【実施例】
【0128】
I−材料と方法
I.l−アフェレーシス血小板採集
ボランティアドナーに対するインフォームドコンセントの後で、出発濃厚血小板(PCs)はMCS+ multiple component system(Haemonetics,Braintree,USA)を用いて採取された。静脈カテーテルにより全血を間欠流及び抗凝固剤(血液10ml当たり1mlの抗凝固クエン酸デキストロース溶液処方A)用いて採血した。多血小板血漿(PRP)が遠心分離により自動的に他の血液成分から分離され、滅菌された使い捨てバッグに採取され、赤血球と血漿はドナーに戻された。PRPの所定の体積(約300ml)が得られるまで、この手順が繰り返された。出発濃厚血小板は採取後24時間以内に下記に述べるように処理を行った。
【0129】
I.2−血球数
血小板、白血球(WBC)、及び赤血球数はセルカウンター(ABC Vet Automatic Blood Counter,ABX Diagnostics,France)を用いて測定した。
【0130】
I.3−出発濃厚血小板の処理
a−研究計画:
出発濃厚血小板は
図1の研究計画に従って処理された。
簡単に説明すると、同一ドナーからの出発濃厚血小板(300ml)を穏やかに混合し、等量(150ml)の2つのサブプールに分けた。サブプール1は事前の活性化を行わず、直接S/D処理をした。サブプール2は下記のような血小板ゲルを形成する条件で、23mMCaCl
2及びビーズの存在下で活性化した。その結果得られた放出物がピぺッティングで注意深く回収され(血小板ゲルでの30mlの損失により平均体積120mlに相当)、S/D処理後オイル抽出された。出発濃厚血小板、非活性化血小板サブプール1のS/D処理後、血小板サブプール2の活性化後、及び活性化サブプール2のS/D処理後のサンプルが採取された。
【0131】
b−血小板活性化:
ビーズの存在下、血小板濃縮剤(サブプール2)に1M CaCl
2(Sigma;Batch 056k0688)を添加して最終濃度23mMとして、活性化した。混合物を凝集塊が形成されるまで穏やかに回転混合した。これは通常5から8分以内に生ずる。混合物を更に60分間活性化させた。これは、これらの実験条件下で、好ましい最適な血小板由来成長因子放出が見られた時間であった。形成されたビーズ/フィブリン凝集塊のデカンテーションにより上清が分離された。回収された上清の平均体積は出発濃厚血小板の体積の約80%であった。上清は更にS/D処理された。
【0132】
c−S/D処理:
便宜上、非活性化血小板サブプール1及び活性化サブプール2のS/D処理は、EP 1685852に記載されたようにバッグ内で行われた。簡単に説明すると、TnBP(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)及びTriton X−45(Sigma,Missouri,USA.)の50%/50%混合物を絶え間なく混合して各々のプールへ15分かけて加え、最終濃度(v/v)が1%TnBP及び1%Triton X−45となるようにした。添加終了後、S/D−血小板サブプール混合物を1分間激しく振盪した。それから、処理バッグを完全に水槽に浸漬してS/D血小板混合物を25±0.5℃まで加温し、それから1時間穏やかに連続撹拌した。S/D処理の終了時に、大豆油(Sigma,Missouri,USA)をS/D−血小板サブプールへ最終濃度10%(v/v)となるように添加した。バッグを1分間激しく振盪し、それから回転シェーカー上に15分間置いた。血小板サブプール(下層)がデカンテンーション(20分)によりオイル(上層)から除去され、第二のバッグに引力により移され、3回のオイル抽出が行われた。このオイル抽出操作はTnBP及びTriton X−45をそれぞれ、10及び100ppm未満まで減少させた。
【0133】
I.4−遠心分離及び溶解剤の種類による影響
血小板由来成長因子放出に対する血小板内容物及びS/D剤の種類の影響を調べるために、以下のような実験を行った:濃厚血小板(300ml)が150mlの2つのサブプールに小分けされた。血小板をペレットにするために、1つのサブプールが高速(10000xg)で遠心分離され、上清が1%TnBP−1%Triton X−45で処理された。遠心分離処理をしなかった、他方のサブプールは更に、75mlの2つのサブプールに小分けし、1つは1%TnBP−1%Triton X−45で処理し、他方は2%TnBPで処理した。S/D処理(インキュベーションとオイル抽出)は上記のように行った。
【0134】
I.5−ウシトロンビン活性化実験
CaCl
2活性化が血小板を完全に活性化しないという仮説を除外するために、2つの濃厚血小板(14ml)を0.23M CaCl
2及びビーズの存在下で、上記のように活性化した。
【0135】
室温で緩やかに60分間回転撹拌したのち、濃厚血小板放出物の10mlを回収し、1000国際単位(IU)/mlの局所ウシトロンビン(Thrombin−JMI,52604−7102−1,Jones Pharma,Saint−Louis,MO)0.5mlを添加して、最終濃度約48IU/ml.を得た。混合物は室温で60分間緩やかに回転振盪した。それから、1%TnBP−1%Triton X−45で処理しオイル抽出した。並列実験では、数秒以内で生じたゲル形成の後、2つの濃厚血小板サンプル(10ml)を同一のウシトロンビン0.5mlで直接活性化し緩やかに60分間回混合した。実験過程の色々な段階でサンプルを採取し、10000xgで遠心分離し血小板由来成長因子の解析まで−80℃で凍結した。
【0136】
I.6−成長因子アッセイ
手順の各工程で1mlのサンプルを採取した。血小板及び細胞破片がペレットになるまで10000xgで15分間遠心分離した(Microfuge(登録商標)22R,BeckmanCoulter,Fullerton,CA)し、血小板由来成長因子測定のための無細胞上清を得た。並列実験も800xgで15分間遠心分離した。上清はすぐに−80℃で凍結した。
【0137】
サンプルは37℃で解解し、感度及び特異性の高い市販の免疫アッセイを用いて1時間以内に解析した。標準とサンプルはデュプリケートでアッセイされ、平均値が計算された。結果はサンプルに適用した希釈係数を掛けた。
【0138】
α−PDGF−AB
