(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単独運転判定手段は、前記正相分の系統回路定数の変化に基づいて単独運転と判定でき、かつ、前記逆相分の系統回路定数の変化に基づいて単独運転と判定できる場合にのみ、単独運転と判定する、請求項1ないし3のいずれかに記載の単独運転検出装置。
前記電流注入指示手段は、前記所定角周波数の高調波電流の注入を、前記系統連系インバータシステムに指示する、請求項1ないし4のいずれかに記載の単独運転検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る単独運転検出装置を系統連系インバータシステムに備えた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0027】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ装置2、インバータ制御装置3、電流センサ4、電圧センサ5、単独運転検出装置6、電流注入装置7、および開閉器8を備えている。直流電源1は、インバータ装置2に接続している。インバータ装置2は、開閉器8を介して、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインで、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ4および電圧センサ5は、インバータ装置2の出力側に設置されている。インバータ制御装置3は、インバータ装置2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して、電力系統Bおよび負荷Cに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、インバータ装置2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。
【0028】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ装置2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0029】
インバータ装置2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、負荷Cおよび電力系統Bに出力するものである。インバータ装置2は、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型三相インバータ回路を備えている。当該インバータ回路は、インバータ制御装置3から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。また、インバータ装置2は、内蔵するフィルタ回路(図示しない)によって、スイッチングによる高周波成分を除去し、内蔵する変圧回路によって、交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。なお、インバータ装置2の構成は、これに限られない。例えば、インバータ回路はマルチレベルインバータ回路であってもよい。また、変圧回路を設けない、いわゆるトランスレス方式としてもよい。また、直流電源1とインバータ装置2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0030】
インバータ制御装置3は、インバータ装置2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。インバータ制御装置3は、電流センサ4から入力される電流信号I、および、電圧センサ5から入力される電圧信号Vに基づいて、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ装置2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。
【0031】
インバータ制御装置3は、指令値信号生成部31およびPWM信号生成部32を備えている。
【0032】
指令値信号生成部31は、電流センサ4から電流信号Iを入力され、電圧センサ5から電圧信号Vを入力され、系統連系インバータシステムAの出力電力の制御や出力電流の制御を行うための補償信号を生成し、これに基づいて指令値信号を生成する。生成された指令値信号は、PWM信号生成部32に出力される。なお、各制御や指令値信号の生成方法の説明は省略する。
【0033】
PWM信号生成部32は、入力される指令値信号と、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。三角波比較法では、指令値信号とキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ装置2に出力される。また、PWM信号生成部32は、単独運転検出装置6から単独運転検出信号(停止信号)を入力された場合に、PWM信号の生成を停止する。これにより、インバータ装置2の電力変換動作は停止する。
【0034】
電流センサ4は、電力系統Bとの連系点での各相を流れる電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、インバータ制御装置3および単独運転検出装置6に入力される。電圧センサ5は、電力系統Bとの連系点の各相の電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、インバータ制御装置3および単独運転検出装置6に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが電力系統Bに連系している場合、連系点の電圧は系統電圧とほぼ一致している。
【0035】
単独運転検出装置6は、単独運転を検出するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。単独運転検出装置6は、電流注入装置7に電流注入の指示信号を周期的に出力して、電流注入装置7に次数間高調波の電流を電力系統Bに注入させる。単独運転検出装置6は、電流注入装置7が次数間高調波の電流を注入したときに検出される電圧信号および電流信号に基づいて、単独運転を検出する。単独運転の検出方法の詳細については後述する。単独運転検出装置6は、単独運転を検出した場合に単独運転検出信号を出力する。単独運転検出装置6が出力した単独運転検出信号は、停止信号としてインバータ制御装置3のPWM信号生成部32に入力され、開放信号として開閉器8に入力される。
