特許第5770830号(P5770830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770830天然凝集剤を使用するバラスト凝集による水処理法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770830
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】天然凝集剤を使用するバラスト凝集による水処理法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/56 20060101AFI20150806BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20150806BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20150806BHJP
   C02F 9/00 20060101ALI20150806BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C02F1/56 Z
   C02F1/28 D
   C02F1/44 H
   C02F9/00 502G
   C02F9/00 502H
   C02F9/00 502P
   C02F9/00 503A
   C02F9/00 504B
   C02F9/00 504D
   B01D21/01 101A
   B01D21/01 106
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-505438(P2013-505438)
(86)(22)【出願日】2011年4月18日
(65)【公表番号】特表2013-525096(P2013-525096A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011056164
(87)【国際公開番号】WO2011131632
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年3月27日
(31)【優先権主張番号】1053012
(32)【優先日】2010年4月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】503289595
【氏名又は名称】ヴェオリア・ウォーター・ソリューションズ・アンド・テクノロジーズ・サポート
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】レヴェック,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ソヴィニエ,フィリップ
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−047606(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/071796(WO,A1)
【文献】 特表2009−523602(JP,A)
【文献】 特開平10−034163(JP,A)
【文献】 特開2000−254700(JP,A)
【文献】 特開平06−226011(JP,A)
【文献】 特開平02−253899(JP,A)
【文献】 特開2002−336875(JP,A)
【文献】 特表2007−515284(JP,A)
【文献】 特開平07−008972(JP,A)
【文献】 特開2005−013892(JP,A)
【文献】 特開平05−038404(JP,A)
【文献】 特開平08−215686(JP,A)
【文献】 特開2001−104964(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2899891(FR,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1401589(CN,A)
【文献】 米国特許第7648637(US,B1)
【文献】 特開2007−245150(JP,A)
【文献】 特表2010−514554(JP,A)
【文献】 特表2005−512795(JP,A)
【文献】 特表2009−509737(JP,A)
【文献】 特表2004−526563(JP,A)
