特許第5770401号(P5770401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770401ジャッキ本体の製造方法およびジャッキの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5770401
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ジャッキ本体の製造方法およびジャッキの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B66F 3/24 20060101AFI20150806BHJP
   B66F 3/35 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B66F3/24 Z
   B66F3/35
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-48892(P2015-48892)
(22)【出願日】2015年3月11日
【審査請求日】2015年3月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000163110
【氏名又は名称】極東鋼弦コンクリート振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】山下 和則
(72)【発明者】
【氏名】西岡 基
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5425291(JP,B1)
【文献】 特開2005−053675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 3/24
B66F 3/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の支圧板によって挟まれ、注入材の注入状態に応じて膨張および収縮するジャッキ本体の製造方法であって、
平板状の鋼板に対してへら絞り加工を行うことにより、一対の加工品を成形する工程と、
前記一対の加工品の端面を互いに接触させて溶接することにより、前記ジャッキ本体を加工する工程と、を有し、
前記鋼板の厚さが、0.8mm以上であって、2.6mm以下であることを特徴とするジャッキ本体の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板の厚さが、1.2mm以上であって、2.6mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のジャッキ本体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のジャッキ本体の製造方法と、
前記支圧板を製造して、前記ジャッキ本体に対して前記一対の支圧板を配置する工程と、
を有することを特徴とするジャッキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入材の注入に伴う膨張によって揚力を発生させるジャッキの製造方法と、このジャッキに含まれるジャッキ本体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、ジャッキ(いわゆる、フラットタイプのジャッキ)の構造が記載されている。このジャッキは、注入材が注入されるジャッキ本体と、ジャッキ本体を挟む一対の支圧板とを有する。ジャッキ本体の内部に注入材を注入して、ジャッキ本体の内部の圧力を上昇させることにより、ジャッキに揚力を発生させている。
【0003】
従来のジャッキの製造方法について、図6A図6Dを用いて説明する。
【0004】
鋼板のプレス絞り加工によって、図6Aに示す形状を有する加工品110を製造する。加工品110を矢印D2の方向から見たとき、加工品110は、円形に形成されている。図6Aは、加工品110を径方向に切断したときの断面図である。加工品110の屈曲部111は、加工品110の周方向に形成されている。
【0005】
次に、図6Bに示すように2つの加工品110を配置し、一方の加工品110の外縁部112と、他方の加工品110の外縁部112とを溶接する。これにより、ジャッキ本体120が製造される。図6Bに示すジャッキ本体120を製造した後、ジャッキ本体120の品質を確認するために、ジャッキ本体120の内部に注入材を注入することにより、ジャッキ本体120から注入材が漏れないか否かを確認している。
【0006】
次に、図6Bに示すジャッキ本体120の中央部R1に対して、プレス絞り加工を行うことにより、図6Cに示す形状を有するジャッキ本体120を形成する。図6Cに示すジャッキ本体120では、中央部R1が互いに接触しており、ジャッキ本体120の外周部R2が膨らんでいる。
