(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、硫酸リチウムを還元することによって硫化リチウムを製造する方法である。より具体的には、本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、以下の2つの工程を含んでいる。
(1)硫酸リチウムを含む粉末を、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、粒子径d
90が50.0μm以下の微粒子に調整する微粒子化工程
(2)得られた硫酸リチウムを含む微粒子を還元することにより、硫化リチウムを得る還元工程
【0014】
原料である硫酸リチウムを含む粉末は特に限定されず、市販されている粉末を使用してもよいし、例えば炭酸リチウムと硫酸との反応により得られる粉末を使用してもよい。高純度な硫化リチウムを得る観点から、不純物の少ない硫酸リチウムを使用することが好ましい。
【0015】
以下、各工程について詳細に説明する。
(微粒子化工程)
はじめに、硫酸リチウムを含む粉末を、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、粒子径d
90が50.0μm以下の微粒子に調整する微粒子化工程について説明する。
【0016】
本実施形態に係る微粒子化工程では、硫酸リチウムを含む粉末を、重量基準粒度分布における、粒子径d
90が50.0μm以下、好ましくは粒子径d
90が30.0μm以下、より好ましくは粒子径d
90が15.0μm以下、特に好ましくは粒子径d
90が13.0μm以下の微粒子に調整する。粒子径d
90を上記上限値以下とすることにより、硫酸リチウムと、後述する還元剤との接触面積を大きくすることができるため、硫酸リチウムの還元反応を促進することができる。そうすると、得られる硫化リチウム中の未反応原料を低減できるため、高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0017】
また、本実施形態に係る微粒子化工程では特に限定されないが、硫酸リチウムを含む微粒子のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、粒子径d
10を好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1.0μm以上、特に好ましくは2.0μm以上に調整することが好ましい。
【0018】
硫酸リチウムを含む微粒子の粒子径分布を上記範囲内とすることにより、硫酸リチウムを含む微粒子と、後述する還元剤との還元反応をより均一におこなうことができる。そうすると、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減でき、その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0019】
また、本実施形態に係る微粒子化工程では特に限定されないが、硫酸リチウムを含む微粒子のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における、平均粒子径d
50を好ましくは15.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下、特に好ましくは7.0μm以下に調整することが好ましい。また、硫酸リチウムを含む微粒子の平均粒子径d
50の下限値は特に限定されないが、取り扱い性の観点から、例えば3.0μm以上である。
硫酸リチウムを含む微粒子の平均粒子径d
50を上記範囲内とすることにより、硫酸リチウムを含む微粒子と、後述する還元剤との還元反応をより均一におこなうことができる。そうすると、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減でき、その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0020】
また、本実施形態に係る微粒子化工程では特に限定されないが、硫酸リチウムを含む微粒子のBET法による比表面積を、0.1m
2/g以上1.4m
2/g以下に調整することが好ましい。
BET法による比表面積を上記範囲内とすることにより、硫酸リチウムと、後述する還元剤との接触面積を大きくすることができるため、硫酸リチウムの還元反応を促進することができる。そうすると、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減でき、その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0021】
硫酸リチウムを含む粉末を微粒子化する方法は特に限定されないが、例えば、硫酸リチウムを含む粉末を第一溶媒に溶解させた後、第二溶媒に微粒子状に再沈殿させる再沈殿法や、硫酸リチウムを含む粉末を機械的粉砕法により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整する方法などが挙げられる。
【0022】
以下、上記再沈殿法について説明する。
はじめに、硫酸リチウムを含む粉末を水などの第一溶媒に溶解して硫酸リチウム溶液を調製する。次いで、得られた硫酸リチウム溶液をアルコールなどの第二溶媒に添加して、硫酸リチウムを分散させながら微粒子状に再沈殿させることにより、硫酸リチウムを含む上記粉末を微粒子化する。
【0023】
硫酸リチウムを含む粉末を溶解させる第一溶媒については特に限定されないが、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを用いることができる。高純度の硫化リチウムを得ることができる観点から、蒸留水やイオン交換水を用いるのが好ましい。
【0024】
