特許第5770882号(P5770882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5770882
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】漁船
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/14 20060101AFI20150806BHJP
   B63B 35/40 20060101ALI20150806BHJP
   B63B 23/28 20060101ALI20150806BHJP
   A01K 74/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B63B35/14 Z
   B63B35/40 Z
   B63B23/28
   A01K74/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-86776(P2014-86776)
(22)【出願日】2014年4月18日
【審査請求日】2014年12月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595011180
【氏名又は名称】株式会社渡辺造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貢治
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−195993(JP,U)
【文献】 特開平02−211820(JP,A)
【文献】 特公昭42−024699(JP,B1)
【文献】 特開2011−167180(JP,A)
【文献】 実開昭62−094767(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/14−35/26,35/40,
23/00−23/70,27/14
A01K 74/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾中央にスリップウェイを設けて小型艇を搭載可能に構成した漁船において、
船尾甲板となる船尾端敷板の最後尾中央に傾動自在のスリップウェイを配設し、スリップウェイの船首側で船体の左右一側方に片寄って漁具置場を配置し、船体の左右他側方でスリップウェイの側方に敷設した船尾端敷板に揚網機を起倒自在に搭載すると共に、揚網機の外側に位置する船尾端敷板を作業舷とし、漁具置場と揚網機と揚網機側の船尾角部とが船体の船首船尾の長手方向に対して傾斜方向の一直線上に配置されるよう構成したことを特徴とする漁船。
【請求項2】
前記揚網機を配置した船尾端敷板には船首方向へ伸延させて形成した揚網機収容凹部が形成されており、前記揚網機は、前記揚網機収容凹部内に船首側に倒伏して収容される収容状態と、揚網機収容凹部から起立して露出する突出状態との間で起倒自在としたことを特徴とする請求項1に記載の漁船。
【請求項3】
前記小型艇を搭載するスリップウェイは、船尾部の左右船尾側部間にて上部方向及び船尾方向へ開口を設けつつ形成した船尾凹状部と、同船尾凹状部内で揺動する前記小型艇の搭載面としてのフラップ板とを備え、
前記フラップ板には、前記小型艇を載置した際に同小型艇の船底に形成された凸条と係合する船底係合溝を形成し、しかも、この船底係合溝には、前記小型艇の船底との摺動抵抗を軽減するための複数のローラを配設したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漁船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船尾部にスリップウェイを設けて小型艇を載置可能に構成した漁船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食卓に上る魚を提供すべく、海上において様々な漁法により漁が行われている。
【0003】
中でも巻網漁は、魚群の周囲に網をかけ回し、順次端から絞りつつ網を狭めて漁獲する漁法であり、イワシやアジ、サンマ、サバなど、海の表層から中層近傍に生息する魚を捕獲する際に広く行われている。
【0004】
この巻網漁は、4〜6隻で編成される船団で操業される。一般的には、投網や揚網を行う網船、魚群探索や集魚、裏こぎ等を行う探索船、捕獲した魚を運搬する運搬船などの役割をそれぞれの船に割り当てて巻網漁が行われる。
【0005】
ところで、巻網漁を行うにあたっては、漁場まで船団で移動する必要があるため、各船においてそれぞれ移動のための燃料が必要となる。
【0006】
