特許第5770927号(P5770927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770927データ符号化が切り替え可能な直列データ伝送のための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770927
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】データ符号化が切り替え可能な直列データ伝送のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/40 20060101AFI20150806BHJP
   G06F 13/362 20060101ALI20150806BHJP
   G06F 13/42 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   H04L12/40 Z
   G06F13/362 510D
   G06F13/42 310
【請求項の数】28
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-505608(P2014-505608)
(86)(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公表番号】特表2014-516496(P2014-516496A)
(43)【公表日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】EP2012057108
(87)【国際公開番号】WO2012143411
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2013年12月18日
(31)【優先権主張番号】102011007766.9
(32)【優先日】2011年4月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】ハルトヴィッチ、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】リンデンクロイツ、トーマス
【審査官】 安藤 一道
(56)【参考文献】
【文献】 BOSCH,CAN with Flexible Data-Rate White Paper Version1.1,2011年 8月,pp.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/40
G06F 13/362
G06F 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介してメッセージを交換する少なくとも2つのデータ処理ユニットを備えるネットワーク内でのデータ伝送のための方法であって、前記交換されるメッセージは、CAN仕様ISO11898−1に準拠した論理構造を有し、前記交換されるメッセージ内の少なくとも1つの第1の予め設定可能な範囲について、ビットの符号化が、CAN規格ISO11898−1に従った方法で行われる、前記方法において、
前記ビットの符号化の方法を切り替えるための切り替え条件が前記メッセージ内に存在する場合には、前記交換されるメッセージ内の少なくとも1つの第2の予め設定可能な範囲について、前記ビットの前記符号化が、CAN規格ISO11898−1から外れた方法に従って行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第2の予め設定可能な範囲内で利用される前記ビットの前記符号化は、データ伝送レートの向上、及び/又は、外部ノイズに対する安全性の向上、及び/又は、より少ない電磁波放射を実現するように選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の予め設定可能な範囲内で利用される前記ビットの前記符号化は、CAN規格に対して電圧ノイズがより少なくレセッシブなレベルが弱く出力されるNRZ符号化であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、前記ビットの前記符号化のためにNRZI符号化が利用され、信号エッジの発生はドミナントとして解釈され、エッジの不在はレセッシブとして解釈されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、前記ビットの前記符号化のために周波数変調又は周波数偏移変調が適用され、第1の周波数又は第1の周波数群又は第1の周波数範囲はドミナントとして解釈され、第2の周波数又は第2の周波数群又は第2の周波数範囲はレセッシブとして解釈されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、第3の周波数又は第3の周波数群又は第3の周波数範囲が、データ伝送時に検出されたエラーをシグナリングするために利用されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、前記ビットの前記符号化のために振幅変調又は振幅偏移変調が適用され、第1の振幅又は第1の振幅範囲はドミナントとして解釈され、第2の振幅又は第2の振幅範囲はレセッシブとして解釈されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、第3の振幅又は第3の振幅範囲が、データ伝送時に検出されたエラーをシグナリングするために利用されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の予め設定可能な範囲内では、代替的な符号化が用いられるビット伝送と並んで、データが追加的にCAN規格ISO11898−1で構想される符号化方法に従っても伝送されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
切り替え条件が存在する際には、前記ビットの前記符号化の切り替えと並んで、バスクロックの切り替えも、第3の予め設定可能な範囲内で行われ、前記第3の予め設定可能な範囲は、前記第2の予め設定可能な範囲に含まれ又は前記第2の予め設定可能な範囲と一致することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記バスクロックの前記切り替えは、最小時間単位又は駆動時の発振器クロックに対して相対的にバス時間単位を調整するための、少なくとも2つの異なる倍率の利用によって実現されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
切り替え条件が存在する際には、前記ビットの前記符号化の切り替えと並んで、バスクロックの切り替えも、第3の予め設定可能な範囲内で行われ、前記第3の予め設定可能な範囲は、前記第2の予め設定可能な範囲に含まれ又は前記第2の予め設定可能な範囲と一致し、
