特許第5770549号(P5770549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770549
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/20 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   B25D17/20
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-147762(P2011-147762)
(22)【出願日】2011年7月1日
(65)【公開番号】特開2013-13960(P2013-13960A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年1月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(72)【発明者】
【氏名】小野田 真司
(72)【発明者】
【氏名】飯田 斉
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−175592(JP,A)
【文献】 特開2010−173042(JP,A)
【文献】 特開2008−173716(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0253162(US,A1)
【文献】 特開2011−104671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ビットを少なくともその長軸方向に往復移動させて被加工材に加工を行う打撃工具であって、
回転軸を有するとともに、当該回転軸の回転出力を介して前記工具ビットを駆動させる直流ブラシレスモータと、
前記直流ブラシレスモータを駆動するためのバッテリと、
前記バッテリから前記直流ブラシレスモータに電流を供給する駆動電流供給装置と、
前記駆動電流供給装置を制御するコントローラと、
前記回転軸の駆動によって回転する冷却ファンと、を有し、
前記直流ブラシレスモータと前記コントローラと前記駆動電流供給装置は、互いに隣接配置され、前記冷却ファンが発生させる冷却風によって冷却されるように構成されており、
前記駆動電流供給装置は、スイッチング素子で構成されており、
前記駆動電流供給装置と前記コントローラは、前記冷却風に関し、前記直流ブラシレスモータよりも上流側に配置されており、
前記直流ブラシレスモータと前記駆動電流供給装置と前記コントローラを収容するハウジングを有しており、
前記ハウジングは、前記冷却風の空気取り込み部を有するとともに、当該空気取り込み部が、前記直流ブラシレスモータと前記スイッチング素子との間に設けられていることを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記冷却ファンは、前記回転軸に取り付けられており、
前記回転軸の軸線方向から見て、前記駆動電流供給装置と前記コントローラの少なくとも一方は、前記直流ブラシレスモータと重なる位置に配置されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項3】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記駆動電流制御装置と前記コントローラは、前記回転軸の軸線上に配置されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項4】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記駆動電流供給装置と前記コントローラの少なくとも一方は、
所定の面積を有する放熱面が形成されるとともに、
当該放熱面が、前記冷却風の流れに沿って延在するように構成された放熱部材を有することを特徴とする打撃工具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の打撃工具であって、
前記回転軸は、前記工具ビットの長軸と交差する方向に延在するように配置されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項6】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記回転軸の軸線方向の一方側に、前記直流ブラシレスモータの回転出力を伝達して前記工具ビットを駆動する駆動機構部が配置されているとともに、前記軸線方向の他方側に、前記駆動電流供給装置と前記コントローラが配置されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の打撃工具であって、