Quantikine ELISAキット(#.DHD00B,R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いて、PDGF−ABをアッセイした。サンプルをCalibrator Diluent (RD6−11)により100倍希釈した。血小板を2時間インキュベートし、洗浄し、そしてPDGF−ABに対する酵素抱合抗体と室温で更に3時間インキュベートした。ウェルを洗浄バファーで洗浄し、基質液を室温で20〜30分間添加した。ウェルを光から保護された。停止液が各ウェルに添加され、マイクロタイタープレートリーダーを用いて450nmの吸収を測定した。最小検出濃度は1.7pg/mlであった。
【0139】
b−TGF−β1
TGF−β1はQuantikine ELISAキット(DB100B,R&D Systems)を用いて測定された。サンプルはCalibrator Diluent (RD5−26)で100倍に希釈された。TGF−β1標準液(890207)の希釈系列は、TGF−β−受容体IIでコートした96−穴マイクロタイタープレート中に100μlの容量で調製された。TGF−β1の解析前に、酸による活性及び中和が行われ、潜在的なTGF−β1を免疫反応型に活性化した。この目的のために、0.5mlのサンプルと1N HClの0.1mlとを混合して室温で10分間インキュベートし、1.2N NaOH/0.5M HEPES(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N0−[2−エタンスルホン酸])、Sigma(H−7523)の0.1mlを添加して中和し、遠心分離した。上清画分をアッセイしてTGF−β1の総含有量を求めた。アリコート(50μl)をマイクロタイタープレートにデュプリケートで加えてカバーし、2時間室温でインキュベートした。それからウェルを洗浄し、TGF−b1に対する酵素抱合ポリクローナル抗体を添加して室温で1.5時間インキュベーションした。測定は上記のように行った。TGF−β1の検出限界は4.61pg/mlであった。
【0140】
c−EGF
EGFはQuantikine ELISAキット(番号DEG00,R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いて測定された。サンプルはCalibrator Diluent(RD6N)で20倍希釈された。標準、コントロール、又はサンプル200μlをウェルに添加した。プレートは2時間室温でインキュベートした。ウェルを吸引し洗浄バファーを満たして洗浄した。EGF抱合体を各ウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。ウェルを洗浄バファーで洗浄し、基質液(200μl)を各ウェルに添加した。混合物を室温で20分間インキュベートし、光から保護した。停止液(50μl)を各ウェルに加えた。450nmに設定されたマイクロプレートリーダー(VersaMax(商標)microplate reader,Molecular Devices,USA)を用い、各ウェルの光学密度を30分以内に測定した。最小検出濃度は0.7g/mlであった。
【0141】
d−IGF−1
IGF−1はQuantikine ELISAキット(DG100,R&D Systems製)を用いて定量された。サンプルはCalibrator Diluent (RD5−22)で100倍に希釈した。最小検出濃度は0.007から0.056ng/mlの範囲にあり、平均MDDはメーカーの報告のように0.026ng/mlであった。各ウェルにアッセイ希釈剤(RD 1−53)150μlを添加し、続いて標準液(890775)50μlを添加した。プレートを粘着片で覆い、2〜8℃で2時間インキュベートした。ウェルを3回洗浄し、それから酵素抱合IGF−1と2〜8℃で1時間インキュベートした。測定は上記のように行った。
1.7−統計学的解析
全ての実験に対するデータは平均値、標準偏差、及び最小値と最大値として記録される。統計学的比較は両側t検定で行った。0.05未満のp値を用いて、操作の様々な段階での調製血小板間での平均PGF濃度に対する有意差を評価した。値は有意差なし(NS;<0.05)として示され、<0.01又は0.001であった。0.005に近づいたときの正確なp値を示す。
【0142】
I.8−PC、S/D−PC及びAct−P比較のためのサンプル調製と分離
出発濃厚血小板(PC)に対応する各サンプル、溶媒/界面活性剤(1%TnBP及び1%Triton X−45)で処理された出発濃厚血小板(S/D−PC)、及びCaCl
2で活性化された出発濃厚血小板(Act−PC)は、タンパク含有量を比較するためにSDS−PAGEで分離された。
【0143】
各サンプルの20μlとNuPAGE LDS サンプルバッファ(4X)(Invitrogen)、2μlのNuPAGE還元剤(10X)(Invitrogen)及び脱イオン水とを混合し、最終体積を20μl(活性化濃厚血小板に対応するサンプルでは21μl)とする。その結果得られた混合物は、それから10分間70℃で加熱され、4〜12%ポリアクリルアミド勾配ゲルを用いてSDS−PAGEを行った(NuPAGE Bis−Tris,Invitrogen)。
【0144】
タンパク質の分離は200Vの定電圧、150mA/gelの予想電流で35分間行った。得られたゲルはクマシーブルーR−250で染色された。タンパクマーカーであるMark12未着色スタンダート(Invitrogen)はサンプル中に含まれるタンパクの分子量を測定するために使用された。Mark12マーカーをMESでバッファされたNuPAGE novex 4−12% Bis−Trisゲル(Invitrogen)にロードし、分離後クマシーブルーR−250で染色した。対応する結果を
図4に示す。
【0145】
溶媒/界面活性剤法で処理された出発濃厚血小板のタンパクの特徴は非処理の出発血小板濃縮剤の特徴と大きな違いはないように見える。一方、活性化濃厚血小板のタンパクの特徴は40から70kDa領域のバンドの欠如から明らかなように非処理の開始時血小板濃縮剤の特徴は著しく異なり、これらのバンドはそれぞれ、フィブリノーゲンの63.5、56及び47kDaのアルファ、ベータ及びガンマサブユニットに一致する。
【0146】
I.9−成長因子活性のアッセイ
血小板のS/D処理(l%TnBP−1%Triton X−45)で得られた成長因子がその活性を維持できたかを知るために、生体外での細胞培養による研究をヒト骨芽細胞様MG63細胞株を用いて行った。S/D−PC又はAct−PCのどちらからから得られた成長因子濃縮物で処理したMG−63細胞の反応性を細胞形態と生存能力を調べることにより評価した。
【0147】
10
5から10