【0036】
電流注入装置7は、電力系統Bに次数間高調波の単相電流を注入するものであり、インバータ回路および変圧器などにより構成されている。電流注入装置7は、単独運転検出装置6から入力される指示信号に応じて、次数間高調波の単相電流を電力系統Bの所定の相間(例えば、U相V相間)に注入する。本実施形態では、注入する次数間高調波として、例えば、2.4次高調波を用いている。以下では、電流注入装置7が注入する次数間高調波を「注入次数間高調波」とする。
【0037】
開閉器8は、系統連系インバータシステムAと負荷Cとの接続を切り離すものである。開閉器8は、単独運転検出装置6から単独運転検出信号(開放信号)が入力された場合に、系統連系インバータシステムAと負荷Cとの接続を切り離す。これにより、系統連系インバータシステムAの単独運転状態が回避される。
【0038】
次に、単独運転検出装置6の詳細について、
図2〜
図8を参照して説明する。
【0039】
図2は、単独運転検出装置6の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0040】
同図に示すように、単独運転検出装置6は、電圧信号三相/二相変換部61、正相分電圧信号抽出部62a、逆相分電圧信号抽出部62b、電流信号三相/二相変換部63、正相分電流信号抽出部64a、逆相分電流信号抽出部64b、正相分系統回路定数算出部65、逆相分系統回路定数算出部66、単独運転判定部67、および、判定指示部68を備えている。なお、本発明は能動方式の単独運転検出方法に関するものなので、能動方式の単独運転検出のための構成のみを記載して説明している。実際には、単独運転検出装置6は受動方式の単独運転検出のための構成も備えているが、本実施形態ではその記載および説明を省略している。
【0041】
電圧信号三相/二相変換部61は、電圧センサ5より入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。電圧信号三相/二相変換部61は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電圧信号Vu,Vv,Vwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する。
【0042】
電圧信号三相/二相変換部61で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
【数1】
【0043】
正相分電圧信号抽出部62aおよび逆相分電圧信号抽出部62bは、電圧信号三相/二相変換部61より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、注入次数間高調波の正相分の信号および逆相分の信号を抽出するものである。正相分電圧信号抽出部62aおよび逆相分電圧信号抽出部62bは、本出願の発明者らが開発した、回転座標変換処理(dq変換処理)を改良した線形時不変の処理(以下では、「DQ−LTI変換処理」とする。)を利用したローパスフィルタを用いている。
【0044】
DQ−LTI変換処理は、回転座標変換(dq変換)を行ってから所定の処理を行った後に静止座標変換(逆dq変換)を行うのと等価の処理を行うことができ、かつ、線形性および時不変性を有する信号処理である。回転座標変換および静止座標変換は非線形時変の処理なので、これらを用いた制御系の設計に線形制御理論を用いることができないし、システム解析もできない。DQ−LTI変換処理は、この問題を解消するために開発されたものであり、回転座標変換を行ってから所定の処理を行った後に静止座標変換を行うのと等価の処理を、伝達関数の行列を用いた演算処理としたものである。
【0045】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0046】
図3(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。
図3(a)に示す非線形時変の処理を、
図3(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0047】
図3(a)に示す回転座標変換は下記(2)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(3)式の行列式で表される。
【数2】
【0048】
したがって、
図3(a)に示す処理を、行列を用いて、
図4(a)のように表すことができる。
図4(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、
図3(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0049】
回転座標変換の行列は、下記(4)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数3】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数4】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0050】
【数5】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数6】
であることが、確認できる。
【0051】
また、静止座標変換の行列は、下記(5)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数7】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数8】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0052】
【数9】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数10】
であることが、確認できる。
【0053】
上記(4)式および(5)式を用いて、
