(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導入遺伝子を含み、かつ血清型5、11a、26、34、35、49、もしくは50の組換えヒトアデノウイルス、または組換えサルアデノウイルスである、組換えアデノウイルス粒子を含む組成物において、前記組成物中のアデノウイルス粒子の少なくとも99%のゲノムが5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを有することを特徴とする組成物。
組換えアデノウイルス粒子のバッチであって、前記バッチ中の前記アデノウイルス粒子の少なくとも99%がそのゲノムの5’末端に同じヌクレオチド配列を有し、かつ前記アデノウイルスが導入遺伝子を含むバッチを調製するための方法であって、
a)分子クローニングステップを実施して、アデノウイルスゲノムのCTATCTATでない天然の5’末端を、末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む改変5’末端と交換するステップと、
b)前記改変5’末端を有する組換えアデノウイルスを宿主細胞中で増殖させるステップと、
c)前記組換えアデノウイルスを回収して、バッチ中のアデノウイルス粒子の少なくとも99%がそのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを有する、組換えアデノウイルス粒子のバッチを得るステップと
を含む方法。
組換えアデノウイルス粒子のバッチであって、前記バッチ中の前記アデノウイルス粒子の少なくとも99%がそのゲノムの5’末端に同じヌクレオチド配列を有し、かつ前記アデノウイルスが導入遺伝子を含むバッチを調製するための方法であって、
a)アデノウイルスのプラーク精製を実施して、単一プラークからアデノウイルスまたは組換えアデノウイルスを単離するステップであって、前記組換えアデノウイルスは、血清型5、11a、26、34、35、49、もしくは50の組換えヒトアデノウイルス、または組換えサルアデノウイルスであり、前記アデノウイルスまたは組換えアデノウイルスが、そのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを有する、ステップと、
b)ステップa)の単一プラークから得られた組換えアデノウイルスを宿主細胞中で増殖させるステップと、
c)前記組換えアデノウイルスを回収して、バッチ中のアデノウイルス粒子の少なくとも99%がそのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを有する、組換えアデノウイルス粒子のバッチを得るステップと
を含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
驚くべきことに、最初は他の末端配列を含有していた種々の組換えアデノウイルスの数回継代後に、特定の5’末端配列(CTATCTAT)が見出されること、およびこの配列の存在が、アデノウイルス製造の改善に寄与し得ることを本明細書で説明する。
【0021】
本発明者らは、その野生型ゲノム中では異なる末端配列を有することが報告されている血清型の組換えアデノウイルスであって、ゲノムが5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列CTATCTATを含む組換えアデノウイルスを得るための積極的な選択ステップを構築および/または包含することにより、この驚くべき観察を実用化する。
【0022】
したがって、本発明は、組換えアデノウイルスゲノムの末端にある特定の配列(CTATCTAT)、および組換えアデノウイルスの製造におけるその使用に関する。この末端配列は、その野生型ゲノムの5’末端にこの配列を含有しない任意のアデノウイルス血清型で使用することができる。
【0023】
原則として、本発明によるアデノウイルスの組成物(バッチ)は、その5’ゲノム末端の100%に配列CTATCTATを含有することができる(出発アデノウイルスが本発明により積極的に作製および/または選択されているため)。いかなる生物系でも時として、また無作為に起こり得る、いくつかの自然突然変異を考慮すると、実際の数はわずかに100%を下回る可能性がある。ただし、好ましい実施形態では、CTATCTAT以外の末端配列の量は、本発明によるアデノウイルスバッチ中では検出限界以下である。したがって、本発明によれば、組換えアデノウイルス粒子の組成物またはバッチ中のアデノウイルスゲノムは基本的にすべて、5’末端配列としてヌクレオチド配列CTATCTATを含む。本明細書で使用する「基本的にすべて」という用語は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%から最大100%(組成物中のアデノウイルス粒子の)を指す。これは、例えば、1000個の粒子中の1個を容易に検出することができるPCRなどの方法により決定することができ、本発明の組換えアデノウイルス粒子の組成物では、オリジナル末端配列を有するアデノウイルスは検出できなかった。
【0024】
本発明によるアデノウイルスの「バッチ」は、単一製造容器において1回の製造作業で製造された組成物を意味するか、あるいは、単一容器(例えば、バイオリアクター、バッグ、フラスコ、ボトル、複数回投与用バイアル、単回投与用バイアル、注射器等)に存在する組成物中の複数のアデノウイルス粒子を指すこともある。本発明によるアデノウイルスのバッチまたは本発明によるアデノウイルスを含む組成物は、好ましくは少なくとも10
7個の組換えアデノウイルス粒子を含み、特定の実施形態では、少なくとも10
8、10
9、10
10、10
11、10
12、10
13、10
14、10
15、10
16、10
17、10
18個、またはそれより多くのアデノウイルス粒子から最大10
20個のアデノウイルス粒子(例えば、単回製造作業にて大規模バイオリアクターで製造する場合)を含む。バッチまたは組成物は、組換えアデノウイルスに加えて、さらなる関連成分を含むことも、含まないこともある。
【0025】
アデノウイルスに対する「組換え」という用語は、本明細書で使用する場合、アデノウイルスが人為的に修飾されたことを意味し、例えば、アデノウイルスは、その中に積極的にクローニングされた改変末端を有し、かつ/または異種遺伝子を含む、すなわち、天然の野生型アデノウイルスではない。
【0026】
本明細書の配列は、当技術分野の慣例どおり、5’から3’の方向で提供される。
【0027】
「アデノウイルスカプシドタンパク質」とは、特定のアデノウイルスの血清型および/またはトロピズムの決定に関与する、アデノウイルスのカプシド上のタンパク質を指す。アデノウイルスカプシドタンパク質は、典型的には、ファイバータンパク質、ペントンタンパク質、および/またはヘキソンタンパク質を含む。本発明による特定の血清型の(「またはそれに基づいた」)アデノウイルスは、典型的には、その特定の血清型のファイバータンパク質、ペントンタンパク質、および/またはヘキソンタンパク質を含み、好ましくは、その特定の血清型のファイバータンパク質、ペントンタンパク質、およびヘキソンタンパク質を含む。これらのタンパク質は、典型的には、組換えアデノウイルスのゲノムによりコードされる。特定の血清型の組換えアデノウイルスは、任意選択で、他のアデノウイルス血清型に由来する他のタンパク質を含み、かつ/またはコードすることがある。
【0028】
組換えアデノウイルスは、少なくとも配列において、野生型から誘導されることによって、本明細書で使用するアデノウイルス「に基づいて」いる。これは、出発物質として野生型ゲノムまたはその一部を使用して、分子クローニングにより達成することができる。また、DNA合成により新たにゲノム(の一部)を生成するために、野生型アデノウイルスゲノムの公知配列を使用することが可能であり、これは、DNA合成および/または分子クローニングの分野でビジネスをしているサービス企業によりルーチン的な手法を使用して実施され得る(例えば、GeneArt,GenScripts,Invitrogen,Eurofins)。したがって、非限定例として、ヒトAd4に基づかない組換えアデノウイルスは、ヒトAd4のペントン、ヘキソン、およびファイバーを含まない組換えアデノウイルスであり;Ad35のヘキソン、ペントン、およびファイバーを含む組換えアデノウイルスは、Ad35に基づいた組換えアデノウイルスとみなされる等が挙げられる。
