【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上は、通常のデジタルカメラの光学レンズに関する技術であるが、近年は夜間の防犯目的、照明器具への省エネ目的および伝染病感染者の識別の目的で赤外線カメラが増加している。これは、赤外線は暗い夜でも明るい映像で撮影が可能なことや、人の存在の有無および表面温度を識別できるためである。
【0008】
さらに、熱画像を利用することで、加工機器の温度分布検査、シリコンウェハー、シリコンインゴット、太陽電池パネルなどの温度均質性の検査が出来る。さらに、自動車の夜間歩行者検知カメラ用としても応用が期待されている。
【0009】
識別精度を高める場合は中〜遠赤外線カメラを用いる。ところが、通常の光学レンズでは中〜遠赤外線は透過しにくいため、中〜遠赤外線カメラには、中〜遠赤外線透過レンズを必要とする。従来の中〜遠赤外線透過レンズは、ガラス遷移温度(以下Tgと記載)が700℃以上と高いため金型成形が困難であったが、特許文献4のように、金型成形用としてTgが500℃未満と低いカルコゲナイドガラスレンズが提供されるようになった。
【0010】
ところが、カルコゲナイドガラスの熱膨張係数は15.0MK
−1〜25.0MK
−1であるため、従来のバインダーレス超硬合金による金型では、熱プレスした後の冷却時に、両者間の熱収縮量が大きく異なるためレンズに引張り応力が作用してレンズが割れてしまう。
【0011】
特許文献4では、熱膨張係数が19.5MK
−1のカルコゲナイドガラスのレンズ成形において、18.0MK
−1のステンレスSUS304製の金型を用いているが、ガラスの軟化点(505℃)近くの480℃で加熱、加圧した後、324℃まで冷えた時点から24時間かけて徐冷することによりようやくレンズに割れを生じないようにしている。やはり熱膨張係数の絶対値が大きいので、熱膨張係数が1.5MK
−1の違いでも、スピーディな成形が困難と言える。
【0012】
最近は、より金型成形に対応している低熱膨張係数の中〜遠赤外線透過レンズ用カルコゲナイドガラスが市販されているが、それでもその熱膨張係数は100℃〜300℃で8.3MK
−1〜9.7MK
−1である(株式会社住田光学ガラス製K−GIR79、同K−GIR140)。
【0013】
また、光学レンズの精度及び生産性を高める目的で、より低いTgの種々のガラス(以後、低Tgガラスと記載)が作られるようになっている。これは、より低い温度での成形が可能になるからである。これらの低Tgガラスも、モールド成形に対応しているが、熱膨張係数が30℃〜300℃で6.8MK
−1〜10.2MK
−1である(日本電気硝子株式会社製MPシリーズ)。10.2MK
−1の低TgガラスはTgが480℃と最も低い(日本電気硝子株式会社製MP−61F)。
【0014】
上記した、低熱膨張係数の中〜遠赤外線透過レンズ用のカルコゲナイドガラスは、比較的低Tgであることから超微細な転写成形が可能である。よって、カルコゲナイドガラスは、低Tgであることに基づいて、生産性を高める特徴を持つと共に、超微細な特徴を有する表面のレンズ(例えばマイクロレンズアレイ)のモールド成形に適した成形特性を有し、応用が期待されている。
【0015】
しかし、精密な表面を転写するには、例えばステンレス製のモールドでは、介在物があり、それに起因する凹凸が問題となる。また軟質で鏡面を得にくい。これはTi−4Al−3V合金製モールドなどでも同様である。市販で小さな凹凸もないモールド材料としては、超微粒超硬合金ないし超微粒のバインダーレス超硬合金しかなく、これらを用いてモールド成形する場合、熱膨張係数(前記)の差が大きく、やはりスピーディな成形が困難となる。必要なのはレンズ表面が微細となると共にスピーディな成形である。
【0016】
そこで、本発明者らは、最近の中〜遠赤外線透過レンズ用ガラスおよび低Tgガラスの熱膨張係数に相応する金型材料を発明することとし、初期の開発目標として熱膨張係数がRT〜500℃で9MK
−1以上の材料とした。
【0017】
