特許第5770425号(P5770425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サントリーホールディングス株式会社の特許一覧

特許5770425副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物
<>
  • 特許5770425-副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物 図000012
  • 特許5770425-副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物 図000013
  • 特許5770425-副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物 図000014
  • 特許5770425-副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物 図000015
  • 特許5770425-副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770425
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】副交感神経活動亢進作用を有する医薬組成物又は飲食物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20150806BHJP
   A23L 1/30 20060101ALI20150806BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20150806BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   A61K31/19
   A23L1/30 Z
   A61K35/74 A
   A61K35/74 G
   A61P25/02 103
   A61P25/02 105
   A61P25/02 106
【請求項の数】23
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2009-507515(P2009-507515)
(86)(22)【出願日】2008年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2008056076
(87)【国際公開番号】WO2008120713
(87)【国際公開日】20081009
【審査請求日】2010年10月21日
【審判番号】不服2013-19558(P2013-19558/J1)
【審判請求日】2013年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2007-92528(P2007-92528)
(32)【優先日】2007年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】別府 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】小村 啓
(72)【発明者】
【氏名】永井 克也
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 辰己 雅夫
【審判官】 穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】 STROM,K. et al, Co−cultivation of antifungal Lactobacillus plantarum MiLAB 393 and Aspergillus nidulans, evaluation of effects on fungal growth and protein expression, FEMS Microbiol Lett, 2005, Vol.246, No.1, p.119−124
【文献】 VALERIO,F. et al, Production of phenyllactic acid by lactic acid bacteria: an approach to the selection of strains contributing to food quality and preservation, FEMS Microbiol Lett, 2004, Vol.233, No.2, p.289−295
【文献】 MAKRAS,L. et al, Kinetic analysis of the antibacterial activity of probiotic lactobacilli towards Salmonella enterica serovar Typhimurium reveals a role for lactic acid and other inhibitory compounds, Res Microbiol, 2006, Vol.157, No.3, p.241−247
【文献】 永井克也,自律神経活動測定によるアロマ製品,健康食品および薬剤の開発技術〔3〕II応用編(2)−1食品や薬剤の自律神経と身体機能に与える影響:健康食品と薬剤開発への応用,2食品と容器,2006, Vol.47, No.9, p.544−550
【文献】 永井克也,自律神経活動測定によるアロマ製品,健康食品および薬剤の開発技術〔4〕II応用編(2)−食品や薬剤の自律神経と身体機能に与える影響:健康食品と薬剤開発への応用,食品と容器,2006, Vol.47, No.10, p.602−607
【文献】 特開2004−510740号公報
【文献】 特開平10−45610号公報
【文献】 特開平10−139674号公報
【文献】 特開平04−352720号公報
【文献】 特開平10−502944号公報
【文献】 特開平09−2959号公報
【文献】 特許第4891255号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K35/00-35/76
A23L 1/27- 1/308
CA/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】
の化合物の臨床上有効量、及び医薬として許容される添加剤を含む、高血圧の治療又は改善用医薬組成物。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が、以下の式:
【化2】
で表される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
以下の式(I):
【化3】
の化合物、及び食品として許容される添加剤を含む飲食物であって、
式(I)の化合物が、飲食物1g当たり75μg以上含まれており、
式(I)の化合物が、少なくともL−フェニル乳酸を含み、
飲食物中のL−フェニル乳酸の量が、D−フェニル乳酸の量よりも多い、前記飲食物。
【請求項4】
高血圧を処置するための、請求項3に記載の飲食物。