当該打撃工具を把持するグリップを有しており、
前記グリップの所定部分は、前記工具ビットの長軸線上に配置されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項8】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記グリップは、前記工具ビットの長軸との交差方向に延在し、
前記バッテリは、前記交差方向に関し、前記グリップの一端に配置されていることを特徴とする打撃工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材に加工するための打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に打撃工具として、電動ハンマやハンマドリルなど、モータが打撃工具の先端に取り付けられた工具ビットを駆動させて、被加工材を加工するものが知られている。特に、特許文献1に記載された打撃工具は、工具ビットを駆動する直流ブラシレスモータを駆動するための制御手段を備えている。この制御手段は、マイクロプロセッサなどの半導体で構成されており、打撃工具を使用する際に制御手段自体が発熱するため、発生した熱を放熱するための対策を講じる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−302443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記に鑑み、打撃工具内部で発生する熱を効率よく放熱する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る打撃工具の好ましい形態によれば、直流ブラシレスモータと、バッテリと、当該バッテリから直流ブラシレスモータに電流を供給する駆動電流供給装置と、駆動電流供給装置を制御するコントローラと、冷却ファンを有し、直流ブラシレスモータと駆動電流供給装置とコントローラは、互いに隣接配置され、冷却ファンが発生させる冷却風によって冷却される。
駆動電流供給装置は、スイッチング素子で構成されており、駆動電流供給装置とコントローラは、冷却風に関し、直流ブラシレスモータよりも上流側に配置されている。
さらに、直流ブラシレスモータと駆動電流供給装置とコントローラを収容するハウジングを有しており、ハウジングに設けられた空気取り込み部が、直流ブラシレスモータとスイッチング素子との間に設けられている。
直流ブラシレスモータは、ブラシ(整流用刷子)を有していないためブラシの摩擦などがなく、ブラシモータに比べて寿命が長い一方で、直流ブラシレスモータを駆動するために、電源から直流ブラシレスモータに電流を供給する駆動電流供給装置と、この駆動電流供給装置を制御するコントローラが必要である。これら直流ブラシレスモータ、駆動電流供給装置、コントローラには、いずれも電流が流れるため、電力損失により熱が発生する。そのため、発生した熱を放熱する必要がある。そこで本発明においては、直流ブラシレスモータと駆動電流供給装置とコントローラとが互いに隣接配置されており、冷却ファンが発生させる冷却風によって冷却されることで、発生した熱を効率よく放熱することができる。また、直流ブラシレスモータと駆動電流供給装置とコントローラが互いに隣接配置されていることで、これらの装置を集約して配置し、互いを接続する配線を短くすることができる。
モータを用いた打撃工具においては、被加工材の加工に当たり、大電流でモータを駆動させることで大きな駆動力を発生させる必要がある。特に、直流ブラシレスモータを用いた打撃工具においては、駆動電流供給装置とコントローラに大電流が流れることとなり、駆動電流供給装置とコントローラはモータよりも発熱量が多くなり易い。また、狭いハウジング内において、発生した熱を効率よく放熱するためには、発熱量が多い駆動電流供給装置とコントローラを効率よく冷却することが必要である。そのため、発熱量が多い駆動電流供給装置とコントローラを、空気の流れにおける直流ブラシレスモータよりも上流側に配置することで、温度が高くなっていない新鮮な空気によって発熱量の多い駆動電流供給装置とコントローラが発生した熱を効率よく放熱することができ、本件構成は、とりわけ打撃工具における有用性が高い。
また、空気取り込み部からハウジング内に取り込まれた空気によって、隣接配置された直流ブラシレスモータと駆動電流供給装置とコントローラのいずれが発生した熱も放熱することができる。
【0006】
