(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記光学多層膜は奇数数の層から成り、上記基体から数えて奇数層が低屈折率材料、偶数層が高屈折率材料から成り、上記偶数層において上記ニオブ含有亜酸化チタンを用いたことを特徴とする請求項1に記載の光学部品。
上記光学多層膜は偶数数の層から成り、上記基体から数えて奇数層が高屈折率材料、偶数層が低屈折率材料から成り、上記奇数層において上記ニオブ含有亜酸化チタンを用いたことを特徴とする請求項1に記載の光学部品。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による光学部品の構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の光学部品は、基体11の表面に、ハードコート膜12、光学多層膜13および防汚膜14を、基体11からこの順で形成している。
図1は光学部品の構成例を模擬的に表わしたものであり、基体11の実際の厚みおよび各膜12〜14の実際の厚みを正確な比率で表したものではない。
【0014】
なお、基体11の表面とハードコート膜12との間にプライマー層を形成したり、基体11の表面とハードコート膜12との間、ハードコート膜12と光学多層膜13の間、あるいは光学多層膜13と防汚膜14との間などに中間層を形成したりするなど、膜構成を他のものに変更してもよい。また、基体11の裏面あるいは表裏両面に、ハードコート膜12や光学多層膜13などを形成しても良い。
【0015】
基体11の材料(基材)としては、例えば、ポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチルグリコールビスアリルカーボネート樹脂などが挙げられる。また、屈折率が高く好適なものとして、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリチオールおよび/または含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるポリウレタン樹脂を挙げることができる。さらに屈折率が高く好適なものとして、エピスルフィド基とポリチオールおよび/または含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0016】
ハードコート膜12は、基体11にハードコート液を、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法などの公知の方法により均一に施して形成する。ハードコート膜12の材料としては、例えば、無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いる。この場合のハードコート液は、水あるいはアルコール系の溶媒にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散(混合)させて生成する。
【0017】
ここで、オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。アルコキシシランの具体例として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケートを挙げることができる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組み合わせを、塩酸などの酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
【0018】
また、無機酸化物微粒子の具体例としては、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独でまたは2種類以上を混晶化したものを挙げることができる。無機酸化物微粒子の大きさは、ハードコート膜12の透明性確保の観点から、1〜100ナノメートル(nm)であることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。また、無機酸化物微粒子の配合量は、ハードコート膜12における硬さや強靭性の適切な度合いでの確保という観点から、ハードコート成分中40〜60wt%を占めることが好ましい。
【0019】
なお、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩などを添加することができる。さらに必要に応じて、界面活性剤、着色剤、溶媒などを調整のために添加することができる。
【0020】
ハードコート膜12の膜厚は、0.5〜4.0マイクロメートル(μm)とするのが好ましく、1.0〜3.0μmとするのがより好ましい。この膜厚の下限については、これより薄いと十分な硬度が得られなくなるという限界値から定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さが発生するなど、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まるという限界値から定まる。
