(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770828
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ミリメートル未満のサイズの熱線センサと関連する製造方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/692 20060101AFI20150806BHJP
G01P 5/12 20060101ALI20150806BHJP
G01L 21/10 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
G01F1/692 A
G01P5/12 C
G01L21/10
【請求項の数】35
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-504374(P2013-504374)
(86)(22)【出願日】2011年4月11日
(65)【公表番号】特表2013-527436(P2013-527436A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】IB2011051546
(87)【国際公開番号】WO2011128828
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】1001523
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】501029102
【氏名又は名称】エコール サントラル ド リル
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ,フィリップ ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ジメノ モンジュ,レティシア
(72)【発明者】
【氏名】タルビ,アブデルクリム
(72)【発明者】
【氏名】マーレン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアルド,ロマン ヴィクトル ジャン
(72)【発明者】
【氏名】モルテ,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ソルタニ、アリ
(72)【発明者】
【氏名】プレオブラゼンスキー,ヴラジーミル
【審査官】
公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05883310(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0109102(US,A1)
【文献】
特開2007−017263(JP,A)
【文献】
特開2005−146405(JP,A)
【文献】
特開2003−279394(JP,A)
【文献】
特開平05−102153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/69
G01L 21/10
G01P 5/12
G01K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 基板(10);
− 支持棒の一つの部分が基板(10)上に堆積され、支持棒の他の部分(111,121)が基板から連続して延出する2つの支持棒(11,12);
− 支持棒(11,12)の2つの端部の間に延び、金属材料の少なくとも2つの層を備え、その層の一方が残留引張応力を有する材料で作られ、他方が残留圧縮応力を有する材料で作られ、これらの金属層の厚さが、限定値より小さい金属ワイヤの全残留応力を得るために前記2つの層の間の残留応力を補償するに適している、熱線を形成するように意図された金属ワイヤ(13);
− 支持棒の上に配置され、各々がワイヤ(13)の端部の一方に接続される電気的接触子(14,15)、
を備えたことを特徴とするミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項2】
支持棒(11,12)が、シリコン(Si)又は炭化珪素(SiC)のナノ結晶ダイヤモン
ドから作られる請求項1記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項3】
支持棒(11,12)が、3μmより小さい厚さをそれぞれ有するナノ結晶ダイヤモンドから作られる請求項1又は2に記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項4】
金属ワイヤ(13)の金属材料の前記少なくとも2つの層は、各々が金属材料、Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの少なくとも1つで作られる請求項1〜3のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項5】
金属ワイヤ(13)が、タングステンの少なくとも1つの層で被覆されたニッケルの少なくとも1つの層を備え、ニッケル層の厚さとタングステン層の厚さの比が2と5の間にある請求項1〜4のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項6】
ニッケル層の厚さが50nmと2μmとの間にある請求項5のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項7】
金属ワイヤ(13)が、白金の少なくとも1つの層を備える請求項1〜6のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項8】
金属ワイヤ(13)が複数の金属二重層を備え、各二重層は、残留引張応力を有する材料から作られた1つの層と、残留圧縮応力を有する材料で作られた他の層とによって形成され、これらの金属層の厚さが、限定値より小さい金属ワイヤの全残留応力を得るために前記少なくとも2つの層の間の残留応力を補償するのに適する請求項1〜7のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項9】
金属ワイヤ(13)が、
− 白金の第1層;
− タングステンの層で被覆されたニッケルの層によって形成された複数の二重層;および
− 白金の第2層、
を備える請求項1〜8のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項10】
金属ワイヤ(13)の厚さが、100nmと5μmの間である請求項1〜9のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項11】
金属ワイヤ(13)が、50μmと1mmの間の長さを有する請求項1〜10のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項12】
金属ワイヤ(13)が、温度によって直線的に変化し、20℃で5オームと10オームとの間にあり、200℃で10オームと15オームとの間にあるオーム抵抗を有する請求項1〜11のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項13】
