【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕 C. ハイオインテスティナリス タイ由来株Ch022のcdt遺伝子の配列決定
Ch022株のゲノム遺伝子を常法により単離した。
単離したCh022 ゲノム遺伝子100 ngを、C. ジェジュニ、 C. コリおよびC. フィータスのcdtB遺伝子を増幅できる共通プライマーを用いて、Ex Taq PCR kit (TaKaRa) PCRを行った(
図1)。プライマー濃度はそれぞれ0.5 μM、10X Ex Taqバッファー 5μL、dNTP 4μL, Ex Taq 1.25 Uを滅菌水で50μLとした。PCR混合物を94℃ 30秒、 50℃ 30秒、72℃ 30秒のプログラムで30サイクルPCRした。得られたPCR産物を2%アガロース電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した後、UV下で増幅バンドを確認した(
図1)。
得られた約720 bpの特異的増幅バンドを常法により精製し、共通プライマーを用いてシークエンスを行った。シークエンスはBigDye terminator kit ver. 1.1( Applied Biosystems) を用いてマニュアル通りに行った。
【0093】
得られたシークエンスから、ゲノムウォーキング用のプライマーを設計し、上流、下流に対してゲノムウォーキングを繰り返し、cdt遺伝子を含む全長4,069 bpの遺伝子配列を決定した(配列番号:5)。また、C. ハイオインテスティナリス Ch022株のcdtABC遺伝子のORFは、それぞれ798 bp (266 aa、(配列番号:6)), 804 bp (268 aa、(配列番号:7)), 537 bp(178 aa、(配列番号:8)) から構成されていることがわかった。これらの結果を、C. ジェジュニ、C. コリおよびC. フィータスのcdtA、cdtB、cdtC遺伝子の塩基配列と比較したところ、cdtAとcdtC遺伝子はC. ジェジュニのそれらと最も高い相同性を示したが、cdtB遺伝子では、C. コリと最も高い相同性を示した(表1)。一方、CdtA、CdtBおよびCdtCの推定アミノ酸配列の相同性を比較したところ、3つのサブユニットともC. コリのCdtと最も高い相同性を示し、それぞれ35.7%、60.5%および28.9%であった(表1)。
【0094】
【表1】
C. ハイオインテスティナリスのcdt遺伝子の挿入部位は、C. ジェジュニ、C. コリとC. フィータスのcdt遺伝子の挿入箇所とは異なり、cdtA遺伝子の上流にはヘリコバクター科にGlycosyl transferase に53.6% (128aa/239aa) の相同性を持つORFが見つかった。一方、cdtC遺伝子の下流にはT.denitrificansのSugar transferaseに56.0%(155aa/277aa) の相同性を持つORFが存在した。さらにC. ハイオインテスティナリスのCdtBの推定アミノ酸配列中に、他の菌種が産生するCdtBでDNase活性に必須であると報告されているアミノ酸残基も保存されていた(Yamasaki S, et al., 2006. Toxin Rev, 25, 61-88.)(
図2)。
【0095】
〔実施例2〕 C. ハイオインテスティナリス タイ由来株Ch022のCdtB組換え蛋白質(Ch-rCdtB)の作製
C. ハイオインテスティナリス タイ由来株Ch022のCdtBのシグナル配列と予測されるCdtB1-17aaを除いたcdtB遺伝子をPCRで増幅し、pET-28(a) plasmid vectorにクローニングし、組換えC. ハイオインテスティナリス タイ由来株Ch022のcdtB遺伝子クローンpWSY-2を得た。
【0096】
PWSY-2を組換え蛋白発現用大腸菌BL-21(DE3) (Novagen)に形質転換し、得られたクローンを20μg/mL カナマイシンを含む600 ml のLB-Brothで大量培養した後、 0.5 mM IPTGで3 hr 37℃で組換え蛋白質(Ch-rCdtB)を発現誘導した。Ch-rCdtBを発現させた大腸菌を超音波破砕し、Ni-Chelating Sepharose (GE Healthcare)でアフィニティー精製し、さらにSuperdex 75 (GE Healthcare)でゲル濾過し、精製した(
図3)。
【0097】
〔実施例3〕 C. hyointestinalis タイ由来株Ch022のCdtB抗体の作製