前記第2の予め設定可能な範囲内又は前記第3の予め設定可能な範囲内では、バス線間の電気抵抗が、前記第2の予め設定可能な範囲内又は前記第3の予め設定可能な範囲内のそれぞれで利用される伝送方法に対して調整されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の予め設定可能な範囲、バス加入者によって、エラーフレームを開始する理由が検出された直後に、又は、戻り切り替えのために設定されたビットに到達した直後に終了し、前記ビットの前記符号化が、前記バス加入者内で前記第1の予め設定可能な範囲の方法に従って再び行われることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
切り替え条件が存在する際には、前記ビットの前記符号化の切り替えと並んで、バスクロックの切り替えも、第3の予め設定可能な範囲内で行われ、前記第3の予め設定可能な範囲は、前記第2の予め設定可能な範囲に含まれ又は前記第2の予め設定可能な範囲と一致し、
前記第3の予め設定可能な範囲、バス加入者によって、エラーフレームを開始する理由が検出された直後に、又は、戻り切り替えのために設定されたビットに到達した直後に終了し、前記バスクロックが、前記バス加入者内で再び前記第1の予め設定可能な範囲の値にリセットされることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
バスアクセス権は、ISO11898−1に記載されたアービトレーションにより付与され、異なる前記ビットの符号化を行える前記第2の予め設定可能な範囲は、前記メッセージ内で、早くともデータ長コードの第1ビットで始まり、遅くともCRCデリミタビットで終了することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
切り替え条件が存在することが、前記メッセージを交換する前記データ処理ユニットに対して、前記第1の予め設定可能な範囲内に存在する標識によってシグナリングされることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記標識は、前記メッセージのコントロールフィールド内又はアービトレーションフィールド内の予約ビットにより与えられることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
スアクセス権は、ISO11898−4に記載される時間制御型の方法によって付与され、異なる前記ビットの符号化を行える前記第2の予め設定可能な範囲は、予め設定可能なメッセージについて、当該予め設定可能なメッセージ内で、早くともメッセージのスタートオブフレームビットで始まり、遅くともCRCデリミタビットで終了することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記予め設定可能なメッセージのための切り替え条件が存在することは、時間制御型のバス通信の枠組みにおいて設定されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記予め設定可能なメッセージのための切り替え条件が存在することは、前記メッセージを交換する前記データ処理ユニットに対して、以前に送信された基準メッセージ内に存在する標識によってシグナリングされることを特徴とする、請求項18〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の予め設定可能な範囲への移行は、バス加入者内で、前記切り替え条件の存在を示す標識、又は前記切り替え条件の存在を示すビットが検出された直後に実行され、前記ビットの前記符号化が切り替えられることを特徴とする、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
切り替え条件が存在する際には、前記ビットの前記符号化の切り替えと並んで、バスクロックの切り替えも、第3の予め設定可能な範囲内で行われ、前記第3の予め設定可能な範囲は、前記第2の予め設定可能な範囲に含まれ又は前記第2の予め設定可能な範囲と一致し、
前記第3の予め設定可能な範囲への移行は、バス加入者内で、前記切り替え条件の存在を示す標識、又は前記切り替え条件の存在を示すビットが検出された直後に実行され、前記バスクロックが切り替えられることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
通信プロトコルは、送信バス加入者が少なくとも切り替え条件が存在する際に仕様ISO11898−1に対して、1つ以上の受信者及び/又は最大2ビット長のアクノリッジスロットによる、メッセージの正しい受信への1ビット分遅れた肯定応答(アクノリッジ)を受け入れ、エラーとして処理しないという趣旨で変更されることを特徴とする、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも2つの関与するデータ処理ユニットと、メッセージ伝送のための接続線と、を備えたネットワーク内でのデータ伝送のための装置において、
データ伝送が、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法に従って行われることを特徴とする、装置。
【請求項25】
前記データ処理ユニットに接続されるバス接続ユニット又は前記データ処理ユニットに接続される終端ユニットを制御するための手段が設けられ、前記バス接続ユニット又は前記終端ユニットは、前記制御するための手段によって、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法に対して調整されうることを特徴とする、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
少なくとも受信経路内に、複数のバス接続ユニットと接続するための接続部が設けられ、前記複数のバス接続ユニットは、前記複数のバス接続ユニットが用いる請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法を実行するよう構成されることを特徴とする、請求項24に記載の装置。
【請求項27】
少なくとも2つの関与するデータ処理ユニットと、メッセージ伝送のための接続線と、を備えたネットワーク内でのデータ伝送のためのバス接続ユニットにおいて、
データ伝送が、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法に従って行われることを特徴とする、バス接続ユニット。