電気的接触子(14,15)が、材料、Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの少なくとも1つからなる請求項1〜12のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項14】
電気的接触子(14,15)と支持棒(11,12)との間に熱的絶縁層(16)が設けられる請求項1〜13のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項15】
支持棒(11,12)の間および金属ワイヤ(13)の下に、機械的強化部材(17)が設けられた請求項1〜14のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項16】
機械的強化部材(17)が、3μmより小さい厚さを有する請求項15記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項17】
(a)センサの支持棒を形成するように意図された材料から作られた層を、基板の表面に堆積し;
(b)少なくとも2つの支持棒を形成するために、工程(a)で堆積された前記材料をエッチングし:
(c)金属ワイヤを形成するために、工程(b)でエッチングされた支持棒の端部間に金属材料の少なくとも2つの層を堆積し、これらの層の一方は残留引張応力を有する材料から作られ、他方は残留圧縮応力を有する材料から作られ、これらの金属層の厚さは、限定値より小さい金属ワイヤの全残留応力を得るために前記少なくとも2つの層間の残留応力を補償するのに適当であり;
(d)工程(c)で堆積された金属ワイヤを焼鈍し;
(e)電気的接触子を形成するために、支持棒上に金属の1つ以上の層を堆積して各接触子を金属ワイヤの各端部に接続し;
(f)支持棒の一部を基板から解放するために基板をエッチングする、
ことを含み、基板から出発する工程を備えることを特徴とするミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項18】
工程(a)が基板表面上でナノ結晶ダイヤモンドの層を成長させることを含む請求項17記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項19】
工程(a)が、
(a1)希釈したナノメータサイズのダイヤモンド結晶のコロイド溶液を調製し、
(a2)前記溶液内に基板を設置し、
(a3)この溶液に浸漬した基板を超音波にさらす、
ことを含む工程を備える、請求項17又は18に記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項20】
工程(b)が、金属ワイヤの機械的支持体として意図された、2つの棒間に延びる機械的支持体のエッチングを備える請求項17〜19のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項21】
工程(c)がキャップの輪郭によるリフトオフ処理によって行われる請求項17〜20のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項22】
工程(a)が、200℃と700℃の間の温度で、15分と45分の間に行われる請求項17〜21のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項23】
工程(e)が、
(e1)支持棒上に、種の層を堆積し;次に、
(e2)工程(e1)で堆積された種の層の上に電気分解によって金属材料の少なくとも1層を堆積すること、
を含む請求項17〜22のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項24】
工程(f)が、化学的エッチングによって行われる請求項17〜23のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項25】
工程(f)が物理化学的エッチングによって行われる請求項17〜24のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項26】
棒の上と、基板上の棒の延長において熱的絶縁層を堆積することを含む追加の工程が、工程(e)の前に設けられる請求項17〜25のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項27】
支持棒(11,12)が、100nmと3μmとの間の厚さをそれぞれ有するナノ結晶ダイヤモンドから作られる請求項1又は2に記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項28】
金属ワイヤ(13)の厚さが、1μmと3μmとの間である請求項1〜9のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項29】
電気的接触子(14,15)と支持棒(11,12)との間に、酸化シリコン、窒化シリコン、セラミック又はポリマー材料からなる熱的絶縁層(16)が設けられる請求項1〜13のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項30】
機械的強化部材(17)が、100nmと3μmとの間の厚さを有する請求項15記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサ(1)。
【請求項31】
工程(a)が、
(a1)水で希釈したナノメータサイズのダイヤモンド結晶のコロイド溶液を調製し、
(a2)前記溶液内に基板を設置し、
(a3)この溶液に浸漬した基板を超音波にさらす、
ことを含む工程を備える、請求項17又は18に記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項32】
工程(e)が、
(e1)支持棒上に、噴霧によって種の層を堆積し;次に、
(e2)工程(e1)で堆積された種の層の上に電気分解によって金属材料の少なくとも1層を堆積すること、
を含む請求項17〜22のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項33】
工程(e)が、
(e1)支持棒上に、種の層を堆積し;次に、
(e2)工程(e1)で堆積された種の層の上に電気分解によって金属材料の少なくとも1層を堆積し、さらにその金属層の上に他の金属層を堆積すること、
を含む請求項17〜22のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項34】
工程(f)が、KOHの槽内におけるウエットエッチング又はXeF2中におけるガス相エッチングによって行われる請求項17〜23のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【請求項35】