精製Ch-rCdtB 250 μgとフロイントアジュバンド(コンプリート)を等量混合したエマルジョンをウサギ(kbs: NZW)に皮下および筋肉内投与し、以後、精製Ch-rCdtB 250 μgとフロイントアジュバンド(インコンプリート)を等量混合したエマルジョンを初回投与から4週後、以降2週間間隔で約8週間にわたり合計5回免疫し、抗血清を作製した。得られた抗血清の力価と特異性をゲル内二重拡散法およびウエスタンブロット法で確認した(
図4)。
【0098】
抗Ch-rCdtB血清の力価は、ゲル内二重拡散法で64倍を示した。また、C. ジェジュニのrCdtBとも沈降線を形成しなかったことから、C. ジェジュニのCdtBとは免疫学的に異なることがわかった(
図4C)。精製Ch-rCdtBとC. ハイオインテスティナリス Ch022株の粗毒素液を用いてウエスタンブロットを行ったところ、分子量約30Kdの精製Ch-rCdtBとC. ハイオインテスティナリスCh022株の粗毒素液中のCdtBに相当する大きさのバンドと特異的に反応したことから、得られたCh-rCdtBに対する抗体は非常に特異性が高いと考えられた(
図4B)。
【0099】
〔実施例4〕 C. ハイオインテスティナリス ATCC 35217のcdt遺伝子の配列決定
C. ハイオインテスティナリス ATCC 35217株のゲノム遺伝子を常法により単離した。
単離したC. hyointestinalis ATCC 35217ゲノム遺伝子100 ngを縮重プライマー (GNW、WMI)を用いて、Ex Taq PCR kit (TaKaRa) PCRを行った(
図5)。プライマー濃度はそれぞれ0.5 μM、10X Ex Taqバッファー 5μL、dNTP 4μL, Ex Taq 1.25 Uを滅菌水で50μLとした。PCR混合物を94℃ 30秒、 42℃ 30秒、72℃ 60秒のプログラムで30サイクルPCRした。得られたPCR産物を1.5%アガロース電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した後、UV下で増幅バンドを確認した(
図5)。
【0100】
得られた約960 bpの特異的増幅バンドを常法により精製し、pT7Blue plasmid vector (Novagen)にクローニングし、pChATcdtA-B4を得た。得られたpChATcdtA-B4をplasmidにコードされているM13プライマーを用いてシークエンスを行った。シークエンスはBigDye terminator kit ver. 1.1( Applied Biosystems) を用いてマニュアル通りに行った。
【0101】
得られたシークエンスをBLASTによりホモロジー検索を行ったところ、cdtAの一部とcdtBの一部の遺伝子に相同性があることがわかった。
得られたシークエンスから、ゲノムウォーキング用のプライマーを設計し、上流、下流に対してゲノムウォーキングを繰り返し、cdt遺伝子を含む全長3,399 bpの遺伝子配列を決定した(配列番号:1)。また、CdtA-CのORFを明らかにした。それぞれのアミノ酸配列を、CdtA(配列番号:2)、CdtB(配列番号:3)、CdtC(配列番号:4)に示す。
【0102】
〔実施例5〕 HeLa細胞によるCDT活性の測定(タイ株、ATCC株共通)
C. ハイオインテスティナリス Ch022株およびC. ハイオインテスティナリス ATCC 35217を馬血液寒天培地で37℃、微好気条件下(5%CO
2、10%O
2、85%N
2)で48時間培養した。得られた菌体をOD
600が1.0となるようにMEM培地に懸濁し、超音波で破砕後、遠心分離で得られた上清を孔径0. 22 μmのメンブレンフィルターを用いて濾過滅菌した。得られたサンプルを粗毒素液として段階希釈して、それぞれをHeLa細胞に添加し、48時間と120時間後に細胞の形態変化を観察した (
図6)。タイ株に関しては抗Ch-rCdtB血清を同時に添加し、CDT活性が特異的であるかどうかも検討した。また、48時間後には、フローサイトメーターを用いて細胞のDNA 量を測定した(
図7)。毒素活性は、50%以上の細胞が膨化する粗毒素液の最大希釈率を力価とした。
【0103】
C. ハイオインテスティナリスの粗毒素液をHeLa細胞に添加したところ、16倍希釈まで、48時間後に細胞膨化活性を120時間後には細胞致死活性を示した(
図6)。それらの活性は抗Ch-rCdtB血清により中和された。また、同様にフローサイトメーターを用いて粗毒素液添加後48時間の細胞のDNA 量を測定した結果、著明なG2/M期停止が見られた。粗毒素液を添加しなかった陰性コントロールや粗毒素液と抗Ch-rCdtB血清を加えた場合では、G0/G1に相当する高いピークが得られたが、G2/M期停止は見られなかった(
図7)。
【0104】