【請求項28】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法に対して前記バス接続ユニットを調整するための手段が設けられ、前記手段は、少なくとも1つの切り替え可能な終端ユニット又は切り替え可能な抵抗を含むことを特徴とする、請求項27に記載のバス接続ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスシステムの少なくとも2つの加入者間で、メッセージ又はデータフレームでデータを伝送するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、独国特許出願公開第10000305号明細書には、「コントローラ・エリア・ネットワーク」(CAN:Controller Area Network)及び「タイム・トリガ型CAN」(TTCAN:Time Triggered CAN)と呼ばれるCANの拡張版が記載されている。CANで利用される媒体アクセス制御方法は、ビットごとのアービトレーション(Arbitrierung)に基づいている。ビットごとのアービトレーションの場合は、複数の加入者局がバスシステムのチャネルを介してデータを同時に伝送することが可能であり、これにより、データ伝送が妨げられることはない。さらに、加入者局は、チャネルを介したビットの送信の際に、当該チャネルの論理的状態(0又は1)を定めることが出来る。送信されるビットの値が、チャネルの定められた論理的状態と一致しない場合には、加入者局はチャネルへのアクセスを終了する。CANの場合、ビットごとのアービトレーションは通常、チャネルを介して伝送されるメッセージ内のアービトレーションフィールド内で行われる。加入者局が識別子を完全にチャネルに送信した後で、当該加入者局は、自身がチャネルに対する排他的アクセス権を有することが分かる。従って、アービトレーションフィールドの伝送の終わりは、加入者局がチャネルを排他的に利用できる許可区間の始まりに相当する。CANのプロトコル仕様によれば、他の加入者局は、送信加入者局がメッセージのチェックサムフィールド(CRCフィールド)を伝送してしまうまでチャネルにアクセスしてはならず、即ち、チャネルにデータを送信してはならない。従って、CRCフィールドの伝送の終了時点は、許可区間の終了に相当する。
【0003】
ビットごとのアービトレーションによって、チャネルを介したメッセージの破壊されない伝送が達成される。CANバス上を伝送されるメッセージは、データフレームとも呼ばれる。破壊のない伝送によってCANの良好な実時間特性が獲得されるが、これに対して、加入者局により送信されたメッセージが、チャネルを介する伝送の間に、他の加入者局により送信された他のメッセージとの衝突により破壊される可能性がある媒体アクセス制御方法の場合は、明らかにより不都合な実時間挙動を有する。なぜならば、衝突、及び、衝突により必要となるメッセージの新たな伝送のために、データ伝送の遅延が起こるからである。
【0004】
CANプロトコルは特に、実時間条件下で短いメッセージを伝送するのに適している。CANドメインを介してより大きなデータブロックが伝送される場合には、チャネルの比較的低いビットレートが、制限を掛ける要因となる。ビットごとのアービトレーションが正しく機能することを保証するために、1ビットの伝送のためのアービトレーションの間に、まず第1にバスシステムの大きさと、チャネル上での信号伝播速度と、バス加入者のインタフェースモジュール内の内部の処理時間と、に依存する最小時間を保つ必要がある。なぜならば、全てのバス加入者が、バス状態(0又は1)の統一的なイメージを持ち、バス状態に対する同等のアクセス権を有する必要があるからである。従って、ビットレートは、個々のビットの時間を短縮することによっては簡単に上げることが出来ない。
【0005】
それにも関わらず、制御ユニットのプログラミングのために必要な比較的大きなデータブロックを、本来CANドメインへの接続のために設けられた通信インタフェースを介して十分に高速で伝送しうるために、独国特許出願公開第10153085号明細書は、データブロックの伝送のために一時的に通信インタフェースを、ビットごとのアービトレーションが行われず比較的高いビットレートが可能な他の通信モードへと切り替えることを提案している。但しその場合には、或る程度の時間CANプロトコルによる通信を中断する必要がある。例えば、エラーのためにCANプロトコルに従ったバスシステムの駆動をもはや開始出来ない場合には、バスシステムの故障が起こる。さらに、比較的大きなデータブロックの伝送により、CANプロトコルに従って行われる後続の伝送が著しく遅延することになり、CANの実時間特性が損なわれる。
【0006】
独国特許出願公開第10311395号明細書には、非対称な直列通信を、代替的に非対称な物理的なCANプロトコルを介して、又は、対称的な物理的CANプロトコルを介して行うことが可能なシステムが記載されており、これによって、非対称な通信のためのより高いデータ伝送レート又はデータ伝送の信頼性が実現されうる。
【0007】
独国特許出願公開第102007051657号明細書は、伝送するデータ量を増大させるために、TTCANプロトコルの排他的なタイムスロットにおいて、CANに準拠しない非対称で高速のデータ伝送を利用することを提案している。
【0008】
G.CenaとA.Valenzanoは、「Overclocking of controller area networks」(Electrics Letters、Vol.35、No.22(1999)、S.1924)で、効率良く獲得されるデータレートに対する、メッセージの部分範囲内のバス周波数のオーバークロックの作用について論じているが、方法の詳細、並びに、バス加入者の様々な状態及び状態遷移には触れていない。
【0009】
引用した公報から、先行技術は、あらゆる点で満足できる結果を提供しないことが分かる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、CANネットワーク内でより短時間でメッセージを伝送することが可能であると共に、エラー検出及びエラー処理並びにネットワーク全体でのデータの整合性等のような本来のCAN特性を保つことが可能な方法を記載する。このために、以下で規格CANと呼ばれる、ISO11898−1〜4に従ったCANプロトコルに対して、以下でAC(alternate coding、代替符号化)−CANと呼ばれる変更されたデータ伝送方法が提案される。
【0011】
上記の課題は、請求項1の特徴を有するデータ伝送方法、及び、独立請求項に記載された装置によって解決される。
【0012】
上記の課題は、本発明に基づいて、メッセージ内のビット符号化が少なくとも2つの異なる方法を介して行われることにより解決され、交換されるメッセージ内の少なくとも1つの第1の予め設定可能な範囲について、ビットの符号化が、CAN規格ISO11898−1に準拠した方法で行われ、切り替え条件が存在する場合には、交換されるメッセージの少なくとも1つの第2の予め設定可能な範囲について、ビットの符号化が、CAN規格ISO11898−1から外れた方法に従って行われる。
【0013】