【文献】 米国特許第06277285(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの凝集剤を水に注入するステップと、前記水に、水より密度の高い粒状物質を少なくとも1つ注入するステップと、処理された水を回収するステップとを含む、水を浄化し、飲用にするための、バラスト凝集により水を処理する方法であって、前記バラスト凝集が、平均速度勾配100〜1400s−1で、撹拌下で実施され、かつ、前記凝集剤が、−900〜−4000μeq/gのアニオン電荷密度を有する少なくとも1つの天然炭水化物ポリマーからなることを特徴とする、水処理方法。
【請求項2】
前記凝集剤が、置換デンプンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記置換デンプンが、0.1〜0.5の置換率を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記デンプンの置換基が、カルボキシレート置換基、スルホネート置換基、ホスフェート置換基、ホスホネート置換基を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記バラスト凝集ステップの上流に、凝結ステップを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記バラスト凝集ステップの後に、沈殿ステップが続くことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記凝結ステップの上流に、活性炭を前記水に注入するステップを含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記沈殿ステップの後に、濾過ステップを含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記濾過ステップ直前に、追加の凝結ステップを実施することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水の硬度が高いほど凝集剤がよりアニオン性であるように、処理すべき水の硬度により前記凝集剤を選択するステップからなる予備ステップを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記水に少なくとも1つの凝集剤を注入する前記ステップが、予め凝結させた水に前記凝集剤を0.1〜5ppmの量で添加することにより実施されることを特徴とする、請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記バラスト凝集が、平均速度勾配200〜800s−1で、撹拌下で実施されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水に少なくとも1つの凝集剤を注入する前記ステップが、予め凝結させた水に前記凝集剤を0.1〜2ppmの量で添加することにより実施されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明の分野は、水を浄化し、飲用に適するようにするために、あらゆる種類の水を処理する分野である。
【0002】
更に詳細には、本発明は、バラスト凝集ステップを含む水処理技術に関する。
【背景技術】
【0003】
2.従来技術
このタイプの方法は、処理すべき水に、凝集を可能にする試薬1種以上を添加することにあり、即ち、水中に存在する汚染物質の少なくとも大部分をフロックの形態に結合させ、次いで、汚染物質のこれらのフロックを精製水から分離することにある。
【0004】
一般に、凝結(coagulation)が凝集に先行する。
【0005】
凝結は、処理すべき水に凝結剤少なくとも1つを注入して、懸濁コロイド粒子の形状で水中に存在する汚染物質が担持する電荷を減じるか又は除去することからなり、その後のフロック形状の集塊を促進させる。
【0006】
凝集は、水中に懸濁されたコロイド粒子の集塊により、大きく、容易く分離できる粒子又はフロックが形成されるように、少なくとも1つの凝集剤を、好ましくは予め凝結させた水に注入することからなる。凝集は、凝結の先行実施により促進される。
【0007】
次いで、その中に懸濁したフロックを沈殿させて分離することにより精製水が得られる。
【0008】
一つの変形方法では、フロックを安定させ、そうしてそのデカンテーションを促進及び加速させるために、凝集の上流又は凝集の期間中に、好ましくは粒度60〜300μmを有する、水より密度の高い粒状物質、例えば砂を処理すべき水に注入することができる。この種の技術は、特に、FR2627704として刊行されたフランスの特許文献に記載されている。