始めに、比較的熱膨張係数の大きい金型用の物質を調査した。その結果を表1に示す。VC以外は非特許文献1のTable IIIより、またVCは非特許文献2の上巻p.400より引用した。炭化物の熱膨張係数はCr
3C
2が最も大きく、TiCが次である。窒化物ではNbNが最も大きく、次にTiNである。ここで、NbNは大きな熱膨張係数を示すが安価な市販品はない。よって、Cr
3C
2、TiC、TiNが主要成分として適する。
【0018】
【表1】
【0019】
さらに、これらの物質で作られているサーメット等の論文を調べた結果、非特許文献3のように1960年にCr
3C
2−TiC−Niサーメットの研究がなされていることが分かった。
【0020】
これによると、1)Cr
3C
2はNi中に多量に固溶するためCr
3C
2の顕著な粒成長を止めるのは困難とされ、TiC添加はいくらか粒成長抑制効果がある。2)同文献のTable 2により、Cr
3C
2−6.5mass%〜19.5mass%TiC−25mass%Niサーメットの抗折力は、87kgf/mm
2〜117kgf/mm
2(850MPa〜1150MPa)であり、他の組成と比べて比較的高いことを開示している。しかし、金型材料としては低強度である。高熱膨張係数はCr
3C
2−Ni系サーメットで得られると思われたが、抗折力(強度)については改良が必要と思われた。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで、本発明者らは比較的熱膨張係数の高いCr
3C
2、Ti(C,N)を用いることし、通常の方法で、混合・粉砕し、1360℃−1h焼結して1350℃−1h、100MPaのArによるHIP処理をしてCr
3C
2−25mass%Ti(C
0.5N
0.5)−20mass%Niサーメットを作製し、その、比重、硬さ、平均抗折力および熱膨張係数を測定した(表3および表4のNo.1)。
【0022】
ここで、非特許文献3のようなTiCでなくTi(C
0.5N
0.5)としたのは、Cr元素はN元素との化学的親和性が焼結温度においては無いことから、TiCよりCr
3C
2の粒成長を抑制しやすいと思われたからである。後述するが、TiC添加の場合は抗折力が低いことがわかり、非特許文献3で高強度にならなかったのもこれが原因と思われた。Niを20mass%としたのは、液相量が少なめの方が諸性質を理解しやすいと思われたためである。
【0023】
Cr
3C
2−25mass%Ti(C
0.5N
0.5)−20mass%Niサーメットは、熱膨張係数がRT〜500℃で、9.47MK
−1を示すことが分かり、初期の開発目的の熱膨張係数を得ることが出来た(表3および4のNo.1)。これは第一の知見である。
【0024】
しかし、抗折力を測定した結果、平均で1340MPaと、非特許文献3よりは高かったものの、改良の余地があると思われた。そこで低強度の抗折力試験片の破壊の起源を調べた結果、Crを主とする炭化物(以下Cr炭化物と記載する)の異常成長粒子が凝集した部分が破壊の起源であった。これは第二の知見である。
【0025】
よって、Cr炭化物の異常成長を一層抑制する方法について思案した。
図1(a)〜(d)は、非特許文献4より引用した、それぞれC−Cr−V、C−Cr−Mo、C−W−V、C−Cr−W系の三元系状態図である。
【0026】
なお、ここでC−Cr−Moについて調べたのは、非特許文献5においてCr
3C
2の焼結途中でCr
3C
2がCr
7C
3+Cに分解して生じる「強度劣化を惹き起す遊離炭素」と反応して炭化物(Mo
2C)を生成することにより、同炭素を消滅させるMoの添加が効果的とされているためである。また、C−Cr−Wについて調べたのは、非特許文献6において、Cr
3C
2−2mass%W−15mass%Niの記載が見られたためである。C−Cr−VおよびC−W−Vについて調べたのは、非特許文献7などにより、WC−CoおよびWC−Ni系の超硬合金において、WCの粒成長抑制にVCが有効と開示しているためである。
【0027】