【0029】
アデノウイルス血清型およびそのゲノム構成に関して実施された広範な研究により、当業者は、アデノウイルスゲノム中のITRの境界について承知している。配列CTATCTATは、本発明による組換えアデノウイルスにおいて、ゲノムの最末端に位置する。例えば、野生型Ad5の左側ITRの上流鎖は、5’−CATCATCA...−3’で始まるが、この配列は、好ましい配列5’−CTATCTAT...−3’に本発明に従って変化する。当業者は、右側ITRでは、5’から3’へのこの配列が下流鎖に位置しているという事実を認識している。
【0030】
オリジナル(親の)配列を本発明の改変配列に変化させることは、種々の手段により実施することができ、これらの手段はそれ自体、当業者に公知であり、ルーチンとなっている。例としては、配列の直接PCR生成、またはその末端で指定の配列を含有すると同定されたオリジナルアデノウイルスゲノムからのサブクローニングが挙げられる。
【0031】
一方の末端の配列を、例えばプラスミド/コスミド相同組換え手順(例えば、国際公開第99/55132号パンフレットを参照のこと)に関する分子生物学手法を使用して変化させ、他方の末端を変化させない場合、得られるアデノウイルスは、生成および複製の間、左側ITRまたは右側ITRをコピーすることになり、その結果、修正された末端のみを有するアデノウイルスと修正されていない末端のみを有するアデノウイルスとの混合集団が生じる(この混合集団は、本明細書に概説されるように、in vitroで培養し増殖させた場合、末端配列CTATCTATにより付与される増殖上の有利性のために、この改変末端をより多く有する集団に向かって発展することになる)。本発明による組換えアデノウイルスは、左側および右側の両方のゲノム末端に配列CTATCTATを含むゲノムを含むことが好ましい。
【0032】
したがって、本発明による組換えアデノウイルスは、ゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む。
【0033】
本発明のベクターは、組換えアデノウイルスであり、組換えアデノウイルスベクターとも呼ばれる。組換えアデノウイルスベクターの調製は、当技術分野で周知である。
【0034】
特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能、例えば、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1a領域および/またはE1b領域が欠損している。特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、非必須なE3領域の少なくとも一部が欠損している。特定の実施形態では、このベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能および非必須なE3領域の少なくとも一部が欠損している。アデノウイルスベクターは、「複合的に欠損している」ことがあり、これは、アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの2つ以上の領域のそれぞれにおいて、1つまたは複数の必須遺伝子機能を欠損していることを意味する。例えば、前述のE1欠損またはE1、E3欠損のアデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須遺伝子および/またはE2領域(例えば、E2A領域および/またはE2B領域)の少なくとも1つの必須遺伝子がさらに欠損していることがある。
【0035】
アデノウイルスベクター、その構築のための方法、およびそれを増殖させるための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、米国特許第5,559,099号明細書、同第5,837,511号明細書、同第5,846,782号明細書、同第5,851,806号明細書、同第5,994,106号明細書、同第5,994,128号明細書、同第5,965,541号明細書、同第5,981,225号明細書、同第6,040,174号明細書、同第6,020,191号明細書、および同第6,113,913号明細書、およびThomas Shenk,“Adenoviridae and their Replication”,M.S.Horwitz,”Adenoviruses”,Chapters 67 and 68,respectively,in Virology,B.N.Fields et al.,eds.,3d ed.,Raven Press,Ltd.,New York(1996)、ならびに本明細書に記述された他の参考文献に記載されている。典型的には、アデノウイルスベクターの構築には、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989),Watson et al.,Recombinant DNA,2d ed.,Scientific American Books(1992),and Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,NY(1995)、および本明細書に記述された他の参考文献に記載されるものなど、標準分子生物学手法の使用が含まれる。
【0036】
本発明によるアデノウイルスは、アデノウイルス科に帰属し、好ましくはマストアデノウイルス属に帰属するものである。これは、ヒトアデノウイルスであってもよいが、他の種に感染するアデノウイルス、例えば、これらに限定されないが、ウシアデノウイルス(例えば、ウシアデノウイルス3、BAdV3)、イヌアデノウイルス(例えば、CAdV2)、ブタアデノウイルス(例えば、PAdV3もしくは5)、またはサルアデノウイルス(これには、サルアデノウイルスおよびチンパンジーアデノウイルスなどの類人猿アデノウイルスが含まれる)であってもよい。好ましくは、アデノウイルスは、ヒトアデノウイルス(HAdVまたはAdHu;本発明では、種を指定せずにAdを指す場合、ヒトアデノウイルスを意味し、例えば、簡単表記「Ad5」は、HAdV5、ヒトアデノウイルス血清型5と同じものを意味する)またはチンパンジーアデノウイルスなどのサルアデノウイルス(ChAd、AdCh、またはSAdV)である。
【0037】
好ましくは、本発明の組換えアデノウイルスは、その野生型が異なる配列(CTATCTAT以外、例えば、存在が多い配列CATCATCA)を5’末端に有することが報告されているアデノウイルスである。種々のアデノウイルス血清型の報告または推定された5’末端の8ヌクレオチドを表Iに示す。米国特許出願公開第2009/227000号明細書は、5’末端にCTATCTATを有するAd11pを報告している。最も高度な研究は、ヒトアデノウイルスを使用して実施されており、本発明の特定の態様によれば、ヒトアデノウイルスが好ましい。特定の好ましい実施形態では、本発明による組換えアデノウイルスは、ヒトアデノウイルスに基づくものであるが、ヒトアデノウイルス血清型3、4、7、8、9、11p、15、21、29、37にも、53にも基づくものではない。好ましい実施形態では、組換えアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型1、2、5、6、10、11a、12、14、16、17、18、19、22、26、28、31、34、35、36、40、41、46、48、49、50、53、54、55、56または57に基づくものである。より好ましくは、組換えアデノウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型5、11a、26、34、35、48、49、または50に基づくものである。本発明の特に好ましい実施形態によると、アデノウイルスは、血清型26、35、48、49、または50の中の1つのヒトアデノウイルスである。これらの血清型の利点は、ヒト母集団において、血清有病率が低いこと、および/または既存の中和抗体力価が低いことである。組換えアデノウイルスについての最も好ましい血清型は、ヒト血清型35またはヒト血清型26であり、これらは両方とも臨床試験で評価されている。rAd26ベクターの調製は、例えば、国際公開第2007/104792号パンフレットおよびAbbink et al.,(2007)Virol 81(9):4654−63に記載されている。Ad26の例示的なゲノム配列は、GenBank受入番号EF 153474および国際公開第2007/104792号パンフレットの配列番号1に見られる。rAd35ベクターの調製は、例えば、米国特許第7,270,811号明細書、国際公開第00/70071号パンフレット、およびVogels et al.,(2003)J Virol 77(15):8263−71に記載されている。Ad35の例示的なゲノム配列は、GenBank受入番号AC_000019および国際公開第00/70071号パンフレットの
