【実施例】
【0053】
(比較例1)
千葉県柏市において、2011年5月より無肥料および無農薬栽培の実験を開始した。実験地は5か所で合計約15,000m
2である。このうち、水はけの良い畑1,954m
2(以降圃場Aとする)と、水はけの悪い畑3,123m
2(以降圃場Bとする)について経過をたどる。いずれも10年以上の耕作放棄地である。
【0054】
(圃場A、2011年の経過)
圃場Aは、それまで定期的に耕起されていたため、5月の時点では畑に何も生えていなかった。そこで、どのような植物が育つか種を播いて様子を観察した。使用した品種はアルファルファ(マメ科)、エンバク(イネ科)、ブロッコリー(アブラナ科)、ケール(アブラナ科)、キャノーラ(アブラナ科)、レッドマスタード(アブラナ科)、ルッコラ(アブラナ科)、ビート(アカザ科)、ホウレンソウ(アカザ科)、レッドオーク(キク科)である。
また、この時点では大気中の常在菌を活用する発想はなく、高畝の成形も一切実施していない。
【0055】
どの品種も発芽は確認できたが(
図7)、ほとんどが枯れて消失した。夏までにメヒシバ(イネ科)などの雑草類が生えてきた。秋に再び前記の種を播いた。春のときよりも、多少は成長しているものがあったが、大きいものでも背丈が10cmに満たないまま成長は止まり、冬までにほとんどが枯れた。
【0056】
(圃場A、2012年の経過)
年明け以降、真冬の間、畑にはほとんど何も生えていなかった。しかし、3月下旬になると、ところどころマメ科のアルファルファが新芽を出すのを確認できた。アルファルファは多年草で、冬に地上部は枯れてしまうが、翌年の春になると新芽を出して成長する特徴を持つ。
すなわち、前年に播いた植物のうち、アルファルファのみがある程度繁殖したということになる。その後、夏にかけて、雑草類は前年に比べて非常に多く繁殖したものの、一方で全体の面積の約1/4にあたる約500m
2でアルファルファが繁殖した。春にアブラナ科、アカザ科、キク科の野菜類の種も一部に播いたが、これらは前年と同様に、ほとんど育たなかった。
【0057】
6月、アルファルファが繁殖しているところを刈り取り、耕起してスイカ(ウリ科)、メロン(ウリ科)、キュウリ(ウリ科)、カボチャ(ウリ科)、トウモロコシ(イネ科)の苗を定植した。いずれも種苗会社の種を購入して苗を作ったものである。梅雨明け前まで順調に生育したものの(
図8)、梅雨明け後、ほとんど成長が止まった。8月にはほとんどの株が枯れた。しかし、小玉サイズのスイカを1個、直径10cmほどのメロンを1個収穫できたので、種を採種しておいた。
【0058】
10月になると、アルファルファの占める割合は約1/2の約1,000m
2に広がった。そこで、アルファルファが最も良く茂っている場所を選び、刈り取ったのち耕起してミズナ(アブラナ科)の種を播いた。そこで、これまでに見たことのない現象が起きた(
図9-a〜d)。10月28日に種を播いたところ、数日後にミズナだけでなく、雑草類も一斉に発芽した。ところが、雑草類は発芽したまま成長が止まり、ミズナだけが成長し始めたのである。従来の農学の常識では、野菜と雑草が同時に発芽した場合、どちらも成長するか、もしくは雑草のほうが旺盛に繁殖すると考えられている。
しかし、ここでは、明らかにミズナだけが順調に成長した。背丈が10cmを超えたころを見計らい、ベビーリーフとして収穫し、約50kgを出荷することができた。ベビーリーフの作付けに関しては、雑草が発芽した場合、野菜と交じってしまうため、収穫が困難とされる。たとえ収穫しても、雑草を選別して取り除くことがほぼ不可能だからである。ところが、圃場Aの場合、ミズナだけが成長したので、問題なく収穫できたのである。
【0059】
もともと、肥料を一切使用していない畑での事象である。従って、ミズナが成長した要因としては、土壌中の微生物との共生関係が考えられた。さらにこの畑においては、微生物資材を人為的に加えたこともないため、大気中の常在菌のうち、ミズナの成長に深くかかわる微生物が畑に漂着し、繁殖している可能性が浮上した。さらにその微生物は、雑草とは共生せず、野菜と共生する特徴を持つという仮説に至る。