C−W−V状態図のW−C側におけるWCの中にはVの固溶はほとんどないことが分かる。これらに対し、C−Cr−Mo、C−Cr−V、C−Cr−WのCr−C側におけるC
2Cr
3(すなわち、Cr
3C
2)については、固溶体の存在が見られる。すなわち、これらより、Mo、W、Vのいずれも僅かしかCr
3C
2に固溶しないことから、非特許文献7が示す「WC−Co合金のWCの粒成長は、WCに固溶しないVの添加により抑制される」の機構がほぼ適用され、いずれも若干の抑制効果があると推察される。
【0028】
この推察を念のため確認することとし、Cr
3C
2−25mass%(Ti(C
0.5N
0.5)+X)−20mass%Niサーメットを前記と同様にして作製した(表3および4のNo.2〜No.4)。ここで、Xは2mass%W、2mass%VCまたは、2mass%Moとした。VだけVCの形で添加したのは、市場に微粒で酸素の少ないV粉末が無かったためである。
【0029】
これらのMo,W,VC添加サーメットおよび無添加サーメットの組織を
図2に示す。Cr
3C
2の粒子寸法は10μm未満であること、そして、これら三種を添加したものはいずれも、Cr
3C
2粒子は、無添加の場合に比べて少し小さいことが分かった。すなわち、状態図で推定したことは、ほぼ正しいことが分かった。念のため、比重、硬さ、抗折力を測定した結果、表2が得られた。
【0030】
【表2】
【0031】
これより、平均抗折力はVC添加の場合に優れた。抗折力はバラツキが大きかったので、同分布を図示したのが
図3である。これよりVC添加の場合は抗折力のバラツキが少ないため、平均抗折力が比較的高くなったことが分かった。ここで、抗折力試験片の破壊の起源を調べた結果、
図4が得られ、抗折力が低い場合の破壊の起源は異常成長したCr炭化物の凝集部分であることが分かった。
【0032】
すなわち、VCはMo、Wと同様に、無添加の場合に若干しか平均粒度を小とすることしかできなかったが、Mo、Wと異なりCr炭化物の異常成長を抑制することが分かった。これは、極めて重要な事実で本発明者らの発見であり、第三の知見である。
【0033】
図1(a)〜(d)をあらためて見ると、添加元素側であるMo−C側およびV−C側には比較的広い固溶体があるが、W−C側には固溶体は無いことが分かる。そこで、異常成長を抑制するのは、こうした添加物側における固溶体の生成とは関係せず、上記予想の通り、注目している粒子物質であるCr
3C
2側の添加物の固溶域の有無であるとみなせた。図は略すが、C−Cr−Ta、C―Cr−NbはいずれもC―Cr側に固溶体が有ることから、Vのような異常成長Cr炭化物の抑制効果はないと思われる。
【0034】
また、Vは、W、Moよりも熱膨張係数が大きく、より熱膨張係数の大きい材料を得ることになる。この点でもV(VC)添加は有利である。なお、VCは異常成長抑制と熱膨張係数の増大に効果があるが、非特許文献8で耐酸化性を劣化させることが知られており、3mass%以上添加してはならない。
【0035】
以上から、Cr
3C
2−23mass%Ti(C,N)−2mass%VC−20mass%Niサーメットが、開発目標を達成する高い熱膨張係数を有し、かつ異常成長粒子を生成しにくいので強度が安定して得られ、熱膨張係数も比較的大きく出来ることが分かった。これらの状態図を基にした組織制御技術および大きい熱膨張係数を得る技術は、極めて重要な技術で本発明者らの発見であり、第四の知見である。
【0036】
次に、Mo添加量の影響について検討した組成が表3のNo.5〜No.7で、作製条件等は上記と同様にして作製した試料の特性が表4のNo.5〜No.7である。前記したNo.1およびNo.4と合わせて
図5および
図6にその結果を示した。
【0037】
図5は、Cr
3C
2−23mass%(Ti(C
0.5N
0.5)+Mo)−20mass%Niサーメットの合金組織に及ぼすMo添加量の影響である。MoはTi(C,N)を等量置換して添加している。8mass%Mo添加しても粒度はほとんど変化しないが、Ti(C,N)を置換したため、その粒成長抑制効果が減少しているためと思われる。なお、6mass%〜8mass%Mo添加では、微小なη相(Moを主とする複炭化物)が認められた。
