(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770823
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ゲル組成物及び化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20150806BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20150806BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/891
A61Q19/00
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-268274(P2013-268274)
(22)【出願日】2013年12月26日
(62)【分割の表示】特願2009-528986(P2009-528986)の分割
【原出願日】2008年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-74058(P2014-74058A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2013年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2007-194741(P2007-194741)
(32)【優先日】2007年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】東レ・ダウコーニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】荒木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓
(72)【発明者】
【氏名】中間 康成
(72)【発明者】
【氏名】日根野 照彦
(72)【発明者】
【氏名】飯村 智浩
(72)【発明者】
【氏名】大川 直
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/025146(WO,A1)
【文献】
特開平05−209126(JP,A)
【文献】
特開平09−316085(JP,A)
【文献】
特開2004−262856(JP,A)
【文献】
特開2002−012514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体と、
炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、
水と
からなり、
前記オルガノシロキサン誘導体:前記1価脂肪族アルコールのモル比が1:0.1〜1:30であり、
前記水の配合量が、前記オルガノシロキサン誘導体と前記1価脂肪族アルコールの合計量100質量部に対して100〜10000質量部であり、
長周期構造において前記オルガノシロキサン誘導体と、前記一価脂肪族アルコールの2分子膜が層状に配列し、短面側において前記オルガノシロキサン誘導体及び一価脂肪族アルコールの疎水性基が六方晶型に配列した結晶構造を有する
ことを特徴とするゲル組成物。
【化1】
(式中、R
1及びR
2が−O−Si(R
4)
3で表される官能基(R
4は、炭素数1〜6のアルキル基である)であり、R
3が炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、Mは水素原子、金属原子又は有機陽イオンである。Aは、C
qH
2qで表される直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、qは6〜20の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のゲル組成物において、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールが、融点40℃以上の脂肪族アルコールであることを特徴とするゲル組成物。
【請求項3】
下記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体と、
炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、
水と
を含み、
前記オルガノシロキサン誘導体:前記1価脂肪族アルコールのモル比が1:0.1〜1:30であり、
前記水の配合量が、前記オルガノシロキサン誘導体と前記1価脂肪族アルコールの合計量100質量部に対して100〜10000質量部であり、
長周期構造において前記オルガノシロキサン誘導体と、前記一価脂肪族アルコールの2分子膜が層状に配列し、短面側において前記オルガノシロキサン誘導体及び一価脂肪族アルコールの疎水性基が六方晶型に配列した結晶構造を有する
ことを特徴とする化粧料。
【化2】
(式中、R
1及びR
2が−O−Si(R
4)
3で表される官能基(R
4は、炭素数1〜6のアルキル基である)であり、R
3が炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、Mは水素原子、金属原子又は有機陽イオンである。Aは、C
qH
2qで表される直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、qは6〜20の整数である。)
【請求項4】
請求項3に記載の化粧料において、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールが、融点40℃以上の脂肪族アルコールであることを特徴とする化粧料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2007年07月26日付け出願の日本国特許出願2007−194741号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明はゲル組成物及びこれを配合した化粧料、特にそれらの使用感触の改善に関する。
【背景技術】
【0003】
従来より、シリコーンオイルを代表するジメチルポリシロキサン固有の特性を生かし、構造の一部に様々な有機基を導入したオルガノ(ポリ)シロキサンの開発がなされている。
これらのうち、親水性の有機基を導入したオルガノポリシロキサン(例えば、ポリオキシエチレン・ポリシロキサン共重合体等)は、シロキサン部位の有する疎水性と併せて親水性部−疎水性部の両者を兼ね備えており、優れた界面活性能を示すことから、シリコーン系の界面活性剤として、特に化粧料の分野で汎用されている。
【0004】
例えば、親水性の有機基であるカルボキシル基を含むオルガノ(ポリ)シロキサン誘導体として、従来から様々な化合物の開発・検討がなされており、代表的なものとして、直鎖ポリシロキサン構造の側鎖にカルボキシル基を導入したオルガノシロキサン誘導体が広く知られている。近年、このような化合物の一例として、カルボキシル構造を含むシロキサンデンドリマーが報告されている(例えば、特許文献1〜3参照)。さらに、カルボキシル変性シリコーンをトリエタノールアミンで中和した化合物が、乳化能を有することも報告されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0005】