【0009】
凝集ステップの間に又はその上流で、水より密度の高い粒状物質又はバラストが水中に注入される凝集ステップは、一般に、バラスト凝集と呼ばれる。
【0010】
処理すべき水中にバラストを懸濁状態で保持し、そうしてバラスト粒子の周囲にフロックの形成を促すために、バラスト凝集を撹拌下で実施する。従って、凝集ステップは、通常、ブレード撹拌機型のメカニカルスターラーを内蔵する凝集槽内部で行なう。
【0011】
このように、バラスト凝集を効率的にするために、バラスト凝集を実施する槽内で、比速度は、0.1m.s−1より大きいことが望ましい。
【0012】
比速度は、処理水(treated water)が凝集槽内で撹拌されるポンプ流量Qと、この槽の床面積との間の比率に等しい。
【0013】
更に、撹拌機の動力Pは、次式、
【数1】
(Nは、液体中での撹拌機の抵抗係数を示す)によりコンピューターで計算することができ、かつ槽内の混合強度は、平均速度勾配G、
【数2】
により評価できることが知られている。
【0014】
平均速度勾配Gは、こうして、次式、
【数3】
によりコンピューターで計算することができ、但し、Qは、ポンプ流量(m.s−1)であり、Nは、動力数であり、Nは、撹拌機の回転速度(rpm−1)であり、Dは、撹拌機の直径(m)であり、ρは、液体の密度(kg.m−3)であり、μは、液体の動粘性率(kg.s−1.m−1)であり、Vは、槽の容積(m)であり、Pは、撹拌機の動力(kg.m.s−3)であり、Gは、平均速度勾配(s−1)である。
【0015】
そのため、このような撹拌機の設置により、一般的に、100〜1400s−1の範囲の平均速度勾配Gを、凝集槽内に広く行き渡らせることができる。
【0016】
凝集槽内に広く行き渡った平均速度勾配により、その中に懸濁されているフロックにせん断力が発生する。
【0017】
そのため、フロックは、これらのせん断力の影響下で分離しないように、高い機械抵抗を有さねばならない。この目的達成のために、使用される凝集剤(凝集添加剤とも呼ばれる)は、フロックに充分な機械抵抗を与えねばならない。
【0018】
これらの制約に合う、現在実施されている凝集剤は、有機物である。これらは、合成で得られる石油誘導体であることが多い。
【0019】
このタイプの凝集剤の使用(implementation)は、これが、バラスト凝集に固有の水理条件に抵抗するフロックを生成する一因となり、そのためバラスト凝集で処理された水を効率よく製造できるという点で有利である。しかしながら、この使用には、欠点が幾つかある。
【0020】
3.従来技術の欠点
具体的には、例えばポリアクリルアミドのような一部の有機凝集剤は、目下、発がん物質ではないかとの疑いがある。それ故に、これらの使用は、これらを扱う技師又はそのような有機凝集剤を使用する方法により製造された処理水を使用する消費者の健康に関して、完全に中立的でないことがあり得る。
【0021】
更に、フロックの分離後に得られる沈殿スラッジ中に見出される、これらの有機凝集剤は、生分解性ではない。これらのスラッジは、一般に、収集されて、焼却処分されるか、又は肥料として使用される。その際、これらが含有する有機凝集剤は、大気又は土壌の汚染源になり得る。
【0022】
従って、そのような有機凝集剤の使用に対する法的制限は、最終的には、水処理にこれらを使用するのを禁止することに至るであろう。
【0023】
更に、バラスト凝集により製造された処理水の濾過を実施する水処理方法において、有機凝集剤は、この目的のために組み込まれる濾過膜を詰まらせる原因である。
【0024】
更に、現在の有機凝集剤は、石油副産物であるので、そのコストの進展は石油価格に密接に関連する。石油価格は、全体的にみて上昇しており、かつ石油不足という現実を考えると、価格は上がり続けよう。このように、これらの使用は、水処理の総費用に無視できない影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
4.発明の目的
本発明は、特に、従来技術のこれらの欠点を克服することを目的とする。
【0026】
更に詳細には、本発明の目的は、その実施が、生態学的影響を制限するか、又は生態学的影響をゼロにすらするバラスト凝集による水処理技術を提供することである。
【0027】
