特許第5770365号(P5770365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770365深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体及びその製造方法
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  • 特許5770365-深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770365
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20150806BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20150806BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20150806BHJP
【FI】
   C09K11/66CPT
   C09K11/08 B
   C09K11/08 J
   H01L33/00 410
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-507920(P2014-507920)
(86)(22)【出願日】2013年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2013058815
(87)【国際公開番号】WO2013146790
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-69784(P2012-69784)
(32)【優先日】2012年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】野北 里花
(72)【発明者】
【氏名】天谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−202044(JP,A)
【文献】 特開2011−006501(JP,A)
【文献】 特開平11−005974(JP,A)
【文献】 特開平10−102054(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115032(WO,A1)
【文献】 特開2010−163357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00− 11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成することによって得られた、波長400nmの光で励起させると640〜680nmの波長範囲に最大ピークを有する発光を示す下記式(I):
xMgO・yAF2・GeO2:zMn4+・・・(I)
(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは3.0〜4.3の範囲の数であり、yは0.10〜1.0の範囲の数であり、zは0.0050〜0.040の範囲の数である)で表される組成の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体であって、
酸化マグネシウムがBET比表面積が5〜200m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末であることを特徴とする深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項2】
入射角がθのCuKα線を用いて測定された回折角2θが35.2〜36.0度の範囲に最大X線回折線ピークを有する蛍光体である請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項3】
酸化マグネシウム微粉末が立方体形状の一次粒子を含む微粉末である請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項4】
酸化マグネシウム微粉末が純度が99.9質量%以上の微粉末である請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項5】
酸化マグネシウム微粉末が、マグネシウム蒸気と酸素とを気相下で接触させてマグネシウムを酸化させることによって得られた微粉末である請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項6】
上記の混合物の焼成温度が1000〜1300℃の範囲にある請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項7】
半導体発光素子と、該半導体発光素子にて発生した光で励起させて赤色を発光する赤色発光蛍光体とを含む発光装置の赤色発光蛍光体用である請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体。
【請求項8】
酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成する工程を含む、波長400nmの光で励起させると640〜680nmの波長範囲に最大ピークを有する発光を示す下記式(I):
xMgO・yAF2・GeO2:zMn4+・・・(I)
(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは3.0〜4.3の範囲の数であり、yは0.10〜1.0の範囲の数であり、zは0.0050〜0.040の範囲の数である)で表される組成の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法であって、酸化マグネシウムがBET比表面積が5〜200m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末であることを特徴とする深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法。
【請求項9】
