ガスが通過する空間に向いた表面」が、腐食物質を含有しない物質で構成されたコーティング膜310で覆われる。従って、上述した「発明の概要」の欄で述べた「接合材における同表面から蒸発した腐食物質が、燃料ガスが通過する空間に面して存在するステンレス部材に到達する現象」が発生し得ない(或いは、発生し難くなる)。この結果、「燃料ガスが通過する空間に面して存在するステンレス部材の腐食」の問題が発生しなくなる(或いは、発生し難くなる)。
【0073】
また、接合材300における「空気が通過する空間に向いた表面」が、腐食物質を含有しない物質で構成されたコーティング膜320で覆われる。この結果、「空気が通過する空間に面して存在するステンレス部材の腐食」の問題が発生しなくなる(或いは、発生し難くなる)。
【0074】
加えて、接合材300そのものは、腐食物質を含有する物質で構成される。従って、接合材300(の前駆体であるペースト)の「ぬれ性」の向上によって、接合材300によって接合される部分の密着性が高まる。以上、本発明の実施形態に係るSOFCのスタック構造体によれば、セル100と支持板210(仕切り部材)との密着性を良好に維持しつつ、スタック構造体に含まれる「ステンレス部材」が腐食され難くなる。
【0075】
なお、上記実施形態(
図21を参照)では、腐食物質を含有する物質(接合材300)が占める体積が、腐食物質を含有しない物質の膜(コーティング膜310、320)が占める体積より大きい。これに対し、腐食物質を含有する物質(接合材300)が占める体積が、腐食物質を含有しない物質の膜(コーティング膜310、320)が占める体積より小さくてもよい。
【0076】
以下、接合材300にコーティング膜310、320が設けられることによる上述した作用・効果を確認するために行った試験について説明する。
【0077】
(試験)
この試験では、
図15〜
図21に示したSOFCのスタック構造体について、接合材300の材質、コーティング膜310、320の材質、コーティング膜310、320の厚さ(μm)、及び、コーティング膜310、320の気孔率(体積%)の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、11種類の水準が準備された。各水準に対して1個のサンプル(スタック構造体)が作製された。水準4〜11では、コーティング膜310、320の両方が設けられているが、水準1では、コーティング膜310、320の両方が設けられていない。水準2では、コーティング膜310のみが設けられ、コーティング膜320は設けられていない。水準3では、コーティング膜320のみが設けられ、コーティング膜310は設けられていない。
【0079】
各サンプル(スタック構造体)について、スタック数(セル100の枚数)は5枚であった。セル100は、長さ(x軸方向)L1が50〜500mm、幅(y軸方向)L2が10〜100mm、厚さ(z軸方向)L3が1〜5mmの薄板状を呈していた(
図1、及び
図19を参照)。マニホールド200の支持板210に形成された各挿入孔211の長さ(x軸方向)L4は、セル100の幅L2より0.2〜3mm大きく、各挿入孔211の幅(z軸方向)L5は、セル100の厚さL3より0.2〜3mm大きかった(
図19を参照)。直方体状のマニホールド200、並びに、隣接するセル100間を電気的に接続する集電部材400は、ステンレス鋼で構成されていた。即ち、少なくともマニホールド200、及び集電部材400は、「ステンレス部材」に相当する。
【0080】
接合材300用のペースト内に含有するセラミックス粉末の粒径は0.3〜2.5μmであった。このペーストを固化・セラミックス化するために施された熱処理は、800〜1100℃にて1〜10時間に亘って行われた。固化・セラミックス化された接合材300は緻密質であり、接合材300における腐食物質の含有率は、5〜40重量%であった。
【0081】
コーティング膜310、320は、上記固化・セラミックス化された接合材300の表面に、コーティング膜310、320の材料を含んだペーストの膜をスプレー法、刷け塗り法等を利用して形成し、形成されたペースト膜に熱処理を加えることによって、形成された。この熱処理は、800〜1100℃にて1〜10時間に亘って行われた。コーティング膜310、320の内部に存在する気孔の径の平均値は、0.5〜5μmとされた。接合材300における「マニホールド200の内部空間に向いた表面」の全域がコーティング膜310で覆われていた。同様に、接合材300における「マニホールド200の外部空間に向いた表面」の全域がコーティング膜320で覆われていた。
【0082】
水準4〜11のそれぞれについて、コーティング膜310、320の間で、材質、厚さ、及び気孔率は同じとされた。各水準について、コーティング膜310、320の厚さの調整は、スプレー、又は刷け塗りの繰り返し回数の変更によってなされた。コーティング膜310、320の気孔率の調整は、コーティング膜310、320用のペーストに含まれる材料の粒径、並びに、造孔材(典型的には、PMMA、カーボン粒子等)の粒径を調整することによってなされた。なお、このペースト内に気泡が混入した状態で成膜を行うと、100μm程度の大きな気孔が形成される場合がある。この大きな気孔の形成を防止するため、成膜を行う前に、真空脱泡装置等を利用して、ペースト内の気泡を除去しておくことが望ましい。
【0083】
コーティング膜310、320の「厚さ」として、各膜における所定の3か所での厚さの平均値が使用された。
【0084】
コーティング膜310、320の「気孔率」、及び、「気孔径の平均値」は、以下のように算出された。先ず、膜の気孔内に樹脂が進入するようにその膜に対して所謂「樹脂埋め」処理がなされた。その「樹脂埋め」処理された膜の表面に対して機械研磨がなされた。機械研磨された表面の微構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察して得られた画像に対して画像処理を行うことによって、それぞれの気孔の部分(樹脂が進入している部分)の面積が算出された。それぞれの気孔部分の面積から、それぞれの気孔の等価直径が算出された。それぞれの等価直径の平均値が、膜の「気孔の径の平均値」(μm)とされた。また、「前記機械研磨された表面の全面積」に対する「気孔部分の面積の総和」の割合が、膜の「気孔率」(体積%)とされた。なお、膜の「気孔率」、及び、「気孔径の平均値」の値として、それぞれ、機械研磨された複数個所(例えば、3箇所)の表面からそれぞれ得られる値の平均値を採用することが好ましい。
