(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る作業車両1の側面図である。作業車両1は、例えば、ホイールローダである。
図1に示すように、作業車両1は、車体フレーム2と、作業機3と、走行輪4,5と、運転室6とを備えている。作業車両1は、走行輪4,5が回転駆動されることにより走行する。作業車両1は、作業機3を用いて掘削等の作業を行うことができる。
【0016】
車体フレーム2には、作業機3および走行輪4,5が取り付けられている。作業機3は、作業機ポンプ23(
図2参照)からの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム11とバケット12とを有する。ブーム11は、車体フレーム2に装着されている。作業機3は、リフトシリンダ13とバケットシリンダ14とを有している。リフトシリンダ13とバケットシリンダ14とは、油圧シリンダである。リフトシリンダ13の一端は車体フレーム2に取り付けられている。リフトシリンダ13の他端はブーム11に取り付けられている。リフトシリンダ13が作業機ポンプ23からの作動油によって伸縮することによって、ブーム11が上下に揺動する。バケット12は、ブーム11の先端に取り付けられている。バケットシリンダ14の一端は車体フレーム2に取り付けられている。バケットシリンダ14の他端はベルクランク15を介してバケット12に取り付けられている。バケットシリンダ14が、作業機ポンプ23からの作動油によって伸縮することによって、バケット12が上下に揺動する。
【0017】
車体フレーム2には、運転室6及び走行輪5が取り付けられている。運転室6は、車体フレーム2上に載置されている。運転室6内には、オペレータが着座するシートや、後述する操作装置などが配置されている。車体フレーム2は、前フレーム16と後フレーム17とを有する。前フレーム16と後フレーム17とは互いに左右方向に揺動可能に取り付けられている。
【0018】
前フレーム16には、作業機3が取り付けられている。後フレーム17には、運転室6が載置されている。また、後フレーム17には、後述するエンジン21、トランスミッション24、冷却装置26などの装置が搭載されている。トランスミッション24は、エンジン21の前方に位置している。冷却装置26は、エンジン21の後方に位置している。冷却装置26は、エンジン21の冷却液を冷却するためのラジエータを有する。
【0019】
作業車両1は、ステアリングシリンダ18を有している。ステアリングシリンダ18は、前フレーム16と後フレーム17とに取り付けられている。ステアリングシリンダ18は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ18が、後述するステアリングポンプ30からの作動油によって伸縮することによって、作業車両1の進行方向が左右に変更される。
【0020】
図2は、作業車両1の構成を示す模式図である。
図2に示すように、作業車両1は、エンジン21、作業機ポンプ23、トランスミッションポンプ29、ステアリングポンプ30、トランスミッション24、走行装置25などを備えている。
【0021】
エンジン21は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン21は、走行装置25、作業機ポンプ23、トランスミッションポンプ29、ステアリングポンプ30などを駆動するための駆動力を発生させる。
【0022】
作業機ポンプ23とトランスミッションポンプ29とステアリングポンプ30とは、油圧ポンプである。これらの油圧ポンプから吐出される作動油は、作動油タンク29aに貯留されている。作業機ポンプ23とトランスミッションポンプ29とステアリングポンプ30とは、エンジン21からの駆動力によって駆動される。
【0023】
作業機ポンプ23は、可変容量型の油圧ポンプである。作業機ポンプ23から吐出された作動油は、作業機制御弁41を介して、上述したリフトシリンダ13とバケットシリンダ14とに供給される。
【0024】
トランスミッションポンプ29は、固定容量型の油圧ポンプである。トランスミッションポンプ29から吐出された作動油は、詳細を後述するロジック弁32及びクラッチ制御弁VF、VR、VL、VH、Vm1、Vm2を介して、トランスミッション24のクラッチCF、CR、CL、CH、Cm1、Cm2(詳細は後述)に供給される。ロジック弁32はPポートとRポートとを備えている。本実施形態では、作動油タンク29aからトランスミッションポンプ29及びロジック弁32を介して、クラッチCF、CR、CL、CH、Cm1、Cm2に至る油圧回路を、作動油供給回路80と呼ぶ。作動油供給回路80は、トランスミッション24に作動油を供給する。
【0025】
作動油供給回路80には、作動油暖機回路81が接続されている。作動油暖機回路81は、作動油の圧力損失によって、作動油を温める。作動油供給回路80と作動油暖機回路81の詳細については後述する。
【0026】
ステアリングポンプ30は、可変容量型の油圧ポンプである。ステアリングポンプ30から吐出された作動油は、ステアリング制御弁43を介して、上述したステアリングシリンダ18に供給される。
【0027】
トランスミッション24は、エンジン21からの駆動力を走行装置25に伝達する。トランスミッション24は、エンジン21からの駆動力を変速して出力する。トランスミッション24の構成については後に詳細に説明する。
【0028】
走行装置25は、エンジン21によって駆動される。走行装置25は、伝達軸46と、アクスルシャフト45と、上述した走行輪5とを有する。伝達軸46は、トランスミッション24からの駆動力をアクスルシャフト45に伝達する。アクスルシャフト45は、車幅方向に延びており、走行輪5に接続されている。アクスルシャフト45は、トランスミッション24からの駆動力を走行輪5に伝達する。これにより、走行輪5が回転する。
【0029】
次に、トランスミッション24の構成について詳細に説明する。トランスミッション24は、入力軸61と、第1動力取り出し機構22(以下、「第1PTO22」と呼ぶ)と、第2動力取り出し機構27(以下、「第2PTO27」と呼ぶ)と、歯車機構62と、出力軸63と、第1モータMG1と、第2モータMG2と、第3モータMG3と、を備えている。
【0030】
入力軸61には、エンジン21からの回転が入力される。歯車機構62は、入力軸61の回転を出力軸63に伝達する。出力軸63は、上述した走行装置25に接続されており、歯車機構62からの回転を走行装置25に伝達する。
【0031】