【0007】
次に、図6Dに示すように、図6Cに示すジャッキ本体120に対して、一対の支圧板130を配置する。これにより、特許文献1,2に開示されたジャッキ100が得られる。一対の支圧板130は、ジャッキ本体120を挟む位置に配置され、各支圧板130は、ジャッキ本体120の外面に沿った形状を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭48−019671号公報
【特許文献2】特許第5425291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6A〜6Dを用いて説明したように、プレス絞り加工を行う上では、ジャッキ本体120を構成する鋼板の厚さを十分に確保する必要があった。鋼板の厚さが薄くなるほど、鋼板のプレス絞り加工を行ったときに、鋼板を曲げ加工した部分の厚さが薄くなり、ジャッキ本体120の疲労強度が低下するおそれがあるためである。
【0010】
一方、ジャッキを使用するときには、ジャッキの揚力を目標値に到達させるまでの間において、ジャッキの揚力の変化を監視することが求められている。本願発明者等によれば、ジャッキ本体を構成する鋼板の厚さを薄くするほど、ジャッキ本体の内部の圧力上昇に対して、ジャッキの揚力が変化しやすいことが分かった。このため、ジャッキの揚力の変化を監視する上では、ジャッキ本体を構成する鋼板の厚さを薄くすることが好ましい。
【0011】
しかし、従来のようにプレス絞り加工を行う場合には、ジャッキ本体を構成する鋼板の厚さを十分に確保しなければならないため、ジャッキの揚力の変化を監視することができない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一対の支圧板によって挟まれ、注入材の注入状態に応じて膨張および収縮するジャッキ本体の製造方法である。この製造方法は、平板状の鋼板に対してへら絞り加工を行うことにより、一対の加工品を成形する工程と、一対の加工品の端面を互いに接触させて溶接することにより、ジャッキ本体を加工する工程と、を有する。ここで、鋼板の厚さは、0.8mm以上であって、2.6mm以下である。
【0013】
鋼板の厚さを0.8〜2.6mmとすることにより、ジャッキ本体の内部に注入材を注入してジャッキ本体の内部の圧力を上昇させたときに、ジャッキ本体の内部の圧力上昇に追従してジャッキ本体の揚力を変化させやすくなる。これにより、ジャッキ本体の揚力を目標値に到達させるまでの間において、ジャッキ本体の揚力の変化を把握しやすくなり、揚力の監視を行うことができる。
【0014】
また、上述した厚さの鋼板に対して、プレス絞り加工を行うと、一対の加工品の溶接が不十分となりやすい。そこで、本発明では、上述した厚さの鋼板に対して、へら絞り加工を行うことにより、加工品を製造することができる。しかも、上述した厚さの鋼板を用いることにより、一対の加工品に対して十分な溶接を行うことができる。
【0015】
鋼板の厚さは、1.2mm以上であって、2.6mm以下とすることができる。ジャッキ本体を使用するときには、ジャッキ本体の膨張および収縮が繰り返されることがある。また、ジャッキによって構造物を支え、ジャッキのストローク量を所定値に維持しているとき、ジャッキに作用する荷重が変動することがある。ここで、鋼板の厚さを1.2〜2.6mmとすることにより、ジャッキ本体の膨張および収縮を繰り返す回数が増加しても、また、ジャッキに対する荷重変動が繰り返される回数が増加しても、ジャッキ本体の疲労強度の低下を抑制しやすくできる。
【0016】
ジャッキを製造するときには、上述したようにジャッキ本体を製造するとともに、一対の支圧板を製造する。ジャッキ本体に対して、一対の支圧板を配置することにより、ジャッキが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ジャッキの平面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3A】本実施形態のジャッキの製造方法を説明する図である。
図3B】本実施形態のジャッキの製造方法を説明する図である。
図3C】本実施形態のジャッキの製造方法を説明する図である。
図4】ジャッキ本体の鋼板の厚さと、ジャッキの膨張および収縮を繰り返したときに疲労破壊に至るまでの回数との関係を示す図である。
図5】ジャッキ本体の鋼板の厚さと、ジャッキのストローク量を所定値に維持しながら、ジャッキ本体の内部の圧力を変化させたときに疲労破壊に至るまでの回数との関係を示す図である。
図6A】従来のジャッキの製造方法を説明する図である。
図6B】従来のジャッキの製造方法を説明する図である。
図6C】従来のジャッキの製造方法を説明する図である。
