(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770537
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】インサート成形用金型及びカラーのインサート成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/12 20060101AFI20150806BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20150806BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C45/26
B29C45/14
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-124217(P2011-124217)
(22)【出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2012-250419(P2012-250419A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(72)【発明者】
【氏名】石川 義紀
(72)【発明者】
【氏名】小野田 伸也
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−042651(JP,A)
【文献】
実開平02−082510(JP,U)
【文献】
実開平02−065527(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/12
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト挿入穴の内周面にカラーがインサート成形される樹脂製品を成形する一対の金型と、前記カラーに挿入される入れ子とを備えてなり、
一方の前記金型には、前記入れ子が摺動可能に挿入される入れ子挿入穴が形成され、他方の前記金型には、前記カラーを包囲するキャビティが形成され、
前記入れ子は、前記カラーの内法断面形状に対応する断面形状の上部と、前記カラーの外法断面形状に対応する断面形状の底部とを備え、前記他方の金型に向けて弾発付勢されてなり、前記底部の上面から突出する前記上部の高さは、一対の前記金型が閉じられたときに、前記カラーが前記他方の金型に当接する高さに設定されてなるインサート成形用金型。
【請求項2】
請求項1に記載のインサート成形用金型において、
前記入れ子は、前記入れ子挿入穴に挿入されるばね部材によって弾発付勢されてなることを特徴とするインサート成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインサート成形用金型を用いたカラーのインサート成形方法であって、
前記一方の金型の前記入れ子挿入穴に前記入れ子を挿入し、前記入れ子の上部に前記カラーを装着し、前記入れ子を前記他方の金型に向けて弾発付勢した状態で前記他方の金型を前記一方の金型に押圧し、前記キャビティ内に溶融樹脂を注入して成形するカラーのインサート成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形用金型及びカラーのインサート成形方法に係り、特に、ボルト挿入穴の内周面にカラーがインサート成形された樹脂製品を成形する際に用いられる金型及びその金型を用いたカラーのインサート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品を取付対象物に固定する場合、樹脂製品のボルト挿入穴にボルトのねじ部を挿入し、そのネジ部を取付対象物のねじ穴に螺合して樹脂製品を取付対象物に固定することが知られている。このような場合、樹脂製品のボルト挿入穴がボルトの締付力で破損することを防止するため、ボルト挿入穴の内周面に中空円筒状の金属製のカラーをインサート成形することが提案されている(例えば、特許文献1)。このカラーにボルトのネジ部を挿入してボルトを締め付けることで、ボルトの頭部の底面がカラーに当接してボルトの締付力をカラーで受けることができるから、樹脂製品の破損を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10ー318220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように、ボルト挿入穴の内周面にカラーがインサート成形された樹脂製品を成形する場合、一対の金型によって形成したキャビティ内にカラーを位置決めし、キャビティ内に溶融樹脂を注入して溶融樹脂でカラーを包み込んで樹脂を固化させて成形する。この際、同じ樹脂製品に対して高さが異なるカラーを用いることがあり、カラーの高さに合わせて金型を交換することは、作業効率、コストからして好ましくない。