【0038】
図5のサーメットについて抗折力を測定した結果、
図6が得られ、同値は、Mo添加量が6mass%〜8mass%で比較的高い。比較的低抗折力となった試験片の破壊の起源を調べた結果、
図7が得られ、いずれも異常成長したCr炭化物が破壊の起源で、Mo添加量が多くなるほどやや小であった。また、Mo添加量が6mass%〜8mass%で比較的高強度になっている。しかし、微小なη相を生じていたことから、Moの添加量は8mass%が上限と考えられる。
【0039】
なお、Ni量によってMoの最適添加量は左右されるので、上記をNi量との関係で表すと、Cr
3C
2−(Ti(C
0.5N
0.5)+Mo)−Niサーメットにおける、Moの添加量はNi量に対して10mass%以上、40mass%以下が適することになる。
【0040】
次に、VCとMoを複合添加した場合について同様に作製し検討したものが、表3および表4のNo.8〜No.18である。VCは最適範囲の中央値の2mass%に固定し、念のため、No.18のみ4mass%VCとした。Ti(C,N)添加量は19mass%から30mass%とし、Ni量は18mass%から22mass%と若干増減させた。
【0041】
表4のうち平均抗折力が比較的高いものは、Ni量に対するTi(C,N)+VC+Moの合計量が、1.35を越え1.90以下であった。これは、粒成長抑制がこれらの物質で決まっていることで添加量の下限が定まり、上限は添加炭化物の凝集ないし複炭化物を生じて強度低下するため定まるためである。これは第五の知見である。
【0042】
次に、Ti(C
0.5N
0.5)よりもN量を増減した場合も、同様に作製し(表4及び表5のNo.19−22)調べた。Ti(C
0.7N
0.3)またはTi(C
0.3N
0.7)添加では比較的優れたが、TiC、TiN添加ではやや低強度となった。TiC添加では粒成長が顕著となり粗粒組織となったことにより、そして、TiN添加ではNが多すぎることによって焼結性が低下したためポアが発生したためである。これより、N量は(C+N)に対して30mol%以上、70mol%以下が適することが分かった。これは第六の知見である。
【0043】
次に、VCとMoを複合添加した場合について、Niを25mass%〜35mass%と、前記より多くした場合(表3のNo.23〜No.28)を調べた。これはより大きい熱膨張係数を得る可能性を確認するためである。VCは2mass%に固定し、Ti(C,N)量は、液相が多くなるのは自明なので、これまでに分かった上限の30mass%一定とした。
【0044】
それでも、焼結温度が1360℃では液相が過剰となって異常成長したため、焼結温度を下げる検討をすることになり、100℃低下させてようやく正常な粒度となったので、1260℃−1h焼結とした。よって、HIP処理は1200℃−1h、Arの100MPaとした。なお、非特許文献9のCr
3C
2−Ni系擬二元系状態図によると、Cr
3C
2−Ni系の液相出現温度は1255℃であるので、1260℃焼結は本発明サーメットでもほぼ下限温度と思われる。
【0045】
その結果、平均抗折力が1800MPa以上と高強度であると共に、RT〜500℃での熱膨張係数も9.51MK
−1〜10.2MK
−1と高いサーメットが得られた。この場合の、Ni量に対するTi(C,N)+VC+Moの合計量の最適域は1.09以上1.52以下となるが、これはNo.8〜No.18の場合より低い値にずれている。これは、焼結温度が低いためと考えられる。これは、第七の知見である。
【0046】
以上の結果とそれぞれの合金組織から、本系サーメットの最適液相量を得るための焼結温度とNi量の関係は、
図8に示した曲線のようになる。すなわち、
図8の関係曲線上の近くにおいて、最適な液相量になる。このことから、No.4〜No.7についても、高結合相とした場合に
