(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レバー本体と前記固定プレートとが最も離間した位置での前記平面が摺接する前記摺動方向における長さは、前記レバー本体と前記固定プレートとの摺動距離よりも長いことを特徴とする請求項2に記載のシートベルト装置。
前記レバー本体のスライド部と前記固定プレートのガイド部との一方には突起部が設けられ、前記レバー本体のスライド部と前記固定プレートのガイド部との他方には、該突起部を収容する凹部が設けられており、
前記スライド部と前記ガイド部とは抜け止めされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートベルト装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、
図18に記載のレバー部材200では、スライドピース205はレバー部材200に対して厚くなり、ボルト締結時にスライドピース205が変形し易く、また、スライドピース205とレバー部材200の孔部204との接触面積も小さいので、位置調整時にがたつきやすく、長期間の使用で破損する虞がある。また、レバー部材200は、スライドなどの微動に対するマージンがほとんどないので、位置決め後のシートバックのリクライニングによるがたを十分に吸収できない可能性がある。この結果として、加速度センサを水平に保つことが難しくなる場合がある。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、レバー部の固定部を小さくすることができ、リクライニング時におけるレバー部のがたを抑制して耐久性を向上させて、加速度センサを常に水平に調整可能な状態に維持することができるシートベルト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成によって達成される。
(1) リクライニング式シートのシートバックに取り付けられ、必要時にシートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、
前記リクライニング式シートのシートバックとシートクッションの連結軸に配置され、前記シートバックが車両前後方向に傾動する時の傾き角度を検出し、当該傾き角度を前記シートベルトリトラクタに伝えるためのケーブルを有するケーブル進退機構と、
を備えるシートベルト装置であって、
前記シートベルトリトラクタが、
前記シートバックに固定されるリトラクタフレームと、
前記リトラクタフレームにより支持され、前記シートベルトを巻き取るためのスピンドルと、
前記リトラクタフレームに取り付けられ、車両前後方向における加速度を検出する加速度センサと、
該加速度センサによって検出される車両前後方向の加速度に応じて、シートベルトの引き出し動作をロックするロック機構と、
前記加速度センサのセンサ基準面を水平に保つ姿勢制御機構と、を有し、
前記ケーブル進退機構は、前記シートバックの前記傾き角度に対応する距離を、前記ケーブルの長さ方向に、前記ケーブルが前進または後進するものであり、
前記ケーブルの端部を保持し、前記連結軸まわりに回動可能な回動部材と、
前記シートバックに取り付けられ、前記回動部材を回動可能に収容するケーシングと、
前記シートクッションに取り付けられ、前記シートバックが傾動する時に前記回動部材の回動を制御する制御部を有するレバー部と、
を備え、
前記レバー部は、前記制御部を有するリング部と、該リング部から径方向外方に延びるスライド部と、を有するレバー本体と、前記シートクッションに固定される固定部と、該固定部から延設され、前記レバー本体のスライド部を摺動案内可能なガイド部と、を有する固定プレートと、を備え、
前記スライド部と前記ガイド部とは、前記連結軸の軸方向から見て互いにオーバーラップし、且つ、前記レバー本体のリング部と前記固定プレートの固定部とを結んだ線に沿ってそれぞれ延出していることを特徴とするシートベルト装置。
(2) 前記スライド部と前記ガイド部とは、互いに摺動する際に接触する平面をそれぞれ有することを特徴とする(1)に記載のシートベルト装置。
(3) 前記レバー本体と前記固定プレートとが最も離間した位置での前記平面が摺接する前記摺動方向における長さは、前記レバー本体と前記固定プレートとの摺動距離よりも長いことを特徴とする(2)に記載のシートベルト装置。
(4) 前記レバー本体のスライド部と前記固定プレートのガイド部との一方には突起部が設けられ、前記レバー本体のスライド部と前記固定プレートのガイド部との他方には、該突起部を収容する凹部が設けられており、
前記スライド部と前記ガイド部とは抜け止めされていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のシートベルト装置。
(5) 前記凹部は孔であることを特徴とする(4)に記載のシートベルト装置。