【請求項5】
以下の式:
【化4】
の化合物の臨床上有効量、及び医薬又は食品として許容される添加剤を含む、胃迷走神経(副交感神経)活動の亢進により治療又は改善される疾患又は状態の治療又は改善剤であって、前記疾患又は状態が高血圧である、前記治療又は改善剤。
【請求項6】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項7】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物の培養上清又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラム又はラクトバチルス・ブレビスである、請求項6又は7に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラムであり、ラクトバチルス・プランタラムがラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM BP−10438)である、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記微生物が、ラクトバチルス・ブレビスであり、ラクトバチルス・ブレビスがラクトバチルス・ブレビスATCC14869である、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項11】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物を培養する工程を含み、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項1または2に記載の医薬組成物製造方法。
【請求項12】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項3又は4に記載の飲食物。
【請求項13】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物の培養上清又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項3又は4に記載の飲食物。
【請求項14】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラム又はラクトバチルス・ブレビスである、請求項12又は13に記載の飲食物。
【請求項15】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラムであり、ラクトバチルス・プランタラムがラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM BP−10438)である、請求項14に記載の飲食物。
【請求項16】
前記微生物が、ラクトバチルス・ブレビスであり、ラクトバチルス・ブレビスがラクトバチルス・ブレビスATCC14869である、請求項14に記載の飲食物。
【請求項17】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物を培養する工程を含み、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項3又は4に記載の飲食物の製造方法。
【請求項18】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項5に記載の剤。
【請求項19】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物の培養上清又はその加工品を含有し、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項5に記載の剤。
【請求項20】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラム又はラクトバチルス・ブレビスである、請求項18又は19に記載の剤。
【請求項21】
前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラムであり、ラクトバチルス・プランタラムがラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM BP−10438)である、請求項20に記載の剤。
【請求項22】
前記微生物が、ラクトバチルス・ブレビスであり、ラクトバチルス・ブレビスがラクトバチルス・ブレビスATCC14869である、請求項20に記載の剤。
【請求項23】
式(I)の化合物の生産能を有する微生物を培養する工程を含み、
前記微生物が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)、又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、請求項5に記載の剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニル乳酸を含み、自律神経調節作用を有する、医薬組成物又は飲食物に関する。本発明はまた、フェニル乳酸がD-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸である、前記医薬組成物又は飲食物に関する。さらに本発明は、副交感神経活動亢進作用を有し、自律神経活動に関連する疾患又は状態を処置するための、前記医薬組成物又は飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の恒常性を維持するために、生体には自律神経系、内分泌系、免疫系が備わっている。その中で、自律神経系は、大脳の支配から比較的独立して、特に意志に無関係に自動的に働くことからこの名が与えられ、主に内臓の機能を調節している。自律神経系には交感神経系と副交感神経系の2系統があり、両者のバランスによりコントロールされている。すなわち、身体が活動している時は交感神経の活動が優位となり、全身が緊張した状態となる。逆に、副交感神経の活動が優位な時は身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる(非特許文献1)。また、交感神経の活動が亢進した場合、瞳孔の拡大、頻脈、血圧上昇、物質の代謝・高血糖)等が起こり、副交感神経活動が亢進した場合、消化吸収系の活発化、汗や唾液の分泌等が起こる。
【0003】
自律神経活動のバランスに異常が生じると、不定愁訴などの健康障害が現れる(非特許文献2)。自律神経に着目した健康障害の処置として、例えばミカン科やユーカリ科等の精油を用いて副交感神経活動を亢進することによるリラックス作用(特許文献1)、4-メトキシスチレンを用いた副交感神経活動を亢進することによるアロマテラピー(特許文献2)及びペプチドを用いた、副交感神経に作用することによる涙液分泌作用(特許文献3)並びにn-3系高度不飽和脂肪酸を用いた交感神経抑制剤による赤面症、不安症など自律神経失調症への効果(特許文献4)が開示されている。
【0004】