図6D】従来のジャッキの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態であるジャッキの平面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。図1および図2は、ジャッキ1に後述する注入材を注入する前の状態(初期状態という)を示している。図1に示すように、ジャッキ1を上方又は下方から見たとき、ジャッキ1は、略円形に形成されている。
【0020】
ジャッキ1は、ジャッキ本体10および一対の支圧板21を有する。ジャッキ本体10は、ジャッキ本体10(ジャッキ1)の外周に沿ってリング状に形成された曲面部11を有する。また、ジャッキ本体10は、曲面部11の内側において、一対の平坦部12を有する。曲面部11は、一対の平坦部12と接続されている。
【0021】
ジャッキ本体10は、所定の厚さを有する鋼板によって形成されている。ジャッキ本体10を形成する鋼板としては、冷間圧延鋼板、特に、JISG3141に規定されたSPCE(種類の記号)又はSPCD(種類の記号)を用いることができる。
【0022】
ジャッキ1が初期状態にあるとき、曲面部11は、一対の平坦部12に対して、図2の上下方向に膨らんでいる。曲面部11および平坦部12によって、注入材を収容するスペース(密閉空間)が形成される。
【0023】
図1に示すように、ジャッキ本体10の曲面部11には、注入管31および排出管32がそれぞれ接続されている。注入管31は、ジャッキ本体10の内部に注入材を注入するために用いられる。注入材は、硬化性を有する流体(硬化性流体という)であってもよいし、硬化性を有しない流体(非硬化性流体という)であってもよい。硬化性流体としては、例えば、セメントミルクや合成樹脂モルタルを用いることができる。また、非硬化性流体としては、例えば、油や水を用いることができる。
【0024】
ジャッキ本体10に注入材を注入するときには、注入材を加圧しながら注入することができる。具体的には、加圧ポンプを注入管31に接続すれば、加圧ポンプで発生した圧力を用いて、注入材をジャッキ本体10に注入することができる。加圧ポンプとしては、例えば、水圧を用いたポンプや、油圧を用いたポンプがある。
【0025】
排出管32は、ジャッキ本体10から注入材や気体を排出するために用いられる。ジャッキ本体10の内部に注入材を注入する前には、ジャッキ本体10の内部に気体(空気など)が存在しているため、この気体をジャッキ本体10の内部から排出させる必要がある。そこで、排出管32を用いれば、ジャッキ本体10の内部に注入材を注入することに伴って、ジャッキ本体10の内部に存在する気体を排出管32から排出させることができる。
【0026】
また、ジャッキ本体10の内部は、注入材で満たさなければならない。このため、排出管32から注入材が排出されることを確認することにより、ジャッキ本体10の内部が注入材で満たされていることを確認することができる。
【0027】
ジャッキ本体10の内部に注入材を注入すると、ジャッキ本体10を膨張させることができる。ジャッキ本体10を膨張させるときには、例えば、排出管32に設けられたストップバルブ(図示せず)を用いて、排出管32の排出経路を塞げばよい。これにより、注入材が排出管32から排出されず、ジャッキ本体10の内部に注入材を注入し続けることができる。
【0028】
ジャッキ本体10の内部に注入材を注入し続ければ、ジャッキ本体10を膨張させることができる。ジャッキ本体10が膨張するとき、一対の平坦部12は、互いに離れる方向に変位する。具体的には、図2の上下方向において、一対の平坦部12が離れる。一方、ジャッキ本体10の内部に注入材を注入せずに、ジャッキ本体10の内部から注入材を排出させれば、ジャッキ本体10を収縮させることができる。このように、ジャッキ本体10を膨張させたり、収縮させたりすることにより、ジャッキ1の揚力を調整することができる。
【0029】
ジャッキ1は、図2の上下方向において、ジャッキ本体10を挟む位置に、一対の支圧板21を有する。支圧板21は、ジャッキ本体10における曲面部11および平坦部12に接触している。また、支圧板21は、例えば、モルタルで形成することができる。
【0030】
各支圧板21の内部には、金属製メッシュ22が配置されている。金属製メッシュ22は、支圧板21を補強するために用いられる。なお、支圧板21を補強することができれば、いかなる構成であってもよく、金属製メッシュ22を用いなくてもよい。例えば、支圧板21の内部に、ガラスファイバを埋設することもできる。なお、金属製メッシュ22などを省略して、支圧板21を補強しなくてもよい。
【0031】
ジャッキ1の製造方法、主に、ジャッキ本体10の製造方法について、図3A図3Cを用いて説明する。
【0032】
