特許第5770724号(P5770724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770724尿分析方法、その装置、前記分析方法に用いられるプログラム、およびその記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770724
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】尿分析方法、その装置、前記分析方法に用いられるプログラム、およびその記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/52 20060101AFI20150806BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   G01N33/52 C
   G01N33/72 B
   G01N33/52 A
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-518343(P2012-518343)
(86)(22)【出願日】2011年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2011061753
(87)【国際公開番号】WO2011152238
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年5月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-126719(P2010-126719)
(32)【優先日】2010年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(74)【復代理人】
【識別番号】100152342
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 益史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 真也
(72)【発明者】
【氏名】久保 高輔
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−142264(JP,A)
【文献】 特開平02−161354(JP,A)
【文献】 特開平07−035744(JP,A)
【文献】 特開平07−301630(JP,A)
【文献】 特開平10−048207(JP,A)
【文献】 北村尚子 ほか,全自動尿分析装置オーションマックスAX-4030の性能評価,隔月刊医療と検査機器・試薬,2008年10月10日,Vol.31, No.5,P.583-594
【文献】 平山香織 ほか,測定機器の色調判定を用いた尿定性法のチェックロジック,私立医科大学臨床検査技師会誌,2009年 9月30日,No.49,P.10
【文献】 荒井良雄 ほか,自動分析機による尿色調の自動判読化の検討,臨床検査機器・試薬,1995年 6月10日,Vol.18, No.3,P.567-574
【文献】 天野陽生 ほか,「US-3100Rplus」における着色尿及び尿比重の検討,医学検査,2010年 4月25日,Vol.59, No.4,P.516
【文献】 秋山利行 ほか,尿自動検査器「ウロチェック」の基礎的検討,臨床検査機器・試薬,1995年 2月10日,Vol.18, No.1,P.43-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別を判断する第1の判断ステップと、
前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めるステップと、
を有する、尿分析方法であって、
前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるものと判断する第2の判断ステップを、さらに有していることを特徴とする、尿分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の尿分析方法であって、
前記尿が所定の無色系または黄色系であるときに、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあると判断する、尿分析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の尿分析方法であって、
前記尿中の特定成分は、ビリルビンであり、
前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果がビリルビンの陽性であるときには、前記第2の判断ステップにおいて、前記陽性を偽陽性に改め、または偽陽性の可能性があるものと判断する、尿分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の尿分析方法であって、
前記吸光特性のデータは、波長525nm付近および波長470nm付近のそれぞれの光に対する前記尿の吸光特性を示すデータである、尿分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の尿分析方法であって、
波長525nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA1とし、
波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA2とした場合において、
A1<0.08
A2<0.5
の2つの式の関係がともに成立する場合には、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断する、尿分析方法。
【請求項6】
請求項3に記載の尿分析方法であって、
前記吸光特性のデータは、下記の式により計算される計算値Bである、尿分析方法。
B=(A4−A5)/(A3−A5)
(ただし、A3、A4、およびA5は、それぞれ波長525nm付近、波長470nm付近、および波長635nm付近の光に対する前記尿の吸光度である。)
【請求項7】
請求項6に記載の尿分析方法であって、
B<5.30の関係が成立するか否かを判定する、尿分析方法。
【請求項8】
請求項7に記載の尿分析方法であって、
B<5.30の関係が成立する場合には、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断する、尿分析方法。
【請求項9】