工程(f)がボッシュDRIE型のプラズマエッチングによって行われる請求項17〜24のいずれか1つに記載のミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はミリメートル未満のサイズ(submillimeter-sized)の熱線センサ(hot-wire sensors)の分野に関する。
【0002】
一般的に、熱線は、流れの中の速度(流速計)、側壁の摩擦、又は圧力の測定を行うために用いられる。
【0003】
慣例上、市販品は、数ミクロン(例えば5ミクロン)のオーダーのミリメータサイズの長さと直径を有する。これらのセンサのサイズ、とくにその長さを小さくすることによって、流れの乱れを減少すること、測定の空間分解能を増大すること、および狭い領域(例えば、オリフィス内や微小流体工学における)の測定を行うことが、可能になる。
【0004】
ほとんどの熱線センサは、現在、従来の製造技術によって製造されている。
【0005】
しかしながら、最近、小型化された熱線センサを製造するためのMEMS(微小電気機械システム)の微小製造技術を使用することが提案されてきている。
【0006】
これらの微小製造技術の使用によって達成される1つの目的は、側壁の流れに関する情報を提供する目的で構造物(たとえば、航空機の翼のモデル)の表面に埋め込まれた一連のセンサの製造である。これらの技術によって達成される他の目的は、流れを積極的に制御する目的で(壁に設けられた)アクチュエータの閉ループ制御を行うためにこれらのセンサを用いることである。
【0007】
MEMSタイプの熱線の例は、ジャック・チェンおよびチャン・リュ著「表面の微小機械による非平坦熱線流体速度計」(Journal of microelectromechanical system、第12巻(6)、2003年12月)(D1)又は同著者による対応米国特許第6 923 054号(D2)で与えられる。
【0008】
これらの刊行物において、ミリメートル未満のサイズの熱線は、シリコン基板と、ポリイミドから作られた2つの支持棒と、支持棒の2つの端部間に延びるミリメートル未満のサイズの金属ワイヤ(熱線)とを備え、このワイヤは、特に、白金の第1層と、ニッケルの層と、白金の第2層とを備える。
【0009】
この2つの支持棒は基板の表面に対して直交して延びる。この目的のために、支持棒は製造工程において基板平面に対して直角に曲げられる。
【0010】
金属ワイヤはその端部の各々において、クロムで作られた接着層により、そのポリイミド棒の上に搭載された金製の金属接触子に接続されている。
【0011】
金属ワイヤはまた、ポリイミドで作られた追加の機械的な支持要素に搭載されるが、その支持要素は前記2つの支持棒の間に延びる。このポリイミドの機械的な支持要素上の金属ワイヤの支持はまた、クロム層によって行われる。
【0012】
熱線の支持体としてポリイミドが選ばれるのは、それが低熱伝導体の材料であるからであり、それによってポリイミドの支持体を介しての望ましくない損失を最小にし、センサ(熱線)の検出部分を介して正確な測定値を容易に得ることができる。
【0013】
この刊行物によってこのように提供された設計により、センサの感度を機械的に低下させることなく、5m/sを越える速度の測定を行うことができる。
【0014】
従って、センサの検出部分において、ポリアミドの支持体の厚さは、そのような速度に耐えるように選択された。それ故、ポリイミドの支持体の厚さは、熱線の機械的強度の機能を保証するためには最小値を有する必要があり、それは小さい厚さ、つまり0.12μmの厚さを有する。
【0015】
同時に、ポリイミドの支持体の厚さは、大きすぎてはならない。それは、ポリイミド支持体の熱容量が大きくなりすぎて、流体速度計の周波数応答に害を与えるからである。
【0016】
この特別な場合において、機械的強度と流体速度計の周波数応答(例えば、流速の急速な変化における)との間の受入れられる妥協案として、約2.7μmのポリイミドの厚さが採用された。
【0017】
実際、注目すべきことであるが、ポリイミドの支持体の厚さ(2.7μm)は、熱線(0.12μm)を形成する金属層よりもかなり大きいが、それを変えることは難しい。
【0018】
変形として、刊行物D2(刊行物D1ではない)は、熱線のポリイミド支持体を除去することを提案している。従って、それは、検出部分(熱線)が金属のみで作られポリイミド支持体を備えないセンサを予想させるものである。
【0019】
この変形において、理解されることであるが、金属の厚さ(0.12μm)は、5m/sより大きい速度に破損することなく耐えるためには、熱線にとって不十分である。
【0020】
さらに、理解されることであるが、この熱線センサの機械的強度はまた、基板に対する支持棒の湾曲によって限定される。
【0021】
実際、この湾曲は支持棒に屈曲領域を形成する。さらに、この湾曲における応力は支持棒のどの部分よりも大きい。
【0022】
従って、この設計により、この熱線センサは能力の限界を示す。
【0023】
これは、例えば、高速度の測定(>20m/s又は空気流で30m/s以上)を行い、この速度の正確な測定を維持することが望まれる場合である。
【0024】
ポリイミドをセンサの検出部分に設けると、ポリイミドの厚さを増大させることになり、測定精度を損ねる。
【0025】
これは、センサの周波数応答がポリイミドの厚さによって限定される限り、不安定な流れに対してはより重大である。
【0026】
センサの検出部分において、ポリイミドなしで金属の厚さのみが与えられるとき、金属の厚さを増大することが考えられる。
【0027】
不幸なことに、これは金属の中に存在する残留応力により予想できない。「残留応力」という表現は、外部応力が全くないときに材料の中に存続する応力を意味すると理解される。
【0028】
実際、大きい厚さの金属層に対して、残留応力は、湾曲熱線に帰着するが、それは正確な測定を行うのには用いられない。
【0029】
換言すれば、金属の厚さは熱線の湾曲の問題を回避するに十分小さくできるが、この熱線は5m/sより大きい速度には不適当な機械的強度を有するか、又は金属の厚さが5m/sより大きい速度に耐えるだけ大きい場合にはセンサによって行われる測定が不正確になる。
【0030】
さらに、いずれの場合でも、支持棒の厚さは、支持棒の湾曲や機械的破壊を防止するために増大しなければならない。
【0031】
最後に、設計により、そのような熱線は、流れが生じる壁に強固に付設され、熱線の支持体は基板平面から延出している。従って、この熱線センサは、例えば壁の近傍や流れの中央で測定を行うために、流れの任意の点に移動させることができない。実際、支持体の長さは固定され、この長さによって壁と熱線間の距離が決定される。
【0032】
従って、発明の1つの目的は、現在の熱線センサの欠点の少なくとも1つを克服することである。
【0033】
特に、この発明の1つの目的は、流れの中において、壁の近傍において、又は流れの中のいずれの場所においても、正確な測定を行うことができ、このタイプのセンサの現在の処理電子回路に適したミリメートル未満のサイズの熱線センサを提供することである。
【0034】