本方法の1つの利点は、CANメッセージの論理構造が広範囲で、即ち、少なくともSOFとCRCデリミタとの間の範囲について保たれるということである。これに対応して、アプリケーションプログラムへのインタフェースを変更しなくてもよい。AC−CANコントローラは、規格CANネットワーク内でも使用可能である。AC−CANコントローラを有する加入者のみを備えるネットワーク内では、全ての加入者が、アービトレーションの後で高速モードに切り替わり、従って、全ての同期の仕組み及びエラー検出の仕組みが引き続きそのタスクを満たすことが可能である。さらに、第2の範囲で利用される符号化が、データ伝送レートの向上、データ伝送の安全性の向上、又は、より少ない電磁波放射を実現するように選択されることは有利である。
【0014】
有利に、切り替え条件が存在する場合に、上記の第2の範囲内では、電圧ノイズ(Spannungs−Hub)がより少なく、送信加入者局によりレセッシブなレベルが弱く出力されるNRZ(非ゼロ復帰方式の)符号化、又は、信号エッジの発生がドミナントビットとして解釈されるNRZI(非ゼロ復帰反転方式の)符号化が利用される。同様に、レセッシブな(rezessiv)ビット又はドミナントな(dominant)ビットを表すための、周波数変調若しくは振幅変調、又は、周波数偏移変調又は振幅偏移変調の利用も有利でありうる。その際特に、第3の周波数又は振幅が、データ伝送時に検出されたエラーをシグナリングするために利用される場合には有利である。
【0015】
特に有利な実施形態において、切り替え条件が存在する際に、バス線間の電気抵抗が、切り替え可能な抵抗によってビット符号化方法に対して調整される。
【0016】
さらに、規格から外れた方法によるビット伝送と平行して、規格に準拠した符号化方法に従ってもビットを伝送されることは有利でありうる。
【0017】
データ伝送レートを上げるという利点を実現するために、第2の範囲に含まれ又は第2の範囲と一致する第3の範囲内で、例えば最小時間単位又は発振器クロックに対して相対的にバス時間単位を調整するための倍率を調節することによって、バスクロックを上げることが可能である。
【0018】
特にフェールセーフティ(Fehlersicherheit)を保つために、伝送が変更された第2の範囲又は第3の範囲が、エラーフレーム(Error−Frame)を開始する理由が検出された際に、又は、戻り切り替えのために設定されたビットが検出された際に終了することは有利である。
【0019】
有利に、第2の範囲は、アービトレーションによりバスアクセス権が付与された際には、早くともデータ長コードの第1ビットで始まり、遅くともCRCデリミタで終了し、及び、切り替え条件が存在することが、バスアクセス権の正しい付与のためにバス全体のデータ整合性を保証するために、適切な標識によってシグナリングされる。時間制御型のバス通信において、第2の範囲を既に早期に、即ち、早くともスタートオブフレームビット(Start of Frame−Bit)で開始することも有利でありうる。
【0020】
最後に、通信プロトコルが、送信バス加入者が少なくとも切り替え条件が存在する際に仕様ISO11898−1に対して、1つ以上の受信者及び/又は最大2ビット長のアクノリッジスロット(Acknoledge−Slot)による、メッセージの正しい受信への1ビット分遅れた肯定応答(Acknoledge、アクノリッジ)を受け入れ、エラーとして処理しないという趣旨で変更される場合には有利である。これにより、信号の伝播時間又は内部の処理時間によって、様々なバス加入者内での伝送方法の間の状態遷移が、合意された時点に必ずしも起こらない場合に不必要なエラー報知が行われることが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明が、以下では図面を用いてより詳細に解説される。
図1】本発明に係る方法に関してAC−CANコントローラが取りうる様々な状態及び遷移条件を概略的に示す状態図である。
図2】可能なビット符号化方法の2つの例を示す。
図3a】本発明に係る方法を具現化するために適したバス接続ユニットの構造を概略的に示す。
図3b】本発明に係る方法を具現化するために適したバス接続ユニットの構造を概略的に示す。
図3c】接続されたバス線間の電気抵抗を伝送方法に対して調整するために、追加的な手段を有するバス接続ユニットを示す。
図4】様々なビット符号化が行われる範囲へと本発明に基づいて分けられ、予約ビットにより標識付けされた、標準フォーマット及び拡張フォーマットによるCANメッセージの構造を示す。
図5】本方法と、TTCANプロトコルによる時間制御型の伝送方法と、を組み合わせた際の、ビット長が短縮された範囲の拡張の一例を、システム行列により示す。
図6】排他的なTTCANタイムスロット内で、様々なビット符号化が行われる範囲へとメッセージを分けるための可能性を示す。
図7】代替的なビット符号化を利用した際の、CRCデリミタ又はアクノリッジスロットのための、先行技術に対して拡大された受け入れ基準を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明に係る方法及び装置についての実施例が記載される。これら具体例は、実施を解説するために使用されるが、本発明の思想の範囲を制限するものではない。
【0023】
最初に、第1の実施例において、図1〜3を用いて、本発明に係るAC−CANコントローラの状態及びこれに属するデータ伝送特性、並びに、その遷移及びそのために必要な伝送条件が記載される。
【0024】
図1は、AC−CANコントローラの3つの駆動状態、即ち、規格CAN(Norm CAN)101、AC−CANアービトレーション(AC−CAN−Arbitration)102、及び、AC−CANデータ(AC−CAN−Data)103を示している。駆動状態規格CAN101では、AC−CANコントローラは、規格CANプロトコルに従って動作する。駆動状態AC−CANアービトレーション102では、AC−CANコントローラは、規格CANコントローラのように振る舞うが、状態AC−CANデータ103へと変わることが可能である。状態AC−CANデータ103では、AC−CANコントローラの挙動は、規格CANコントローラの挙動とは異なっている。なぜならば、バスを介して伝送されるビットが、代替的な方法に従って符号化されるからである。本発明に係るコントローラは、アプリケーションプログラムにより要求された場合には、AC−CANアービトレーションモード102に切り替わった状態にある。そうでない場合には、規格CANモード101に切り替わった状態にある。
【0025】
変更されたビット符号化の一部として又は当該ビット符号化に追加的に、状態AC−CANデータ103では、バスクロックレートを変更することが可能である。バスクロックと駆動中の発振器クロックとの間での倍率(Prescaler、プリスケーラ)の変更が構想されうる。これにより、バス時間単位の長さを調整することが可能である。状態AC−CANアービトレーション102及び状態規格CAN101では、長いバス時間単位が利用され、状態AC−CANデータ103では、短いバス時間単位が利用される。データの伝送、例えばデータ長コード、データフィールド、及びCRCフィールドの伝送のために状態AC−CANデータにおいて必要とされる総時間は、規格に準拠したデータ伝送時に必要であろう時間に対して異なっていてもよい。