【0011】
なお、本発明の「水平」または「水平方向」とは、水平(水平方向)を含み、当該水平から少し変化しても、製造上で発生する誤差や、製品を設計する場合に本発明の効果を生じることができる範囲を含む。また、「水平」または「水平方向」には、車両前後方向のみならず、車両の左右方向への状態も含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシートベルト装置によれば、ケーブル進退機構のレバー部は、制御部を有するリング部と、該リング部から径方向外方に延びるスライド部と、を有するレバー本体と、シートクッションに固定される固定部と、該固定部から延設され、レバー本体のスライド部を摺動案内可能なガイド部と、を有する固定プレートと、を備え、スライド部とガイド部とは、連結軸の軸方向から見て互いにオーバーラップし、且つ、レバー本体のリング部と固定プレートの固定部とを結んだ線に沿ってそれぞれ延出している。これにより、レバー本体のスライド部と固定プレートのガイド部との間でがたを吸収することができるので、レバー部の固定部を小さくすることができ、リクライニング時におけるレバー部のがたを抑制して、耐久性を向上することができ、加速度センサを常に水平に調整可能な状態に維持することができる。
【0013】
また、スライド部とガイド部とは、互いに摺動する際に接触する平面をそれぞれ有するので、レバー本体のスライド部と固定プレートのガイド部との円滑な摺動を許容することができる。
【0014】
レバー本体と固定プレートとが最も離間した位置での平面が摺接する摺動方向における長さは、レバー本体と固定プレートとの摺動距離よりも長いので、レバー本体のスライド部と固定プレートのガイド部とのより安定した摺動が与えられ、リクライニング時におけるレバー部のがたを抑制することができる。
【0015】
レバー本体のスライド部と固定プレートのガイド部との一方には突起部が設けられ、レバー本体のスライド部と固定プレートのガイド部との他方には、該突起部を収容する凹部が設けられており、スライド部とガイド部とは抜け止めされているので、スライド部とガイド部が摺動によって相対的に外れるのが防止され、また、レバー部としての取り扱い性を向上することができる。
【0016】
また、凹部は孔によって形成されるので、容易に加工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るシートベル装置を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)〜(c)に示すように、シートベルト装置10は、リクライニング式シート15のシートバック16に取り付けられ、必要時にシートベルト19を巻き取るシートベルトリトラクタ11と、リクライニング式シート15のシートバック16とシートクッション17の連結軸18に配置され、シートバック16の傾き角度に応じた距離だけケーブル13を進退させることで、シートバック16の傾動動作をケーブル13を介してシートベルトリトラクタ11に伝えるケーブル進退機構80と、を備え、車両内の乗員をリクライニング式シート15に対して拘束する。通常、ケーブル13は、後述する外装チューブにより覆われており、外装チューブの両端がシートベルトリトラクタ11とケーブル進退機構80のケーシング等に固定され、内部に収容されたケーブル13が、外装チューブに対してスムーズにスライドできるように構成されている。
【0019】
シートベルトリトラクタ11は、シートバック16のリクライニング角度に応じて、車両の前後方向に任意の角度で傾動する。また、車両の幅方向(車両左右方向)においては、シートベルトリトラクタ11からシートベルト19を滑らかに繰り出し可能とするため、車種やシート仕様によってそれぞれ異なる所定角度θで取り付けられる。ここでは、シートベルトリトラクタ11の基準取付姿勢は、車両の後方に略15°傾斜している(後ろ倒し15°)と共に、車両の幅方向に所定角度θ(=15°)だけ傾斜した姿勢で、シートバック16に取り付けられている。つまり、
図1(b)に示すように、左座席の場合は、後ろ側から見て左側に所定角度θ(=15°)だけ傾斜して取り付けられており、
図1(c)に示すように、右座席の場合は、後ろ側から見て右側に所定角度θ(=15°)だけ傾斜して取り付けられている。
【0020】
図2及び
図3に示すように、シートベルトリトラクタ11は、シートバック16の左右方向の中心を上下方向に延びる直線に対して車両の左右方向に傾斜してシートバック16に固定されるリトラクタフレーム21を備えており、リトラクタフレーム21には、シートベルト19を巻き取るためのスピンドル22が回転可能に支持されている。
【0021】
スピンドル22の軸方向の一端側には、スピンドル22をシートベルト19の巻き取り方向に回転付勢するリトラクタスプリング23が連結され、リトラクタスプリング23は、カバー23aに収容されている。