第1 PTO 22は、入力軸61に接続されており、エンジン21からの駆動力の一部を作業機ポンプ23及びトランスミッションポンプ29に伝達する。第2 PTO 27は、第1 PTO 22と並列に入力軸61に接続されており、エンジン21からの駆動力の一部をステアリングポンプ30に伝達する。
【0032】
歯車機構62は、エンジン21からの駆動力を伝達する機構である。歯車機構62は、モータMG1, MG2, MG3の回転速度の変化に応じて、入力軸61に対する出力軸63の回転速度比を変化させるように構成されている。歯車機構62は、FR切換機構65と、変速機構66とを有する。
【0033】
FR切換機構65は、前進用クラッチCFと、後進用クラッチCRと、前進用クラッチ制御弁VFと、後進用クラッチ制御弁VRと、各種のギアとを有している。前進用クラッチCFと後進用クラッチCRとは、油圧式クラッチである。クラッチCF,CRには、それぞれトランスミッションポンプ29からの作動油が供給される。クラッチCF,CRへ供給される作動油の圧力は、それぞれ、クラッチ制御弁VF,VRによって制御される。クラッチCF,CRには、圧力スイッチTF,TRが設けられるとよい。つまり、トランスミッション24は、圧力スイッチTF,TRをさらに含むとよい。圧力スイッチTF,TRは、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号を制御部31に送信する。より詳細には、圧力スイッチTF,TRは、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号をフィル完了判定部31a(詳細は後述)に出力する。設定圧としては、クラッチCF,CRへの作動油のフィル完了時の圧力(フィル圧)に相当する値が設定されている。従って、圧力スイッチTF,TRは、フィル完了を検知して、制御部31に検知信号を出力する。前進用クラッチCFの接続及び切断と、後進用クラッチCRの接続及び切断とが切り換えられることによって、FR切換機構65から出力される回転の方向が切り換えられる。
【0034】
変速機構66は、中間軸67と、第1遊星歯車機構68と、第2遊星歯車機構69と、Hi/Lo切換機構70と、出力ギア71と、を有している。中間軸67は、FR切換機構65に連結されている。第1遊星歯車機構68及び第2遊星歯車機構69は、中間軸67と同軸上に配置されている。
【0035】
第1遊星歯車機構68は、第1サンギアS1と、複数の第1遊星ギアP1と、複数の第1遊星ギアP1を支持する第1キャリアC1と、第1リングギアR1とを有している。第1サンギアS1は、中間軸67に連結されている。複数の第1遊星ギアP1は、第1サンギアS1と噛み合い、第1キャリアC1に回転可能に支持されている。第1キャリアC1の外周部には、第1キャリアギアGc1が設けられている。第1リングギアR1は、複数の遊星ギアP1に噛み合うとともに回転可能である。また、第1リングギアR1の外周には、第1リング外周ギアGr1が設けられている。
【0036】
第2遊星歯車機構69は、第2サンギアS2と、複数の第2遊星ギアP2と、複数の第2遊星ギアP2を支持する第2キャリアC2と、第2リングギアR2とを有している。第2サンギアS2は、第1キャリアC1に連結されている。複数の第2遊星ギアP2は、第2サンギアS2と噛み合い、第2キャリアC2に回転可能に支持されている。第2リングギアR2は、複数の遊星ギアP2に噛み合うとともに回転可能である。第2リングギアR2の外周には、第2リング外周ギアGr2が設けられている。第2リング外周ギアGr2は出力ギア71に噛み合っており、第2リングギアR2の回転は出力ギア71を介して出力軸63に出力される。
【0037】
Hi/Lo切換機構70は、トランスミッション24における駆動力伝達経路を、車速が高い高速モード(Hiモード)と車速が低い低速モード(Loモード)で切り替えるための機構である。このHi/Lo切換機構70は、Hiモード時にオンにされるHiクラッチCHと、Loモード時にオンにされるLoクラッチCLと、Hiクラッチ制御弁VHと、Loクラッチ制御弁VLを有している。HiクラッチCHは、第1リングギアR1と第2キャリアC2とを接続又は切断する。また、LoクラッチCLは、第2キャリアC2と固定端72とを接続又は切断し、第2キャリアC2の回転を禁止又は許容する。
【0038】
なお、各クラッチCH,CLは油圧式クラッチであり、各クラッチCH,CLには、それぞれトランスミッションポンプ29からの作動油が供給される。クラッチCH,CLへ供給される作動油の圧力は、それぞれ、クラッチ制御弁VH,VLによって制御される。クラッチCH,CLには、圧力スイッチTH,TLが設けられるとよい。つまり、トランスミッション24は、圧力スイッチTH,TLをさらに含むとよい。圧力スイッチTH,TLは、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号を制御部31に送信する。より詳細には、圧力スイッチTH,TLは、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号をフィル完了判定部31a(詳細は後述)に送信する。設定圧としては、クラッチCH,CLへの作動油のフィル完了時の圧力(フィル圧)に相当する値が設定されている。従って、圧力スイッチTH,TLは、フィル完了を検知して、制御部31に検知信号を出力する。
【0039】
第1モータMG1と第2モータMG2と第3モータMG3とは、電気エネルギーによって駆動力を発生させる駆動モータとして機能する。また、第1モータMG1と第2モータMG2と第3モータMG3とは、入力される駆動力を用いて電気エネルギーを発生させるジェネレータとしても機能する。
【0040】
第1モータMG1の回転軸Sm1には第1モータギアGm1が固定されている。第1モータギアGm1は、第1キャリアギアGc1に噛み合っている。つまり、第1モータMG1は、第1遊星歯車機構68の回転要素に接続されている。第2モータMG2の回転軸Sm2には第2モータギアGm2が固定されている。第2モータギアGm2は、第1リング外周ギアGr1に噛み合っている。つまり、第2モータMG2は、第1遊星歯車機構68の回転要素に接続されている。
【0041】
第3モータMG3は、第1モータMG1と第2モータMG2とを補助する。変速機構66は、モータ切換機構73を有しており、モータ切換機構73は、第3モータMG3による補助対象を、第1モータMG1と第2モータMG2とに選択的に切り換える。
【0042】