【0007】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、冷却ファンは、直流ブラシレスモータの回転軸に取り付けられており、回転軸の軸線方向から見て、駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方は、直流ブラシレスモータと重なる位置に配置されている。「直流ブラシレスモータと重なる」とは、回転軸の軸線方向から見て、直流ブラシレスモータが配置された領域と、駆動電流供給装置とコントローラが配置された領域とが重複していることである。すなわち、回転軸の軸線方向から直流ブラシレスモータ、および駆動電流供給装置とコントローラを投影したときに、その投影面における直流ブラシレスモータの領域と、駆動電流供給装置とコントローラの領域とが重複していることを指し、ここではさらに、その投影面における直流ブラシレスモータの外郭線と、駆動電流供給装置とコントローラの外郭線とが外接して、外郭線が重複している態様も含むものである。
【0008】
このように、駆動電流供給装置とコントローラを配置することで、駆動電流供給装置とコントローラを冷却風の経路中に配置することができる。これにより、駆動電流供給装置とコントローラが発生した熱を効率よく放熱することができる。また、回転軸の軸線方向から見て、直流ブラシレスモータと重なる位置に駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方を配置して、電動工具内の配置を合理化することができるため、電動工具を小型化することができる。ここで、「回転軸の軸線方向から見て、駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方は、直流ブラシレスモータと重なる位置に配置されている」態様としては、回転軸の軸線方向から見て、直流ブラシレスモータと、(1)駆動電流供給装置とコントローラのいずれか一方の一部領域が重なる場合、(2)駆動電流供給装置とコントローラのいずれか一方の全領域が重なる場合、(3)駆動電流供給装置とコントローラのそれぞれの一部領域が重なる場合、(4)駆動電流供給装置とコントローラのそれぞれの全領域が重なる場合、(5)駆動電流供給装置とコントローラのうちの一方の一部領域と、他方の全領域が重なる場合、の各態様を取り得る。さらに、駆動電流供給装置とコントローラは、回転軸の軸線上に配置されていることが好ましく、このように配置されることで、電動工具をさらに小型化することができる。
【0009】
【0010】
【0011】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方は、所定の面積を有する放熱面が形成されるとともに、放熱面が冷却風に沿って延在するように構成された放熱部材を有している。このように、放熱面が、冷却風に沿って延在するように配置されていることで、冷却風が澱むことなく放熱面上をスムーズに流れることができる。これにより、放熱部材に伝達された熱を効率的に放熱することができ、放熱部材を有する駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方が発生した熱を効率よく放熱することができる。ここで「駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方」とは、駆動電流供給装置のみ、コントローラのみ、駆動電流供給装置とコントローラの双方、のいずれかを意味するものであり、駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方が放熱部材を有している態様を取り得る。また、駆動電流供給装置とコントローラの双方が放熱部材を有している態様においては、駆動電流供給装置とコントローラの双方にまたがった一つの放熱部材が設けられていてもよい。
【0012】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、直流ブラシレスモータの回転軸は、工具ビットの長軸と交差する方向に延在するように配置されている。このように直流ブラシレスモータの回転軸と工具ビットの長軸が交差する打撃工具においても、駆動電流供給装置とコントローラが発生した熱を効率よく放熱することができる。
【0013】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、直流ブラシレスモータの回転軸の軸線方向の一方側に、直流ブラシレスモータの回転出力を伝達して工具ビットを駆動する駆動機構部が配置されており、軸線方向の他方側に、駆動電流供給装置とコントローラが配置されている。このように駆動機構部、直流ブラシレスモータ、駆動電流供給装置およびコントローラの順に合理的に配置することによって、打撃工具の小型化を図ることができる。
【0014】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、打撃工具を把持するグリップを有しており、グリップの所定部分は、工具ビットの長軸線上に配置されている。このようにグリップの所定部分を工具ビットの長軸線上に設けることで、被加工材を加工する際に、ユーザがグリップの所定部分を介して打撃工具に加えた力がモーメントに変換されることを抑制でき、ユーザが効率よく工具ビットに力を伝達することができる。