【0022】
スピンドル22の軸方向の他端側には、シートベルト19の引き出し動作をロックするロック機構24の一構成要素であるステアリングホイール25と、車両に作用する前後方向の加速度を検出し、検出された加速度に応じてロック機構24を作動させる加速度センサ30と、シートバック16の傾き角度によらず、加速度センサ30のセンサ基準面(後述する慣性体支持面33)を水平に保つ姿勢制御機構70とが設けられている。
【0023】
ステアリングホイール25は、スピンドル22と一体回転するように結合されると共に、外周面に、後述する作動部材(第1センサレバー36)の上部爪部36bと係合する周方向に所定の間隔で並んだ複数の係合爪25aを有しており、ステアリングホイールカバー27の内部に収容されている。また、加速度センサ30を含むシートベルトリトラクタ11の他端側の側面全体が、リトラクタカバー29によって覆われている。
【0024】
図3及び
図4に示すように、加速度センサ30は、シートバック16と一体的に車両前後方向に傾動するようリトラクタフレーム21の外側面に固定されたセンサカバー31と、車両左右方向に沿った揺動軸L1(
図6参照)を中心としてセンサカバー31に対して車両前後方向揺動自在に支持され、シートバック16の傾動時に、姿勢制御機構70によりセンサカバー31に対して車両前後方向に回動させられることで、車両前後方向においてセンサ基準面としての慣性体支持面33を水平な状態に保持するセンサハウジング32と、センサハウジング32の慣性体支持面33上に支持されて所定値以上の車両前後方向の加速度が作用したとき中立位置から変位する慣性体としての鉄製のボール35と、ボール35が車両前後方向に変位した際に連動してロック機構24をロック側へ作動させる作動部材である第2センサレバー37と、を有している。
【0025】
具体的には、
図6にも示すように、センサカバー31の一対の支持孔31a、31bに、センサハウジング32の外側面に突設した一対のボス部32a、32bがそれぞれ嵌合されることにより揺動軸L1が構成されており、センサハウジング32は、この揺動軸L1を中心に車両前後方向に揺動可能である。また、
図4に示すように、センサハウジング32の一対のブラケット32c、32dに形成されたレバー支持孔32e、32fに第2センサレバー37の一対の回動突起37a、37bが嵌合され、第2センサレバー37は、センサハウジング32に対して車両前後方向に回動可能に支持されている。
【0026】
センサハウジング32は、下方に凹むすり鉢状の凹面である慣性体支持面33を上側の内底面に備えており、その慣性体支持面33上にボール35が載置されている。慣性体であるボール35は、所定以上の車両前後方向の加速度を受けたとき、中立位置から変位して車両(即ち、シートベルトリトラクタ11)に作用する加速度を検知する。なお、前述した慣性体支持面33が水平な状態とは、慣性体支持面33の基準面(例えば、慣性体支持面33の上面)が水平であることを言う。
【0027】
第1センサレバー36は、
図3に示すように、基端部に嵌合孔が設けられたボス部36aを有し、先端部が、ステアリングホイール25に当接する上部爪部36b及び第2センサレバー37に当接する下部爪部36cが設けられた略Y字型に形成されている。第1センサレバー36は、ステアリングホイール25の下方に配されており、ボス部36aの嵌合孔が、リトラクタフレーム21に固定された支持軸(図示略)に回動自在に嵌合している。そして、嵌合孔を有するボス部36aを中心として上方に回動することで、上部爪部36bがステアリングホイール25の係合爪25aに係合して、ステアリングホイール25の回転を規制する。従って、ステアリングホイール25と第1センサレバー36とにより、ロック機構24が構成されている。
【0028】
第2センサレバー37は、
図3及び
図4に示すように、基端部に形成された回動突起37a、37bと、先端側に形成されてボール35の上面に被さる椀部37cと、椀部37cの上面に形成されたリブ37dと、を備えている。回動突起37a、37bは、センサハウジング32のレバー支持孔32e、32fに回動自在に嵌合されている。第2センサレバー37は、椀部37cがボール35の上側に接触すると共に、リブ37dの上面に第1センサレバー36の下部爪部36cが当接している。そして、加速度によってボール35が中立位置から変位すると、上側に回動して下部爪部36cを介して第1センサレバー36を上方に押し上げ、ステアリングホイール25の係合爪25aに上部爪部36bを係合させて、ステアリングホイール25をロックする。なお、第1センサレバー36と第2センサレバー37とは、ボール35が変位した際に、反対方向に回動するようにボール35の中心から見て回動軸線の位置が互いに逆方向に設定されている。
【0029】
また、