6の細胞を、2mMグルタミンを添加した90%イーグル最少必須培地(MEM)、1.5g/Lの重炭酸ナトリウムで調整したイーグルBSS(平衡塩類溶)、0.1mMの非必須アミノ酸、1.0mMピルビン酸ナトリウム、10%加熱不活性化ウシ胎仔血清、及び任意に5%のS/D−PC又はAct−PC成長因子濃縮物添加した培地を用い、35−mmのペトリ皿で培養した。37℃の5%CO
2及び95%エアを含む加湿雰囲気中でインキュベーション後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS,Gibco,UK)で洗浄し、トリプシン−EDTA溶液(0.25%トリプシン)で37℃、5分間剥離し、遠心分離し更に細胞テスト用に懸濁した。
【0148】
3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイで、生存/死滅細胞を検出(生存率解析)した。細胞形態を調べるために電子顕微鏡での観察も行った。
【0149】
3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム(MTS)アッセイで、細胞増殖をモニタリングした。簡単に説明すると、500μlのMTS(Celliter 96 Promega Corp.、USA)を各サンプルに添加した。37℃、60分間インキュベーションした後、マイクロプレートリーダーを用いて490nmの吸光度で測定した。
【0150】
I.10−ウイルス不活性化アッセイ
出発濃厚血小板の溶解に使用した溶媒及び/又は界面活性剤のウイルス検証試験はEMEA及びWHOの推奨するような国際ガイドラインに従って小規模実験により行った。50mlの出発濃厚血小板を関連ウイルス(HIV;ヒト免疫不全ウイルス)及び3つのモデルウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、これはC型肝炎ウイルスのモデルであり、仮性狂犬病ウイルス(PRV)、これは別の適当な生体外モデルウイルスがないとHBVのモデルとして使用されることがある、そして水疱性口内炎ウイルス(VSV)の懸濁原液に、独立して添加した。これらのウイルスのより高力価の懸濁原液を出発濃厚血小板に加え、そして1%TnBP及び1%triton X−45の混合物を添加した。ウイルス感染力は溶媒‐界面活性剤処理の前及び処理中の異なる時点で評価され、ウイルス感染力動態を測定した。感染力及びTCID
50/ml値で表されるデータを測定するために、生体外での細胞培養を行った。得られたデータから、S/D処理により、処理(最初に評価した時点)から5分以内で残存するウイルス感染力が見いだされなかったので、前記4ウイルスが完全に不活化されることが示された。得られた減少係数は、HIVは>5.6log
10、BVDVは>6.6log
10、PRVは>6.4log
10、そしてVSV>7.0log
10であった。したがって、溶媒及び/又は界面活性剤の溶解処理により、出発濃厚血小板の溶解物に潜在的に存在する脂質−エンベロープウイルスの感染を強力に不活性化することが保証される。
【0151】
I.11−保存期間を超えた凍結血小板の成長因子組成物
保存期間を超えた(採取後5日を超える)濃厚血小板を−20℃の冷凍庫に移し、1か月保存した、それから、水槽中で35℃で解凍し、新鮮血小板で記載されたのと同一の実験が行われた。成長因子の量が種々の調製品で測定された。対応する結果を
図5及び6に示す。
【0152】
I.12−凝集塊形成アッセイ
S/D処理した出発濃厚血小板から得た成長因子濃縮物は、溶媒及び界面活性剤をオイル抽出により除去した後に、回収された。得られた成長因子濃縮物5mlを5−mlシリンジに注入した。500IU/mlのウシトロンビン5mlが別の5−mlシリンジに注入した。2つのシリンジが単一ノズルに連結されたダブル−シリンジアプリケーターに置かれた。この2成分を強制的にノズルを通過させた。血小板ゲルが5秒以内に形成された。
【0153】
II−結果
II.1−細胞数計測
10人の異なるドナーからの10の血小板フェレーシス濃縮物が実験された。血小板フェレーシスから得た濃厚血小板は、平均血小板数が1064±235.2x10
6/ml(範囲:782〜1358x10
6血小板/ml)、平均白血球数0.1125±0.025x10
6/ml(範囲:0.0〜1.5)及び平均赤血球数0.0212±0.025x100
6/mlであった。
【0154】
II.2−成長因子量
種々の調製血小板において、PDGF−AB、TGF−β1、EGF、及びIGF−1の平均濃度±標準偏差(SD)、最少及び最大値、及びp値が表1に示される。実験の各シリーズで得られた個々のデータポイントを
図2に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
出発濃厚血小板の平均PDGF−AB含有量は13.8±14.3ng/ml(N=10)であった。TnBP−Triton X−45による直接のS/D処理後、含有量は出発濃厚血小板と比べて約13倍に相当する184.4±80.2ng/ml(p<0.001)まで有意に増加した。出発濃厚血小板が最初にCaCl
2で活性化されると、含有量は有意に増加(84.6±35.5;p<0.001したが、その増加は少なく(約6倍の増加)、次のS/D処理の間本質的な変化ではなかった(88.3±45.9;NS)。PDGF−AB含有量は、活性化及び活性化/S/D−処理血小板より非活性化S/D−処理血小板のほうが高かった(p<0.001)。
【0157】
同様のデータがTGF−β1でも見られた。出発濃厚血小板の平均TGF−β1含有量は16.6±14.3ng/ml(N=10)であった。直接のS/D処理後、TGF−β1含有量は、出発濃厚血小板に比べて、およそ12倍に増加し192.2±37.4ng/ml(p<0.001)となった。出発濃厚血小板が最初にCaCl
2で活性化されると、含有量は約4倍(63.8±14.1ng/ml)(p<0.001)に増加し、そして次のS/D処理(68.6±27.2ng/ml)の間に有意な増加なかった。平均TGF−β1含有量は、活性化及び活性化/S/D−処理血小板よりS/D−処理血小板のほうが有意に高かった(p<0.001)。
【0158】
EGF(<0.7pg/ml)は出発濃厚血小板中では検出できなかったが、S/D処理後、平均EGF含有量は(2.2±1.6ng/ml;N=6)となり検出可能になった。これは、CaCl
2活性化後(0.9±0.6ng/ml)(p<0.05)、又はCaCl
2活性化に続くS/D処理後(1.4±1.0ng/ml)の値より有意に(p<0.05)に高い。
【0159】
