【課題を解決するための手段】
【0008】
特定の乳酸菌の菌体に関して、腎臓の交感神経活動を抑制し、胃の副交感神経活動を亢進する作用が確認された(Tanida M, et al: Neuroscience Letters 389: 109-114, 2005)。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、ラットを用いた自律神経への直接の作用を指標に、特定の乳酸菌培養上清中にフェニル乳酸が含まれること、さらに、2つの光学異性体のうち、L-フェニル乳酸が主成分として含まれることを確認した。次いでラットを用いた実験で、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸それぞれの腎臓交感神経活動に対する作用、血圧に対する影響、胃迷走神経の副交感神経活動に対する作用を調べ、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、 以下の式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
の化合物(フェニル乳酸)の臨床上有効量、及び医薬又は食品として許容される添加剤を含み、自律神経調節作用を有する、医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記式(I)の化合物が、以下の式:
【0013】
【化2】
【0014】
(すなわち、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸)で表される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、自律神経活動に関連する疾患又は状態を処置するための、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記自律神経活動に関連する疾患又は状態が、血圧低下、心身の緊張、ドライアイ、ドライマウス、免疫機能調整不全、皮膚の機能不全及び血糖低下よりなる群から選択される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記自律神経調節作用が交感神経活動抑制作用及び/又は副交感神経活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記化合物が、以下の式:
【0015】
【化3】
【0016】
で表される化合物であり、前記自律神経調節作用が胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物の培養上清又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記微生物が、乳酸菌である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記乳酸菌が、ストレプトコッカス属(S
treptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラム(好ましくは、ラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM ABP-10438))又はラクトバチルス・ブレビス(好ましくは、ラクトバチルス・ブレビス ATCC14869)である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物を培養する工程を含む、前記の医薬品組成物又は飲食物の製造方法に関する。
【0017】
さらに本発明は、前記自律神経調節作用が、腎臓交感神経活動亢進作用、腎臓交感神経活動抑制作用、胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用なる群から選択される1以上の作用、好ましくは、腎臓交感神経活動抑制作用及び/又は胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記自律神経調節作用が血圧低下を伴う、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、アレルギー症状緩和作用を有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記自律神経活動に関連する疾患又は状態が、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記フェニル乳酸が乳酸菌由来であって、D-フェニル乳酸:L-フェニル乳酸 = 5:1〜0:1、好ましくは1:1〜1:20、より好ましくは1:1〜1:10程度である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、D-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む、アレルギー症状を処置するための医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸を、交感神経活動抑制有効量で含む、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態を処置するための医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、L-フェニル乳酸を、副交感神経活動亢進有効量で含む、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下のための、医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、経口用である前記医薬組成物に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を有効成分として含む自律神経調節剤に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を有効成分として含む血圧調節剤に関する。
さらに本発明は、自律神経活動に関連する疾患又は状態を処置する医薬組成物又は飲食物の製造のための、フェニル乳酸の使用に関する。
さらに本発明はフェニル乳酸を投与することを含む、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置方法に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を投与することを含む、自律神経活動の調節方法に関する。