一方で、化粧料の分野では、従来、界面活性剤/高級アルコール/水の系でゲル構造を形成することが知られており(例えば、非特許文献3参照)、ゲル構造の崩壊等によって優れた使用感触を付与した化粧料の開発が進められている。しかしながら、従来のゲル組成物は、いずれも比較的リジッドなゲル構造を形成してしまう等の問題があり、使用感触の点で必ずしも満足のいくものが得られてなかった。そこで、シリコーン系の界面活性剤を使用することによって、なじみやべたつき等、さらに使用感触を改善する効果が期待されるものの、従来のシリコーン系界面活性剤においては、界面活性剤/高級アルコール/水系でゲル構造を形成するものは知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−072784号公報
【特許文献2】特開2000−239390号公報
【特許文献3】特開2001−213885号公報
【非特許文献1】影島一己,清水敏之,「カルボキシル変性シリコーンの乳化における界面活性剤としての応用」,FREGRANCE JOURNAL,臨時増刊19号,2005年,125〜130頁
【非特許文献2】影島一己,坂本晴美,清水敏之,「カルボキシル変性シリコーンの化粧品分野における界面活性剤としての応用」,日本化粧品技術者会誌,34巻,4号,2003年,309〜314頁
【非特許文献3】福島正二著,「セチルアルコールの物理化学」,フレグランスジャーナル社,第6章,76〜88頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、使用感触の改善されたゲル組成物、及びこれを配合した化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来技術の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、カルボキシル基を含む特定構造のオルガノシロキサン誘導体を用いることによって、当該オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系においてゲル構造を形成することができ、得られたゲル組成物が優れた使用感触を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の主題は、下記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体と、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、水と
からなり、前記オルガノシロキサン誘導体:前記1価脂肪族アルコールのモル比が1:0.1〜1:30であり、前記水の配合量が、前記オルガノシロキサン誘導体と前記1価脂肪族アルコールの合計量100質量部に対して100〜10000質量部であり、長周期構造において前記オルガノシロキサン誘導体と、前記一価脂肪族アルコールの2分子膜が層状に配列し、短面側において前記オルガノシロキサン誘導体及び一価脂肪族アルコールの疎水性基が六方晶型に配列した結晶構造を有することを特徴とするゲル組成物である。
【0010】
【化1】
(式中、R
1及びR
2が−O−Si(R
4)
3で表される官能基(R
4は、炭素数1〜6のアルキル基である)であり、R
3が炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、Mは水素原子、金属原子又は有機陽イオンである。Aは、C
qH
2qで表される直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、qは6〜20の整数である。)
【0011】
また、前記ゲル組成物において、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールが、融点40℃以上の脂肪族アルコールであることが好適である。
【0012】
また、本発明の第二の主題は、上記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体と、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、水とを含み、前記オルガノシロキサン誘導体:前記1価脂肪族アルコールのモル比が1:0.1〜1:30であり、前記水の配合量が、前記オルガノシロキサン誘導体と前記1価脂肪族アルコールの合計量100質量部に対して100〜10000質量部であり、長周期構造において前記オルガノシロキサン誘導体と、前記一価脂肪族アルコールの2分子膜が層状に配列し、短面側において前記オルガノシロキサン誘導体及び一価脂肪族アルコールの疎水性基が六方晶型に配列した結晶構造を有することを特徴とする化粧料である。
【0013】
また、前記化粧料において、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールが、融点40℃以上の脂肪族アルコールであることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カルボキシル基を含む特定構造のオルガノシロキサン誘導体を用いることによって、当該オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系においてゲル構造を形成することができ、優れた使用感触を有するゲル組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例1〜5の組成物(Be/St:TMSC
10COOH=0.1:1〜10:1)の示差走査熱量分析(DSC)測定結果である。
【
図2】処方例1の化粧水の小角X線散乱(SAXS)分析結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明にかかるゲル組成物は、カルボキシル基を含む特定構造のオルガノシロキサン誘導体と、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、水とからなることを特徴とするものである。
【0017】
オルガノシロキサン誘導体
本発明に用いられるオルガノシロキサン誘導体は、一般式(1)で表される化合物である。
最初に、下記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体について説明する。
【0018】
【化2】
【0019】
上記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、アルキルカルボキシル基で変性されたオルガノシロキサン誘導体であり、1分子中のケイ素原子の平均合計数が2〜20の範囲にあることを特徴とするものである。
上記一般式(1)において、R
1〜R
3は、少なくとも1つが−O−Si(R
4)
3で表される官能基(R
4は、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかである)、又は−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基(R
5は、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかであり、X
1はi=1のときの下記一般式(2)で示される官能基である)である。なお、R
1〜R
3において、その全てが前記官能基のいずれかであってもよい。あるいは、R
1〜R
3の少なくとも1つが前記官能基であれば、その他のR
1〜R
3は、同一または異なっていてもよい置換又は非置換の一価炭化水素基のいずれかであってもよい。
【0020】
−O−Si(R
4)
3で表される官能基において、R