請求項7に記載の尿分析方法であって、
B<5.30の関係が成立しない場合には、更にA6<0.54の関係が成立するか否かを判定し、A6<0.54の関係が成立する場合に、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断する、尿分析方法。
(ただし、A6は、波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度である。)
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の尿分析方法であって、
前記呈色反応において、所定の異常発色が生じたときに、その旨を検出するステップをさらに有している、尿分析方法。
【請求項11】
尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別についての第1の判断が可能な判断手段と、
前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めることが可能な光学測定手段と、
を備えている、分析装置であって、
前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断の結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断手段は、前記第1の判断の結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるとの第2の判断を行なうように構成されていることを特徴とする、分析装置。
【請求項12】
請求項11に記載の分析装置であって、
前記尿が所定の無色系または黄色系であるときには、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあると判断されるように構成されている、分析装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の分析装置であって、
前記尿中の特定成分としてのビリルビンの陽性または陰性の区別を判断する場合において、
前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断の結果がビリルビンの陽性であるときには、前記判断手段は、前記第2の判断において、前記陽性を偽陽性に改め、または偽陽性の可能性があるものとされるように構成されている、分析装置。
【請求項14】
請求項13に記載の分析装置であって、
前記吸光特性のデータは、波長525nm付近および波長470nm付近のそれぞれの光に対する前記尿の吸光特性を示すデータである、分析装置。
【請求項15】
請求項14に記載の分析装置であって、
波長525nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA1とし、
波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA2とした場合において、
A1<0.08
A2<0.5
の2つの式の関係がともに成立する場合には、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる、分析装置。
【請求項16】
請求項13に記載の分析装置であって、
前記吸光特性のデータは、下記の式により計算される計算値Bである、分析装置。
B=(A4−A5)/(A3−A5)
(ただし、A3、A4、およびA5は、それぞれ波長525nm付近、波長470nm付近、および波長635nm付近の光に対する前記尿の吸光度である。)
【請求項17】
請求項16に記載の分析装置であって、
B<5.30が成立するか否かの判定を行うように構成されている、分析装置。
【請求項18】
請求項17に記載の分析装置であって、
B<5.30の関係が成立する場合には、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる、分析装置。
【請求項19】
請求項17に記載の分析装置であって、
B<5.30の関係が成立しない場合には、更にA6<0.54の関係が成立するか否かが判定され、A6<0.54の関係が成立する場合に、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる、分析装置。
(ただし、A6は、波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度である。)
【請求項20】
請求項11ないし19のいずれかに記載の分析装置であって、
前記第2の判断の結果を認識させるためのデータを、データ出力手段を用いて出力することが可能な構成とされている、分析装置。
【請求項21】
請求項11ないし20のいずれかに記載の分析装置であって、
前記呈色反応において、所定の異常発色が生じたときに、その旨が検出されるように構成されている、分析装置。
【請求項22】
尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別についての第1の判断が可能な判断手段と、
前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めることが可能な光学測定手段と、
を備えている分析装置の前記判断手段にデータ処理を行なわせるためのプログラムであって、
前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるとの第2の判断を、前記判断手段に実行させるためのデータを含んでいることを特徴とする、プログラム。
【請求項23】
請求項22に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬を利用して尿を分析し、たとえば健康診断における尿検査に利用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
尿の分析方法の従来例として、特許文献1に記載の方法がある。同文献に記載された分析方法においては、試薬が塗布された試験紙を用いて、尿中の特定成分の濃度を求める。前記試薬は、尿中の特定成分と反応を生じることにより発色するものであり、この発色の度合いは、特定成分の濃度に対応する。光学機器を利用して、前記試薬の発色度合いを光学的な数値として求めることにより、この数値に基づいて尿中の特定成分の濃度を求めることが可能である。また、前記分析方法においては、尿を試薬に接触させていない状態において、尿自体の色調をも光学機器を用いて検査する。尿が色彩を帯びている場合、試薬の発色状態が前記尿の色彩の影響を受ける場合がある。これに対し、尿の色彩を検査しておけば、試薬の発色度合いに基づいて特定成分の濃度を求めるときに、その値を補正することが可能となる。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるような不具合があった。