出発濃厚血小板の平均IGF−1含有量は83.4±32.8ng/mlであった(N=8)。他の血小板由来成長因子と反して、S/D処理後に有意な増加がみられなかった(88.4±33.5;p=0.025)。平均含有量はCaCl
2活性化後の調製血小板(117.2±34.9ng/ml)よりわずかに高く(p<0.001)、次のS/D処理後安定した(112.4±39.7ng/ml)。
【0160】
150mlの濃厚血小板から回収されたPDGF−AB、TGF−β1、EGF、及びIGF−1の総量は血小板ゲル形成(120ml)による20%の平均体積ロスを考慮すると、それぞれ、S/D直接処理後(153ml)、28213、29406、336、及び13525ngであり、そしてCaCl
2活性化後10152、7156、108、そして14064ngであった。これはCaCl
2活性化と比べて、PDGF−AB、TGF−β1及びEGFを放出するS/D処理はより高い効率を示すことを裏付けている。
【0161】
表2は、新鮮な出発濃厚血小板(A)、遠心分離(血小板のペレット化及び除去のため)に続く上清のTnBP−Triton X−45処理後(B)、及び1%TnBP及び1%Triton X−45(C)又は2%TnBP(D)による出発濃厚血小板のS/D処理後における血小板由来成長因子の含有量の比較を示す。未処理濃厚血小板(A)のPDGF−AB、TGF−β1、EGF、及びIGF−1含有量は、前記データ(表1)と一致した。血小板フリー上清(B)がTnBP−Triton X−45(B)で処理されると、PDGF−AB、TGF−β1、又はEGF含有量は低いままか又は検出不可能であった(3.9;1.1;p<0.001)。一方、IGF−1含有量は高いが、出発濃厚血小板と同じであった(75.4に対して72.2ng/ml)。従って、S/D処理中のPDGF−AB、TGF−β1及びEGFの放出は血小板の存在によるものであった。1%TnBP及び1%Triton X−45又は2%TnBPで処理された血小板溶解物における血小板由来成長因子含有量の増加も同様であった。更に、1%triton X−45又は1%triton X−100のどちらかで処理され、その界面活性剤がオイル抽出を伴わないtC18バッチ吸着(SPlT45tC18及びSPlTl00tC18)によって除去された濃厚血小板において、成長因子PDGF−AB、TGF−β1、IGF及びEGFの放出は、2%TnBP単独、又は1%TnBP及び1%Triton X−45での処理後に見られる範囲内であったことが示された。従って血小板溶解の程度は、この溶媒及び界面活性剤での組み合わせ又は、溶媒又は界面活性剤単独のどちらかを用いれば、本質的に同じであることが示された。
【0162】
サンプルを10000xg又は800xgで遠心分離した場合、本アッセイで測定された血小板成長因子の含有量に影響しないことが、最終的にデータ(図示せず)から明らかになった。
【0163】
【表2】
【0164】
更に、出発濃厚血小板中のS/D処理濃厚血小板及びCaCl
2活性化濃厚血小板の両方から得られた成長因子濃縮物において、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、アルブミン、イムノグロビンIgGの濃度、及び凝固因子II、VII、VIII、IX、X、XI及びXIII及びフォンビルブランド因子の濃度が測定された。これらの結果は表3に示す。
【0165】
【表3】
【0166】
活性化された濃厚血小板はほぼ完全にフィブリノーゲン及び凝固因子が枯渇しているようにみえる。
【0167】
II.3−ウシトロンビン活性化実験
CaCl
2/ビーズ処理は血小板の部分的な活性化しか起こさないので、S/D溶解物に比べて放出物中のPDGF−AB、TGF−β1、及びEGF含有量が低くなるのかもしれないという仮説を排除するために、最初にCaCl
2で活性化され、それから更にウシトロンビン(Act−T)及びS/D処理されたトロンビン(Act−T−SD)で、処理された濃厚血小板からの放出物中の血小板由来成長因子の含有量を測定した(
図3)。
図3に、出発濃厚血小板(start)、CaCl
2活性化後(Act)、それに続いてウシトロンビン活性化(Act−T)、及びS/D処理(Act−T−SD)におけるPDGF−AB(A)、TGF−β1(B)、及びEGF(C)含有量を示す。CaCl
2活性化に比べて、追加のウシトロンビン活性化はPDGF−AB(A)、TGF−β1(B)、及びEGF(C)の放出を増加しないことが示されている。
【0168】
血小板成長因子の放出、及び特にPDGF−AB、TGF−β1、及びEGFは、血小板がカルシウム及び/又はトロンビンで活性化された時より、S/D処理が行われた時のほうが有意に高いことが初めて示される。S/D処理は高脂質血小板膜の溶解を起こし、そして細胞内アルファ顆粒から血小板由来成長因子を放出することが考えられる。これらの血小板由来成長因子の放出はトロンビン活性が最初に行われると低くなるという事実は、おそらく凝集血小板及び一部の放出された血小板由来成長因子が、出発濃厚血小板に存在するフィブリノーゲンのトロンビン誘導重合によって形成されたフィブリンネットワーク(血小板ゲルとして知られている)内に捕捉される結果起きるのだろう。実際、CaCl
2は部分的な活性と内因性トロンビンにより不完全な凝集塊形成を起こす可能性は、約48NIH単位/mlのウシトロンビンを活性化血小板放出物に更に添加しても、血小板由来成長因子の放出を増加しなかったという事実により除外される。血小板の完全な活性化は上記表3に記載したように、極めて低濃度(又は検出不可能)のフィブリノーゲン及び凝固因子によっても裏付けられる。
【0169】
同様に(ここに示さないが)、ウシトロンビンで濃厚血小板を活性化すると、放出物中の血小板成長因子含有量が同じになることがわかった。また、IGF−1含有量はS/D処理後でも本質的に変わらず、カルシウム/トロンビン活性後にわずかに増加することも分かった。この結果は、おそらく殆どのIGFはフリーの循環形で血漿中に存在し、ほんの少量が血小板に存在しているという事実を反映しているのだろう。
【0170】
我々のデータから、S/D処理による血小板溶解は、トロビン活性化、凍結−解凍サイクル及び/又は凍結乾燥のような他で使用される方法よりも、細胞内血小板顆粒から血小板成長因子を浸出液中に放出するために最も効果的な手段であるように見える。初期の研究では、ヒト全血血清における平均PDGFレベルは、17.5ng/ml及び0.06ng/10