以上の結果より、C. ハイオインテスティナリスは毒素活性を有するCDTを産生していることが明らかとなった。またこれらの毒素活性は抗Ch-rCdtB抗血清で中和されることから、CDTによるものであると考えられた。
【0105】
〔実施例6〕 カンピロバクター属細菌の培地、培養条件および試薬
カンピロバクター属細菌の培養には、CM271 BLOOD AGAR BASE No.2 (OXOID、Basingstoke, UK) [7.5 g Proteose peptone、1.25 g Liver digest、2.5g Yeast extract、2.5g Sodium chloride、6.0g Agar / 500 ml DW) pH 7.4±0.2 at 25℃] に5% 馬無菌脱繊血 (日本生物材料センター(株)、東京) を添加した馬血液寒天培地を用いた。C. concisus(以下、C. コンシサスと略す)にはさらに6% 蟻酸ナトリウム、6% フマル酸溶液を1プレートに付き0.25 mL塗布した物を用いた。Campylobacter属細菌の培養は37℃で2日から 4日間、LOW TEMPERATURE O
2/CO
2 INCUBATER MODEL-9200(和研薬)をもちいて微好気条件(10% CO
2、5% O
2、85% N
2)で行った。C. コンシサスは10% CO
2、10% H
2、80% N
2の嫌気条件で3-7日間培養した。
大腸菌は、LB-Lenox液体培地(Difco Laboratories、 USA) [5.0 g Bacto tryptone, 2.5 g Bacto yeast extract, 2.5 g NaCl/500 mL DW]、LB-Lenox寒天培地(Difco Laboratories)[5.0 g Bacto tryptone, 2.5 g Bacto yeast extract, 2.5 g NaCl、Agar 7.5 g/500 mL DW] を使用し、37℃で16-20時間培養した。
その他試薬は全てナカライテスク (株)、和光純薬工業 (株) 、もしくはSigma Chemical Co. (St. Louis, MO, USA) より購入した。制限酵素、Takara Ex Taq、Multiplex PCR assay Kitはタカラバイオ (株) より購入した。電気泳動に用いるアガロース、Seakem GTG agaroseは、タカラバイオより購入した。分子量マーカーはNew England Biolabs (USA)より購入した。
【0106】
〔実施例7〕 PCR用鋳型DNAの調製とPCR
プレートから掻き取ったコロニーをTE溶液200μLに加え、10 分間加熱処理した。加熱処理後、12,800 ×gで 10分間遠心し、上清を回収し、鋳型DNAとした。尚、陰性コントロールとしてE. coli C600株を用いた。
PCRはすべてGene amp PCR system 2400 (PerkinElmer) もしくはGene amp PCR system 9700 (PerkinElmer) を用いて行った。アガロースゲル電気泳動はミューピッド (アドバンス)を用いて1X TAE Buffer [40 mM Tris-acetate (pH8.5)、1 mM EDTA]、100Vの条件で行った。電気泳動後、1.0μg / ml のエチジウムブロマイド(SIGMA) で15分間染色し、DWで脱色した後、ゲルドキュメンテーション解析システム Gel Doc 2000 (Bio-Rad) を用いて、PCR産物を紫外線下(260 nm) で解析・撮影した。
【0107】
〔実施例8〕 C. ジェジュニ、C. コリ、C. フィータスのcdtB遺伝子共通プライマーもしくはATCC株のcdtB遺伝子プライマーを用いたC. ハイオインテスティナリス ATCC株、タイ由来ch22株のcdtB遺伝子PCR
C. ハイオインテスティナリスのcdt遺伝子をシークエンスし、他菌種のカンピロバクター属細菌のcdt遺伝子配列と比較したところ、赤で示すC. ジェジュニ、C. コリ、C. フィータスのcdtB遺伝子共通プライマーの結合領域に数個の変異が認められた(
図8)。C. ジェジュニ、C. コリ、C. フィータスのcdtB遺伝子共通プライマーを用いてC. ハイオインテスティナリス ATCC株をPCRした場合、増幅バンドは他の菌種に比べて弱く、また、増幅されないこともあった。PCRプライマーはその3’末端領域の相同性が特に重要であるが、C. ハイオインテスティナリス ATCC株のcdtB遺伝子のプライマーの結合領域には3’末端領域に複数の変異が認められた(