深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体が、入射角がθのCuKα線を用いて測定された回折角2θが35.2〜36.0度の範囲に最大X線回折線ピークを有する蛍光体である請求項8に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法。
【請求項10】
波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体とを含む発光装置。
【請求項11】
波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子、請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体、該半導体発光素子にて発生した光で励起させると青色光の発光を示す青色発光蛍光体、そして該半導体発光素子にて発生した光で励起させると緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体を含む発光装置。
【請求項12】
青色光を発光する半導体発光素子、請求項1に記載の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体、そして該半導体発光素子にて発生した光で励起させると緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体を含む発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体とその製造方法に関する。本発明はまた、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を赤色発光源に用いた発光装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+の式で表されるフルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、深赤色発光蛍光体として知られている。この蛍光体は、蛍光水銀ランプの赤色発光源として利用されている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、下記の式で表される深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体が記載されている。
(k−x)MgO・xAF2・GeO2:yMn4+
但し、上記式において、kは2.8〜5の実数であり、xは0.1〜0.7の実数であり、yは0.005〜0.015の実数であり、Aは、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、またはこれらの混合物である。
この特許文献には、上記蛍光体の製造方法として、酸化マグネシウム、フッ化金属、酸化ゲルマニウムおよびマンガン前駆体化合物を、(k−x):x:1:yのモル比となるように均一に混合して混合粉末を準備する段階と、混合粉末を1000〜1200℃の温度下で4〜9時間熱処理して混合粉末を焼成する段階と、焼成された粉末を洗浄およびろ過する段階とを含む方法が記載されている。但し、この特許文献には、酸化マグネシウム源として用いる酸化マグネシウムの性状に関する記載はない。なお、この特許文献には、上記蛍光体の用途として、紫外線光源または青色光源を採用するLEDや蛍光ランプの赤色発光源が記載されている。
【0004】
特許文献2には、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+の式で表されるフルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の構成元素の組成比を変えること、または構成元素を他の元素に置換することにより、波長350〜500nmの近紫外から可視領域の光で励起させたときの発光の効率が向上した深赤色発光蛍光体が得られることが記載されている。
この特許文献には、構成元素の組成比を変えた深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体として下記の式で表される蛍光体が記載されている。
xMgO・yMgF2・GeO2:zMn4+
但し、上記式において、1.5<x≦4、0.5<y≦2、0<z≦0.1、y<xである。
また、この特許文献には、構成元素を他の元素に置換した深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の一例として下記の式で表される蛍光体も記載されている。
(x−a)MgO・aMe1O・yMgF2・bMe2Hal2・(1−c)GeO2・cMtO2:zMn4+
但し、上記式において、1.5<x≦4、0<y≦2、0<z≦0.1、0<a<1.5、0<b≦2、0<c<0.5、Me1、Me2はカルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛から選ばれた少なくとも1つ以上、Halはフッ素、塩素から選ばれた少なくとも1つ以上、Mtはチタン、スズ、ジルコニウムから選ばれた少なくとも1つ以上である。
但し、この特許文献には、上記蛍光体の製造方法に関する一般的な記載はなく、実施例では、酸化マグネシウム源に炭酸マグネシウムを用いて蛍光体を製造している。なお、この特許文献にも、上記蛍光体の用途として発光ダイオード(LED)の赤色発光源が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−202044号公報
【特許文献2】特開2011−6501号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「蛍光体ハンドブック」、蛍光体同学会編、株式会社オーム社、昭和62年12月25日発行、p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載されているように、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を近紫外領域の光で励起させたときの発光の強度を向上させるために、構成元素の組成比を変える、または構成元素を他の元素に置換することは検討されている。しかしながら、これまで、製造方法の観点から深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の発光強度を向上させることは検討されていない。