図4に示すように、センサハウジング32の前後方向の姿勢を制御する姿勢制御機構70は、リトラクタフレーム21の側板の内側に配された第1プーリケース71及び第2プーリケース72と、それら第1プーリケース71及び第2プーリケース72を合わせることで形成された内部空間の中に収容された樹脂製のプーリ73と、アジャストギヤ74と、プーリ73を回転付勢するトーションスプリング(コイルばね)75と、アジャストギヤ74の回転を加速度センサ30のセンサハウジング32に伝達する回転伝達機構76と、から構成されている。
【0030】
プーリ73は、第1プーリケース71に設けられた支持軸71cを中心に、第1プーリケース71及び第2プーリケース72に回転自在に支持されており、ケーブル進退機構80によるケーブル13の進退の動きを回転運動に変換し、ケーブル13の進退の動きに応じた角度だけシートバック16の傾動方向と同方向に回転する。このプーリ73には、ケーブル13を巻き取るためのケーブル巻き付け溝73bが外周面に設けられており、ケーブル13の一端部(上端部)が金属製のエンドブロック13aを介してプーリ73に固定されている。なお、ケーブル13は、外装チューブ13b内に通されており、外装チューブ13bの一端が第1プーリケース71及び第2プーリケース72に固定されている。
【0031】
トーションスプリング75(
図3参照)は、プーリ73をケーブル13の巻き取り方向に回転付勢している。また、アジャストギヤ74は、プーリ73の側部に形成されたギヤ73aに噛み合って、シートバック16の傾動方向と逆方向に同一回転角度で同期回転する回転部材であり、
図6に示すように、一方の軸突起74aを第1プーリケース71に形成した支持孔71aに嵌め、先端が球状になった他方の軸突起74bを、第1プーリケース71の開口窓71b(
図4参照)を通して、センサハウジング32のボス部32bの端面の球面穴32gに嵌めることにより、アジャストギヤ74は、回転軸L2を中心にして回動できるように支持されている。この場合、球面穴32gと球状の軸突起74bの嵌合により、アジャストギヤ74の回動軸L2とセンサハウジング32の揺動軸L1は、任意の角度を持った状態で軸突起74bの中心で1点で交差している。
【0032】
回転伝達機構76は、アジャストギヤ74の回転をセンサハウジング32に伝達して、センサハウジング32を揺動させることで、加速度センサ30のセンサ基準線S1(中立位置にあるボール35の中心点を通るセンサ基準面に対して垂直な線)を車両前後方向において鉛直方向に指向させて、センサ基準線S1に垂直なセンサ基準面としての慣性体支持面33を水平に保持するものである。このような回転伝達機構76は、アジャストギヤ74とセンサハウジング32にそれぞれ形成された、揺動軸L1および回動軸L2から半径方向に離れた位置に配されて互いに係合するピン74cとスリット32hの組み合わせによって構成されている。
【0033】
ここでは、ピン74cがアジャストギヤ74側に形成され、スリット32hがセンサハウジング32側に形成されているが、逆に形成されていてもよい。なお、スリット32hは、センサハウジング32の側部下方に突設したアーム32iに形成されている。このアーム32iは、スリット32hとピン74cとが確実に係合でき、しかも、他の部分と干渉をしない必要がある。そのため、
図7(a)に示すような左座席用のシートベルトリトラクタに使用するセンサハウジング32L(32)と、
図7(b)に示すような右座席用のシートベルトリトラクタに使用するセンサハウジング32R(32)とで、アーム32iの形状に若干違いを設けている。
【0034】
このようなシートベルトリトラクタ11は、車種やシート仕様ごとに異なる基準取付姿勢、例えば、車両の後方に略15°傾斜すると共に車両の幅方向(左右方向)にθ=15°傾斜した状態でシートバック16に取り付けられる。シートベルトリトラクタ11が、車種やシート仕様によって車幅方向で異なる傾き方向や角度で取り付けられるのは、スピンドル22の車幅方向の傾きをシートベルト19の引き出し方向と一致させることにより、滑らかな引き出しを可能とするためである。
【0035】
従って、
図6に示すように、リトラクタフレーム21を右側に所定角度θ(=15°)だけ傾けて取り付けることで、姿勢制御機構70のプーリ73やアジャストギヤ74の回動軌道面が鉛直面に対して右側に所定角度θだけ傾く場合と、この逆に、図示はしないが、リトラクタフレーム21を左側に所定角度θだけ傾けて取り付けることで、姿勢制御機構70のプーリ73やアジャストギヤ74の回動軌道面が鉛直面に対して左側に所定角度θだけ傾く場合との2つの取付姿勢がある。
【0036】