【0004】
すなわち、試薬を用いて尿の分析処理を行なう場合、被検者が薬剤投与を受けていると、この薬剤の影響を受けて、分析結果が実際の内容には対応しないものとなる場合がある。この点について、尿の定性検査において、ビリルビンを検査する場合を一例として説明する。ビリルビン検査においては、アゾカップリング法がよく用いられる。アゾカップリング法では、ジアゾ試薬が酸性下においてビリルビンと反応(ジアゾカップリング反応)することにより、アゾ色素が生成される。ただし、このようにアゾ色素が生成される反応は、ビリルビンに特有のものではなく、被検者がイオベンザム酸、エトドラク、あるいはエパルレスタットなどの薬剤の投与を受けているような場合にも生じる可能性がある。したがって、試薬の反応がビリルビンの陽性を示す場合であっても、実際には偽陽性である場合がある。これに対し、前記従来技術においては、実際には偽陽性または偽陰性である場合に、その旨を的確に判別することは困難である。したがって、検査結果の信頼性に劣る点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−35744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、尿中成分が偽陽性または偽陰性を示す場合、あるいはそのような可能性がある場合に、その旨を的確に判断し、信頼性の高い検査結果を得ることができる尿分析方法、分析装置、前記尿分析方法に用いられるプログラム、およびこのプログラムの記憶媒体を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面により提供される尿分析方法は、尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別を判断する第1の判断ステップと、前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めるステップと、を有する、尿分析方法であって、前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるものと判断する第2の判断ステップを、さらに有していることを特徴としている。
【0009】
好ましくは、前記尿が所定の無色系または黄色系であるときに、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあると判断される。
【0010】
好ましくは、前記尿中の特定成分は、ビリルビンであり、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果がビリルビンの陽性であるときには、前記第2の判断ステップにおいて、前記陽性を偽陽性に改め、または偽陽性の可能性があるものと判断される。
【0011】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法において、前記吸光特性のデータは、波長525nm付近および波長470nm付近のそれぞれの光に対する前記尿の吸光特性を示すデータである。
【0012】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法においては、波長525nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA1とし、波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA2とした場合において、A1<0.08、A2<0.5 の2つの式の関係がともに成立する場合には、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断される。
【0013】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法において、前記吸光特性のデータは、下記の式により計算される計算値Bである。
B=(A4−A5)/(A3−A5)(ただし、A3、A4、およびA5は、それぞれ波長525nm付近、波長470nm付近、および波長635nm付近の光に対する前記尿の吸光度である。)
【0014】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法において、B<5.30の関係が成立するか否かの判定が行われる。
【0015】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法において、B<5.30の関係が成立する場合には、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断される。
【0016】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法においては、B<5.30の関係が成立しない場合には、更にA6<0.54の関係が成立するか否かを判定し、A6<0.54の関係が成立する場合に、前記第2の判断ステップにおいて、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものと判断される。(ただし、A6は、波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度である。)
【0017】
好ましくは、本発明に係る尿分析方法は、前記呈色反応において、所定の異常発色が生じたときに、その旨を検出するステップをさらに有している。
【0018】
本発明の第2の側面により提供される分析装置は、尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別についての第1の判断が可能な判断手段と、前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めることが可能な光学測定手段と、を備えている、分析装置であって、前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断の結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断手段は、前記第1の判断の結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるとの第2の判断を行なうように構成されていることを特徴としている。