図8)。C. ハイオインテスティナリス ATCC株のcdtB遺伝子PCRの増幅の不安定さはプライマーの結合領域、特に3’末端領域の変異に起因すると考え、C. ハイオインテスティナリス ATCC株用のcdtB遺伝子共通プライマーを設計し、従来の共通プライマーと比較するため、PCRを行った。
【0108】
菌株
C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株、C. ハイオインテスティナリス Ch022株
共通プライマー
ComBU: 5’-ACTTGGAATTTGCAAGGC-3’(配列番号:14)
ComBR: 5’-TCTAAAATTTACHGGAAAATG-3’(配列番号:15)
ATCC株用プライマー
ChATcomBU: 5’-ACTTGGAATATGCAAGGA-3’(配列番号:16)
ChATcomBR: 5’-CCAAATGTTATAGGAAAGTG-3’(配列番号:17)
【0109】
PCR
プライマー(最終濃度1 uM)、TaKaRa Ex taq (0.25 U), dNTP (各200 μM), x10 Ex Taq Buffer、各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートを1 μL加え、total volume 40 μL でPCRを行った。PCR条件は94℃ 3min −(94℃ 30sec, 50℃ 30sec, 72℃ 30sec)X30 − 72℃ 5minで行った。
【0110】
結果
C. ジェジュニ、C. コリ、C. フィータスのcdtB遺伝子共通プライマーでは、タイ由来C. ハイオインテスティナリス Ch022株では増幅が見られたが、C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株では増幅が見られなかった。一方、ATCC株用プライマーを用いた場合、タイ由来C. ハイオインテスティナリス Ch022株、C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株共に増幅が認められた。(
図9)
【0111】
〔実施例9〕 C. ハイオインテスティナリス ATCC株、thai由来ch22株を含む、広くカンピロバクター属細菌を検出するためのPCR
C. ジェジュニ、C. コリ、C. フィータスのcdtB遺伝子共通プライマーでは、C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株では以前は弱いバンドしか増幅されず、また、今回は増幅が認められなかった為、C. ハイオインテスティナリスのcdtB遺伝子のより確実な増幅を目指し、新たな共通プライマーを再設計し、PCRを行った。
【0112】
プライマー
cdtB CommonU: 5’-ACTTGGAATWTGCAAGGM-3’(配列番号:18)
cdtB CommonR: 5’-CYAAAWKTTAYHGGAAARTG-3’(配列番号:19)
(W: A or T, M: A or C, Y: C or T, K:G or T, H: A , C, orT, R: A or G)
【0113】
菌株
C. ジェジュニ: 81-176株、 C. コリ: Col-243株、 C. フィータス: Co1-187株、C. ラリ: ATCC43675株、C. ウプサリエンシス ATCC43954株、C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株、C. ハイオインテスティナリス Ch022株、C. ヘルベティカス(C. helveticus) ATCC51209株、E. coli C600株
【0114】
PCR
プライマー(最終濃度1 μM)、TaKaRa Ex taq (0.25 U), dNTP (各200 μM), x10 Ex Taq Buffer、各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートを1 μL加え、total volume 40 μL でPCRを行った。PCR条件は94℃ 3min −(94℃ 30sec, 50℃ 30sec, 72℃ 30sec)X30 − 72℃ 5minで行った。
【0115】
結果
用いた全ての菌株で、PCRバンドの効率よい増幅が認められた(
図10)。
【0116】
〔実施例10〕 サザンハイブリダイゼーションによるC. ハイオインテスティナリス ATCC株とタイ由来Ch022株のcdtB遺伝子の分布
