特許第5770670号(P5770670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770670
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】発電及び希釈法、及び装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20150806BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20150806BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20150806BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20150806BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20150806BHJP
   B01D 61/24 20060101ALI20150806BHJP
   F03G 7/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   H02N11/00 Z
   C02F1/44 D
   C02F1/44 G
   B01D61/02 500
   B01D61/00 500
   B01D61/58
   B01D61/24
   F03G7/00 G
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-77345(P2012-77345)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2012-217333(P2012-217333A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2013年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-79332(P2011-79332)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021483
【氏名又は名称】公益財団法人 塩事業センター
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正巳
(72)【発明者】
【氏名】渕脇 哲司
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 智之
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077934(JP,A)
【文献】 特開2004−335312(JP,A)
【文献】 特開2012−030194(JP,A)
【文献】 特開2011−224506(JP,A)
【文献】 田中 健,電気浸透原理を応用した脱水システム,電気学会論文誌D(産業応用部門誌),日本,一般社団法人電気学会,1987,vol.7,p.852-859
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 3/00−99/00
H01M 12/00−16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈工程を含む、発電及び希釈法。
【請求項2】
前記発電及び希釈工程は、海水Aの厚み方向の両隣に陽イオン交換膜(C膜)又は陰イオン交換膜(A膜)を接触させるとともに位置させ、濃縮海水Bの厚み方向の両隣にC膜又はA膜を接触させるとともに位置させ海水Aの厚み方向の両隣が濃縮海水Bであり、濃縮海水Bの厚み方向の両隣が海水Aであるように位置させる、請求項1に記載の発電及び希釈法。
【請求項3】
海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈工程、該希釈海水BからRO膜にて淡水を抽出する淡水抽出工程、該淡水抽出工程で生成した濃縮海水Bを前記発電及び希釈工程に送るサイクルを含む、請求項1又は2に記載の発電及び希釈法。
【請求項4】
前記濃縮海水Bは、精製金属塩の濃縮水溶液である、請求項1〜のいずれか1項に記載の発電及び希釈法。
【請求項5】
前記濃縮海水Bは、溶質濃度が、6〜7質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載の発電及び希釈法。