【0019】
好ましくは、本発明に係る分析装置において、前記尿が所定の無色系または黄色系であるときには、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあると判断される。
【0020】
好ましくは、本発明に係る分析装置は、前記尿中の特定成分としてのビリルビンの陽性または陰性の区別を判断する場合において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断の結果がビリルビンの陽性であるときには、前記判断手段は、前記第2の判断において、前記陽性を偽陽性に改め、または偽陽性の可能性があるものとされるように構成されている。
【0021】
好ましくは、本発明に係る分析装置において、前記吸光特性のデータは、波長525nm付近および波長470nm付近のそれぞれの光に対する前記尿の吸光特性を示すデータである。
【0022】
好ましくは、本発明に係る分析装置において、前記波長525nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA1とし、前記波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度をA2とした場合において、A1<0.08、A2<0.5 の2つの式の関係がともに成立する場合には、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる。
【0023】
好ましくは、本発明に係る分析装置においては、前記吸光特性のデータは、下記の式により計算される計算値Bである。
B=(A4−A5)/(A3−A5)(ただし、A3、A4、およびA5は、それぞれ波長525nm付近、波長470nm付近、および波長635nm付近の光に対する前記尿の吸光度である。)
【0024】
好ましくは、本発明に係る分析装置は、B<5.30が成立するか否かの判定を行うように構成されている。
【0025】
好ましくは、本発明に係る分析装置において、B<5.30の関係が成立する場合には、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる。
【0026】
好ましくは、本発明に係る分析装置においては、B<5.30の関係が成立しない場合には、更にA6<0.54の関係が成立するか否かが判定され、A6<0.54の関係が成立する場合に、前記第2の判断において、前記吸光特性のデータの値が前記所定の範囲内にあるものとされる。(ただし、A6は、波長470nm付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度である。)
【0027】
好ましくは、本発明に係る分析装置は、前記第2の判断の結果を認識させるためのデータを、データ出力手段を用いて出力することが可能な構成とされている。
【0028】
好ましくは、本発明に係る分析装置は、前記呈色反応において、所定の異常発色が生じたときに、その旨が検出されるように構成されている。
【0029】
本発明の第3の側面により提供されるプログラムは、尿中の特定成分と試薬との呈色反応に基づいて、前記特定成分の陽性または陰性の区別についての第1の判断が可能な判断手段と、前記尿自体の所定波長域の光に対する吸光特性のデータを求めることが可能な光学測定手段と、を備えている分析装置の前記判断手段にデータ処理を行なわせるためのプログラムであって、前記吸光特性のデータの値が所定の範囲内にあり、かつ前記第1の判断ステップにおける判断結果が陽性および陰性のうちの予め定められた一方であるときに、前記判断結果を偽陽性もしくは偽陰性に改め、または偽陽性もしくは偽陰性の可能性があるとの第2の判断を、前記判断手段に実行させるためのデータを含んでいることを特徴としている。
【0030】
本発明の第4の側面により提供される記憶媒体は、本発明の第3の側面により提供されるプログラムを記憶していることを特徴としている。
【0031】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る分析装置の一例を示す概略斜視図である。
図2図1に示す分析装置のブロック図である。
図3図1に示す分析装置の要部の構成を示す概略説明図である。
図4図1に示す分析装置の呈色反応用の光学測定部を示す要部斜視図ある。
図5図3のV−V断面図である。
図6図1に示す分析装置の制御部の動作処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7図1に示す分析装置が出力する報告書の一例を示す図である。
図8図1に示す分析装置が出力する報告書の他の例を示す図である。
図9図1に示す分析装置の尿自体の吸光度を測定する光の波長域と尿中に含まれるビリルビン自体の吸収スペクトルとの関係を説明する図である。
図10図1に示す分析装置の制御部の動作処理手順の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0034】
図1図5は、本発明が適用された分析装置の一例を示している。図1によく表われているように、本実施形態の分析装置ANは、容器30に収容されている尿Uの分析処理を行なうためのものであり、分析装置本体部1の前面部に搬送装置2が組み付けられた構成を有している。
【0035】
搬送装置2は、容器30を起立させて保持するラック3を、一定の経路で搬送するためのものである。この搬送装置2としては、従来既知の搬送装置(たとえば、特開2009−229233号公報に記載の搬送装置)と同様な構成とすることが可能であり、その具体的な構造の詳細は省略する。この搬送装置2においては、ラック3が所定の始端領域Saに投入されると、その後にこのラック3は矢印N1〜N3で示す方向に順次搬送され、最終的には所定の終端領域Eaに到達するようになっている。ラック3が矢印N2方向に搬送される過程において、後述する吸引ノズル50によって容器30から尿Uを採取する動作が行なわれる。
【0036】
図2に示すように、分析装置ANは、前記した搬送装置2に加え、試験片供給装置4、分注装置5、制御部6、呈色反応検知用の光学測定部7A、尿色調検査用の光学測定部7B、操作部10、プリンタ11、および表示部12を備えている。
【0037】