そこで、できるだけ少ない燃料で船団を漁場へ移動させるために、例えば船体が比較的小さい探索船は、網船の船尾に連結させて曳航したり、網船の船尾に設けたスリップウェイに載置(ドライアップ)し、網船によって探索船を洋上輸送することも行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このような方法によれば、船団の全ての船を自走させて漁場へ向かう場合に比して、より少ない燃料で船団を漁場に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平01−076391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の曳航による移動方法や、ドライアップによる移動方法では、それぞれ長所を備えるものの、幾つかの問題点を孕んでいる。
【0010】
例えば、曳航による移動方法は、日本沿岸で操業する巻網漁船団で広く行われており、網船の船尾端の形状は垂直型であり、後述の従来型搭載タイプの網船の如くスリップウェイは備えていない。
【0011】
それゆえ、長所としては洋上に投網された巻網を揚網する揚網機を網船の船尾端のコーナー部分に配置することができ、揚網方向角が約270°と比較的広い範囲での揚網作業が可能となる。
【0012】
ところが、曳航時には探索船が網船の推進抵抗を増加させることとなり、船速が低下しやすいという問題がある。また、曳航時が荒天の場合、波浪等の影響によって網船と探索船とが相反する揺動運動を起こし、連結部に過大な力がかかってしまい、同連結部の破損事故が発生しやすいという問題もある。なお、以下の説明において、この網船のような漁船を「曳航タイプ」とも称する。
【0013】
一方、船尾にスリップウェイを設けて探索船などの小型艇を載置可能に構成した網船の如き漁船であって従来型のものは、世界的に小型艇を使用する巻網漁船に多く見られるタイプであり、また、遠洋にてカツオやマグロ等を対象とした日本の巻網漁船にも見られる。
【0014】
このような漁船には、図8に示すように、船尾101に前高後低の斜面を船体102の両側に至るまで形成した、換言すれば、船体102の後方へ斜め下方に向けて船尾をカットしたような形状のスリップウェイ103が形成されており、同スリップウェイ103に探索船104などの小型艇を載置できるように構成している。
【0015】
それゆえ長所としては、探索船104がドライアップ状態にあるため、実質的には網船100が単船の状態と同様であり、推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において性能上優れている。
【0016】
しかし、このような網船のような漁船は、スリップウェイ103によって船尾が大きく傾斜状に切り欠かれた形状であることから、船尾端の側部位置に揚網機105を配置することができない。
【0017】
それゆえ、このような漁船の場合、揚網機105は船体作業舷の中央寄りに配置されることとなり、前述の曳航タイプの漁船と比較して揚網方向角が約180°と比較的狭くなってしまう。特に、日本沿岸部のような潮流の激しい海域では、巻網漁労の揚網作業に不向きであった。なお、以下の説明において、この網船のような漁船を「従来型搭載タイプ」とも称する。
【0018】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を有しつつも、従来型搭載タイプに比して揚網方向角を広くとることができ、しかも作業性が良好な漁船を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る本発明では、船尾中央にスリップウェイを設けて小型艇を搭載可能に構成した漁船において、船尾甲板となる船尾端敷板の最後尾中央に傾動自在のスリップウェイを配設し、スリップウェイの船首側で船体の左右一側方に片寄って漁具置場を配置し、船体の左右他側方でスリップウェイの側方に敷設した船尾端敷板に揚網機を起倒自在に搭載すると共に、揚網機の外側に位置する船尾端敷板を作業舷とし、漁具置場と揚網機と揚網機側の船尾角部とが船体の船首船尾の長手方向に対して傾斜方向の一直線上に配置されるよう構成した。
【0020】
また、請求項2に係る本発明では、前記揚網機を配置した船尾端敷板には船首方向へ伸延させて形成した揚網機収容凹部が形成されており、前記揚網機は、前記揚網機収容凹部内に船首側に倒伏して収容される収容状態と、揚網機収容凹部から起立して露出する突出状態との間で起倒自在とした。