まず、厚さtを有する平板状の鋼板に対して、へら絞り加工を行うことにより、図3Aに示す形状を有する、2つの加工品10A,10Bを製造する。加工品10A,10Bは、同一の形状を有する。図3Aに示す矢印D1の方向から各加工品10A,10Bを見たとき、各加工品10A,10Bは円形に形成されている。加工品10A,10Bの外周部には、屈曲部11A,11Bがそれぞれ形成されている。屈曲部11A,11Bは、上述した曲面部11を構成する。加工品10A,10Bの中央部には、平坦部12A,12Bが形成されている。平坦部12A,12Bは、図2に示す平坦部12に相当する。
【0033】
次に、図3Bに示すように、2つの加工品10A,10Bを重ねて配置し、加工品10Aの外縁部(端面)10A1と、加工品10Bの外縁部(端面)10B1とを溶接する。具体的には、外縁部10A1,10B1を接触させた部分に対して、加工品10A,10Bの外側から熱を加えて、外縁部10A1,10B1を溶融させる。これにより、2つの加工品10A,10Bが一体化して、ジャッキ本体10が得られる。図3Bは、図2に対応した図であり、ジャッキ本体10を径方向で切断したときのジャッキ本体10の断面図である。なお、加工品10A,10Bからジャッキ本体10を製造するとき、ジャッキ本体10には、注入管31および排出管32が接続される。
【0034】
次に、図3Cに示すように、ジャッキ本体10に対して、一対の支圧板21を配置する。例えば、特許文献2(段落0059等)に記載されているように、ジャッキ本体10の外面に対して、支圧板21を形成する材料を流し込むことにより、支圧板21を製造することができる。一方、ジャッキ本体10の外面と同一の形状を有する型を用意しておき、支圧板21を形成する材料を型に流し込むことにより、支圧板21を製造することができる。
【0035】
上述したジャッキ1の製造において、ジャッキ本体10の強度が確保されているか否かを判別する試験を行うことができる。具体的には、図3Bに示すジャッキ本体10を製造した後、ジャッキ本体10の内部に注入材(例えば、試験用の水又は油)を注入してジャッキ本体10を膨張させ、ジャッキ本体10から注入材が漏れていないか否かを確認することにより、ジャッキ本体10の強度が確保されているか否かを確認することができる。ジャッキ本体10の強度が確保されていることを確認した後では、ジャッキ本体10から注入材を排出することにより、ジャッキ本体10が図3に示す形状に戻る。
【0036】
本実施形態では、ジャッキ本体10を形成する鋼板の厚さtを、0.8[mm]以上であって、2.6[mm]以下としている。
【0037】
鋼板の厚さtが0.8[mm]よりも薄いと、外縁部10A1,10B1を溶接しようとしても、溶接部分における鋼板の厚みが不足して、ジャッキ本体10の強度を確保することができない。また、溶接時に、溶接部分に孔が発生しやすく、ジャッキ本体10の内部を密閉状態にすることができない。
【0038】
鋼板の厚さtが2.6[mm]よりも厚いと、上述したへら絞り加工によって、加工品10A,10Bを製造し難くなる。従来のように、プレス絞り加工を行う上では、鋼板の厚さtを厚くすることが好ましいが、へら絞り加工を行う上では、鋼板の厚さtを薄くすることが好ましい。そこで、へら絞り加工を行う上では、鋼板の厚さtを、2.6[mm]以下とすることが好ましい。
【0039】
鋼板の厚さtが2.6[mm]よりも厚いと、外縁部10A1,10B1の一部を溶融させにくくなり、ジャッキ1の使用方法によっては、外縁部10A1,10B1の溶接部分の強度が不十分となることがある。
【0040】
ここで、ジャッキ本体10を単に膨張させるだけであれば、厚さtが2.6[mm]よりも厚い鋼板を溶接しても、外縁部10A1,10B1の溶接部分の強度を確保することができる。一方、ジャッキ1の使用方法によっては、ジャッキ本体10を単に膨張させるだけでなく、ジャッキ1の揚力を調整するために、ジャッキ本体10の膨張および収縮が繰り返されることがある。この場合であっても、ジャッキ本体10の膨張および収縮が繰り返される回数を可能な限り制限すれば、厚さtが2.6[mm]よりも厚い鋼板を溶接しても、外縁部10A1,10B1の溶接部分の強度を確保することができる。
【0041】
しかし、ジャッキ本体10の膨張および収縮が繰り返される回数が増えてしまうときには、厚さtが2.6[mm]よりも厚い鋼板を溶接したときに、外縁部10A1,10B1の溶接部分の強度を確保し難くなる。すなわち、ジャッキ本体10の膨張および収縮が繰り返されることにより、外縁部10A1,10B1の溶接部分において、疲労強度が低下しやすくなり、注入材がジャッキ本体10の外部に漏れてしまうおそれがある。注入材が漏れた場合には、ジャッキ1を使用することができなくなる。
【0042】