一方で、2種の光学異性体が存在することが知られる、フェニル乳酸(phenyl lactic acid, 2-hydroxy-3-phenyl propionic acid)に関しては、Lactobacilus属により生産され、Aspergillus niger等に対する抗カビ活性があり、培養中にフェニルアラニンを添加すると培養上清中の濃度が上昇すること(非特許文献3)、乳酸菌を用いて産生させたフェニル乳酸が病原性大腸菌O-157、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対し抗菌効果があること(特許文献5)など、抗菌・抗カビ作用のみが知られていた。
【特許文献1】特開2005-272445
【特許文献2】特開2004-131436
【特許文献3】特開平11-209294
【特許文献4】特開2004-067537
【特許文献5】特開2000-300284
【非特許文献1】萩原俊男ら:岩波講座「現代医学の基礎」第4巻 生体の調節システム,1999
【非特許文献2】久保木富房:医学のあゆみ Vol.181 No.12, 1013-1015, 1997
【非特許文献3】FEMS microbiology Letters 233:289-295,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自律神経の乱れ及びそれに起因する健康障害は、不定愁訴をはじめ多数存在するが、それらは症状ごとに治療が行なわれており、根本的な原因である自律神経活動そのものをコントロールする方法はとられていない。症状別療法は一時的にその症状を改善することができても、再発の可能性や、自律神経の乱れによる他の症状が発症する可能性も高い。そこで、根本原因である自律神経活動そのものをコントロールする医薬品や飲食物が求められていた。
【0006】
また、その効果と、低副作用、高安全性を両立させるという課題や、医薬品の合成には他段階のプロセスを経る必要があり、さらに容易に摂取できるように錠剤等の形態に加工する必要があり、高コストとなるという課題もあった。そこで、自然界に存在する天然由来物質から簡便なプロセスで得られる、自律神経調節作用を有する物質が強く求められていた。
【0007】
本発明の課題は、自律神経活動の調節作用、特に交感神経活動抑制作用や副交感神経活動亢進作用を有し、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置に有用な医薬組成物及び飲食物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定の乳酸菌の菌体に関して、腎臓の交感神経活動を抑制し、胃の副交感神経活動を亢進する作用が確認された(Tanida M, et al: Neuroscience Letters 389: 109-114, 2005)。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、ラットを用いた自律神経への直接の作用を指標に、特定の乳酸菌培養上清中にフェニル乳酸が含まれること、さらに、2つの光学異性体のうち、L-フェニル乳酸が主成分として含まれることを確認した。次いでラットを用いた実験で、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸それぞれの腎臓交感神経活動に対する作用、血圧に対する影響、胃迷走神経の副交感神経活動に対する作用を調べ、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、 以下の式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
の化合物(フェニル乳酸)の臨床上有効量、及び医薬又は食品として許容される添加剤を含み、自律神経調節作用を有する、医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記式(I)の化合物が、以下の式:
【0013】
【化2】
【0014】
(すなわち、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸)で表される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、自律神経活動に関連する疾患又は状態を処置するための、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記自律神経活動に関連する疾患又は状態が、血圧低下、心身の緊張、ドライアイ、ドライマウス、免疫機能調整不全、皮膚の機能不全及び血糖低下よりなる群から選択される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記自律神経調節作用が交感神経活動抑制作用及び/又は副交感神経活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記化合物が、以下の式:
【0015】
【化3】
【0016】
で表される化合物であり、前記自律神経調節作用が胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物の培養上清又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記微生物が、乳酸菌である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記乳酸菌が、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)又はオルセネラ属(Olsenella)に属する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、前記微生物が、ラクトバチルス・プランタラム(好ましくは、ラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM ABP-10438))又はラクトバチルス・ブレビス(好ましくは、ラクトバチルス・ブレビス ATCC14869)である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
本発明はまた、式(I)の化合物の生産能を有する微生物を培養する工程を含む、前記の医薬品組成物又は飲食物の製造方法に関する。
【0017】