4は、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかである。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、ヘキシル等の直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基が挙げられる。−O−Si(R
4)
3で表される官能基としては、例えば、−O−Si(CH
3)
3、−O−Si(CH
3)
2(C
2H
5)、−O−Si(CH
3)
2(C
3H
7)、−O−Si(CH
3)
2(C
4H
9)、−O−Si(CH
3)
2(C
5H
11)、−O−Si(CH
3)
2(C
6H
13)、−O−Si(CH
3)
2(C
6H
5)等が挙げられる。なお、前記官能基としては、トリアルキルシロキシ基であることが好ましく、トリメチルシロキシ基であることが最も好適である。
【0021】
また、−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基は、デンドリマー構造を有するオルガノシロキシ基であり、R
5は、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかである。また、X
1はi=1のときの下記一般式(2)で示される官能基である。
【0022】
【化3】
【0023】
上記一般式(2)において、R
6は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかであり、R
7及びR
8は、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基のいずれかである。R
6〜R
8は炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、全てメチル基であることが特に好ましい。また、Bは、一部に分岐を有してよいC
rH
2rで表される直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、rは2〜20の整数である。Bである炭素数2〜20のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルメチレン基、メチルエチレン基、1−メチルペンチレン基、1,4−ジメチルブチレン基等の分岐状アルキレン基が例示される。これらの中でも、エチレン基又はヘキシレン基が好ましい。
【0024】
上記一般式(2)において、iはX
iで示されるシリルアルキル基の階層を示し、階層数、すなわち、該シリルアルキル基の繰り返し数がnのとき1〜nの範囲の整数である。階層数nは1〜10の整数である。X
i+1はiがn未満のとき上記シリルアルキル基であり、i=nのときメチル基(−CH
3)である。aiはi=1のときは0〜2の整数であり、iが2以上のときは3未満の数である。aiは1以下であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
すなわち、デンドリマー構造の階層nが1である場合、式(2)のシリルアルキル基は、
【0025】
【化4】
で示され、デンドリマー構造の階層nが2である場合、式(2)のシリルアルキル基は、
【0026】
【化5】
で示され、デンドリマー構造の階層nが3である場合、式(2)のシリルアルキル基は、
【0027】
【化6】
で示されるものである。
【0028】
−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基として、特に好適には、下記一般式(4)で示されるシリルアルキル基の階層数nが1の官能基、又は下記一般式(5)で示されるシリルアルキル基の階層数nが2の官能基が挙げられる。
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
【0031】
また、上記一般式(1)中、R
1〜R
3においては、その少なくとも1つが、前記−O−Si(R
4)
3で表される官能基、又は−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基のいずれかであれば、その他のR
1〜R
3は、同一又は異なっていてもよい置換または非置換の一価炭化水素基のいずれかであってもよい。R
1〜R
3である非置換の一価炭化水素基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、ヘキシル等の直鎖状、分岐状あるいは環状のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基:アラルキル基が例示される。R
1〜R
3である置換の一価炭化水素基としては、3,3,3トリフロロプロピル基、3,3,4,4,4−ペンタフロロブチル基等のパーフルオロアルキル基;3−アミノプロピル基、3−(アミノエチル)アミノプロピル基等のアミノアルキル基;アセチルアミノアルキル基等のアミドアルキル基が例示される。また、R
1〜R
3の炭化水素基の一部が水酸基、アルコキシ基、ポリエーテル基又はパーフルオロポリエーテル基で置換されていてもよく、該アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が例示される。
【0032】
上記一般式(1)中、R
1〜R
3の1つ又は2つが、前記−O−Si(R
4)
3で表される官能基、又は−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基のいずれかである場合、その他のR
1〜R
3は、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。特に、一般式(1)中、R
1〜R
3において、全部または2つが前記−O−Si(R
4)
3で表される官能基、又は−O−Si(R
5)
2−X
1で表される官能基のいずれかであることが好ましく、その他のR
1〜R
3はメチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0033】
また、Mは水素原子、金属原子又は有機陽イオンである。金属原子としては、1価のアルカリ金属、2価のアルカリ金属、2価以上の金属原子が挙げられる。1価のアルカリ金属としては、Li,Na,Kが、2価のアルカリ金属としては、Mg,Ca,Baが、その他にはMn,Fe,Co,Al,Ni,Cu,V,Mo,Nb,Zn,Ti等が挙げられる。また、有機陽イオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、アルギニン中和イオン、アミノメチルプロパノール(AMP)中和イオン等が挙げられる。Mは、特に水素原子または1価のアルカリ金属であることが好ましく、また、これらの混合物であってもよい。
【0034】
Aは、C
qH
2qで表される直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、qは0〜20の整数である。なお、q=0の場合、一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、下記一般式(1’)で表される化合物であり、カルボキシル変性基はエチレン基を介してケイ素と結合しているものである。本発明においては、qが2〜15であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。一方、qの値が前記上限を超えると、使用感触に劣る場合がある。
R
1R
2R
3Si−(CH
2)
2−COOM (1’)
【0035】