詳細には、モータ切換機構73は、第1モータクラッチCm1と、第2モータクラッチCm2と、第1モータクラッチ制御弁Vm1と、第2モータクラッチ制御弁Vm2と、第1接続ギアGa1と、第2接続ギアGa2とを有する。第3モータMG3の回転軸Sm3には第3モータギアGm3が接続されており、第3モータギアGm3は、第1接続ギアGa1に噛み合っている。第1モータクラッチCm1は、第1モータMG1の回転軸Sm1と第1接続ギアGa1との接続及び切断を切り換える。第1接続ギアGa1は、第2接続ギアGa2と噛み合っている。第2モータクラッチCm2は、第2モータMG2の回転軸Sm2と第2接続ギアGa2との接続及び切断を切り換える。第1モータクラッチCm1と第2モータクラッチCm2の一方は接続されるので、結果的に、第3モータMG3は、第1遊星歯車機構68の回転要素に接続される。
【0043】
第1モータクラッチCm1と第2モータクラッチCm2とは油圧式のクラッチである。各モータクラッチCm1,Cm2には、それぞれトランスミッションポンプ29からの作動油が供給される。モータクラッチCm1,Cm2へ供給される作動油の圧力は、それぞれ、クラッチ制御弁Vm1,Vm2によって制御される。クラッチCm1,Cm2には、圧力スイッチTm1,Tm2が設けられるとよい。つまり、トランスミッション24は、圧力スイッチTm1,Tm2をさらに含むとよい。圧力スイッチTm1,Tm2は、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号を制御部31に送信する。より詳細には、圧力スイッチTm1,Tm2は、クラッチ圧が所定の圧力に達したときに、検知信号をフィル完了判定部31a(詳細は後述)に送信する。設定圧としては、クラッチCm1,Cm2への作動油のフィル完了時の圧力(フィル圧)に相当する値が設定されている。従って、圧力スイッチTm1,Tm2は、フィル完了を検知して、制御部31に検知信号を出力する。
【0044】
第1モータクラッチCm1が接続され、且つ、第2モータクラッチCm2が切断されている状態では、第3モータギアGm3は、第1モータMG1を補助する。第2モータクラッチCm2が接続され、且つ、第1モータクラッチCm1が切断されている状態では、第3モータギアGm3は、第2モータMG2を補助する。
【0045】
第1モータMG1は第1インバータI1を介してキャパシタ64に接続されている。第2モータMG2は第2インバータI2を介してキャパシタ64に接続されている。第3モータMG3は第3インバータI3を介してキャパシタ64に接続されている。
【0046】
キャパシタ64は、モータMG1,MG2,MG3で発生するエネルギーを蓄えるエネルギー蓄積部として機能する。すなわち、キャパシタ64は、各モータMG1,MG2,MG3の合計発電量が多いときに、各モータMG1,MG2,MG3で発電された電力を蓄電する。また、キャパシタ64は、各モータMG1,MG2,MG3の合計電力消費量が多いときに、電力を放電する。すなわち、各モータMG1,MG2,MG3は、キャパシタ64に蓄えられた電力によって駆動される。なお、キャパシタに代えてバッテリーが蓄電手段として用いられてもよい。
【0047】
作業車両1は、制御部31を備える。制御部31は、モータMG1,MG2,MG3への指令トルクを示す指令信号を各インバータI1, I2, I3に与える。これによって、制御部31は、トランスミッション24を制御する。また、制御部31は、各クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2のクラッチ油圧を制御するための指令信号をクラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2に与える。クラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2は、この指令信号に従って動作する。これによって、制御部31は、トランスミッション24及び作動油供給回路80を制御する。クラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2は、クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2を制御するための複数のバルブを含む。
【0048】
制御部31からの指令信号によってモータMG1,MG2,MG3及びクラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2が制御されることにより、トランスミッション24の変速比及び出力トルクが制御される。以下に、トランスミッション24の動作について説明する。
【0049】
ここでは、エンジン21の回転速度を一定に保ったまま車速が0から前進側に加速する場合におけるトランスミッション24の概略動作を、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、各モードにおけるモータMG1,MG2,MG3の機能とクラッチの状態とを示している。Loモードは、L1モードとL2モードとを有する。Hiモードは、H1モードとH2モードとを有する。
図3において、"M"は、モータMG1,MG2,MG3が駆動モータとして機能していることを意味する。"G"は、モータMG1,MG2,MG3がジェネレータとして機能していることを意味する。"O"は、クラッチが接続状態であることを意味する。"X"は、クラッチが切断状態であることを意味する。
【0050】
図4は、車速に対する各モータMG1,MG2,MG3の回転速度を示したものである。エンジン21の回転速度が一定である場合には、車速は、トランスミッション24の回転速度比に応じて変化する。回転速度比は、入力軸61の回転速度に対する出力軸63の回転速度の比である。従って、
図4において車速の変化は、トランスミッション24の回転速度比の変化に一致する。すなわち、
図4は、各モータMG1,MG2,MG3の回転速度とトランスミッション24の回転速度比との関係を示している。
図4において、実線が第1モータMG1の回転速度、破線が第2モータMG2の回転速度、一点鎖線が第3モータMG3の回転速度を示している。
【0051】
車速が0以上V1未満の領域では、LoクラッチCLが接続され、HiクラッチCHが切断され、第1モータクラッチCm1が接続され、第2モータクラッチCm2が切断される(L1モード)。HiクラッチCHが切断されているので、第2キャリアC2と第1リングギアR1とが切断される。LoクラッチCLが接続されるので、第2キャリアC2が固定される。また、第1接続ギアGa1が第1モータMG1の回転軸Sm3に接続され、第2接続ギアGa2が第2モータMG2の回転軸Sm2から切断される。これにより、第3モータギアGm3と第1接続ギアGa1と第1モータクラッチCm1とを介して、第3モータMG3が第1モータMG1に接続される。また、第2モータクラッチCm2が切断されるので、第3モータMG3は第2モータMG2から切断される。