さらに本発明は、前記自律神経調節作用が、腎臓交感神経活動亢進作用、腎臓交感神経活動抑制作用、胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用なる群から選択される1以上の作用、好ましくは、腎臓交感神経活動抑制作用及び/又は胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記自律神経調節作用が血圧低下を伴う、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、アレルギー症状緩和作用を有する、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記自律神経活動に関連する疾患又は状態が、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、前記フェニル乳酸が乳酸菌由来であって、D-フェニル乳酸:L-フェニル乳酸 = 5:1〜0:1、好ましくは1:1〜1:20、より好ましくは1:1〜1:10程度である、前記の医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、D-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む、アレルギー症状を処置するための医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸を、交感神経活動抑制有効量で含む、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態を処置するための医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、L-フェニル乳酸を、副交感神経活動亢進有効量で含む、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下のための、医薬組成物又は飲食物に関する。
さらに本発明は、経口用である前記医薬組成物に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を有効成分として含む自律神経調節剤に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を有効成分として含む血圧調節剤に関する。
さらに本発明は、自律神経活動に関連する疾患又は状態を処置する医薬組成物又は飲食物の製造のための、フェニル乳酸の使用に関する。
さらに本発明はフェニル乳酸を投与することを含む、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置方法に関する。
さらに本発明は、フェニル乳酸を投与することを含む、自律神経活動の調節方法に関する。
【0018】
本明細書中において、フェニル乳酸とは、以下の式(I):
【0019】
【化4】
【0020】
で表される化合物(2-hydroxy-3-phenyl propionic acid、β-3-phenyl lactic acidともいう。MW 166.17)である。フェニル乳酸には、以下の2つの異性体:
【0021】
【化5】
【0022】
D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸が存在し、それぞれ、既知化合物である。本明細書中において、単に「フェニル乳酸」というときは、上記D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸それぞれ単独、並びに両者の混合物全てを含む。フェニル乳酸は、ミルク、チーズ、蜂蜜等に含まれることが知られ、微生物培養培地中に含まれることも知られる。また、D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸それぞれ、標準品が試薬として市販されている。このように入手容易な安全性の非常に高い化合物であるにも関わらず、フェニル乳酸に関しては抗菌、抗カビ作用のみが報告されており(特許文献5、非特許文献3)、その自律神経に対する作用、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置を意図した作用は全く報告されていなかった。フェニル乳酸を含む医薬組成物又は飲食物(以下、単に「組成物」ともいう。) は、自律神経活動の調節作用を有し、自律神経活動に関連する疾患又は状態の処置に有用であることを本発明者らは見出した。
【0023】
また、本発明者らは、後述の実施例に記載の通り、乳酸菌(Lactobacillus plantarumSAM2446株(FERM ABP-10438))の培養後培地上清中にフェニル乳酸が含まれ、かつ、L-フェニル乳酸が主に含まれる(D:L=1:9程度)ことも発見した。
【0024】
上記の原料や培養上清等からフェニル乳酸を分画する方法については、該原料等をそのまま分画するか、あるいは分画操作に先立って凍結乾燥、有機溶媒を用いた液々分配抽出等により濃縮することができる。その後の分画操作は、所望により限外ろ過処理等による粗分画後、逆相カラム、光学分割カラム等を用いた処理により行うことできる。上記液々分配抽出、限外ろ過処理、逆相カラム処理、光学分割カラム処理等は、当業者一般に用いられている方法を用いて行うことができる。分画によって得たフェニル乳酸は、D-フェニル乳酸とL-フェニル乳酸の混合物であってもよく、それぞれの単体であってもよい。混合物を得た場合、所望により更なる光学分割操作によって単体を得ることができる。
【0025】
上記方法によりフェニル乳酸が得られたことの確認は、標準品との比較、MSスペクトル、NMRスペクトル等の測定によって行うことができる。
【0026】
また、市販の標準品(BACHEM社等)のフェニル乳酸を用いてもよいし、合成によってフェニル乳酸を得ることもできる。合成方法に特に制限はない。
【0027】
本発明の組成物に含まれるフェニル乳酸は、例えば塩酸塩のような、薬学的に許容される塩の形で使用してもよく、体内でフェニル乳酸となるような塩(プロドラッグ)の形で使用してもよい。
【0028】
本発明はまた、フェニル乳酸(式(I)の化合物)の生産能を有する微生物又はその加工品、該微生物の培養上清又はその加工品を含有する、前記の医薬組成物又は飲食物を提供する。
【0029】
本明細書中において、「フェニル乳酸の生産能を有する」とは、有効な条件で培養したときにフェニル乳酸を生産することをいう。該有効な条件は、当業者であれば適宜決定できる。微生物のフェニル乳酸生産能は、微生物(微生物自体、微生物の乾燥物、微生物の培養液、微生物の抽出物等も含む)を、例えば、LC、MS、NMR等を用いて定法に従って分析した場合に、フェニル乳酸等が含まれることで確認できる。このような生産能を有する微生物には、培養条件(培地の組成、培養時の温度条件、培養時のpH条件、培養密度等)を適宜調製した場合にフェニル乳酸生産能を有するようになる微生物も含む。
【0030】
上記の微生物は天然から採取したものでもよく、また、フェニル乳酸生産能を有するよう設計された変異体及び/又は組換え体も、本発明の範囲内に含まれる。このような変異体及び/又は組換え体は、同組成の培地を用いて培養したときに野性株と比べてフェニル乳酸の生産能が高くなるよう意図して設計されたものが含まれる。
【0031】
さらに、上記の微生物が産生するフェニル乳酸は、D-フェニル乳酸であってもL-フェニル乳酸であってもこれらの混合物であってもよく、例えば後述の実施例の記載を参照することにより、処置の対象とする疾患又は状態に合わせて、所望のフェニル乳酸の産生能を有する微生物を適宜選択して用いることができる。
【0032】