また、上記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、1分子中のケイ素原子の平均合計数が2〜20の範囲にあることを特徴とするものである。ケイ素原子の平均合計数は3〜18の範囲が好ましく、特に3〜7の範囲であることが好ましい。一方、1分子中のケイ素原子の合計数が前記上限を超えると、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系でゲル構造を形成しなくなる場合がある。
【0036】
上記一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体としては、より具体的には、R
1,R
2が−O−Si(R
4)
3で表される官能基(R
4は、炭素数1〜6のアルキル基である)であり、R
3が炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、qの値が6〜12であるオルガノシロキサン誘導体が好適に用いられる。
【0037】
一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、R
1R
2R
3SiHで示されるケイ素原子結合水素原子含有ポリシロキサンと、CH=CH
2−A−COOSiMe
3で示されるビニル末端を有するカルボン酸トリメチルシリル誘導体とを、白金系触媒の存在下に付加反応させ、保護基であるトリメチルシリル基1モルあたり、少なくとも1モル以上のメタノール等の一価アルコール、水又はこれらの混合物を加えて加熱することにより、加アルコール分解により脱保護させる工程により製造することができる。なお、R
1、R
2、R
3、A、Mは前記同様の基であり、Mが金属原子又は有機陽イオンの場合には、対応する金属イオン(M
n+)を含む化合物又は塩基性の有機化合物による中和工程をさらに含む。一例として、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、トリエタノールアミン、アルギニン、アミノメチルプロパノール(AMP)等の水溶液を添加することにより、カルボキシル基(−COOH)を中和する工程である。
【0038】
また、一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体の製造方法は、特開2000−072784号公報、特開2000−239390号公報、特開2001−213885号公報に詳細に記載されている。本発明の一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体の製造方法は、特に、以下の工程(1)〜(3)により容易に製造することができる。
【0039】
工程(1):
HSi(−O−SiR
2H)
fR
L3−f
(式中、Rは炭素原子数1〜6のアルキル基またはフェニル基のいずれかであり、R
Lは同一又は異なっていてもよい置換又は非置換の一価炭化水素基であり、fは1〜3の整数である)で示されるジメチルシロキシ基を有するオルガノシランと、CH=CH
2−A−COOSiMe
3で示されるビニル末端を有するカルボン酸トリメチルシリル誘導体(式中、Aは前記同様の基)とを、白金系遷移金属触媒の存在下に付加反応させ、下基一般式の中間体(1−1)を得る工程。
Si(−O−SiR
2H)
fR
L3−f−(CH
2)
2−A−COOSiMe
3 (1−1)
【0040】
工程(2):
R
BSi(O−R
6)
ai(OSiR
7R
8−X
i+1)
3−ai
(式中、R
BはC
rH
2rで表される直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基であり、rは2〜20の整数である。R
6、R
7、R
8、X
i+1、aiは前記同様の基および数である)で示されるアルケニル基を有するオルガノシランとを、白金系触媒の存在下に付加反応させ、下記一般式の中間体(1−2)を得る工程。
Si{-O-SiR
2-B-Si(O-R
6)
ai(OSiR
7R
8-X
i+1)
3−ai}
fR
L3−f-(CH
2)
2-A-COOSiMe
3 (1−2)
【0041】
工程(3):
中間体(1−2)に、保護基であるトリメチルシリル基1モルあたり、少なくとも1モル以上のメタノール等の一価アルコール、水又はこれらの混合物を加えて加熱することにより、加アルコール分解により脱保護させる工程。
なお、一般式(1)で表されるオルガノシロキサン誘導体において、Mが金属原子又は有機陽イオンの場合には、対応する金属イオン(M
n+)を含む化合物又は塩基性の有機化合物による中和工程をさらに含む。一例として、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、トリエタノールアミン、アルギニン、アミノメチルプロパノール(AMP)等の水溶液を添加することにより、カルボキシル基(−COOH)を中和する工程である。
【0042】
つづいて、下記一般式(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体について説明する。
【化9】
【0043】
上記一般式(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、分子鎖の両末端がアルキルカルボキシル基で変性されたオルガノシロキサン誘導体である。
上記一般式(3)において、式中、R
9〜R
12は、同一又は異なっていてもよい置換又は非置換の一価炭化水素基のいずれかから選択される。R
9〜R
12である非置換の一価炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;アリル基、ヘキセニル基等の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアラルキル基が例示される。R
9〜R
12である置換の一価炭化水素基は、これらの基の炭素原子に結合した水素原子が部分的に水酸基、ハロゲン原子、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、アルコキシ基、ポリエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基等の有機基で置換された基であり、3,3,3−トリフロロプロピル基、3,3,4,4,4−ペンタフロロブチル基等のパーフルオロアルキル基;3−アミノプロピル基、3−(アミノエチル)アミノプロピル基等のアミノアルキル基;アセチルアミノアルキル基等のアミドアルキル基が例示される。R
9〜R
12は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基およびアラルキル基であることが好ましく、1分子中のR
9〜R
12の90モル%以上がメチル基及び/またはフェニル基であることが特に好ましい。
【0044】
また、Mは水素原子、金属原子又は有機陽イオンである。金属原子としては、1価のアルカリ金属、2価のアルカリ金属、2価以上の金属原子が挙げられる。1価のアルカリ金属としては、Li,Na,Kが、2価のアルカリ金属としては、Mg,Ca,Baが、その他にはMn,Fe,Co,Al,Ni,Cu,V,Mo,Nb,Zn,Ti等が挙げられる。また、有機陽イオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、アルギニン中和イオン、アミノメチルプロパノール(AMP)中和イオン等が挙げられる。Mは、特に水素原子または1価のアルカリ金属であることが好ましく、また、これらの混合物であってもよい。