また、請求項3に係る本発明では、前記小型艇を搭載するスリップウェイは、船尾部の左右船尾側部間にて上部方向及び船尾方向へ開口を設けつつ形成した船尾凹状部と、同船尾凹状部内で揺動する前記小型艇の搭載面としてのフラップ板とを備え、前記フラップ板には、前記小型艇を載置した際に同小型艇の船底に形成された凸条と係合する船底係合溝を形成し、しかも、この船底係合溝には、前記小型艇の船底との摺動抵抗を軽減するための複数のローラを配設した。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る漁船によれば、船尾中央にスリップウェイを設けて小型艇を搭載可能に構成した漁船において、船尾甲板となる船尾端敷板の最後尾中央に傾動自在のスリップウェイを配設し、スリップウェイの船首側で船体の左右一側方に片寄って漁具置場を配置し、船体の左右他側方でスリップウェイの側方に敷設した船尾端敷板に揚網機を起倒自在に搭載すると共に、揚網機の外側に位置する船尾端敷板を作業舷とし、漁具置場と揚網機と揚網機側の船尾角部とが船体の船首船尾の長手方向に対して傾斜方向の一直線上に配置されるよう構成したため、曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を有しつつも、従来型搭載タイプに比して揚網方向角を広くとることができ、しかも作業性が良好な漁船を提供することができる。
【0022】
また、請求項2に係る漁船によれば、前記揚網機を配置した船尾端敷板には船首方向へ伸延させて形成した揚網機収容凹部が形成されており、前記揚網機は、前記揚網機収容凹部内に船首側に倒伏して収容される収容状態と、揚網機収容凹部から起立して露出する突出状態との間で起倒自在としたため、漁労作業時には船尾端敷板上に突出した状態で使用し、スキフボートを載置している時など漁労作業時以外には揚網機収容凹部内に収容できる。
また、請求項3に係る漁船によれば、前記小型艇を搭載するスリップウェイは、船尾部の左右船尾側部間にて上部方向及び船尾方向へ開口を設けつつ形成した船尾凹状部と、同船尾凹状部内で揺動する前記小型艇の搭載面としてのフラップ板とを備え、前記フラップ板には、前記小型艇を載置した際に同小型艇の船底に形成された凸条と係合する船底係合溝を形成し、しかも、この船底係合溝には、前記小型艇の船底との摺動抵抗を軽減するための複数のローラを配設したため、小型艇の搭載面への載置の際に、小型艇の船底との摺動抵抗を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る漁船の側面及び平面を示した説明図である。
図2】船尾部に設けられたフラップ板の動きを示した説明図である。
図3】船尾部に設けられた揚網機の構成を示した説明図である。
図4】本実施形態に係る漁船の船尾部の構造を示した説明図である。
図5】フラップ板の構成を示した説明図である。
図6】スリップウェイの構成を示した説明図である。
図7】漁労作業時における船尾部の状況を示した説明図である。
図8】従来の漁船の構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、船尾にスリップウェイを設けて小型艇を搭載可能に構成した漁船において、前記スリップウェイの船首側に隣接して設けられた巻き網を載置する漁具置場と、船尾近傍位置であって前記スリップウェイの側方に敷設された船尾端敷板と、同船尾端敷板の敷設位置に起倒可能に設けられた揚網機とを備え、前記小型艇を搭載するスリップウェイの搭載面は、前記漁船の船尾側に下り傾斜となる傾斜姿勢と、前記船尾端敷板と面一の状態となる水平姿勢との間で変位可能なフラップ板にて構成し、前記小型艇の進水前は前記フラップ板を傾斜状態として前記小型艇を搭載する一方、前記小型艇の進水後で前記巻き網の揚網時には前記フラップ板を水平姿勢とすることにより同フラップ板上で作業可能とすると共に、このフラップ板と前記船尾端敷板との間で往来可能としたことを特徴とする漁船を提供するものである。
【0025】
このような構成とすることにより、小型艇を漁船上に載置させた状態で航行することができ、曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を有することとなる。
【0026】
また、船尾端の側部に揚網機を配置することができ、前述の従来型搭載タイプに比して揚網方向角を広くとることができ、揚網作業を効率良く行うことができる。
【0027】
さらに、小型艇の進水後で巻き網の揚網時には前記フラップ板を水平姿勢とすることにより、スリップウェイを水平で安定した足場の作業スペースとして利用することができる。
【0028】
併せて、船尾端敷板とフラップ板との間で往来が可能となることにより、従来にない動線を確保することができ、作業性が良好な漁船を提供することができる。
【0029】
ここで小型艇は、先述の通り巻網漁の際に魚群探索や集魚、裏こぎを行う探索船やスキフボートであっても良いが、これらに限定されるものではない。
【0030】