C. ハイオインテスティナリス Ch022株において、これまでの共通プライマーでも、新たに設計したC. ハイオインテスティナリス ATCC35217株用プライマーでも増幅が認められたことより、C. ハイオインテスティナリス Ch022株には2コピーのcdtB遺伝子の存在が考えられた。そこで、それぞれの特異的プローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、C. ハイオインテスティナリス ATCC株とタイ由来Ch022株のcdtB遺伝子の分布を調べた。
【0117】
菌株
C. jejuni: 81-176株、C. ハイオインテスティナリス ATCC35217株、C. ハイオインテスティナリス Ch022株
【0118】
プライマー
C. ハイオインテスティナリス Ch022株cdtBプローブ用
ComBU: 5’-ACTTGGAATTTGCAAGGC-3’(配列番号:14)
ComBR: 5’-TCTAAAATTTACHGGAAAATG-3’(配列番号:15)
C. ハイオインテスティナリス ATCC株cdtBプローブ用
ChATcomBU: 5’-ACTTGGAATATGCAAGGA-3’(配列番号:16)
ChATcomBR: 5’-CCAAATGTTATAGGAAAGTG-3’(配列番号:17)
【0119】
プローブの調製
両菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートをそれぞれ1 μL、それぞれ菌株に対するプライマー(最終濃度0.5 μM)、TaKaRa Ex taq (0.25 U), ジゴキシゲニン標識-dNTP (ロッシュダイアグノティクス) (各200 μM), x10 Ex Taq Bufferを加え、total volume 40 μLでPCRを行った。PCR条件は94℃ 3min −(94℃ 30sec, 50℃ 30sec, 72℃ 30sec)X30 − 72℃ 5minで行った。
得られたPCR産物を1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した後、検出されたバンドを切り出し、キアゲンPCR精製キット(キアゲン)を用いて精製し、プローブとして用いた。
【0120】
染色体ゲノムDNAの調製および制限酵素による消化
染色体ゲノムDNAの精製はISOPLANT Kit (NIPPON GENE)を用いて行った。プレートから掻き取った約30 mg の菌体を150 μL Extraction Buffer に懸濁し、300 μL Lysis Bufferを添加し菌を溶菌させた。50℃ 15分間反応させた後、150 μLのsodium acetate buffer (pH 5.2)を添加し、氷上で 15分間静置した。水層をエタノール沈殿処理し、TE[10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM EDTA]溶液で再溶解したものをDNA溶液として使用した。
吸光度計にて定量した。各ゲノムDNA 1 μgをEcoRV、もしくはDraI(20 U)を用いて(final volume 50 μL)、37℃、 5時間消化した。
【0121】
サザンハイブリダイゼーション
酵素消化した各菌体ゲノムを1.5 % アガロース電気泳動した後、エチジウムブロマイドで染色、脱色し、制限酵素によるゲノムDNAの切断を確認した。その後、0.25 N HClで15分間処理し、DWで洗浄を2回行い、0.5 N NaOHで30分間処理した。ゲル内のDNAを、10×SSCを用いて90分間Vacuum Blotterにてナイロン膜にブロッティングした。ナイロン膜1枚につき2 mlのPrehybridization buffer (50% Formamide、5×SSC, 0.01% SDS、1 mM EDTA、Denhardt’s solution、0.02% BSA、100μg/mL Heat-denatured herring sperm DNA] を加え、42℃1時間反応させた。次にナイロン膜にC. ハイオインテスティナリス Ch022株cdtBプローブもしくはC. ハイオインテスティナリス ATCC株cdtBプローブを熱変性させた後にそれぞれ25 ng/mLとなるようにハイブリ液に加え42℃で一晩反応させた。その後、0.1% SDSを含む2×SSCでナイロン膜を15分間室温にて 2回洗浄した後、0.1% SDSを含む0.1×SSCで65℃ 30分間 2回洗浄した。洗浄バッファー [0.1 M Tris-HCl (pH 7.5)、0.15 M NaCl、0.3% Tween 20] でナイロン膜を2分間洗浄した後、Blocking buffer (Buffer1 [0.1 M Tris- HCl (pH 7.5)、0.15 M NaCl]、1X Blocking stock solution )で30分間室温にてナイロン膜を平衡化した。新しいBlocking bufferで10,000倍に希釈したAnti DIG-Alkaline Phosphatase conjugate (7,500 U/mL) をナイロン膜に添加し、室温で 30分間振盪した。Buffer1で15分間 2回洗浄し、AP9.5buffer [0.1 M Tris- HCl (pH 9.5)、0.1 M NaCl、50mM MgCl