【0045】
QはC
qH
2qで表される直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であり、qは0〜20の整数である。なお、q=0の場合、一般式(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、下記一般式(3’)で示される化合物であり、カルボキシル変性基はエチレン基を介してケイ素と結合するものである。本発明においては、qの値は6〜20であることが好ましく、6〜12であることが特に好ましい。一方、qの値が前記上限を超えると、使用感触に劣る場合がある。
MOOC-(CH
2)
2-(SiR
9R
10-O)
p-SiR
11R
12-(CH
2)
2-COOM (3’)
【0046】
上記一般式(3)において、pはジ置換ポリシロキサンの平均重合度を示し、0〜20の数である。本発明において、pが1〜20であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。一方、pが前記上限を超えると、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系でゲル構造を形成しなくなる場合がある。
【0047】
上記一般式(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体としては、R
9〜R
12が炭素数1〜6のアルキル基であり、qが0〜20の整数であり、pが0〜20の数であるオルガノシロキサン誘導体が好適に用いられる。
【0048】
上記一般式(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体は、
H−(SiR
9R
10−O)
p−SiR
11R
12−H
(式中、R
9〜R
12は前記同様の基であり、pは0〜20の数)
で示される分子鎖両末端にケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン1モルに対し、少なくとも2モルのCH=CH
2−Q−COOSiMe
3で示されるビニル末端を有するカルボン酸トリメチルシリル誘導体とを、白金系触媒の存在下に付加反応させ、保護基であるトリメチルシリル基1モルあたり、少なくとも1モル以上のメタノール等の一価アルコール、水又はこれらの混合物を加えて加熱することにより、加アルコール分解により脱保護させる工程により製造することができる。なお、Qは前記同様の基であり、Mが金属原子又は有機陽イオンの場合には、対応する金属イオン(M
n+)を含む化合物又は塩基性の有機化合物による中和工程をさらに含む。
具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、トリエタノールアミン、アルギニン、アミノメチルプロパノール(AMP)等の水溶液を添加することにより、カルボキシル基(−COOH)を中和する工程である。
【0049】
本発明の一般式(1)または(3)で表されるオルガノシロキサン誘導体を製造するために使用する白金系触媒は、ケイ素結合水素原子とアルケニル基のヒドロシリル化反応触媒であり、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のケトン錯体、白金のビニルシロキサン錯体、四塩化白金、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末が例示される。好ましくは、白金の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体または塩化白金酸である。
【0050】
炭素数10〜30の一価脂肪族アルコール(高級アルコール)
また、本発明に用いられる炭素数10〜30の一価脂肪族アルコール(以下、単に高級アルコールという場合がある)は、飽和又は不飽和の1価脂肪族アルコールであって、直鎖状、分岐状のいずれであっても構わないが、直鎖状であることがより好ましい。また、融点40℃以上の高級アルコールであることが好ましい。融点が40℃未満であるとゲル構造を形成できない場合がある。本発明に用いられる炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、セタノール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等を挙げることができる。なお、本発明においては、単独で融点40〜80℃の高級アルコールを用いるか、あるいは融点が40〜70℃となるように複数の高級アルコールの組み合わせを用いることが好ましい。
【0051】
ゲル組成物
本発明においては、上記特定構造のオルガノシロキサン誘導体を用いることにより、当該オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水系でゲル構造を形成することができる。ここで、本発明におけるゲル構造とは、通常、界面活性剤が形成する会合体構造の1種であって、長周期構造において界面活性剤及び高級アルコールの2分子膜が層状に配列しており、また、短面側では界面活性剤及び高級アルコールの疎水性基が六方晶型に配列していることを特徴とした結晶構造である。なお、疎水性基は自身の長軸の周りを回転しているが、液晶構造のように自由に熱運動はしておらず、また、親水性基間には多量の水が存在していることが知られている(例えば、福島正二著,「セチルアルコールの物理化学」,フレグランスジャーナル社,第6章,76〜88頁参照)。なお、このようなゲル構造を有する組成物は、独特な使用感触を有することが知られており、特に化粧料の分野において、例えば、クリームやクレンジング、化粧水等に広く利用されている。
【0052】
なお、本発明においてゲル組成物とは、系の内部にゲル構造を有する組成物であることを意味する。ゲル構造の有無の決定は、従来公知の方法によって行えばよく、例えば、X線回折法により行うことができる。ゲル構造を有する組成物についてX線回折測定を行った場合、通常、小角領域においてラメラ構造と同様の長面間隔に由来する繰り返しのピークが得られるとともに、広角領域において2θ=21.4°付近に短面側の六方晶系に由来するシャープな単一のピークが示される。また、示差走査熱量分析(DSC)測定によれば、ゲル構造を含む結晶構造の融解に伴う吸熱ピークが観測され、これによって結晶構造の推定を行うことも可能である。
【0053】
本発明にかかるゲル組成物は、上記オルガノシロキサン誘導体と、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、水とからなるものであり、これらの各成分を適切な比率で混合することで、上記したゲル構造を有する組成物として得られる。各成分の混合比率は、系内にゲル構造を形成するものである限り、特に限定されるものではないが、具体的には、オルガノシロキサン誘導体:炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールのモル比が、1:0.1〜1:30の範囲にあることが好ましく、1:3〜1:10の範囲にあることが特に好ましい。モル比が前記規定範囲外である場合、上記したゲル構造が安定に形成されない場合がある。また、水の配合量は、該混合物100質量部に対して100〜10000質量部の範囲であることが好ましく、200〜7000質量部の範囲にあることが特に好ましい。なお、水は2回以上に分けて配合してもよい。具体的には、オルガノシロキサン誘導体及び炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールの混合物100質量部に対して100〜1000質量部の水を添加して系内に安定なゲル構造を形成させた後、系に追加の水を添加することにより、オルガノシロキサン誘導体/炭素原子数10〜30の一価脂肪族アルコール/水からなる安定なゲル構造を系の内部に有する組成物を得ることができる。