具体的には、本発明の目的は、これを実施する技師又はこの種の技術により製造された処理水を使用する消費者の健康に影響を及ぼさないこの種の技術を提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、バラスト凝集による最新水処理技術と等しいか、そうでなければ近いレベルの効率を有する、この種の技術を実施することである。
【0029】
本発明の更にもう1つの目的は、その実施が、バラスト凝集による最新水処理技術より少なくとも費用がかからないこの種の技術を提供することである。
【0030】
特に、本発明の目的は、バラスト凝集により製造された処理水を濾過するために組み込まれることのある膜の目詰まりを制限するこの種の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
5.発明の要約
これらの目的並びに以下に登場する他の目的は、少なくとも1つの凝集剤を水に注入するステップと、前記水に水より密度の高い粒状物質を少なくとも1つ注入するステップと、処理された水を回収するステップとを含むバラスト凝集による水処理法により達成され、但し、前記バラスト凝集は、平均速度勾配100〜1400s−1で撹拌下に実施され、かつ前記凝集剤は、アニオン電荷密度−900〜−4000μeq/gを有する天然炭水化物ポリマー少なくとも1つからなる。
【0032】
本明細書において、用語「アニオン電荷密度を有する天然炭水化物ポリマー」は、
・植物性素材から抽出され、この分野が専門の化学者に公知の伝統的技術によるアニオン性反応基の移植により官能化された任意の炭水化物ポリマー、特にデンプン、並びに
・植物性素材及び生来アニオン性又はアニオン性になり得る天然に存在する基から抽出される任意の天然炭水化物ポリマー、
を意味すると解釈される。
【0033】
そのため、本発明の一般的原理は、高い平均速度勾配の条件で行なわれるバラスト凝集による水処理に、官能化された天然起源の炭水化物ポリマーを凝集剤として使用することに依存し、前記ポリマーは、特定の範囲から選択される電荷を有する。
【0034】
高い平均速度勾配は、フロックの重いせん断応力から生じるので、そのような実施は、従来技術では全く明らかではなかった。なるほど従来技術において、非バラスト凝集法で天然炭水化物ポリマー、即ちデンプンを使用することは既に提案されてはいたが、実際にやってみると、形成されたフロックが、凝集性に乏しく、あまりに容易に分解し、適切に役割を果たさないので、これらの技術は断念された。現在、非バラスト凝集の技術は、バラスト凝集技術で実行されるよりはるかに小さい平均速度勾配を使用する。そのため、先行技術のこの状態を考えると、水処理技術に精通した者が、これらのバラスト凝集技術へのそのようなポリマーの使用を想定するよう促されることは全くなかった。
【0035】
更に、多数の調査後に、出願者は、特定の天然炭水化物ポリマーのみが、バラスト凝集を実施できる高い平均速度勾配という、これらの制約に効果的に対処できたこと並びにこの目的を達成するために、これらのポリマーが、前記の範囲から選択されたアニオン電荷を有さねばならなかったことを示した。
【0036】
本発明は、伝統的な合成有機高分子凝集剤を使用するバラスト凝集により処理された水と品質的に等価の処理水の製造を可能にすると同時に、更に環境に優しく、かつ個人の健康への影響を限定する。この理由は、本発明による官能化天然炭水化物ポリマーに基づくアニオン性凝集剤が生分解性だからである。
【0037】
前記凝集剤は、好ましくは置換デンプンに基づく。置換デンプンは、費用がかからず、市場でより容易に入手できるので、好ましい。置換デンプンのアニオン性度(anionicity)の範囲、−900μeq/g〜−4000μeq/gは、0.1〜0.5の範囲の置換率にほぼ相当する。
【0038】
同様に、有利には、前記置換デンプンの置換基は、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、ホスホネート置換基を含む群から選択される。
【0039】
第一の好ましい実施形態により、本発明による方法は、前記バラスト凝集ステップの上流に凝結ステップを含む。
【0040】
同様に好ましくは、前記バラスト凝集ステップの後に、沈殿ステップが続く。
【0041】
第二の好ましい実施形態により、本発明による方法は、活性炭を前記水に注入するステップを前記凝結ステップの上流に含む。
【0042】
この場合、本発明による方法は、好ましくは、前記沈殿ステップの後に、濾過ステップ、特に、膜による濾過ステップを含む。
【0043】
沈殿ステップの下流で濾過を実施して、炭素微粒子及び過剰の凝集剤から処理水を分離することができる。