【0052】
このL1モードにおいては、エンジン21からの駆動力は、中間軸67を介して第1サンギアS1に入力され、この駆動力は第1キャリアC1から第2サンギアS2に出力される。一方、第1サンギアS1に入力された駆動力は第1遊星ギアP1から第1リングギアR1に伝達され、第1リング外周ギアGr1及び第2モータギアGm2を介して第2モータMG2に出力される。第2モータMG2は、このL1モードにおいては、主としてジェネレータとして機能しており、第2モータMG2によって発電された電力の一部は、キャパシタ64に蓄電される。
【0053】
また、L1モードにおいては、第1モータMG1及び第3モータMG3は、主として電動モータとして機能する。第1モータMG1及び第3モータMG3の駆動力は、第1モータギアGm1→第1キャリアギアGc1→第1キャリアC1の経路で第2サンギアS2に出力される。以上のようにして第2サンギアS2に出力された駆動力は、第2遊星ギアP2→第2リングギアR2→第2リング外周ギアGr2→出力ギア71の経路で出力軸63に伝達される。
【0054】
車速がV1以上V2未満の領域では、LoクラッチCLは接続され、HiクラッチCHは切断され、第1モータクラッチCm1が切断され、第2モータクラッチCm2が接続される(L2モード)。従って、第2接続ギアGa2が第2モータMG2の回転軸Sm2に接続され、第1接続ギアGa1が第1モータMG1の回転軸Sm1から切断されている。これにより、第3モータギアGm3と第1接続ギアGa1と第2接続ギアGa2と第2モータクラッチCm2とを介して、第3モータMG3が第2モータMG2に接続される。また、第1モータクラッチCm1が切断されるので、第3モータMG3は第1モータMG1から切断される。
【0055】
このL2モードにおいては、エンジン21からの駆動力は、中間軸67を介して第1サンギアS1に入力され、この駆動力は第1キャリアC1から第2サンギアS2に出力される。一方、第1サンギアS1に入力された駆動力は第1遊星ギアP1から第1リングギアR1に伝達され、第1リング外周ギアGr1及び第2モータギアGm2を介して第2モータMG2に出力される。また、駆動力は、第2モータギアGm2から第2モータクラッチCm2と第2接続ギアGa2と第1接続ギアGa1と第3モータギアGm3を介して、第3モータMG3に出力される。第2モータMG2及び第3モータMG3は、このL2モードにおいては、主としてジェネレータとして機能しており、第2モータMG2及び第3モータMG3によって発電された電力の一部は、キャパシタ64に蓄電される。
【0056】
また、L2モードにおいては、第1モータMG1は、主として電動モータとして機能する。第1モータMG1の駆動力は、第1モータギアGm1→第1キャリアギアGc1→第1キャリアC1の経路で第2サンギアS2に出力される。以上のようにして第2サンギアS2に出力された駆動力は、第2遊星ギアP2→第2リングギアR2→第2リング外周ギアGr2→出力ギア71の経路で出力軸63に伝達される。
【0057】
車速がV2以上V3未満の領域では、LoクラッチCLが切断され、HiクラッチCHが接続され、第1モータクラッチCm1が切断され、第2モータクラッチCm2が接続される(H1モード)。このH1モードでは、HiクラッチCHが接続されているので、第2キャリアC2と第1リングギアR1とが接続される。また、LoクラッチCLが切断されるので、第2キャリアC2が解放される。従って、第1リングギアR1と第2キャリアC2の回転速度とは一致する。また、第2接続ギアGa2が第2モータMG2の回転軸Sm2に接続され、第1接続ギアGa1が第1モータMG1の回転軸Sm1から切断されている。これにより、第3モータギアGm3と第1接続ギアGa1と第2接続ギアGa2と第2モータクラッチCm2とを介して、第3モータMG3が第2モータMG2に接続される。また、第1モータクラッチCm1が切断されるので、第3モータMG3は第1モータMG1から切断される。
【0058】
このH1モードでは、エンジン21からの駆動力は第1サンギアS1に入力され、この駆動力は第1キャリアC1から第2サンギアS2に出力される。また、第1サンギアS1に入力された駆動力は、第1キャリアC1から第1キャリアギアGc1及び第1モータギアGm1を介して第1モータMG1に出力される。このH1モードでは、第1モータMG1は主としてジェネレータとして機能するので、この第1モータMG1で発電された電力の一部は、キャパシタ64に蓄電される。
【0059】
また、H1モードでは、第2モータMG2と第3モータMG3とは、主として電動モータとして機能する。第3モータMG3の駆動力は、第3モータギアGm3から第1接続ギアGa1と第2接続ギアGa2と第2モータクラッチCm2とを介して第2モータMG2の回転軸Sm2に伝達される。そして、第2モータMG2の駆動力と第3モータMG3の駆動力とが、第2モータギアGm2→第1リング外周ギアGr1→第1リングギアR1→HiクラッチCHの経路で第2キャリアC2に出力される。以上のようにして第2サンギアS2に出力された駆動力は第2遊星ギアP2を介して第2リングギアR2に出力されるとともに、第2キャリアC2に出力された駆動力は第2遊星ギアP2を介して第2リングギアR2に出力される。このようにして第2リングギアR2で合わさった駆動力が、第2リング外周ギアGr2及び出力ギア71を介して出力軸63に伝達される。
【0060】
車速がV3以上V4未満の領域では、LoクラッチCLが切断され、HiクラッチCHが接続され、第1モータクラッチCm1が接続され、第2モータクラッチCm2が切断される(H2モード)。このH2モードでは、第1接続ギアGa1が第1モータMG1の回転軸Sm3に接続され、第2接続ギアGa2が第2モータMG2の回転軸Sm2から切断される。これにより、第3モータギアGm3と第1接続ギアGa1と第1モータクラッチCm1とを介して、第3モータMG3が第1モータMG1に接続される。また、第2モータクラッチCm2が切断されるので、第3モータMG3は第2モータMG2から切断される。
【0061】
このH2モードでは、エンジン21からの駆動力は第1サンギアS1に入力され、この駆動力は第1キャリアC1から第2サンギアS2に出力される。また、第1サンギアS1に入力された駆動力は、第1キャリアC1から第1キャリアギアGc1及び第1モータギアGm1を介して第1モータMG1及び第3モータGm3に出力される。このH2モードでは、第1モータMG1及び第3モータGm3は主としてジェネレータとして機能するので、この第1モータMG1及び第3モータGm3で発電された電力の一部は、キャパシタ64に蓄電される。