図3に示すように、試験片供給装置4は、尿分析用の試験片8を光学測定部7Aの所定箇所P1に供給するためのものである。この試験片供給装置4は、複数の試験片8を収容するホッパ40と、このホッパ40から試験片8を1枚ずつ取り出すための回転ドラム41とを備えている。回転ドラム41は、その外周面に試験片8を1枚のみ嵌入可能とする凹部41aを有しており、この回転ドラム41が回転することによって凹部41aに嵌入した試験片8はホッパ40の外部に移送され、一対のガイド42内に投入される。その後、この試験片8は、図示されていない移送装置により、所定箇所P1に移送される。
【0038】
分注装置5は、吸引ノズル50を利用して容器30から尿Uの採取を行なうとともに、採取した尿Uを試験片8上に分注(点着)させる動作が可能である。吸引ノズル50は、図示されていない駆動機構により、上下および水平方向に移動自在である。分注装置5は、吸引ノズル50を洗浄する機能を有しており、蒸留水などの洗浄液を貯留した洗浄液槽51、シリンジポンプ52A,52B、三方弁などの方向切換弁53、および洗浄液槽51から吸引ノズル50まで一連に形成された流路54を備えている。流路54は、適当なチューブを用いて構成されている。シリンジポンプ52A,52Bの動作により、吸引ノズル50内に尿Uの吸引用の負圧や、尿Uの吐出用の正圧を生じさせることが可能である。また、尿Uの吐出を終了した後には、洗浄液槽51の洗浄液を吸引ノズル50内に送り込んでその洗浄が可能である。このような構成は、たとえば特開2000−321270号公報に記載された分注装置と同様であり、その詳細は省略する。なお、本実施形態では、尿色調検査用の光学測定部7Bが分注装置5の流路54の途中箇所に設けられているが、この点については後述する。
【0039】
図4に示すように、呈色反応検知用の光学測定部7Aは、複数の試験片8を載置するための載置台70と、光学測定器71とを備えている。各試験片8には、複数の試薬パッド80が設けられており、吸引ノズル50によって採取された尿Uはそれら試薬パッド80上に分注される。複数の試薬パッド80は、尿U中の所定の成分と反応し、かつその成分の濃度に対応した度合いに発色する試薬を含んでいる。試薬としては、尿Uの検査項目に対応して種々の成分のものがあり、ビリルビン検査用の試薬としては、背景技術の欄において述べたように、たとえばジアゾ試薬が用いられている。光学測定器71は、XおよびY方向に移動自在であり、尿Uが点着された後に各試薬パッド80に対して光源(図示略)から所定の波長域の光を照射し、かつその反射光を受光素子(図示略)で受ける。この受光素子の受光量に基づき、試薬の光反射率を測定可能である。この光反射率は、尿Uの特定成分と試薬との呈色反応の度合い(発色度合い)に対応し、この値に基づいて尿中の特定成分の有無あるいは濃度(半定量値も含む)が判断される。
【0040】
前記の光反射率を求める場合、主光と参照光とを用いるいわゆる2波長方式が採用され、たとえば主光の波長は565nmまたはその付近であり、参照光の波長は760nmまたはその付近である。参照光は、試験片8のサイズやその他のばらつきなどに起因する誤差を少なくするのに役立つ。前記の反射率を求める場合の演算式の例については後述する。また、前記光学測定部7Aでは、尿Uを試薬パッド80上に分注した後に異常発色が生じた場合に、この異常発色をも適切に検出できるように構成されている。異常発色の検出を行なう場合には、たとえば主光の波長は前記と同様に565nmまたはその付近であるのに対し、参照光の波長は500nmまたはその付近とされる。この異常発色を判断するための式についても後述する。
【0041】
図3に示したように、尿色調検査用の光学測定部7Bは、流路54の途中箇所に設けられており、吸引ノズル50によって吸引した尿Uを光学測定部7Bの後述するセル75内に流入させることが可能である。図5に示すように、この光学測定部7Bは、尿Uが流入する透明の円筒状のセル75、このセル75を囲む遮光ブロック76に取り付けられた光源77、および2つの受光素子78a,78bを有している。光源77は、セル75に向けて光を照射可能である。この光としては、たとえば波長が470nm、525nm、635nm、あるいはそれらの近辺の計3種類の波長の光が用いられている。受光素子78aは、セル75内の尿Uを透過した光を受けるものであり、この受光素子78aの受光量に基づき、後述する尿Uの所定光路長当たりの吸光度A1,A2などが求められる。これらの吸光度A1,A2などは、試薬との反応を生じていない尿U自体の吸光度である。受光素子78bは、尿Uによって散乱反射された光を受けるためのものであり、この受光素子78bの受光量に基づき、尿Uの濁度を判断することが可能である。
【0042】
ここで、ある光の波長の吸光度(たとえば、前記吸光度A1,A2など)は、等しい光路長の溶媒(たとえば、水)および溶液(たとえば、尿)の透過光の強さを、それぞれIおよびIとした場合、吸光度=log10(I/I)により求められるものである。ただし、前記溶液への入射光の強さが、Iとして用いられる場合もある。吸光度は、光路長に比例する。したがって、後述するように、ある光路長で測定した吸光度を他の光路長の吸光度に換算することが可能である。吸光度としては、一般的に、光路長10mm当たりのものが用いられる。
【0043】
図2において、プリンタ11は、尿Uの分析結果やその他の所定事項のデータを所定の用紙に印字出力するためのものであり、本発明でいうデータ出力手段の一例に相当する。表示部12は、液晶表示パネルなどの画像表示画面を備えており、たとえば操作部10の操作をガイドするための画面表示を行なう。ただし、この表示部12に尿Uの分析結果を表示させてもよい。この場合、表示部12も、本発明でいうデータ出力手段の具体例に相当する。
【0044】
制御部6は、たとえばマイクロコンピュータを用いて構成されており、記憶部60を具備している。この制御部6は、本発明でいう判断手段の一例に相当する。記憶部60には、分析装置ANの各部の動作制御や各種のデータ処理を実行するためのプログラムや各種のデータが記憶されている。制御部6の具体的な動作処理の例については、後述する。
【0045】
次に、分析装置ANを利用した尿Uの分析方法の一例について説明する。ただし、この分析方法については、尿U中のビリルビンの陽性、陰性を検査する場合を代表例として説明する。また、図6に示すフローチャートを参照しつつ、制御部6の動作処理手順の一例についても説明する。
【0046】
まず、搬送装置2を駆動させて、ラック3を前記した一定経路で搬送させる。このような搬送過程において、容器30が所定位置に到達すると(S1:YES)、制御部6は、分注装置5を駆動させ、吸引ノズル50を利用して容器30から尿Uを採取する(S2)。この場合、採取した尿Uの一部については、尿色調検査用の光学測定部7Bのセル75内に流入させる。制御部6は、光学測定部7Bの光源77から尿Uに向けて光を照射し、その透過光量から2種類の波長域の光に対する尿Uの吸光度A1,A2を求める(S3)。