従って、本発明の目的は、近紫外領域の光で励起させたときの発光の強度が高い深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を工業的に有利に製造することができる方法を提供することにある。本発明の目的はまた、近紫外領域の光での励起させたときの発光の強度が高い深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体、及びその蛍光体を赤色発光源に用いた発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成して、波長400nmの光で励起させると640〜680nmの波長範囲に最大ピークを有する発光を示す深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造する際に、酸化マグネシウムとしてBET比表面積が5〜200m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末を用いると、波長400nmの光で励起させたときに高い発光強度を示す蛍光体が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
従って、本発明は、酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成することによって得られた、波長400nmの光で励起させると640〜680nmの波長範囲に最大ピークを有する発光を示す深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体であって、酸化マグネシウムがBET比表面積が5〜200m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末であることを特徴とする深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体にある。
【0010】
本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の好ましい態様は、次の通りである。
(1)入射角がθのCuKα線を用いて測定された回折角2θが35.2〜36.0度の範囲に最大X線回折線ピークを有する。
(2)酸化マグネシウム微粉末が立方体形状の一次粒子を含む微粉末である。
(3)酸化マグネシウム微粉末が純度が99.9質量%以上の微粉末である。
(4)酸化マグネシウム微粉末が、マグネシウム蒸気と酸素とを気相下で接触させてマグネシウムを酸化させることによって得られた微粉末である。
(5)深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体が、下記式(I)で表される組成の蛍光体である。
xMgO・yAF2・GeO2:zMn4+・・・(I)
ただし、式(I)において、Aは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは1.5〜4.5の範囲の数であり、yは0.050〜2.5の範囲の数であり、zは0.0010〜0.10の範囲の数であり、特に0.0050〜0.040の範囲の数である。
(6)半導体発光素子と、該半導体発光素子にて発生した光で励起させて赤色を発光する赤色発光蛍光体とを含む発光装置の赤色発光蛍光体用である。
【0011】
また、本発明は、酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成する工程を含む、波長400nmの光で励起させると640〜680nmの波長範囲に最大ピークを有する発光を示す深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法であって、酸化マグネシウムがBET比表面積が5〜200m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末であることを特徴とする深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法にもある。
【0012】
本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の製造方法の好ましい態様は、次の通りである。
(1)深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体が、入射角がθのCuKα線を用いて測定された回折角2θが35.2〜36.0度の範囲に最大X線回折線ピークを有する蛍光体である。
(2)酸化マグネシウム微粉末が立方体形状の一次粒子を含む微粉末である。
(3)酸化マグネシウム微粉末が純度が99.9質量%以上の微粉末である。
(4)酸化マグネシウム微粉末が、マグネシウム蒸気と酸素とを気相下で接触させてマグネシウムを酸化させることによって得られた微粉末である。
【0013】
本発明はまた、波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子と、上記本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体とを含む発光装置にもある。
【0014】
本発明はさらに、波長350〜430nmの光を発光する半導体発光素子、上記本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体、該半導体発光素子にて発生した光で励起させると青色光の発光を示す青色発光蛍光体、そして該半導体発光素子にて発生した光で励起させると緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体を含む発光装置にもある。
【0015】