【0021】
光学多層膜13は、真空蒸着法により、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させて形成する。低屈折率層を形成する薄膜の材料としては、例えば、SiO
2(二酸化ケイ素)やMgF
2(フッ化マグネシウム)などが挙げられる。
【0022】
一方、高屈折率層を形成する薄膜の材料には、チタンとニオブとを成分として含む酸素欠損を有する金属酸化物(ニオブ含有亜酸化チタン)の溶融体を用いる。溶融体とは、酸素欠損を有する状態でチタンとニオブを溶融した後、それを冷却し、求める粒の大きさ(例えば、3mm以下)に粉砕して篩がけすることによって形成したものである。
【0023】
ニオブ含有亜酸化チタンの金属元素(Ti
1−xNb
x)と酸素元素(O)の比率は、例えば3:5である。以下では、これを(Ti
1−xNb
x)
3O
5と表記する。ニオブ含有亜酸化チタンにおけるニオブのドープ量は、チタンに対して2mol%以上16mol%以下とするのが好ましい。
【0024】
防汚膜14は、レンズ表面の撥水撥油性の向上や水ヤケ防止するために形成されるものであり、フッ素系化合物から成る。防汚膜14は、ディッピング法、スピン法、スプレー法、蒸着法などの公知の方法で形成することができる。
【0025】
以下、光学多層膜13において用いるニオブ含有亜酸化チタン(Ti
1−xNb
x)
3O
5の性質について、図面に基づいて説明する。
図2は、ニオブ含有亜酸化チタンに対してX線回折分析(XRD:X-Ray Diffraction分析)を行った実験結果を示す図である。この
図2に示す実験では、ニオブ含有亜酸化チタンにおけるニオブのドープ量を異ならせて複数種類の溶融体を形成し、それに対してXRD分析を行った。ニオブのドープ量は、2mol%から16mol%まで2mol%刻みで変えてある。
【0026】
XRD分析は、材料に対するX線の入射角度を変化させながら、材料からの反射波の強度を測定するものである。この測定により、
図2に示すように横軸が入射角度で縦軸に強度をとったグラフが得られる。なお、
図2では、ニオブのドープ量を変えて行った各測定結果が重なって見にくくならないように、縦軸の基準値(強度ゼロ)を縦方向にずらして示している。
【0027】
図2の実験結果から分かるように、どの入射角度のところにも強度のピークが現れていない。これは、ニオブ含有亜酸化チタンを蒸着して生成した薄膜がアモルファス(非晶質)の状態になっていることを示している。
【0028】
次に、光学多層膜13の高屈折率層にニオブ含有亜酸化チタンを用いた光学部品の具体的な実施例について説明する。ここでは光学部品の一例として、眼鏡用レンズ、バンドパスフィルタ、ハーフミラーの実施例について説明する。実施例1,2が眼鏡用レンズ、実施例3がバンドパスフィルタ、実施例4がハーフミラーである。
【0029】
<実施例1>
図3は、実施例1に係る眼鏡用レンズを構成する光学多層膜13の膜構成と、比較例1−1,1−2に係る光学多層膜の膜構成とを示す図である。
図3(a)が実施例1、
図3(b)が比較例1−1、
図3(c)が比較例1−2を示している。なお、
図3において、(Ti
1−xNb
x)
3O
5はTNOと略記している。
【0030】
図3(a)に示すように、実施例1では、光学多層膜13の各層を基体11に近い方から順にL1〜L7層とする。実施例1では、奇数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)で形成するととともに、偶数層を高屈折率材料のニオブ含有亜酸化チタン((Ti
1−xNb
x)
3O
5)で形成した。つまり、実施例1の光学多層膜13は、2元系の膜構成となっている。各層L1〜L7における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図3(a)に示す通りである。
【0031】
また、
図3(b)に示すように、比較例1−1では、実施例1と同様に光学多層膜を7つの層L1〜L7で形成し、奇数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)、偶数層を高屈折率材料の二酸化ジルコニウム(ZrO
2)とした。比較例1−1の光学多層膜も2元系の膜構成となっている。各層L1〜L7における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図3(b)に示す通りである。
【0032】
また、
図3(c)に示すように、比較例1−2では、導電性薄膜としてITO膜を更に挿入することにより、光学多層膜を8つの層L1〜L8で形成した。具体的には、L1,L3,L5,L8の各層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)で形成し、L2,L4,L6の各層を高屈折率材料の二酸化ジルコニウム(ZrO