【0047】
前記した吸光度A1は、たとえば波長525nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度であり、光路長10mm当たりの吸光度である。たとえば、図5に示すセル75の内径(尿の領域における光路長)が1.8mmの場合、このセル75を利用して求められた光路長1.8mmの吸光度の値に、(10/1.8)の値を乗ずることにより、光路長10mm当たりの吸光度として換算された吸光度A1を求めることが可能である。吸光度A2は、たとえば波長470nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度であり、やはり光路長10mm当たりの吸光度に換算されたものである。これらの吸光度A1,A2は、後述するように、ビリルビンの偽陽性の判断に利用される。なお、セル75を利用して求められた吸光度は、たとえば、5mm、15mm、20mmのような他の光路長当たりの吸光度に換算することも可能である。
【0048】
尿中に含まれるビリルビン自体の吸収スペクトルと吸光度A1,A2の測定波長との関係を図9に示す。前記したように、吸光度A1の測定波長は、たとえば525nmまたはその付近の波長である。図9に示すように、吸光度A1の測定波長は、ビリルビンの吸収の裾野部分の波長に一致している。具体的には、吸光度A1の測定波長は、515nm〜575nm(波長域W1)から選択するのが好ましい。一方、前記したように、吸光度A2の測定波長は、たとえば470nmまたはその付近の波長である。吸光度A2の測定波長は、ビリルビンの主な吸収のある部分の波長に一致している。具体的には、吸光度A2の測定波長は、400nm〜480nm(波長域W2)から選択するのが好ましい。
【0049】
次いで、吸引ノズル50に採取された尿Uについては、試験片8のビリルビン検査用の試薬パッド80上に点着し、その後この点着部分に2波長の光を順次照射することにより、この点着部分の光の反射率Rを測定する(S4)。尿U中にビリルビンが含まれている場合には、既述したように、このビリルビンと試薬パッド80上のジアゾ試薬とが呈色反応を示し、この呈色反応はビリルビン濃度に対応したものとなる。前記の反射率Rは、たとえば次の式1で求められる。
R=(r1/r2)/(r3/r4) ・・・式1
r1:ビリルビン検出用の試薬パッド部分の565nm波長の反射光強度
r2:ビリルビン検出用の試薬パッド部分の760nm波長の反射光強度
r3:リファレンス用の試薬パッド部分の565nm波長の反射光強度
r4:リファレンス用の試薬パッド部分の760nm波長の反射光強度
【0050】
制御部6は、前記した反射率Rを求めた後には、記憶部60に記憶された所定の検量線のデータと反射率Rとに基づき、ビリルビンが陽性および陰性のいずれであるかの第1の判断を行なう(S5)。好ましくは、陽性の場合には、ビリルビン濃度に応じて、陽性(1+)、(2+)、(3+)などのランク付けも行なわれる。
【0051】
制御部6は、前記した第1の判断の結果がビリルビン陽性である場合(S6:YES)、偽陽性またはその可能性が高いか否かについての第2の判断を行なう。この第2の判断においては、ステップS3で求めた尿Uの吸光度A1,A2について、次の式2,式3が成立するか否かを判定する(S7)。なお、式2,式3に示されている数値は、光路長10mm当たりの数値であり、吸光度が測定または換算される光路長に合わせて適宜変更可能である。
A1<0.08 ・・・式2
A2<0.5 ・・・式3
制御部6は、前記した式2,式3がともに成立する場合には(S7:YES)、偽陽性またはその可能性が高いものと判断する(S8)。
【0052】
第1の判断の結果がビリルビン陽性となった多数の尿について、前記した分析装置ANとは異なる手法(たとえば、イクトテスト)で再検査を行なうと、次のような検証結果が得られる。透明系または黄色系の色調の尿Uについては、第1の判断の結果がビリルビン陽性であったとしても、これらを再検査すると、陰性(偽陽性)となる頻度が高い。それらのうち所定の透明系または黄色系の色調の尿Uについては、全てが陰性(偽陽性)となる。前記した式2,式3は、尿Uの色調が所定の透明系または黄色系であるかを判断するための式であり、これらの式2,式3が成立する場合には、尿Uの色調が所定の透明系または黄色系であると判定することができる。したがって、第1の判断の結果がビリルビン陽性であって、前記式2,式3が成立する場合には、最終的に、ビリルビン偽陽性、またはその可能性が高いものと判断することが可能である。したがって、前記分析方法によるビリルビンの検査結果の信頼性を高いものとすることができる。
【0053】
本件発明者らは、分析装置ANと同一構造の分析装置を使用して前記分析方法を実施し、これを検証した。すると、第1の判断の結果がビリルビン陽性であり、かつイクトテストによる再検査によって陰性とされた偽陽性の計85検体のうち、計69の検体を第2の判断によって偽陽性であると判定することができた。このようなことからも、前記分析方法によれば、分析結果の信頼性が高いものとなることが理解できる。また、このように分析結果の信頼性が高くなると、尿の再検査数を少なくし、分析処理の効率を良くすることができる利点も得られる。
【0054】
一方、前記した場合とは異なり、第1の判断の結果がビリルビン陰性である場合(S6:NO)、あるいは前記第1の判断の結果がビリルビン陽性であっても前記の式2,式3が成立しない場合には(S7:NO)、制御部6は、尿Uが点着された試薬パッド80上において異常発色を生じているか否かを判断する(S10)。この判断は、次の式4を用いて行なわれる。式4のR’は、尿Uの点着箇所の光反射率であり、式5で求められる。
R’>1.30 ・・・式4
R’=(r1/r5)/(r3/r6) ・・・式5
r5:ビリルビン検出用の試薬パッド部分の500nm波長の反射光強度
r6:リファレンス用の試薬パッド部分の500nm波長の反射光強度
r1,r3:式1のr1,r3と同じ
制御部6は、前記の式4が成立する場合には、異常発色があるものと判断する(S10:YES)。異常発色が生じている場合、先の第1の判断の結果が不正確である可能性は高い。
【0055】