【0062】
また、H2モードでは、第2モータMG2は主として電動モータとして機能する。第2モータMG2の駆動力は、第2モータギアGm2→第1リング外周ギアGr1→第1リングギアR1→HiクラッチCHの経路で第2キャリアC2に出力される。以上のようにして第2サンギアS2に出力された駆動力は第2遊星ギアP2を介して第2リングギアR2に出力されるとともに、第2キャリアC2に出力された駆動力は第2遊星ギアP2を介して第2リングギアR2に出力される。このようにして第2リングギアR2で合わさった駆動力が、第2リング外周ギアGr2及び出力ギア71を介して出力軸63に伝達される。
【0063】
なお、以上は前進駆動時の説明であるが、後進駆動時においても同様の動作となる。
【0064】
図2に戻り、制御部31は、フィル完了判定部31aとタイマ31bとを含む。フィル完了判定部31aは、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされたフィル完了状態となったか否かを判定する。フィル完了判定部31aには、各圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2からの検知信号が送信される。タイマ31bは、変速指令、又は、クラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2への指令電流の出力開始後、フィル完了状態となるまでの時間を測定する。フィル完了判定部31a及びタイマ31bの動作の詳細は後述する。
【0065】
つぎに、作動油供給回路80、及び作動油暖機回路81の詳細について説明する。
図5は、本実施形態に係る作動油供給回路80、及び作動油暖機回路81の詳細図である。
図5では、クラッチの一例として、クラッチCLを例に挙げて、クラッチCLのクラッチ制御弁VL、圧力スイッチTLを含むクラッチ回路83を図示している。他のクラッチのクラッチ回路もクラッチ回路83と同様と考えればよい。
【0066】
クラッチ回路83は、クラッチCLと、クラッチ制御弁VLと、圧力スイッチTLとを備える。クラッチ制御弁VLは、圧力制御弁VL1と、電磁制御弁VL2とを含む。圧力制御弁VL1は、クラッチCLに供給される油圧(つまり、クラッチ圧)を制御するための装置である。圧力制御弁VL1は、接続回路80a(すなわち、作動油供給回路80)と出力流路85とドレン回路86とに接続されている。接続回路80aは後述するロジック弁84に接続されている。出力流路85はクラッチCLに接続されている。ドレン回路86は作動油タンク29aに接続されている。圧力制御弁VL1は、後述する電磁制御弁VL2に接続するパイロット回路PLのパイロット圧の大きさに応じて入力流路80の油圧を調整して出力流路85へと導く。すなわち、圧力制御弁VL1は、入力されるパイロット圧に応じてクラッチ圧を変化させる。なお、圧力制御弁VL1にパイロット圧が供給されていない状態では、圧力制御弁VL1は、出力流路85とドレン回路86とを接続する。これにより、クラッチCLから作動油が排出され作動油タンク29aに回収される。なお、圧力制御弁VL1のパイロットポートにはパイロット回路PLが接続されている。
【0067】
電磁制御弁VL2は、圧力制御弁VL1に入力されるパイロット圧を制御するための装置である。電磁制御弁VL2は、絞り87を介して接続回路80aに接続されている。電磁制御弁VL2と絞り87との間には、上述したパイロット回路PLが接続されている。また、電磁制御弁VL2は、ドレン回路88を介して作動油タンク29aに接続されている。電磁制御弁VL2は、接続回路80aとドレン回路88とを接続する接続状態と、接続回路80aとドレン回路88とを遮断する遮断状態との間で切り換え可能である。電磁制御弁VL2は、制御部31から入力される指令電流の大きさに応じて、接続状態と遮断状態とを切り換えることができる。これにより、電磁制御弁VL2は、指令電流に応じて、パイロット回路PLに供給されるパイロット圧を制御することができる。
【0068】
圧力スイッチTLは、クラッチCLが所定の圧力に達したときに、検知信号を制御部31のフィル完了判定部31aに送信する。
【0069】
作動油供給回路80は、接続回路80aとトランスミッションポンプ29とを含む。作動油供給回路80は、さらに、リリーフ弁97を含むとよい。接続回路80aは、上述するように、クラッチ制御弁VLとロジック弁84のRポートとに接続する。接続回路80aには、リリーフ弁97が接続される。リリーフ弁97は、接続回路80aが、リリーフ弁97のクラッキング圧Pc1を超えると、接続回路80aと作動油タンク29aとを連通する。このクラッキング圧Pc1によって、作動油供給回路80の最大の圧力が設定される。
【0070】
作動油暖機回路81は、ロジック弁84と、電磁弁90と、補助回路91と、パイロット回路94と、ドレン回路95と、リリーフ弁96とを含む。ドレン回路95は、作動油タンク29aに連通する。ロジック弁84は、パイロット回路94のパイロット圧に応じて、入力流路(Pポート)と出力流路(Rポート)を連通もしくは遮断する。Pポートは、トランスミッションポンプ29からの油圧回路に接続する。Rポートは、上述するように接続回路80aに接続される。ロジック弁84は、ポペットをPポート及びRポートに向かって押すバネを含む。
【0071】
ここで、パイロット回路94が接続するロジック弁84のポートをXポートとし、Xポートの圧力をPx、Xポートの受圧面積をAxとする。同様に、Pポートの圧力をPp、Pポートの受圧面積をApとし、Rポートの圧力をPr、Rポートの受圧面積をArとする。また、バネがポペットを押す力をFsとする。
まず、Ar/Ax=α(0<α<1)とすると、Ap/Ax=1−αと表される。
このとき、Xポート側押し付け力Fxは、以下の(式1)のように表される。
Fx=(Ax・Px)+Fs -------------(式1)
P,Rポート側押し上げ力Fwは、以下の(式2)のように表される。
Fw=(Ap・Pp)+( Ar・Pr)={(1−α)・Ax・Pp}+ (α・Ax ・Pr) -----(式2)
Fx<Fwの関係を満たすとき、ロジック弁84は閉じた状態から開いた状態に変化する。そして、Fx>Fwの関係を満たすとき、ロジック弁84は開いた状態から閉じた状態に変化する。Fx=Fwの関係を満たすとき、弁が動かない平衡状態となる。
【0072】