【0018】
本明細書中において、フェニル乳酸とは、以下の式(I):
【0019】
【化4】
【0020】
で表される化合物(2-hydroxy-3-phenyl propionic acid、β-3-phenyl lactic acidともいう。MW 166.17)である。フェニル乳酸には、以下の2つの異性体:
【0021】
【化5】
【0022】
D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸が存在し、それぞれ、既知化合物である。本明細書中において、単に「フェニル乳酸」というときは、上記D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸それぞれ単独、並びに両者の混合物全てを含む。フェニル乳酸は、ミルク、チーズ、蜂蜜等に含まれることが知られ、微生物培養培地中に含まれることも知られる。また、D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸それぞれ、標準品が試薬として市販されている。このように入手容易な安全性の非常に高い化合物であるにも関わらず、フェニル乳酸に関しては抗菌、抗カビ作用のみが報告されており(特許文献5、非特許文献3)、その自律神経に対する作用、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置を意図した作用は全く報告されていなかった。フェニル乳酸を含む医薬組成物又は飲食物(以下、単に「組成物」ともいう。) は、自律神経活動の調節作用を有し、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置に有用であることを本発明者らは見出した。
【0023】
また、本発明者らは、後述の実施例に記載の通り、乳酸菌(
Lactobacillus plantarumSAM2446株(FERM ABP-10438))の培養後培地上清中にフェニル乳酸が含まれ、かつ、L-フェニル乳酸が主に含まれる(D:L=1:9程度)ことも発見した。
【0024】
上記の原料や培養上清等からフェニル乳酸を分画する方法については、該原料等をそのまま分画するか、あるいは分画操作に先立って凍結乾燥、有機溶媒を用いた液々分配抽出等により濃縮することができる。その後の分画操作は、所望により限外ろ過処理等による粗分画後、逆相カラム、光学分割カラム等を用いた処理により行うことできる。上記液々分配抽出、限外ろ過処理、逆相カラム処理、光学分割カラム処理等は、当業者一般に用いられている方法を用いて行うことができる。分画によって得たフェニル乳酸は、D-フェニル乳酸とL-フェニル乳酸の混合物であってもよく、それぞれの単体であってもよい。混合物を得た場合、所望により更なる光学分割操作によって単体を得ることができる。
【0025】
上記方法によりフェニル乳酸が得られたことの確認は、標準品との比較、MSスペクトル、NMRスペクトル等の測定によって行うことができる。
【0026】
また、市販の標準品(BACHEM社等)のフェニル乳酸を用いてもよいし、合成によってフェニル乳酸を得ることもできる。合成方法に特に制限はない。
【0027】
本発明の組成物に含まれるフェニル乳酸は、例えば塩酸塩のような、薬学的に許容される塩の形で使用してもよく、体内でフェニル乳酸となるような塩(プロドラッグ)の形で使用してもよい。
【0028】
本発明はまた、フェニル乳酸(式(I)の化合物)の生産能を有する微生物又はその加工品、該微生物の培養上清又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物を提供する。
【0029】
本明細書中において、「フェニル乳酸の生産能を有する」とは、有効な条件で培養したときにフェニル乳酸を生産することをいう。該有効な条件は、当業者であれば適宜決定できる。微生物のフェニル乳酸生産能は、微生物(微生物自体、微生物の乾燥物、微生物の培養液、微生物の抽出物等も含む)を、例えば、LC、MS、NMR等を用いて定法に従って分析した場合に、フェニル乳酸等が含まれることで確認できる。このような生産能を有する微生物には、培養条件(培地の組成、培養時の温度条件、培養時のpH条件、培養密度等)を適宜調製した場合にフェニル乳酸生産能を有するようになる微生物も含む。
【0030】
上記の微生物は天然から採取したものでもよく、また、フェニル乳酸生産能を有するよう設計された変異体及び/又は組換え体も、本発明の範囲内に含まれる。このような変異体及び/又は組換え体は、同組成の培地を用いて培養したときに野性株と比べてフェニル乳酸の生産能が高くなるよう意図して設計されたものが含まれる。
【0031】
さらに、上記の微生物が産生するフェニル乳酸は、D-フェニル乳酸であってもL-フェニル乳酸であってもこれらの混合物であってもよく、例えば後述の実施例の記載を参照することにより、処置の対象とする疾患又は状態に合わせて、所望のフェニル乳酸の産生能を有する微生物を適宜選択して用いることができる。
【0032】
このような、フェニル乳酸生産能を有する微生物は、例えば、乳酸菌、酵母、枯草菌等であり得る。乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス属(S
treptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)又はオルセネラ属(Olsenella)に属する微生物が挙げられ;酵母としては、例えば、カンジタ属(Candida)又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)に属する微生物が挙げられ;枯草菌としては、バシルス・スブチルス属(B.subutilis)に属する微生物が挙げられる。
【0033】
好ましい微生物として、例えば非特許文献3に記載の、
Lactobacillus plantarum、
Lactobacillus alimentarius、
Lactobacillus rhamnosus、
Lactobacillus sanfranciscensis、
Lactobacillus hilgardii、
Leuconostoc citreum、
Lactobacillus brevisのある株、
Lactobacillus acidophilusのある株、
Leuconostoc mesenteroides subsp.