制御部6は、前記したような一連の処理を終えると、その判断結果をプリンタ11を用いて所定の用紙に印字させる(S9)。前記第1の判断に加えて、前記第2の判断がなされた場合には、その旨を認識させるための記号なども併せて印字される。このことにより、たとえば図7に示すような報告書9が作成される。この報告書9においては、被検者識別用のデータD10、検査項目のデータD11、検査結果のデータD12が印字出力されている。ビリルビンが偽陽性またはその可能性が高いものと判断されている場合には、その旨を示すデータD13がビリルビン(BIL)の項目に対応して印字出力される。図面において、データD13は、「*」の記号を用いて表示されているが、これ以外の記号、文字、図柄を用いることができる。
【0056】
図8に、分析装置ANのプリンタ11が印字する報告書の他の例を示す。この図において、図7で説明した報告書9のデータと同一のデータについては同一の符号を付してあり、ここではその説明を省略する。この報告書9Aにおいては、ビリルビンが偽陽性またはその可能性が高いものと判断されている場合に、その旨を示すデータD14が、ビリルビンの検査結果の項目欄に、検査結果のデータに代えて印字出力される。図面において、データD14は、「FALSE−POSITIVE」の文字を用いて表示されているが、これ以外の記号、文字、図柄を用いることができる。もちろん、ビリルビンの検査結果の項目欄に、ビリルビンが偽陽性またはその可能性が高いことを示すデータと検査結果のデータとを併記することもできる。
【0057】
前記したような報告書9,9Aが作成されれば、分析装置ANを使用する検査者は、ビリルビンが偽陽性である旨、あるいはその可能性が高い旨を容易かつ迅速に察知することができる。ビリルビンが偽陽性である旨を印字する場合、前記した報告書9,9Aとは異なる種々の態様とすることが可能である。
【0058】
図面説明は省略するが、ステップS10において異常発色が生じていたものと判断された場合には、その旨を示す情報が報告書9のビリルビンの項目に対応して印字される。このことにより、検査者は、ビリルビンについての検査結果に疑いがあり、再検査の必要性があることを的確に察知することができる。もちろん、前記情報は、偽陽性を示す情報とは区別可能な記号、文字、図柄などである。
【0059】
次に、分析装置ANを利用した尿Uの分析方法の他の例について、図10に示すフローチャートを参照しつつ説明する。この分析方法についても、尿U中のビリルビンの陽性、陰性を検査する場合を例として説明する。併せて、制御部6の動作処理手順の他の例について説明する。
【0060】
図10図6と同一番号を付したステップは、図6に示したステップと同一または類似の処理を行う。一方で、図10図6との間の相違点は、次の点にある。すなわち、図10では、図6のステップS3およびS7が削除され、ステップS11、S12、S13、およびS14が追加されている。以下では、主に、追加されたステップとそれに関連するステップについて説明し、それ以外のステップについては詳細な説明を省略する。
【0061】
容器30が所定位置に到達すると(S1:YES)、制御部6は、分注装置5を駆動させ、吸引ノズル50を利用して容器30から尿Uを採取する(S2)。この場合、採取した尿Uの一部については、尿色調検査用の光学測定部7Bのセル75内に流入させる。制御部6は、光学測定部7Bの光源77から尿Uに向けて光を照射し、その透過光量から3種類の波長域の光に対する尿Uの吸光度A3,A4,A5を求める。制御部6は、吸光度A3,A4,A5を用いて式6により計算値Bを計算する(S11)。
B=(A4−A5)/(A3−A5) ・・・式6
【0062】
吸光度A3は、たとえば波長525nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度である。吸光度A4は、たとえば波長470nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度である。吸光度A5は、たとえば波長635nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度である。吸光度A3,A4,A5は、たとえば、図5に示すセル75の内径が1.8mmである場合、光路長1.8mmの吸光度として測定される。ただし、吸光度A3,A4,A5は、たとえば、5mm、10mm、15mm、20mmのような他の光路長当たりの吸光度として換算されたものであってもよい。たとえば、このセル75を利用して求められた光路長1.8mmの吸光度の値に、(10/1.8)の値を乗ずることにより、光路長10mm当たりの吸光度として換算された吸光度を求めることが可能である。これらの吸光度A3,A4,A5から算出された計算値Bは、後述するように、ビリルビンの偽陽性の判断に利用される。
【0063】
前記したように、吸光度A3の測定波長は、たとえば525nmまたはその付近の波長である。図9に示すように、吸光度A3の測定波長は、ビリルビンの吸収の裾野部分の波長に一致している。したがって、具体的には、吸光度A3の測定波長は、前記した吸光度A1と同様、515nm〜575nm(波長域W1)から選択するのが好ましい。また、吸光度A4の測定波長は、たとえば470nmまたはその付近の波長である。吸光度A4の測定波長は、ビリルビンの主な吸収のある部分の波長に一致している。具体的には、吸光度A4の測定波長は、前記したA2と同様、400nm〜480nm(波長域W2)から選択するのが好ましい。吸光度A5の測定波長は、たとえば635nmまたはその付近の波長である。吸光度A5の測定波長は、ビリルビンの吸収のない部分の波長と一致している。具体的には、吸光度A5の測定波長は、625nm〜780nm(波長域W3)から選択するのが好ましい。
【0064】
次に、吸光度A4に基づいて、吸光度A6を算出する(S12)。この吸光度A6もまた、本発明でいう吸光特性のデータの一例に相当するものである。吸光度A6は、波長470nmまたはその付近の光に対する前記尿の吸光度であって、光路長10mm当たりの吸光度である。吸光度A6は、具体的には、上述の波長470nmまたはその付近の光に対する尿Uの吸光度A4を光路長10mm当たりの吸光度に換算したものである。吸光度A4が、光路長10mm当たりの吸光度に換算したものである場合は、この吸光度A4の値をそのまま吸光度A6として使用可能である。もちろん、吸光度A6は、たとえば、5mm、15mm、20mmのような他の光路長当たりの吸光度として換算されたものであってもよい。また、吸光度A6は、吸光度A4とは別に、測定されたものであってもよい。
【0065】