【0054】
化粧料
また、上記特定構造のオルガノシロキサン誘導体と、炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールと、水とをともに化粧料中に配合することによって、化粧料製剤中でゲル構造を形成し、これによって、例えば、クリームやクレンジング、化粧水や乳液等の化粧料として用いた場合に、特にヌルつきの無さ、肌なじみの早さ、べたつきの無さといった点で優れた使用感触を付与することができる。
このため、本発明にかかる化粧料は、上記オルガノシロキサン誘導体と、高級アルコールと、水とを含み、該オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水からなる系がゲル構造を形成していることを特徴とするものである。
【0055】
本発明の化粧料へのオルガノシロキサン誘導体の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、組成物全量の0.1〜5質量%であり、好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.3〜1質量%である。オルガノシロキサン誘導体の配合量が少なすぎると、配合による効果が得られず、また、配合量が多すぎると、使用感触に悪影響を及ぼす場合がある。
【0056】
本発明の化粧料への炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールの配合量は、特に限定されるものではないが、通常、組成物全量の0.1〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜2質量%である。炭素数10〜30の一価脂肪族アルコールの配合量が少なすぎると、配合による効果が得られず、また、配合量が多すぎると、使用感触に悪影響を及ぼす場合がある。
【0057】
本発明の化粧料においては、本発明の効果を損なわない質的・量的な範囲内で、上記の必須成分に加えて、通常の化粧品、医薬品分野で用いられるその他の成分、例えば、油分、ワックス、保湿剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤、金属石鹸、水溶性高分子、油溶性高分子、薬剤、酸化防止剤、顔料、染料、パール剤、ラメ剤、有機・無機粉末、香料等を必要に応じて配合することができる。
【0058】
本発明の化粧料の使用用途は、特に限定されるものではなく、例えば、保湿クリーム、保湿乳液、保湿ローション、マッサージクリーム、マッサージローション、エッセンス等のスキンケア化粧料、へアクリーム、ヘアローション、整髪料等のヘアケア化粧料、サンスクリーン、ボディクリーム、ボディローション等のボディケア化粧料、口紅、マスカラ、アイライナー、ネールエナメル、液状ファンデーション、ゲル状ファンデーション等のメーキャップ化粧料、メーク落とし、シャンプー、リンス、リンスインシャンプー等の洗浄料等の種々の化粧料に利用することができる。
【実施例1】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下に実施例及び比較例において用いたオルガノシロキサン誘導体(化合物1〜4,比較化合物1〜4)の構造及びその合成方法を示す。なお、各化合物は
1H,
13C,
29Si−NMR(NMR装置:Fourier Transform Nuclear Magnetic Resonance Spectrometer JEOL JNM−EX400(日本電子社製)により同定した。
【0060】
【化10】
【0061】
化合物1の合成方法
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン100g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.02gを加え、70−100℃の範囲を保つように、ウンデシレン酸トリメチルシリル105gを滴下した。滴下終了後、2時間、100℃で熟成した後、ガスクロマトグラフィーを用いて反応の完了を確認した。低沸点分を減圧下、留去した。その後、メタノール、水を加え、還流下5時間熟成し、脱保護を行った。その後再び低沸点分を減圧下除去し、化合物1を得た。分析の結果、上記化学構造式で示される化合物1であることが確認された。
【0062】
【化11】
【0063】
化合物2の合成方法
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下ロートを取り付けたフラスコに、テトラキス(ジメチルシロキシ)シラン100gと白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.02gを投入し、これらを撹拌しながら90℃に加熱した。次いでこれに、ウンデシレン酸トリメチルシリル15.6gを、滴下ロートを用いて反応温度が90℃を保つようにゆっくり滴下した。滴下終了後、反応溶液を100℃で1時間加熱した。冷却後、減圧蒸留したところ、35.3gの無色透明液体が得られた。分析の結果、この液体は下記構造式で示される化合物であることが確認された。これを中間体2Aとした。
【0064】
【化12】
【0065】
次に撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコにビニルトリストリメチルシロキシシラン54.1g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.01gを加え、70−100℃の範囲を保つように、中間体2A35gを滴下した。滴下終了後、2時間、100℃で熟成した後、FT−IRによりSi−H結合の消失を確認した。低沸点分を減圧下、留去した。その後、メタノール8gを加え、還流下5時間熟成し、脱保護を行った。その後再び低沸点分を減圧下除去した。分析の結果、上記化学構造式で示される化合物2であることが確認された。
【0066】
【化13】
【0067】
化合物3の合成方法
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコにウンデシレン酸トリメチルシリル460.81g,白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.05gを加え、70−80℃の範囲を保つように、1, 1,3,3−テトラメチルジシロキサン100gを滴下した。滴下終了後、2時間、100℃で熟成した後、ガスクロマトグラフィーを用いて反応の完了を確認した。低沸点分を減圧下、留去した。その後、メタノール240gを加え、還流下5時間熟成し、脱保護を行った。その後再び低沸点分を減圧下除去し、化合物3を得た。分析の結果、上記化学構造式で示される化合物3であることが確認された。
【0068】
【化14】
【0069】
化合物4の合成方法
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコにウンデシレン酸トリメチルシリル225.0g,白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.05gを加え、70−80℃の範囲を保つように、下記一般式で表される両末端Si−Hシロキサン225gを滴下した。