【0060】
この仮説に関しては、圃場Aでの事象だけでなく、2012年の11月から翌年の春にかけて、関連する別の事象を確認した。千葉県柏市の市街地に、農機具や種を保管する事務所があり、そこから約15m離れた駐車場脇のスペースで、レッドマスタード(アブラナ科)が1株育っているのを確認した(
図10)。これは、事務所に保管していた種が風で飛ばされ、この場所で発芽したものと推測される。ここは園芸用のスペースではなく、駐車している車の排気ガスがかかる位置のスペースである。雑草が生えるたびに地主がきれいに引き抜いて管理していた。ところが、一般野菜であるレッドマスタードが、10月ごろに一粒発芽し、みるみる成長していったのである。真冬になっても成長は止まらず、ついに翌年の春まで成長を続けた(
図11)。
【0061】
肥料を入れたことはない駐車場脇のスペースであるが、ここは水はけがよく、大雨になっても冠水しない土壌である。雑草が生えては地主が引き抜く作業を繰り返してきたが、10年以上の長い時間が経過するうちに、レッドマスタードと共生する微生物群が繁殖したという仮説が導き出された。さらに、これらの微生物は、大気中の常在菌であり、わずかながら常に地面に漂着していたのではないかと推測された。
【0062】
(実施例1)
(圃場A、2013年の経過)
ミズナは収穫後にも枯れることなく、3月から葉が再生してきた。また、ミズナを作付していない場所では、アルファルファは前年にも増して勢い良く再生した(
図12)。圃場Aは5か所の実験圃場のなかで、唯一水はけが良い畑であるが、一方、水はけの悪い圃場Bを含む他の畑では、試験的に播いた野菜類だけでなく、アルファルファもほとんど育たなかった。それらの事実を考慮し、植物と微生物の共生関係について以下の通り仮説を立てた。
1.野菜と共生する微生物は好気性菌が柱になっている。そのため、畑には通水性と通気性の確保が必要である。
2.共生微生物は大気中に浮遊する常在菌である。
3.アルファルファ(マメ科)が育つ環境には、共生微生物が繁殖し始めている。
4.さらにアブラナ科植物が育つ環境であれば、共生微生物が十分に繁殖している。
5.共生微生物が十分に繁殖していれば、さまざまな野菜が育つようになる。
【0063】
前記の仮説の検証のため、夏野菜を作付することにした。圃場Aはもともと水はけが良いが、仮説に従ってさらに通水性、通気性を高めるため、畝の高さを35〜40cm、畝幅(上面)を150〜200cmとし、5月の連休明けに、アルファルファ、ミズナを刈り取り、耕起したのちにトウモロコシ、ミニトマト、ナス、カボチャ、スイカ、メロンを作付した。
【0064】
いずれも順調に発芽し、梅雨明け直後まで問題なく成長した(
図13-a〜d)。とくに、ミズナの後に作付した野菜のほうが、生育状態が良かった。しかし、2013年は千年猛暑と呼ばれる異常気象で、関東地方は例年より15日早い7月6日に梅雨明けし、異例の乾燥と高温が続いた。圃場Aに灌水設備はなく、トウモロコシ、ナスは成長が鈍り、ほとんど実が成らなかった。干ばつに強いといわれるミニトマトはやや成長が鈍ったものの、こちらは10月まで、順調に実を着けた。また、カボチャは1個収穫できた。カボチャからは、約130粒の種を採種した。これらはいずれも購入した種を直播した野菜である。
【0065】
このほか、スイカとメロンは、前年に自家採種した種を播いたもので、梅雨明け後も順調に生育した。このうち、スイカは6.2kgを筆頭に、大玉サイズを3個収穫。そのほか小玉サイズは10個収穫できた。いずれも食味は良好であった。また、メロンは18個収穫でき、うち9個は食味が良好だった。スイカは大玉3個から自家採種して約1,200粒を確保できた。メロンは最も大きく食味の良かった1個から約330粒採種した(
図14-a〜e)。
【0066】
無肥料栽培の場合、種苗会社の種を購入してもある程度は生育するが、自家採種した種の場合、異常気象などの変化にも適応する強さを持つことがわかった。とくに、同一作物の自家採種かつ連作によって、品質が向上することが認められた。