【0026】
代替的な実施例において、代替的なビット符号化の利用とバスクロックレートの変更とは、利用される符号化において未だにバスクロックレートについて述べられる限り、即ち、メッセージの個々のビットが時間的順序で順々に伝送される限りにおいて、互いに依存せずに行うことが可能である。その場合に、図1に類似した状態図は、対応してよりコストが掛かる。なぜならば、伝送方法の可能な変更(通常の符号化/変更された符号化、通常のクロックレート/変更されたクロックレート)の様々な組み合わせと、その移行と、を含む必要があるからである。以下では、図1に係る簡単な状態図から出発する。
【0027】
状態AC−CANアービトレーション102では、例えば標識として、CANフレーム内ではデータ長コードDLC(Data Length Code)の前に存在する「予約ビット」R0が、レセッシブで送信される。規格CANプロトコルでは、この予約ビットをドミナントで送信しなければならないことを規定している。AC−CANコントローラがこの予約ビットをドミナントで受信し、このことがアプケーションプログラムによりそのように設定されていた場合には、AC−CANコントローラは、継続的に状態規格CANへと変わる(状態変化T1又はT2)。これにより、AC−CANコントローラと規格CANコントローラとを同じネットワーク内で使用することが可能であり、及び、2つのコントローラが規格CANプロトコルにより動作することが保証される。他のビットも、規格CANプロトコルで固定値がそのために規定される標識として選択されうる。状態規格CANに継続的に変わる(状態変化T1又はT2)ための他の切り替え基準は、例えば、CANエラーカウンタの特定の数値を超えることであってもよい。
【0028】
状態AC−CANアービトレーション102では、AC−CANコントローラは、標識として例えば「予約ビット」R0をDLCの前にレセッシブで受信し、又はレセッシブでの送信に成功し、この予約ビットのサンプルポイント(Sample−Point)以降、代替的なビット符号化(alternate Bit−Codierung)へと切り替え、例えば、電圧ノイズがより少ないNRZ(Non Return to Zero、非ゼロ復帰方式の)符号化へと切り替え、状態AC−CANデータ103へと変わる(状態変化T3)。追加的に、AC−CANコントローラは、倍率を切り替えることによりバスクロックレートを上げる。状態変化は、少なくとも近似的に一定の時間間隔で、又は、サンプルポイントの後で所定数のバス時間単位が経過した後に起こってもよい。
【0029】
AC−CANコントローラは、状態AC−CANデータ103では、以下2つの条件のうちの1つ、即ち、

(A)AC−CANコントローラが、CANエラーフレームを開始する理由を見つける、又は、
(B)CANフレーム内でCRCデリミタに到達する

のうちの1つに該当するまで、状態AC−CANデータ103のままである。
(A)又は(B)が満たされる場合には、コントローラは、状態AC−CANアービトレーション102へと戻って切り替わる(状態変化T4)。
【0030】
CANプロトコルによれば、DLCとCRCデリミタとの間の範囲内では、エラーフレームを開始する理由が2つある。即ち、(A1)送信機がビットエラーを見つける、又は、(A2)受信機がスタッフエラー(Stuff−Error)を見つける。これらの理由は、利用されるビット符号化方法に依存せず、CANプロトコルのエラー監視の仕組みが、これに関して引き続き適用されうる。場合により重畳されるエラーフラグ(Error−Flag)の終了時に、即ち、エラーデリミタ(Error−Delimiter)の開始時に、ネットワーク内の全コントローラは、状態AC−CANアービトレーション102にある。
【0031】
(A1)及び(A2)並びに(B)においても、状態AC−CANアービトレ−ション102への変化T4が起こり、従って、条件に該当するサンプルポイントで、又は、当該サンプルポイントと少なくとも近似的に一定の時間間隔を取って、倍率の切り替えが行われる。この状態変化は、サンプルポイントの後で所定数のビット時間単位が経過した後に行われてもよい。
【0032】
規格CANを介した信号伝送の際のビット符号化の基本的な特性は、各バス加入者がドミナントなビットによって、他のバス加入者の全てのレセッシブなビットを上書きできるという可能性である。規格CANでは、この特性は、レセッシブなレベルが、定められた終端抵抗を介して放電電流を流すことによって設定され、ドミナントなレベルが、加入者によって電流を流すことによって供給されることによって実現される。この特性によって、各バス加入者は、エラー監視に関与し、データ伝送時にエラーに気付いた際には、ドミナントなアクティブな(aktiv)エラーフラグを送信することにより(6個の連続するドミナントビット、ISO11898−1、10.4.4.2章参照)、全ての他の加入者も同様にエラー状態に置くことが可能となる。この特性は、適切な代替的なビット符号化方法を選択した際にも保たれる。
【0033】
電磁放射を低減するために適した選択肢は、CAN規格に対して電圧ノイズがより少なく、レベル変更を加速させるために、レセッシブなレベルが弱く出力されて実行されるNRZ符号化を利用することである。これにより同時に、各バスレベルを設定するために必要な時間が短縮され、流れる電流、及び、これに起因する電磁場が小さく保たれる。「弱く出力される」(schwach getrieben)とは、この文脈においては、レセッシブなレベルを設定するために、例えば短時間の間、終端抵抗を介した放電電流と平行してレセッシブなレベルの設定を加速させる送信加入者によって、電流が流されることを意味する。短い電流の流れにより伝達される電荷量は、例えば、エッジにより起動され又は閾値により起動されるパルス生成器によって、レセッシブで送信されたビットを、エラーの場合にはドミナントなビットにより上書きする可能性が他のバス加入者に残るように、即ち、反対方向の対応する強さ及び/又は長さの電流の流れによって、即ち、終端抵抗を介した放電電流、及び、追加的に送信バス加入者によりレセッシブで流される電流に抗して、上記レセッシブなビットを上書きする可能性が他のバス加入者に残るように制限される。
【0034】
規格CANのNRZ符号化に対する他の可能な選択肢が、2つの異なる発展形態により、図2に概略図として概略的に示されている。状態AC−CANデータにおいて本発明に係るAC−CANコントローラが使用可能であろう方法は、NRZI(Non Return to Zero Invert、非ゼロ復帰反転)方式の符号化である。