このような取付姿勢から、本実施形態では、アジャストギヤ74の回動軸L2が車両左右方向に沿った水平方向に対して所定角度θだけ傾斜していることを前提としており、そのようにアジャストギヤ74の回動軸L2が水平に対して傾いている場合でも、加速度センサ30のセンサハウジング32の揺動軸L1が水平に保たれて加速度センサ30のセンサ基準線S1が鉛直方向を指向するように、センサカバー31が左右座席用ごとのタイプ別にそれぞれ用意されている。そのため、水平に対して傾斜したアジャストギヤ74の回動軸L2と水平に保たれたセンサハウジング32の揺動軸L1は、所定角度θを持って交差した関係に設定され、その上で、前述のピン74cとスリット32hの組み合わせによって回転伝達機構76が構成されている。
【0037】
ここで、シートバック16の傾き角度(リクライニング角度)とセンサハウジング32の回転角度(シートバック16の傾動方向と反対向きの回転角度)は精度よく同期する必要がある。シートバック16の回転角度とセンサハウジング32の回転角度が精度よく同期していないと、慣性体支持面33が精度よく水平に保たれず、それにより、加速度センサ30が正確に反応することができない。
【0038】
ところが、上記の構成のように、スリット32hとピン74cによってアジャストギヤ74からセンサハウジング32に回転を伝える場合に、プーリ73やアジャストギヤ74の回転軌道面とセンサハウジング32の回転軌道面が互いに非平行であると、それに起因して、アジャストギヤ74とセンサハウジング32の間に回転角度ズレが発生する。
【0039】
即ち、例えば、アジャストギヤ74とセンサハウジング32の両者の回転軌道面が互いに平行であって、両者の軸(回動軸L2と揺動軸L1)が同一直線上にあると仮定した場合は、アジャストギヤ74とセンサハウジング32が回転した際に、ピン74cとスリット32hの力の伝達のための接触点の位置が一定で変化しないので、その接触点の軌道は真円となるのであるが、アジャストギヤ74とセンサハウジング32の両者の回転軌道面が互いに非平行である場合は、接触点の位置が回転角度に応じて半径方向に変化することになるため、接触点の回転軌道が非円形(楕円形状)となる。
【0040】
以下、
図8を用いて詳しく説明する。センサハウジング32のスリット32hの回転軌道K1は、
図8(d)に示すように、センサハウジング32の回転軌道面(鉛直面)に垂直な水平方向から見ると真円になる。しかしながら、アジャストギヤ74のピン74cの回転軌道K2は、
図8(b)に示すように、アジャストギヤ74の回転軌道面(鉛直面)に垂直な水平方向から見ると真円になるが、
図8(c)に示すように、センサハウジング32の回転軌道面(鉛直面)に垂直な水平方向から見ると楕円となる。
【0041】
そのため、前記接触点の位置が回転角度に応じて半径方向に変化し、接触点の軌道が
図8(e)に示すように真円からずれて非円形(楕円形のピン74cの軌道と一致)となる。それにより、アジャストギヤ74とセンサハウジング32との間に回転角度ズレが発生するようになる。例えば、アジャストギヤ74が60°回動したときに、センサハウジング32が58°や62°回動するようなことが生じる。そうすると、シートバック16の傾き角度とセンサハウジング32の回転角度が同期しない状態となって、センサハウジング32の慣性体支持面33が正確に水平に保持されなくなる。
【0042】
姿勢制御機構70の傾き方向が
図8(a)の場合と逆の場合も、回転角度に応じてピン74cとスリット32hの接触点の位置が半径方向に変化することによって、接触点の軌道が楕円状になる。但し、姿勢制御機構70の傾き方向の違いによって楕円の形は異なる。
【0043】
そこで、そのような回転角度ズレを補償するための補償手段が、ケーブル進退機構80から姿勢制御機構70までの間に設けられている。そして、シートバック16の傾き角度を、回転角度ズレを見込んだ角度だけ修正しながらセンサハウジング32に伝えるようにしている。これにより、回転角度ズレが補償された状態でセンサハウジング32が回動することになるため、シートバック16の傾き角度にほぼ同期するようにセンサハウジング32を回動させることができるようになる。
【0044】
具体的には、ケーブル進退機構80から延びるケーブル13の進退の動きが、シートバック16の傾き角度を正確に反映しているとして、補償手段は、姿勢制御機構70のプーリ73に設ける。即ち、姿勢制御機構70には、ケーブル13の進退の動きを回転運動に変換しアジャストギヤ74に回転を伝えるプーリ73が設けられており、そのプーリ73のケーブル巻き付け溝73bの周方向の経路を非真円のスプライン曲線状に形成することで、ケーブルの巻き付け溝73bの半径rをプーリ73の回転角度に応じて変化するように設定する。すなわち、補償手段は、このスプライン曲線状に形成したプーリ73の半径の変化するケーブル巻き付け溝73bによって構成される。
【0045】
ケーブル巻き付け溝73bのプロフィール(スプライン曲線)は、計算や実測により得たアジャストギヤ74とセンサハウジング32の回転角度ズレのデータに基づいて設定される。