図4(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(6)式のように計算される。
【数11】
【0054】
上記(6)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、
図5に示すブロック線図になる。
図5に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数12】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である 。
【0055】
ここで、θ(t)=ωtとすると、θ(t)−θ(τ)=ωt−ωτ=ω(t−τ)=θ(t−τ)となるので、
図5に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jωt)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jωt)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω)が得られる。また、
図5に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω)の入出力特性になる。
【0056】
したがって、上記(6)式からさらに計算を進めると、
【数13】
と計算される。
【0057】
これにより、
図4(a)に示す処理を、
図4(b)に示す処理に変換することができる。
図4(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0058】
ローパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=1/(Ts+1)で表される。したがって、
図6に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからローパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
LPFは、上記(7)式を用いて、下記(8)式のように算出される。
【数14】
【0059】
図7は、行列G
LPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
LPFの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が系統電圧の基本波の周波数(例えば、60[Hz])の場合(すなわち、中心角周波数ω=120π[rad/sec]の場合)のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0060】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
LPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
LPFに示す処理を、
図8を参照して検討する。
【0061】
図8は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0062】
同図(a)において、電圧信号Vu,Vv,Vwに含まれる注入次数間高調波(中心角周波数ω)の正相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで中心角周波数ωで反時計回りの方向に回転している。前記正相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、中心角周波数ωで反時計回りの方向に回転している。
【0063】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が進んでいる。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図7(a)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図7(b)参照)。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図7(c)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0064】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。
図8(b)において、電圧信号Vu,Vv,Vwに含まれる注入次数間高調波(中心角周波数ω)の逆相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで中心角周波数ωで反時計回りの方向に回転している。前記逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0065】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が遅れている。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号にG
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。つまり、伝達関数の行列G
LPFは、注入次数間高調波の正相分信号を通過させ、逆相分信号を遮断する。また、注入次数間高調波以外の周波数の信号(注入次数間高調波以外の高調波、基本波など)は注入次数間高調波より減衰されるので、伝達関数の行列G
LPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号を抽出するバンドパスフィルタ処理であることが確認できる。
【0066】
伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分信号を遮断し、逆相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号を抽出する場合には、伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0067】