【0035】
例AC−CAN1では、提案される符号化方法において、状態AC−CANデータで、ビットストリーム内のゼロは、規格CANではドミナントビットであるが、バスレベル間又は差動電圧U1とU2との間のエッジ変更として示され、1は、即ちレセッシブなビットは、不変のレベルとして示されている。各加入者は、現在のバス状態が分かった際に、適切な電流を流すことによって、U1からU2への又は逆方向へのエッジ変更を促し、従って、他のバス加入者のレセッシブなビット(このレセッシブなビットでは電流が流されない)を上書きすることが可能である。
【0036】
代替的な例AC−CAN2では、状態AC−CANデータにおいて、ビットストリーム内の1が、バスレベル間又は差動電圧U1とU2との間のエッジ変更として示され、ゼロは、不変のレベルとして示されている。通常のようにゼロがドミナントで伝送される場合、即ち、伝送された1に対して勝てる場合には、本実施形態では、例えば各加入者は、現在の差動電圧U1及びU2を維持する対応する電圧源への2つのバス線の、低抵抗の(niederohmig)接続を形成することにより、U1からU2への又は逆方向へのエッジ変更を防止し、従って、差動電圧U1及びU2を変更する目的で電流が流される他のバス加入者のレセッシブなビットを上書きすることが可能である。1をドミナントで伝送し、ゼロをレセッシブで伝送することも可能であろうが、そのためには、プロトコル仕様の追加的な調整が必要となるであろう。
【0037】
更なる別の選択肢は、ビット符号化のために、周波数変調又は周波数偏移変調を利用することである。本実施例では、状態AC−CANデータにおいて、メッセージのビットストリームのドミナントビット及びレセッシブビットは、少なくとも2つの異なる周波数、例えばFD及びFRを有する、バス線上に印加される信号として示される。2つのビットを表すために、周波数の組み合わせ、又は、周波数の範囲も利用することが可能である。この場合周波数は、確実に分けられるために互いに十分な間隔を有するように選択される。振幅、周波数、及び導線構成は、許容されない電磁波放射が起らないように選択される。このためには、場合によっては追加的に保護される2線式の撚線が特に有利である。バス上でドミナントなエラーフラグが勝つことを保証するために、追加的に、エラーを発見した際に送信される第3の周波数FFを設定することが可能である。これにより、エラーが確認されたという情報の更に迅速な伝播が実現されうる。
【0038】
ビット符号化方法として周波数変調を使用する際には、1つのメッセージの、送信される複数のビットをそれぞれまとめ、周波数情報に変換することも有利でありうる。例えば、2ビットずつまとめて、4個の異なる周波数情報を、特に個々の周波数、周波数の組み合わせ、又は周波数群を、2ビットの4個の可能な値を表すために利用することが可能である。3ビットずつまとめる際には、対応して、8個の様々な周波数、周波数の組み合わせ、又は周波数群が必要であり、一般にN個のビットをまとめる際には、2個の様々な周波数情報が表示に必要である。受信者内では、受信された周波数情報は再び直列のビット列に変換され、従って、後続の処理は基本的に変更されずに行われうる。
【0039】
更なる別の可能な実施形態において、この場合には、規格CANからのビットスタッフィング(Bit−Stuffing)を、代替的な符号化方法として周波数変調を利用する範囲のために利用することが可能である。スタッフィング(ISO11898−1、10.5章参照)は、規格CANに準拠するデータ伝送において、同じバスレベルを有するビットが5個以上連続して発生することを、これに抗する追加的なビットを挟むことにより防止し、これにより特に、大き過ぎない間隔で、様々なバス加入者のビットタイミングの同期化のために、バス上でエッジが提供されることを保証する。周波数変調方法が適用される際には、実施形態によっては、同じバスレベルを有する互いに連続するビットについてもはや述べられない。これに対応して、代替的な符号化方法として周波数変調を利用する範囲への、各送信者によるスタッフビットの挿入はもはや必要ではない。受信者内では、受信プロセスがこの範囲のために同様に調整される。
【0040】
同様に、ビットの符号化のために、振幅変調又は振幅偏移変調を適用することも可能である。本実施例では、状態AC−CANデータにおいて、メッセージのビットストリームのドミナントビット及びレセッシブビットは、バス線上に印加される信号であって、少なくとも2つの異なる振幅、例えばAD及びARを有する予め設定される周波数F0の上記信号として示されている。振幅範囲も、2つのビットを表すために利用することが可能である。この場合に振幅は、区別されるように互いに十分な間隔を有するように選択される。基本周波数F0及び導線構成は、許容されない電磁波放射が起らないように選択される。このためには、場合によっては追加的に防護される2線式の撚線が特に有利である。バス上でドミナントなエラーフラグが勝つことを保証するために、追加的に第3の振幅AE、特に、エラーが発見された際に送信される特に高い振幅を設定することが可能である。これにより、エラーが確認されたという情報の更に迅速な伝播が実現されうる。
【0041】
当業者に公知の更なる別の符号化方法又は変調方法も使用することが可能である。いずれの場合にも、選択されたビット符号化について以前に述べた実施例と同様に、アービトレーションの後に送信権を得たバス加入者によりレセッシブで送信されたビットを、エラーの場合には、バス加入者が、ドミナントなビット又は複数のドミナントビットから構成されるエラーフラグによって上書き出来るようにする仕組みが導入される。
【0042】
本発明に係るAC−CANコントローラは、1つ以上の適切なバス接続ユニット又はトランシーバと接続した状態で、バス線を介して、様々に符合化された信号を伝送する必要がある。ここでは、様々な構成が可能である。
【0043】
図3aには、付属するバス接続ユニット100又はAC−CANトランシーバのブロック図が例示されている。装置は、回路要素を含む回路を有し、この回路要素は、送信部回路110と受信部回路120とに分けられる。送信部回路と受信部回路とは互いに接続されてもよく、又は、共通の回路要素を有してもよい。装置はさらに、必要な接続の可能性を有し、即ち、バス接続線のための端子CANH、CANL、AC−CANコントローラから論理的データの受信のための端子RxD、又は、AC−CANコントローラへの論理データの送信のための端子TxD、供給電圧を提供するための端子Vcc、及び、アースを提供するためのGNDを有する。更なる別の可能な接続部を、従来技術に従って含んでもよく、即ち、例えば、イネーブル(Enable)入力口、ウェイクアップ(Wakeup)入力口、スタンドバイ(Stahdby)入力口等を含んでいてもよい。これら接続部は、ここでは便宜上省略されている。送信部回路110は、少なくとも、AC−CANコントローラの送信信号TxDに基づいて、バス接続線CANH及びCANLのための出力信号を生成する。受信部回路120は、バス接続線CANHの入力信号とCANLの入力信号との差分に基づいて、AC−CANコントローラのための受信信号RxDを生成する。