このような、フェニル乳酸生産能を有する微生物は、例えば、乳酸菌、酵母、枯草菌等であり得る。乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、テトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)、ウェイセラ属(Weissella)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、メリスコッカス属(Melisscoccus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、バゴコッカス属(Vagococcus)、アトポビウム属(Atopobium)、ラクトスフェアエラ属(Lactosphaera)、オエノコッカス属(Oenococcus)、アビトロフィア属(Abiotrophia)、パララクトバシルス属(Paralactobacillus)、グラヌリカテラ属(Granulicatella)、アトポバクター属(Atopobactor)、アルカリバクテリウム属(Alkalibacterium)又はオルセネラ属(Olsenella)に属する微生物が挙げられ;酵母としては、例えば、カンジタ属(Candida)又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)に属する微生物が挙げられ;枯草菌としては、バシルス・スブチルス属(B.subutilis)に属する微生物が挙げられる。
【0033】
好ましい微生物として、例えば非特許文献3に記載の、Lactobacillus plantarumLactobacillus alimentariusLactobacillus rhamnosusLactobacillus sanfranciscensisLactobacillus hilgardiiLeuconostoc citreumLactobacillus brevisのある株、Lactobacillus acidophilusのある株、Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides や、特許文献5に記載のEnterococcus faecalis等が挙げられる。特に好ましい微生物は、乳酸菌のラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(より特定すれば、ラクトバチルス・プランタラムSAM 2446株(FERM ABP-10438))及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(より特定すれば、ラクトバチルス・ブレビスATCC14869)である。
【0034】
本発明はまた、前記のフェニル乳酸生産能を有する微生物を培地で培養する工程を含む、前記の医薬品組成物又は飲食物の製造方法を提供する。該微生物の培養は、適当な培地に微生物を接種し、微生物の種類に従い、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。
【0035】
例えば微生物が乳酸菌である場合の培養に関し、以下に簡潔に述べる。培地には、例えば寒天培地及び/又は液体培地を用いることができる。培地には、適宜当業者に公知の炭素源、窒素源を所望の濃度で添加し、さらに、必要に応じて、無機イオン、ビタミン類等微量栄養源を添加する。より簡便には、例えばMRS培地等の市販の培地を用い、これにさらに添加物を加えて用いることができる。培養の際、当業者に公知の手段で適宜フェニル乳酸生成量を増加させるよう操作を加えることができ、例えば、非特許文献3に記載のように、Lactobacillus属培養中にフェニルアラニンを添加することで培地中のフェニル乳酸量を増加させることもできる。培地を調製した後、適当な酸又は塩基を用いてpHを6.0〜7.0の範囲に調製し、オートクレーブ等を用いて滅菌することができる。
【0036】
その後、乳酸菌を培地に接種し、培養温度10℃〜45℃にて、通常1〜2日間、振とう培養、静地培養、タンク中での工業的培養、寒天培地等の固形培地での培養等により、培地中で微生物を増殖させることができる。培養条件は、用いる微生物によって異なるが、例えばLactobacillus plantarumを用いる場合、37℃前後にて、1日間、pH6.5前後のMRS培地中で静置培養することができる。このように培養した微生物を、所望により遠心分離し、さらに必要に応じて濾過し、培養上清を得ることができる。
【0037】
フェニル乳酸は、後述の実施例から明らかなように、D-フェニル乳酸及びL-フェニル乳酸をそれぞれ単独でラットに十二指腸経由で投与した時に、ラットの腎臓交感神経活動、血圧、胃迷走神経(副交感神経)活動に作用する。
【0038】
より詳細には、腎臓交感神経活動に対し、投与量10μg/匹では、D-フェニル乳酸は腎臓交感神経活動亢進作用が認められ、L-フェニル乳酸では、腎臓交感神経活動には殆ど影響が認められなかった。投与量100μg/匹では、D-フェニル乳酸、L-フェニル乳酸ともに、腎臓交感神経活動抑制作用が認められた。
【0039】
血圧に対しては、特に投与量100μgで、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸共に血圧低下作用が認められた。
【0040】
さらに胃迷走神経(副交感神経)活動に対し、投与量100μg/匹では、L-フェニル乳酸に胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用が認められた。
【0041】
自律神経活動を評価する方法として、心電計、血圧計、皮膚電気反射、瞳孔径測定等の生物理学的測定法や、血中カテコールアミン濃度測定などの生化学的測定法等が挙げられる。特に心電計を用いた心拍変動の解析良く利用されている方法であるが、本発明者らは、後述の実施例に記載のように、投与物質の自律神経活動への影響が直接評価できる、ラットを用いた方法により、上記フェニル乳酸の自律神経活動に対する作用を評価した。本方法の特徴は、各臓器、組織等を支配する自律神経の神経活動に対する投与物質の作用を、個々に調べることができる点にある。さらには、実験動物が生存する限り、逐次異なる投与物質の自律神経調節作用を測定できるという利点もある方法である。
【0042】
自律神経の活動に関与すると考えられる器官、ホルモン、生体活動と、それらに対し自律神経が及ぼすと考えられる影響及び予想される効果の一例について、以下の表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
上記表から明らかなように、血糖調節、血圧調節、ホルモン分泌調節、糖代謝調節、胃液分泌調節、血流量調節、体温調節等、生体の様々な調節機構に自律神経活動が密接に影響している。自律神経活動のバランスに異常が生じると、例えば不定愁訴などの身体不調が現れる。不定愁訴の症状は多岐に及び、全身疲労感、睡眠障害、動悸、口渇(ドライマウス)、インポテンツ、口内乾燥感、眼精疲労等が挙げられる(非特許文献2)。また、過度の交感神経優位の疾患としては、癌・胃潰瘍・潰瘍性大腸炎・高血圧・吹き出物・腰痛・肩こり・膝痛・慢性関節リウマチなどが挙げられ、過度の副交感神経優位の疾患としては、リンパ球が増殖して抗原に過敏に反応するようになった結果としてのアレルギー症状等が挙げられる。副交感神経活動を亢進することにより、リンパ球数を増加させることによる免疫機能の亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、血糖低下等の作用、皮膚の機能改善による美容効果や美肌効果が予想される。