また特に、この発明の1つの目的は、高速度、つまり20m/sより高い、又は30m/s以上までの正確な測定を行うことができるミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造することである。
【0035】
これらの目的の少なくとも1つを達成するために、この発明は、
− 基板;
− 支持棒の一つの部分が基板上に堆積され、支持棒の他の部分が基板から連続して延出する2つの支持棒;
− 支持棒の2つの端部の間に延び、熱線を形成するように意図された金属ワイヤ;
− 支持棒の上に配置され、各々がワイヤの端部の一方に接続される電気的接触子、
を備えるミリメートル未満のサイズの熱線センサを提供する。
【0036】
そのセンサは、発明の他の技術的特徴、
− 支持棒がナノ結晶ダイヤモンドから、シリコン(Si)から、又は炭化珪素(SiC)から作られる;
− 支持棒が3μmより小さい、例えば100nmと3μmとの間の厚さをそれぞれ有するナノ結晶ダイヤモンドから作られる;
− 金属ワイヤが金属材料:Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの少なくとも1つからなる;
− 金属ワイヤがタングステンの少なくとも1つの層で被覆されたニッケルの少なくとも1つの層を備える;
− ニッケル層の厚さとタングステン層の厚さの比が2と5の間である;
− ニッケル層の厚さが50nmと2μmとの間にある;
− 金属ワイヤが白金の少なくとも1つの層を備える;
− 金属ワイヤが複数の金属二重層を備え、各二重層は異なる金属から作られた2つの層、例えばタングステン層で被覆されたニッケル層から形成される;
− 金属ワイヤ(13)が、
○白金の第1層;
○タングステン層で被覆されたニッケル層によって形成された複数の二重層;および
○白金の第2層
を備える;
− 金属ワイヤの厚さが100nmと5μmの間、好ましくは1μmと3μmとの間である;
− 金属ワイヤは50μmと1mmとの間の長さを有する;
− 金属ワイヤは、温度によって直線的に変化し、20℃で5オームと10オームとの間にあり、200℃で10オームと15オームとの間にあるオーム抵抗を有する;
− 電気接触子は、金属材料:Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの少なくとも1つからなる;
− 熱的絶縁層は、金属接触子と支持棒との間に設けられ、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、セラミック又はポリマー材料からなる;
− 機械的強化部材が支持棒の間および金属ワイヤの下に設けられる;
− 機械的強化部材が3μmより小さく、例えば100nmと3μmとの間の厚さを有する、
を単独で又は組み合わせて提供する。
【0037】
これらの目的の少なくとも1つを達成するために、この発明は、
(a)センサの支持棒を形成するように意図された材料から作られた層を、基板の表面に堆積し;
(b)少なくとも2つの支持棒を形成するために、工程(a)で堆積された前記材料をエッチングし;
(c)金属ワイヤを形成するために、工程(b)でエッチングされた支持棒の端部間に金属材料の少なくとも2つの層を堆積し;
(d)工程(c)で堆積された金属ワイヤを焼鈍し;
(e)電気的接触子を形成するために、支持棒上に金属の1つ以上の層を堆積して各接触子を金属ワイヤの各端部に接続し;
(f)支持棒の一部を基板から解放するために基板をエッチングする、
ことを含み、基板の出発する工程を備えるミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造する方法を提供する。
【0038】
この方法は、次の工程を単独で、又は組み合わせて備えることができる。
− 工程(a)は基板の表面にナノ結晶ダイヤモンドの層を成長させることを含む;
− 工程(a)は、
(a
1)例えば水で希釈したナノメータサイズのダイヤモンド結晶のコロイド状の溶液を調製し;
(a
2)前記溶液内に基板を設置し、
(a
3)この溶液に浸漬した基板を超音波にさらす、
工程を備え、
− 工程(b)は、金属ワイヤの機械的支持体として意図された、2つの棒間に延びる機械的支持体をエッチングすることを備え、
− 工程(c)はキャップの輪郭によるリフトオフ処理によって行われ;
− 工程(d)は200℃と700℃の間の温度で15分と45分の間に行われ;
− 工程(e)は、
(e
1)支持棒の上に、例えば噴霧によって、種の層に堆積し、
(e
2)工程(e
1)で堆積された種の層上に電気分解によって金属材料の少なくとも1つの層を堆積すると共に、随意に第1金属層の上に他の金属層を堆積する、
工程を備え;
− 工程(f)は、化学エッチング、例えばKOHの浴の中でのウエットエッチング又はXeF
2中のガス相エッチングにより行われ;
− 工程(f)は物理化学エッチング、例えばボッシュDRIE型のプラズマエッチングによって行われ;
− 棒の上と、基板上の棒の延長において熱絶縁層を堆積することを含む追加の工程が工程(e)の前に設けられる。
【0039】
この発明の他の特徴、目的および利点は、次の図を参照して以下に与えられる詳細な説明において延べられる。
−
図1は、この発明による熱線センサを表す図である。
−
図2は、この発明によるセンサの熱線を形成することができる金属材料の多重層の全残留応力における変化を示す。
−
図3は、この発明によるセンサの熱線を形成することができる金属材料の多重層の走査伝送型電子顕微鏡写真を示す。
−
図4は、金属材料の多重層のオーム抵抗の変化を温度の関数として示す。
−
図5は、
図1に示されるA−A断面に沿った部分断面図である。
−
図6は、
図6(a)と6(b)とを含み、
図6(b)は、この発明による熱線を形成するように意図された少なくとも1つの金属層を堆積する工程を行うために用いられる特定のプロファイルを示し、
図6(a)は、参照によって与えられる従来のプロファイルを示す。
−
図7は、この発明によるセンサを製造するための工程の実行によって得られる中間構造を示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、この発明による熱線センサを表す図である。
【
図2】
図2は、この発明によるセンサの熱線を形成することができる金属材料の多重層の全残留応力における変化を示す。
【
図3】
図3は、この発明によるセンサの熱線を形成することができる金属材料の多重層の走査伝送型電子顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、金属材料の多重層のオーム抵抗の変化を温度の関数として示す。
【
図5】
図5は、
図1に示されるA−A断面に沿った部分断面図である。
【
図6】
図6は、
図6(a)と6(b)とを含み、
図6(b)は、この発明による熱線を形成するように意図された少なくとも1つの金属層を堆積する工程を行うために用いられる特定のプロファイルを示し、
図6(a)は、参照によって与えられる従来のプロファイルを示す。
【
図7】
図7は、この発明によるセンサを製造するための工程の実行によって得られる中間構造を示す。
【0041】
この発明によるミリメートル未満のサイズの熱線センサは、