図6に見られる。
【0038】
サルアデノウイルスもまた、一般には、ヒト母集団において、血清有病率が低く、かつ/または既存の中和抗体力価が低いため、多くの研究がチンパンジーアデノウイルスベクターを使用して報告されている(例えば、米国特許第6083716号明細書;国際公開第2005/071093号パンフレット;国際公開第2010/086189号パンフレット;国際公開第2010085984号パンフレット;Farina et al,2001,J Virol 75:11603−13;Cohen et al,2002,J Gen Virol 83:151−55;Kobinger et al,2006,Virology 346:394−401;Tatsis et al.,2007,Molecular Therapy 15:608−17;Bangari and Mittal,2006,Vaccine 24:849−62による総説;およびLasaro and Ertl,2009,Mol Ther 17:1333−39による総説も参照のこと)。したがって、他の好ましい実施形態では、本発明による組換えアデノウイルスは、サルアデノウイルス、例えばチンパンジーアデノウイルスに基づくものである。特定の実施形態では、組換えアデノウイルスは、サルアデノウイルス1、7、8、21、22、23、24、25、26、27.1、28.1、29、30、31.1、32、33、34、35.1、36、37.2、39、40.1、41.1、42.1、43、44、45、46,48,49、50、またはSA7P型に基づくものである。
【0039】
上述のヒトおよび非ヒトアデノウイルスの大部分の配列は公知であり、他者がルーチン的な手順を使用して入手することができる。
【0040】
本発明による組換えアデノウイルスは、複製能があっても、複製能が欠損していてもよい。
【0041】
特定の実施形態では、アデノウイルスは、例えばゲノムのE1領域に欠失があるために、複製能が欠損している。当業者には公知であるように、アデノウイルスゲノムから必須領域が欠失している場合には、これらの領域によってコードされる機能は、トランスで、好ましくはプロデューサー細胞により提供されなければならない、すなわち、E1、E2、および/またはE4領域の一部または全部がアデノウイルスから欠失している場合には、それらはプロデューサー細胞中に、例えば、そのゲノムに組み込まれて、またはいわゆるヘルパーアデノウイルスもしくはヘルパープラスミドの形態で存在しなければならない。アデノウイルスはまた、E3領域中に欠失がある場合もあるが、この領域は複製に必ずしも必要ではなく、したがって、このような欠失は補完する必要がない。
【0042】
使用することができるプロデューサー細胞(時として、当技術分野および本明細書において、「パッケージング細胞」または「補完細胞」または「宿主細胞」とも呼ばれる)は、所望のアデノウイルスを増殖させることができる任意のプロデューサー細胞であってよい。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルス中の欠損を補完するプロデューサー細胞中で行われる。このようなプロデューサー細胞は、好ましくは、そのゲノム中に少なくともアデノウイルスE1配列を有しており、それによってE1領域に欠失がある組換えアデノウイルスを補完することができる。E1を補完する任意のプロデューサー細胞、例えば、E1により不死化されたヒト網膜細胞、例えば911細胞またはPER.C6細胞(米国特許第5,994,128号明細書を参照のこと)、E1で形質転換された羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書を参照のこと)、E1で形質転換されたA549細胞(例えば、国際公開第98/39411号パンフレット、米国特許第5,891,690号明細書を参照のこと)、GH329:HeLa(Gao et al,2000,Human Gene Therapy 11:213−219)、293等を使用することができる。特定の実施形態では、プロデューサー細胞は、例えば、HEK293細胞、またはPER.C6細胞、または911細胞、またはIT293SF細胞等である。
【0043】
亜群CアデノウイルスにもEアデノウイルスにも由来しない、E1欠損アデノウイルスについては、亜群CでもEでもないアデノウイルスのE4−orf6コード配列を、Ad5などの亜群CのアデノウイルスのE4−orf6と交換することが好ましい。これにより、Ad5のE1遺伝子を発現する、例えば293細胞またはPER.C6細胞など、周知の補完細胞株中でそのようなアデノウイルスが増殖できるようになる(例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135−2143;その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第03/104467号パンフレットを参照のこと)。
【0044】
代替実施形態では、アデノウイルスベクター中に異種E4orf6領域(例えば、Ad5の)を配置する必要はないが、その代わり、E1欠損の亜群CでもEでもないベクターを、E1および適合性のあるE4orf6の両方を発現する細胞株、例えば、Ad5由来のE1およびE4orf6の両方を発現する293−ORF6細胞株で増殖させる(例えば、293−ORF6細胞の生成について記載する、Brough et al,1996,J Virol 70:6497−501;それぞれ、このような細胞株を使用する、E1欠失の非亜群Cアデノウイルスベクターの生成について記載する、Abrahamsen et al,1997,J Virol 71:8946−51およびNan et al,2003,Gene Therapy 10:326−36を参照のこと)。
【0045】
あるいは、増殖させることになる血清型に由来するE1を発現する補完細胞を使用することができる(例えば、国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレットを参照のこと)。
【0046】
E1領域中に欠失がある、Ad35などの亜群Bアデノウイルスについては、アデノウイルス中にE1B 55K翻訳領域の3’末端、例えば、pIX開始コドンの直ぐ上流にある243bp断片など、pIX翻訳領域またはこれを含む断片の直ぐ上流にある166bp(Ad35ゲノム中のBsu36I制限部位により5’末端にマークされている)を保持することが好ましい。というのは、pIX遺伝子のプロモーターがこの領域に一部存在しているため、これがアデノウイルスの安定性を増大させるからである(例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135−2143;参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2004/001032号パンフレットを参照のこと)。
【0047】