また、本明細書において漁船は、巻網漁船団を構成する網船を一例として説明するがこれに限定されるものではない。他の漁法により魚を捕獲する漁船についても包含している。
【0031】
また、本実施形態に係る漁船によれば、前記フラップ板の水平姿勢を維持する係止機構を備えても良い。
【0032】
以下、本実施形態に係る漁船について、巻網漁船団の網船を例に挙げ、図面を参照しながら詳説する。
【0033】
図1は本実施形態に係る漁船の一形態としての網船10の全体構成を示した説明図であり、図1(a)に網船10の右舷側から見た側面図を示し、図1(b)に網船10の平面図を示す。
【0034】
図1に示す網船10は、海洋S上を航行しつつ漁場に向かう所を示しているものであり、その船尾部12に設けたスリップウェイ26(図1(b)参照)上に、漁場にて魚群の周囲に網をかけ回す作業を行うスキフボート24を搭載している。
【0035】
まず、網船10の全体的な構成について説明すると、船体11の船尾部12の水面下となる部位に、燃油により駆動する図示しない発動機に連動連結させたプロペラ13と、同プロペラ13の後方に舵軸14を介して配設したラダー15とを推進操舵機関として備えている。
【0036】
また、船体中央部16の甲板(図示せず)上の船橋部17には、操船者が操船を行うブリッジ19が設けられている。ブリッジ19には、前述の推進操舵機関と連動するよう構成された操作機器が設けられており、同操作機器を操船者が操作することにより推進操舵機関を駆動させて航行可能となっている。
【0037】
また、船橋部17には、ブリッジ19の上方にレーダーマスト20を立設しており、同レーダーマスト20には、海上を航行する他の船や障害物等を検知したり、気象状況を取得するためのレーダ21が配設されている。これらのレーダ21によって取得された情報は、ブリッジ19内に配設された表示器に表示され、操船者によって参照される。
【0038】
また、ブリッジ19の後方には、推進機関の駆動に伴って発生する排気ガスを放出するためのファンネル22が備えられている。
【0039】
また、ファンネル22の後方には、メインマスト23を立設している。このメインマスト23は、航行時や漁労作業時にて種々の用途で使用されるものであるが、本実施形態に係る漁船においては、係止ワイヤ25を介して船尾部12に載置されたスキフボート24を係止する支柱の役割も有している。
【0040】
網船10の船首部18には、フォアマスト18aが備えられている。このフォアマスト18aには、他の船などから自船を認識させるための灯火類が備えられている。
【0041】
次に、本実施形態に係る漁船の要部構成を備える船尾部12について図2及び図3を参照しながら説明する。図2(a)は例えば漁場へ向かう航行時などにおいて、網船10の船尾部12にスキフボート24を載置している状態を示した斜視図であり、図2(b)は例えば漁労作業時など、スキフボート24を進水させた後の網船10の船尾部12の状態を示した斜視図である。
【0042】
図2(a)及び図2(b)に示すように、網船10の船尾部12には、小型艇としてのスキフボート24を搭載可能に構成したスリップウェイ26と、スリップウェイ26の船首側に隣接して設けられた巻き網27a(図7参照。)を載置するための漁具置場27と、船尾近傍位置であってスリップウェイ26の側方に敷設された船尾端敷板28と、船尾端敷板28の敷設位置に起倒可能に設けられた揚網機29とを備えている。
【0043】
スリップウェイ26は、本実施形態に係る漁船において特徴的な部分の一つであり、スキフボート24を搭載するスリップウェイ26の搭載面は、網船10の船尾側に下り傾斜となる傾斜姿勢と、船尾端敷板28aと面一の状態となる水平姿勢との間で変位可能なフラップ板30にて構成している。なお、このスリップウェイ26やフラップ板30の具体的な構成については、後に詳述する。
【0044】
漁具置場27は、スリップウェイ26の船首側に隣接して設けられた凹部状の領域であり、揚網機29を用いて回収した巻き網を載置する場所である。
【0045】
船尾端敷板28aは、スリップウェイ26の左右両側に設けられた平面状の上部を有する船尾側部28の表面に敷設された敷板部分であり、漁労作業を行う際の船員の作業スペースとして機能する。
【0046】
また、本実施形態に係る漁船では、右舷側の船尾側部28の部分に、揚網機29を配設している。この揚網機29は、海中に入れた巻き網を引き上げるための機器である。
【0047】
図3は、網船10の船尾側面から見た揚網機29の動きを示す説明図である。揚網機29は、図2及び図3に示すように、揚網機29の略下半部を構成する起倒機構部29aと、略上半部を構成する揚網機構部29bとで構成しており、船尾側部28に形成された揚網機収容凹部29c内に収容された収容状態(図2(a)参照)と、揚網機収容凹部29cから露出する突出状態(図2(b)参照)との間で起倒可能に構成している。