本発明はさらにまた、青色光を発光する半導体発光素子、上記本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体、そして該半導体発光素子にて発生した光で励起させると緑色光の発光を示す緑色発光蛍光体を含む発光装置にもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、高い発光強度を示すことから、白色LEDや蛍光ランプなどの発光装置の赤色発光源として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従う発光装置(白色LED)の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、酸化マグネシウム、フッ素化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物を含む混合物を焼成することによって得られたものである。本発明では、原料の酸化マグネシウムにBET比表面積が5〜200m2/gの範囲、好ましくは5〜100m2/gの範囲にある酸化マグネシウム微粉末を用いる。酸化マグネシウム微粉末は、立方体形状の一次粒子を含む微粉末であることが好ましい。立方体形状の一次粒子の含有量は、一次粒子の個数基準で少なくとも80%以上であることが好ましい。酸化マグネシウム微粉末の純度は、99.9質量%以上であることが好ましく、99.95質量%であることがより好ましい。この酸化マグネシウム微粉末は気相法によって製造することができる。気相法とは、マグネシウム蒸気と酸素とを気相下で接触させてマグネシウムを酸化させることによって、酸化マグネシウム微粉末を製造する方法であり、この気相法は既に公知である。
【0019】
本発明において、酸化マグネシウム以外の原料は特には制限はない。フッ素化合物は二価金属のフッ化物であることが好ましい。フッ素化合物の例としては、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム及びフッ化亜鉛を挙げることができる。これらのフッ素化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。フッ素化合物は、BET比表面積が0.01〜50m2/gの範囲にあることが好ましい。フッ素化合物の純度は98質量%以上であることが好ましい。ゲルマニウム化合物の例としては、酸化ゲルマニウム、臭化ゲルマニウム、沃化ゲルマニウム及びゲルマニウムアルコキシドを挙げることができる。ゲルマニウム化合物は酸化ゲルマニウムであることが好ましい。酸化ゲルマニウムは、BET比表面積が0.01〜50m2/gの範囲にあることが好ましい。酸化ゲルマニウムの純度は99質量%以上であることが好ましい。マンガン化合物は、マンガンの原子価が2〜4価の化合物であることが好ましい。マンガン化合物の例としては、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン及び酸化マンガン(MnO、Mn34、Mn23、MnO2)を挙げることができる。マンガン化合物は、BET比表面積が0.01〜50m2/gの範囲にあることが好ましい。マンガン化合物の純度は99質量%以上であることが好ましい。
【0020】
酸化マグネシウム(MgO)、フッ素化合物(AF2)、ゲルマニウム化合物(GeX)及びマンガン化合物(MnX)の混合比率は、MgO:AF2:GeX:MnXのモル比で、1.5〜4.5:0.050〜2.5:1:0.0010〜0.10の範囲にあることが好ましく、3.0〜4.3:0.10〜1.0:1:0.0050〜0.040の範囲にあることが特に好ましい。
【0021】
上記各原料の混合方法には特に制限はなく、乾式混合法及び湿式混合法のいずれの方法も利用することができる。湿式混合法では、溶媒に水、アルコール又はこれらの混合液を用いることが好ましい。混合装置としては、攪拌混合機、ボールミル、ロッキングミルを用いることができる。
【0022】
原料の混合物を焼成することによって、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体が生成する。原料混合物の焼成温度は、一般に1000〜1300℃の範囲、好ましくは1050〜1250℃の範囲である。原料混合物の焼成は、大気雰囲気下で行なうことが好ましい。原料混合物の焼成時間は、一般に1〜100時間の範囲、好ましくは1〜30時間の範囲である。焼成は、二回以上行なってもよい。
【0023】
焼成によって得られる焼成物は、下記式(I)で表される組成の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体であることが好ましい。
xMgO・yAF2・GeO2:zMn4+・・・(I)
ただし、式(I)において、Aは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であり、xは1.5〜4.5の範囲、特に3.0〜4.3の範囲の数であり、yは0.050〜2.5の範囲、特に0.10〜1.0の範囲の数であり、zは0.0010〜0.10の範囲、特に0.0050〜0.040の範囲の数である。
【0024】
焼成によって得られる焼成物が、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体であることは、発光スペクトルもしくはX線回折パターンから確認することができる。すなわち、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、波長400nmの光で励起させたときの発光スペクトルにおいて、一般に640〜680nmの波長範囲に最大発光ピークを示す。また、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、入射角がθのCuKα線を用いて測定されたX線回折パターンにおいて、一般に回折角2θが35.2〜36.0度の範囲に最大X線回折線ピークを示す。
【0025】