補助回路91は、トランスミッションポンプ29とロジック弁84のPポートとの間の作動油供給回路80の分岐点C1に接続し、電磁弁90のPポートまで伸びている。補助回路91は、絞り92を含んでいる。絞り92は、ロジック弁84のポペットが急激に動くことを防止する役割を果たす。なお、補助回路91は、絞り92以外に他の絞りを含んでもよい。電磁弁90は、PポートとTポートとを連通もしくは遮断する。つまり、電磁弁90は、補助回路91とドレン回路95とを連通もしくは遮断する。ドレン回路95は、電磁弁90のTポートと作動油タンク29aとに接続されている。したがって、電磁弁90のPポートとTポートとが連通しているとき、補助回路91は、電磁弁90を介して作動油タンク29aと連通する。電磁弁90は、制御部31からの暖機指令を受けると、PポートとTポートとの間を遮断する。つまり、電磁弁90は、制御部31からの暖機指令を受けると、補助回路91からドレン回路95への流路を遮断する。
【0073】
パイロット回路94は、補助回路91から分岐している。つまり、補助回路91は、パイロット回路94に接続している。絞り92は、分岐点C1と、パイロット回路94との間の補助回路91に設けられている。パイロット回路94はロジック弁84のXポート及びリリーフ弁96に接続している。
【0074】
リリーフ弁96は、パイロット回路94とドレン回路95との間に設けられる。リリーフ弁96は、通常、パイロット回路94とドレン回路95とを遮断する。しかし、リリーフ弁96のパイロット圧(パイロット回路94における油圧)がクラッキング圧Pc2を超えると、リリーフ弁96はパイロット回路94とドレン回路95とを連通する。電磁弁90のPポートとTポートが連通されているときは、リリーフ弁96のパイロット圧Pxが0近辺となり、クラッキング圧Pc2に至らない。つまり、電磁弁90が制御部31からの暖機指令を受けていない場合、パイロット回路94とドレン回路95との間が遮断されている。電磁弁90が制御部31からの暖機指令を受けると、電磁弁90のPポートとTポートが遮断されるため、リリーフ弁96のパイロット圧Pxが上昇する。そして、パイロット圧Pxがクラッキング圧Pc2に至ると、パイロット回路94とドレン回路95とが連通する。つまり、電磁弁90が制御部31からの暖機指令を受けると、リリーフ弁96のパイロット圧Pxがクラッキング圧Pc2まで高められる。
【0075】
次に、具体的な暖機のメカニズムについて説明する。暖機を行う車両の起動状態では、ロジック弁84が閉じた状態となっており、クラッチの油室には作動油がない状態である。したがって、Pr=0である。このとき、電磁弁90は暖機指令を受けているため、PポートとTポートが遮断されている。このため、トランスミッションポンプ29から受けた油圧によって、PpとPxは、ほぼ同じ圧力で上昇する。Px=Pc2となると、リリーフ弁96に作動油が流れるようになり、絞り92によってPpとPxとの間には差圧を生じることとなる。この場合、PxはPc2から上昇しないが、Ppはさらに上昇する。そして、Ppが下記の(式3)を満たすときに弁が開く。
Pp > [Px + Fs/Fx] / (1−α) ------(式3)
なお、上述する式におけるFs/Fxは、Pxよりも十分小さい値であり、αも0に近い値である。したがって、Ppは、Pxよりも少し大きな値である。
【0076】
ロジック弁84が開き、ロジック弁84のPポートとRポートが連通されると、圧力差のあるPポートからRポートに作動油が流れることとなり、圧力損失により作動油が温められる。そして、Rポートに作動油が流れるにつれ、Rポートの圧力Prが徐々に上昇する。ロジック弁84が開いた状態で平衡状態に保たれると、Ppは以下の(式4)を満たす値となる。
Pp = [Px −α・Pr + Fs/Fx] / (1−α) ------(式4)
(式4)から明らかなようにPrが上昇すれば、Ppも下がる。そして、PrはPpに近い値となる。同時に、ロジック弁84が開くことにより、Xポートに溜まっていた作動油がリリーフ弁96に押し出されることにより、Pxが上昇する。そのため、Fx>Fwとなり再びロジック弁84が閉じる。ロジック弁96が閉じると、作動油がPポートからRポートへ流れなくなることから、再びPpが上昇する。そして、Ppが(式5)を満たすときに、再びロジック弁96が開く。
Pp > [Px −α・Pr + Fs/Fx] / (1−α) ------(式5)
電磁弁90は暖機指令を受けている場合、上述する状態を繰り返すことによって、圧力差のあるPポートとRポートとを介して作動油が流れることとなる。これによって、作動油が継続的に温められる。電磁弁90が暖機指令を受けなくなると、PポートとTポートとが連通される。この場合、Pxが0に近い値となるため、Fxが小さい値となる。したがって、Fx<Fwとなり、ロジック弁84が連続的に開く状態となる。この場合、Pr=Ppとなるため、圧力損失が生じない。したがって、作動油がロジック弁84により温められなくなる。
【0077】
〔作動油暖機時の制御部〕
以下、制御部31によって実行される作動油暖機時の制御について、
図6及び
図7に基づいて説明する。
図6は、作動油暖機時の制御内容を示すフローチャートである。
図7 (a)は、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の切換時のクラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2への指令電流の変化を表すタイミングチャートである。
図7 (b)は、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の切換時のクラッチ圧の変化を示すタイミングチャートである。
【0078】
まず、ステップS1において、オペレータのキー操作などにより、作業車両1が起動される。つぎに、ステップS2において、作業車両1は、作動油の暖機を開始する。具体的には、制御部31は、暖機機能を働かせる暖機指令を作動油暖機回路81又は作動油供給回路80に出力する。つまり、制御部31は、暖機指令を送ることによって、作動油暖機回路81を制御する。より詳細には、制御部31は、暖機指令を電磁弁90に出力する。これにより、電磁弁90のPポートとTポートとが遮断される。その結果、ロジック弁84において作動油の圧力損失が発生し、作動油の温度が上昇する。つまり、作動油暖機回路81は、暖機指令を受けると、作動油の流路において圧力損失を発生させて、作動油を温める。
【0079】
つぎに、ステップS3において、制御部31は、変速指令が発生したか否かを判定する。変速指令は、車速やエンジン回転数に応じて制御部31がトランスミッション24の速度段の切換を決定した場合や、オペレータが図示しない変速操作部材を操作して手動で変速を指示した場合に発生する。変速指令が発生すると、ステップS4に進む。ここで、変速指令が発生した時点を