【0015】
本発明に係る打撃工具の更なる形態によれば、グリップは、工具ビットの長軸との交差方向に延在し、バッテリは、交差方向に関し、グリップの一端に配置されている。このように、バッテリが工具ビットの長軸線上以外の位置に配置されることで、グリップと工具ビットの間の長さを短くすることができ、打撃工具の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、打撃工具内部で発生する熱を効率よく放熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るハンマドリルの全体構造を示す一部破断側面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るコントローラと駆動電流供給装置の拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るハンマドリルの駆動制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照しつつ、詳細に説明する。本実施の形態では、打撃工具の一例としてハンマビットをその長軸方向に往復移動させて、ハンマビットによって被加工材に加工を行うハンマドリルを用いて説明する。図1に示すように、ハンマドリル100は、本体部110とグリップ120とバッテリ130とハンドル140、およびツールホルダ150を主体として構成されている。以下においては、図1の右側をハンマドリル100の前側、左側をハンマドリル100の後側として、図1の左右方向をハンマドリル100の前後方向とし、図1の上下方向をハンマドリル100の上下方向とし、図2の左右方向をハンマドリル100の左右方向として説明する。なお、ハンマビット200が本発明の「工具ビット」に対応した実施構成例である。
【0019】
本体部110は、外側がハウジング10によって構成されている。ハウジング10は、ほぼ対称形の1対のハウジングを合わせて結合しており、内側にモータ20、運動変換機構30、動力伝達機構40、および打撃要素50を収容している。
【0020】
グリップ120は、ハンマドリル100の後側であって、ハンマビット200の長軸と交差する上下方向に延在している。グリップ120の一部の領域Aは、ハンマビット200の長軸線上に配置されている。このグリップ120の一部の領域Aが、本発明の「グリップの所定部分」に対応した実施構成例である。グリップ120には、トリガ121が設けられており、ユーザがトリガ121を操作することによって、モータ20に通電され駆動される。このトリガ121は、グリップ120の一部の領域Aに対応する位置であるハンマビット200の長軸線上に配置されている。バッテリ130は、グリップ120の一端であるハンマドリル100の下方に着脱可能に設けられている。
【0021】
ハンドル140は、ハンマドリル100の前側に着脱可能に設けられている。このハンドル140は、本体部110のハウジング10の外周面を外側から把持することによって取り付けられる取付リング部141と、取付リング部141をハウジング10に対して締め付けたり緩めたりするためのボルトを有している。図1においては、ハンドル140の長軸方向がハンマドリル100の上下方向に一致しているが、取付リング部141をハウジング10に対して回転させることで、ハンドル140を任意の方向に取り付け可能である。
【0022】
ツールホルダ150は、本体部110の前面に設けられている。このツールホルダ150は、ハンマビット200を着脱可能に保持しており、モータ20の回転出力をハンマビット200に伝達している。
【0023】
モータ20は、回転軸21がハンマドリル100の上下方向に延在するようにハウジング10内に配置されている。本実施の形態では、モータ20として直流ブラシレスモータが用いられている。モータ20の回転軸21上方には、運動変換機構30、動力伝達機構40、および打撃要素50が配置されている。これら運動変換機構30、動力伝達機構40、および打撃要素50が本発明の「工具ビットを駆動する駆動部」に対応した実施構成例である。
【0024】
運動変換機構30は、モータ20の回転軸21の上方に配置されており、回転軸21の回転出力をハンマドリル100の前後方向への出力に変換する機構である。すなわち、運動変換機構30は、回転軸21の回転出力を伝達するべベルギア31と、べベルギア31を介して回転駆動される中間軸32と、中間軸32に取り付けられた回転体33と、中間軸32の回転に伴いハンマドリル100の前後方向に揺動される揺動部材34と、揺動部材34の揺動動作に伴ってハンマドリル100の前後方向に往復移動するピストン35と、ピストン35を収容するシリンダ36を主体として構成されている。