本発明のアデノウイルス中の「異種核酸」(本明細書において「導入遺伝子」とも呼ばれる)は、アデノウイルス中に天然には存在しない核酸である。それは、例えば、標準分子生物学手法によりアデノウイルスに導入される。それは、特定の実施形態では、目的のタンパク質またはその一部をコードすることができる。それは、例えば、アデノウイルスベクターの欠失したE1またはE3領域にクローニングすることができる。導入遺伝子は、一般に、発現制御配列に機能的に連結されている。これは、導入遺伝子をコードする核酸をプロモーターの制御下に配置することによって行うことができる。さらなる調節配列を加えることもできる。多くのプロモーターを導入遺伝子の発現に使用することができ、それらは当業者に公知である。真核細胞で発現を得るのに適したプロモーターの非限定例としては、例えばCMV最初期遺伝子エンハンサー/プロモーター由来のnt.−735〜+95を含む、CMV最初期プロモーターなどのCMVプロモーター(米国特許第5,385,839号明細書)が挙げられる。ポリアデニル化シグナル、例えばウシ成長ホルモンpolyAシグナル(米国特許第5,122,458号明細書)を、導入遺伝子の後に存在させることもできる。
【0048】
特定の実施形態では、単一アデノウイルスから2種以上のタンパク質を発現させることが望ましい場合があるが、そのような場合には、より多くのコード配列を、単一発現カセットから単一転写物を形成するように連結することも、アデノウイルスゲノムの異なる部分にクローニングした2つの別個の発現カセットに存在させることもできる。
【0049】
導入遺伝子の本体は、本発明にとって重要ではなく、任意の導入遺伝子を含むアデノウイルスに適したものである。適切な導入遺伝子は、当業者に周知であり、例えば、導入遺伝子の翻訳領域、例えば、遺伝子治療の目的に対して治療効果を有するポリペプチド、またはrAdベクターをワクチン接種の目的で使用したときに免疫応答が望まれるポリペプチドをコードする翻訳領域を含むことができる。特に好ましい異種核酸は、免疫応答をそれに対して惹起させる必要がある抗原決定基をコードする目的遺伝子である。そのような抗原決定基は、典型的には、抗原とも呼ばれる。所望の任意の抗原をアデノウイルスベクターによってコードすることができる。本発明による典型的な実施形態では、抗原は、疾患または症状の原因になり得る、生物由来のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である。したがって、さらなる好ましい実施形態では、目的の前記異種核酸は免疫原性決定基をコードする。より好ましくは、前記免疫原性決定基は、細菌、ウイルス、酵母、または寄生生物に由来する抗原である。そのような生物を原因とする疾患は、一般に「感染症」と呼ばれる(したがって、「感染する」生物に限定されることはなく、宿主に侵入し、疾患の原因となる生物も含まれる)。いわゆる「自己抗原」、例えば腫瘍抗原もまた、現況技術の一部を形成し、本発明による組換えアデノウイルス中の異種核酸によりコードすることができる。抗原決定基(または抗原)が得られる非限定例としては、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)などのマラリアの原因生物、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)などの結核の原因生物、酵母、またはウイルスが挙げられる。他の好ましい実施形態では、フラビウイルス(例えば、西ナイルウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス)、エボラウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびマールブルグウイルスなどのウイルスに由来する抗原を、本発明による組成物中に使用することができる。一実施形態では、前記抗原は、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)由来のCSタンパク質またはその免疫原性部分である(CSをコードするアデノウイルスベクターの例については、例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135−2143;Ophorst et al,2007,Vaccine 25:1426−36;国際公開第2004/055187号パンフレットを参照のこと、これらはすべてその内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)。別の実施形態では、抗原決定基は、Ag85A、Ag85B、および/またはTB10.4タンパク質、またはそれらの免疫原性部分など、結核菌(M.tuberculosis)由来の1つの抗原からなるタンパク質または数種の抗原からなる融合タンパク質である(そのようなTB痘瘡ワクチンの構築および製造については、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2006/053871号パンフレットを参照のこと)。さらに別の実施形態では、前記抗原決定基は、エボラウイルスまたはマールブルグウイルスなどのフィロウイルスに由来するGPなど、ウイルスの糖タンパク質またはその免疫原性部分である(例えば、Sullivan et al.,(2003)Nature 424(6949):681−684;Sullivan,et al.,(2006)PLoS Med 3(6):e177;Geisbert et al.,(2011)J Virol 85:4222−4233)。さらにさらなる実施形態では、前記免疫原性決定基は、gag、pol、env、nef、またはそれらの変異体などのHIVタンパク質に由来するものである(アデノウイルスベースのHIVワクチンの例については、例えば、国際公開第2009/026183号パンフレット、国際公開第2010/096561号パンフレット、国際公開第2006/120034号パンフレット、国際公開第02/22080号パンフレット、国際公開第01/02607号パンフレットを参照のこと)。他の実施形態では、前記抗原決定基は、インフルエンザウイルス由来のHA、NA、M、もしくはNPタンパク質、またはこれらのいずれかの免疫原性部分である(例えば、Zhou et al,2010,Mol Ther 18:2182−9;Hu et al,2011,Virus Res 155:156−62;Vemula and Mittal,2010,Expert Opin Biol Ther 10:1469−87による総説)。他の実施形態では、抗原決定基は、麻疹ウイルス由来のHAタンパク質またはその免疫原性部分である(例えば、国際公開第2004/037294号パンフレット)。他の実施形態では、抗原決定基は、狂犬病ウイルス糖タンパク質である(例えば、Zhou et al,2006,Mol Ther 14:662−672)。
【0050】
本発明はまた、そのゲノムの5’末端に基本的にまったく同じヌクレオチド配列を有する、組換えアデノウイルスのバッチを調製する方法であって、a)分子クローニングステップを実施して、アデノウイルスゲノムの天然の5’末端を、末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む改変5’末端と交換するステップと、b)この改変5’末端を有する組換えアデノウイルスを宿主細胞中で増殖させるステップと、c)この組換えアデノウイルスを回収して、基本的にすべてがそのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む、組換えアデノウイルス粒子のバッチを得るステップとを含む方法を提供する。この好ましい態様では、ゲノムの5’末端を、分子クローニング手法により積極的に変化させる。この手法それ自体は、分子生物学の当業者には周知されており、ルーチン的なものである。本明細書においてこの有利なCTATCTAT末端配列が同定されたことにより、この積極的なステップが可能になる。異なる5’末端配列(すなわち、CTATCTATではない)を有するいかなるアデノウイルスであっても、本発明による組換えアデノウイルス(のバッチまたは組成物)の生成のための、例えば、本明細書に示される、本発明の好ましい血清型のいずれかのための出発物質またはベースとして使用する場合には常に、このステップが有利になる。有利性は、ステップb)のシードとなるアデノウイルスのすべてのゲノム中に、所望のCTATCTAT配列が最初から存在しているという制御面および確実性であり、本明細書に報告されるこの配列の安定性を考慮すると、ステップc)で得られるアデノウイルスのバッチは、基本的にすべてが同じ所望の5’末端配列を有するアデノウイルス粒子を含むことになる。
【0051】