2)で形成し、L7の1層を酸化インジウムスズ(ITO)で形成した。比較例1−2の光学多層膜は3元系の膜構成となっている。各層L1〜L8における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図3(c)に示す通りである。
【0033】
図3のように光学多層膜を形成した実施例1および比較例1−1,1−2について、帯電防止性の有無に関する実験を次のように行った。すなわち、不織布(小津産業株式会社製「Pure Leaf」)を用いてレンズ凸面を1キログラム荷重で10秒間20往復擦った直後の帯電電位(キロボルト:kV)を測定するとともに、スチールウール片のレンズ凸面に対する付着の有無を観測した。帯電電位の測定は、静電気測定器(シムコジャパン株式会社製「FMX-003」)により行った。
【0034】
図4は、この帯電防止性に関する実験結果を示す図である。
図4において、比較例1−1に示されるように、SiO
2とZrO
2とから成る2元系の膜構成では、不織布を擦り終わってから3分を経過しても帯電電位の絶対値はゼロに近づかず、スチールウール片はレンズ凸面に付着したままであった。これは、帯電防止性がないことを示している。
【0035】
一方、比較例1−2の場合は、不織布を擦り終わった直後から帯電電位の絶対値がゼロとなっており、スチールウール片はレンズ凸面に全く付着しなかった。これは、帯電防止性があることを示している。しかしながら、比較例1−2は、SiO
2とZrO
2とITOとから成る3元系の膜構成のため、蒸着装置の改造が必要という問題が生じる。
【0036】
これに対して、実施例1の場合は、SiO
2と(Ti
1−xNb
x)
3O
5とから成る2元系の膜構成なので、蒸着装置の改造は不要である。しかも、不織布を擦り終わった直後から帯電電位の絶対値はかなり小さくて殆どゼロとなっており、1分を経過した時点で帯電電位はゼロとなっている。そのため、スチールウール片はレンズ凸面に付着しなかった。
【0037】
このように、光学多層膜13の薄膜材料としてニオブ含有亜酸化チタンを用いることにより、蒸着した薄膜はアモルファスであるが導電性が向上し、高い帯電防止性を得ることができることが分かった。また、蒸着した薄膜は結晶性のないアモルファス状態であるが導電性を有しているため、結晶性を高めるために成膜後に再加熱(アニール)処理を行う必要もない。
【0038】
また、
図3のように光学多層膜を形成した実施例1および比較例1−1,1−2について、反射率特性に関するシミュレーションを行った。
図5は、その反射率特性に関するシミュレーション結果を示す図である。
図5に示すように、実施例1および比較例1−1,1−2の何れにおいても、可視域となる波長範囲では反射率が低い値を示している。これにより、実施例1のように高屈折率層に(Ti
1−xNb
x)
3O
5を用いた場合でも、眼鏡用レンズの視認性が低下しないことが分かった。
【0039】
<実施例2>
図6は、実施例2に係る眼鏡用レンズを構成する光学多層膜13の膜構成と、比較例2−1,2−2に係る光学多層膜の膜構成とを示す図である。
図6(a)が実施例2、
図6(b)が比較例2−1、
図6(c)が比較例2−2を示している。なお、
図6においても、(Ti
1−xNb
x)
3O
5はTNOと略記している。
【0040】
図6(a)に示すように、実施例2では、光学多層膜13の各層を基体11に近い方から順にL1〜L5層とする。実施例2では、奇数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)で形成するととともに、偶数層を高屈折率材料のニオブ含有亜酸化チタン((Ti
1−xNb
x)
3O
5)で形成した。つまり、実施例2の光学多層膜13も、2元系の膜構成となっている。各層L1〜L5における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図6(a)に示す通りである。
【0041】
また、
図6(b)に示すように、比較例2−1では、実施例2と同様に光学多層膜を5つの層L1〜L5で形成し、奇数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)、偶数層を高屈折率材料の二酸化チタン(TiO
2)とした。比較例2の光学多層膜も2元系の膜構成となっている。各層L1〜L5における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図6(b)に示す通りである。
【0042】
また、
図6(c)に示すように、比較例2−2では、実施例2と同様に光学多層膜を5つの層L1〜L5で形成し、奇数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)、偶数層を高屈折率材料の二酸化ジルコニウム(ZrO