図9(a)〜(c)は左座席用シートベルトリトラクタに使用するプーリ(便宜上「L15°プーリ」と称す)の構成図であり、(d)〜(f)は右座席用シートベルトリトラクタに使用するプーリ(便宜上「R15°プーリ」と称す)の構成図である。また、
図10は、L15°プーリ73LとR15°プーリ73Rのケーブル巻き付け溝73bのプロフィール(回転中心からの半径rの変化)を真円プーリと比較して示す図である。
【0046】
いずれのプーリ73L、73Rも、アジャストギヤ74とセンサハウジング32の回転角度ズレを補償することができるプロフィールでケーブル巻き付け溝73bの半径rが決められている。従って、これらのプーリ73L、73Rを姿勢制御機構70に組み込むことによって、シートバック16の傾き角度とセンサハウジング32の回転角度を精度よく同期させることができ、センサ基準面である慣性体支持面33を、任意なシートバック傾き角度においても、精度よく水平に保つことができて、加速度センサ30の精度向上を図ることができる。
【0047】
また、ケーブル13の下端側を連結するケーブル進退機構80は、シートバックのリクライニング角度に応じて、ケーブル進退機構80から延びるケーブル13を精度よく進退させ得るものである。
【0048】
ここでのケーブル進退機構80は、
図12に示すように、ケーブル13の端部を保持し、シートクッション17とシートバック16を回動自在に連結する連結軸18(
図1参照)まわりに回動可能な回動部材としてのプーリ85と、シートバック16に取り付けられ、プーリ85を回動可能に収容するケーシング82と、シートクッション17に取り付けられ、シートバック16が傾動する時にプーリ85の回動を制御するレバー部81と、を有している。
【0049】
ケーシング82は、外周壁82aの内側に環状凹部82cを介して円筒状のボス部82bを形成したもので、外周壁82aの一部にケーブル引出部82dを備えており、ボス部82bを連結軸18の周囲に位置決めした状態で、カバー83と共にシートバック16に固定されている。
【0050】
プーリ85は、リング部85aの中央に円形孔85cを形成すると共に、リング部85aの周方向の一部の外周部に扇形状のカム部85bを形成し、そのカム部85bの外周面にケーブル巻き付け溝85dを形成したもので、ケーシング82のボス部82bに回動可能に嵌まることで、ケーシング82の環状凹部82c内に収容されている。
【0051】
プーリ85のリング部85aの周方向の一部には、扇形状のカム部85bに隣接してアジャスタ収容凹部85eが設けられており、姿勢制御機構70のプーリ73(
図4及び
図6参照)に先端が巻き付けられたケーブル13の基端が、エンドブロック13a及びアジャスタ収容凹部85eに収容されたケーブルアジャスタ86を介して、プーリ85に固定されている。そして、プーリ73のカム部85bのケーブルの巻き付け溝85dに、ケーシング82のケーブル引出部82dを通してケーシング82内に導入されたケーブル13の基端側が、1/4周程度ではあるが、巻き付けられている。なお、ケーブル13の外装チューブ13bの下端は、ケーシング82のケーブル引出部82dに固定されており、内装されたケーブル13だけを外装チューブ13bに対してスライドさせて、姿勢制御機構70に向けて進退させることができる。
【0052】
レバー部81は、
図13にも示すように、中央に円形孔91が形成されたリング部92と、リング部92の周部に突設された制御部としてのレバー突起93と、リング部92の一部から連結軸18に沿って軸方向に延出した後、屈曲して径方向外方に延出するスライド部94と、を有するレバー本体90と、シートクッション17の取付座110にナット103によって固定される固定部101と、該固定部101から側面視略S字状に屈曲し、レバー本体90のスライド部94を摺動案内可能なガイド部102と、を有する固定プレート100と、を備える。
【0053】
レバー本体90は、円形孔91にケーシング82のボス部82bを嵌めることで、ケーシング82のボス部82bを中心として回動可能に連結されている。
【0054】
レバー本体90のスライド部94は、ガイド部102が摺動する際にガイド部102の平面102aが接触する平面94aを有する底壁部94bと、底壁部94bの幅方向両側から起立して、ガイド部102の側面と対向する側壁部94c、94cと、側壁部94c、94cを連結して、ガイド部102の前面を覆う連結部94d、94eと、を有し、固定プレート100のガイド部102が挿入される挿入空間を形成する。
【0055】
一方、固定プレート100は、平板を打ち抜き加工したものを屈曲することで形成される。固定プレート100のガイド部102には、平面102aの中央に矩形状の孔102bが設けられており、スライド部94の底壁部94bから突出する突出部94fが孔102bの内壁に案内される。
【0056】
また、連結部94dの内面には、突起部94gが形成されており、この突起部94gは孔102b内に収容され、スライド部94とガイド部102との抜け止めがなされている。