図1と2に概略的に示される。この熱線センサ1は、基板10と2つの支持棒11,12とを備え、支持棒11,12の一部分110は基板10の上に堆積され、支持棒11,12の他の部分111,121は基板10から延出している。
【0042】
従って部分111,121は、基板10の表面101上に配置された棒の部分から延長して配置されている。
【0043】
基板10はシリコンで作ることができる。基板として用いられる他の材料も、適当であると考えられる。
【0044】
支持棒11,12はナノ結晶ダイヤモンド(nanocrystalline diamond)で作ることができる。この場合、これらの棒11,12はそれぞれ3μmより薄く、例えば100nmと3μm間の薄い厚さを有するが、機械的な支持機能を提供する。実際、ナノ結晶ダイヤモンドは有利な機械的特性を有すると共に、低熱膨張率を兼備している。従って、そのヤング率は約1100GPa、その降伏強さは約53GPa、そして、その熱膨張率は1ppm/℃である。
【0045】
変形として、支持棒11,12は、シリコン(Si)又は炭化珪素(SiC)から作ることができる。
【0046】
支持棒11,12の基板10から延出する部分111,121は、基板から離れるほど幅(図示しない)が狭くなっている。それによって、基板、つまり、それに沿って或る特性(例えば速度)を知ることが望まれる流れが生じる壁から離れた支持棒の悪影響が制限される。
【0047】
センサ1はまた、支持棒11,12の2つの端部の間に延びるミリメートル未満のサイズの金属ワイヤ13を備える。このワイヤは熱線を形成するように意図されている。
【0048】
金属ワイヤ13は、Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの内の少なくとも1つ金属材料で構成できる。
【0049】
好ましくは、金属ワイヤ13は金属材料の少なくとも2つの層を備え、その1つの層は残留引張応力を有する材料から作られ、他の1つの層は残留圧縮応力を有する材料で作られる。
【0050】
残量応力とは、外部の応力が全く無いときに材料内に持続する応力のことである。
【0051】
例えば、金属ワイヤ13は少なくとも1つのタングステン(W)層で被覆されたニッケル(Ni)の少なくとも1つの層を備える。
【0052】
ニッケルは残留引張応力を有し、タングステンは残留圧縮応力を有し、それらの値は堆積条件の如何による。
【0053】
第1のテストは、これらの残留応力を測定するために実行された。従って、出願人はシリコン基板上にニッケル層を、全ウェハー規模で堆積することによってニッケルの残留応力を測定した。出願人はまた、ニッケルと共に使用した基板と同等の基板の上にタングステン層を、全ウェハー規模で堆積することによりタングステンの残留応力を測定した。
【0054】
両方の場合において、堆積された金属(Ni又はW)の層は、基板の寸法に対して薄い層である。
【0055】
さらに、堆積はスパッタリングによって実行された。
【0056】
この技術は、堆積される材料(Ni又はW)のターゲットをスパッタするためにアルゴンのような不活性ガスのプラズマを使用する。使用されるアルゴン圧力は、0.9Pa(つまり、25sccmのアルゴンの流速、つまり、使用するチャンバーについて25cm
3/min)と3.1Pa(つまり、同じチャンバーについて110sccmのアルゴン流速)の間にある。
【0057】
ターゲット(負極)と基板(正極)との間にプラズマが生成され、ターゲットから引き離された原子が基板の方へ誘導される。プラズマは、堆積速度を増大するために、マグネトロンによって形成された磁場を用いて圧縮され、かつ、集中させられた。選択された高周波電力は300Wである。
【0058】
1.2Paと3.1Paとの間の不活性ガス圧力の範囲で、出願人は、ニッケルの中の残留張力はさほど大きく変化せず、約550MPaだけ変化する絶対値を有することを認めた。さらに、0.9Paと3.1Paとの間の不活性ガス圧力の範囲において、出願人は、タングステンの中の残留圧縮力はさほど大きく変化せず、約1250MPaだけ変化する絶対値を有することを認めた。
【0059】
ニッケル層の残留応力をタングステン層の残留応力によって補償するために、ニッケル層の厚さは、タングステン層の厚さよりも大きくなければならないようである。
【0060】
層の厚さの制御に含まれる1つのパラメータは、各層の堆積時間である。
【0061】
特に、全残留応力を最小にするための、ニッケル層の厚さとタングステン層の厚さとの間の正確な比は、これらの層の堆積条件(マグネトロンの出力、不活性ガス圧力、堆積時間)に依存するのみならず、熱線を形成することが意図される金属ワイヤを備えることが可能なNi/W二重層の数にも依存する。
【0062】
ワイヤの種々の金属層間の残留応力の補償は、金属ワイヤの全残留応力が限定値C
lim以下であるときに受け入れられると考えることができる。例えば、この限定値C
limは250MPaであり、好ましくは、200MPaである。
【0063】
残留応力のこの補償は重要である。実際、限定値より大きい残留応力は、2つの支持棒11,12間の熱線の湾曲形状を意味する。そのような形状は、流れの中で測定することを意図されている物理量(速度、圧力又は壁応力)の正確な測定を実行するためのセンサ1を使用不能にする。
【0064】
従って、出願人はいくつかのニッケル/タングステン二重層を備える金属ワイヤの第2テストを実行した。
【0065】
白金の第1層、タングステン層で被覆されたニッケル層により形成された複数の二重層および白金の第2層を特に備える熱線を形成するように意図された金属ワイヤが試験された。いくつかの連続する二重層の堆積によって、所望の厚さが得られるまで徐々に残留応力を補償することが可能になる。
【0066】
従って、白金層はニッケルおよびタングステンを酸化現像から完全に保護する。
【0067】
とくに、試験された金属ワイヤの組成は、下の表1で与えられ、その堆積時間はワイヤの種々の金属層の厚さに関連する。
【表1】
【0068】
基板に堆積された第1層はチタン(Ti)の層である。それは白金(Pt)の第1層、4つのNi/W二重層、ニッケル層および白金の第2層によって被覆される。このようにして得られた金属層の厚さは2.16μmである。
【0069】
堆積に用いられる手段は、前述のものと同じである。従って、不活性ガスとしてアルゴンと、同じ出力にセットされたマグネトロンが使用される。
【0070】
各層の残留応力は、2つのパラメータ、つまり、アルゴン流速(即ち、チャンバー内のアルゴン圧力)と堆積時間を操作することによって調整される。
【0071】
ニッケル層を堆積するために用いられるアルゴンの流速は、45sccm(ほぼ1.5Paの圧力)である。タングステン層には、それは85sccm(2.66Paの圧力)である。最後に、白金層に対しては、それは25sccm(0.9Paの圧力)である。堆積時間はそれ自体表1で表される。
【0072】
図2は測定番号の関数として金属層の全残留応力における変化を示している。
【0073】
図から分かるように、この全残留応力は、特に、与えられるNi/W二重層の数に依存する。表1の構造に対応するワイヤは、最終的に約170MPaの測定された全残留応力を有する。