図2に戻って、正相分電圧信号抽出部62aは、電圧信号三相/二相変換部61より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、注入次数間高調波の正相分の信号を抽出するものである。抽出された正相分電圧信号Vαp,Vβpは、正相分系統回路定数算出部65に出力される。正相分電圧信号抽出部62aは、上記(8)式に示す伝達関数の行列G
LPFに表される処理を行う。つまり、下記(9)式に示す処理を行っている。中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数があらかじめ設定されている。例えば、注入次数間高調波が2.4次高調波の場合、系統電圧の基本波の角周波数をω
0=120π[rad/sec](60[Hz])とすると中心角周波数ω=2.4ω
0=288π[rad/sec](144[Hz])が設定されている。また、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数15】
【0068】
正相分電圧信号抽出部62aは、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。正相分電圧信号抽出部62aで行われる処理は、伝達関数の行列G
LPFで示されるので、線形時不変の処理である。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。また、正相分電圧信号Vαp,Vβpは、上記(9)式によって容易に算出される。
【0069】
逆相分電圧信号抽出部62bは、電圧信号三相/二相変換部61より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、注入次数間高調波の逆相分の信号を抽出するものである。抽出された逆相分電圧信号Vαn,Vβnは、逆相分系統回路定数算出部66に出力される。逆相分電圧信号抽出部62bは、上記(8)式に示す伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行う。つまり、逆相分信号を抽出するための処理を行っており、下記(10)式に示す処理を行っている。正相分電圧信号抽出部62aと同様に、中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数があらかじめ設定されている。また、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数16】
【0070】
逆相分電圧信号抽出部62bは、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。逆相分電圧信号抽出部62bで行われる処理は、伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列で示されるので、線形時不変の処理である。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。また、逆相分電圧信号Vαn,Vβnは、上記(10)式によって容易に算出される。
【0071】
電流信号三相/二相変換部63は、電流センサ4より入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。電流信号三相/二相変換部63は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号Iu,Iv,Iwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを生成する。
【0072】
電流信号三相/二相変換部63で行われる変換処理は、下記(11)式に示す行列式で表される。
【数17】
【0073】
正相分電流信号抽出部64aは、電流信号三相/二相変換部63より入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、注入次数間高調波の正相分の信号を抽出するものである。抽出された正相分電流信号Iαp,Iβpは、正相分系統回路定数算出部65に出力される。正相分電流信号抽出部64aは、上記(8)式に示す伝達関数の行列G
LPFに表される処理を行う。つまり、下記(12)式に示す処理を行っている。中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数18】
【0074】
逆相分電流信号抽出部64bは、電流信号三相/二相変換部63より入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、注入次数間高調波の逆相分の信号を抽出するものである。抽出された逆相分電流信号Iαn,Iβnは、逆相分系統回路定数算出部66に出力される。逆相分電流信号抽出部64bは、上記(8)式に示す伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行う。つまり、下記(13)式に示す処理を行っている。中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数19】
【0075】
正相分系統回路定数算出部65は、正相分の系統回路定数を算出するものである。本実施形態では、正相分の系統回路定数としてアドミタンスの絶対値を算出している。正相分系統回路定数算出部65は、正相分電圧信号抽出部62aより入力される正相分電圧信号Vαp,Vβpと、正相分電流信号抽出部64aより入力される正相分電流信号Iαp,Iβpとから、下記(14)式によって正相分のアドミタンスの絶対値Ypを算出する。算出された正相分のアドミタンスの絶対値Ypは、単独運転判定部67に出力される。
【数20】
【0076】
逆相分系統回路定数算出部66は、逆相分の系統回路定数を算出するものである。本実施形態では、逆相分の系統回路定数としてアドミタンスの絶対値を算出している。逆相分系統回路定数算出部66は、逆相分電圧信号抽出部62bより入力される逆相分電圧信号Vαn,Vβnと、逆相分電流信号抽出部64bより入力される逆相分電流信号Iαn,Iβnとから、下記(15)式によって逆相分のアドミタンスの絶対値Ynを算出する。算出された逆相分のアドミタンスの絶対値Ynは、単独運転判定部67に出力される。
【数21】
【0077】