6血小板であることが示されている。これは我々の研究で用いたアフェレーシス濃厚血小板中のおよそ60ng/mlに相当する一方、S/D処理濃厚血小板では平均値が約3倍高いことがわかる。更に、我々のデータにより血小板からのPDGF−AB、TGF−β1、及びEGFの増強された放出はS/D処理が1%TnBP−1%Triton X−45の組み合わせ、2%TnBP、又は1%Triton X−45又は1%Triton X−100のどちらかを用いておこなわれるかどうかにより得られ、そしてS/D剤を除去するためのオイル抽出処理は血小板溶解物で評価された4つの血小板成長因子の含有量を減少しないことが示される。
【0171】
II.4−成長因子濃縮物の脂質含有量の比較
表4に記載したように、出発濃厚血小板のS/D処理又はCaCl
2活性化による血小板成長因子濃縮物の脂質含有量を測定し、出発濃厚血小板の含有量と比較した
【0172】
【表4】
【0173】
脂質含有量は日立臨床技術分析装置で測定した。各試験サンプルはpH7.2、886x10
3血小板/μl、0.1x10
3白血球(WBC)/μl及び0.08x10
6赤血球(RBC)/μlの同一出発濃厚血小板から調製された。
【0174】
表4に記載されているように、S/D処理に続くオイル抽出によって調製されたS/D−PC成長因子濃縮物のLDL(低密度リポプロテイン)、HDL(高密度リポプロテイン)、トリグリセリド及びコレステロールの量は、Triton処理血小板又は活性化血小板と比べると、有意に低い。更に、S/D処理によって溶解された血小板を1回又は3回オイル抽出すると、有意な差は見られなかった。
【0175】
本発明の成長因子濃縮物におけるコレステロール、トリグリセリド及びLDLの枯渇は、臨床及び治療目的として重要である。トリグリセリド、及びLDL−コレステロールの組み合わせの役割は動静脈系でのプラーク形成によるアテローム性動脈硬化及び心血管疾患の発症においてよく知られており、それによって心臓麻痺、脳卒中及び抹消血管疾患へとつながる。
【0176】
11.5−成長因子活性
顕微解析により細胞の形、大きさ及び数の変化が明らかになった:細胞をS/D処理又は出発濃厚血小板のCaCl
2活性化から得られた血小板由来成長因子濃縮物とインキュベートすると、多数の紡錘形細胞が特に観察された。更に、細胞をSD−PC成長因子濃縮物とインキュベートすると、Act−PC又は成長因子濃縮物とインキュベートしなかった細胞に比べて、細胞計数から時間及び濃度依存性にMG−63骨芽細胞数が有意に増加しているこことが示された。MTT解析でも、Act−PC処理細胞に比べて、SD−PC成長因子存在下インキュベートされた細胞の細胞活性が増加していることが示された。S/D−PC 又はAct−PC成長因子濃縮物のどちらもMG−63骨芽細胞に対する細胞毒性は示さなかった。
【0177】
従って、この研究からS/D処理血小板又は活性化血小板から得られた成長因子は、選択された抽出方法の後でも活性を有していることが示される。しかし、我々の実験で、細胞をS/D処理で得られた成長因子濃縮物とインキュベートすると、細胞反応は有意に増加することが示された。MG−63細胞に関する本発明の方法で得られた濃縮物の改善効果は、成長因子、特にPDGF、TGF−β1、及びEGF(創傷治癒及び組織再生において、これらの因子の重要性は知られている)の含有量の増加、及び/又は活性化濃厚血小板の非存在下又はごく少量の存在下で更に生物学的活性物質量の増加することで生じるのかもしれない。
【0178】
細胞増殖を刺激するウイルス不活化HPGF混合物の能力も、ヒト胎児腎繊維芽細胞(HEK293A;Invitrogen Corporation,Carlsbad,California,USA)及びStatens Seruminstitute ウサギ角膜繊維芽細胞(SIRC)(ATCC CCL−60,Bioresource Collection and Research Center、シンシュー、台湾)を用いて評価された。細胞株を37℃、5パーセントCO
2含有の制御された雰囲気下で維持した。平底の96穴プレート(Greiner bio−one,東京、日本)を用い、10%FBS、0.1mM非必須アミノ酸及び1mMピルビン酸ナトリウムを添加したダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM)中、ウェル当たり2x10
3細胞の密度で培養した。
【0179】
細胞を18時間接着させ、それから無血清培地で6時間培養した。細胞を無血清培地で2回洗浄した後、10%FBS(Gibco,Invitrogen)、活性化血小板放出物、又はHPGF(S/D処理、オイル抽出及び疎水性クロマトグラフィ処理をしたPCから調製)を添加したD−MEM培地(Gibco,Invitrogen)で最長5日間培養した。細胞毒性の可能性を検出するため、及びFBS非存在下での細胞増殖促進の最適濃度を見つけるために、様々な濃度のHPGF画分を用いて細胞培養を行った。Promega Corporation(Madison,Wisconsin,USA)のMTSテトラゾリウム化合物を用い、メーカーの使用説明書に従って細胞増殖を測定した。
【0180】
HEK293A細胞から得られたMTSアッセイの結果を
図16に示す。細胞を10%(v/v)FBSを添加したD−MEM中で培養すると、高い生存率を示した。FBS非存在下(B)では、細胞増殖は見られなかった。tC18、C18、又はSDRでそれぞれ処理した後の活性化PC及びHPGF混合物の10%(v/v)存在下で培養すると、高い細胞生存率を示した。これは細胞増殖作用を有し且つ無毒性であることを示唆する。
図16は、HPGF濃度を3 から20%に増加すると、MTSは濃度依存性に改善することを示す。SIRC細胞から得たMTSデータを
図16に示す。HPGFはSIRCの増殖を刺激した。面白いことに、テストしたHPGFの全濃度(最大20%)で、細胞は増殖したが、10%FBSに匹敵する最適濃度は0.1から0.5%HPGFであることがわかった。
【0181】
HPGFは細胞増殖を強化し細胞生存率を維持する。D−MEM培地中の10%(v/v)HPGFはヒトHEK293A繊維芽細胞株の増殖を刺激する。細胞増殖作用は、10%活性化PC放出物又は10%FBSを用いた場合と同じであった。これにより、HPGFの生理活性はウイルス不活化及びS/D除去処理の間に変化しないこと、そして最終調製物は細胞毒性がないこと示された。MTS値は3%から20%(v/v)のHPGF濃度と共に増加した。HPGFはFBSに相当するような方法で、ウサギSIRC細胞株の増殖も強化した。面白いことに、5日目の最も効果的なHPGF濃度は0.3から0.5%のような低濃度であった。HPGFは毒性を示さないことは正常な細胞増殖及び形態から明らかであった。更に、このアッセイで、血小板放出物含有濃縮成長培地はFBSに比べて、細胞増殖の強化及び細胞生存率の維持、及び生体外でのヒトMSCの増殖を可能にし、それらの骨形成、軟骨形成及び脂質生成分化能を増強し、コンフルエントに達する時間を短縮し、colony−forming unit−fibroblastのサイズを増加することが裏付けられる。