【0074】
この全残留応力を測定するために粗面計が用いられる。測定を実行するためにチャンバーは空にされ大気に発散させられる。しかしながら、出願人は測定No.5の時に、二重層No.3(測定点No.4)のタングステンの層が、測定No.4の時に周囲の空気に恐らく長く露出し過ぎて酸化されたことを認めた。これによって測定的No.5とNo.6の測定が歪曲されたことは確かである。
【0075】
従って、出願人はこの点を確かめることを試みた。
【0076】
表2は、表1に記載のアルゴンの流速と層の厚さ(従って堆積時間)に対して白金(Pt)層、ニッケル(Ni)層、タングステン(W)層の各々について測定された残留応力値を示す。
【0077】
【表2】
【0078】
しかしながら、合計厚さが基板の厚さに対して薄く維持される多層を作ることによって、合計厚さに対する各厚さ(t
layer,
i/t
total)によって重み付けられた各層の応力(σ
layer,
i)の合計によって多層内に存在する合計残留応力(σ
total)を、次式で示されるように見積もることが可能であることは、当業者に公知である。
【0079】
【数1】
【0080】
式R1による算出結果と表1に適用された表2からのデータは、
図2に示される。
【0081】
これらの算出結果は、測定点No.5とNo.6が、粗面計による全残量応力のNo.4の測定時のタングステンの酸化により歪曲されたことを如実に示している。
【0082】
最後に、表1から金属ワイヤの構造、つまり、いくつかのニッケル/タングステンの二重層を備えるワイヤの構造は、合計残留応力を要求される制限値C
limより低く保持する間に予見されるということを、これらの試験は示している。
【0083】
これらの試験はまた、全残量応力をこの限界値C
limより小さく保持するために、Ni/W二重層の数を大きくしすぎることは一般的に効果的でないことを示している。
【0084】
ニッケル層の厚さとタングステン層の厚さの比は、この特定の場合には、3.85である(表1と2参照)。
【0085】
しかしながら、より一般的には、この比は2〜5の間にあることが可能であった。
【0086】
さらに、ニッケル層の厚さは、50nmと2μmとの間にあってもよい。上述のニッケル層とタングステン層の厚さの比の関数として、対応するタングステン層の厚さをそれから推定することが、これによって可能になる。
【0087】
金属ワイヤ13は、一般的に白金の2層を備え、その間にNi/Wの二重層が設置され、Ni/Wの二重層が酸化現像から保護される。
【0088】
金属ワイヤ13の厚さe
wireは100nmと5μmとの間、例えば150nmと3μmとの間、好ましくは1μmと3μmとの間にあってもよい。
【0089】
その長さL
wireは、50μmと1mmとの間にあってもよい。
【0090】
その幅1
wireは変化してもよいが、一般的に数ミクロン程度、例えば5μmの近傍である。
【0091】
とにかく、熱線センサ1の動作を最適化するためには、できるだけ高い金属ワイヤ13の長さL
wireの値と、できるだけ低いワイヤ13の液圧直径(hydraulic diameter)d
hの値をとる必要がある。
【0092】
液圧直径d
hは次の式で定義される。
d
h=4S/P
ここで、Sは熱線の断面積で、Pはそのぬれた周囲長である。金属ワイヤ13が正方形の断面であると、その液圧直径はその辺に等しい。
【0093】
例えば、金属ワイヤ13が長方形の形状を有し、そして/あるいは、2つの支持棒11,12間に延びる機械的補強部材17によって支持される場合には液圧直径は異なるかも知れない。この補強部材17は次に説明される。
【0094】
実際、L
wire/d
h≧30という関係が、熱線で測定される物理量の信頼性ある測定を保証するために考慮されなければならないということは、当業者に公知である。
【0095】
支持部材の良好な周波数応答と低い熱伝導率を達成するため、寄生の熱損失を回避するために、検出要素に比較的高い熱伝導率を有する材料を使用することは、熱線センサ1にとって好ましい。金属の選択が、この点に関して最も有意義であるとは限らない。しかしながら、金属の族(family)において、ニッケルとタングステンは適度の熱伝導率を有する。特に、ニッケルは91W.m
-1.K
-1の熱伝導率を有し、タングステンは173W.m
-1.K
-1の熱伝導率を有する。
【0096】
金属材料が熱線の形成に選ばれる理由の1つは、次の通りである。
【0097】
熱線センサに関して、1つの重要な点は、ワイヤのオーム抵抗R(T)の温度変化を知ることである。このオーム抵抗はワイヤを形成する材料の性質に依存する。
【0098】
実際、熱線センサは、流体の媒体との界面において一定の温度を維持するか、又はその界面を介して一定の熱の流れを維持するかのいずれかを要求する。従って、いずれの場合においても、この界面温度(又は熱の流れ)を維持するために、金属ワイヤ13におけるジュール効果による消費電力を調整する必要がある。しかしながら、ジュール効果によって消費される電力は、ワイヤ13のオーム抵抗に依存し、そのオーム抵抗自体がこのワイヤの(平均)温度に依存する。
【0099】
金属ワイヤにおいて、オーム抵抗R(T)は次の形で表される。
【数2】
【0100】
ここで、T
0は基準温度、α
0は温度T
0における抵抗の温度係数、R
0は温度T
0におけるワイヤのオーム抵抗である。
【0101】
抵抗の温度係数αはまた、温度係数抵抗(Temperature Coefficient Resistance)の頭文字TCRとして知られている。
【0102】
これらの条件のもとで、金属ワイヤのオーム抵抗の変化を温度の関数として測定することは、基準温度T
0における抵抗R
0、およびこの基準温度における抵抗の温度係数α
0を測定することになる。
【0103】
出願人は金属ワイヤについての試験を実施した。その組成は下の表3に示され、堆積時間はワイヤの種々の金属層の厚さに関連している。試験した金属ワイヤの厚さは、2.35μmである。
【0104】
【表3】
【0105】
これらの層の堆積に使用した手段は、上述したものである。
【0106】
さらに、このように堆積された多層は、真空下で、制御された温度上昇(50℃/分の増加量)により、550℃で30分間加熱され、自然冷却されることにより焼鈍された。
【0107】
真空焼鈍は、ニッケル、タングステンおよび白金の中の限定された部材であるタングステン層の酸化を防止するために、重要である。
【0108】
焼鈍後に得られる表3からの構造は、
図3に示される。
【0109】
結果は
図4に示され、直線回帰が付け加えられている。
【0110】
式(R2)を考慮すると、直線回帰の傾きは、積α
0R
0によって定義され、原点における縦座標はR
0−α
0T
0であり、原点は基準温度T
0=0℃に対応する。そこからα
0とR
0の値を推定することができる。
【0111】
20℃の周囲温度に対応する基準温度T
20における抵抗の温度係数を得るために、次の式(R3)が用いられる。
【数3】
【0112】
α
0とR
0は既知であり、R
20は
図2から曲線の上で直接読むことができる。