次いで、図6のフローチャートで説明したのと同様、吸引ノズル50に採取された尿Uについては、試験片8のビリルビン検査用の試薬パッド80上に点着し、その後この点着部分に2波長の光を順次照射することにより、この点着部分の光の反射率Rを測定する(S4)。制御部6は、前記した反射率Rを求めた後には、記憶部60に記憶された所定の検量線のデータと反射率Rとに基づき、ビリルビンが陽性および陰性のいずれであるかの第1の判断を行なう(S5)。
【0066】
制御部6は、前記した第1の判断の結果がビリルビン陽性である場合(S6:YES)、偽陽性またはその可能性が高いか否かについての第2の判断を行なう。この第2の判断においては、ステップS11で求めた計算値Bについて、式7が成立するか否かを判定する(S13)。
B<5.30 ・・・式7
制御部6は、前記した式7が成立する場合には(S13:YES)、偽陽性またはその可能性が高いものと判断する(S8)。
【0067】
制御部6は、前記した式7が成立しない場合には(S13:NO)、吸光度A6について、更に式8が成立するか否かを追加判定する(S14)。なお、式8に示されている数値は、光路長10mm当たりの数値であり、吸光度が測定または換算される光路長に合わせて適宜変更可能である。
A6<0.54 ・・・式8
制御部6は、式8が成立する場合に(S14:YES)、第2の判断において、偽陽性またはその可能性が高いものと判断する(S8)。
【0068】
式7は、第1の判断の結果がビリルビン陽性の尿から、偽陽性の尿を精密に分別するためのものである。上述したように、所定の透明系または黄色系の色調の尿については、それらの全てが陰性(偽陽性)となる。前記した式2,式3と同様、式7もまた、尿Uの色調が所定の透明系または黄色系であるかを判断するための式であり、この式7が成立する場合には、尿Uの色調が所定の透明系または黄色系であると判定することができる。したがって、第1の判断の結果がビリルビン陽性であって、前記式7が成立する場合には、最終的に、ビリルビン偽陽性、またはその可能性が高いものと判断することが可能である。したがって、前記分析方法によるビリルビンの検査結果の信頼性を高いものとすることができる。
【0069】
式8は、式7が成立しない場合に、偽陽性であるか否かを追加して判定するための式である。この式8が成立する場合には、第1の判断の結果がビリルビン陽性で、式7が成立しない尿Uであっても、最終的に、ビリルビン偽陽性、またはその可能性が高いものと判断することが可能である。したがって、前記分析方法によるビリルビンの検査結果の信頼性をより高いものとすることができる。
【0070】
本件発明者らは、透明系または黄色系の色調の尿Uを収集し、分析装置ANと同一構造の分析装置を使用して前記分析方法を実施し、これを検証した。すると、式7を用いる判定を行うことにより、第1の判断の結果がビリルビン陽性であり、かつイクトテストによる再検査によって陰性とされた偽陽性の計88検体のうち、計87の検体を第2の判断によって偽陽性であると判定することができた。さらに、式8を用いる追加の判定を行うことにより、前記の偽陽性の計88検体のうち、計88の検体を第2の判断によって偽陽性であると判定することができた。
【0071】
一方で、第1の判断の結果がビリルビン陽性であり、かつイクトテストによる再検査によっても陽性とされた、透明系または黄色系の色調の7検体について、式7および式8を用いて判定を行ったところ、ビリルビン偽陽性、またはその可能性が高いものと判断された検体はなかった。
【0072】
このようなことからも、前記分析方法によれば、分析結果の信頼性が高いものとなることが理解できる。また、このように分析結果の信頼性が高くなると、尿の再検査数を少なくし、分析処理の効率を良くすることができる利点も得られる。
【0073】
第1の判断の結果がビリルビン陰性である場合(S6:NO)、あるいは前記第1の判断の結果がビリルビン陽性であっても前記の式8が成立しない場合には(S14:NO)、制御部6は、図6に示したフローチャートで説明したのと同様に、尿Uが点着された試薬パッド80上において異常発色を生じているか否かを判断する(S10)。
【0074】
制御部6は、前記したような一連の処理を終えると、図6のフローチャートで説明したのと同様に、その判断結果をプリンタ11を用いて所定の用紙に印字させる(S9)。
【0075】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。
【0076】
ビリルビン陽性を偽陽性として判断するための条件としては、式2,式3,式7,式8とは異なる式を用いることもできる。本発明でいう「尿の所定波長域の光に対する吸光特性のデータ」としては、吸光度以外として、単なる光の透過率の値を用いてもよく、また光反射率も吸光特性を示すものであるため、用いることができる。第1の判断の結果がビリルビン陽性である場合において、これが偽陽性であるものと最終的に判断されるのは、基本的には、尿の色調が所定の無色系または黄色系である場合である。したがって、たとえば広い波長域の光を尿に照射してその透過光のスペクトル解析を行なうことにより、尿の色調を判断し、この判断結果に基づいて偽陽性であるか否かを判断するといった手法を採用することも可能である。
【0077】
上述した実施形態においては、ビリルビン検査を代表例として説明したが、本発明は、ビリルビン以外の検査項目(たとえば、ウロビリノーゲンなど)にも適用することが可能である。また、偽陽性の判断に限らず、偽陰性の判断にも本発明を適用することができる。本発明は、容器用の搬送装置を備えた比較的大型の分析装置だけではなく、そのような搬送装置を具備しない小型の分析装置にも適用することができる。
【0078】
上述した実施形態においては、尿の吸光度を測定するために、分析装置AN内に設けられた尿色調検査用の光学測定部7Bが用いられているが、偽陽性または偽陰性の判断に用いる吸光度を測定するための光学測定部を別途設けることも可能である。
【0079】
上述した実施形態においては、525nm付近、470nm付近、または635nm付近の波長域の光を用いて、「尿の所定波長域の光に対する吸光特性のデータ」を取得しているが、これ以外の波長域の光を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0080】
AN 分析装置
U 尿
6 制御部(判断手段)
7A 呈色反応検知用の光学測定部
7B 尿色調検査用の光学測定部(光学測定手段)
8 試験片
11 プリンタ(データ出力手段)
12 表示部(データ出力手段)
80 試薬パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10