上述したように、ジャッキ本体10の膨張および収縮が繰り返されることを考慮すると、鋼板の厚さtを、2.6[mm]以下とすることが好ましい。より好ましくは、鋼板の厚さtを、1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下とすることができる。
【0043】
ジャッキ1によって構造物を支えるとき、ジャッキ1のストローク量は一定に維持される。ここで、橋梁等の構造物では、構造物上で車両等が移動するため、ジャッキ1に作用する荷重が変動する。鋼板の厚さtを、1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下とすることにより、上述した荷重変動が発生し続けても、ジャッキ本体10の疲労強度が低下することを抑制できる。
【0044】
一方、ジャッキ本体10の内部の圧力が一定であるとき、鋼板の厚さtを0.8〜2.6[mm]にすれば、厚さtが2.6[mm]よりも厚いときに比べて、ジャッキ1に発生させることができる揚力LFを上昇させることができる。
【0045】
ここで、鋼板の厚さtに関わらず、ジャッキ本体10の内部の圧力を上昇させることにより、ジャッキ1の揚力LFを目標値に到達させることができる。しかし、鋼板の厚さtを0.8〜2.6[mm]にすることにより、厚さtが2.6[mm]よりも厚いときに比べて、ジャッキ本体10の内部の圧力上昇に対して、ジャッキ1の揚力LFを上昇させやすくなる。
【0046】
ジャッキ1を使用するとき、ジャッキ1の揚力LFを目標値に到達させるまでの間において、ジャッキ1の揚力LFを監視することがある。上述したように、ジャッキ本体10の内部の圧力上昇に対して、ジャッキ1の揚力LFを上昇させやすくすれば、ジャッキ1の揚力LFを目標値に到達させるまでの間において、ジャッキ1の揚力LFを監視しやすくなる。ジャッキ本体10の内部の圧力上昇に対して、ジャッキ1の揚力LFが上昇し難いと、ジャッキ本体10の内部の圧力を上昇させても、ジャッキ1の揚力LFの上昇を把握し難くなり、ジャッキ1の揚力LFを監視することができなくなる。
【0047】
なお、ジャッキ本体10の内部の圧力を一定とした条件において、厚さtを2.6[mm]よりも厚い範囲内で異ならせても、ジャッキ1の揚力LFは上昇しにくくなる。すなわち、鋼板の厚さtが2.6[mm]よりも厚いときには、ジャッキ本体10の内部の圧力上昇に対して、ジャッキ1の揚力LFを上昇させにくくなる。したがって、ジャッキ1を使用するときに、ジャッキ1の揚力LFを監視することはできない。
【実施例】
【0048】
実施例1〜7および比較例では、ジャッキ本体10の鋼板の厚さtを異ならせている。下記表1には、実施例1〜7および比較例における鋼板の厚さtを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜7および比較例のジャッキ1を用いて、ジャッキ本体10の内部における圧力(すなわち、注入材の注入後の圧力)Pを1〜20[MPa]の間で変えながら、ジャッキ1のストローク量(揚程量)を15[mm]としたときのジャッキ1の揚力(荷重)LF(単位:kN)を測定した。
【0051】
なお、ジャッキ1のストローク量とは、初期状態(図2に示す状態)にあるジャッキ1の厚さ(図2の上下方向におけるジャッキ1の寸法)と、注入材の注入によって膨張した後のジャッキ1の厚さとの差である。言い換えれば、図2に示すジャッキ1において、一対の支圧板21のそれぞれの変位量(移動量)の合計値が、ジャッキ1のストローク量となる。
【0052】
各圧力P(1〜20[MPa])において、比較例の揚力LFを基準値(=1.00)とし、各実施例1〜7の揚力LFを、基準値である揚力LFで除算した値(比率)Rを算出した。この結果を下記表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
上記表2から分かるように、圧力Pが一定値であるとき、実施例1〜7では、比率Rが1.00よりも高くなる。ここで、厚さtが薄いほど、比率Rを高めることができる。
【0055】
比率Rは、各実施例1〜7の揚力LFを、比較例の揚力LFで除算した値となるため、圧力Pが一定値であるとき、各実施例1〜7の揚力LFは、比較例の揚力LFよりも大きくなる。これにより、実施例1〜7では、比較例と比べて、圧力Pを0[MPa]から一定値[MPa]まで上昇させるときに、圧力Pの上昇に追従して揚力LFを上昇させやすくなる。
【0056】
上述したように、圧力Pの上昇に追従して、揚力LFを上昇させやすくすることにより、ジャッキ1の揚力LFを目標値(例えば、15[MPa])に到達させるまでの間において、ジャッキ1の揚力LFを監視しやすくなる。
【0057】