図8を参考として焼結温度を下げることで、実用合金が得られることが分かる。これは、第八の知見である。
【0047】
最後に、超硬合金で用いられる結合相金属としてはNiよりもCoの方が多く用いられているので、NiをCoに置換する検討を行った。予備実験でNiを100mass%Coで置換すると、1260℃−1hで緻密に焼結しないことが分かり、これは液相出現温度がCo置換により高くなることによると思われた。そこで、置換量は50mass%が限界と思われた。そこで、結合相量を25mass%および30mass%とした場合(表3のNo.29〜No.32)で、50mass%Co置換までを調べた。
【0048】
その結果、合金組織がより微粒となり、やや硬質化して、平均抗折力は25mass%Co置換までは同等で50mass%Co置換ではやや低下した。すなわち、Niの50mass%以下をCoに置換することでも、有用なサーメットが得られることが分かった。これは、第九の知見である。
【0049】
以上から、本発明サーメットのCr炭化物の粒成長をTi(C,N)量、VC量、Mo量、そしてNi量およびCo量と、焼結温度(最適液相量)で制御することに成功し、平均抗折力が最高では1880MPaに達する高強度の高熱膨張係数のサーメットの開発に成功した。
【0050】
本発明サーメットの各成分量についてまとめると以下のようになる。Cr
3C
2−Ti(C,N)−VC−Niサーメットは、Ti(C,N)はCr
3C
2を置換して23mass%以上、30mass%以下、Ti(C,N)中のC量は30mass%以上、70mass%以下が適する。Ti(C,N)は23mass%未満では粒成長を止められない。また、30mass%を越えるとTi(C,N)が凝集して強度が低くなる。
【0051】
VCは1mass%を越えて3mass%未満が適する。3mass%以上にすると耐酸化性が著しく劣化するからである。1mass%以下では、Cr炭化物の異常成長を抑制する効果が不足する。
【0052】
Niは、18mass%以上35mass%以下とし、CoでNiを置換する場合は置換量を50mass%以下とし、これまでの残部をCr
3C
2とする。18mass%未満では靭性が不足する。35mass%を越えると、液相が多すぎて、低温焼結してもCr炭化物の粒成長を制御できなくなる。なお、22mass%Ni以下では1360℃焼結が適するが、22mass%Niを越える場合は、1260℃焼結が適する。これは、液相量を必要最小として焼結体のクリープ変形を抑制すると共に、粒成長を抑制するために、液相出現温度付近を選択した方が良いためである。
【0053】
Cr
3C
2−Ti(C,N)−Mo−Niサーメットは、Ti(C,N)がCr
3C
2を置換するように17mass%以上、30mass%以下とし、MoをNiに対して10mass%以上、40mass%以下とし、CoでNiを置換する場合は置換量を50mass%以下とし、残部をCr
3C
2とする。
【0054】
Ti(C,N)の下限については、前記VC添加より炭素量が少ないので、より少ない17mass%Ti(C,N)でもCr炭化物の粒成長を止められるが、これより少ないと、Cr炭化物の粒成長を止められないためである。上限については、前記VC添加と同じ原因すなわち、30mass%を越えるとTi(C,N)が凝集して強度が低くなるため30mass%となる。
【0055】
MoをNiに対して10mass%以上、40mass%以下とするのは、Niに対して10mass%よりMoが少ないと、遊離炭素を生じて、強度が低下し、40mass%よりMoを多くするとMoを主とした複炭化物、M
6Cすなわちη化合物を大量あるいは巨大に生じて強度低下するためである。
【0056】
Niは18mass%以上、35mass%以下が適する。これは前記VC添加と同じ原因、すなわち18mass%未満では靭性が不足する。35mass%を越えると、液相量が多すぎて、焼結温度を下げても、Cr炭化物の粒成長を制御できなくなり、強度が不足する。なお、22mass%Ni以下では1360℃焼結が適するが、22mass%Niを越える場合は、1260℃焼結がよい。これは液相出現温度付近を選択した方が液相量が必要最小になりCr炭化物の粒成長を抑制し易いこと等による。