【0057】
そして、スライド部94の挿入空間内に固定プレート100のガイド部102が挿入された状態において、スライド部94とガイド部102とは、連結軸18の軸方向から見て互いにオーバーラップし、且つ、レバー本体90のリング部92と固定プレート100の固定部101とを結んだ線Pに沿ってそれぞれ延出している。
【0058】
また、レバー本体90と固定プレート100とが最も離間した位置での平面94a、102aが摺接する摺動方向における長さLは、レバー本体90と固定プレート100との摺動距離Dよりも長く設定されている。
【0059】
なお、本実施形態では、固定プレート100のガイド部102を板状に形成し、レバー本体90のスライド部94が板状のガイド部102を囲うように形成されているが、レバー本体90のスライド部94を板状に形成し、この板状のレバー本体90を固定プレート100のガイド部102が囲うように形成されてもよい。
【0060】
そして、カバー83は、プーリ85やレバー部81のリング部92をケーシング82に収容した状態で、ケーシング82の開口面を覆うようにケーシング82にボルト止めされている。
【0061】
このケーブル進退機構80は、シートバック16が傾動した際に、ケーブル13をシートバック16の傾き角度に対応する距離を、ケーブル13の長さ方向に、前進または後進する。例えば、
図14(a)に示す基準姿勢から
図14(b)に示す位置までシートバック16が傾動した場合、レバー部81のレバー突起93にプーリ85のカム部85bの一端が突き当たることで、プーリ85は移動できない状態となるが、ケーシング82はシートバック16と共に回動するので、ケーブル13の外装チューブ13bはケーシング82と共に移動する。これにより、外装チューブ13bに対してケーブル13の基端側が引き出されることになるので、ケーブル13には引き込み動作(プーリ85のカム溝85dにとっては巻き取り動作に相当)が与えられ、それが姿勢制御機構70に伝えられる。
【0062】
また、反対に、
図14(b)に示す位置から
図14(a)に示す位置までシートバック16が戻された場合、ケーシング82が逆方向に回転することにより、外装チューブ13bがケーブル13の基端側に戻されるので、姿勢制御機構70のトーションスプリング76によって引っ張られたケーブル13が外装チューブ13bの中に戻る形になり、ケーブル13には押し出し動作(プーリ85のカム溝85dにとっては引き出し動作に相当)が与えられ、それが姿勢制御機構70に伝えられる。
【0063】
なお、
図14(a)に示す位置から
図14(c)に示す位置へシートバック16が折り畳まれる場合には、ケーシング82がシートバック16と共に回動し、ケーシング82がプーリ85のカム部85bの一端と当接した後は、プーリ85もケーシング82とともに回動するので、ケーブル13の外装チューブ13bに対する引き込み動作は行われない。
また、他のケーブル進退機構80としては、例えば、回動部材として、ピニオンとラックを組み合わせた方式などを採用することができる。
【0064】
また、このように、シートバック16が傾動する際、レバー本体90のリング部92と固定プレート100の固定部101との間の距離が変化するが、レバー本体90のスライド部94と固定プレート100のガイド部102との間でがたを吸収することができ、リクライニング時におけるレバー部81のがたを抑制することができる。
【0065】
以下、本実施形態の作用について説明する。
図11はシートバックの傾き角度ごとのシートベルトリトラクタとケーブル進退機構の状態を示す図で、(a)は後ろ倒し15°のときの状態、(b)は後ろ倒し95°のときの状態、(c)は前倒し75°のときの状態をそれぞれ示す側面図である。
【0066】
通常、加速度センサ30の有効使用範囲は、(a)の後ろ倒し15°を基準にした所定の傾き角度範囲であるから、その範囲にあることを前提として作用を説明する。
【0067】
シートバック16のリクライニング角度が調節されると、そのリクライニング角度に応じた距離だけケーブル13が進退し、ケーブル13の進退に応じて姿勢制御機構70のプーリ73が回転する。プーリ73がシートバック16の傾動方向と同方向に回転すると、アジャストギヤ74がプーリ73と同じ角度だけ逆方向に回動し、その回動がピン74cとスリット32hによってセンサハウジング32に伝えられ、センサハウジング32がシートバック16の傾き角度と同角度だけ反対方向に回動して、センサハウジング32の慣性体支持面33が水平に保持される。
【0068】
この際、上述したように、アジャストギヤ74とセンサハウジング32の回転角度位置によって回転角度ズレが発生することになるが、その回転角度ズレは、ケーブル巻き付け溝73bの半径の変化によってその回転角度ズレを補償するようにプーリ73が回転することによって修正されるので、シートバック16の傾き角度とセンサハウジング32の回転角度とが精度よく同期する。その結果、センサハウジング32の慣性体支持面33が、シートバック16のリクライニング角度に拘わらず、常に精度よく水平に保持される。