【0025】
動力伝達機構40は、運動変換機構30の前側に配置されており、運動変換機構30の中間軸32から伝達されたモータ20の回転出力をツールホルダ150に伝達する機構である。すなわち、動力伝達機構40は、中間軸32と共に回転する第1ギア41と、第1ギア41と係合する第2ギア42等の複数のギアからなるギア減速機構を主体として構成されている。
【0026】
打撃要素50は、運動変換機構30の上方であって、ツールホルダ150の後方に配置されており、運動変換機構30によってモータ20の回転出力から変換されたハンマドリル100の前後方向への出力を、ハンマビット200に衝撃力として伝達する機構である。すなわち、打撃要素50は、ピストン35内に摺動可能に配置された打撃子としてのストライカ51と、ストライカ51の前方に配置され、ストライカ51が衝突するインパクトボルト52を主体として構成されている。なお、ストライカ51の後方のピストン35との空間は、ピストン35の摺動動作を空気の圧力変動によってストライカ51に伝達する空気室53が形成されている。
【0027】
図2に示すように、直流ブラシレスモータであるモータ20は、回転軸21と、円筒状の外形を持つステータ22と、ステータ22の内側に回転軸21に対して同心軸状に設けられたロータ23を主体として構成されている。ステータ22には、3相巻線からなるステータコイル22U、22V、22W(図4参照)が巻かれ、ロータ23には、回転軸21の軸方向に延在する永久磁石が埋め込まれている。
【0028】
このモータ20に対して、バッテリ130から駆動電流を供給する駆動電流供給装置70と、駆動電流供給装置70を制御するコントローラ60が、図1、2に示すように、格納容器80内に格納され、この格納容器80が、モータ20の下方であって、回転軸21の軸線方向から見て、モータ20と重なる位置に、モータ20と隣接して配置されている。
【0029】
次に図3を参照して、コントローラ60、駆動電流供給装置70および格納容器80を詳細に説明する。格納容器80は上方に開口した樹脂製の直方体の箱状部材であり、コントローラ60と駆動電流供給装置70を内部に格納している。
【0030】
コントローラ60は、プリント基板と、そのプリント基板上に配置された、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、後述する位置検出素子24からの信号に基づいてロータ23の位置を算出したり、駆動電流供給装置70を制御したりする為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)を主体として構成されている。なお、図1および図3では、コントローラ60のうち、プリント基板のみ図示し、CPU、ROM、RAMの図示を省略している。
【0031】
駆動電流供給装置70は、6つのスイッチング素子71と、スイッチング素子71の上面にシリコングリスなどの伝熱材73を介して連接する放熱板72を主体として構成されている。スイッチング素子71としては、FET(電界効果トランジスタ)やIBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などが用いられている。放熱板72は、熱伝導率の高い金属製(例えば、銅、アルミニウムなど)の平板で構成されている。スイッチング素子71、放熱板72および伝熱材73を備えた駆動電流供給装置70が本発明の「駆動電流供給装置」に対応した実施構成例である。また、放熱板72が、本発明の「放熱部材」に対応した実施構成例である。なお、駆動電流供給装置70の構成としては、放熱板72を備えていなくてもよく、放熱板72を備えている場合には、伝熱材73を介することなく放熱板72がスイッチング素子71に当接するように配置されていてもよい。すなわち、駆動電流供給装置70は、少なくともスイッチング素子71を有していればよい。
【0032】
これらのコントローラ60および駆動電流供給装置70が、格納容器80の内部に互いに隣接して積層されている。このとき、放熱板72は、図1に示すように、ハンマドリル100の前後方向にハウジング10に対して交差する方向に延在するとともに、その上面が格納容器80の上側開口とほぼ同じ位置に配置されている。この放熱板72の上面が、本発明の「所定の面積を有する放熱面」に対応した実施構成例である。なお、本実施の形態は、本発明の「駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方は、所定の面積を有する放熱面が形成された放熱部材を有しており」に関して、駆動電流供給装置のみが、放熱面が形成された放熱部材を有する構成に対応している。さらに、コントローラ60と駆動電流供給装置70は、モータ20の回転軸21の軸線方向から見て、回転軸21の軸線上に配置されている。