【0048】
起倒機構部29aは、揚網機構部29bを揚網機収容凹部29c内外に位置させるためのヒンジとして機能する部分であり、水平方向に軸線を有する起倒軸29dを介して揚網機構部29bを連結させている。
【0049】
また、起倒機構部29aは図示しない垂直軸を介して揚網機収容凹部29cの設置段差部29eに設置されており、揚網機29が垂直軸周りに回動可能となるよう構成している。
【0050】
揚網機構部29bは、投網した巻網の揚網作業時に、揚網ローラ29fに接触させつつ巻き上げるための部位であり、図3にて実線で示すように漁労作業時には船尾端敷板28a上に突出した状態で使用し、スキフボート24を載置している時など漁労作業時以外には揚網機収容凹部29c内に収容される。
【0051】
次に、前述のスリップウェイ26やフラップ板30の構成について、更に具体的に説明する。
【0052】
図2(b)に示すように、スリップウェイ26は、船尾部12の左右船尾側部28間にて上部方向及び船尾方向へ開口を設けつつ形成した船尾凹状部31と、同船尾凹状部31内で揺動するフラップ板30と、同フラップ板30を駆動させるためのフラップ板駆動機構32と、船尾凹状部31と漁具置場27との間に形成されたスリップウェイ通路部33とで構成している。
【0053】
船尾凹状部31は、左右船尾側部28間に設けられたフラップ板30の揺動空間として機能する部位であり、図2(b)や図4(b)、図6等に示すように、左舷側の船尾側部28の船体中央寄りの壁である左側壁部31aと、右舷側の船尾側部28の船体中央寄りの壁である右側壁部31bと、漁具置場27との間に形成されたスリップウェイ通路部33の船尾寄りの壁である船首側壁部31cと、底壁部31dとの4面で囲まれ、上方及び船尾方向へは開放された略矩形状の空間である。
【0054】
また、底壁部31dは、図2(b)及び図6に示すように、船体11の甲板(図示せず)に略平行であり底壁部31dの船首寄りの領域を構成する平坦部31eと、同平坦部31eの船尾側に設けられ前高後低状の斜面として形成された斜面部31fを備えており、同斜面部31fにはスキフボート24の船底に形成されている凸条と係合する船底係合溝31gが形成されている(図2(b)及び図4参照。)。
【0055】
フラップ板30は矩形板状に形成された部材であり、図5に示すように、矩形枠状のフラップ板枠体30a内に複数のフラップ板梁体30bを架け渡し、更にこれらフラップ板梁体30bの表面にフラップ敷板30cを敷設して形成している。
【0056】
また、フラップ板30にはスキフボート24を載置した際にスキフボート24の船底に形成された凸条と係合する船底係合溝30dが形成されており、同船底係合溝30dにはスキフボート24の載置の際にスキフボート24の船底との摺動抵抗を軽減するための複数のローラ30eが配設されている。
【0057】
また、図6に示すように、フラップ板30は、船尾凹状部31の船首側壁部31cの上部に配置されたフラップ板枢支部30fの枢支軸30gにその船首側端部を枢支させており、同枢支軸30gを中心に揺動自在としている。
【0058】
図2(b)にて示したフラップ板駆動機構32は船尾凹状部31内でフラップ板30を揺動させるための機構であり、本実施形態では、図4(a)及び図6に示すように、船首側壁部31cの下部とフラップ板30の裏面との間に介設した複数のシリンダ32aで構成している。このシリンダ32aは、例えばブリッジ19など所定の位置に設けられたフラップ板昇降スイッチ(図示せず)を操作することにより駆動する。なお、本実施形態ではフラップ板駆動機構32をシリンダ32aにて構成したがこれに限定されるものではなく、フラップ板30を傾斜姿勢と水平姿勢との間で変位可能であれば公知の手段を採用することができる。
【0059】
また、図3(a)及び図3(b)に示すように、左側壁部31a及び右側壁部31bには、水平姿勢となったフラップ板30をその裏面側から支持するための支持機構として、左側壁部31a及び右側壁部31bの壁面からロッド状の支持桿34aを出没させるロッド出没装置34が配設されている。
【0060】
このロッド出没装置34は、フラップ板30が傾斜姿勢のときや傾斜姿勢から水平姿勢に変位するとき、水平姿勢から傾斜姿勢に変位するときには支持桿34aを左側壁部31a及び右側壁部31bに没した状態とする一方、フラップ板30が水平姿勢となった際には、支持桿34aを左側壁部31a及び右側壁部31bから突出させて、支持桿34aをフラップ板30の裏面、具体的にはフラップ板枠体30aに当接させて、フラップ板30の自重やフラップ板30上での作業による荷重によってフラップ板30が傾斜姿勢方向に傾くのを防止する。なお、ロッド出没装置34は、ブリッジ19での操作や、船尾近傍に設けられたスイッチ等によって稼働するよう構成しても良く、また、フラップ板30の操作に伴って自動的に稼働するよう構成しても良い。