2)とした。比較例2−2の光学多層膜も2元系の膜構成となっている。各層L1〜L5における屈折率、物理膜厚、光学膜厚は、
図6(c)に示す通りである。
【0043】
図6のように光学多層膜を形成した実施例2および比較例2−1,2−2について、実施例1と同様の方法により帯電防止性の有無に関する実験を行った。
図7は、その帯電防止性に関する実験結果を示す図である。
図7において、比較例2−1,2−2に示されるように、SiO
2とTiO
2、あるいはSiO
2とZrO
2から成る2元系の膜構成では、不織布を擦り終わってから3分を経過しても帯電電位の絶対値はゼロに近づかず、スチールウール片はレンズ凸面に付着したままであった。これは、帯電防止性がないことを示している。
【0044】
これに対して、実施例2の場合は、不織布を擦り終わった直後から帯電電位の絶対値はかなり小さくて殆どゼロとなっており、時間が経過するにつれてゼロに近づいている。そのため、スチールウール片はレンズ凸面に付着しなかった。このように、実施例2でも帯電防止性を呈していることが分かった。
【0045】
また、
図6のように光学多層膜を形成した実施例2および比較例2−1,2−2について、反射率特性に関するシミュレーションを行った。
図8は、その反射率特性に関するシミュレーション結果を示す図である。
図8に示すように、実施例2および比較例2−1,2−2の何れにおいても、可視域となる波長範囲では反射率が低い値を示している。これにより、実施例2のように高屈折率層に(Ti
1−xNb
x)
3O
5を用いた場合でも、眼鏡用レンズの視認性が低下しないことが分かった。
【0046】
<実施例3>
図9は、実施例3に係るバンドパスフィルタを構成する光学多層膜13の膜構成を示す図である。また、
図10は、比較例3に係る光学多層膜の膜構成を示す図である。なお、
図9および
図10においても、(Ti
1−xNb
x)
3O
5はTNOと略記している。
【0047】
図9に示すように、実施例3では、光学多層膜13の各層を基体11に近い方から順にL1〜L36層とする。実施例3では、奇数層を高屈折率材料のニオブ含有亜酸化チタン((Ti
1−xNb
x)
3O
5)で形成するととともに、偶数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)で形成した。つまり、実施例3の光学多層膜13は、2元系の膜構成となっている。各層L1〜L36における屈折率、物理膜厚、光学膜厚、中心波長は、
図9に示す通りである。
【0048】
また、
図10に示すように、比較例3では、実施例3と同様に光学多層膜を36個の層L1〜L36で形成し、奇数層を高屈折率材料の二酸化チタン(TiO
2)、偶数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)とした。比較例3の光学多層膜も2元系の膜構成となっている。各層L1〜L36における屈折率、物理膜厚、光学膜厚、中心波長は、
図10に示す通りである。
【0049】
図9、
図10のように光学多層膜を形成した実施例3および比較例3について、帯電防止性の有無に関する実験を次のように行った。すなわち、不織布(小津産業株式会社製「Pure Leaf」)を用いて部品表面を1キログラム荷重で10秒間20往復擦った後、スチールウール片の部品表面に対する付着の有無を観測した。また、高抵抗率計(三菱化学製「Hiresta-UP」)により部品の表面抵抗値を測定した。印加電圧を500[V]、測定保持時間を30秒として表面抵抗値を測定し、これを3回行って平均値を算出した。
【0050】
図11は、この帯電防止性に関する実験結果を示す図である。
図11において、実施例3に示されるように、表面抵抗の平均値は1.74×10
10[Ω/□]であり、不織布を擦り終わった直後からスチールウール片は部品表面に付着しなかった。一般に、膜の抵抗値が小さいほど導電性が高くなって帯電防止性が向上し、抵抗値が10
11[Ω/□]以下であればほぼ確実に帯電防止性が得られることが知られている。よって、以上の実験結果は、実施例3が帯電防止性を呈していることを示している。
【0051】
これに対して、比較例3に示されるように、TiO
2とSiO
2とから成る2元系の膜構成では、スチールウール片は部品表面に付着したままであった。また、表面抵抗の平均値は4.84×10
12[Ω/□]であった。このことは、比較例3は帯電防止性がないことを示している。
【0052】
また、実施例3および比較例3について、反射率特性に関するシミュレーションを行った。
図12は、その反射率特性に関するシミュレーション結果を示す図である。
図12に示すように、実施例3および比較例3の何れにおいても、所望の波長範囲で反射率が低い値を示している。これにより、実施例3および比較例3の何れの場合も、所望のバンドパスフィルタ特性が得られることが分かった。