【0113】
従って、その組成が表1に示される金属ワイヤは、20℃において2175ppm/℃の抵抗の温度係数α
20を有する。抵抗R(T)は、20℃における8.7Ωと200℃における12.3Ωとの間で変化する。
【0114】
表3から金属ワイヤの寸法を考慮して、出願人はこのワイヤの電気抵抗率ρをほぼ8.6μΩ・cmと決定した。
【0115】
これらの抵抗値は相対的に低い。それらは熱線センサの市場において現存する処理電子機器、例えばダンテック社の定温風速測定用電子アセンブリィ「スチームライン(登録商標)」と共に使用できる。実際、この会社から販売されているセンサはほぼ30オームより低いオーム抵抗を有する。これらのセンサが30オームより低い抵抗を有するとき、それらをその電子アセンブリィに直接接続できる。30オームと100オームとの間では、それらは調整可能な外部抵抗によってその電子アセンブリィに接続されなくてはならない。
【0116】
この抵抗温度係数の値は、ニッケル、タングステンおよび白金の抵抗温度係数の既知の値より低い。同様に、抵抗率の値は、ニッケル、タングステンおよび白金の既知の値より低い。
【0117】
この結果を保証するために、出願人は同一基板上のニッケル層、タングステン層、および白金層の各々に対して、同じ処理条件(堆積、焼鈍)下で試験を実施した。
【0118】
下記の表4は各種金属層の厚さに関連する堆積時間を特定している。
【0119】
【表4】
【0120】
ここで、前述の直線回帰法によって、20℃における抵抗温度係数用の次のデータに帰着することができた。
− ニッケル:α
20=5000ppm/℃;
− タングステン:α
20=3375ppm/℃;および
− 白金:α
20=5750ppm/℃
【0121】
さらに、このように堆積された金属層の寸法を考慮して、抵抗率は次のように測定された。
ニッケルのρ=24.3μΩ・cm
タングステンのρ=28.7μΩ・cm
白金のρ=20μΩ・cm
【0122】
なお、金属ワイヤについて得られた抵抗の温度係数は、ワイヤの組成が表3で与えられると、金属、Ni、W又はPtのいずれもが分離された状態で、同じ処理条件下で得られたものより実質的に低い。
【0123】
最後に、金属ワイヤの抵抗は、式R2に基づいて線形である。前述の例に加えて、このワイヤのオーム抵抗の変化は直線的で20℃で5オームと10オームとの間にあり、200℃で10オームから15オームの間にあると考えられる。
【0124】
この発明によるセンサ1はまた、支持棒11,12の上に設置された金属接触子14,15を備え、前記接触子の各々は熱線を形成する金属ワイヤ13の端部の1つに接続される。
【0125】
金属接触子14,15は、材料、Ag,Ti,Cr,Al,Cu,Au,Ni,W又はPtの少なくとも1つからなることができる。
【0126】
特に、金属接触子14,15は、金属ワイヤ13と同じ構造と組成を有することができる。この場合、金属接触子14,15は特に、タングステンの層で被覆されたニッケルの少なくとも1つの層を備え、これらの層は随意に白金の第1層(下層)と白金の第2層(上層)との間に設置される。また、例えば、金属接触子14,15は表1又は表3に示す構造を有することができる。
【0127】
機械的強化要素17が、金属ワイヤ13の下で、支持棒11,12の端部の間に設けられてもよい。この機械的強化材17は3μmよりも小さい、例えば、100nmと3μmの間の厚さを有する。その材料の性質は、例えば、支持棒11,12を形成する材料の性質と同じであってもよい。
【0128】
熱絶縁層16が金属接触子14,15と支持棒11,12との間に設けられる。この層は
図5の断面図に示される。この層は、例えば、二酸化珪素、窒化珪素又は高分子材料から作ることができる。
【0129】
この熱絶縁層16は特に、支持棒11,12を形成する材料が熱伝導材料であるときに、有役である。
【0130】
これは、例えば、500W.m
-1.K
-1と2000W.m
-1.K
-1との間の熱伝導度を有するダイヤモンドの場合である。
【0131】
一般的に、ナノ結晶ダイヤモンドは、500W.m
-1.K
-1に近い熱伝導度を有し、単結晶ダイヤモンドは2000W.m
-1.K
-1に近い熱伝導度を有する。
【0132】
「ナノ結晶ダイヤモンド」という表現は、たとえ或る結晶(少量の)が100nmを越える範囲の寸法を有していたとしても、全体的に100nmを越えない結晶を有するダイヤモンドを意味すると理解される。特に、結晶のサイズは1nmと100nmとの間である。
【0133】
使用されるダイヤモンドの性質により、熱損失を制限し、例えば速度のような、センサで測定したい物理量の測定における可能な偏りを制限するために、熱絶縁膜16を追加することができる。
【0134】
従って、これによって、センサの感度とその周波数応答との間の有利な妥協を見出すことができる。
【0135】
さらに、金属接触子14,15を完全に覆うために、この熱絶縁層16が設けられる。
【0136】
この発明による熱線センサを作るために、次の工程が行われる。
(a)基板表面に、センサの支持棒を形成するために意図された材料から作られた層20を堆積し、
(b)工程(a)で堆積された前記材料をエッチングして少なくとも2つの支持棒を形成し、
(c)工程(b)でエッチングされた支持棒の両端部の間に金属材料の少なくとも1つの層を堆積して金属ワイヤを形成し、
(d)工程(c)で堆積された金属ワイヤを焼鈍し、
(e)支持棒の上に1つ以上の金属層を堆積して金属接触子を形成し、各接触子は金属ワイヤの端部の一方に接続され、
(f)基板をエッチングして支持棒の一部を基板から解放する。
【0137】
工程(a)は基板の表面においてナノ結晶ダイヤモンドの層を成長させることを含む。
【0138】
ダイヤモンドは高い機械的強度を提供する材料である。堆積条件と堆積技術により、ナノ結晶の、多結晶質の、又は単結晶のダイヤモンドを得ることができる。
【0139】
ナノ結晶ダイヤモンドの場合には、表面粗さは一般的に低いので、直ちに工程(b)を実施できる。しかしながら、工程(b)の前に、機械的研磨やプラズマ処理のような、表面粗さを修正することを目的とする工程が設けられてもよい。
【0140】
なお、これらのフィルムの物理化学特性が、それらの結晶学に依存する。例えば、結晶のサイズは、堆積されたダイヤモンドの層の厚さに対して低い表面粗さを得るために十分に低くなければならない。
【0141】
そうでないと、ダイヤモンドの表面粗さは他の層を越える可能性がある。従って、金属ワイヤ13はまた、熱線センサによって実施される物理量の測定を歪曲するような高い表面粗さを有することになる。
【0142】
しかしながら、ダイヤモンドは、例えば、シリコンで作られた基板とは異なる格子パラメータを有する。ダイヤモンドの格子パラメータを基板のそれに適用するためには、基板上の核形成密度とダイヤモンド堆積条件とを制御する必要がある。
【0143】
この手段によって、成長中のナノ結晶のサイズは制御される。
【0144】
基板表面における核形成密度の制御は、次のように実施することができる。
【0145】