【0033】
以上の通り、格納容器80内に、コントローラ60および駆動電流供給装置70が隣接して積層され、さらに、格納容器80がモータ20に隣接して配置されているため、モータ20、コントローラ60および駆動電流供給装置70が互いに隣接して配置されることとなる。なお、本実施の形態は、本発明の「回転軸の軸線方向から見て、駆動電流供給装置とコントローラの少なくとも一方は、直流ブラシレスモータと重なる位置に配置されている」に関して、駆動電流供給装置とコントローラのいずれもが、直流ブラシレスモータと重なる位置に配置された実施構成例である。
【0034】
次に、ハンマドリル100の駆動制御系について図4のブロック図を参照して説明する。ハンマドリル100の駆動制御系は、モータ20のロータ23の位置を検出する3つの位置検出素子24と、モータ20のステータコイル22U、22V、22Wにバッテリ130から電流を供給する回路を構成する駆動電流供給装置70と、駆動電流供給装置70を制御するコントローラ60を主体として構成されている。駆動電流供給装置70は、6つのスイッチング素子71a〜71fを備えており、後述するように、それぞれのスイッチング素子71がコントローラ60によって制御されることで、所定のステータコイル22に対して電流を供給する。コントローラ60は、位置検出素子24の検出信号に基づいてロータ23の位置を算出し、駆動電流供給装置70に対して駆動信号を出力することで、駆動電流供給装置70を制御する。なお、3つの位置検出素子24は、モータ20の周方向に120°毎に配置されている。
【0035】
このハンマドリル100の駆動制御系に基づいて、コントローラ60は、スイッチング素子71a〜71fのそれぞれのゲートに対して選択的に駆動信号(ゲート電圧)を印加し、以下の(1)から(6)までの駆動制御が順次行われてモータ20のロータ23が一回転する。(1)第1のスイッチング素子71aおよび第6のスイッチング素子71fのゲートに駆動信号を印加することにより、第1のステータコイル22Uから第3のステータコイル22Wへと通電され、(2)第3のスイッチング素子71cおよび第6のスイッチング素子71fのゲートに駆動信号を印加することにより、第2のステータコイル22Vから第3のステータコイル22Wへと通電され、(3)第3のスイッチング素子71cおよび第2のスイッチング素子71bのゲートに駆動信号を印加することにより、第2のステータコイル22Vから第1のステータコイル22Uへと通電され、(4)第2のスイッチング素子71bおよび第5のスイッチング素子71eのゲートに駆動信号を印加することにより、第3のステータコイル22Wから第1のステータコイル22Uへと通電され、(5)第4のスイッチング素子71dおよび第5のスイッチング素子71eのゲートに駆動信号を印加することにより、第3のステータコイル22Wから第2のステータコイル22Vへと通電され、(6)第1のスイッチング素子71aおよび第4のスイッチング素子71dのゲートに駆動信号を印加することにより、第1のステータコイル22Uから第2のステータコイル22Vへと通電される。
【0036】
モータ20の駆動においては、コントローラ60および駆動電流供給装置70だけでなく、モータ20自体も発熱する。そのため、モータ20、コントローラ60、および駆動電流供給装置70から発生した熱を放熱するため、モータ20の回転軸21には、冷却ファン90が取り付けられている。この冷却ファン90は、回転したときにハンマドリル100の下方から上方に向かう空気の流れが生じる向きに配置されている。この冷却ファン90の回転によって生じる空気の流れが、本発明の「冷却風」に対応した実施構成例である。
【0037】
さらに、図2に示すように、ハウジング10には、空気取り込み部11と空気排出部12が形成されている。空気取り込み部11は、ハウジング10を構成する1対のハウジングにそれぞれ6つ形成された開口11aを有する。この開口11aは、ハウジング10における、ハンマドリル100の側面視でモータ20と、コントローラ60および駆動電流供給装置70との間に形成されている。これにより、放熱板72の放熱面が、空気取り込み部から流入した空気の流れ、すなわち冷却風の流れに沿って延在するように配置されることとなる。換言すると、放熱板72の放熱面が、その放熱面の法線方向と、開口11aが形成されている領域のハウジング10の表面の法線方向が交差するように配置されることとなる。空気排出部12は、ハウジング10に形成された複数の開口12aを有し、ハンマドリル100の側面視でモータ20の上方に形成されている。
【0038】