単独運転判定部67は、系統連系インバータシステムAが単独運転状態であるか否かを判定するものである。単独運転判定部67は、判定指示部68から判定の指示信号が入力されたときに判定を行い、単独運転状態であると判定した場合に単独運転検出信号を出力する。単独運転判定部67は、正相分系統回路定数算出部65から入力される正相分のアドミタンスの絶対値Ypがあらかじめ設定された所定値より小さく、かつ、逆相分系統回路定数算出部66が算出した逆相分のアドミタンスの絶対値Ynがあらかじめ設定された所定値より小さくなった場合に、単独運転状態であると判定する。
【0078】
正相分系統回路定数算出部65が算出した正相分のアドミタンスの絶対値Ypは、連系点からみた電力系統Bの注入次数間高調波についての正相分のアドミタンスの大きさを示している。また、逆相分系統回路定数算出部66が算出した逆相分のアドミタンスの絶対値Ynは、連系点からみた電力系統Bの注入次数間高調波についての逆相分のアドミタンスの大きさを示している。系統連系インバータシステムAが単独運転状態の場合の連系点からみた電力系統Bのアドミタンスの絶対値は、連系状態と比べて小さくなる。したがって、検出されたアドミタンスの絶対値があらかじめ設定された所定値より小さくなった場合に単独運転状態であると判定できる。また、三相交流の電力系統Bの相間に単相電流を注入することは、大きさの等しい正相と逆相の三相電流を同時に注入することと等価である。本実施形態では、注入次数間高調波の正相分のアドミタンスの絶対値による判定と、逆相分のアドミタンスの絶対値による判定との2重の判定を行うことで、誤検出を防ぐようにしている。
【0079】
なお、単独運転状態の判定の方法は上述したものに限られない。上述した判定方法に加えて、正相分のアドミタンスの絶対値Ypと逆相分のアドミタンスの絶対値Ynとの差に基づく判定を追加してもよい。当該判定は、定常時は正相分のアドミタンスの絶対値Ypと逆相分のアドミタンスの絶対値Ynとがほぼ等しく、系統過渡時は正相分のアドミタンスの絶対値Ypと逆相分のアドミタンスの絶対値Ynとが異なることを利用したものである。また、正相分のアドミタンスの絶対値Ypによる判定または逆相分のアドミタンスの絶対値Ynによる判定のいずれか一方で単独運転と判定された場合に単独運転状態であると判定するようにしてもよいし、正相分のアドミタンスの絶対値Ypによる判定のみで単独運転状態であると判定するようにしてもよい。また、上述した各判定を組み合わせて判定するようにしてもよい。
【0080】
なお、正相分系統回路定数算出部65および逆相分系統回路定数算出部66が算出する系統回路定数はアドミタンスの絶対値に限られず、インピーダンスの絶対値としてもよい。この場合、単独運転判定部67は、算出されたインピーダンスの絶対値があらかじめ設定された所定値より大きくなったか否かで判定するようにすればよい。
【0081】
判定指示部68は、単独運転状態の判定を指示するものであり、周期的に電流注入装置7に電流注入の指示信号を出力して、合わせて、単独運転判定部67に判定の指示信号を出力する。なお、判定指示部68を設けずに、電流注入装置7が周期的に電流注入を行い、これに同期して単独運転判定部67が判定を行うようにしてもよい。また、電流注入装置7を設けずに、インバータ装置2が次数間高調波の単相電流を注入するようにしてもよい。この場合、判定指示部68が周期的にインバータ制御装置3の指令値信号生成部31に電流注入の指示信号を出力して、指令値信号生成部31が次数間高調波を重畳させて指令値信号を生成するようにすればよい。
【0082】
本実施形態において、3つの電圧信号Vu,Vv,Vwが互いに直交するα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換され、3つの電流信号Iu,Iv,Iwが互いに直交するα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換される。そして、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、注入次数間高調波の正相分電圧信号Vαp,Vβpおよび逆相分電圧信号Vαn,Vβnがそれぞれ抽出され、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから、注入次数間高調波の正相分電流信号Iαp,Iβpおよび逆相分電流信号Iαn,Iβnがそれぞれが抽出される。そして、抽出された信号から正相分のアドミタンスの絶対値Ypおよび逆相分のアドミタンスの絶対値Ynが算出され、これに基づいて単独運転が判定される。伝達関数の行列G
LPFまたは伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いて信号処理するだけなので、注入次数間高調波の正相分および逆相分の信号を簡単な処理でそれぞれ抽出することができる。
【0083】
なお、本実施形態においては、正相分電圧信号Vαp,Vβpと正相分電流信号Iαp,Iβpとから上記(14)式を用いて正相分のアドミタンスの絶対値Ypを算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、正相分電圧信号Vαp,Vβpおよび正相分電流信号Iαp,Iβpを、二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)によって、それぞれ三相の正相分信号に変換し、これらを用いて正相分のアドミタンスの絶対値Ypを算出するようにしてもよい。なお、この場合、上記(1)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(9)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電圧信号Vu,Vv,Vwから三相の正相分電圧信号を直接算出するようにしてもよい。また、上記(11)式に示す三相/二相変換処理の行列、上記(12)式に示す行列、および、二相/三相変換処理の行列の積を算出して、当該積の行列を用いて電流信号Iu,Iv,Iwから三相の正相分電流信号を直接算出するようにしてもよい。逆相分についても同様である。また、上記第1実施形態において、上記(1)式に示す演算および上記(9)式に示す演算に代えて、各行列の積を算出して、当該積の行列を用いた演算を行うようにしてもよい。電流信号、逆相分についても同様である。
【0084】