【0005】
一方、カラー及び金型の製造公差を考えると、カラーの高さを金型間の寸法に合わせることは困難であり、例えば、樹脂製品の厚さ方向における金型寸法よりカラーの高さが小さいと、樹脂製品の中にカラーが埋もれることになり、ボルトの締付力をカラーで受けることができず、樹脂製品が破損するおそれがある。他方、樹脂製品の厚さ方向における金型寸法よりカラーの高さが大きいと、インサート成形する際に一対の金型によってカラーが強圧され、金型やカラーが破損するおそれがある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、カラーのインサート成形に用いる金型において、高さの異なるカラーに対応可能で、かつ、製造公差を吸収可能な金型を実現し、カラーをインサート成形することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のインサート成形用金型は、ボルト挿入穴の内周面にカラーがインサート成形される樹脂製品を成形する一対の金型と、カラーに挿入される入れ子とを備えてなり、一方の金型には、入れ子が摺動可能に挿入される入れ子挿入穴が形成され、他方の金型には、カラーを包囲するキャビティが形成され、入れ子は、カラーの内法断面形状に対応する断面形状の上部と、カラーの外法断面形状に対応する断面形状の底部とを備え、他方の金型に向けて弾発付勢されてな
り、底部の上面から突出する上部の高さは、一対の金型が閉じられたときに、カラーが他方の金型に当接する高さに設定されてなることを特徴とする。
【0008】
これによれば、カラーのインサート成形を行う場合、一方の金型の摺動可能に弾発付勢された入れ子をカラーに挿入し、他方の金型を型締めすることでキャビティ内にカラーが位置決めされる。この際、カラーと金型との間には、弾発付勢力しか加わらないから、カラーや金型の破損を防止できる。例えば、樹脂製品のボルト挿入穴の長さよりもカラーを高く(長く)形成してもカラーや金型の破損を抑制できるから、樹脂製品からカラーを突出させてボルトに当接させることができ、ボルトの締付力をカラーで確実に受けることができる。また、弾発付勢力によってカラーを位置決めしているから、製造公差等によるカラーの高さ違いを吸収できる。なお、入れ子に加える弾発付勢力は、キャビティ内に注入された溶融樹脂の注入圧力によって入れ子が後退しない大きさに設定する。また、弾発付勢力が大き過ぎるとカラーや金型が破損するから、弾発付勢力は、カラーや金型が破損しない大きさに設定する。
【0009】
この場合において、入れ子挿入穴にばね部材を挿入して入れ子を弾発付勢することができる。
【0010】
一方、本発明のインサート成形用金型を用いてカラーを成形する場合は、一方の金型の入れ子挿入穴に入れ子を挿入し、入れ子の上部にカラーを装着し、入れ子を他方の金型に向けて弾発付勢した状態で他方の金型を一方の金型に押圧し、キャビティ内に溶融樹脂を注入して成形することで、カラーをインサート成形できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カラーのインサート成形に用いる金型において、高さの異なるカラーに対応可能で、かつ、製造公差を吸収可能な金型を実現でき、カラーをインサート成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のインサート成形用金型とその金型で成形された樹脂製品の斜視図である。
【
図2】(a)は型締めして樹脂を注入した金型を
図1の線Q−Qの位置で切断した断面図であり、(b)はカラーの高さを示す図である。
【
図3】(a)は
図1の樹脂製品を可動側の金型から見た斜視図であり、(b)は
図1の樹脂製品を固定側の金型から見た斜視図であり、(c)はカラーの拡大図である。
【
図4】(a)はカラーと入れ子の斜視図であり、(b)はカラーに入れ子を挿入した状態の斜視図である。
【
図5】(a)はカラーと入れ子の斜視図であり、(b)はカラーに入れ子を挿入した状態の斜視図である。
【
図6】カラーに入れ子を挿入した状態の固定側の金型の斜視図である。
【
図7】(a)は
図2の断面図において高さが小さいカラーを用いた場合の断面図であり、(b)はカラーの高さを示す図である。
【
図8】(a)は
図2の断面図において高さが大きいカラーを用いた場合の断面図であり、(b)はカラーの高さを示す図である。