【0044】
本発明による方法は、この場合、前記濾過ステップの直前に、追加の凝結ステップを実施するのが、好ましい。
【0045】
凝結を追加すると、沈殿させて得られる水中に含有される過剰のポリマーによりフロックが形成される。これらのフロックは、沈殿ステップから生じる水中に最初に存在する粒子より大きなサイズを有する。これらのフロックは、濾過ユニットの膜表面に堆積し、他方、凝集から生じる水中に最初に存在する粒子は、より深くその中に浸透する。そのため、第二凝結の実施は、濾過ユニットの目詰まりを限定するか又はいずれにせよ詰まりをとるのをより容易にするので、有利である。
【0046】
本発明者は、更に、天然ポリマーでは予想外なことであるが、これらのポリマーのイオン負荷が、好ましくは、水のアルカリ度の関数として選択されることを発見した。実際、処理すべき水の硬度が高いほど、アニオン電荷密度は−4000μeq/gに近づくであろう。水の硬度が低いほど、アニオン電荷密度は−900μeq/gに近づくであろう
【0047】
従って、本発明の方法は、処理すべき水の硬度が高いほど、凝集剤がよりアニオン性であるように、処理すべき水の硬度に従い前記凝集剤を選択する予備段階を含む。
【0048】
更に、本発明の好ましい変形方法により、少なくとも1つの凝集剤を前記水に注入する前記ステップは、前記凝集剤を、凝集し得る汚染物質を含む処理すべき水の電荷の関数として0.1〜5ppm、好ましくは0.1〜2ppmの範囲の量で、予め凝結させた水に添加することにより遂行される。
【0049】
これらの含有値(content value)は、合成ポリマーを用いての実施の際よりはるかに大きい。そのため、当業者は、そのような高い含有値の実施が生物学的DOC(生分解性溶存有機炭素“bDOC”)の著しい増加を促すのではないかと懸念することもあった。bDOCは、バクテリアの懸濁液(AFNOR T 90−318)又は固定バイオマス(AFNOR T 90−319)の存在下に長期にわたり(28日)インキュベートさせた後、溶存有機炭素DOCの減少から評価する。しかしながら予想外にも、そのような増加は全くない。
【0050】
最後に、本発明の1変法により、前記バラスト凝集は、平均速度勾配200〜800s−1で撹拌下に実施する。この勾配範囲は、多数の凝集反応器で実施される範囲である。
【0051】
6.図面のリスト
本発明の他の特徴及び利点は、シンプルで、説明に役立ち、包括的ではない実施例により示される好ましい実施形態についての以下の記述及び添付図面から更に明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明による方法の第一実施形態を実行するための設備を示す。
図2】本発明による方法の第二実施形態を実行するための設備を示す。
図3】有機物質が充填された水の処理を、最初に従来技術の合成有機凝集剤を使用し、次に本発明による天然凝集剤を使用して、図1に示されるタイプの設備で遂行し、その比較を表すグラフである。
図4】有機物質が充填された水の処理を、最初に従来技術の合成有機凝集剤を使用し、次に本発明による天然凝集剤を使用して、図1に示されるタイプの設備で遂行し、その比較を表すグラフである。
図5】本発明により使用される凝集剤が、伝統的な凝集添加剤よりも目詰まりを少なくする事実を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
7.本発明の実施形態の記述
7.1.本発明の一般的原理についての注意喚起
本発明の一般的原理は、高い平均速度勾配で行なわれるバラスト凝集による水処理への天然炭水化物ポリマーからなるアニオン性凝集剤の使用に依存する。
【0054】
そのような使用は、合成有機高分子凝集剤を使用するバラスト凝集により処理された水と等価な品質の処理水の製造を可能にし、同時に、天然炭水化物ポリマーからなる凝集剤は、生分解性なので、より環境に優しくかつ人に優しい。
【0055】
更に、このタイプの凝集剤には、合成有機凝集剤と比較して、その目詰まりの可能性が低い処理水の製造を可能にする利点がある。この水は濾過されるが、その際、同時に、この目的のために使用される濾過ユニットの目詰まり解消に対する制約は限定される。
【0056】
7.2.第一実施形態例
これから図1を参照し、本発明によるバラスト凝集により水を処理する方法の第一実施形態を提示する。
【0057】
そのような方法は、例えば予め浄化又はフロートされている(floated)、処理すべき水10を、凝結剤12が注入される凝結槽11に導入することにあり、この凝結剤は、この実施形態では、市販品の塩化鉄(FeCl)からなる。