【0070】
【化15】
【0071】
滴下終了後、2時間、100℃で熟成した後、FT−IRによりSi−H結合の消失を確認した。低沸点分を減圧下、留去した。その後、メタノール127gを加え、還流下5時間熟成し、脱保護を行った。その後再び低沸点分を減圧下除去し、化合物4を得た。分析の結果、上記化学構造式で示される化合物4であることが確認された。
【0072】
また、上記化合物1〜4の合成方法に準じて、以下に示す比較化合物1〜4のオルガノシロキサン誘導体を調製した。
【0073】
【化16】
【0074】
【化17】
【0075】
【化18】
【0076】
【化19】
【0077】
最初に、本発明者らは、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系での組成物の相状態について検討を行った。なお、オルガノシロキサン誘導体として上記化合物1、高級アルコールとしてベヘニルアルコール:ステアリルアルコール1:1混合物を用い、それぞれを各種割合で混合した組成物を調製し、示差走査熱量分析(DSC)を行った。試験の内容は以下に示すとおりである
【0078】
試験例1〜5
イオン交換水に水酸化カリウムを適量加え、室温で溶解して全体で80部とし、つづいて化合物1(以下、TMSC
10COOHと略す)と、ベヘニルアルコール:ステアリルアルコール1:1混合物(以下、Be/Stと略す)とを以下に示す各種割合(モル比)で混合したものを20部加え、ホモミキサーを用いて70℃に加温して攪拌混合した。その後、30℃まで急冷し、最終的に室温として、試験例1〜5の組成物を得た。
【0079】
試験例1 Be/St:TMSC
10COOK=0.5:1
2 Be/St:TMSC
10COOK=1:1
3 Be/St:TMSC
10COOK=3:1
4 Be/St:TMSC
10COOK=5:1
5 Be/St:TMSC
10COOK=10:1
【0080】
以上のようにして得られた試験例1〜5の各組成物について、DSC Q1000(TAインスツルメント(株)社製)を用いて、示差走査熱量分析(DSC)測定を行った。DSC測定の結果を
図1に示す。
【0081】
図1より、ベヘニルアルコール/ステアリルアルコールのモル比を上げていくと、特にベヘニルアルコール/ステアリルアルコール:化合物1のモル比が3:1〜10:1の試験例3〜5において、61〜62℃付近にオルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水により形成されるゲル構造に由来すると考えられるシャープな単一のピークが見られた。
【0082】
つづいて、本発明者らは、上記試験例と同様にして、化合物2〜4,比較化合物1〜4のオルガノシロキサン誘導体を用いて、ゲル構造の形成の有無について調べた。なお、高級アルコールとしては、上記試験同様、ベヘニルアルコール:ステアリルアルコール1:1混合物を用いた。結果をまとめたものを下記表1に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
【0083】
<ゲルの形成>
○:DSC測定において、ゲル構造の融解ピークと推定される吸熱ピークが見られた。
×:DSC測定において、ゲル構造の融解ピークに相当する吸熱ピークが見られなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
上記表1に示されるように、トリシロキサンあるいはデンドリマータイプのポリシロキサン側鎖にアルキルカルボキシル基を置換した化合物1,2、及び直鎖状のジシロキサンあるいはポリシロキサンの両末端にアルキルカルボキシル基を置換した化合物3,4においては、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系でゲル構造を形成することが明らかとなった。
【0086】
これに対して、トリメチルシランにアルキルカルボキシル基を置換した比較化合物1、長鎖ポリシロキサン(Si=100)の片末端、両末端、あるいは側鎖にアルキルカルボキシル基を置換した比較化合物2,3,4においては、高級アルコール及び水と混合してもゲル構造の形成は見られなかった。
【0087】
つづいて、本発明者らは、上記オルガノシロキサン誘導体と、高級アルコールと、水とを化粧料(乳液)中に配合し、その使用感触(ヌルつき、なじみ、べたつき)、及び乳化安定性について評価を行った。試験に用いた各種化粧料の組成と評価結果とを併せて下記表2及び3に示す。なお、評価基準は以下に示すとおりである。
【0088】
使用感触(ヌルつきの無さ、肌なじみの早さ、べたつきの無さ)
10名の専門パネルにより、各試験例の化粧料を実際に肌に塗布し、塗布時のヌルつきの無さ、塗布時の肌なじみの早さ、塗布後のべたつきのなさ、のそれぞれの使用感触について評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
◎:専門パネル10名のうち、9名以上が良いと答えた。
○:専門パネル10名のうち、6〜8名が良いと答えた。
△:専門パネル10名のうち、3〜5名が良いと答えた。
×:専門パネル10名のうち、2名以下が良いと答えた。
【0089】
乳化安定性
各試験例の化粧料を調製した後、透明のガラス管に充填して密閉し、50℃の恒温槽に1ヶ月間保存した後の乳化粒子の状態について評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
◎:乳化粒子の状態に変化は見られなかった。
○:乳化粒子がやや大きくなっていた。
△:乳化粒子が大きくなっていた。
×:乳化粒子が大きくなった結果、分離が生じていた。
××:製造直後に分離していまい、評価することができなかった。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
上記表2より、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水においてゲル構造を形成する化合物1〜5のオルガノシロキサン誘導体を用いた実施例1〜5の乳液は、ヌルつきの無さ、肌なじみの早さ、べたつきの無さといった使用感触の点でいずれも優れており、さらに乳化安定性も比較的良好であることがわかった。
【0093】
これに対して、上記表3より、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水の系でゲル構造を形成しない比較化合物1〜4を配合した比較例1〜4の乳液は、肌なじみ、べたつきといった使用感触の点で十分でなく、また、乳化安定性にも劣っていた。また、化合物1のオルガノシロキサン誘導体を高級脂肪酸とともに配合した比較例5においても、ヌルつきや肌なじみといった使用感触の点で満足のいくものは得られなかった。さらに、高級アルコールを併用しない比較例6においても、若干べたつきが生じたほか、特に乳化安定性の点で劣っていた。
【0094】
以上の結果から、カルボキシル基を含む特定構造のオルガノシロキサン誘導体と、高級アルコールと、水とをともに化粧料中に配合することによって、特にヌルつきの無さ、肌なじみの早さ、べたつきの無さといった使用感触の点で優れた化粧料が得られることが明らかとなった。
【0095】
以下、オルガノシロキサン誘導体と、高級アルコールと、水とを配合した、本発明の化粧料の処方例を具体的に示す。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
処方例1:乳液
(配合成分) (質量%)
(1)イオン交換水 残余
(2)エデト酸三ナトリウム 0.1