しかしながら、分子クローニング経路の代替として、天然に誘導される変異を使用し、その末端に改変配列CTATCTATを有するアデノウイルスを選択して、安定な5’末端を有する必要な出発物質を得、増殖させて所望の任意の規模のアデノウイルスのバッチを得ることもできる。したがって、代替実施形態として、本発明はまた、そのゲノムの5’末端に基本的にまったく同じヌクレオチド配列を有する組換えアデノウイルス粒子のバッチを調製するための方法であって、a)ヒトアデノウイルス血清型3、4、7、8、9、11p、15、21、29、37でも、53でも、それらの組換え形態でもないアデノウイルスのプラーク精製を実施して、単一プラークからアデノウイルスまたは組換えアデノウイルスを単離するステップであって、前記アデノウイルスまたは組換えアデノウイルスが、そのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含むステップと、b)ステップa)の単一プラークから得られた組換えアデノウイルスを宿主細胞中で増殖させるステップと、c)この組換えアデノウイルスを回収して、基本的にすべてがそのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列:CTATCTATを含む、組換えアデノウイルス粒子のバッチを得るステップとを含む方法を提供する。ここで、積極的なステップは、(組換え)アデノウイルスの単一プラークを調製すること、およびそのゲノムがその5’末端に所望の配列CTATCTATを含むことを試験/確認することである。当業者は、この実施形態のステップa)をすでに組み換えたアデノウイルスまたはまだ野生型のアデノウイルス分離株のいずれかを用いて実施することができ、後者の場合には、ステップb)の前に、組換えアデノウイルスを得るステップを実施する(例えば、クローニングによって、ゲノムに導入遺伝子を導入する)。さらなる研究のための出発物質が均一で単一分離株に由来することを確実にするためのプラーク精製のステップは、アデノウイルス操作の分野の当業者にとってはまったくルーチン的な手順を使用して実施することができる。そのゲノムの5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列CTATCTATを含む(組換え)アデノウイルスを積極的に選択することを記載するものは、以前にはなく、本発明の前には、これは何ら意味をなすものではなかったであろう。逆に、この配列の同定は異例と見なされ、このプラークは、本発明の以前には、遺伝的改変を有するものとして処分されていたであろう。出発物質として、遺伝的安定性を保証するそのようなアデノウイルス(組換え体)を選択することは本発明の利点であり、それによって、基本的にすべてが、そのゲノム中に同じ所望の5’末端ヌクレオチドを含む組換えアデノウイルスのバッチが得られる。本発明の組換えアデノウイルスでは複製特性が改善されている可能性がある。
【0052】
本発明の方法による宿主細胞は、パッケージング細胞であってもよく、この細胞は、組換えアデノウイルスゲノム中の欠損、例えばE1を補完することができる。本発明の方法のステップb)およびc)は、組換えアデノウイルスのバッチの調製における標準かつルーチンのステップであり、当業者には周知のステップである。
【0053】
特定の実施形態では、これらの方法のステップb)は、バイオリアクター中で実施され、このバイオリアクターは、約1リットル〜約20000リットルの間の容量を有することができる。これにより、工業規模で使用するのに十分な量の所望のアデノウイルス組成物を得ることが可能になる。本開示で使用する、数値に対する「約」という用語は、値±10%を意味する。特定の実施形態では、作業容量は、10L〜10000Lの間、例えば20L〜2000Lの間である。作業容量とは、バイオリアクターにおける有効な培養容量である。バイオリアクターの容量は、実需に応じて当業者により選択され得る。本発明は、最終製品が、そのように製造されたバッチ中の基本的にすべてのアデノウイルス粒子について、同じ末端を有する、すなわち、医薬製品にとって望ましい、遺伝学的に均一であることを保証する。
【0054】
大抵の大規模懸濁培養は、操作およびスケールアップが最も簡単であるため、バッチまたはフェドバッチ工程として操作される。最近では、灌流原理に基づく連続工程がより一般的になりつつあり、また適切にもなっている(例えば、両方とも参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2010/060719号パンフレットおよび国際公開第2011/098592号パンフレットを参照のこと、これらは、大量の組換えアデノウイルスを取得および精製するために適切な方法を記載している)。
【0055】
プロデューサー細胞を培養して、細胞数およびウイルス数、ならびに/またはウイルス力価を増加させる。細胞が代謝および/または増殖および/または分裂および/または本発明による目的ウイルスの産生を行うことが可能になるように、細胞培養を行う。これは、当業者にそれ自体周知の方法により達成することができ、例えば、これに限定されないが、適切な培地中に細胞のための栄養素を供給することを含む。適切な培地は当業者に周知であり、一般に、商用供給源から大量に得ること、または標準プロトコールに従って注文生産することが可能である。培養は、バッチ、フェドバッチ、連続系等を使用して、例えば、ディッシュ、ローラーボトル、またはバイオリアクター中で行うことができる。細胞培養に適した条件は公知である(例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Paterson,editors(1973),and R.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley−Liss Inc.,2000,ISBN 0−471−34889−9を参照のこと)。
【0056】
典型的には、アデノウイルスを、培養物中で適切なプロデューサー細胞に曝露し、それによってウイルスの取り込みを可能にする。通常、最適な撹拌は、約50〜300rpmの間、典型的には100〜200、例えば約150であり、典型的なDOは、20〜60%、例えば40%であり、最適pHは6.7〜7.7の間であり、最適温度は30〜39℃の間、例えば34〜37℃であり、また最適MOIは5〜1000の間、例えば約50〜300である。典型的には、アデノウイルスはプロデューサー細胞に自然に感染し、プロデューサー細胞をrAd粒子と接触させることで、細胞感染には十分である。一般には、アデノウイルスのシードストックを培養物に添加して感染を開始させ、続いてプロデューサー細胞中でアデノウイルスを増殖させる。これはすべて、当業者にはルーチン的である。本発明によるそのようなアデノウイルスのシードストックは組換えアデノウイルス粒子を含み、前記シードストック中の基本的にすべてのアデノウイルス粒子のゲノムは、5’末端ヌクレオチドとして配列CTATCTATを含む。
【0057】
アデノウイルスが感染した後、ウイルスは細胞内部で複製し、それによって増幅する。これは本明細書においてアデノウイルスの増殖と呼ばれるプロセスである。アデノウイルスが感染すると、最終的に感染細胞の溶解が起こる。したがって、アデノウイルスのこの細胞溶解特性により、ウイルス製造の2つの異なる方式が可能になる。第1の方式は、細胞溶解前に、細胞を溶解させる外部因子を使用してウイルスを回収するものである。第2の方式は、生成したウイルスによって(ほとんど)完全に細胞が溶解した後に、ウイルス上清を回収するものである(例えば、外部因子によって宿主細胞を溶解させることなくアデノウイルスを回収することについて記載している、米国特許第6,485,958号明細書を参照のこと)。アデノウイルスの回収を目的として、外部因子を使用して細胞を積極的に溶解させることが好ましい。
【0058】
積極的な細胞溶解に使用することができる方法は、当業者に公知であり、例えば、国際公開第98/22588号パンフレット、p.28−35に論じられている。この点に関し有用な方法としては、例えば、凍結融解、固体剪断、高張性および/または低張性溶解、液体剪断、超音波処理、高圧押出、界面活性剤による溶解、上記の組合せ等がある。本発明の一実施形態では、細胞は少なくとも1つの界面活性剤を使用して溶解する。溶解のために界面活性剤を使用することには、それが簡単な方法であり、かつ容易にスケールアップ可能であるという利点がある。