【0085】
この試験では、各サンプルについて、800℃の高温雰囲気下、電流を一定に維持した状態で、ステンレス部材の腐食の進行度合を評価するための耐久試験が実施された。具体的には、1000hrが経過した時点でのステンレス部材の腐食の発生状況が目視等によって評価された。この評価結果を上記表1に示す。この試験では、「腐食が激しく発生していると認定される場合」が不合格(×)と評価され、「腐食が軽微に発生、又は発生していないと認定される場合」が合格(○又は◎)と評価された。合格のうち、特に「腐食が発生していないと認定される場合」が最良(◎)とされた。なお、水準11については、腐食の発生状況のみを考慮すれば、「最良」と評価される一方で、理由は不明であるが、コーティング膜310、320に軽微なクラックが生じていた。従って、総合的には合格(○)と評価された。
【0086】
表1から明らかなように、コーティング膜310、320の少なくとも一方が設けられると(水準2〜11を参照)、コーティング膜310、320の両方が設けられない場合(水準1を参照)と比べて、ステンレス部材(具体的には、マニホールド200又は集電部材400)の腐食の進行度合いが小さい。これは、コーティング膜310、320の少なくとも一方の存在により、接合材300から蒸発した腐食物質がステンレス部材に到達する量が少なくなること、に起因する、と考えられる。
【0087】
加えて、コーティング膜310、320の厚さが1〜10μmであり、且つ、コーティング膜310、320の気孔率が10〜40体積%である場合(水準4〜10を参照)、コーティング膜310、320にてクラックが発生し難いことに加え、前記耐久試験後においてステンレス部材の腐食が発生しなくなる。
【0088】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、接合材300における「マニホールド200の内部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて燃料ガスが通過する空間に向いた表面)の全域がコーティング膜310で覆われているが、同表面の一部のみがコーティング膜310で覆われ、同表面の前記一部以外の残りの部分がマニホールド200の内部空間にさらされていてもよい。同様に、接合材300における「マニホールド200の外部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて空気が通過する空間に向いた表面)の全域がコーティング膜320で覆われているが、同表面の一部のみがコーティング膜320で覆われ、同表面の前記一部以外の残りの部分がマニホールド200の外部空間にさらされていてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、セル100の一端部そのものが接合材300を用いて支持板210と接合されているが、セル100の一端部に設けられた電極端子が接合材300を用いて支持板210と接合されていてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、支持板210に形成された1つの挿入孔211に1つのセル100の一端部が挿入されているが、
図22に示すように、支持板210に形成された1つの挿入孔211に2つ以上のセル100の一端部が挿入されていてもよい。なお、
図22では、隣接するセル100、100の間隔が誇張して描かれている。更には、支持板210に形成された1つの(唯一の)挿入孔211に複数のセル100の一端部の全てが挿入されていてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、挿入孔211にセル100の一端部が挿入されている(即ち、挿入孔211の内部空間にセル100の一端部が進入している)が(
図18等を参照)、
図23に示すように、孔211にセル100の一端部が挿入されていなくてもよい(即ち、孔211の内部空間にセル100の一端部が進入していなくてもよい)。この場合、接合材300が、各孔211と対応するセル100の一端部との接合部のそれぞれにおいて孔211とセル100の一端部との間に存在する空間に充填されるように設けられる。加えて、上記実施形態と同様、
図23に示す例においても、
図24に示すように、接合材300における「マニホールド200の内部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて燃料ガスが通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含有しないコーティング膜310で覆われている。更には、接合材300における「マニホールド200の外部空間に向いた表面」(換言すれば、SOFCの稼働中にて空気が通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含有しないコーティング膜320で覆われている。
【0092】
また、上記実施形態では、マニホールドの天板が多数のセルを支持するための支持板を兼ねているが(即ち、支持板がマニホールドと一体で構成されているが)、マニホールドの内部空間と複数のセルのガス流路とが連通する限りにおいて、支持板がマニホールドとは別体で構成されていてもよい。
【0093】
また、本発明は、
図25に示すように、「燃料極と、空気極と、燃料極と空気極との間に位置する固体電解質と、からなる平板状のセル」と、「インターコネクタ」(前記「仕切り部材」に相当)と、が交互に積層された燃料電池のスタック構造体にも適用され得る。通常、「インターコネクタ」は、ステンレス鋼で構成される。この場合、
図26に示すように、各セルは、セルの上下に隣接するインターコネクタの端部のそれぞれと、接合材300(腐食物質を含む)を用いて接合されている。そして、接合材300における「燃料ガス流路に向いた表面」(換言すれば、燃料電池の稼働中にて燃料ガスが通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含まないコーティング膜310で覆われている。更には、接合材300における「空気流路に向いた表面」(換言すれば、燃料電池の稼働中にて空気が通過する空間に向いた表面)が、腐食物質を含まないコーティング膜320で覆われている。これらコーティング膜310、320の存在により、ステンレス部材(=インターコネクタ)の腐食の進行度合いが小さくなる。