mesenteroides や、特許文献5に記載の
Enterococcus faecalis等が挙げられる。特に好ましい微生物は、乳酸菌のラクトバチルス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)(より特定すれば、ラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM ABP-10438))及びラクトバチルス・ブレビス(
Lactobacillus brevis)(より特定すれば、ラクトバチルス・ブレビスATCC14869)である。
【0034】
本発明はまた、前記のフェニル乳酸生産能を有する微生物を培地で培養する工程を含む、前記の医薬品組成物又は飲食物の製造方法を提供する。該微生物の培養は、適当な培地に微生物を接種し、微生物の種類に従い、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。
【0035】
例えば微生物が乳酸菌である場合の培養に関し、以下に簡潔に述べる。培地には、例えば寒天培地及び/又は液体培地を用いることができる。培地には、適宜当業者に公知の炭素源、窒素源を所望の濃度で添加し、さらに、必要に応じて、無機イオン、ビタミン類等微量栄養源を添加する。より簡便には、例えばMRS培地等の市販の培地を用い、これにさらに添加物を加えて用いることができる。培養の際、当業者に公知の手段で適宜フェニル乳酸生成量を増加させるよう操作を加えることができ、例えば、非特許文献3に記載のように、Lactobacil
lus属培養中にフェニルアラニンを添加することで培地中のフェニル乳酸量を増加させることもできる。培地を調製した後、適当な酸又は塩基を用いてpHを6.0〜7.0の範囲に調製し、オートクレーブ等を用いて滅菌することができる。
【0036】
その後、乳酸菌を培地に接種し、培養温度10℃〜45℃にて、通常1〜2日間、振とう培養、静地培養、タンク中での工業的培養、寒天培地等の固形培地での培養等により、培地中で微生物を増殖させることができる。培養条件は、用いる微生物によって異なるが、例えば
Lactobacillus plantarumを用いる場合、37℃前後にて、1日間、pH6.5前後のMRS培地中で静置培養することができる。このように培養した微生物を、所望により遠心分離し、さらに必要に応じて濾過し、培養上清を得ることができる。
【0037】
フェニル乳酸は、後述の実施例から明らかなように、D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸をそれぞれ単独でラットに十二指腸経由で投与した時に、ラットの腎臓交感神経活動、血圧、胃迷走神経(副交感神経)活動に作用する。
【0038】
より詳細には、腎臓交感神経活動に対し、投与量10μg/匹では、D-フェニル乳酸は腎臓交感神経活動亢進作用が認められ、L-フェニル乳酸では、腎臓交感神経活動には殆ど影響が認められなかった。投与量100μg/匹では、D-フェニル乳酸、L-フェニル乳酸ともに、腎臓交感神経活動抑制作用が認められた。
【0039】
血圧に対しては、特に投与量100μgで、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸共に血圧低下作用が認められた。
【0040】
さらに胃迷走神経(副交感神経)活動に対し、投与量100μg/匹では、L-フェニル乳酸に胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用が認められた。
【0041】
自律神経活動を評価する方法として、心電計、血圧計、皮膚電気反射、瞳孔径測定等の生物理学的測定法や、血中カテコールアミン濃度測定などの生化学的測定法等が挙げられる。特に心電計を用いた心拍変動の解析良く利用されている方法であるが、本発明者らは、後述の実施例に記載のように、投与物質の自律神経活動への影響が直接評価できる、ラットを用いた方法により、上記フェニル乳酸の自律神経活動に対する作用を評価した。本方法の特徴は、各臓器、組織等を支配する自律神経の神経活動に対する投与物質の作用を、個々に調べることができる点にある。さらには、実験動物が生存する限り、逐次異なる投与物質の自律神経調節作用を測定できるという利点もある方法である。
【0042】
自律神経の活動に関与すると考えられる器官、ホルモン、生体活動と、それらに対し自律神経が及ぼすと考えられる影響及び予想される効果の一例について、以下の表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上記表から明らかなように、血糖調節、血圧調節、ホルモン分泌調節、糖代謝調節、胃液分泌調節、血流量調節、体温調節等、生体の様々な調節機構に自律神経活動が密接に影響している。自律神経活動のバランスに異常が生じると、例えば不定愁訴などの身体不調が現れる。不定愁訴の症状は多岐に及び、全身疲労感、睡眠障害、動悸、口渇(ドライマウス)、インポテンツ、口内乾燥感、眼精疲労等が挙げられる(非特許文献2)。また、過度の交感神経優位の疾患としては、癌・胃潰瘍・潰瘍性大腸炎・高血圧・吹き出物・腰痛・肩こり・膝痛・慢性関節リウマチなどが挙げられ、過度の副交感神経優位の疾患としては、リンパ球が増殖して抗原に過敏に反応するようになった結果としてのアレルギー症状等が挙げられる。副交感神経活動を亢進することにより、リンパ球数を増加させることによる免疫機能の亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、血糖低下等の作用、皮膚の機能改善による美容効果や美肌効果が予想される。