【0059】
使用することができる界面活性剤およびそれらの使用方法は、当業者に一般に公知である。いくつかの例が、例えば、国際公開第98/22588号パンフレット、p29−33に論じられている。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性、および非イオン性の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の濃度は、例えば約0.1%〜5%(w/w)の範囲内で変化させることができる。一実施形態では、使用される界面活性剤はTriton X−100である。
【0060】
混入している、すなわち大抵はプロデューサー細胞に由来する核酸を除去するために、ヌクレアーゼを使用することができる。本発明で使用するのに適した例示的なヌクレアーゼとしては、Benzonase(登録商標)、Pulmozyme(登録商標)、または当技術分野内で一般に使用される他の任意のDNaseおよび/またはRNaseが挙げられる。好ましい実施形態では、ヌクレアーゼはBenzonase(登録商標)であり、これは、特定のヌクレオチド間の内部リン酸ジエステル結合を加水分解することにより迅速に核酸を加水分解し、それによって細胞溶解物の粘性を低下させる。Benzonase(登録商標)は、Merck KGaA(コードW214950)から商業的に入手することができる。ヌクレアーゼの使用濃度は、好ましくは1〜100単位/mlの範囲内である。代替的にまたはヌクレアーゼ処理に加えて、アデノウイルスの精製中に、ドミフェン臭化物などの選択的な沈澱剤を使用して、アデノウイルス調製物から宿主細胞DNAを選択的に沈殿除去することも可能である(例えば、米国特許第7,326,555号明細書;Goerke et al.,2005,Biotechnology and bioengineering,Vol.91:12−21;国際公開第2011/045378号パンフレット;国際公開第2011/045381号パンフレットを参照のこと)。
【0061】
プロデューサー細胞の培養物からアデノウイルスを回収するための方法は、国際公開第2005/080556号パンフレットに広範囲にわたって記載されている。
【0062】
特定の実施形態では、回収されたアデノウイルスをさらに精製する。アデノウイルスの精製は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第05/080556号パンフレットに記載されているように、清澄化、限外濾過、ダイアフィルトレーション、またはクロマトグラフィーによる分離を含むいくつかのステップで実施することができる。清澄化は、細胞溶解物から細胞片および他の不純物を除去する濾過ステップにより行うことができる。限外濾過は、ウイルス溶液を濃縮するために使用される。限外濾過器を使用するダイアフィルトレーションまたは緩衝液交換は、塩、糖等を除去および交換するための方法である。当業者は、各精製ステップの最適条件を見つける方法を知っている。また、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第98/22588号パンフレットは、アデノウイルスベクターの製造および精製のための方法について記載している。この方法は、宿主細胞の増殖、アデノウイルスによる宿主細胞の感染、宿主細胞の回収および溶解、粗溶解物の濃縮、粗溶解物の緩衝液交換、ヌクレアーゼによる溶解物の処理、ならびにクロマトグラフィーを使用するウイルスのさらなる精製を含む。
【0063】
好ましくは、精製には、例えば国際公開第98/22588号パンフレット、p.61−70に論じられているように、少なくとも1つのクロマトグラフィーステップが使用される。クロマトグラフィーステップを含む、多くのプロセスがアデノウイルスのさらなる精製のために記載されている。当業者はこれらのプロセスを認識しており、クロマトグラフィーステップを使用するまさにそのやり方を変更して、プロセスを最適化することができる。例えば、アニオン性イオン交換クロマトグラフィーステップによりアデノウイルスを精製することが可能であり、例えば国際公開第2005/080556号パンフレットを参照されたい。多くの他のアデノウイルス精製法が記載されており、それらは当業者が入手可能な範囲内である。アデノウイルスを製造および精製するためのさらなる方法は、例えば、国際公開第00/32754号パンフレット、国際公開第04/020971号パンフレット、米国特許第5,837,520号明細書、米国特許第6,261,823号明細書、および国際公開第2006/108707号パンフレットに記載されている。これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
ヒトへの投与に対して、本発明は、rAdおよび薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物を使用することができる。本発明との関連において、「薬学的に許容される」という用語は、担体または賦形剤が、その使用される投与量および濃度において、投与されている被験体に何ら望ましくない作用も有害な作用も引き起こさないことを意味する。このような薬学的に許容される担体および賦形剤は、当技術分野で周知である(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.R.Gennaro,Ed.,Mack Publishing Company[1990];Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins,S.Frokjaer and L.Hovgaard,Eds.,Taylor & Francis[2000];およびHandbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,A.Kibbe,Ed.,Pharmaceutical Press[2000]を参照のこと)。精製されたrAdを製剤化して、無菌溶液として投与することが好ましいが、凍結乾燥調製物を利用することも可能である。無菌溶液は、濾過滅菌または当技術分野でそれ自体公知の他の方法により調製される。次いで、その溶液を凍結乾燥するか、または医薬品投与容器に充填する。溶液のpHは、一般には、pH3.0〜9.5の範囲、例えばpH5.0〜7.5の範囲である。rAdは、典型的には、適切な緩衝剤を含む溶液中にあり、rAdのその溶液は塩を含有することもある。任意選択で、アルブミンなどの安定化剤を存在させることもある。特定の実施形態では、界面活性剤を添加する。特定の実施形態では、rAdは注射可能な調製物に製剤化することができる。これらの製剤は、有効量のrAdを含有し、無菌の溶液、懸濁液、または凍結乾燥形態のいずれかであって、任意選択で安定剤または賦形剤を含有する。アデノウイルスワクチンはまた、鼻腔内投与のためにエアゾル化することができる(例えば、国際公開第2009/117134号パンフレットを参照のこと)。
【0065】
例えば、アデノウイルスは、Adenovirus World Standard(Hoganson et al,Development of a stable adenoviral vector formulation,Bioprocessing March 2002,p.43−48)にも使用される緩衝液:20mM Tris pH8、25mM NaCl、2.5%グリセロール中に保存することができる。ヒトへの投与に適した別の有用な製剤用緩衝液は、20mM Tris、2mM MgCl
2、25mM NaCl、スクロース 10%w/v、ポリソルベート80 0.02%w/vである。言うまでもなく、他の多くの緩衝液を使用することができ、精製された(アデノ)ウイルス調製物の保存および医薬投与に適した製剤のいくつかの例は、例えば、欧州特許第0853660号明細書、米国特許第6,225,289号明細書、および国際特許出願である国際公開第99/41416号パンフレット、国際公開第99/12568号パンフレット、国際公開第00/29024号パンフレット、国際公開第01/66137号パンフレット、国際公開第03/049763号パンフレット、国際公開第03/078592号パンフレット、国際公開第03/061708号パンフレットに見つけることができる。