原料の酸化マグネシウムにBET比表面積が大きい酸化マグネシウム微粉末を用いることによって、得られる深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の発光強度が向上する理由としては、原料混合物中の存在量が最も多い酸化マグネシウムに、BET比表面積が大きくて反応性が高い微粉末を用いることによって、原料混合物の焼成時に反応が均一に進行し、得られる蛍光体の組成が均一になり、また不純物の混入量が少なくなるためであると考えられる。本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、特に酸化マグネシウムの混入量が少ない。酸化マグネシウムの混入量が少ないことは、X線回折パターンから確認することができる。本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、蛍光体に起因する最大X線回折線ピーク値に対する酸化マグネシウムに起因する最大X線回折線ピーク値の比(後者/前者)の比が、通常は0.6以下である。蛍光体に起因する最大X線回折線ピークは、回折角2θで35.2〜36.0度の範囲にある。酸化マグネシウムに起因する最大X線回折線ピークは回折角2θで42.7〜43.2度の範囲にある。
【0026】
本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体は、半導体発光素子と、その半導体発光素子にて発生した光で励起させて赤色を発光する赤色発光蛍光体とを含む発光装置の赤色発光蛍光体用として有利に用いることができる。次に、本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を用いた発光装置を白色LEDを例にとって、添付図面の図1を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を赤色発光源に用いた白色LEDの一例の断面図である。図1において、白色LEDは、基板1、基板1の上に接着剤2により固定された半導体発光素子3、基板1の上に形成された一対の電極4a、4b、半導体発光素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5b、半導体発光素子3を被覆する樹脂層6、樹脂層6の上に設けられた蛍光体層7、そして樹脂層6と蛍光体層7の周囲を覆う光反射材8、そして電極4a、4bと外部電源(図示せず)とを電気的に接続するための導電線9a、9bからなる。
【0028】
基板1は、高い絶縁性と高い熱導電性とを有していることが好ましい。基板1の例としては、アルミナや窒素アルミニウムなどのセラミックから形成された基板及び金属酸化物やガラスなどの無機物粒子を分散させた樹脂材料から形成された基板を挙げることができる。半導体発光素子3は、電気エネルギーの付与によって波長350〜430nmの光を発光するものであることが好ましい。半導体発光素子3の例としては、AlGaN系半導体発光素子を挙げることができる。樹脂層6は透明樹脂から形成される。樹脂層6を形成する透明樹脂の例としては、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂を挙げることができる。
【0029】
蛍光体層7は、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体をガラスもしくはエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの透明樹脂に分散させた混合物から形成される。赤色発光蛍光体として、本発明の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を含む。青色発光蛍光体及び緑色発光蛍光体に特には制限はない。青色発光蛍光体の例としては、(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Mg、Ca)10(PO46(Cl,F)2:Euを挙げることができる。緑色発光蛍光体の例としては、(Ca,Sr,Ba)2SiO4:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、α−SiAlON:Eu2+、β−SiAlON:Eu2+、ZnS:Cu,Alを挙げることができる。光反射材8は、蛍光体層7にて発生した可視光を外部に向けて反射することによって可視光の発光効率を向上させる。光反射材8の形成材料の例としては、Al、Ni、Fe、Cr、Ti、Cu、Rh、Ag、Au、Ptなどの金属、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの白色金属化合物、及び白色顔料を分散させた樹脂材料を挙げることができる。
【0030】
図1の白色LEDにおいて、導電線9a、9bを介して電極4a、4bに電圧を印加すると、半導体発光素子3が発光して波長350〜430nmの範囲にピークを有する発光光が発生し、この発光光が蛍光体層7中の各色発光蛍光体を励起させることによって青色、緑色及び赤色の可視光が発生する。そして、それらの青色光、緑色光及び赤色光の混色により白色光が発生する。
【0031】
白色LEDは、例えば、次のようにして製造することができる。基板1に所定のパターンで電極4a、4bを形成する。次に、基板1の上に接着剤2により半導体発光素子3を固定した後、ワイヤボンディングなどの方法により、半導体発光素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5bを形成する。次に、半導体発光素子3の周囲に光反射材8を固定した後、半導体発光素子3の上に透明樹脂を流し込み、その透明樹脂を固化させて樹脂層6を形成する。そして、樹脂層6の上に、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体をガラスもしくはエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの透明樹脂に分散させた混合物を流し込み、その混合物を固化させて、蛍光体層7を形成する。
【0032】
白色LEDの蛍光体層7に深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体のみを分散させることによって赤色LEDとすることができる。また、半導体発光素子3の代わりに青色発光半導体発光素子を用い、蛍光体層7に深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体と緑色発光蛍光体とを分散させることによっても白色LEDとすることができる。青色発光半導体発光素子は、電気エネルギーの付与によって波長440〜480nmの青色光を発光するものが好ましい。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