硫酸リチウムを微粒子状に再沈殿させる第二溶媒としては硫酸リチウムを微粒子状に分散できるものであれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−メトキシエタノール(メチルセルソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセルソルブ)、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの第二溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコールが好ましい。硫酸リチウムの溶解度が小さい、安全性および価格の点から、エタノールが特に好ましい。
【0025】
硫酸リチウムを微粒子状に再沈殿させる操作においては、第二溶媒を攪拌させながら硫酸リチウム溶液を添加することが好ましい。この場合、攪拌速度や硫酸リチウム溶液の添加速度を調整することにより、得られる硫酸リチウムを含む微粒子の粒子径を所望の値に調整することができる。
攪拌速度や硫酸リチウム溶液の添加速度は、硫酸リチウム溶液の処理量や所望の粒子径によって適宜決定することができる。
【0026】
再沈殿法に使用される反応装置としては、特に限定されないが、反応槽、撹拌翼を有し、硫酸リチウム溶液の供給手段、溶媒除去手段、加熱冷却手段などが装備されている装置が好ましい。
【0027】
上記再沈殿操作により得られた硫酸リチウムを含む沈殿物と、溶媒とを分離する方法は特に限定されないが、例えば、濾紙を用いた吸引濾過法や、温度を上げて溶媒を蒸発させて除去する方法などが挙げられる。
得られた沈殿物は、上述した第二溶媒などで洗浄することが好ましい。こうすることにより、より一層高純度の硫酸リチウムを得ることができる。
【0028】
こうした操作によって得られた硫酸リチウムを含む微粒子は、加熱することにより脱水和させることが好ましい。脱水和することにより、得られた硫酸リチウムを含む微粒子をさらに微細化することができる。
【0029】
脱水和させるときの加熱温度としては特に限定されないが、例えば、130℃以上250℃以下の範囲である。加熱時間は、硫酸リチウムを含む微粒子の処理量によって適宜決定される。
【0030】
次に、上記の硫酸リチウムを含む粉末を機械的粉砕法により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整する方法について説明する。
【0031】
上記の機械的粉砕法としては特に限定されないが、例えば石臼、ボールミル、ジェットミル、気流式粉砕機などを用いた方法が挙げられる。
上記の分級操作は特に限定されないが、例えばふるい分け機などを用いて分級する方法、重力分級する方法、遠心分離機などを用いて分級する方法、慣性分級する方法などが挙げられる。
機械的粉砕法により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する硫酸リチウムを含む微粒子を得ることができる。
【0032】
(還元工程)
次に、得られた硫酸リチウムを含む微粒子を還元することにより、硫化リチウムを得る還元工程について説明する。
【0033】
本実施形態の硫化リチウムの製造方法では特に限定されないが、例えば、硫酸リチウムを含む微粒子と、還元剤とを攪拌混合することにより、硫酸リチウムを還元させて硫化リチウムを生成させる。例えば、還元剤として炭素微粒子を用いた場合は、下記(1)式のような反応が起きていると考えられる。
Li
2SO
4 + 2C → Li
2S +2CO
2 (1)
還元反応が進行し、反応系から原料である硫酸リチウムが消失すると、反応による二酸化炭素の発生が止まるため、二酸化炭素の発生量をモニタリングすることにより、反応の進行度合を知ることができる。
【0034】
硫酸リチウムを還元する方法については特に限定されないが、硫酸リチウムと還元剤とを混合して加熱することにより、硫酸リチウムを還元する方法が好ましい。
【0035】
還元剤としては特に限定されないが、例えば、蔗糖、澱粉などの有機物、カーボンブラック、黒鉛粉末などの炭素微粒子が挙げられる。これらの中でも、粒子径が小さく、価格が安いカーボンブラックが好ましい。
【0036】
還元剤のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50は、好ましくは0.1μm以下であり、より好ましくは0.05μm以下である。還元剤の平均粒子径d
50が上記上限値以下であると、硫酸リチウムと、還元剤との接触面積が大きくなり還元反応が促進されるため、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減させることができる。その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
還元剤の平均粒子径d
50の下限値は、例えば、0.02μm以上である。上記下限値以上であると、還元剤の取り扱い性を向上させることができる。
【0037】
硫酸リチウムと還元剤とを混合して加熱する方法としては特に限定されないが、例えば、ビーズミル、ジェットミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、オングミルなどの粉砕・分散機を用いて攪拌混合しながら加熱する方法が挙げられる。
こうした粉砕・分散機を用いることにより、硫酸リチウムと還元剤とを混合粉砕しながら、還元反応をおこなうことができる。そうすると、硫酸リチウムと、還元剤との接触効率が向上して還元反応が促進されるため、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減させることができる。その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