比率Rが低いほど、揚力LFの上昇は、圧力Pの上昇に追従しにくくなる。このため、ジャッキ1の揚力LFを目標値に到達させるまでの間において、ジャッキ1の揚力LFを監視し難くなる。厚さtに関わらず、圧力Pを上昇させることにより、ジャッキ1の揚力LFを目標値に到達させることはできるが、揚力LFを目標値に到達させるまでの間において、揚力LFを監視する上では、厚さtを0.8[mm]以上であって、2.6[mm]以下とする必要がある。
【0058】
実施例1〜7では、比較例よりも厚さtが薄くなる。ここで、従来のプレス絞り加工では、厚さtが薄いほど、ジャッキ本体10の疲労強度を担保しながら、ジャッキ本体10を製造することが難くなる。一方、へら絞り加工では、厚さtが薄いほど、ジャッキ本体10を製造しやすくなる。そこで、厚さtを0.8[mm]以上であって、2.6[mm]以下とすることにより、へら絞り加工によってジャッキ本体10を製造しやすくしつつ、ジャッキ1の揚力LFを監視しやすくなる。
【0059】
一方、実施例1〜7および比較例のジャッキ1を用いて、膨張および収縮を繰り返し、ジャッキ本体10が疲労破壊するまでの回数Naを測定した。ジャッキ本体10の疲労破壊とは、ジャッキ本体10から注入材(例えば、試験用の水又は油)が漏れた状態とする。
【0060】
ここでは、圧力Pを0[MPa]から15[MPa]に変化させて、ジャッキ1を膨張させた後に、圧力Pを15[MPa]から0[MPa]に変化させて、ジャッキ1を収縮させた。このとき、ジャッキ1のストローク量は、圧力Pが0[MPa]であるときの値(すなわち、ゼロ)から、圧力Pが15[MPa]であるときの値の間で変化する。この処理を1回として、ジャッキ本体10が疲労破壊するまでの回数Naを測定した。この測定結果を図4に示す。図4において、横軸は厚さtであり、縦軸は回数Naである。
【0061】
図4から分かるように、厚さtが2.0[mm]であるときに、回数Naが最も多い。また、厚さtが2.0[mm]よりも薄くなるほど、回数Naが低下するとともに、厚さtが2.0[mm]よりも厚くなるほど、回数Naが低下する。厚さtが1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下であれば、回数Naを増やすことができる。このため、厚さtは、1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下とすることが好ましい。
【0062】
一方、実施例1〜7および比較例のジャッキ1を用いて、ストローク量を所定値に維持しながら、圧力Pを8〜12[MPa]の間で変化させて、ジャッキ本体10が疲労破壊するまでの回数Nbを測定した。
【0063】
ここでは、圧力Pを10[MPa]から12[MPa]に上昇させた後に、圧力Pを10[MPa]に戻した。次に、圧力Pを10[MPa]から8[MPa]に低下させた後に、圧力Pを10[MPa]に戻した。この処理を1回として、ジャッキ本体10が疲労破壊するまでの回数Nbを測定した。この測定結果を図5に示す。図5において、横軸は厚さtであり、縦軸は回数Nbである。
【0064】
図5から分かるように、厚さtが2.0[mm]であるときに、回数Nbが最も多い。また、厚さtが2.0[mm]よりも薄くなるほど、回数Nbが低下するとともに、厚さtが2.0[mm]よりも厚くなるほど、回数Nbが低下する。厚さtが1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下であれば、回数Nbを増やすことができる。このため、厚さtは、1.2[mm]以上であって、2.6[mm]以下とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
1:ジャッキ、10:ジャッキ本体、11:曲面部、12:平坦部、
21:支圧板、22:金属製メッシュ、10A,10B:加工品、
10A1,10B1:外縁部
【要約】
【課題】 揚力を監視できるジャッキ本体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 一対の支圧板によって挟まれ、注入材の注入状態に応じて膨張および収縮するジャッキ本体の製造方法において、平板状の鋼板に対してへら絞り加工を行うことにより、一対の加工品を成形する工程と、一対の加工品の外縁部を互いに溶接することにより、ジャッキ本体を加工する工程と、を有する。鋼板の厚さを、0.8mm以上であって、2.6mm以下とする。このように鋼板の厚さを設定することにより、ジャッキ本体の内部の圧力上昇に対して、ジャッキ本体の揚力を変化させやすくなり、ジャッキ本体の揚力を監視しやすくなる。また、上述した厚さの鋼板に対しては、へら絞り加工を行うことにより、ジャッキ本体を製造できる。
【選択図】 図2
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D