【0045】
本明細書中において、自律神経調節作用とは、交感神経活動亢進作用、交感神経活動亢進の抑制作用、交感神経活動抑制作用、副交感神経活動亢進作用、副交感神経活動亢進の抑制作用、副交感神経活動抑制作用を含む。
【0046】
本発明の組成物は、上記フェニル乳酸を含むため、上記自律神経活動に関連した疾患又は状態の処置に使用し得る。例えば、自律神経の乱れによって起こりやすい症状であり、不定愁訴と総称されることもある、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠等(自律神経失調症ともいう。) や、自律神経活動の乱れに起因する体温調節障害によるものと考えられる、更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗等の処置に使用し得る。特に、交感神経活動の抑制によって処置することができる疾患又は状態、例えば交感神経活動優位な場合の疾患である、対人緊張症、赤面症、多汗症、動悸、不整脈、下痢、立ちくらみ、胃もたれ、疲労感、癌・胃潰瘍・潰瘍性大腸炎・高血圧・吹き出物・腰痛・肩こり・膝痛・慢性関節リウマチ等の処置や、副交感神経活動優位な場合の疾患である、リンパ球が増殖して抗原に過敏に反応するようになった結果としてのアレルギー症状等の処置に有用であると考えられる。また、本発明の組成物は、高血圧の処置に有用であると考えられる。さらに本発明の組成物は、副交感神経活動を亢進させることで、リンパ球数を増加させることによる免疫機能の亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、血糖低下等の作用を有し得ると考えられるため、血圧低下、心身の緊張、ドライアイ、ドライマウス、免疫機能調整不全、皮膚の機能不全、血糖低下等の処置に有用であると考えられる。
【0047】
本明細書中において、疾患又は状態を処置するとは、該疾患又は状態の悪化を防ぐこと、該疾患又は状態を改善すること、並びに該疾患又は状態を予防することを含む。上記フェニル乳酸を含む本発明の組成物は、後述の実施例の結果から判断して、フェニル乳酸として5μg/kg以上を投与すれば充分な効果を得ることができる。フェニル乳酸の投与量に特に上限は存在しないが、毒性、経済性を考慮すれば一般に50mg/kg程度を越えないことが好ましい。本発明の組成物がその効果を充分に発揮するためには、フェニル乳酸を1回服用当たり5μg/kg〜50mg/kg(好ましくは10μg/kg〜20mg/kg、より好ましくは20μg/kg〜10mg/kg)、より具体的には、ヒト成人を対象とする場合、1回服用当たり300μg〜3000mg(好ましくは600μg〜1200mg、より好ましくは1200μg〜600mg)含有することが望ましい。また、本発明の組成物においては、フェニル乳酸を製品重量(g)当たり0.5μg〜5mg(好ましくは1μg〜2mg、より好ましくは2μg〜1mg)含有させることができる。また、別の観点からは、フェニル乳酸を製品重量(g)当たり4μg以上(好ましくは25μg以上、より好ましくは75μg以上)含有することができ、このとき上限値は、いずれにおいても、製品重量(g)当たり、例えば、1mg、2mg、又は5mgとすることができる。
【0048】
また、投与量の決定に際し、例えば後述の実施例の記載を参照することにより、処置の対象とする疾患又は状態に合わせて、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸の投与量を適宜設定することができる。本明細書中において、臨床上有効量とは、自律神経を調節するために臨床上有効な量であり、交感神経活動亢進有効量とは、交感神経活動を亢進するために有効な量、交感神経活動抑制有効量とは、交感神経活動を抑制するために有効な量、副交感神経活動亢進有効量とは、副交感神経活動を亢進するために有効な量であり、これらの有効量は、例えば後述の実施例に記載の手法で測定した、自律神経活動に対する物質の作用及び該作用時の投与量を判断指標として設定し得る。
【0049】
本発明の組成物は、フェニル乳酸を含む原料、フェニル乳酸産生能を有する微生物、該微生物の培養上清、該微生物を含む培養物自体、等を、そのまま、又は抽出・分画操作等の処理を行い、単離、精製したものを含むことができるが、特に制限はない。また、これらを通常の殺菌、減圧濃縮、凍結乾燥等の手法を用いて濃縮物や乾燥粉体等の加工品として用いることもできる。乾燥粉体化が容易でない濃縮物の場合には、常用のデキストリン、高分子澱粉加水分解物又は高分子ペプチド等を賦形剤として用いて乾燥粉体化することができる。作業性、保存性の観点からは、粉体化することが好ましい。