【0045】
本明細書中において、自律神経調節作用とは、交感神経活動亢進作用、交感神経活動亢進の抑制作用、交感神経活動抑制作用、副交感神経活動亢進作用、副交感神経活動亢進の抑制作用、副交感神経活動抑制作用を含む。
【0046】
本発明の組成物は、上記フェニル乳酸を含むため、上記自律神経活動に関連した疾患又は状態の処置に使用し得る。例えば、自律神経の乱れによって起こりやすい症状であり、不定愁訴と総称されることもある、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠等(自律神経失調症ともいう。) や、自律神経活動の乱れに起因する体温調節障害によるものと考えられる、更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗等の処置に使用し得る。特に、交感神経活動の抑制によって処置することができる疾患又は状態、例えば交感神経活動優位な場合の疾患である、対人緊張症、赤面症、多汗症、動悸、不整脈、下痢、立ちくらみ、胃もたれ、疲労感、癌・胃潰瘍・潰瘍性大腸炎・高血圧・吹き出物・腰痛・肩こり・膝痛・慢性関節リウマチ等の処置や、副交感神経活動優位な場合の疾患である、リンパ球が増殖して抗原に過敏に反応するようになった結果としてのアレルギー症状等の処置に有用であると考えられる。また、本発明の組成物は、高血圧の処置に有用であると考えられる。さらに本発明の組成物は、副交感神経活動を亢進させることで、リンパ球数を増加させることによる免疫機能の亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、血糖低下等の作用を有し得ると考えられるため、血圧低下、心身の緊張、ドライアイ、ドライマウス、免疫機能調整不全、皮膚の機能不全、血糖低下等の処置に有用であると考えられる。
【0047】
本明細書中において、疾患又は状態を処置するとは、該疾患又は状態の悪化を防ぐこと、該疾患又は状態を改善すること、並びに該疾患又は状態を予防することを含む。上記フェニル乳酸を含む本発明の組成物は、後述の実施例の結果から判断して、フェニル乳酸として5μg/kg以上を投与すれば充分な効果を得ることができる。フェニル乳酸の投与量に特に上限は存在しないが、毒性、経済性を考慮すれば一般に50mg/kg程度を越えないことが好ましい。本発明の組成物がその効果を充分に発揮するためには、フェニル乳酸を1回服用当たり5μg/kg〜50mg/kg(好ましくは10μg/kg〜20mg/kg、より好ましくは20μg/kg〜10mg/kg)、より具体的には、ヒト成人を対象とする場合、1回服用当たり300μg〜3000mg(好ましくは600μg〜1200mg、より好ましくは1200μg〜600mg)含有することが望ましい。また、本発明の組成物においては、フェニル乳酸を製品重量(g)当たり0.5μg〜5mg(好ましくは1μg〜2mg、より好ましくは2μg〜1mg)含有させることができる。また、別の観点からは、フェニル乳酸を製品重量(g)当たり4μg以上(好ましくは25μg以上、より好ましくは75μg以上)含有することができ、このとき上限値は、いずれにおいても、製品重量(g)当たり、例えば、1mg、2mg、又は5mgとすることができる。
【0048】
また、投与量の決定に際し、例えば後述の実施例の記載を参照することにより、処置の対象とする疾患又は状態に合わせて、D-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸の投与量を適宜設定することができる。本明細書中において、臨床上有効量とは、自律神経を調節するために臨床上有効な量であり、交感神経活動亢進有効量とは、交感神経活動を亢進するために有効な量、交感神経活動抑制有効量とは、交感神経活動を抑制するために有効な量、副交感神経活動亢進有効量とは、副交感神経活動を亢進するために有効な量であり、これらの有効量は、例えば後述の実施例に記載の手法で測定した、自律神経活動に対する物質の作用及び該作用時の投与量を判断指標として設定し得る。
【0049】
本発明の組成物は、フェニル乳酸を含む原料、フェニル乳酸産生能を有する微生物、該微生物の培養上清、該微生物を含む培養物自体、等を、そのまま、又は抽出・分画操作等の処理を行い、単離、精製したものを含むことができるが、特に制限はない。また、これらを通常の殺菌、減圧濃縮、凍結乾燥等の手法を用いて濃縮物や乾燥粉体等の加工品として用いることもできる。乾燥粉体化が容易でない濃縮物の場合には、常用のデキストリン、高分子澱粉加水分解物又は高分子ペプチド等を賦形剤として用いて乾燥粉体化することができる。作業性、保存性の観点からは、粉体化することが好ましい。
【0050】
本発明の組成物は、目的に応じて飲食物(食品、飲料、調味料、アルコール飲料、機能食品等も含む)及び医薬組成物の種々の形態にできる。例えば、フェニル乳酸、フェニル乳酸生産能を有する微生物、該微生物の培養上清、加工品等を用いて、飲食物、医薬品を提供することができる。
【0051】
本発明が提供する飲食物としては、飴、トローチ、ガム、ヨーグルト、アイスクリーム、プディング、ゼリー、水ようかん、アルコール飲料、コーヒー飲料、ジュース、果実飲料、炭酸飲料、清涼水飲料、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料等、種々のものをあげることができる。
【0052】
なお、これらの飲食物は、必要により各種添加剤を配合し、常法に従って調製することができる。具体的には、これらの飲食品を調製する場合には、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェノール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等、通常の食品原料として使用されているものを適宜配合して、常法に従って製造することができる。
【0053】
さらにまた、本発明が提供する医薬品を調製する場合には、必要により各種添加剤を配合し、各種剤形の医薬品として調製することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬品として、あるいは、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤といった非経口医薬品として、提供することができる。
【0054】
これらの医薬品は、各種添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができるが、その例としてはデンプン、乳糖、白糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等の固形担体;蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の液体担体;各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等の油性担体等を挙げることができる。