本実施形態においては、伝達関数の行列の各要素の時定数が同一である場合について説明したが、要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0085】
本実施形態においては、正相分電圧信号抽出部62a、逆相分電圧信号抽出部62b、正相分電流信号抽出部64a、および逆相分電流信号抽出部64bをそれぞれ個別に設計する場合について説明したが、これに限られない。時定数Tを共通にするようにして、いずれか2つ以上を一度に設計するようにしてもよい。
【0086】
上記第1実施形態においては、ローパスフィルタに代わる処理を行って、注入次数間高調波の正相分の信号および逆相分の信号を抽出する場合について説明したが、ハイパスフィルタに代わる処理を行って、これらの信号を抽出するようにしてもよい。以下に、ハイパスフィルタに代わる処理を行う場合を第2実施形態として説明する。
【0087】
ハイパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=Ts/(Ts+1)で表される。したがって、
図9に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
HPFは、上記(7)式を用いて、下記(16)式のように算出される。
【数22】
【0088】
図10は、行列G
HPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が60Hzの場合のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0089】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数近辺で減衰しており、中心周波数での振幅特性は−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、遮断帯域が小さくなっている。同図(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
HPFに示す処理を、
図8を参照して検討する。
【0090】
図8(a)において、注入次数間高調波(中心角周波数ω)の正相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図10(a)参照)。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図10(b)参照)。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図10(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。
【0091】
図8(b)において、注入次数間高調波(中心角周波数ω)の逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0092】
つまり、伝達関数の行列G
HPFは、注入次数間高調波の逆相分信号を通過させ、正相分信号を遮断する。また、注入次数間高調波以外の周波数の信号(注入次数間高調波以外の高調波、基本波など)は、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合はそのまま通過し(
図10(a)参照)、(1,2)要素および(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合は減衰するので(
図10(b)、(c)参照)、ほぼそのまま通過する。したがって、伝達関数の行列G
HPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号だけを除去するノッチフィルタ処理であることが確認できる。
【0093】
伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、逆相分信号を遮断し、正相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号だけを除去する場合には、伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0094】
第2実施形態に係る単独運転検出装置の内部構成を説明するためのブロック図は、
図2に示す第1実施形態に係る単独運転検出装置6のものにおいて、正相分電圧信号抽出部62a、逆相分電圧信号抽出部62b、正相分電流信号抽出部64a、および逆相分電流信号抽出部64bを、それぞれ、正相分電圧信号抽出部62a’(後述する
図11参照)、逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’に変更したものになる(なお、正相分電圧信号抽出部62a’以外は図示しない。)。正相分電圧信号抽出部62a’、逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’は、抽出したい成分以外の成分の通過を抑制することで所望の成分を抽出する。
【0095】
図11は、正相分電圧信号抽出部62a’の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0096】
同図に示す正相分電圧信号抽出部62a’は、基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6を備えている。基本波正相分遮断部NF1は、基本波の正相分の信号の通過を抑制するものであり、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFに表される処理を行う。中心角周波数ωとして、系統電圧の基本波の角周波数ω
0=120π[rad/sec](60[Hz])があらかじめ設定されている。
【0097】
基本波逆相分遮断部NF2は、基本波の逆相分の信号の通過を抑制するものであり、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行う。中心角周波数ωとして、系統電圧の基本波の角周波数ω
0=120π[rad/sec](60[Hz])があらかじめ設定されている。なお、この場合、伝達関数の行列G
HPFにおいて、中心角周波数ωとして「−ω
0」を設定することと同等となる。
【0098】