【請求項6】
海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈部を含む、発電及び希釈装置。
【請求項7】
前記発電及び希釈部は、海水Aの厚み方向の両隣に陽イオン交換膜(C膜)又は陰イオン交換膜(A膜)を接触させるとともに位置させる手段、及び濃縮海水Bの厚み方向の両隣にC膜又はA膜を接触させるとともに位置させる手段を含む発電及び希釈装置であって、前記両手段は、海水Aの厚み方向の両隣が濃縮海水Bであり、濃縮海水Bの厚み方向の両隣が海水Aであるように位置させる手段である、請求項6に記載の発電及び希釈装置。
【請求項8】
海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈部、該希釈海水BからRO膜にて淡水を抽出するとともに濃縮海水Bを生成する淡水抽出部、該希釈海水Bを該淡水抽出部へ移送する手段、及び該淡水抽出部で生成した濃縮海水Bを該発電及び希釈部へ移送する手段を含む、請求項6又は7に記載の発電及び希釈装置。
【請求項9】
前記濃縮海水Bは、精製金属塩の濃縮水溶液である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の発電及び希釈装置。
【請求項10】
前記濃縮海水Bは、溶質濃度が、6〜7質量%である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の発電及び希釈装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電及び希釈法、及びその方法を用いた発電及び希釈装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、海水からの淡水化に逆浸透膜を利用することが多い。この逆浸透膜法では、半透膜を介して海水を流動させ、浸透圧以上の圧力をかけることで海水中の水だけを半透膜を透して採取するものである。このとき、海水は水が除去されることにより、本来3.5%程度であった塩分濃度が6〜7%まで濃縮されることになり、濃縮された海水(以降、濃縮海水)をそのまま廃棄できないという問題点があった。
【0003】
この問題点の解決方法の一つとして、半透膜を利用した手法が検討された例が見られる。この方法は、濃縮海水と海水、あるいは淡水との間に半透膜を挟み、海水中の水あるいは淡水が浸透圧によって濃縮海水側に透過させることによって、濃縮海水を希釈しようとするものである。さらに、浸透水をタービン、あるいは水車等に供給し、その回転によって発電させることができるといった利点もある(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−176775号公報
【特許文献2】特開2009−047012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現行の半透膜を利用した場合には浸透水量が少ないため、膜面積が多大になることや、大型設備の割に発電量が小さいことなどの問題点もある。
本発明は、小型の設備で大きな発電量を得ることができ、濃縮海水の希釈が容易である発電及び希釈法、及び発電及び希釈装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1)海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈工程を含む、発電及び希釈法。
2)海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈部を含む、発電及び希釈装置。
【0007】
本発明は、海水の水を、イオン交換膜を介して濃縮海水に移動させ、かつ濃縮海水のイオンを海水に移動させて発電を行うとともに希釈海水を調製することを特徴とし、イオン交換膜を用いることに最大の特徴がある。
また、本発明は、上記希釈海水をRO膜にて淡水を抽出するとともに該淡水抽出で生成した濃縮海水を前記イオン交換膜を介した発電及び希釈工程、又は発電及び希釈部に送るサイクルからなる方法、及び装置であって、発電と海水の淡水化を行うことができる方法及び装置も提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、海水にイオン交換膜を利用して発電を行うとともに濃縮海水を希釈することができるので、極めて効率的である。また、希釈された濃縮海水は、通常、そのまま廃棄可能であり、所望によりRO膜にて淡水を得ることができ、結果的に海水から淡水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の方法を説明するための模式図である。