2] で5 分間平衡化した。最後にAP9.5 bufferで希釈した発色基質溶液NBT/BCIP (4.5 μL NBT、3.5 μL BCIP/AP9.5 buffer 1 mL) を加え、光を遮断し、室温で30分間発色させた。
【0122】
結果
C. ハイオインテスティナリス ATCC株及び、タイ由来C. ハイオインテスティナリス Ch022株の染色体ゲノムDNAをEcoRVで切断し、ATCC株cdtBプローブでサザンハイブリダイゼーションした結果、両菌株とも同じ位置にバンドが検出された。また、別の制限酵素であるDraIを用いた場合でも、同じ位置にバンドが検出されたことから、両菌株ともATCC株のcdtB遺伝子のホモログ(以下ATCC型)が存在することが示唆された(
図11)。また、タイ由来Ch022株cdtBプローブでサザンハイブリダイゼーションした場合、タイ由来のC. ハイオインテスティナリス Ch022株でのみバンドが検出された。さらにDraIで消化した場合、ATCC株cdtBプローブとCh022株cdtBプローブでは異なる位置にバンドが見られた(
図11)。このことから、タイ由来のC. ハイオインテスティナリス Ch022株にはATCC型cdtB遺伝子とタイ由来Ch022株cdtB遺伝子ホモログ(以下Thai型)の2コピーが保持されていると考えられた。
【0123】
〔実施例11〕 C. ハイオインテスティナリス ATCC型cdtB遺伝子検出用特異プライマー及びC. ハイオインテスティナリス タイ型cdtB遺伝子検出用特異プライマーによるPCR
C. ハイオインテスティナリス ATCC株のcdtB遺伝子及び、C. ハイオインテスティナリス タイ株のcdtB遺伝子を比較し、それぞれに特異的な領域を選び、特異的プライマーを設計した。さらに複数のC. ハイオインテスティナリス動物由来株についてPCRを行い、ATCC型のcdtB遺伝子、タイ型のcdtB遺伝子の保持について調べた。
【0124】
C. ハイオインテスティナリス タイ型cdtB遺伝子特異プライマー
Ch022spBU1: 5’-TATCAGGCAATAGCGCAG-3’(配列番号:20)
Ch022spBR1: 5’-GGTTTGCACCTACATCAAC-3’(配列番号:21)
C. ハイオインテスティナリス ATCC型cdtB遺伝子特異プライマー
ChATspBU2: 5’-CCTAGTAGCGCTACTTAG-3’(配列番号:22)
ChATspBR2: 5’-TACAAAGCTTGGGCGAAG-3’(配列番号:23)
【0125】
菌株
C. ハイオインテスティナリス Ch1-1, Ch87-4, Ch2037, Ch2039, Ch2973, Ch3839, Ch3857, ATCC35217, Ch022
E. coli C600
【0126】
PCR
各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートをそれぞれ1 μL、特異的プライマー(最終濃度0.5 μM)、TaKaRa Ex taq (0.25 U), dNTP (各200 μM), x10 Ex Taq Buffer、を加え、total volume 40 μLでPCRを行った。PCR条件は94℃ 3min −(94℃ 30sec, 55℃ 30sec, 72℃ 30sec)X30 − 72℃ 5minで行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した。
【0127】
結果
調べた7株のC. ハイオインテスティナリスにおいて、全ての菌株でタイ型cdtB遺伝子(
図12)、ATCC型cdtB遺伝子(
図13)を両方とも保持していた。ATCC株でのみthai型cdtB遺伝子を保持していなかった。
【0128】
〔実施例12〕 C. ハイオインテスティナリス ATCC型cdtB遺伝子及びC. ハイオインテスティナリス タイ型cdtB遺伝子の共通プライマーによるPCR
C. ハイオインテスティナリス ATCC型のcdtB遺伝子及び、C. ハイオインテスティナリス タイ型のcdtB遺伝子を比較し、それぞれに共通な領域を選び、共通プライマーを設計した。増幅サイズは既報のC. ジェジュニ、 C. コリ、 及びC. フィータスを検出できるマルチプレックス PCRに組み込み可能なサイズとした。複数のC. ハイオインテスティナリス動物由来株についてPCRを行い、プライマーの評価を行った。