注入次数間高調波逆相分遮断部NF3は、注入次数間高調波の逆相分の信号の通過を抑制するものであり、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行う。中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数「2.4ω
0」があらかじめ設定されている。なお、この場合、伝達関数の行列G
HPFにおいて、中心角周波数ωとして「−2.4ω
0」を設定することと同等となる。
【0099】
5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、および11次高調波遮断部NF6は、それぞれ、5次高調波(正相分)、7次高調波(正相分)、11次高調波(正相分)の通過を抑制するものであり、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFに表される処理を行う。中心角周波数ωとして、それぞれ、5次高調波の角周波数「−5ω
0」、7次高調波の角周波数「7ω
0」、11次高調波の角周波数「−11ω
0」があらかじめ設定されている。
【0100】
図12(a)は、正相分電圧信号抽出部62a’の周波数特性を示す図である。基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6は、それぞれ、基本波の正相分、逆相分、注入次数間高調波の逆相分、5次高調波(正相分)、7次高調波(正相分)、11次高調波(正相分)の通過を抑制する周波数特性を有しているので、正相分電圧信号抽出部62a’全体としての周波数特性は、
図12(a)のようになる。同図によると、基本波成分(角周波数「ω
0」)、基本波の逆相分(角周波数「−ω
0」)、2.4次高調波の逆相分(角周波数「−2.4ω
0」)、5次高調波成分(角周波数「−5ω
0」)、7次高調波成分(角周波数「7ω
0」)、11次高調波成分(角周波数「−11ω
0」)が抑制され、その他の成分(2.4次高調波の正相分)が通過される。したがって、正相分電圧信号抽出部62a’は、2.4次高調波の正相分のみを好適に通過させることができ、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから2.4次高調波の正相分のみを抽出した正相分電圧信号Vαp,Vβpを出力する。
【0101】
一般的に、電力系統Bに重畳されている高調波は、5次、7次、11次高調波が多いので、本実施形態においては、これらと基本波の正相分および逆相分、注入次数間高調波である2.4次高調波の逆相分を抑制するようにしている。なお、正相分電圧信号抽出部62a’は、抑制する必要がある高調波の次数に応じて設計すればよい。例えば、高調波としては5次高調波のみを抑制したい場合は、7次高調波遮断部NF5および11次高調波遮断部NF6を備えている必要がなく、さらに13次高調波も抑制したい場合には、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFにおいて、中心角周波数ωとして「13ω
0」を設定した13次高調波遮断部をさらに備えるようにすればよい。
【0102】
正相分電圧信号抽出部62a’は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。また、正相分電圧信号Vαp,Vβpは、伝達関数の行列式によって容易に算出される。
【0103】
逆相分電圧信号抽出部62b’も、正相分電圧信号抽出部62a’(
図11参照)と同様に、6つの遮断部を備えている。逆相分電圧信号抽出部62b’においては、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3に代えて、注入次数間高調波正相分遮断部NF3’(図示しない)を備えている点が、正相分電圧信号抽出部62a’と異なる。注入次数間高調波正相分遮断部NF3’は、注入次数間高調波の正相分の信号の通過を抑制するものであり、上記(16)式に示す伝達関数の行列G
HPFに表される処理を行う。中心角周波数ωとして、注入次数間高調波の角周波数「2.4ω
0」があらかじめ設定されている。
【0104】
図12(b)は、逆相分電圧信号抽出部62b’の周波数特性を示す図である。基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3’、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6は、それぞれ、基本波の正相分、逆相分、注入次数間高調波の正相分、5次高調波(正相分)、7次高調波(正相分)、11次高調波(正相分)の通過を抑制する周波数特性を有しているので、正相分電圧信号抽出部62b’全体としての周波数特性は、
図12(b)のようになる。同図によると、基本波成分(角周波数「ω
0」)、基本波の逆相分(角周波数「−ω
0」)、2.4次高調波の正相分(角周波数「2.4ω
0」)、5次高調波成分(角周波数「−5ω
0」)、7次高調波成分(角周波数「7ω
0」)、11次高調波成分(角周波数「−11ω
0」)が抑制され、その他の成分(2.4次高調波の逆相分)が通過される。したがって、逆相分電圧信号抽出部62b’は、2.4次高調波の逆相分のみを好適に通過させることができ、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから2.4次高調波の逆相分のみを抽出した逆相分電圧信号Vαn,Vβnを出力する。
【0105】
正相分電流信号抽出部64a’は、正相分電圧信号抽出部62a’と同様、基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6を備えている。正相分電流信号抽出部64a’の周波数特性も
図12(a)の特性を示すので、基本波の正相分および逆相分、2.4次高調波の逆相分、5次高調波成分、7次高調波成分、11次高調波成分が抑制され、その他の成分(2.4次高調波の正相分)が通過される。したがって、2.4次高調波の正相分のみを好適に通過させることができ、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから2.4次高調波の正相分のみを抽出した正相分電流信号Iαp,Iβpを出力する。
【0106】