【0182】
これらの結果はまた、本発明又は本発明の治療における方法によって得られた成長因子濃縮物、及び改善された細胞培養培を調製するための、重要な可能性を確認するものである。実際、本発明の成長因子濃縮物は、毒性を生じることなしに血小板放出物の細胞増殖刺激活性を維持する。従って、細胞療法及び再生医療において、FBS及び活性化血小板放出物の代替候補として考慮することができる。
【0183】
II.6-フィブリノーゲン枯渇GF濃縮物の調製
a.GF混合物の調製
PC(約300ml)を採取後24時間以内に処理した。最初に、1%トリ−n−ブチルホスフェート(TnBP;Merck KGaA,Darmstadt,Germany)及び1%Triton X−45(Sigma,Missouri,USA)(総量=6mL)の組み合わせを用いて、イン−バッグ(in−bag)で溶媒/界面活性剤(S/D)処理を行った。S/D−PC混合物を完全に混合するために1分間激しく振盪し、それから一定の緩やかな撹拌条件下で、31℃の水槽に少なくとも1時間浸漬した。S/D処理終了、S/D−PC混合物を30mL(10%v/vに相当)の大豆オイル(Sigma,Missouri,USA)で1回抽出した。オイル添加後、バッグを1分間激しく振盪し、それから20分間回転シェーカー上に置いた。混合物を30分間デカンテーションし、PCフェーズからオイルフェーズを分離した。PC(下層;約280ml)が重力により回収された。オイル抽出終了時、S/D−PCを10,500rpm(10,400 x g)で15分間、室温(20〜25℃)で遠心分離した。
【0184】
30mlの上清をオクタデシル(C18;batch WAT020594,ドライパウダー;125Å ポロシティ;55〜105μmの顆粒サイズ)充填剤を用いて、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)カラムにより無希釈で処理した。クロマトグラフの材料をカラムに充填し、5体積の1M塩化ナトリウムと20%エタノールで洗浄し、20mMクエン酸バッファ5体積、pH7.4で平衡化した。SD−PCをHIC吸着剤ml当たり7mlの割合及び22.6cm/hrの線速度で注入した。280nmでの吸収が増加し、そしてその吸収がベースラインに戻るとすぐに、C18流出液(C18−GF)を回収した。用いた実験条件下で、カラム通過画分の体積は60〜80mLであり、注入されたSD−PC体積に比べて2から3倍の希釈係数に相当した。
【0185】
研究過程で、他の2つのHIC吸着剤も上記と同様な実験条件下で評価した:tC18吸着剤(batch WAT036810;ドライパウダー;125Åポロシティ;36.1〜54.2μmの顆粒サイズ;Waters Corporation)及びSDR HyperD 吸着剤(batch 20033−0223,40〜100μm顆粒サイズ;Pall−BioSepra, Cergy Saint Christophe,France).
【0186】
b.トロンビン活性化によるフィブリノーゲンの除去
フィブリノーゲン(及び他の凝固因子)は、(a)0.3mlの1M CaCl
2(最終濃度23mM)及びガラスビーズ(内因性ヒトトロンビン生成のため)又は(b)最終濃度約50IU/mlとするための1000IUウシトロンビンのどちらかを添加することにより、C18クロマトグラフィ後に得られた成長因子混合物10mlの活性化によって除去された。フィブリン塊ができるまで混合物を緩やかな回転混合(60rpm)下においた。上清を回収し、分注し、そして測定した。
【0187】
c.フィブリノーゲンの測定
【0188】
【表5】
【0189】
このデータにより、フィブリノーゲンはCaCl
2又は外来性トロンビンを用いて活性化した後、完全に除去されることが示される。
【0190】
d.成長因子の測定
【0191】
【表6】
【0192】
成長因子はフィブリノーゲン除去後、尚上清に存在することがデータから示される。
従って、フィブリノーゲンが(上記方法により)除去されたウイルス不活化成長因子混合物は細胞培養、特に幹細胞培養の添加剤として、使用できる可能性がある。
【0193】
II.7−ウイルス不活化
更に、ここで使用されたS/D処理条件は血液感染性エンベロープウイルス、特にHIV、HBV及びHCVの不活化に効果的であるという証拠が多数ある。
【0194】
上記材料及び方法で述べたように、31℃での1%TnBP−1%Triton X−45の組み合わせは5分以内の処理において、HIV、BVDV及びPRVに対して減少係数、>5.6、>6.6、及び>6.4log
10を保証し、そして
>7.0log
10で急速にVSV及びSindbisモデルウイルスを不活化する。HAV及びパルボウイルスB19のような非エンベロープウイルスはS/D処理で不活化されないかもしれないが、それらは免疫機能の変化した数名患者にのみ病原性を示す。単一ドナーの同種異系の血小板由来成長因子調製品ではプールしていない場合、統計学上、汚染リスクが極めて減少するだろう。しかし、更に非エンベロープウイルスによる汚染リスクを減少するために、ナノ濾過を実行してもよい。
【0195】
明らかに、ここに記載されたように、血小板由来成長因子は将来、適正製造基準、医薬品製造管理および品質管理基準(GMP)の条件下、例えば血液施設(ヒト由来血漿分画製剤のウイルス安全性の確保のためのウイルス不活化及び除去処理工程に係るガイドラインwww.WHO.int.Geneva,2003:1−72)によって製造しなければならだろう。このような血小板製剤のS/D処理は、局所適用として実用面で利点を多数提供することができる。第一に、同種異系での提供におけるウイルスに関する安全性が改善され、このような製剤の臨床的可能性がより広がるだろう。第二に、S/D処理により放出される、より高力価の血小板由来成長因子は血小板放出物を用いる方法の費用対効果の改善が可能になるだろう。第三に、組み換え血小板由来成長因子の使用が承認されないような適用において、又は、天然の血小板由来成長因子の組み合わせが有効な相乗的結果をもたらす可能性がある時、もし承認されれば(数種の下肢の糖尿病性潰瘍の治療に関し)、このウイルス不活化方法により、同種異系の血小板由来成長因子が簡便に使用することができるだろう。最後に、十分に特徴づけられたウイルス不活化血小板由来成長因子は、ウシ胎仔血清又は細胞工学研究のための組み換え血小板由来成長因子の代替物として、治癒過程を促進するので局所に適用するフィブリンベースの足場か又は人工の足場に組み込むんで使用可能であり、又は生体外での間葉幹細胞の増殖、及びそれらの骨細胞、又は軟骨細胞への分化のためにも使用可能であろう。