上記の通り構成されたハンマドリル100は、ユーザによってトリガ121が操作されるとコントローラ60が駆動電流供給装置70に駆動信号を出力し、駆動電流供給装置70のスイッチング素子71が制御される。その結果、駆動電流供給装置70がバッテリ130からモータ20に電流を供給し、モータ20が駆動される。モータ20の回転出力は、揺動部材34によってハンマドリル100の前後方向の直線運動に変換された上でピストン35に伝達される。ピストン35が摺動することで、空気室53内の空気が空気バネとして作用し、ストライカ51を摺動させる。そして、ストライカ51がインパクトボルト52に衝突し、その衝撃力がハンマビット200に伝達されて、ハンマビット200がハンマドリル100の前後方向への打撃力を発生する。この打撃力によって、被加工材を加工するハンマ動作が行われる。一方、モータ20の回転出力は、動力伝達機構40によって適宜減速された上でハンマビット200に伝達され、ハンマビット200に回転力を発生させる。この回転力よって、被加工材を加工するドリル動作が行われる。すなわち、ハンマビット200を被加工材に押し付けた状態で、ハンマドリル100にハンマ動作とドリル動作を行わせて、被加工材を加工する。なお、被加工材を加工する際には、ドリル動作を行わず、ハンマ動作のみで加工してもよい。
【0039】
このとき、回転軸21が回転することで、回転軸21に取り付けられた冷却ファン90が回転し、ハウジング10内に空気の流れを発生させる。具体的には、ハンマドリル100の外部の空気は、冷却ファン90の回転によりハウジング10内に生じた空気の流れによって、空気取り込み部11の開口11aからハウジング10内に流入する。ハウジング10内に流入した空気は、放熱板72の放熱面に沿って進み、モータ20および冷却ファン90を通過して、空気排出部12の開口12aからハンマドリル100の外部に排出される。
【0040】
以上の本実施の形態によれば、コントローラ60、駆動電流供給装置70およびモータ20は、互いに隣接して配置されているため、冷却ファン90の回転によって発生した冷却風によって発生した熱を効率よく放熱することができる。さらに、冷却ファン90がモータ20の回転軸21に取り付けられているとともに、コントローラ60および駆動電流供給装置70が回転軸21の軸線方向からみて、モータ20と重なる位置に配置されているため、コントローラ60および駆動電流供給装置70を冷却風の経路中に配置することができ、冷却風によってコントローラ60および駆動電流供給装置70で発生した熱をより効率的に放熱することができる。また、コントローラ60および駆動電流供給装置70は、冷却風に関し、モータ20よりも上流側に配置されているため、空気取り込み部11の開口11aからハウジング10内に流入した温度が高くなっていない新鮮な空気によって発熱量の多いコントローラ60および駆動電流供給装置70が発生した熱を効率的に放熱することができる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、放熱板72の放熱面が、ハウジング10内に流入した空気、すなわち冷却風の流れに沿って延在するように配置されているため、冷却風が澱むことなく放熱板72の放熱面上をスムーズに流れて、駆動電流供給装置70から伝達されて放熱板72に蓄えられた熱を効率的に放熱することができる。これによって、駆動電流供給装置70を効率よく冷却することができる。また、コントローラ60および駆動電流供給装置70が回転軸の軸線上に配置されているため、コントローラ60および駆動電流供給装置70のいずれも、回転軸21の周方向に関して均一に放熱することができる。
【0042】
また、本実施の形態によれば、グリップ120の一部の領域Aは、ハンマドリル100の後側であって、ハンマビット200の長軸線上に配置されているため、被加工材を加工する際に、ユーザがグリップ120の一部の領域に作用させた力がモーメントに変換されることを抑制でき、ユーザが効率よくハンマビット200に力を伝達できる。それにより、ハンマドリル100によって被加工材を効率よく加工することができる。さらに、トリガ121は、グリップ120の一部の領域Aに対応する位置であるハンマビット200の長軸線上に配置されているため、被加工材を加工する際に、ユーザがグリップ120の一部の領域Aを把持した場合に、トリガ121を操作しやすい。
【0043】
また、本実施の形態によれば、グリップ120の下方であって、本体部110のモータ20が収容された領域の後方にバッテリ130が配置されているため、ハンマドリル100に必要な構成要素を合理的に配置することで、ハンマドリル100を小型化することができる。
【0044】
以上の本実施の形態では、冷却ファン90は、モータ20の回転軸21に取り付けられていたが、回転軸21以外の別の軸に取り付けられていてもよく、また、モータ20の回転動作によって回転するものには限られるものではない。
【0045】