【
図9】(a)は
図2の断面図において本発明に反して入れ子を金型に固定した場合の断面図であり、(b)はカラーの高さを示す図である。
【
図10】(a)は
図2の断面図において本発明に反して入れ子を金型に固定した場合の断面図であり、(b)はカラーの高さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
図1〜6に示すとおり、本実施形態のインサート成形用金型は、樹脂製品1を成形する一対の金型3、5を備えている。樹脂製品1には、取付対象物に樹脂製品1を固定する際、ボルトが挿入されるボルト挿入穴7、9が設けられている。ボルト挿入穴7は円形に形成され、ボルト挿入穴9は楕円形に形成されている。ボルト挿入穴7、9の内周面には、金属製のカラー11、13がインサート成形されている。各カラー11、13は、ボルト挿入穴7、9の内法断面形状に合わせて形成されている。つまり、円形のボルト挿入穴7にインサート成形されるカラー11は中空の円筒形に形成され、楕円形のボルト挿入穴9にインサート成形されるカラー13は中空の楕円筒形に形成されている。カラー11の外周面には、複数の凹凸が交互に形成された凹凸部12が形成されている。カラー13の外周面には、複数の凸部14が形成されている。凹凸部12と凸部14の形状に沿って樹脂を固めることで、樹脂製品1からカラー11、13が脱落しないようになっている。
【0014】
一対の金型3、5は、固定側となる金型3と可動側となる金型5によって構成され、図示していない成形機によって設定された型締め力で型締めされるようになっている。金型3、5には、それぞれ溶融樹脂が注入されるキャビティ4、6が形成され、固定された金型3に、対向配置された金型5を押圧して樹脂製品1の形に対応するキャビティを形成するようになっている。金型3、5のいずれか一方には、キャビティ4、6内に溶融樹脂を注入する図示していないゲートが設けられている。
【0015】
固定側の金型3には、入れ子15、17がそれぞれ摺動可能に挿入される挿入穴19、21が形成されている。各入れ子15、17には、カラー11、13にそれぞれ挿入される上部23、25と、上部23、35に連接され挿入されたカラー11、13を受ける底部27、29が形成されている。入れ子15の上部23は、中空円筒形のカラー11の内法断面形状に対応する円柱状に形成され、底部27は、中空円筒形のカラー11の外法断面形状に対応する円盤状に形成されている。入れ子17の上部25は、中空楕円筒形のカラー13の内法断面形状に対応する楕円柱状に形成され、底部29は、中空楕円筒形のカラー13の外法断面形状に対応する楕円盤状に形成されている。挿入穴19は、内周面が入れ子15の底部27の外周面に摺接する寸法に形成されている。挿入穴21は、内周面が入れ子17の底部29の外周面と摺接する寸法に形成されている。
【0016】
各挿入穴19、21は、各入れ子15、17を金型5に向けて弾発付勢するばね部材31、33を挿入可能になっている。各ばね部材31、33は、図示していない駆動装置に支持され、各挿入穴19、21内を進退するようになっている。各ばね部材31、33の一端は駆動装置に支持され、他端は各入れ子15、17の底部27、29に連接又は当接されるようになっている。本実施形態は、挿入穴19に挿入されるばね部材31は、一端が駆動装置に連接され、他端が入れ子15の底部27に連接されている。一方、挿入穴21に挿入されるばね部材33には、駆動装置に立設されたロッド35が挿入され、ばね部材33の一端が駆動装置に当接し、他端が入れ子17の底部29に当接するようになっている。これにより、駆動装置によって各ばね部材31、33を各挿入穴19、21に押し込むことで、各入れ子15、17を金型5に向かって弾発付勢する。なお、ばね部材31を、ばね部材33と同様に駆動装置にロッド35で支持することができる。また、ばね部材33を、ばね部材31と同様にロッド35を設けず、駆動装置に連設して支持することができる。また、ロッド35の先端にばね部材33を介して入れ子17を連設することができる。要は、ばね部材31、33によって、入れ子15、17を金型5に向けて弾発付勢可能な構成を適宜選択できる。
【0017】