【0129】
C. ハイオインテスティナリスの ATCC型、Thai型cdtB遺伝子検出用共通プライマー
ChspBU7: 5’-GTTCAAGAAGCAGGAAGC-3’(配列番号:24)
ChspBR7: 5’-AATACCWAKAATWGGTCTTG-3’(配列番号:25)
(W: A or T, K: G or T)
【0130】
菌株
C. ハイオインテスティナリス Ch1-1, Ch87-4, Ch2037, Ch2039, Ch2973, Ch3839, Ch3857, ATCC35217, Ch022
E. coli C600
【0131】
PCR
各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートをそれぞれ1 μL、特異的プライマー(最終濃度0.5 μM)、TaKaRa Ex taq (0.25 U), dNTP (各200 μM), x10 Ex Taq Buffer、を加え、total volume 40 μLでPCRを行った。PCR条件は94℃ 3min −(94℃ 30sec, 55℃ 30sec, 72℃ 30sec)X30 − 72℃ 5minで行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した。
【0132】
結果
調べた7株のC. ハイオインテスティナリスにおいて、全ての菌株でC. ハイオインテスティナリス のcdtB遺伝子を増幅することができた(
図14)。
【0133】
〔実施例13〕 CdtB遺伝子に基づくC. ジェジュニ、 C. コリ、 C.フィータス、及びC. ハイオインテスティナリスを検出できるマルチプレックス PCRの開発
C. ハイオインテスティナリスのATCC型、タイ型両方のcdtB遺伝子を効率よく増幅できるプライマーを開発できたので、本プライマーを従来のマルチプレックス PCRに組み込み、さらに幅広くカンピロバクター属細菌を検出できるマルチプレックス PCRの開発を試みた。
【0134】
菌株
C. ジェジュニ: 81-176株、 C. コリ: Col-243株、 C. フィータス: Co1-187株、C. ラリ: ATCC43675株、C. ウプサリエンシス ATCC43954株、C. ハイオインテスティナリス Ch022株、C. ヘルベティカス ATCC51209株、C. コンシサスATCC33237株、E. coli C600株
【0135】
プライマー
Cj-CdtBU5 : 5’-ATCTTTTAACCTTGCTTTTGC-3’(最終濃度0.25 μM)(配列番号:26)
Cj-CdtBR6 : 5’-GCAAGCATTAAAATCGCAGC-3’(最終濃度0.25 μM)(配列番号:27)
Cc-CdtBU5: 5’-TTTAATGTATTATTTGCCGC-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:28)
Cc-CdtBR5 : 5’-TCATTGCCTATGCGTATG-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:29)
Cf-CdtBU6: 5’- GGCTTTGCAAAACCAGAAG-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:30)
Cf-CdtBR3: 5’-CAAGAGTTCCTCTTAAACTC-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:31)
ChspBU7: 5’-GTTCAAGAAGCAGGAAGC-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:24)
ChspBR7: 5’-AATACCWAKAATWGGTCTTG-3’(最終濃度0.5 μM)(配列番号:25)
(W: A or T, K: G or T)
【0136】
PCR
各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートをそれぞれ1 μL、特異的プライマー、Multiplex PCR Mix 1 (タカラバイオ)を0.2 μL、x2 Multiplex PCR Mix2 (タカラバイオ)を20μL加え、total volume 40 μLでPCRを行った。PCR条件は94℃ 1min −(94℃ 30sec, 56℃ 90sec, 72℃ 90sec)X30 − 72℃ 5minで行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した。