【0066】
特定の実施形態では、アデノウイルスを含む組成物は1つまたは複数のアジュバントをさらに含む。アジュバントは、適用された抗原決定基への免疫応答をさらに増強することが、当技術分野では公知であり、アデノウイルスおよび適切なアジュバントを含む医薬組成物が、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/110409号パンフレットに開示されている。「アジュバント」および「免疫刺激薬」という用語は、本明細書において互換的に使用され、免疫系の刺激の原因となる、1つまたは複数の物質として定義される。本発明との関連において、アジュバントは本発明のアデノウイルスベクターに対する免疫応答を増強するために使用される。適切なアジュバントの例としては、水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;油−エマルジョン組成物(または水中油型組成物)、例えば、MF59などのスクアレン−水エマルジョン(例えば、国際公開第90/14837号パンフレットを参照のこと);サポニン製剤、例えばQS21および免疫刺激複合体(ISCOMS)など(例えば、米国特許第5,057,540号明細書;国際公開第90/03184号パンフレット、国際公開第96/11711号パンフレット、国際公開第2004/004762号パンフレット、国際公開第2005/002620号パンフレットを参照のこと);細菌または微生物の派生物(この例には、モノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)、CpG−モチーフ含有オリゴヌクレオチド、ADP−リボシル化細菌毒素またはその突然変異体、例えば大腸菌(E.coli)易熱性エンテロトキシンLT、コレラ毒素CT等がある)、が挙げられる。また、例えば、C4−結合タンパク質(C4bp)のオリゴマー化ドメインと目的の抗原との融合物をコードする異種核酸を使用することにより、ベクターにコードされたアジュバントを使用することも可能である(例えば、Solabomi et al,2008,Infect Immun 76:3817−23)。特定の実施形態では、本発明の組成物は、アジュバントとしてアルミニウムを、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウムカリウム、またはそれらの組合せの形態で、用量当たり0.05〜5mg、例えば0.075〜1.0mgのアルミニウム含有濃度で含む。
【0067】
他の実施形態では、組成物はアジュバントを含まない。
【0068】
アデノウイルス組成物は、被験体、例えばヒト被験体に投与することができる。1回の投与の間に被験体に与えられるアデノウイルスの総用量は、当業者に公知であるように、変動し得るものであり、一般には、1×10
7ウイルス粒子(vp)〜1×10
12vpの間、好ましくは1×10
8vp〜1×10
11vpの間、例えば3×10
8〜5×10
10vpの間、例えば10
9〜3×10
10vpの間である。
【0069】
アデノウイルス組成物の投与は、標準投与経路を使用して実施することができる。非限定的実施形態としては、注射、例えば皮内、筋肉内等、または皮下投与もしくは経皮投与、または粘膜投与、例えば鼻腔内、口腔内等によるものなど、非経口投与が挙げられる。一実施形態では、組成物は、筋肉内注射によって、例えば、腕の三角筋または腿の外側股筋に投与される。当業者は、組成物、例えばワクチンを、ワクチン中の抗原に対する免疫応答を誘導するために投与するための種々の実行可能な手段を知っている。
【0070】
本明細書で使用する被験体は、好ましくは哺乳動物、例えば、マウスなどのげっ歯類、または非ヒト霊長類、またはヒトである。好ましくは、被験体はヒト被験体である。
【0071】
また、1つまたは複数のアデノウイルスワクチンを1回または複数回追加免疫投与することも可能である。追加免疫ワクチン接種を実施する場合には、典型的には、そのような追加免疫ワクチン接種は、最初に組成物を被験体に投与した後(これは、この場合には、「初回ワクチン接種」と呼ばれる)、1週間〜1年の間、好ましくは2週間〜4か月の間の時期に、同じ被験体に投与することになる。代替の追加免疫レジメンでは、異なるベクター、例えば、異なる血清型の1つもしくは複数のアデノウイルス、またはMVAなどの他のベクター、またはDNA、またはタンパク質を、初回ワクチン接種または追加免疫ワクチン接種として被験体に投与することも可能である。
【0072】
本発明を、以下の実施例においてさらに詳細に説明する。実施例は、本発明を何ら限定するものではない。実施例は、本発明を単に明確にするためのものである。
【実施例】
【0073】
方法
プラスミド:
代替ITR配列を、Ad35およびAd5についてそれぞれ、pAdaptプラスミドへのクローニングによって左側ITRに、またpBrプラスミドへのクローニングによって右側ITRに導入した(例えば、Havenga M.et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135−2143;Havenga M.et al,2001,J.Virol.75:3335−3342を参照のこと)。代替ITR配列を左側ITRに導入するために、ScaI部位(GTGACTGGTGAGTACTC[配列番号1])を含有する順方向プライマー、AvrII部位(GACCACCTAGGCTGAC[配列番号2])を含有する逆方向プライマー、および代替ITR配列を包含する融合順方向および逆方向プライマー(1についての代替ITR:
【化1】
[配列番号3]、2についての代替ITR:
【化2】
[配列番号4]、代替ITR逆方向:
【化3】
[配列番号5])を使用して、融合PCRを実施した。2つの部分的にオーバラップするITR順方向プライマーを、鋳型中の極端にATリッチな領域上のPCR効率を増加させるために、融合PCR断片の1つについて、このPCRで使用した。融合PCR産物を、最初に、サブクローニングを容易にするためにpTopoベクターにサブクローニングし、次いで、指定の導入遺伝子と共にAvrIIおよびScaIの部位を介してpAdapt35プラスミドに挿入した。
【0074】
代替ITR配列を右側ITRに導入するために、NdeI部位を含有する順方向プライマーおよびNruI部位を含有する逆方向プライマー、ならびに代替ITR配列を包含する融合順方向および逆方向プライマーを使用し、左側ITRについて記載のものと同じ融合PCR戦略を使用して融合PCRを実施した。次いで、融合PCR産物をpTopoにサブクローニングし、その後、NdeIおよびNruIを使用して、pBR.Ad35.PR.dE3 orf6/7プラスミドにサブクローニングした。
【0075】
代替ITRを含むAd5ベクターを生成するために、上記に記載のものと同じ戦略を使用した。
【0076】
細胞培養:
PER.C6細胞(Fallaux et al.,1998)を、10mM MgCl
2を添加した、10%ウシ胎児血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で維持した。A549、HEK293、Hep2、HeLa、およびMRC5細胞を、ATCCから入手し、10%FBS含有DMEM中で維持した。
【0077】
アデノウイルスの生成、感染、および継代:
他に記載がない限り、ウイルスはすべて、以前に記載されているように(Havenga et al.,2006)、単一または二重の相同組換えによりPER.C6中で生成した。手短に言えば、プラスミドを、製造業者(Life Technologies)が提供する説明書に従い、リポフェクタミンを使用して、PER.C6にトランスフェクトした。細胞を、完全なCPEの1日後に回収し、凍結融解し、3,000rpmで5分間遠心分離し、−20℃で保存した。粗溶解物のうちの3〜5mlを使用して、70%コンフルエント層のPER.C6細胞を含有する4×T175三層フラスコに接種した。ウイルスを、2段階CsCl精製法を使用して精製した。最終的に、ウイルスを一定分量に分割して−85℃に保存した。