【0067】
夏野菜が終わり、10月には秋冬野菜としてミズナ、ルッコラ(アブラナ科)、ビート、ホウレンソウ(以上アカザ科)、グリーンレタス(キク科)をそれぞれ作付した。発芽はどれも良好であったが、ビート、ホウレンソウ、グリーンレタスは生育にばらつきが見られた。一方、ミズナ、ルッコラは発芽後も順調に生育した(
図15-a〜b)、
(
図16-a〜b)。また、前年に見られたように、ミズナ、ルッコラの畝では、雑草も発芽したものの、やはり発芽後すぐに成長が止まったのを確認した(
図17)。その後もミズナ、ルッコラはよく成長し、とくにミズナは、この年にはさらに勢いがあった(
図18)。ミズナは自家採種した種ではなく、購入した種を使用したが、連作による生育の向上が認められた。
【0068】
圃場Aにおける3年間の栽培実験の結果、大気中の常在菌のうち、夏野菜(ウリ科、ナス科、イネ科)やアブラナ科野菜と共生し、人為的に肥料を投入することなく野菜を成長させる微生物が存在することは明らかである。これらの微生物がその他の野菜類あるいは果樹と共生し、無肥料栽培を実現しうるかは今後の課題として残されているが、少なくとも夏野菜およびアブラナ科野菜との共生によって、農業経営が成立する規模で栽培可能であることを示した。
【0069】
(比較例2)
水はけの悪い圃場Bは、もともと田んぼにするために粘土質の土を埋め立てた土地であるが、一度も米を作付けしたことがない土地である。2011年5月の時点では、一面葦で覆われていた。そこで、まず葦を刈り取り、全面耕起したうえで、圃場Aと同様に種を播き、生育経過を観察した。
【0070】
(圃場B、2011年の経過)
梅雨の時期は、雨が降ると一部は冠水し(
図19)、全体が水田のようにぬかるむ状態であった。播いた種は、一部は発芽するものの、冠水するたびに消滅した。夏になると、雑草もあまり生えず、葦が再生してきた。秋に入るころ、葦を刈り取り、再び耕起してミズナ、ケール、レッドマスタード(いずれもアブラナ科)を播いてみた。どれも発芽はしたものの(
図20)、背丈が10cm以下のままで、ほとんどが冬を前に枯れた。
【0071】
(圃場B、2012年の経過)
年が明け、3月になっても、圃場Aのようにマメ科のアルファルファが再生することもなく、前年に播いた種は全滅したことが確認された。圃場Aと圃場Bの違いは水はけであり、通水性および通気性の確保が重要であることがわかった。
圃場Bは、とくに水はけが悪かったため、通水性および通気性を確保するため、思い切った高畝を成形することにした。基本的な形としては、高さ35〜50cm、畝幅60cmを基準とし(
図21)、高さは最大70cm、畝幅は最大200cmまでの範囲で、さまざまな形の畝を成形した(
図22)。通常の栽培方法では、高さ30cmまでを高畝と呼び、これ以上の高さに成形することはない。理由は、通気性は良くなる反面、乾燥が激しくなり、作物の成長を阻害するからである。しかし、水はけの悪い状態では、一切の作物が育たないという状況から、従来の枠を超えた思い切った対策が必要であるとの結論に達した。
【0072】
圃場Bは粘土質で、乾燥すると土が固く締まった。高畝を立てるために、溝堀り用の管理機を使ったが、土が固いために鉄製の爪が入らず、まず鍬で土を起こし、次に管理機を使って溝堀りした。その際、地面から10cmも掘ると、ゴロゴロした石のような塊の土であった(
図23)。
【0073】
高畝を成形したあと、前年と同じようにさまざまな種を播き、様子を観察した。しかし、播いた種のほとんどが消滅した。また、葦も一部で再生したほか、前年には見られなかった雑草類が旺盛に繁殖した。そこで、何度か雑草を草刈機で刈り取り、溝に落として、その後の経過を観察した(
図24)。
【0074】
夏を過ぎると、一部の畝では土の塊がボロボロと崩れるようになり、一年を経過するころ、サラサラの状態にまで変化した(