【0069】
この状態で、車両の衝突などにより、加速度センサ30に所定値より大きな水平方向の加速度が作用すると、慣性体支持面33上に載せられている慣性体であるボール35が中立位置から変位する。これにより、第2センサレバー37が回動し、この回動が第1センサレバー36に伝達され、第1センサレバー36が回動することで、上部爪部36bがステアリングホイール25の係合爪25aに係合して、ステアリングホイール25の回転を規制し、シートベルト19の繰り出しを阻止して乗員を拘束する。
【0070】
このように、センサハウジング32は、車両前後方向における傾きが常に水平状態で維持されるので、加速度センサ30は、車両進行方向に対して緩やかな減速度が作用した場合や、緩減速から急減速に移行した場合など、いずれの場合であっても加速度を適正に検出して、シートベルト19のロック遅れを生じることなく、シートベルト19の引き出しをロックする。
【0071】
上記したように、本実施形態のシートベルト装置10によれば、ケーブル進退機構80のレバー部81は、レバー突起93を有するリング部92と、該リング部92から径方向外方に延びるスライド部94と、を有するレバー本体90と、シートクッション17に固定される固定部101と、該固定部101から延設され、レバー本体90のスライド部94を摺動案内可能なガイド部102と、を有する固定プレート100と、を備え、スライド部94とガイド部102とは、連結軸18の軸方向から見て互いにオーバーラップし、且つ、レバー本体90のリング部92と固定プレート100の固定部101とを結んだ線Pに沿ってそれぞれ延出している。これにより、レバー本体90のスライド部94と固定プレート100のガイド部102との間でがたを吸収することができるので、レバー部81の固定部101を小さくすることができ、リクライニング時におけるレバー部81のがたを抑制して、耐久性を向上することができ、加速度センサ30を常に水平に調整可能な状態に維持することができる。
【0072】
また、スライド部94とガイド部102とは、互いに摺動する際に接触する平面94a、102aをそれぞれ有するので、レバー本体90のスライド部94と固定プレート100のガイド部102との円滑な摺動を許容することができる。
【0073】
レバー本体90と固定プレート100とが最も離間した位置での平面94a、102aが摺接する摺動方向における長さLは、レバー本体90と固定プレート100との摺動距離Dよりも長いので、レバー本体90のスライド部94と固定プレート100のガイド部102とのより安定した摺動が与えられ、リクライニング時におけるレバー部81のがたを抑制することができる。
【0074】
レバー本体90のスライド部94には突起部94gが設けられ、固定プレート100のガイド部102には、該突起部94gを収容する孔102bが設けられており、スライド部94とガイド部102とは抜け止めされているので、スライド部94とガイド部102が摺動によって相対的に外れるのが防止され、また、レバー部81としての取り扱い性を向上することができる。
なお、固定プレート100のガイド部102に突起部を設け、レバー本体90のスライド部94に、突起部を収容する孔を設けることで、スライド部94とガイド部102との抜け止めが行なわれてもよい。
【0075】
また、突起部94gは孔102bによって形成されるので、容易に加工することができる。
なお、孔102bは、突起部を収容する凹部を構成するものであれば、これに限定されるものではない。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0077】
例えば、上記実施形態の固定プレート100では、固定部101とガイド部102との間を略S字状に屈曲させていたが、
図15及び
図16に示す第1変形例のように、固定プレート100を平板によって構成して、固定部101とガイド部102とを接続してもよい。
これにより、レバー本体90のリング部92の中心から固定プレート100の固定部101の中心までの距離をレバー部81の軸方向において短縮することができる。
【0078】
また、レバー部81は、
図17に示す第2変形例のように、レバー本体90のリング部92の中心から固定プレート100の固定部101の中心までの距離を、リング部92と固定部101とを結んだ線Pに沿った方向においてさらに短縮してもよい。
ただし、この場合には、レバー本体90のスライド部94と、固定プレート100のガイド部102とが摺接する面積を確保するため、スライド部94とガイド部102の各幅を広くとることが好ましい。具体的に、
図17では、リング部92の円形孔91の直径よりもスライド部94の幅が広く形成されている。