【0055】
本発明の組成物は、フェニル乳酸を有効成分として含み、所望により、医薬組成物や飲食物に従来から使用されている他の有効成分をさらに含んでいてもよい。
【0056】
例えば、自律神経調節作用を有する物質(交感神経作用物質、副交感神経作用物質等)、交感神経活動亢進作用物質、アレルギー症状の処置に関連した物質、交感神経活動抑制物質、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態の処置に関連した物質、血圧低下作用を有する物質、副交感神経活動亢進作用物質 (アロマテラピー効果・リラックス効果を有する物質を含む)、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下作用を有する物質等であって、当業者に公知の物質を1又は複数組合せて含むことができる。
【0057】
さらに、本発明の組成物がフェニル乳酸生産能を有する微生物又はその加工品、その培養上清又は加工品を含有する場合には、特に、該微生物由来である上記の物質(自律神経調節作用を有する物質、交感神経活動亢進作用物質、交感神経活動抑制物質、血圧低下作用を有する物質、副交感神経活動亢進関連物質等)を含んでいてもよい。
【0058】
特に本発明の組成物がD-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、交感神経活動亢進作用物質やアレルギー症状の処置に関連した物質であることが好ましい。特に本発明の組成物がD-フェニル乳酸及び/又はL-フェニル乳酸を、交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、交感神経活動亢進作用物質や、癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、吹き出物、腰痛、肩こり、膝痛及び慢性関節リウマチよりなる群から選択される疾患又は状態の処置に関連した物質であることが好ましい。特に本発明の組成物がL-フェニル乳酸を、副交感神経活動亢進有効量で含む場合には、上記の他の有効成分は、副交感神経活動亢進作用物質や、免疫機能亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善及び/又は血糖低下作用を有する物質であることが好ましい。
【0059】
なお、本発明の医薬組成物又は飲食品には、その具体的な用途(例えば自律神経調節のため、交感神経調節のため、副交感神経調節のため、アレルギー症状緩和のため、高血圧の治療/予防のため、免疫機能の亢進のため、心身のリラックスのため、血糖低下対策のため、唾液の分泌促進のため、涙液の分泌促進のため、美容効果・美肌効果のため、健康維持のため、など)及び/又はその具体的な用い方(例えば、摂取量、摂取回数、摂取方法)を表示することができる。
【発明の効果】
【0060】
以上詳しく説明したように、本発明によれば、自律神経活動に関連する疾患又は状態の根本原因である自律神経活動そのものを調節する医薬組成物や飲食物が提供される。特に、血圧上昇を伴わず、高安全性を備え、簡便に製造できる前記の医薬組成物や飲食物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、実施例1における乳酸菌培養上清中の2-フェニル乳酸のキラリティーを確認した図である。
図2図2は、実施例2においてL-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸を10μg投与した場合の、ラット腎臓交感神経活動への影響を示す図である。
図3図3は、実施例2においてL-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸を100μg投与した場合の、ラット腎臓交感神経活動への影響を示す図である。
図4図4は、実施例3においてL-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸を100μg投与した場合の、ラット血圧への影響を示す図である。
図5図5は、実施例4においてL-フェニル乳酸を100μg投与した場合の、ラット胃迷走神経(副交感神経)活動への影響を示す図である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
実施例1は、乳酸菌Lactobacilus plantarum SAM 2446株(FERM ABP-10438)の培養上清中に含まれるフェニル乳酸をキラル分析したものである。また、実施例2〜4はBACHEM社の試薬L-フェニル乳酸(L-β-3-phenyl lactic acid (Q1375))、及びD-フェニル乳酸(D-β-3-phenyl lactic acid (Q1670))を用いてラットの自律神経活動に対するフェニル乳酸含有組成物の効果を調べたものである。
【0064】
実施例1: Lactobacilus plantarum SAM 2446株(FERM ABP-10438)培養上清中のフェニル乳酸 (2-hydroxy- 3-phenyl propionic acid)のキラリティーの確認
Lactobacilus plantarum SAM 2446株培養上清の凍結乾燥品を初発材料として、Develosil C30-UG-5カラムを用いて、フェニル乳酸に相当するピークを回収した。次いで、当該ピークを0.1% TFA、及び5% 2-プロパノールを含むヘキサンに溶解し、キラルパックAD(ダイセル化学工業製)に負荷し、移動相として0.1% TFA、及び5% 2-プロパノールを含むヘキサンをイソクラティックに用いて分析した。
【0065】
その結果、Lactobacilus plantarum SAM 2446株培養上清中のフェニル乳酸中には、L-フェニル乳酸が主成分として含まれることが判った(D:L=約1:9)(図1)。なお、収率は約90%程度であった。
【0066】
実施例2: L-フェニル乳酸又はD-フェニル乳酸のラット腎臓交感神経活動への影響