【0050】
本発明の組成物は、目的に応じて飲食物(食品、飲料、調味料、アルコール飲料、機能食品等も含む)及び医薬組成物の種々の形態にできる。例えば、フェニル乳酸、フェニル乳酸生産能を有する微生物、該微生物の培養上清、加工品等を用いて、飲食物、医薬品を提供することができる。
【0051】
本発明が提供する飲食物としては、飴、トローチ、ガム、ヨーグルト、アイスクリーム、プディング、ゼリー、水ようかん、アルコール飲料、コーヒー飲料、ジュース、果実飲料、炭酸飲料、清涼水飲料、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料等、種々のものをあげることができる。
【0052】
なお、これらの飲食物は、必要により各種添加剤を配合し、常法に従って調製することができる。具体的には、これらの飲食品を調製する場合には、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェノール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等、通常の食品原料として使用されているものを適宜配合して、常法に従って製造することができる。
【0053】
さらにまた、本発明が提供する医薬品を調製する場合には、必要により各種添加剤を配合し、各種剤形の医薬品として調製することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬品として、あるいは、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤といった非経口医薬品として、提供することができる。
【0054】
これらの医薬品は、各種添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができるが、その例としてはデンプン、乳糖、白糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等の固形担体;蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の液体担体;各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等の油性担体等を挙げることができる。
【0055】
本発明の組成物は、フェニル乳酸を有効成分として含み、所望により、医薬組成物や飲食物に従来から使用されている他の有効成分をさらに含んでいてもよい。
【0056】
例えば、自律神経調節作用を有する物質(交感神経作用物質、副交感神経作用物質等)、交感神経活動亢進作用物質、アレルギー症状の処置に関連した物質、交感神経活動抑制物質、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態の処置に関連した物質、血圧低下作用を有する物質、副交感神経活動亢進作用物質 (アロマテラピー効果・リラックス効果を有する物質を含む)、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下作用を有する物質等であって、当業者に公知の物質を1又は複数組合せて含むことができる。
【0057】
さらに、本発明の組成物がフェニル乳酸生産能を有する微生物又はその加工品、その培養上清又は加工品を含有する場合には、特に、該微生物由来である上記の物質(自律神経調節作用を有する物質、交感神経活動亢進作用物質、交感神経活動抑制物質、血圧低下作用を有する物質、副交感神経活動亢進関連物質等)を含んでいてもよい。
【0058】
特に本発明の組成物がD-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、交感神経活動亢進作用物質やアレルギー症状の処置に関連した物質であることが好ましい。特に本発明の組成物がD-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、交感神経活動亢進作用物質や、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態の処置に関連した物質であることが好ましい。特に本発明の組成物がL-フェニル乳酸を、副交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、副交感神経活動亢進作用物質や、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下作用を有する物質であることが好ましい。
【0059】
なお、本発明の医薬組成物又は飲食品には、その具体的な用途(例えば自律神経調節のため、交感神経調節のため、副交感神経調節のため、アレルギー症状緩和のため、高血圧の治療/予防のため、免疫機能の亢進のため、心身のリラックスのため、血糖低下対策のため、唾液の分泌促進のため、涙液の分泌促進のため、美容効果・美肌効果のため、健康維持のため、など)及び/又はその具体的な用い方(例えば、摂取量、摂取回数、摂取方法)を表示することができる。