BET比表面積が8m2/g、純度が99.98質量%の酸化マグネシウム(MgO)微粉末(気相法により製造されたもの、立方体形状の一次粒子の含有量:90%)、フッ化マグネシウム(MgF2)粉末(BET比表面積:0.02m2/g、純度:99質量%)、酸化ゲルマニウム(GeO2)粉末(BET比表面積:0.06m2/g、純度:99.9質量%)、炭酸マンガン(MnCO3)粉末(BET比表面積:0.06m2/g、純度:99.9質量%)を、それぞれMgO:MgF2:GeO2:MnCO3のモル比が3.5:0.5:1:0.015となる割合にて秤量した。秤量した各原料粉末をエタノールに投入し、ロッキングミルを用いて混合した後、120℃の温度で数時間乾燥して、原料混合物を得た。得られた原料混合物を乳鉢で解砕した後、その原料混合物を酸化アルミニウム製のるつぼに入れ、1100℃の温度で3時間焼成して、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:0.015Mn4+の式で表される深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。得られた深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体のX線回折パターンと発光スペクトルとを下記の方法により測定したところ、得られた蛍光体は、最大X線回折線ピークを回折角2θで35.2〜36.0度の範囲に有し、最大発光ピークを640〜680nmの波長範囲に有することが確認された。
【0034】
[X線回折パターンの測定]
下記の条件にて測定する。
測定:連続測定
X線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット幅:1/2deg
散乱スリット幅:1/2deg
受光スリット幅:0.30mm
スキャンステップ:2deg/分
スキャンステップ:0.02deg
【0035】
[発光スペクトルの測定]
試料の深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体に、Xeランプを用いて波長400nmの紫外光を照射して発光スペクトルを測定する。
【0036】
[実施例2]
エタノールに投入した各原料粉末をボールミルを用いて混合したこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0037】
[実施例3]
原料混合物の焼成を1150℃の温度で3時間行なったこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0038】
[実施例4]
原料混合物の焼成を1200℃の温度で3時間行なったこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0039】
[実施例5]
エタノールに投入した各原料粉末をボールミルを用いて混合したこと、そして原料混合物の焼成を1200℃の温度で3時間行なったこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0040】
[比較例1]
酸化マグネシウム微粉末の代わりに、BET比表面積が0.4m2/g、純度が99質量%の酸化マグネシウム粉末(水酸化マグネシウムを焼成して得たもの)を用いたこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0041】
[比較例2]
酸化マグネシウム微粉末の代わりに、BET比表面積が0.4m2/g、純度が99質量%の酸化マグネシウム粉末(水酸化マグネシウムを焼成して得たもの)を用いたこと、原料混合物の焼成を1200℃の温度で3時間行なったこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。
【0042】
下記の表1に、実施例1〜5及び比較例1、2の原料粉末の混合方法、原料混合物の焼成条件、そして得られた深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体の最大発光ピークの強度を示す。なお、最大発光ピークの強度は、比較例1で得られた蛍光体の最大発光ピークの強度を100とした相対値として表す。また、比較例1と実施例5とについては、X線回折パターンから算出した、深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体に起因する最大X線回折線ピーク値に対する酸化マグネシウムに起因する最大X線回折線ピーク値の比(後者/前者)を示す。
【0043】
【表1】
実施例1〜5:酸化マグネシウムに、BET比表面積が8m2/gの酸化マグネシウム微粉末(気相法により製造されたもの)を使用。
比較例1、2:酸化マグネシウムに、BET比表面積が0.4m2/gの酸化マグネシウム粉末(水酸化マグネシウムを焼成して得たもの)を使用。
【0044】
[実施例6]
酸化マグネシウム微粉末、フッ化マグネシウム粉末、酸化ゲルマニウム粉末、炭酸マンガン粉末の混合比を、それぞれMgO:MgF2:GeO2:MnCO3のモル比で4.1:0.59:1:0.018としたこと、原料混合物の焼成を1000℃で3時間行なった後、1200℃の温度で3時間行なったこと以外は、実施例1と同じ操作を行なって、4.1MgO・0.6MgF2・GeO2:0.018Mn4+の式で表される深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体を製造した。得られた深赤色発光性フルオロゲルマニウム酸マグネシウム蛍光体のX線回折パターンと発光スペクトルとを前記の方法により測定したところ、得られた蛍光体は、最大X線回折線ピークを回折角2θで35.2〜36.0度の範囲に有し、最大発光ピークを640〜680nmの波長範囲に有することが確認された。最大発光ピークの強度は、比較例1で得られた蛍光体の最大発光ピークの強度を100とした相対値で147であった。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
2 接着剤
3 半導体発光素子
4a、4b 電極
5a、5b リード線
6 樹脂層
7 蛍光体層
8 光反射材
9a、9b 導電線
図1