(3)フェノキシエタノール 0.3
(4)ブチレングリコール 7
(5)グリセリン 5
(6)カルボキシビニルポリマー 0.06
(7)水酸化カリウム 0.04
(8)化合物1 0.8
(9)ステアリン酸グリセリル 0.8
(10)ステアリン酸PEG−5グリセリル 1.1
(11)ベヘニルアルコール 0.5
(12)ジメチルポリシロキサン 5
(13)デカメチルシクロペンタシロキサン 5
(製法)
75℃まで加温した(1)〜(7)までの水相に、75℃まで加温した(8)〜(13)までの油、界面活性剤相を徐々に添加しホモミキサーにて撹拌後、30℃まで冷却することで乳液が得られた。
【0096】
なお、上記処方例1の乳液について、小角X線散乱測定(Spring8を使用,25℃にて測定)を行った。測定結果を
図2に示す。なお、図中、コントロール1,2は、それぞれ空セル及び水を用いて比較のために測定したスペクトルである。
図2に示されるように、処方例1の乳液においては、広角領域のq=15付近にゲル構造特有の単一ピークが認められた。このことから、処方例1の乳液中においては、オルガノシロキサン誘導体/高級アルコール/水により形成されるゲル構造が存在していることが確認された。
また、以上のようにして得られた処方例1の乳液は、ヌルつきの無さ、肌なじみの早さ、べたつきの無さといった使用感触の点でいずれも優れており、さらに乳化安定性も良好であった。
【0097】
処方例2:乳液
(配合成分) (質量%)
(1)イオン交換水 残余
(2)グリセリン 5
(3)ブチレングリコール 5
(4)ポリエチレングリコール1500 2
(5)エタノール 3
(6)フェノキシエタノール 0.3
(7)パラベン 0.1
(8)水酸化カリウム 0.1
(9)エデト酸3ナトリウム 0.05
(10)カルボキシビニルポリマー 0.1
(11)キサンタンガム 0.1
(12)ベヘニルアルコール 0.5
(13)オルガノシロキサン誘導体 1
(一般式(1)において、R
1=CH
3,R
2〜R
3=−O−Si(CH
3)
3,q=8,M=K)
(14)ワセリン 2
(15)スクワラン 3
(16)デカメチルシクロペンタシロキサン 3
(17)ジメチルポリシロキサン 2
(18)2−エチルヘキサン酸セチル 2
(19)イソステアリン酸PEG−60グリセリル 1
(20)ステアリン酸PEG−5グリセリル 1
(21)香料 0.1
(製法)
75℃まで加温した(1)〜(11)までの水相に、75℃まで加温した(12)〜(21)までの油、界面活性剤相を徐々に添加しホモミキサーにて撹拌後、30℃まで冷却することで乳液が得られた。
【0098】
処方例3:クリーム
(配合成分) (質量%)
(1)イオン交換水 残余
(2)グリセリン 7
(3)ジプロピレングリコール 7
(4)エリスリトール 1
(5)ポリエチレングリコール20000 2
(6)フェノキシエタノール 0.5
(7)トリエタノールアミン 0.5
(8)エデト酸3ナトリウム 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.1
(10)キサンタンガム 0.1
(11)ベヘニルアルコール 3
(12)ステアリルアルコール 1
(13)オルガノシロキサン誘導体 1
(一般式(1)において、R
1=CH
3,R
2〜R
3=−O−Si(CH
3)
3,q=16,M=Na)
(14)マイクロクリスタリンワックス 1
(15)ワセリン 2
(16)スクワラン 5
(17)デカメチルシクロペンタシロキサン 3
(18)ジメチルポリシロキサン 3
(19)イソノナン酸イソノニル 2
(20)イソステアリン酸PEG−60グリセリル 1
(21)ステアリン酸PEG−5グリセリル 1
(22)香料 0.1
(製法)
75℃まで加温した(1)〜(10)までの水相に、75℃まで加温した(11)〜(22)までの油、界面活性剤相を徐々に添加しホモミキサーにて撹拌後、30℃まで冷却することでクリームが得られた。
【0099】
処方例4:日焼け止め化粧料
(配合成分) (質量%)
(1)ポリオキシエチレン硬化ひまし油 1
(2)ジメチコンコポリオール 0.5
(3)デカメチルシクロペンタシロキサン 15
(4)オルガノシロキサン誘導体 0.5
(一般式(3)において、R
9〜R
12=CH
3,P=6.6,q=8,M=K)
(5)ベヘニルアルコール 0.3
(6)フェニルトリメチコン 1
(7)疎水化処理酸化チタン 5
(8)疎水化処理酸化亜鉛 2
(9)球状ポリアクリル酸アルキル粉体 2
(10)パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 5
(11)クエン酸 0.01
(12)クエン酸ナトリウム 0.09
(13)シリカ 1
(14)パラベン 適量
(15)フェノキシエタノール 適量
(16)水酸化ナトリウム 0.05
(17)エタノール 5
(18)ダイナマイトグリセリン 1
(19)サクシノグルカン 0.2
(20)セルロースガム 1
(21)イオン交換水 残余
(製法)
(11)〜(21)の水相を調製後、(1)〜(10)の油相に徐々に添加し、最後にホモミキサーを用いて攪拌した。
【0100】
処方例5:乳化ファンデーション
(配合成分) (質量%)
(1)タルク 3
(2)二酸化チタン 4
(3)ベンガラ 0.5
(4)黄酸化鉄 1.5
(5)黒酸化鉄 0.1
(6)ベントナイト 0.5
(7)モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 1
(8)トリエタノールアミン 1.5
(9)ジプロピレングリコール 8
(10)イオン交換水 残余
(11)オルガノシロキサン誘導体 0.6
(一般式(3)において、R
9〜R
12=CH
3,p=1,q=12,M=Na)
(12)ステアリルアルコール 0.4
(13)イソヘキサデシルアルコール 6
(14)モノステアリン酸グリセリン 2
(15)液状ラノリン 2
(16)流動パラフィン 6
(17)パラベン 0.1
(18)香料 0.05
(製法)
ベントナイトを分散したジプロピレングリコールをイオン交換水に加え、70℃でホモミキサー撹拌をした後、残りの水相成分を添加し撹拌した。これに十分混合粉砕された粉体部を撹拌しながら添加し、70℃で撹拌した。最後に70℃〜80℃に加熱溶解された油相を徐々に添加しホモミキサーで撹拌した後、30℃まで冷却することで乳化ファンデーションを得た。
【0101】
処方例6:乳化アイシャドー
(配合成分) (質量%)
(1)タルク 10
(2)カオリン 2
(3)顔料 5
(4)オルガノシロキサン誘導体 1
(一般式(1)において、R
1〜R
3=−O−Si(R
5)
2−X
i,R
5=CH
3,R
6=C
8H
17,R
7〜R
8=CH
3,ai=1,X
i+1=CH
3,q=8,M=HN
+(CH
2CH
3OH)
3)
(5)ベヘニルアルコール 0.2
(6)ミリスチン酸イソプロピル 6
(7)流動パラフィン 5
(8)モノラウリン酸プロピレングリコール 3
(9)香料 0.05
(10)イオン交換水 残余
(11)ブチレングリコール 5
(12)グリセリン 1
(13)水酸化カリウム 0.07
(14)フェノキシエタノール 0.5
(15)エデト酸2ナトリウム 0.1
(製法)
(1)〜(3)の粉体部を混合後、粉砕処理をする。(10)〜(15)の水相部を75℃まで加温する。(4)〜(9)の油相部を80度まで加温溶解する。粉体部を水相に加え撹拌し、ここに油相を撹拌しながら徐々に添加し、ホモミキサー処理を行う。30℃まで冷却することで乳化アイシャドーを得る。