【0058】
このようにして凝結された水13は、凝集剤15及びこの実施形態では微細砂である水より密度の高い粒状物質16(即ちバラスト)が注入される撹拌バラスト凝集槽14に導入される。凝集槽14は、ブレード撹拌機20を内蔵し、この槽内にわたり、平均速度勾配300〜1400s−1がいきわたるように撹拌が実行される
【0059】
凝集剤15は、天然炭水化物ポリマー、好ましくは置換デンプンからなり、かつ好ましくは−900〜−4000μeq/gの範囲のアニオン電荷密度を有する。置換デンプンの場合、このようなアニオン電荷密度範囲は、置換率0.1〜0.5に相当する。その際、置換基は、カルボキシレート置換基、スルホネート置換基、ホスフェート置換基及びホスホネート置換基を含む群から選択されるのが有利である。
【0060】
凝結かつ凝集された水17は、沈殿槽18に導入され、オーバーフローとして取り出される浄化水19から分離されたバラストフロックにより構成されたスラッジが、その底部に堆積する。
【0061】
スラッジ21は、例えば再循環ポンプ22によりデカンター18から取り出され、かつ配管23を通って、用水25が注入される液体サイクロン24に導入される。
【0062】
微細砂を充満させたスラッジ/微細砂混合物16は、液体サイクロン24から、アンダーフローで、バラスト凝集槽14へ流し込まれる。
【0063】
スラッジを充満させたスラッジ/微細砂混合物27は、オーバーフローとして、液体サイクロン24から流出シュート(outflow chute)26へ流し込まれる。
【0064】
部分的に脱水された混合物30が、抽出ポンプ28によりシュート26から取り出され、この脱水化から生じる流出液29は、凝結槽11に注入される。
【0065】
この実施形態の1変法で、どのような凝結も遂行しないように計画することができる。
【0066】
7.3.第二実施形態例
図2を参照し、本発明によるバラスト凝集により水を処理する方法の第二実施形態を提示する。
【0067】
この第二実施形態は、前記のものと、特に、
・ポンプ33により粉末活性炭(PAC)32が注入される撹拌事前接触槽31に、処理すべき水10が導入され、
・流出シュート26から出てくる流出液27が、この事前接触層31に注入される
という事実により区別される。
【0068】
次いで、処理すべき水とPACとの混合物34が、凝結槽11に導入される。
【0069】
この第二実施形態は、製造された処理水19が、凝結剤が導入される凝結室40に導入された後、150μmのカットオフポイントを有するプレフィルター42と、25nmのカットオフポイントを有する膜限外濾過モジュール41とからなる濾過ユニットへ導入されるという事実により、第一実施形態と更に区別される。
【0070】
沈殿ステップから下流で濾過を遂行すると、処理済みの水を石炭微粉及び過剰の凝集剤から分離できる。
【0071】
濾過ユニット直前の凝結区域に導入された凝結剤は、沈殿槽から出てきた水中に含有される過剰凝集剤と共にフロック形成を引き起こす。これらのフロックは、沈殿ステップからもたらされる水の中に最初に存在する粒子より大きなサイズを有する。これらのフロックは、限外濾過ユニットの膜表面に堆積し、他方、沈殿ステップから生じる水中に最初に存在する粒子は、より深く限外濾過ユニットに浸透する。そのため、この凝結の実施は、限外濾過ユニットの詰まり除去をより簡単にするので、有利である。
【0072】
この第二実施形態による方法は、限外濾過ユニットを清掃する段階を含む。これらの清掃段階(予防保全)には、2つのタイプ、逆洗浄からなる水圧清掃操作、及び化学清掃アプローチを実施する化学清掃操作、がある。
【0073】
7.4.比較試験
7.4.1.第一実施形態による方法の実施試験
本発明によるデンプン及び/又は変性アルギン酸塩に基づく天然凝集剤又は従来技術による合成有機凝集剤のどちらかを使用するバラスト凝集の効率を比較するため、試験を行った。
【0074】
最初のテストは、以下の特性、
・処理すべき水を50m/hの流量で凝結槽に供給するステップ、
・800s−1に等しい凝集槽内の平均速度勾配、
・凝結剤として塩化鉄FeCl(市販品)を投与量150ppmで注入するステップ、
・合成有機凝集剤として、SNF FLOERGER社からFLOPAM AN905の名称で市販されているアニオン電荷密度−1400μeq/gを有するアニオン性ポリアクリルアミドを投与量0.2ppmで注入するステップ、