図7のt0とする。
【0080】
ステップS4では、制御部31は、クラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2への指令電流の出力を開始する。ここで、指令電流の出力を開始した時点とは、
図7の時点t1である。
図7(a)の時点t1では、制御部31からクラッチ制御弁VF,VR,VH,VL,Vm1,Vm2に所定のトリガ指令値I1の指令電流が出力される。このトリガ指令は、時点t1から時点t2まで維持される。これにより、時点t1から時点t1までの間には、比較的大流量の作動油がクラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2に供給され、
図7(b)に示すようにクラッチ圧がやや増大する。ただし、この時点ではクラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室がまだ充満されていない。
【0081】
ステップS5では、時点t1において、タイマ31bを起動し、クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされるまでの時間Tの計測を開始する。それから、トリガ指令の出力開始から所定時間が経過した時点t2において、指令電流が所定の設定電流値I2に低減される。そして、ステップS6においてフィル完了状態であると判定されるまで、指令電流が設定電流値I2に維持される。これにより、クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2に供給される作動油の流量が絞られ、
図7(b)に示すように、クラッチ圧は時点t1から時点t2までの間よりも小さくなる。
【0082】
ステップS6では、制御部31(より詳細には、フィル完了判定部31b)がフィル完了状態となったか否かを判定する。ここでは、圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2の検知信号をフィル完了判定部31bが受信すると、フィル完了判定部31bは、フィル完了状態となったと判定する。
図7(b)の時点t3に示すように、クラッチ圧が所定のフィル圧P2に達した場合に、圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2から検知信号がフィル完了判定部31bに送信され、フィル完了状態となったと判定される。フィル完了状態となったと判定された場合には、ステップS7に進む。
【0083】
ステップS7では、タイマ31bによりクラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされるまでの時間Tを検出する。
図7の例では、T=t3-t1である。時点t3以降では、クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2のビルドアップが開始される。
【0084】
ステップS8では、制御部31は、測定した時間Tが所定時間T0以下であるか判定する。時間TがT0以下である場合(ステップS8でYes)、ステップS9において、作業車両1は、作動油の暖機を終了する。具体的には、制御部31は、暖機指令を作動油暖機回路81又は作動油供給回路80に出力するのを終了する。より詳細には、制御部31は、暖機指令を電磁弁90に出力するのを終了する。これにより、電磁弁90のPポートとTポートが連通される。このため、ロジック弁84が完全に開いた状態となり、PポートとRポートとの間で圧力差がなくなるため、作動油は温められることなく、各クラッチへ流れる。
【0085】
時間TがT0より長い場合(ステップS8でNo)、ステップS3に戻る。つまり、制御部31は、暖機指令を作動油暖機回路81又は作動油供給回路80に引き続き出力する。より詳細には、制御部31は、暖機指令を電磁弁90に引き続き出力する。これにより、作動油の暖機が引き続き行われる。
【0086】
〔他の作動油供給回路及び他の作動油暖機回路〕
作動油供給回路80及び作動油暖機回路81は、
図5に示されたもの以外に、多様に変形されてもよい。ここでは、代表的な変形例を、
図8を用いて説明する。
図8では、
図5と同じ構成要素については、同じ符号を付しており、詳細な説明を省略する。
【0087】
図8における変形例では、作動油供給回路80は、トランスミッションポンプ29から接続部P,Q,Rを順に通って、クラッチ回路83まで伸びている。作動油供給回路80は、開閉弁98を含む。作動油暖機回路81は、補助回路91と、リリーフ弁96とを含む。補助回路91は、作動油供給回路80の分岐点Pにおいて作動油供給回路80から分岐して分岐点Rまで伸びている。リリーフ弁96は、補助回路91上に設けられている。リリーフ弁96は、開閉弁98に並設されている。リリーフ弁96は、通常、補助回路91を遮断する。しかし、リリーフ弁96のパイロット圧(分岐点Pにおける油圧)がクラッキング圧Pc3を超えると、リリーフ弁96は補助回路91を連通する。作動油供給回路80は、ドレン回路95とリリーフ弁99とをさらに含んでもよい。ドレン回路95は、作動油供給回路80(分岐点Q)と作動油タンク29aとに接続されている。ドレン回路95には、リリーフ弁99が設けられている。つまり、作動油供給回路80は、リリーフ弁99を介して作動油タンク29aに連通する。リリーフ弁99は、リリーフ弁99のクラッキング圧Pc4より大きい油圧がクラッチ回路83に加わらないように、クラッチ回路83を保護する役割を果たす。
【0088】
開閉弁98は、作動油供給回路80上に設けられている。開閉弁98は、制御部31からの暖機指令を受けていない場合、開状態となる。すなわち、開閉弁98は、分岐点Pと分岐点Qとを連通させる。
【0089】
開閉弁98は、制御部31からの暖機指令を受けると、閉状態となる。すなわち、開閉弁98は、分岐点Pと分岐点Qとの間を遮断する。このため、作動油は、リリーフ弁96を介して流れる。作動油がリリーフ弁96を通る際に、作動油の圧力損失が発生し、作動油の温度が上昇する。つまり、作動油暖機回路81は、暖機指令を受けると、作動油の流路において圧力損失を発生させて、作動油を温める。作動油暖機回路81は、作動油を、リリーフ弁96を介して作動油供給回路80に流す。
【0090】
本変形例における作動油暖機時の制御では、(1)ステップS2において、制御部31は暖機指令を開閉弁98に出力すること、(2)ステップS9において、制御部31は暖機指令を開閉弁98に出力するのを終了することのみが、
図5に示された油圧回路における作動油暖機時の制御と異なる。