図2】水頭差と浸透水量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。
本発明において、濃縮海水Bとは、全塩分濃度が5質量%以上である水溶液を意味するのであれば、海水の濃縮物に限定されず、基本的に任意であり、後述のように人工の食塩水等を含むものを意味し、ゴミ等の不溶物は含まれない。ここで、塩分とは、蒸発乾固したときの金属塩を意味し、また、「B」とは後述のように便宜的な符号である。以下、特に言及がない限り、「%」は、「質量%」を意味する。
また、海水Aとは、単に海水とすると濃縮海水Bとの由来が不明確になることを回避するために便宜的に呼称するものであり、実体は海水又はその相当物である。
【0011】
本発明を工程順に説明する。
本発明の発電及び希釈工程は、海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて発電を行うとともに希釈海水Bを調製する工程である。
この発電及び希釈工程では、海水Aと濃縮海水Bは、イオン交換膜に接触しているとともにイオン交換膜を介して海水Aと濃縮海水Bの間に電位又は浸透圧が形成可能なように分離している。イオン交換膜としては、陽イオン交換膜(以下、C膜とも記す)及び陰イオン交換膜(以下、A膜とも記す)を交互に配置可能な平膜構造が好ましく、C膜及びA膜の構造(支持体の有機高分子構造、支持体に結合させたイオン交換基の種類等)は特に上記機能を有するものであれば、特に制限はない。
【0012】
イオン交換膜は、親水性のイオン交換基を膜中に配置させた構造を持ち、これによりイオンの透過を行わせる。また、親水性となる構造の特徴から、通常の半透膜より浸透水量を大幅に増大させることが可能となるため、浸透圧発電を行った場合でも、膜面積を低減できるとともに、発電量も増加させることができる。
一方、イオン交換膜では、膜を挟んだ海水A又は濃縮海水Bの濃度差に応じて、膜電位が生じる。例えば、全塩分濃度が6〜7%の濃縮海水Bと3.5%の海水との間には、概ね20mV程度の膜電位を生じる。すなわち、濃縮海水B中のイオンはこの電位勾配に応じてイオン交換膜を透過し、海水側に移動させるとともに海水Aの水を濃縮海水Bへ移動させることができるため、濃縮海水の希釈が容易となる。さらに、イオンの移動に伴って電流を流すことができるため、イオン交換膜を4000〜6000枚を配置した装置を用いれば、装置の両端には80〜120Vの電圧を得ることができる。
【0013】
これとは別に、半透膜を利用した手法では、スパイラル膜や中空糸膜を使用するのが一般的なため、洗浄は薬品洗浄が主流であり、ファウリング対策が重要となるが、本発明はイオン交換膜としては平膜であることが好適であり、このイオン交換膜を装着した装置は、容易に解体でき、イオン交換膜自体の洗浄を行うことで再生できる。本発明は、上記装置として、通常、製塩(食塩)用のイオン交換膜電気透析装置(ED装置ともいう)を発電器として用いることができる利点がある。この場合では、1年に一度程度解体洗浄を行っているが、イオン交換膜の性能劣化などはほとんどなく、10年以上の使用を可能としている。
例えば、本発明に適用可能なED装置としては、例えば、造水技術ハンドブック、2004年11月25日、造水技術ハンドブック編集企画委員会編、財団法人 造水促進センター発行、113頁図基I−13.24に記載のもの等が挙げられる。
【0014】
本発明の発電及び希釈工程は、海水Aの厚み方向の両隣にC膜又はA膜を接触させるとともに位置させ、濃縮海水Bの厚み方向の両隣にC膜又はA膜を接触させるとともに位置させ、海水Aの厚み方向の両隣が濃縮海水Bであり、濃縮海水Bの厚み方向の両隣が海水Aであるように位置させることが好ましい。すなわち、本発明は、C膜とA膜との間に形成される別個の空間(以下、膜空間ともいう)内に海水A又は濃縮海水Bを注入し、濃縮海水Bが注入された膜空間には希釈海水Bが調製されるとともに該希釈海水Bを導出、集水する機構を有することが好ましく、海水Aが注入された膜空間には濃縮された海水Aが調製されるとともに濃縮された海水Aを導出、集水する機構を有することが好ましい。海水A、濃縮海水Bの膜空間への注入、導出方式は、バッチ式でも連続式でもよい。海水Aが注入された膜空間には濃縮された海水Aが生じるが、これを濃縮海水Bとして用いるようにしてもよい。また、濃縮された海水Aを膜空間に保持し、希釈海水Bの導出により空いた膜空間に注入する濃縮海水Bとして、濃縮された海水Aの全塩分濃度よりも高い濃度のものを用いるようにしてもよい。