【0137】
結果
4菌種を対象としたマルチプレックス PCRは単独のC. ジェジュニ、 C. コリ、 C. フィータスもしくはC. ハイオインテスティナリスのcdtB遺伝子を効率良く検出することができるのみならず、複数の菌種が混在した場合でも菌種特異的な増幅が見られた(
図15)。
【0138】
〔実施例14〕 病原性を示すカンピロバクター属細菌のほとんどを網羅する新たなマルチプレックス PCR
カンピロバクター属細菌の内、C. ジェジュニ、 C. コリ、 C. フィータス、C. ハイオインテスティナリスは、カタラーゼ活性陽性で42℃で発育する。これらの菌種はthermophilic Campylobacters と呼ばれ、食中毒に関係する菌種のほとんどがここに属する。本発明者らは、このthermophilic Campylobactersに属する5菌種のほかヒト及び家畜などの動物に病原性を示すC. fetusをも含む6菌種のカンピロバクター属細菌を1度に検出できるマルチプレックス PCRを開発した。
【0139】
菌株
C. jejuni: 81-176株、 C. coli: Col-243株、 C. fetus: Co1-187株、C. lari: ATCC43675株、C. upsaliensis ATCC43954株、C. ハイオインテスティナリス Ch022株
【0140】
プライマー
Cj-CdtBU5 : 5’-ATCTTTTAACCTTGCTTTTGC-3’(最終濃度0.25 μM)(配列番号:26)
Cj-CdtBR6 : 5’-GCAAGCATTAAAATCGCAGC-3’(最終濃度0.25 μM)(配列番号:27)
Cc-CdtBU5: 5’-TTTAATGTATTATTTGCCGC-3’(最終濃度0.375 μM)(配列番号:28)
Cc-CdtBR5 : 5’-TCATTGCCTATGCGTATG-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:29)
Cf-CdtBU6: 5’- GGCTTTGCAAAACCAGAAG-3’(最終濃度0.375 μM)(配列番号:30)
Cf-CdtBR3: 5’-CAAGAGTTCCTCTTAAACTC-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:31)
ChspBU7: 5’-GTTCAAGAAGCAGGAAGC-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:24)
ChspBR7: 5’-AATACCWAKAATWGGTCTTG-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:25)
CupspBU3: 5’-CATAGTTAGTCGCGTCCA-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:32)
CupspBR4: 5’-CCAGTTAATCTCAGGACG-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:33)
ClaspBU4: 5’-GTATCCATGCTTTATCAAGA-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:34)
ClaspBR4: 5’-GTAGGCCTATAAGAGAACC-3’ (最終濃度0.375 μM)(配列番号:35)
(W: A or T, K: G or T)
【0141】
PCR
各菌株をボイル法にて調製したPCRテンプレートをそれぞれ0.5 μL、各プライマーを表記した最終濃度になるように加え、Multiplex PCR Mix 1 (タカラバイオ)を0.2 μL、x2 Multiplex PCR Mix2 (タカラバイオ)を20μL加えてtotal volume 40 μLとし、PCRを行った。PCR条件は94℃ 1min −(94℃ 30sec, 56℃ 90sec, 72℃ 90sec)X30 − 72℃ 5minで行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色、脱色した。
【0142】
結果
6菌種を対象としたマルチプレックス PCRは単独のカンピロバクター属細菌のcdtB遺伝子を効率良く検出することができるのみならず、6菌種すべての菌種が混在した場合でもそれぞれに特異的な増幅が見られた(
図16)。