また、攪拌混合時に、エタノールなどの第二溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態で攪拌混合をすることが好ましい。こうすることにより、より効率良く還元反応を進めることができる。
【0038】
硫酸リチウムと還元剤とを混合して加熱するときの攪拌速度や処理時間、加熱温度、反応圧力などの反応条件は、硫酸リチウムを含む微粒子の処理量によって適宜決定することができる。
【0039】
本実施形態に係る還元工程では、硫酸リチウムを含む微粒子に対する還元剤の混合モル比は、好ましくは1.8以上2.2以下であり、より好ましくは1.9以上2.0以下である。
硫酸リチウムを含む微粒子に対する還元剤の混合モル比を上記範囲内とすることにより、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減させることができる。その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る還元工程では、硫酸リチウムを含む微粒子に対する還元剤の混合重量比は、好ましくは0.19以上0.24以下であり、より好ましくは0.20以上0.22以下である。
硫酸リチウムを含む微粒子に対する還元剤の混合重量比を上記範囲内とすることにより、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより一層低減させることができる。その結果、より一層高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0041】
最後に、得られた粉末を必要に応じて、真空加熱などにより乾燥させることで硫化リチウムを得ることができる。
このときの加熱温度、加熱時間、容器内の圧力、などの乾燥条件は、得られた硫化リチウムの処理量によって適宜決定することができる。
【0042】
本実施形態の製造方法により得られた硫化リチウムは、例えば、リチウムイオン電池用の固体電解質、リチウムイオン電池用正極材料、化学薬品用の中間原料として好適に用いることができる。本実施形態の製造方法により得られた硫化リチウムは、高純度であるため、特に高純度が求められるリチウムイオン電池用の固体電解質およびリチウムイオン電池用正極材料用の原料として特に好適に用いることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例)
(微粒子化工程)
蒸留水100mLに硫酸リチウムの一水和物(化学式Li
2SO
4・H
2O、フートミネラル社製)25.00gを溶解させ、硫酸リチウム水溶液を調製した。
次いで、調製した硫酸リチウム水溶液を500mLエタノール中に添加して、硫酸リチウムの一水和物の微粒子を沈殿させた。得られた沈殿物をエタノールで洗浄後、吸引濾過して硫酸リチウムの一水和物の沈殿物を得た。得られた沈殿物は24.83gであり、収率は99.3%であった。
最後に、得られた沈殿物を、大気圧下、200℃、2時間加熱して硫酸リチウムの一水和物を脱水和させた。
ここで、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、硫酸リチウムの脱水和前後の粒子径d
10、d
50、およびd
90をそれぞれ測定した。得られた結果を表1に示す。
【0046】
(還元工程)
つづいて、ZrO
2ボールとともに、脱水和させた硫酸リチウム10gをAl
2O
3製ポットに投入し、そこへ脱水エタノール20mL、カーボンブラック(平均粒子径d
50:28nm、東海カーボン社製、シースト300)2.07gをそれぞれ添加した。
次いで、160rpmで約16時間、硫酸リチウムとカーボンブラックを混合粉砕した。
混合粉砕後、真空下(933Pa)、830℃、1.5hの条件で還元反応を行った。
【0047】
X線回折装置(XRD)により、乾燥して得られた白色粉末のX線回折パターンを測定し、硫化リチウム(Li
2S)と硫酸リチウム(Li
2SO
4)との強度比から、硫酸リチウムの残存量を定量した。なお、試薬の硫化リチウムと硫酸リチウムを検量線に用いた。
また、蛍光X線分析(EDX)により、乾燥して得られた白色粉末中の炭素の残存量を定量した。なお、試薬の硫化リチウムとカーボンブラックを検量線に用いた。
得られた結果を表1に示す。また、乾燥して得られた白色粉末のX線回折パターンを
図1に示す。
【0048】
(比較例)
比較例では、硫酸リチウムの一水和物(化学式Li
2SO
4・H
2O、フートミネラル社製)を微粒子化させずにそのまま使用した。
まず、この硫酸リチウムの一水和物を、大気圧下、200℃、2時間加熱して脱水和させた。
ここで、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製マスターサイザー3000)を用いて、硫酸リチウムの脱水和前後の粒子径d
10、d
50、およびd
90をそれぞれ測定した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
(還元工程)
つづいて、ZrO
2ボールとともに、脱水和させた硫酸リチウム10gをAl
2O
3製ポットに投入し、そこへ脱水エタノール20mL、カーボンブラック(平均粒子径d
50:28nm、東海カーボン社製、シースト300)2.07gをそれぞれ添加した。
次いで、160rpmで約16時間、硫酸リチウムとカーボンブラックを混合粉砕した。
混合粉砕後、真空下(933Pa)、830℃、1.5hの条件で還元反応を行った。
【0050】
(評価結果)
比較例で得られた硫化リチウムには硫酸リチウムのピークが観察されたが、実施例で得られた硫化リチウムには硫酸リチウムのピークが観察されなかった(
図1)。また、実施例で得られた硫化リチウムは、比較例で得られたものに比べて、硫酸リチウムおよび炭素の残存量が少なく、純度が高いものであった。
【0051】
【表1】