図25)。これは、高さ35〜50cm、畝幅(上面)が100〜130cmの畝で顕著に起きた変化である。幅が100cmより狭かったり、高さが50cmより高かったりする場合は乾燥が激しく、雑草もあまり生えなかった。また130cmより広い畝では、水が抜けずに、雑草類の成長が思わしくなかった。そして、どちらの場合も土の質はあまり変化しなかった。このことにより、一定の形の畝を成形すると、通水性および通気性、さらに保水性のバランスが良くなり、大気中から漂着する微生物が繁殖しやすい環境になるものと推測された。
【0075】
(圃場B、2013年の経過)
2012年は、常識を超えた高畝を成形したことによって、土の状態が劇的に変化した。しかし、アルファルファをはじめ、野菜類はほとんど育たなかった。一方、もともと水はけの良い圃場Aでは、アルファルファが繁殖し、続いてミズナが成長した。この結果を受け、2013年は、圃場Bの畝幅(上面)を100〜130cmに統一し、なおかつアルファルファに特化して種まきし、経過を観察した。
【0076】
春から夏にかけて雑草は大いに繁殖したが、アルファルファもところどころで育ち始めた(
図26)。その後も土壌改良に集中し、畝に生えた雑草やアルファルファを定期的に刈り取り、溝に落とす作業を繰り返した。
【0077】
(実施例2)
(圃場B、2014年の経過)
スイカやメロンなどが収穫できた圃場Aは、2014年春に地主に返却することになったため、栽培実験は、圃場Bを中心に実施することになった。3月の時点で、アルファルファが育った範囲は、約3,000m
2のうち約500m
2で、決して十分に改良されているとはいえない状態であった。しかし、少なくともアルファルファが伸びている周辺には、共生微生物群がある程度繁殖していると推測されることから、スイカとメロンおよびカボチャに絞って栽培実験を試みた。これらの野菜は、いずれも自家採種した種である。スイカ、メロンは3代目、カボチャは2代目である。
自家採種した種のほうが適応しやすいと判断したもので、まだ土壌改良が十分とはいえず、なおかつ農作物が一度も育ったことのない圃場Bにおいて、可能な限り順調に栽培できることを目指した。
また、前年の圃場Aの経過から、アブラナ科のミズナを作付するほうが望ましいと考えたが、ミズナの種は自家採種していないこと、さらにアブラナ科野菜は秋に作付するほうが時期的に適していることを考慮し、夏野菜であるスイカ、メロン、カボチャに特化することにした。
【0078】
前年の夏は異常気象といわれるほど乾燥と高温が続いたため、2014年は高畝にマルチを張り、乾燥時の保湿をはかった(
図27)。2014年は、単一作物を大量に栽培することが目標である。そこで、4月中旬から6月初旬にかけて、時期をずらしながら種を播いた。スイカ約300株、メロン約200株、カボチャ約10株でいずれもほぼ順調に発芽した。
【0079】
しかし、2014年は例年にない長雨と大雨に見舞われた。畑の一部は、35〜50cmの溝が数日にわたって冠水した。そのため、生育状況にばらつきが出てきた。その中で、冠水を免れた畝のスイカ、カボチャは順調に生育した。スイカは小玉から中玉サイズ(2〜4kg)が約300個収穫できたほか、カボチャは大玉サイズ(2〜3kg)が13個収穫できた。メロンは順調に成長していたが、もともと雨に弱い品種であり、大雨の影響を強く受けたため、7月22日の梅雨明け後、ほとんど生育が止まった。
(
図28-a〜e)
【0080】
以上のことから、高畝に成形したあとにマメ科植物であるアルファルファが繁殖すると、十分とはいえなくとも、共生微生物群がある程度繁殖していることは確実である。さらに、野菜が発芽すると、直ちにその周辺に存在する共生微生物群と共生関係が結ばれる。野菜類は、発芽したばかりでも光合成によってブドウ糖を生成し、根から放出を始める。それによって共生微生物群はアミノ酸やビタミン、ホルモン、ミネラルを野菜に供給し始める。初めは少量の養分交換から始まるが、シーソーゲームのように互いに補完する形で成長し、植物と共生微生物群の生態系が拡大しながら回り始めると考えられるのである。