【0044】
図3aに示されるケースでは、AC−CANコントローラは直列のビット信号を生成し、線TxDを介してトランシーバ100へと渡す。状態AC−CANデータにおいて、線TxDを介して伝達された信号は、例えばNRZI方法に従って符号化されて、より高いクロックレートで伝送される。本例で示されるトランシーバ100は、切り替え線SWを介してAC−CANコントローラにより切り替え可能であり、従って、符号化方法に従って、対応する電圧レベルをバス線上で生成する。この構成は、例えば、CAN規格に対して電圧ノイズがより少ないNRZ符号化、又はNRZI符号化の適用のために可能である。
【0045】
任意に、AC−CANコントローラは、状態「AC−CAN送信」(AC−CAN Transmit)又は状態「AC−CAN受信」(AC−CAN Receive)へと目的に合わせてトランシーバを切り替えるために、図3bに示すように、別の切り替え線SW−R及びSW−Tを介してトランシーバ100と接続されてもよい。符号化が例えば、送信バス加入者によりレセッシブなレベルが弱く出力され、受信経路内のバス加入者によって僅かに異なる閾値又はフィルタが使用されるということである場合には、トランシーバを別々に状態「AC−CAN送信」又は状態「AC−CAN受信」へと切り替えることも有効である。なぜならば、受信バス加入者は、他の閾値又はフィルタを利用すべきであるが、レセッシブなレベルを同様に弱く出力すべきではないからである。さもなければ、獲得される、複数のバス加入者により出力されたレセッシブなレベルは、もはやドミナントなビットによって上書されえないであろう。
【0046】
他の場合に、例えば、位相偏移変調若しくは周波数偏移変調、又は、位相変調若しくは周波数変調が利用される場合には、別のバス接続ユニット、例えば別のトランシーバを、変調された交流電圧を生成するため、及び当該交流電圧をバス線上へと印加するために利用する他の構成も考慮に入れられ、その際には、上記バス接続ユニット又は上記トランシーバは、AC−CANコントローラによって別の接続線を介して制御される。このために、AC−CANコントローラは、任意に第2のRxD入力口を有してもよく、この第2のRxD入力口には、第2の別のAC−CANトランシーバの出力口が接続され、一方、送信の場合の制御は、2つのトランシーバと接続されたTxD出力口を介して行われる。しかしながら、TxD出力口も、RxD入力口も、各接続されるトランシーバのために別々に設けられてもよい。
【0047】
記載された全ての符号化の変形例において、切り替え可能な終端ユニット、例えばAC−CANコントーラと接続されたバス接続ユニット内の切り替え可能な抵抗によって、規格CANの所定の終端抵抗を代替することが有効でありうる。このようにして、状態AC−CANデータでは、作用する抵抗値を変更することが可能であり、又は、抵抗を、バス線から完全に分離することが可能である。
【0048】
終端抵抗は、規格CANネットワーク内では、典型的にそれぞれが120オームの2つの抵抗として、線の末端領域内で、又は、比較的互いに遠く離れた2つのバス加入者で形成される。本発明に係る方法が利用されるバスシステムにおいて、終端抵抗は、複数の又は全てのバス加入者上に分散されてもよく、その際に、個々の抵抗はバス加入者ごとに適切に調整される。本発明に係るAC−CANコントローラ、又は、付属するバス接続ユニット若しくはトランシーバは、適切な出力によって、少なくとも2つの異なる終端ユニット、例えばバス線間に配置された抵抗の切り替えを行える状態になる。
【0049】
図3には、付属するバス接続ユニット又はAC−CANトランシーバのブロック図が示されており、付属するバス接続ユニット又はAC−CANトランシーバの切り替え入力口SWは、追加的に切り替え要素130と接続されている。この切り替え要素は、一方ではバス接続線CANLと接続され、他方では、例えば2つの異なる抵抗R1及びR2と接続され、この抵抗R1及びR2は、バス接続線CANHと接続している。従って、切り替え要素は、切り替え入力口SWに印加される制御信号に従って、バス線間のオーム抵抗を変更することが可能である。

【0050】
AC−CANコントローラ及びAC−CANトランシーバをそれぞれが具備した50個の加入者が、バスシステム上にあると仮定すると、例えば、各加入者内に、2つの切り替え可能な抵抗R1=6kオーム、及び、R2=60kオームを設けることが可能であろう。この切り替え可能性によって、状態AC−CANアービトレーション及び状態規格CANでは、通常どおり、1/50x6キロオーム、即ち120オームの抵抗がバス線間に存在するが、状態AC−CANデータでは、全てのバス加入者内での切り替えによって、抵抗が例えば10倍になるであろうということが達成される。その場合に、送信バス加入者は、状態AC−CANデータにおいて、構想された電圧レベルを形成する際に、終端抵抗を介した放電電流に抗して動作せず、従って、より迅速に目標電圧を形成することが可能である。異なる数のバス加入者を備えたバスシステム内でフレキシブルに使用できるために、切り替え可能な抵抗の値を、適切な手段によって設定可能に実現することが可能であろう。
【0051】
以下では、図4を用いて、利用されるメッセージの構造、特に、コントローラの各状態に従って様々にビットが符合化される範囲、及び、本発明に係る標識が解説される。
【0052】
図4は、2つの可能なバリエーション、即ち標準フォーマット及び拡張フォーマットによる、ISO11898−1に準拠したCANメッセージの構造を示している。2つのバリエーションについて、本発明に基づき状態AC−CANアービトレーション102とAC−CANデータ103との間で切り替えられる範囲が示されている。同様に、これに伴う、利用されるビット符号化の切り替え、示される例では規格に準拠したNRZ方式からNRZI方式への切り替えが示されている。他の可能な方法は既に述べたとおりである。最後に、DLCの前に伝送される「予約ビット」R0内の、本発明に係る標識の本実施例で選択された位置が示される。他の可能な標識は、例えば、拡張フォーマットのメッセージについてはSRRビットにより与えられる。
【0053】
本発明に係る方法の最初に提示される実施例は、アービトレーションが行われた後で、バスアクセスに成功したバス加入者が、メッセージの予め設定され又は予め設定可能なビット以降、当該メッセージの他のビットの伝送を、変更されたビット符号化への切り替えによって実行し、即ち、伝送されるビットがより速く伝送され、及び/又は、伝送がよりフェールセーフ(stoersicher)であり、及び/又は、伝送時に発生する電磁波が低減されるように実行する伝送方法である。この第1の実施例は、アービトレーションが行われた後で、変更されたビット符号化への切り替えを実行する全群の実施形態を代表する。その際に、適用されるビット符号化については、上記のように多様な可能性がある。