【0015】
また、本発明の発電及び希釈法は、海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈工程、該希釈海水BからRO膜にて淡水を抽出するとともに濃縮海水Bを生成する淡水抽出工程、該淡水抽出工程で生成した濃縮海水Bを前記発電及び希釈工程に送るサイクルを含むことが好ましい。
また、本発明の発電及び希釈装置は、海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈部、該希釈海水BからRO膜にて淡水を抽出するとともに濃縮海水Bを生成する淡水抽出部、該希釈海水Bを該淡水抽出部へ移送する手段、及び該淡水抽出部で生成した濃縮海水Bを該発電及び希釈部へ移送する手段を含むことが好ましい。この発電装置は、濃度差発電及び浸透圧発電を併用するものである。
本発明において、発電及び希釈部の濃縮海水Bと淡水抽出部で生成される濃縮海水Bの塩分濃度は一定でなくてもよいが、海水Aより高濃度である必要がある。
本発明において、発電及び希釈部を浸透圧発電に構成する場合には、希釈部に希釈海水Bによる浸透圧を保持する手段及び浸透圧を受けるタービン発電装置等を備えている必要がある。浸透圧利用後の希釈海水Bは、廃棄してもよいし、所望により、希釈海水Bを淡水抽出部へ移送することができるが、発電及び希釈部を濃度差発電装置のみに構成する場合は、該浸透圧を保持する手段は必要としない。また、同様に濃度差発電利用後の希釈海水Bは、廃棄してもよいし、所望により、希釈海水Bを淡水抽出部へ移送することができる。
【0016】
前記発電及び希釈部は、海水Aの厚み方向の両隣に陽イオン交換膜(C膜)又は陰イオン交換膜(A膜)を接触させるとともに位置させる手段、及び濃縮海水Bの厚み方向の両隣にC膜又はA膜を接触させるとともに位置させる手段を含む発電及び希釈装置であって、前記両手段は、海水Aの厚み方向の両隣が濃縮海水Bであり、濃縮海水Bの厚み方向の両隣が海水Aであるように位置させる手段であることが好ましく、濃度差発電装置及び/又は浸透圧発電装置に構成されることが好ましい。
本発明において、厚み方向とは、前記膜空間の膜に対して垂直方向を意味する。この膜空間は、膜と、膜を保持する手段と、海水A又は濃縮海水Bを保持する壁部材から構成される。この発電及び希釈部が有する膜空間の数は、特に制限はないが、浸透圧発電装置及び濃度差発電装置に併用して適用するときは2000個以上が好ましい。この発電及び希釈部は、膜空間の数が同一又は異なる独立した装置を直列または並列またはそれらの併用で構成することができる。発電及び希釈部を濃度差発電装置に適用する場合は、各装置は、その両端に電極を備えている必要がある。
【0017】
本発明は、前記濃縮海水Bとして、精製金属塩の濃縮水溶液、例えば、NaCl濃縮水溶液を用いると、希釈海水B、淡水抽出工程で生成した濃縮海水Bでは、何れも純粋な塩化ナトリウム水溶液であり、サイクル系内は塩化ナトリウム水溶液が循環することになる。これにより、従来の問題点であった淡水化装置での炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのスケール析出トラブル及び海水の有機物などによるファウリングを未然に防ぐことができ、さらに淡水への海水中のホウ素の混入も抑制できる。
【0018】
発電及び希釈工程で生成した希釈海水Bから淡水を抽出するために用いるRO膜としては、膜の構造(支持体の有機高分子構造等)及び全体形状(平膜、スパイラル、中空糸等)も水を選択的に透過できるものであれば、特に制限はない。
【0019】
本発明の装置は、海水Aの水を、イオン交換膜を介して濃縮海水Bに移動させて浸透圧発電を行い、かつ濃縮海水Bのイオンを、イオン交換膜を介して海水Aに移動させて濃度差発電を行うとともに、希釈海水Bを調製する、発電及び希釈部、該希釈海水BからRO膜にて淡水を抽出するとともに濃縮海水Bを生成する淡水抽出部、該希釈海水Bを該淡水抽出部へ移送する手段、及び該淡水抽出部で生成した濃縮海水Bを該発電及び希釈部へ移送する手段を含み、上記濃縮海水Bと上記希釈海水Bのサイクルを実施することができる。上記移送する手段としては、管、バルブ、ポンプ、コンプレッサー並びにそれらの制御装置等が挙げられる。