【0053】
<実施例4>
図13は、実施例4に係るハーフミラーを構成する光学多層膜13の膜構成と、比較例4に係る光学多層膜の膜構成とを示す図である。
図13(a)が実施例4、
図13(b)が比較例4を示している。なお、
図13においても、(Ti
1−xNb
x)
3O
5はTNOと略記している。
【0054】
図13(a)に示すように、実施例4では、光学多層膜13の各層を基体11に近い方から順にL1〜L12層とする。実施例4では、奇数層を高屈折率材料のニオブ含有亜酸化チタン((Ti
1−xNb
x)
3O
5)で形成するととともに、偶数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)で形成した。つまり、実施例4の光学多層膜13は、2元系の膜構成となっている。各層L1〜L12における屈折率、物理膜厚、光学膜厚、中心波長は、
図13(a)に示す通りである。
【0055】
また、
図13(b)に示すように、比較例4では、実施例4と同様に光学多層膜を12個の層L1〜L12で形成し、奇数層を高屈折率材料の二酸化チタン(TiO
2)、偶数層を低屈折率材料の二酸化ケイ素(SiO
2)とした。比較例4の光学多層膜も2元系の膜構成となっている。各層L1〜L12における屈折率、物理膜厚、光学膜厚、中心波長は、
図13(b)に示す通りである。
【0056】
図13のように光学多層膜を形成した実施例4および比較例4について、実施例3と同様の方法により帯電防止性の有無に関する実験を行った。
図14は、この帯電防止性に関する実験結果を示す図である。
図14において、比較例4に示されるように、TiO
2とSiO
2とから成る2元系の膜構成では、スチールウール片は部品表面に付着したままであった。また、表面抵抗値は大き過ぎて測定不能であった。これは、比較例4は帯電防止性がないことを示している。
【0057】
これに対して、実施例4の場合は、表面抵抗の平均値は3.18×10
12[Ω/□]であり、不織布を擦り終わった直後からスチールウール片は部品表面に付着しなかった。表面抵抗値が10
11[Ω/□]以上となっているが、スチールウール片が部品表面に付着しなかったことから、実施例4は帯電防止性を有していることを示している。
【0058】
また、実施例4および比較例4について、反射率特性に関するシミュレーションを行った。
図15は、その反射率特性に関するシミュレーション結果を示す図である。
図15に示すように、実施例4および比較例4の何れにおいても、殆どの波長範囲では反射率が高い値を示している。これにより、実施例4および比較例4の何れの場合も、ハーフミラーの特性が得られることが分かった。
【0059】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、基体11の表面に光学多層膜13を蒸着加工して成る光学部品において、光学多層膜13のうち高屈折率層の薄膜の材料をニオブ含有亜酸化チタンにより形成した。これにより、ニオブ含有亜酸化チタンを蒸着して形成された薄膜はアモルファス状態となるが高い導電性を有し、高い帯電防止性を得ることができる。また、アモルファスであるため、結晶性を高めるために成膜後に再加熱(アニール)処理を行う必要もない。さらに、ITO等の導電性薄膜を挿入する必要がないので、光学多層膜13は低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた2元系の膜構成となる。これにより、高熱に弱い基体11の表面に成膜を行った後に再加熱を行うことなく、かつ、3種類の材料を扱うために蒸着装置を改造することなく、帯電防止効果の高い光学部品を得ることができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、光学部品の例として眼鏡用レンズ、バンドパスフィルタ、ハーフミラーの3つを挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、眼鏡用以外のレンズ、バンドパスフィルタ以外のフィルタ、ハーフミラー以外のミラー、ビームスプリッタ、プリズム、偏光素子、波長板、遮光板、スリガラスなど、他の光学部品に適用することも可能である。
【0061】
また、上記実施形態では、光学部品の構成として、
図1に示すように基体11、ハードコート膜12、光学多層膜13および防汚膜14を備える例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、基体11と光学多層膜13は必須の構成として、ハードコート膜12および防汚膜14については、上記のような種々の光学部品の用途に合わせて必要なものを用いればよい。
【0062】
その他、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。