【0054】
第2群の実施形態を代表する、本発明に係る方法の第2の実施例が、以下で、図5及び図6を用いて示される。第2の実施例は、時間制御によって、本発明に基づき変更されたメッセージの少なくとも幾つかについて、同時の送信試行が中断され、これに対応して既に早期に、対応するメッセージ内で、代替的なビット符号化、例えばより速いビット符号化へと切り替えられることで優れている。特にこの切り替えは、既にアービトレーションフィールドの伝送の間に行うことが可能である。
【0055】
これについて、図5は、ISO11898−4に準拠したTTCANネットワークのシステム行列を、ISO11898−4に記載された基本サイクル(Basic cycle)及びタイムスロットと共に示している。「メッセージA(Message A)」、「メッセージC」等と示され、特定のメッセージの伝送のために排他的に提供されるタイムスロットが存在し、「アービトレーション」(Arbitration)と示される他のタイムスロット内では、通常のCANアービトレーションによりバスアクセス権が付与される。
【0056】
第2の実施例では、これについて他に記載しない全メッセージが、第1の実施例の方法に従って処理される。さらに、前もって設定された排他的に付与される特定のタイムスロットについて、ビット符号化の切り替えが既に早期に、例えばSOFビットから行われ、例えば、CRCフィールドの終わりまで維持される。このように変更されて伝送されるメッセージの一例が、図5に示されている。直前に迫る変更された伝送のための標識として、例えば、先行する基準メッセージ(Reference Message)の予約ビットを利用することが可能である。記載される例ではこの予約ビットの設定は、後続の基本サイクルにおいて排他的なタイムスロット内で伝送されるメッセージが、既にSOFビットからCRCフィールドの終わりまで、切り替えられたビット符号化によって、例えばNRZI方法によって、又は、振幅偏移変調若しくは周波数偏移変調を介して伝送されるということをシグナリングするであろう。
【0057】
他の実施形態において、各基本サイクルで、即ち伝送の反復因数(Wiederholungsfaktor)により伝送される排他的なメッセージのみが、本方法によって変更されて伝送されるということが構想可能である。このケースが、図5に明示的に示されている。例示されるシステム行列では、「メッセージA」、「メッセージC」と示されたメッセージは、解説された方法に従って、先行する各基準メッセージ内の適切な標識によって伝送されるであろう。
【0058】
第2の実施例で記載される方法について、標識を省略し、全ての排他的なタイムスロット内で、例えばSOFビットとCRCフィールドの終りとの間のような基本的に固定された範囲内で、変更されたビット符号化によってメッセージを伝送することを設定することも可能である。この理由から、図5では、標識に「任意」というヒントが付けられている。
【0059】
状態AC−CANデータでのビット符号化の切り替えは、より高速のビット伝送又はバスクロックの向上を伴いうるため、対応するビットの伝送のために必要な時間も変わる。発振器の不正確さ、及び、正確な切り替え時間との差分により、ISO11898−1で規定された方法に対して変更された方法を、図7で詳細に解説するように、送信確認の処理(CRCデリミタ及びアクノリッジスロット)のために適用することが必要となる可能性がある。
【0060】
図7の「A」には、内部での処理時間及び信号の伝播時間が短い、状態AC−CANデータから状態AC−CANアービトレーションへの遷移の理想的な経過が示されている。送信者は、CRCデリミタを、1個のレセッシブビットとして送信し、先に記載した本発明の実施例に従って、例えば、このCRCデリミタビットのサンプルポイントで、又は、設定された時間の経過後に、その後で、状態AC−CANアービトレーションへと変わる。受信者も、例えばこのビット位置で、状態AC−CANアービトレーションへと変わる。この状態遷移T4は、例えば信号の伝播時間又は内部の処理時間により、様々なバス加入者内で、合意された時点に必ずしも起こらない可能性がある。即ち、関与するバス加入者は、合意された時点に必ずしも、ビット符号化方法を再び初期状態にするわけではない。これに基づいて、バス加入者のために、次のビットの様々な開始時点が獲得される。
【0061】
CRCデリミタの受信後に、各受信者は、自身のCRCチェックがポジティブ(positiv)であった場合には、1個のドミナントなアクノリッジビット(Acknoledge−Bit)を送信する。例えば受信者がバスの遠く離れた末端に接続されているために、このアクノリッジビットの送信が比較的遅く行われる場合には、レセッシブなCRCデリミタビットは、1ビットよりも長くなってもよい。この場合が図7の「B」で示されている。さらに、アクノリッジビットの重畳により、アクノリッジスロットは、図7の「C」で示されるように、1ビットよりも長くなってもよい。このアクノリッジビットの、位相がずれた送信時点を、場合によって補正するために、AC−CANコントローラ内でのアクノリッジビットの処理は、状態AC−CANアービトレーションにおいて、CRCデリミタの直後に又は1ビット遅れて始まる、1又は2ビット長のドミナントなアクノリッジスロットが、有効なアクノリッジ(肯定応答)として認められるという趣旨で変更されうる。
【0062】
引き続いて、アクノリッジビットの立ち下りエッジによって、バス加入者は、通常の再同期化の枠組みにおいて再び同期化される。送信者によって、CRCデリミタの第1ビットの後に、1個だけではなく、2個の更なるレセッシブなビットが受信される場合、このことは、送信者にとってはアクノリッジエラー(Acknoledge−Error)である。第2のドミナントなアクノリッジビットの後で、第3のドミナントなビットが受信される場合には、このことは、全加入者にとってフォーマットエラー(Format−Error)である。規格CANのように、アクノリッジスロットの後には、1ビット長のレセッシブなアクノリッジデリミタ(Acknoledge−Delimiter)が続く。規格CANのように、CRCエラーを検出したAC−CAN受信者は、アクノリッジデリミタの後のビットで初めてエラーフレームを開始する。
【0063】
以上、記載した発明により、CANネットワーク内で、変更されたビット符号化を用いて、より短時間で、及び/又は、電磁波放射を低減して、及び/又は、より高いフェールセーフティによりメッセージを伝送することが可能であると同時に、エラー検出及びエラー処理並びにネットワーク全体でのデータ整合性に関するCANの基本特性が保たれる方法が提示される。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7