【0061】
また、フラップ板30が傾斜姿勢の際にその先端部が当接する底壁部31dの位置には、船体11の左右方向へ向けてフラップ板30の先端部を受けるための受溝31hが形成されており、フラップ板30が傾斜姿勢となって同受溝31hにその先端部が受け入れられることにより、斜面部31fの表面とフラップ板30の表面とが略同一平面上に位置するよう構成している。
【0062】
スリップウェイ通路部33は、図2(b)及び図4(b)に示すように、船尾凹状部31と漁具置場27との間で船体11の左右方向への往来を可能とするための通路であり、例えばスリップウェイ26が傾斜姿勢の場合であっても、船尾部12において左右船尾側部28間の往来の際に水平な足場を提供する部位である。
【0063】
そして、このような構成を備える網船10によれば、先に図2(a)にて示したように、網船10の船尾部12に設けたスリップウェイ26にスキフボート24を載置(ドライアップ)し、網船10によってスキフボート24を洋上輸送することができ、できるだけ少ない燃料で船団を漁場へ移動させることができる。
【0064】
しかも、曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を発揮することができる。
【0065】
また、図7に示すように小型艇の進水後で巻き網の揚網時には、フラップ板30を水平姿勢とすることにより、船尾凹状部31の上方に水平な作業スペースを形成することができ、しかも、船尾側部28に揚網機29が配設されており、巻き網27aを回収するに際し、約270°という広い揚網方向角を確保することができるため、効率の良い漁労作業を行うことができる。
【0066】
併せて、船尾端敷板28aとフラップ板30との間で作業者Pの往来が可能となることにより、従来にない動線を確保することができ、作業性が良好な漁船を提供することができる。
【0067】
上述してきたように、本実施形態に係る漁船(例えば、網船10)によれば、船尾にスリップウェイを設けて小型艇を搭載可能に構成した漁船において、前記スリップウェイ(例えば、スリップウェイ26)の船首側に隣接して設けられた巻き網を載置する漁具置場(例えば、漁具置場27)と、船尾近傍位置であって前記スリップウェイの側方に敷設された船尾端敷板(例えば、船尾端敷板28a)と、同船尾端敷板の敷設位置に起倒可能に設けられた揚網機(例えば、揚網機29)とを備え、前記小型艇(例えば、スキフボート24)を搭載するスリップウェイの搭載面は、前記漁船の船尾側に下り傾斜となる傾斜姿勢と、前記船尾端敷板と面一の状態となる水平姿勢との間で変位可能なフラップ板(例えば、フラップ板30)にて構成し、前記小型艇の進水前は前記フラップ板を傾斜状態として前記小型艇を搭載する一方、前記小型艇の進水後で前記巻き網の揚網時には前記フラップ板を水平姿勢とすることにより同フラップ板上で作業可能とすると共に、このフラップ板と前記船尾端敷板との間で往来可能としたため、曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を有しつつも、従来型搭載タイプに比して揚網方向角を広くとることができ、しかも作業性が良好な漁船を提供することができる。
【0068】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
10 網船
11 船体
12 船尾部
26 スリップウェイ
27 漁具置場
27a 網
28a 船尾端敷板
29 揚網機
30 フラップ板
【要約】      (修正有)
【課題】曳航タイプに比して推進抵抗や荒天時の船体の運動性の観点において良好な性能を有しつつも、従来型搭載タイプに比して揚網方向角を広くとることができ、しかも作業性が良好な漁船を提供する。
【解決手段】スリップウェイ26の船首側に隣接して設けられた巻き網を載置する漁具置場27と、船尾近傍位置であってスリップウェイの側方に敷設された船尾端敷板28aと、同船尾端敷板の敷設位置に起倒可能に設けられた揚網機29とを備え、小型艇24を搭載するスリップウェイの搭載面は、漁船の船尾側に下り傾斜となる傾斜姿勢と、船尾端敷板と面一の状態となる水平姿勢との間で変位可能なフラップ板30にて構成し、小型艇の進水前はフラップ板を傾斜状態として小型艇を搭載する一方、小型艇の進水後で巻き網の揚網時にはフラップ板を水平姿勢とすることにより同フラップ板上で作業可能とすると共に、このフラップ板と船尾端敷板との間で往来可能とした。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8