ナノメートルサイズのダイヤモンドの結晶は、水で希釈されたコロイド溶液を用いて基板上に分散される。次に、基板は、これらの要素が懸濁された超音波槽内に設置される。超音波によって基板上に結晶の堆積が生じ、その密度は10
11cm
-2よりも大きい。
【0146】
この技術は、3次元表面を処理して前記表面を(例えば、機械的技術と異なり)保護することができるという利点を有する。基板の表面は、従って、ダイヤモンド層の実際の堆積のために保護される。
【0147】
ダイヤモンド層のために予想される堆積条件は、次の通りである。
【0148】
ダイヤモンド層の成長は、エネルギー源を用いて解離された不活性ガスによって生じる炭素含有ガスの流れを用いて、大気圧より低い圧力で、1000℃より低い適温で行われる。炭素含有ガスはメタンであってもよい。不活性ガスは水素であってもよい。エネルギー源はマイクロ波発生器、加熱フィラメント、又はどのような等価手段であってもよい。
【0149】
例えば、メタン濃度を常に3%より低く保持するH
2/CH
4プラズマで強化されたアステックスAX6550のCVD堆積リアクタを用いることが可能である。マイクロ波エネルギー源は、2.45GHzに選択され、その出力はほぼ3.5kWに設定される。チャンバー内の圧力は30Torrに選択され、基板温度はウェリアムソン・プロ92の2波長高温計を用いて700度に維持された。
【0150】
工程(a)はナノ結晶ダイヤモンドを成長させることを含み、工程(b)は、いわゆる最低数kWの高周波電力用の高エネルギー酸素反応型のプラズマの下で実行されてもよい。工程(b)はまた、支持棒14,15のエッチングに加えて、2つの棒14,15の間に延びて金属ワイヤ13の下に設置されるようになっている機械的強化要素17のエッチングを備える。
【0151】
工程(c)はキャップ状の輪郭を有するリフト・オフ処理により実行されることができる。このフォトリソグラフ処理は、最初に、フォトレジストの中にキャップ状の輪郭を有するパターンを形成し、次に、金属を堆積してそのレジストを除去し、そのパターンを現すことを含む。
図6(b)はキャップ状の輪郭を表し、
図6(a)は比較によって与えられる直線状の輪郭である。
【0152】
この工程(c)における処理条件は、特に、表1又は3に示される金属材料の多層の製造のために上述されたものであってもよい。
【0153】
工程(d)は550℃で15分と45分との間の時間だけ真空焼鈍して自然冷却することを含んでもよい。その温度上昇は、例えば50℃/分の増加速度で制御される。
【0154】
さらに一般的には、焼鈍温度は、熱線の処理温度より高くなければならない。これらの条件下で、焼鈍温度は200℃と700℃の間にあってもよい。特に、注目されるのは、400℃以上の温度で作動するミリメートル未満のサイズの熱線センサを製造することが可能であるということである。使用される材料によって、特に400℃と700℃との間の温度で焼鈍を効果的に行うことが可能になる。
【0155】
さらに、温度上昇は、最大100℃/分の速さで漸進的でなければならない。
【0156】
熱線を形成することを意図されている金属の厚さも、熱線を形成する層の数も、焼鈍工程の実行パラメータに影響しない。
【0157】
工程(e)は次に2工程を実行することを含んでもよい。
(e
1)支持棒の上に例えば散布によって種層(seed layer)を堆積し、次に、
(e
2)工程(e
1)において堆積された種層の上に電気分解によって金属材料の少なくとも1層を堆積し、随意に第1金属層の上に他の金属層を堆積すること。
【0158】
いくつかの層が与えられると、表1又は3からの構造に関して、工程(e
2)が電気分解によって金属材料の層を連続的に堆積し、第1金属層が種層の上に堆積されることを含む。
【0159】
工程(f)は、裏面上のみに、又は表面上のみに、又は両面に実行されてもよい。
【0160】
工程(f)は、化学的エッチング、例えばKOH槽の中でのウエットエッチング又はXeF
2の中でのガス相エッチングによって実行されてもよい。
【0161】
変形例として、工程(f)は、物理化学的エッチング、例えばボッシュDRIE型のプラズマエッチングによって行うことができる。
また、変形として、工程(f)は上述した化学的および物理化学的技術の組合せのいずれか1つによって実行されてもよい。
【0162】
従って、基板の裏面側のボッシュDRIE型のプラズマエッチングを実行することを含む第1工程(f
1)と、基板の前面側のXeF
2中でのガス相エッチングを行うことを含む第2工程(f
2)を行うことが特に可能である。
【0163】
工程(f
2)は支持棒11,12および付随する構造(金属接触子14,15,金属ワイヤ13)全体の開放を助長し、離層を回避する。
【0164】
工程(e)の前に、前記棒の続きに、棒と基板の上に熱的絶縁層16を堆積することを含む追加の工程を設けることができる。
【0165】
この熱的絶縁層16は、例えば、工程(a)において堆積される材料が熱的伝導性であるときに有役である。これは、例えば、ナノ結晶ダイヤモンドの場合である。
【0166】
例として、この発明による熱線センサの製造において得られる種々の中間構造は
図7に示された。最終的に得られるセンサ1は、支持棒11,12と金属接触子14,15との間に熱的絶縁層16を備える。
さらに、このセンサ1はまた、2つの支持棒11,12の間で、金属ワイヤ13の下に設置された機械的強化要素17を備える。
【0167】
注目すべきことであるが、
図7に示される構造はボッシュDRIE処理のエッチング用マスクとして働くアルミニウム製の層30を示す。
【0168】
なお、
図1に示すセンサは、上記の処理によって得られ、種々の異なる形で出現することができる。
【0169】
例えば、流れに沿った速度地図を作成するために、基板10上に直列にいくつから熱線を設けることができる。また、渦巻き運動を測定するためにいくつかの熱線を並列に設けることもできる。速度の種々の成分を測定するために、互いに直交するように配向された少なくとも2つの熱線を設けることもまた可能である。
【0170】
この発明による熱線センサは、壁面(parietal)応力測定又は圧力測定を行うために適用できる。
【0171】
この発明が提供する多くの利点の中で、注目すべきは、熱線センサによって、正確な壁近傍(near-wall)測定や、流れの中心における測定を行うことが可能になるということである。
【0172】
実際、基板は、流れの中のどの場所でもセンサを移動させる手段に固着されることができ、例えば、刊行物D1又はD2の現在のミリメートル未満のサイズの熱線センサとは異なる。
【0173】
さらに、センサのデザインを選択することにより、20m/s又は30m/sより高い高速においても、正確な測定を行うことができる。
【0174】
これらの選択は、特にメタルワイヤの厚さに関し、それは多層の堆積、ナノ結晶ダイヤモンドの任意の選択、および/又は支持棒の性質によって得られる。
【0175】
これらの選択はまた、支持棒の一部が基板から連続して延出するということについては、刊行物D1又はD2に記載されたセンサとは異なる。従って、その支持棒は弯曲領域を全く備えず、最良の場合には高速度の流れの中で弯曲し、最悪の場合には破損するであろう。