このように構成される本実施形態のインサート成形用金型の作用を、樹脂製品1の成形方法に沿って説明する。金型3の各挿入穴19、21にそれぞれ入れ子15、17を挿入し、各入れ子の底部27、29に当接するように各挿入穴19、21に各ばね部材31、33を挿入する。この際、各入れ子15、17の各上部23、25が各挿入穴19、21から突出するように各ばね部材31、33によって弾発付勢する。この突出した各上部23、25を各カラー11、13の中空に挿入し、各カラー11、13の一端面を各底部27、29の上面に当接させる。これにより、各入れ子15、17の各上部23、25に各カラー11、13が装着される。この状態で、成形機によって金型3と金型5を設定した型締め力で閉じることで、各カラー11、13を包囲する樹脂製品1のキャビティが形成される。この際、各ばね部材31、33によって各カラー11、13が弾発付勢され、各カラー11、13の他端面が金型5に当接して位置決めされキャビティ4、6内に各カラー11、13が保持される。
【0018】
ここで、各カラー11、13の高さが樹脂製品1の厚さXmmに等しい場合、各入れ子15、17の底部27、29の上面から金型5までの寸法(樹脂製品1の厚さ方向の寸法)は、樹脂製品1の厚さXmmに一致する。一方、
図7に示すとおり、各カラー11、13の高さYmmが樹脂製品1の厚さXmmよりαだけ小さい場合、各入れ子15、17の底部27、29の上面から金型5までの寸法は、各カラー11、13の高さYmmに一致する。他方、
図8に示すとおり、各カラー11、13の高さZmmが樹脂製品1の厚さXmmよりαだけ大きい場合、各入れ子15、17の底部27、29の上面から金型5までの寸法は、各カラー11、13の高さZmmに一致する。すなわち、本実施形態のインサート成形用金型は、摺動可能に弾発付勢された各入れ子15、17によって各カラー11、13を位置決めするから、各カラー11、13の位置における樹脂製品1の厚さ方向の金型寸法を、各カラー11、13の高さに一致させることができる。
【0019】
このように、可動側の金型5を固定側の金型3に押圧した後、図示していないゲートからキャビティ4、6内に溶融樹脂を注入する。これにより、溶融樹脂が各カラー11、13の外周面を覆って固まることで、各カラー11、13がインサート成形されたボルト挿入穴7、9が成形される。この際、カラー11の外周面の凹凸部12に溶融樹脂が入り込んで固まるから、ボルト挿入穴7からカラー11が脱離することを抑制できる。また、カラー13の外周面の凸部14を溶融樹脂が包んで固まるから、ボルト挿入穴9からカラー13が脱離することを抑制できる。
【0020】
本実施形態によれば、インサート成形する際、各カラー11、13は、各ばね部材31、33の弾発力によって金型5と入れ子15、17に挟まれて位置決めされる。すなわち、各カラー11、13には、型締め力よりも小さな弾発力しか加わらないから、金型3、5を型締めすることによる各カラー11、13の破損を防止できる。これにより、樹脂製品1の厚さよりも高さが大きいカラー11、13を用いることができ、樹脂製品1の表面にカラー11、13を確実に露出できるから、樹脂製品1を取付対象物に取り付ける際のボルトの締結力を各カラー11、13で受けることができる。
【0021】
また、カラー11、13の高さに応じてばね部材31、33が伸縮してカラー11、13を位置決めできるから、製造誤差による高さにばらつきがあるカラーを用いることができる。
【0022】
これに反して、
図9、10に示すとおり、金型3に形成した凸部51、53で各カラー11、13を位置決めすると、高さの異なるカラー11、13を用いることができない。例えば、
図9に示すとおり、各カラー11、13の高さYmmが樹脂製品1の厚さXmmよりαだけ小さい場合、樹脂製品1の厚さ方向の金型寸法よりも各カラー11、13の高さが小さくなるから、各カラー11、13が樹脂で覆われることになり、ボルトの締結力を各カラー11、13で受けることができない。また、
図10に示すとおり、各カラー11、13の高さZmmが樹脂製品1の厚さXmmよりαだけ大きい場合、樹脂製品1の厚さ方向の金型寸法よりも各カラー11、13の高さが大きくなり、各カラー11、13が型締め力によって金型3、5に強圧されるから、金型3、5や各カラー11、13が破損するおそれがある。
【0023】
なお、本実施形態のように、摺動可能に弾発付勢した入れ子15、17にカラー11、13を保持させると、キャビティ4、6内に注入された溶融樹脂の注入圧力によって入れ子15、17が金型5から離れる方向に後退するおそれがある。そのため、溶融樹脂の注入圧力よりも大きな弾発付勢力のばね部材を用いることができる。一方、弾発付勢力が大き過ぎると金型3、5やカラー11、13が破損するから、金型3、5やカラー11、13が破損しない程度の弾発付勢力のばね部材を用いる。
【符号の説明】
【0024】
1 樹脂製品
3、5 金型
4、6 キャビティ
7、9 ボルト挿入穴
11、13 カラー
15、17 入れ子
19、21 挿入穴
23、25 上部
27、29 底部
31、33 ばね部材