【0091】
〔特徴〕
本実施形態に係る作業車両1は、以下の特徴を備える。
【0092】
(1)作業車両1では、制御部31が、変速指令、又は、クラッチ制御弁VF、VR、VL、VH、Vm1、Vm2への指令電流の出力開始後、フィル完了状態となるまでの時間Tを測定する。そして、その時間Tが所定時間T0よりも長い場合、制御部31は、作動油の粘度が高く、油温が低いものと判定し、トルクコンバータとは異なる作動油暖機回路81が作動油の暖機を行う。ゆえに、当該作業車両1は、トルクコンバータを有していなくても、作業車両起動時に、クラッチCF、CR、CL、CH、Cm1、Cm2の作動油の油温を上げることができる。また、作動油の油温を測定する温度センサを利用することなく、暖機の要/不要を判定するので、作業車両1の部品点数を減らし、低コスト化を実現できる。
【0093】
(2)作動油暖機回路81は、ロジック弁84と、パイロット回路94とを含む。したがって、作動油暖機回路81は、トルクコンバータではない。また、作動油暖機回路81は、暖機指令を受けると、パイロット回路94の油圧を高め、ロジック弁84のPポートの油圧PpとRポートの油圧Prとの間で圧力差(Pp−Pr)を生じさせる。このため、作動油がロジック弁84を通る際に、作動油の圧力損失が生じて、作動油を温めることができる。
【0094】
(3)作動油暖気回路81は、ドレン回路95と、電磁弁90と、補助回路91と、リリーフ弁96とを含む。補助回路91は、トランスミッションポンプ29とロジック弁84のPポートとの間の作動油供給回路の分岐点C1及びパイロット回路94に接続する。また、リリーフ弁96は、パイロット回路94とドレン回路95との間に設けられる。電磁弁90は、制御部31からの暖機指令を受けると、補助回路91からドレン回路95への流路を遮断する。このとき、パイロット回路94の油圧Pxは、リリーフ弁96のクラッキング圧Pc2まで上昇する。そして、電磁弁90は、制御部31からの暖機指令を受けていないとき、補助回路91と作動油タンク29aとを連通させる。このとき、パイロット回路94の油圧Pxは、ほぼ0となる。したがって、制御部31からの暖機指令により、パイロット回路94の油圧を制御することができる。
【0095】
(4)作動油暖機回路81は、開閉弁98に並設されたリリーフ弁96を含む。したがって、作動油暖機回路81は、トルクコンバータではない。開閉弁98が暖機指令を受けると閉状態となることによって、作動油暖機回路81は、作動油を、リリーフ弁96を介して作動油供給回路80に流す。このため、作動油がリリーフ弁96を通る際に、作動油の圧力損失が生じて、作動油を温めることができる。
【0096】
(5)トランスミッション24は、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2のクラッチ圧が所定の圧力に達したときに検知信号をフィル完了判定部31aに送信する圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2を含む。これによって、タイマ31bは、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされるまでの時間を正確に計測することができる。
【0097】
〔変形例〕
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0098】
上述の実施形態では、圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2によって、フィル完了状態であることを検出している。しかし、圧力スイッチTF,TR,TH,TL,Tm1,Tm2に代え、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2のクラッチ圧の油室の油圧を測定するセンサを設けて、それらのセンサが測定した油圧をフィル完了判定部31 aに送信し、フィル完了判定部31aは、送信された油圧が時点t2以降に所定値P2(
図7(b)参照)に達した場合に、フィル完了状態となったと判定してもよい。これによっても、タイマ31bは、油圧クラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされるまでの時間Tを正確に計測することができる。
【0099】
上述の実施形態では、時間Tを、T=t3-t1と求めていたが、T=t3-t0としてもよい。すなわち、タイマ31bは、変速指令が発生してからクラッチCF,CR,CH,CL,Cm1,Cm2の油室に作動油が満たされるまでの時間を計測し、その時間が所定時間より長ければ、制御部31は、暖機指令を作動油暖機回路81又は作動油供給回路80に出力する制御を行ってもよい。
【0100】
また、上述の実施形態において、作業車両1は、トランスミッション24潤滑のための作動油を吐出する潤滑用ポンプもさらに備えてもよい。
【0101】
上述の実施形態は、EMTに限らずHMTなどの他の種類の変速装置に適用されてもよい。この場合、第1モータMG1は、油圧モータ及び油圧ポンプとして機能する。第2モータMG2は、油圧モータ及び油圧ポンプとして機能する。また、第3モータMG3は、油圧モータ及び油圧ポンプとして機能する。第1モータMG1と第2モータMG2と第3モータMG3とは、可変容量型のポンプ/モータであり、制御部31によって容量が制御される。
【0102】
トランスミッション24の構成は上記の実施形態の構成に限られない。例えば、2つの遊星歯車機構68,69の各要素の連結、配置は、上記の実施形態の連結、配置に限定されるものではない。遊星歯車機構の数は2つに限らない。例えば、トランスミッションは1つの遊星歯車機構を備えてもよい。モータの数は3つに限らない。モータの数は1、2、或いは4つ以上であってもよい。例えば、第3モータMG3が省略されてもよい。
トルクコンバータを使わずに、作業車両起動時に、クラッチの作動油の油温を上げることができる作業車両を提供する。作業車両は、トランスミッションと、作動油供給回路と、作動油暖機回路と、制御部と、を備える。作動油供給回路は、トランスミッションに作動油を供給する。作動油暖機回路は、作動油を温める。制御部は、トランスミッション、作動油供給回路、及び作動油暖機回路を制御する。トランスミッションは、油圧クラッチと、クラッチ制御弁と、を含む。クラッチ制御弁は、油圧クラッチへ供給される作動油の圧力を制御部からの指令に従って制御する。制御部は、作動油の油温が低いと判定すると、暖機機能を働かせる暖機指令を出力する。作動油暖機回路は、作動油の流路において圧力損失を発生させて、作動油を温める。