を備える本明細書前記の第一実施形態により、バラスト凝結−凝集法を実施して、DOC(溶存有機炭素)含有量が10.6mg/lに等しい、アルカリ度5°f(即ち、50mg/lのCaCO)の原水を処理することにあった。
【0075】
図3に示されるように、この図の最初の2本のカラムを参照すると、そのような処理の実施は、
・原水の濁度ほぼ93%減少
・254nmでのUV吸光度ほぼ80%減少
を可能にした。
【0076】
この処理は、DOC含有量が、3.3mg/lに等しい処理水の製造を可能にした。
【0077】
第二のテストは、以下の特性、
・処理すべき水を50m/hの流量で凝結槽に供給するステップ、
・800s−1に等しい凝集槽内の平均速度勾配、
・凝結剤としての塩化鉄FeCl(市販品)の投与量150ppm、
・凝集剤としての、Cargill社から商標名C plus 35704で市販されているアニオン電荷密度−900μeq/gを有する置換デンプンの投与量2ppm、
を備える第一実施形態により、バラスト凝結−凝集法を実施して、DOC含有量が10.8mg/lに等しい原水を処理することにある。
【0078】
このデンプンのアニオン電荷は、装置、即ちフランスでNoviprofibreにより照会番号X20128で市販されている、MUETEK PCD−04 Travel pack(zetameter)、により測定した。
【0079】
図3に示されるように、この図の第二の2本のカラムを参照すると、そのような処理の実施は、
・原水の濁度ほぼ87%減少
・254nmでのUV吸光度ほぼ76%減少
を可能にした。
【0080】
この処理の結果、DOC含有量が3.6mg/lに等しい処理水が製造される。
【0081】
以下の表1は、これら2つのテストについて、使用ポリマー投与量、使用凝結剤投与量、原水及び処理水の生分解性DOC並びに原水及び処理水のDOCを示す。
【表1】
【0082】
これら2つのテスト結果から、伝統的な合成有機高分子凝集剤を使用して得られるのと同じ満足のいく品質の処理水を、本発明により、天然高分子凝集剤を使用して生産できることが示される。
【0083】
しかしながら、そのような品質レベルの獲得は、伝統的な有機ポリマーの使用の場合よりもはるかに大量に、天然ポリマーを使用することを意味する。しかしながら、天然ポリマーは、現在の所、伝統的な有機ポリマーより費用がかからない。更に、石油誘導体である後者の費用は、この先何年も増加が止まりそうもない。従って、伝統的な有機ポリマーの代わりとして天然ポリマーを明らかに大きな割合で使用しても、バラスト凝結−凝集により処理される水の製造費になんらマイナスの影響を与えないであろう。
【0084】
更に、明細書に前記したテスト結果から、バラスト凝結−凝集による水処理において、合成有機高分子凝集剤より10倍高い割合で天然高分子凝集剤(この場合は置換デンプン)を使用して、DOC含有量、濁度及び254nmでのUV吸光度に関して、殆ど同様の品質レベルの処理水を製造することも示される。
【0085】
予想外にも、そのように大きな投与量で天然高分子凝集剤を使用しても、当業者が通常予期するような生物学的DOCの深刻な増加を処理水に全く引き起こさない。
【0086】
例えば、前記表1に言及すると、C PLUS 35704を2ppmの投与量で使用して処理した水は、FLOPAM AN905を0.2ppmの投与量で処理した水よりも著しく大きな生物学的DOC含有量を有することはない。しかしながら、有機凝集添加剤を10倍多い量で水に添加することは、処理水の生物学的DOCの深刻な増加のリスクがあるのではないかという当業者の不安を明らかに煽った。そのため、当業者は、実際問題として、合成有機ポリマーにより形成される添加剤を用いる場合よりも著しく大きな量を使用する有機凝集剤を処理すべき水に添加する理由を持たなかった。
【0087】
最終的には、本発明は、生分解する天然ポリマーも利用する。そのため、その使用は、環境又は個人の健康に有害な影響を及ぼさない。
【0088】
前記の2つのテストと同じ条件下で他の2つのテストを再現したが、有機物が少なく装填された、アルカリ度5°f(即ち、50mg/lのCaCO)の原水を用い、以下の表2に示すように、凝結剤及び凝集剤は、異なる投与量で用いた。
【0089】
原水の濁度の減少率及び254nmでのUV吸光度の減少率に関するこれらのテストの結果は、図4に示される。
【表2】
【0090】
7.4.2.第二実施形態による方法の実行に照らした実験