【0196】
III.成長因子の分離:SDの除去及び成長因子画分の分離のためのイオン交換クロマトグラフィ実験
1.適切なクロマトグラフ支持体の選択及び各種成長因子の結合能力決定のためのバッチ吸着工程の予備試験
a. A PDGF−ABの吸着テスト
先に記載したように、SD−PCを得た。TnBP及びTriton X−45の量を減少するため、1回のオイル抽出が行われた。5mlのSP−セファロースFFゲル、CM−セファロースFF、DEAE−セファロースFFをカラム中で洗浄し、ゲルを20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファで、pH7.5で平衡化した(流出液のpHと伝導度は出発バッファと同じ)。ゲルをカラムから出してビーカーの中に回収した。希釈NaOHで、SD−PCのpHを7.5に調製した。各ゲルの1gを別々のチューブに入れて余剰バッファを除いた。様々な量のSD−PCを各種のゲルに加えた。チューブを低速で30分間回転させ、約5〜10分間ゲルを沈殿させた。可能な限り多くの上清を回収し、成長因子含有量を測定するためにサンプルを採取した。
【0197】
出発SD−PCは280ng/mlのPDGF−ABを含んでいた。カチオン交換ゲルであるSP−セファロースFF及びCM−セファロースFFのゲル1ml当たり3から10mlのSD−PCの割合で使用した時、PDGF−ABの最大吸着を得た。ゲル1gに対してSD−PC10mlの割合で、SP−セファロースFFと接触させた後、上清中に少量のPDGF−ABしか存在しないということから明らかなように、SP−セファロースFFを用いると特に高い吸着が得られた。反対に、DEAE−セファロースFF(約250ng/g)でSD−PCを吸着した後に得られた上清には、多量のPDGF−ABが存在した。これらのデータは
図7に示す。
【0198】
b.VEGFの吸着テスト
先に記載したように、SD−PCを得た。TnBP及びTriton X−45の量を減少するため、1回のオイル抽出が行われた。5mlのSP−セファロースFFゲル、CM−セファロースFF、DEAE−セファロースFFをカラム中で洗浄し、ゲルを20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファで、pH7.5で平衡化した(流出液のpHと伝導度は出発バッファと同じ)。ゲルをカラムから出してビーカーの中に回収した。希釈NaOHで、SD−PCのpHを7.5に調整した。各ゲルの1gを別々のチューブに入れて余剰バッファを除いた。様々な量のSD−PCを各種のゲルに加えた。チューブを低速で30分間回転させ、約5〜10分間ゲルを沈殿させた。可能な限り多くの上清を回収し、成長因子含有量を測定するためにサンプルを採取した。
【0199】
図8に、ゲルに対するSD−PCの割合に基づいた各種レジンにおけるVEGFの吸着%を示す。VEGFは本質的に吸着されなかったので、アニオン交換体DEAE−セファロースFFを特にゲル1gにたいして10mlのSD−PCの割合で使用すると、VEGFの吸着が限定されることがデータにより示される。反対に、VEGFは高い割合(約60%)でSP−セファロースFF及びCM−セファロースFFにより吸着された。
【0200】
c. TGF−β1の吸着テスト
先に記載したように、SD−PCを得た。TnBP及びTriton X−45の量を減少するため、1回のオイル抽出が行われた。5mlのSP−セファロースFFゲル、CM−セファロースFF、DEAE−セファロースFFをカラム中で洗浄し、ゲルを20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファで、pH7.5で平衡化した(流出液のpHと伝導度は出発バッファと同じ)。ゲルをカラムから出してビーカーの中に回収した。希釈NaOHで、SD−PCのpHを7.5に調整した。各ゲルの1gを別々のチューブに入れて余剰バッファを除いた。様々な量のSD−PCを各種のゲルに加えた。チューブを低速で30分間回転させ、約5〜10分間ゲルを沈殿させた。可能な限り多くの上清を回収し、成長因子含有量を測定するためにサンプルを採取した。
【0201】
図9はゲルに対するSD−PCの割合に基づいた各種レジンにおけるTGF−β1の吸着%を示す。アニオン交換体DEAE−セファロースFFのゲル1ml当たり3mlのSD−PCの割合で使用すると、70%を超えるTGF−β1が吸着され、最大吸着を得た。反対に、少量(約20%又はそれ以下)のTGF−β1がCM−セファロースFF及びSP−セファロースFFに吸着された。
【0202】
d.EGFの吸着テスト
先に記載したように、SD−PCを得た。TnBP及びTriton X−45の量を減少するため、1回のオイル抽出が行われた。5mlのSP−セファロースFFゲル、CM−セファロースFF、DEAE−セファロースFFをカラム中で洗浄し、ゲルを20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファで、pH7.5で平衡化した(流出液のpHと伝導度は出発バッファと同じ)した。ゲルをカラムから出してビーカーの中に回収した。希釈NaOHで、SD−PCのpHを7.5に調整した。各ゲルの1gを別々のチューブに入れて余剰バッファを除いた。様々な量のSD−PCを各種のゲルに加えた。チューブを低速で30分間回転させ、約5〜10分間ゲルを沈殿させた。可能な限り多くの上清を回収し、成長因子含有量を測定するためにサンプルを採取した。
【0203】
図10はゲルに対するSD−PCの割合に基づいた各種レジンにおけるEGFの吸着%を示す。アニオン交換体DEAE−セファロースFFのゲルのg当たり3mlのSD−PCの割合で使用すると、70%を超えるEGFが吸着され、最大吸着を得た。反対に、少量(15から30%)がSP−セファロースFFに吸着され、CM−セファロースFFを用いると更に少量(5から20%)が吸着された。
【0204】
e.結論
カチオン交換SP−セファロースFF及びCM−セファロースFFは、PDGF−AB及びVEGFの吸着に適合することが分かった。一方、DEAE−セファロースFFはTGF−β1及びEGFの吸着に対して満足な結果が得られた。