本実験には、体重300〜350gのWistar系雄性ラットを使用し、1日12時間(7:00-19:00)点灯する24℃の恒温動物室にて予め1週間以上飼育した動物を使用した。ラットは、各神経の実験に対し、1匹ずつ使用した。餌(MF:オリエンタル酵母社製)、及び水は自由摂取させた。実験当日は5時間絶食後ウレタン(1g/kg,ip)麻酔下に開腹し、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸(10μg又は100μg)の十二指腸内投与による、腎臓交感神経活動への効果を、T. Yamano et al., Neurosci. Lett. 313: 78-82 (2001)、A.Niijima et al., Autonom. Neurosci. : Basic & Clinical 97: 99-102 (2002)及びM. Tanida et al., Am. J.Physiol: Regulatory, Integrative and Comerative Physiology 288:R447-R455 (2005)に記載の方法を用いて測定した。すなわち腎臓へ投射する交感神経を臓器手前にて切断し、その中枢側を銀製電極上にのせて、その電気活動変化を測定した。乾燥を防ぐ為に電極は予め液体パラフィンとペトロレウムゼリーの混合物に十分浸しておいた。尚、手術開始から測定終了までチューブを気管に挿入して気道を確保し、保温装置にて体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保つようにした。十二指腸内投与は、L-フェニル乳酸又はD-フェニル乳酸を、それぞれ生理食塩水にて10μg/2ml又は100μg/2mlに調製し、十二指腸に挿入したポリエチレンtubeを使用し、1匹あたり2mlずつ、1ml/minの投与速度で行った。得られた神経の電気活動はコンデンサー式差動増幅器にて増幅し、オシロスコープにてモニターし、磁気テープに記録した。全ての神経活動は、その生データをバックグランド・ノイズと分離するためにスライサーとウィンドウ・ディスクリミネーターを用いて標準パルスに変換した後に解析した。放電頻度はレイトメーターにより5秒間のリセットタイムにてペンレコーダー上に表示した。データは5分間毎の5秒あたりの発電頻度(pulse/5sec)の平均値にて解析し、投与前の値を100%として百分率で表した。生理食塩水を投与した実験をコントロールとした。
【0067】
その結果、コントロールについては評価した全ての自律神経活動への影響は認められず、血圧への影響も認められなかった。一方、投与群では、10μgの投与量では、D-フェニル乳酸では腎臓交感神経活動が亢進されたものの、L-フェニル乳酸では、腎臓交感神経活動には殆ど影響が認められなかった(図2)。100μgの投与量では、D-フェニル乳酸、L-フェニル乳酸ともに、腎臓交感神経活動を抑制し、特にL-フェニル乳酸の方が、抑制効果が高かった(図3)。
【0068】
実施例3: L-フェニル乳酸又はD-フェニル乳酸のラット血圧への影響
実施例2と同様の手法を用いて、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸(10μg又は100μg)の十二指腸内投与の、血圧への影響を、実施例2中に列記した文献に記載の方法で調べた。すなわち、左太腿動脈にカニューレを挿入し、トランデューサーを使用して血圧を測定した。ラットは、各化合物の各投与量に対し、1匹ずつ使用した。十二指腸内投与は、実施例2と同様の手法により行った。その結果、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸ともに、特に100μgの投与量で血圧低下作用を有することが判った(図4)。
【0069】
実施例4: L-フェニル乳酸のラット胃迷走神経(副交感神経)活動への影響
実施例2と同様の手法を用いて、ラットにL-フェニル乳酸(100μg)を十二指腸内投与し、胃迷走神経(副交感神経)活動への影響を調べた。その結果、胃迷走神経(副交感神経)活動の亢進が認められた(図5)。
【0070】
製造例1フェニル乳酸を含有する医薬品
錠剤:
以下に示す方法により、フェニル乳酸を含有する医薬品(錠剤)を製造した。
【0071】
市販のフェニル乳酸5gを、乳糖293.7gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gとともに混合し、単発式打錠機にて打錠することにより、直径10mm、重量300mgの錠剤を製造した。
【0072】
顆粒剤:
市販のフェニル乳酸5gを、乳糖293.7gおよびステアリン酸マグネシウム1.3gを加え、圧縮、粉砕、整粒し、篩別して20〜50メッシュの顆粒剤を得た。
【0073】
製造例2フェニル乳酸を含有する飲食物
以下の配合のフェニル乳酸を含有する各種食品を常法により製造した。
【0074】
アイスクリーム:
(組成) (重量部)
生クリーム(45%脂肪) 33.8
脱脂粉乳 11.0
グラニュー糖 14.8
加糖卵黄 0.3
バニラエッセンス 0.1
水 39.995
フェニル乳酸 0.005
全量 100.00
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
フェニル乳酸 0.005
香料 0.2
色素 0.1
水 83.475
全量 100.00
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.195
フェニル乳酸 0.005
全量 100.00
ヨーグルト:
(組成) (重量部)
生乳(3.4%脂肪) 80.0
生クリーム(50%脂肪) 8.0
脱脂粉乳 1.5
水 7.495
スターター 3.0
フェニル乳酸 0.005
全量 100.00
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.595
フェニル乳酸 0.005
全量 100.00
アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
フェニル乳酸 0.005
精製水 57.195
全量 100.0
考察
これらの結果から、乳酸菌Lactobacilus plantarum SAM 2446株培養上清には、2-フェニル乳酸が、光学異性体であるL-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸として含まれ、L-フェニル乳酸が主であることが明らかになった。
【0075】
次いでこれら化合物の腎臓交感神経活動への影響を調べたところ、投与量10μg/匹では、D-フェニル乳酸では腎臓交感神経活動亢進作用がみられたが、L-フェニル乳酸では、腎臓交感神経活動には殆ど影響が認められなかったことから、D-フェニル乳酸は低濃度の有効用量においては、副交感神経活動優位な場合の疾患である、リンパ球が増殖して抗原に過敏に反応するようになった結果としてのアレルギー症状に有効であると考えられる。また、投与量100μg/匹では、D-フェニル乳酸、L-フェニル乳酸ともに、腎臓交感神経活動抑制作用がみられたことから、L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸は高濃度の有効用量においては、交感神経優位の疾患である、癌・胃潰瘍・潰瘍性大腸炎・高血圧・吹き出物・腰痛・肩こり・膝痛・慢性関節リウマチなどに有効であるものと考えられる。
【0076】
L-フェニル乳酸及びD-フェニル乳酸は血圧低下作用を有することから、高血圧改善に有効であると考えられる。
【0077】
さらにL-フェニル乳酸は、特に投与量100μg/匹で胃迷走神経(副交感神経)活動亢進作用がみられ、副交感神経活動の亢進作用を有することが示唆された。そのことから、リンパ球数を増加させることによる免疫機能の亢進、血圧低下、心身のリラックス、唾液の分泌、涙液の分泌促進、皮膚の機能改善、血糖低下などに有効であるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5