【0020】
以下、図を参照して、本発明の実施態様を説明する。
図1は、本発明の方法が浸透圧発電装置及び濃度差発電装置に適用される発電及び希釈部の構成を模式的に示したものである。1は、発電及び希釈部であり、発電及び希釈部1には、A膜(A)とC膜(C)で囲まれる膜空間5、6、及び7(他の膜は不図示)が形成され、海水A(膜空間6に注入される)の厚み方向の両隣にC膜(C)又はA膜(A)を接触させるとともに位置させる手段、及び濃縮海水B(膜空間5に注入される)及び(膜空間7に注入される)の厚み方向の両隣にC又はAを接触させるとともに位置させる手段を含み、前記両手段は、海水A(膜空間6に注入される)の厚み方向の両隣が濃縮海水B(膜空間5に注入される)及び(膜空間7に注入される)であり、濃縮海水B(膜空間5に注入される)及び(膜空間7に注入される)の厚み方向の両隣が海水A(膜空間6に注入される)であるように位置させる手段を備え、AとCの組の総数は、2000組以上であり、膜間距離は、0.03〜0.1cmである。この態様では、濃縮海水Bとして、5質量%以上(通常は6〜7質量%)のNaCl水溶液(濃食塩水)を、海水Aとして全塩分濃度3.5質量%の海水を用いる。また、C及びAは、製塩用のイオン交換膜である。
【0021】
図1(a)は、海水と濃食塩水が膜空間内に交互に注入され、同膜空間内に保持されることにより、膜を介してイオン及び水が移動し、電力が発生している状態を模式的に示している。●は、Naであり、○はClであり、■は水であり、矢印方向は、移動方向を示す。塩濃度の差異により、水(3)は、海水から濃食塩水へ移動して、濃食塩水を希釈し、Na(2)は、紙面の右へ、Cl(4)は紙面の左へ移動し、装置両端に電位80〜120Vが発生し、電極(+)又は(−)から60A/m程度の電流密度を得ることができる。図中、8は、ガスの発生を防ぐための循環される電極液であり、9は、電極液を保持する電流透過性の膜である。
【0022】
図1(b)は、図1(a)のイオン及び水の移動の結果を模式的に示したものであり、膜空間6等に注入された海水は濃縮され、膜空間5及び7等に注入された濃食塩水は希釈されることを示している。このとき、希釈された濃食塩水(希食塩水ともいう)の全塩分濃度は、4質量%程度であり、濃縮された海水の全塩分濃度は、4質量%程度である。
次に(b)状態の膜空間5及び7等に生成された希食塩水を全量、導出してRO装置へ移送するとともに食塩濃度を下記新たな海水により希釈された海水に比べ高くした食塩水(この該海水に比べ高くした食塩水は、RO処理後の濃食塩水のままでもよいし、適宜濃度を調整したもの、例えば、食塩濃度を高めたものでもよい)を同膜空間に注入し、膜空間6等で濃縮された海水はそのまま維持し、濃食塩水の希釈に使用された容量とほぼ同量の新たな海水を注入する。装置両端には、電位80〜120Vが発生し、60A/mの電流密度を得ることができる。上記操作は、繰り返すと膜空間6における海水の濃度が高くなり、初期の濃食塩水との濃度差が小さくなり、効率が低下するので、適宜、濃食塩水の濃度を高めたり、膜空間6の海水の抜き取り等、該濃度差を高く維持することが好ましい。また、上記操作は、連続式に実施することも可能である。
【0023】
上記は、発電及び希釈部を濃度差発電装置として構成した例を説明したが、同じ構成で浸透圧発電装置の浸透圧発生装置としても用いるもできるし、濃度差発電装置と兼用することもできる。例えば、実施例に記載のような兼用装置において、実施例では浸透圧発電として、膜空間に供給される濃縮海水を浸透水とともにタービンに供給するシステムであるが、該システムにおいて、膜空間に供給される海水を、該濃縮海水とは独立にタービンに供給可能なように上記タービンを改変することにより実施することもできる。
濃度差発電、浸透圧発生装置として用いる場合、上記濃食塩水と海水の膜空間への注入、希釈した食塩水を淡水抽出部へ移送する操作は、バッチ式でも連続式でもよいが、以下、連続式に好適な一例を説明する。
【0024】
上記発電及び希釈工程で生成した希食塩水は、RO膜で淡水を抽出する工程へ移送される。
RO装置として、例えば、中空糸膜モジュールを備えた密閉式とし、ポンプによりRO膜内へ淡水を導入する方式を有する装置を用いる。ポンプは、浸透圧以上の圧力を出すので、この圧力を膜空間からの希食塩水の導出及び淡水抽出部で生成した濃食塩水の膜空間への注入に利用することができる。
更に、同ポンプ動力を用いて該押し出された淡水又は生成した濃食塩水をタービンに導入し浸透圧発電に利用することもできるとともに濃食塩水の発電及び希釈部への返送に利用することもできる。