また、本実施の形態では、運動変換機構30がモータ20の回転軸21の上方に配置され、動力伝達機構40が運動変換機構30の前側に配置され、さらに打撃要素50が運動変換機構30の上方に配置されていたが、これに限られるものではなく、運動変換機構30がモータ20の回転出力を変換するためにモータ20の上方に配置されていればよく、動力伝達機構40と打撃要素50は、ツールホルダ150あるいはハンマビット200にモータ20の出力を伝達できる位置に配置されていればよい。
【0046】
また、本実施の形態では、コントローラ60および駆動電流供給装置70が、モータ20の回転軸21の軸線方向から見て、モータ20と重なる位置に隣接配置されていたが、回転軸21の軸線方向から見て、放熱板72のみがモータ20と重なる位置に配置されていてもよく、スイッチング素子71は、モータ20と重なる位置以外の位置に配置されていてもよい。また、回転軸21の軸線方向から見て、コントローラ60と駆動電流供給装置70のいずれか一方のみが、モータ20と重なる位置に配置されていてもよい。
【0047】
また、本実施の形態では、駆動電流供給装置70のみが、放熱板72を有していたが、コントローラ60および駆動電流供給装置70のいずれもが放熱板をそれぞれ有していてもよい。その場合に、さらにコントローラ60が有する放熱板と駆動電流供給装置70が有する放熱板が一体として形成されており、一枚の放熱板がコントローラ60のCPUやROM、RAMおよび駆動電流供給装置70のスイッチング素子71のいずれにも連接するように配置されていてもよい。
【0048】
また、本実施の形態では、放熱部材として平板状の放熱板72を用いていたが、放熱部材は平板状の放熱板72に限られるものではない。すなわち、放熱部材は、平板に対してほぼ垂直な方向に突出した複数の放熱フィンが互いにほぼ平行に平板に設けられたフィン付き放熱板であってもよい。この放熱フィンの側面が、本発明の「所定の面積を有する放熱面」に対応する実施構成例である。平板からの放熱フィンの突出方向は、ハンマドリル100の上下方向、あるいは前後方向のいずれであってもよく、複数の放熱フィンの放熱面が、ハンマドリル100の左右方向に延在するように配置されていることが好ましい。このようにフィン付き放熱板が配置されることで、放熱面が冷却風の流れに沿って延在するように配置することができ、冷却風の流れによってフィン付き放熱板に伝達された熱を効率よく放熱することができる。その結果、駆動電流供給装置70を効率よく冷却することができる。この場合、回転軸21の軸線方向から見て、駆動電流供給装置70のうち放熱フィンのみが、モータ20と重なる位置に配置されていてもよい。また、コントローラ60もフィン付き放熱板を有していてもよく、コントローラ60と駆動電流供給装置70のいずれかが有するフィン付放熱板のみが、モータ20と重なる位置に配置されていてもよい。さらに、コントローラ60が有するフィン付き放熱板と、駆動電流供給装置70が有するフィン付き放熱板が一体として形成されていてもよい。
【0049】
また、本実施の形態では、回転軸21の軸線方向から見て、コントローラ60と駆動電流供給装置70のいずれもが、モータ20と重なる位置に配置されていたが、コントローラ60と駆動電流供給装置70の少なくとも一方が、モータ20と重なる位置に配置されているだけでもよい。
【0050】
また、本実施の形態では、コントローラ60および駆動電流供給装置70は、冷却ファン90が発生させる冷却風に関し、モータ20よりも上流側に配置されていたが、コントローラ60および駆動電流供給装置70は、冷却ファン90が発生させる冷却風に関し、モータ20よりも下流側に配置されていてもよい。
【0051】
また、本実施の形態では、空気取り込み部11が側面視でモータ20と、コントローラ60および駆動電流供給装置70との間に設けられていたが、空気取り込み部11の位置はこれに限られず、例えば、コントローラ60および駆動電流供給装置70の下方に設けられていてもよい。
【0052】
また、本実施の形態では、モータ20の回転軸21が、ハンマビット200の長軸と交差する方向に延在するように、モータ20が配置されていたが、モータ20の回転軸21とハンマビット200の長軸が平行であってもよい。また、モータ20の回転軸21と、グリップ120の延在する方向が、ハンマドリル100の上下方向で一致していたが、回転軸21とグリップ120の延在する方向が一致している形態に限られるものではない。
【符号の説明】
【0053】
10 ハウジング
11 空気取り込み部
12 空気排出部
20 モータ
21 回転軸
30 運動変換機構
40 動力伝達機構
50 打撃要素
60 コントローラ
70 駆動電流供給装置
71 スイッチング素子
72 放熱板
73 伝熱材
80 格納容器
90 冷却ファン
100 ハンマドリル
110 本体部
120 グリップ
130 バッテリ
140 ハンドル
150 ツールホルダ
200 ハンマビット
図1
図2
図3
図4