【0205】
2.SP−セファロース FFカラムクロマトグラフィ実験
イオン交換体を使用したときSDが除去されているかどうかを確認するため、更に以下の実験を行った。
【0206】
a.SD−PCの調製
この実験では、SD−PCに対し1回のオイル抽出が行われた。使用されたSP−セファロース FFの量は、バッチ吸着実験で測定されたように、1回のオイル抽出が行われたSP−PCの100mlに対して10ml(約10g)だった。
【0207】
b.カラムの平衡化
SP−セファロースFFをカラム(GE Healthcare)に充填した。カラムに充填後、SP−セファロースFFを20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファで、pH7.5で平衡化した。流出液のpHと伝導度が平衡バッファと同じになるまで、平衡バッファを50cm/hrの線速度でカラムに流した。280nmでの流出液の吸収が記録された。
【0208】
c.SD−PC注入とカラム通過液の収集
希釈NaOHでSD−PCのpHを7.5に調節し、それから50cm/hrの線速度でカラムに注入した。A280nmが増加し始めたらすぐに流出液を収集した。
【0209】
d.ベースラインへの戻りと成長因子溶出
全SD−PCを注入し、A280nmが初期のベースラインに戻るまで、カラムを平衡バッファで洗浄した。その後、SP−セファロースFFを20mMクエン酸ナトリウム、1M NaClバッファで、pH7.5及び50cm/hrで平衡化した。A280nmが増加し始め、ベースラインA280nmのレベルへ戻ると、すぐに溶出液を収集した。
【0210】
e.カラム再生と保存
カラムはその後、2M塩化ナトリウムの2カラム体積、続いて0.5N NaOHの2カラム体積で再生された。
【0211】
f.結果
表6はカラム溶出液中の成長因子含有量を、表7は溶媒及び界面活性剤含有量を示す。
【0212】
【表7】
【0213】
表6は、SP−溶出液はPDGF−AB及びPDGF−BBが濃縮され、PDGF−AA及びVEGFの両方を分離可能なことを示す。一方、TnBP及びTriton X−45カラム通過(流出)画分で見られた(表7参照)。1M PDGF−AB/VEGF溶出液では、これらウイルス不活性化剤の混入は検出できなかった。
【0214】
【表8】
【0215】
3.DEAE−セファロースFFカラムクロマトグラフィ実験
a.SD−PCの調製
PC(約300ml)を採取後24時間以内に処理した。最初に、1%トリ−n−ブチルホスフェート(TnBP;Merck KGaA, Darmstadt, Germany)及び1%Triton X−45(Sigma,Missouri,USA)(総量=6mL)の組み合わせを用いて、イン−バッグ(in−bag)で溶媒/界面活性剤(S/D)処理を行った。S/D−PC混合物を完全に混合するために1分間激しく振盪し、それから一定の緩やかな撹拌条件下で、31℃の水槽に少なくとも1時間浸漬した。S/D処理終了、S/D−PC混合物を30mL(10%v/vに相当)の大豆オイル(Sigma,Missouri,USA)で1回抽出した。オイル添加後、バッグを1分間激しく振盪し、それから20分間回転シェーカー上に置いた。混合物を30分間デカンテーションし、PCフェーズからオイルフェーズ分離した。PC(下層;約280ml)が重力により回収された。オイル抽出終了時、S/D−PCを10,500rpm(10,600xg)で15分間、室温(20〜25℃)で遠心分離した。
【0216】
b.Hi−Trap(商標)DEAE−セファロースFF
20mLの上清を充填済みですぐに使用できる(直ちに使用できるように予備包装されている)カラムを用いアニオン交換クロマトグラフィによる希釈を行わずに処理した。Hi−Trap(商標)DEAE−セファロースFFの使用量は、20mlのSD−PCサンプルに対して5mlであった。カラムを5体積の20mMクエン酸ナトリウム、0.05M NaClバッファ、pH7.5で平衡化した。SD−PC(20mL)が流速50cm/hrで注入され、続いて平衡バッファが注入された。280nmでの吸収が増加し、そしてそれがベースラインへ戻るとすぐに、カラム通過画分(DEAE−BKT)を回収した。カラム通過画分の体積は49.7mLであった。それから更に5体積の平衡バッファでカラムを洗浄して完全にSDをカラム通過画分中へ洗い流した。カラムはそれから20mMクエン酸ナトリウム、1M NaClバッファ、pH7.5、線速度50cm/hrで溶出された。280nmでの吸収が増加し、そしてそれがベースラインへ戻るとすぐに、この溶出液を収集した(体積:10mL)。
【0217】
図12及び13は調製工程中にng/ml及び総ngで表示されたEGF含有量を示す。対応する溶出液は280nmでの吸収が増加し、そしてそれがベースラインへ戻るとすぐに、収集された。収集された体積は17.9mLであった。カラム通過画分及び溶出液のSD剤及び成長因子が測定された(表8参照)。
【0218】
【表9】
【0219】
データはDEAEクロマトグラフィの工程により、1回のオイル抽出後にSD−PC中に存在したS/D剤が除去されたことを示す。S/D剤をカラム通過画分及び1M NaCl溶出液中で収集したが、検出不可能な量であることがわかった。
【0220】
c.成長因子VEGF及びPDGF−AB含有量
カラム通過画分及び溶出液中の成長因子VEGF及びPDGF−ABの含有量について解析した。
図14及び15は総ngで表示された成長因子の含有量を示す。PDGF−AB及びVEGFはDEAE−セファロースマトリックスに結合せず、カラム通過画分中に存在した(この適用での文脈では、用語ゲルとマトリックスは同じ意味である)。反対に、EGFはゲルに吸着され、カラムからSD剤が存在せずに溶出された。
【0221】
上記のアニオン性及び/又はカチオン性クロマトグラフによる処理は、上記に例示したように、オイル抽出されたSD−PCで行うことができるが、オイル抽出を伴わないSD−PCに直接応用することもできる。TnBP及びTriton X−45の混入量が減るので、カラム洗浄に必要なバッファ体積が減り、ベースラインへの戻りがより早くなるので、オイル抽出を行うことが好ましい。オイル抽出は、クロマトグラフ材料の目詰まりとそれによる分離技術の効率低下を招きやすい脂質量も減少する。しかし、オイル抽出は除外されてもよい。
【0222】
上記のアニオン性及び/又はカチオン性クロマトグラフによる処理は、従ってS/D処理後直接行ってもよいが、オイル抽出後、又はS/D処理後又はオイル抽出後に使用されるなら、疎水性カラムの通過画分で行われることが好ましい。