また、製造された電力は、上記ポンプの動力源等として利用できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
海水として相模湾から取水した海水、濃縮海水として逆浸透膜を用いて前記海水から水を50%回収し、全塩分濃度が7質量%の海水を用い、また、本発明の発電及び希釈装置(以下、発電装置と略す)のイオン交換膜には製塩用のものを用いた。この発電装置は、浸透圧発電と濃度差発電の両方が同時に可能な構成である。
実施例1
【0026】
海水を図1に示す膜空間6に、濃縮海水を膜空間5および膜空間7に導入し、膜空間6(海水導入側)と膜空間5および膜空間7(濃縮海水導入側)との水頭差を均等あるいは3mとしたときの海水から濃縮海水への水の移動量(浸透水量)を図2に示した。
図2から、イオン交換膜を介して海水側から濃縮海水側に水が浸透し、また、この浸透水量は濃縮海水を導入した膜空間よりも海水を導入した膜空間側の水頭を高くすることで多くなった。
この水頭差3.1mの浸透水量(17.3ml/(dm・h))を例に、膜面積178.5dm、膜間隔0.075cm、陽、陰イオン交換膜各々2,100枚装着した発電装置に92×0.075cmの面積の5cm/secの速度で海水および濃縮海水を各々の膜空間に下から上に供給したときの浸透水量を算出すると、1日あたり311mとなる。また、この浸透水量と発電装置に導入した濃縮海水の水量の和、1日あたり6,571mを有効落差15mでタービン供給した場合、タービンの発電効率η80%における出力電力Pは、9kWとなる。なお、発電力は下記に示す式により算出した。
P=QHgη/100
ここで、P:出力電力[kW]、Q:流量[m/sec]、H:有効落差[m]、η:発電効率[%]、g:重力加速度[9.8m/sec
1日当たり50,000mの水を造る逆浸透膜設備から排出される1日当たり約50,000mの濃縮海水を前記した発電装置を用いて希釈し、これより得られた浸透水量と発電装置に導入した濃縮海水により発電を、以下のように実施すると1日当たり1,728kWhの発電量を得ることができる。
送液量/1基[m/day]=6,260
1日あたり50,000mに必要な発電装置基数[基]=8
1日あたりの発電量[kWh]=8[基]×9[kW]×24[h]=1,728
【0027】
実施例2
実施例1における有効落差を均等としたときの膜空間5と膜空間7に掛かる電位を測定した。この結果、約0.04Vの電位差が得られ、膜電位として陽イオン交換膜、陰イオン交換膜両方が計測された。
これより、上述のように膜面積178.5dm、膜間隔0.075cm、陽、陰イオン交換膜2,100対装着した発電装置に5cm/secの速度で海水および濃縮海水を各々の膜空間に下から上に供給したときの総電圧は、0.04V×2100=84Vとなる。このとき得られる電流Iは、発電装置の内部抵抗値Rと総電圧Emより算出できる。
すなわち、
I=S・Em/R
=S・Em/(Ra+Rk+nR+nR+nρd/100+ρd/100)
【0028】
ただし、Ra,Rk:アノード、カソード電極における反応抵抗[Ω]
,R:陰イオン交換膜、陽イオン交換膜の伝導抵抗[いずれも0.02Ω]
ρ,ρ:濃縮海水、海水の比抵抗[7.2695,17.5251Ωcm]
d:膜間隔[0.075cm]
S:有効膜面積[178.5dm
n:対数[2,100]
この内、R、Rは、電極材料の選択にもよるが、銀−塩化銀電極を用いれば、反応抵抗は0とみなせる。
したがって、電流Iは、
【0029】
【数1】
【0030】
したがって、発電量は121.86×84=10,237W
なお、実施例1と同様に、1日あたり50,000mの水を造る逆浸透膜設備から排出される1日あたり約50,000mの濃縮海水を発電装置、8基に供給する場合、濃度差発電による全発電量は一日あたり1,965kWhとなる。
また、発電装置と同様の構成からなる装置に電力を供給することにより、さらに濃縮海水中の塩分を海水側に移動させることができるため、濃縮海水の更なる希釈にも活用できる。
また、上述のように発電装置に5cm/secの速度で海水および濃縮海水を各々の膜空間に下から上に供給したときの浸透水量と発電装置に導入した濃縮海水の水量の和を有効落差0でタービン供給したところ、実施例1に準じた発電量が得られた。
【符号の説明】
【0031】
1…希釈部、2…Na、3…水、4…Cl、5、6、7…膜空間、8…電極液、9…
図1
図2