【0057】
Cr
3C
2−Ti(C,N)−VC−Mo−Niサーメットは、Ti(C,N)がCr
3C
2を置換するように17mass%以上、30mass%以下とし、MoをNiに対して10mass%以上、40mass%以下とし、CoでNiを置換する場合は置換量を50mass%以下とし、VCは1mass%を越えて3mass%未満とし、残部をCr
3C
2とする。
【0058】
Ti(C,N)の下限については、VC添加による炭素量の増加の影響をMoが緩和するので、VCなしMoのみ添加の時と同じ17mass%Ti(C,N)でもCr炭化物の粒成長を止められるが、これより少ないと、Cr炭化物の粒成長を止められないためである。上限については、前記VCのみ添加Moなしの時と同じ原因、すなわち30mass%より多くするとTi(C,N)が凝集して強度が低くなるため、30mass%となる。
【0059】
VCは1mass%を越えて3mass%未満が適するのは、3mass%以上にすると耐酸化性が著しく劣化するからであり、また1mass%以下はCr炭化物の異常成長を抑制する効果が不足するからである。
【0060】
MoをNiに対して10mass%以上40mass%以下とするのは、Niに対して10mass%よりMoが少ないと、遊離炭素を生じて、強度が低下し、40mass%よりMoを多くするとMoを主とした複炭化物、M
6Cすなわちη化合物を大量あるいは巨大に生じて強度低下するためである。
【0061】
これらに加えて、Ti(C,N)、VC、Moの合計量が重要となり、Ti(C,N)+VC+MoをIとすると、22mass%Ni以下ではI/Ni量が、1.35倍を越え1.90倍以下が適する。22Nimass%よりNi量が多い場合は、I/Ni量が1.09倍以上1.52倍以下が適する。いずれのNi量においても、I/Ni量が下限より少ないと、Cr炭化物の粒成長を止めることができなくなり強度低下し、上限より多いと、Ti(C,N)の凝集およびまたはMoの複炭化物を生じて強度低下する。なお、I/Ni量の適正範囲がNi量で変わるのは、22mass%Ni以下では1360℃焼結で、22mass%Niを越える場合は、1260℃焼結のためである。
【0062】
VCは1mass%を越えて3mass%未満が適する。3mass%以上にすると耐酸化性が著しく劣化するからである。1mass%以下では、Cr炭化物の異常成長を抑制する効果が不足する。
【0063】
Niは、18mass%以上35mass%以下とし、残部がCr
3C
2とする。18mass%より少ないと靭性が不足する。35mass%より多いと、液相が多すぎて、低温焼結してもCr炭化物の粒成長を制御できなくなる。
【0064】
なお、22mass%Ni以下では1360℃焼結が適するが、22mass%Niを超える場合は、1260℃焼結が適する。これは液相出現温度付近を選択することで、液相量が必要最小となり、Cr炭化物の粒成長を抑制し易いこと等による。
【0065】
上記の各サーメットについて、Niの50mass%以下をCoで置換することで、Niよりもやや硬質化したサーメットができる。これはCoで置換することで液相量が減少するためであった。Niの50mass%Co置換より多く置換すると緻密な焼結体を得にくくなり強度低下するので実用的でなくなる。よって、Coの置換量の最大はNiの50mass%が適する。ここで、Niの25mass%以上のCo置換で非強磁性でなくなったので、非強磁性としたい場合は、Co置換をしない方が良い。
【0066】
なお、以上の他、HIP条件は、焼結温度よりも低い温度で、Arにより、圧力は100MPaとし、1h行うのが良い。焼結温度以上ではCr炭化物などが粒成長し、強度低下が起こるためである。100MPaより低い圧力も選択可能と思われるが、本発明では汎用な条件とした。ポアを消滅できれば、より低い温度、圧力、短い時間でも良い。