逆相分電流信号抽出部64b’は、逆相分電圧信号抽出部62b’と同様、基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、注入次数間高調波正相分遮断部NF3’、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6を備えている。逆相分電流信号抽出部64b’の周波数特性も
図12(b)の特性を示すので、基本波の正相分および逆相分、2.4次高調波の正相分、5次高調波成分、7次高調波成分、11次高調波成分が抑制され、その他の成分(2.4次高調波の逆相分)が通過される。したがって、2.4次高調波の逆相分のみを好適に通過させることができき、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβから2.4次高調波の逆相分のみを抽出した逆相分電流信号Iαn,Iβnを出力する。
【0107】
逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’も、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0108】
第2実施形態においても、正相分電圧信号Vαp,Vβp、逆相分電圧信号Vαn,Vβn、正相分電流信号Iαp,Iβp、および逆相分電流信号Iαn,Iβnを、伝達関数の行列式によって、それぞれ容易に抽出することができ、これらを用いて単独運転の判定をすることができる。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0109】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態の場合と同様に、伝達関数の行列の各要素の時定数に異なる値を用いるようにしてもよいし、時定数Tを共通にするようにして、正相分電圧信号抽出部62a’、逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’のうちいずれか2つ以上を一度に設計するようにしてもよい。
【0110】
第2実施形態においては、正相分電圧信号抽出部62a’、逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’の各遮断部で用いられる中心角周波数ωとして固定値をあらかじめ設定しておく場合について説明したが、これに限られない。信号処理のサンプリング周期が固定サンプリング周期の場合、基本波正相分遮断部NF1、基本波逆相分遮断部NF2、5次高調波遮断部NF4、7次高調波遮断部NF5、11次高調波遮断部NF6においては、系統電圧の基本波の角周波数ω
0を周波数検出装置などで検出して、検出された角周波数ω
0に基づいて中心角周波数ωを設定するようにしてもよい。なお、注入次数間高調波の角周波数は固定されているので、注入次数間高調波逆相分遮断部NF3および注入次数間高調波正相分遮断部NF3’においては、当該角周波数を固定値として設定すればよい。第1実施形態においても同様に、注入次数間高調波の角周波数を固定値として設定すればよいので、系統電圧の基本波の角周波数ω
0を周波数検出装置などで検出する必要はない。
【0111】
上記第1または第2実施形態においては、ローパスフィルタに代わる処理を用いる正相分電圧信号抽出部62a、逆相分電圧信号抽出部62b、正相分電流信号抽出部64a、および逆相分電流信号抽出部64bを備える場合と、ハイパスフィルタに代わる処理を用いる正相分電圧信号抽出部62a’、逆相分電圧信号抽出部62b’、正相分電流信号抽出部64a’、および逆相分電流信号抽出部64b’を備える場合について説明したが、これに限られない。例えば、正相分電圧信号抽出部62aおよび正相分電流信号抽出部64aを備え、ローパスフィルタに代わる処理を用いて正相分の信号を通過させることで抽出し、逆相分電圧信号抽出部62b’および逆相分電流信号抽出部64b’を備え、ハイパスフィルタに代わる処理を用いて逆相分の信号を抽出するようにしてもよい。また、正相分電圧信号抽出部62aを備えてローパスフィルタに代わる処理を用いて正相分の信号を通過させることで抽出し、逆相分電圧信号抽出部62bを備えてローパスフィルタに代わる処理を用いて逆相分の信号を通過させることで抽出し、正相分電流信号抽出部64a’を備えてハイパスフィルタに代わる処理を用いて正相分の信号を抽出し、逆相分電流信号抽出部64b’を備えてハイパスフィルタに代わる処理を用いて逆相分の信号を抽出するようにしてもよい。
【0112】
上記第1または第2実施形態においては、電力系統Bに2.4次高調波を注入して、検出した電圧信号および電流信号から2.4次高調波成分を抽出する場合について説明したが、これに限られず、2.4次以外の次数間高調波を利用するようにしてもよい。また、次数間高調波でない高調波を利用するようにしてもよい。次数間高調波を利用するようにしたのは、本来電力系統Bにほとんど存在しない高調波を利用することで、注入する電流を小さくしても精度よく抽出することができるからである。したがって、電力系統Bに存在する量が極めて小さい高調波(例えば、10次高調波など)であれば、次数間高調波に代えて利用することができる。利用する高調波の角周波数に応じて、中心角周波数ωを設定することで、所望の高調波の正相分の信号および逆相分の信号を抽出することができる。
【0113】
上記第1または第2実施形態においては、本発明に係る単独運転検出装置をインバータ制御装置とは別の構成として説明したが、インバータ制御装置に含めて、1つのマイクロコンピュータなどによって実現するようにしてもよい。
【0114】
上記第1または第2実施形態においては、本発明に係る単独運転検出装置を系統連系インバータシステムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る単独運転検出装置は、例えば同期発電機などの系統連系機器にも用いることができる。
【0115】
本発明に係る単独運転検出装置、系統連系インバータシステム、および、単独運転検出方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る単独運転検出装置、系統連系インバータシステム、および、単独運転検出方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。