沈殿槽から流出する水に注入する市販品の塩化鉄(FeCl)の投与量を変化させて、第二実施形態による方法を適用し、かつ限外濾過ユニットに示される透過性の損失を測定しながら水を処理した。
【0091】
透過性の損失は、FeCl投与量0.05ppmについては、20.7L/(h.bar.m)に等しかった。FeCl投与量0.1ppmについては、4.5L/(h.bar.m)に等しかった。FeCl投与量0.15ppmについては、2.8L/(h.bar.m)に等しかった。
【0092】
これらの実験結果から示されるように、沈殿槽からの出口で水を凝結させる事実は、その目詰まりの可能性を減じ、その結果、下流に位置する限外濾過ユニットの目詰まりを制限する。
【0093】
図5は、最初に電荷密度−1400μeq/gを有するアニオン性合成ポリマーを使用し、次に天然ポリマーC plus 35704(アニオン負荷密度が−900μeq/gである置換デンプン)を使用して、第二実施形態による方法を実施する期間の、限外濾過ユニットでの透過性の変化を示すグラフである。これらの実験の間、限外濾過ユニットを清掃する段階を実施した。
【0094】
合成起源のポリマーFLOPAM AN905を用いる場合、濾過及び限外濾過ユニットの洗浄の順序を、以下のように割り振った。
・沈殿槽から出てきた水への、市販品の塩化鉄0.15ppmの予備注入を伴う40分間の濾過、
・40分毎に40秒間の逆洗浄、
・24時間毎に、25秒間の水酸化ナトリウム注入と、10分間の浸漬(限外濾過ユニット中に水酸化ナトリウムを保持)と、80秒間の濯ぎと、40分間の濾過と、25秒間の酸注入と、10分間の浸漬と、80秒間の濯ぎとを含む保全清掃。
【0095】
置換デンプンC plus 35704を用いる場合、濾過及び限外濾過ユニットの洗浄の順序は、以下のように割り振った。
・デカンターから出てきた水への、市販品の塩化鉄0.15ppmの予備注入を伴う40分間の濾過、
・40分毎に40秒間の逆洗浄、
・24時間毎に、25秒間の水酸化ナトリウム注入と、10分間の浸漬(限外濾過ユニット中に水酸化ナトリウムを保持)と、80秒間の濯ぎと、40分間の濾過と、25秒間の酸注入と、10分間の浸漬と、80秒間の濯ぎとを含む保全清掃。
【0096】
図5のグラフが示すように、限外濾過ユニットの膜表面に集まるデンプンベースのポリマーは、合成ポリマーよりも容易く除去される。なぜならば、
・天然高分子凝集剤の使用時に実施される洗浄操作は、合成ポリマーの使用時に実施される洗浄操作より強力ではなく、またそれほど頻繁ではないからであり、また
・濾過サイクルの終了と、保全清掃操作後の次のサイクルの開始との間の、限外濾過モジュールの透過性の差は、合成ポリマー使用時(矢印B)より、天然高分子凝集剤の使用時(矢印A)の方がより大きいからである。
【0097】
保全清掃操作のほかに、透過性が所定の下部閾値(その値は実験の間180L/(h.bar.m)に固定された)に達すると直ちに定置清掃操作(clean−in−place operation)を行わねばならない。各濾過サイクルの最後に達する透過性に基づき、図5に示されるグラフに線形回帰直線(linear regression straight lines)をプロットし(直線71及び72)、定置清掃の操作が遂行されねばならない頻度を査定できる。水出口透過性550L/(h.bar.m)で24時間作業する限外濾過モジュール24に関して、定置清掃操作は、−1400μeq/gである電荷密度を備えるアニオン性合成ポリマーを使用する状況では、毎月行い(直線71)、置換デンプンに基づくポリマーを使用する状況では4カ月ごとに行った(直線72)。
【0098】
従って、デンプンベースのポリマーは、有機ポリマーより、粘性が低くかつ目詰まりの可能性があまりない。その使用は、限外濾過ユニットの洗浄頻度を減ずる。このことは、特に、これが生分解性であるという事実により説明できる。
【0099】
7.5.主な利点
アニオン性官能基により官能化された天然炭水化物ポリマーにより形成される凝集剤、例えば置換デンプン、は、−900〜−4000μeq/gの範囲のアニオン電荷密度を有し、特に以下の利点を示す。
・合成有機凝集剤を使用して製造される水の品質に匹敵する品質の処理水の製造を可能にする、
・生分解性であり、環境又は個体に影響を及ぼさない、
・目詰まりの可能性が制限されている、
・目詰まりの除去操作の間、濾過膜から容易に除去することができる、
・高価なものではない、
・合成有機凝集剤のように石油に由来するものではなく、そのため、その費用は、この先何年もの間増加するだけである石油価格を指標としない。

図1
図2
図5
図3
図4