【0078】
オリジナルITR配列から代替ITR配列への切り替えを検討するために、プラーク精製後の粗ウイルス材料または上記の精製されたウイルスバッチのいずれかを使用して、種々のウイルスを連続的に継代した。この目的のために、細胞にそれぞれのウイルスベクターを感染させた。完全なCPEの1日後に、細胞および上清を回収し凍結した。ウイルス粒子を解凍することにより細胞から放出させ、この粗ウイルス材料を使用して新たな細胞に感染させた。
【0079】
感染細胞からのウイルスDNAの単離:
ITR特異的PCRのためのDNA単離を以下のように実施した。ウイルス粒子を、凍結融解サイクルを繰り返して粗ウイルス材料から放出させた。その後、宿主細胞DNAをDNAse I処理により除去した。ウイルス粒子を10%SDSとインキュベートすることにより破壊し、プロテイナーゼKで処理した。続いて、ウイルスDNAを、GeneClean Spinキット(MP Biochemicals)を使用して精製し、PCR分析に使用した。
【0080】
粗溶解物を使用してITR配列分析のためのDNAを単離した。この目的のために、20mlの粗細胞溶解物からPEG単離によりDNAを単離し、連続凍結融解サイクルにより溶解し、DNAse I(0.01mg/ml Roche)およびRnase T1(10U/ml Roche)で処理した後、NaCl不活性化(1M)を行った。ウイルス粒子を、氷上で1時間、10%PEG 6000(BDH iochemical)を使用して沈殿させた後、9000×gで遠心分離ステップを行い、1mlのSM緩衝液(0.1M NaCl、8mM MgSO4、50mM Tris HCl pH7.5、0.002%ゼラチン)に再懸濁した。ウイルスカプシドタンパク質を、10%SDSおよびプロテイナーゼK処理を使用して破壊し、DNAをフェノール−クロロホルム沈殿により抽出した。完全長のDNAを、EcoRI(Ad26)、SphI(Ad48、Ad5)、AgeI(Ad49、Ad11)、NheI(Ad50)により消化し、最終的にBaseclear、Leidenにより配列決定した。
【0081】
ITR特異的PCR
ITR領域がATリッチであるので、十分なプライマーを鋳型に確実に結合させるために、ロックト核酸(LNA)プライマーを使用した。プライマーはEurogentechから購入した。以下のプライマーを使用した。小文字はLNAヌクレオチドを示す。オリジナルITR:CatcaTcaATAATATACC[配列番号6]、Ad35代替ITR:CtatcTatATAATATACC[配列番号7]、Ad35左側ITR逆方向:CTAAGTAGTTCCGTGAGAAAAG[配列番号8]、Ad35右側ITR順方向:GGTACGTCACATCCCATTAA[配列番号9]、Ad5左側ITR逆方向:CACTTTTGCCACATCCGTC[配列番号10]、Ad5右側ITR順方向:CCCACGTTACGTCACTTC[配列番号11]。PCR産物はアガロースゲルで分析した。
【0082】
qPCRによる複製カイネティクス
1000VP/細胞を使用して293細胞およびPER.C6細胞を3時間感染させ、その後洗浄して、複製カイネティクスを分析した。細胞および上清中のウイルス粒子の存在を、感染後の指定時点にVP qPCRにより分析した。この目的のために、感染細胞を0.5%Triton X−100(Sigma)を使用して溶解し、−80℃で1時間インキュベートし、解凍した。使用したアデノウイルスベクターすべてに存在するCMVプロモーターに特異的なqPCRを、製造業者が推奨するとおりに、遺伝子発現マスター混合物(Applied Biosystems)を使用して実施した。プライマー/プローブ組合せ配列は以下のとおりである:CMV順方向:TGGGCGGTAGGCGTGTA[配列番号12]、CMV逆方向:CGATCTGACGGTTCACTAAACG[配列番号13]、Applied Biosystemsから購入したプローブ5’−VIC−TGGGAGGTCTATATAAGC−MGB−NFQ−3’[配列番号14]。個々の試料中のウイルス粒子の量を決定するために、標準曲線を作成した。
【0083】
配列アラインメント
アデノウイルスITR配列をBLAST検索により入手した。アライメントはCLCソフトウェアを使用して作成した。アライメントは公開された配列に基づくものである。しかしながら、公開された配列の一部については、ITRが具体的には配列決定されていなかった。その代り、サブタイプにわたる保存を仮定した。これによって、保存されたCATCATCA配列が過剰提示される可能性がある。1つのアデノウイルス血清型についていくつかの配列が公開されている場合には、末端8ヌクレオチドにおいて、互いに異なる場合のみそれらの配列を含めた。
【0084】
実施例1.PER.C6細胞上でのAd35ワクチンベクター製造中における代替ITR配列の検出
以前に記載された(国際公開第2006/053871号パンフレット;Radosevic et al.,2007,Infect.Immun.75:4105−4115)ように、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)抗原であるAg85A、Ag85B、およびTB10.4抗原を発現するAd35ワクチンベクターの生成のために、PER.C6細胞に直鎖状プラスミドをトランスフェクトし、PER.C6細胞中で複製可能なAd35.TBSウイルスを得た。
【0085】
製造前に、2つの連続したプラーク精製により、単一の遺伝学的に安定なクローンからのウイルスシードを確実に導き出す。得られるウイルスを、製造工程の種々の段階で同定PCRおよびウエスタンブロットにより特徴づけ、大規模製造のためのシードウィルスとして使用する前に完全に配列決定した。
【0086】
ゲノム配列は安定であり、したがって左側および右側のITRにある末端8ヌクレオチドを除いて、レスキュープラスミドによりコードされたゲノムと同一であった。以下においてオリジナルITR配列と称されるプラスミドコード配列CATCATCAが、代替ITR配列と称される配列CTATCTATに切り替わった結果、プラスミド配列に比較して、6ヌクレオチドが変化した。アデノウイルスゲノムは高度に安定であり、それがワクチンベクターとしてのその適合性に寄与しているとみなされている以上、この発見は驚くべきことであった。
【0087】
末端ITR配列の不一致をさらに検討するために、ワクチンベクター製造の種々のステップでITRを配列決定した:この分析により、オリジナルITR配列がプラーク精製の5回継代時(VPN5)にまだ存在していることが明らかになった。しかしながら、異なる製造プロセスの継代数5においては、混合配列を示すサブピークを有する配列も検出した。末端8ヌクレオチド内のサブピークを除いて、残りの配列は不一致を示さなかった。VPN6において、配列は混合し、オリジナル配列および代替配列がほぼ同じ割合の構成になり、VPN7において、明確な代替配列に変わるように見える。
【0088】
実施例2.ITR不均一性は、種々のAd35ベクターおよび野生型ウイルスについて生じる。
観察された現象が無視できる事象であるか否かを検討するために、またオリジナルCATCATCAから代替CTATCTAT ITR配列への切り替え頻度を調べるために、同じウイルスレスキューに由来する4つのプラークを分析した。すべてのプラークから増殖したウイルスは、継代を繰り返すと、代替ITR配列に切り替わった。
【0089】
さらに、代替ITRは、種々の導入遺伝子を発現するAd35ベクターの継代中にも観察され、pIXプロモーターの部分的な欠失とは無関係であった(表II)。
【0090】
さらに、Ad35ベースのベクターについてだけでなく、Ad35野生型ウイルスについても混合配列を観察したので、ベクターアーティファクトの可能性は排除される。
【0091】
実施例3.代替ITR配列は、10回のウイルス継代にわたりAd35.TBSにおいて安定である
代替ITR配列への切り換えが数回のウイルス継代にわたり安定であるか否かを検討するために、Ad35.TBS.ori ITRおよびAd35.TBS.alt ITRと命名された、オリジナルITR配列または代替ITR配列のいずれかを包含するAd35.TBSを構築した。これらのウイルスをPER.C6細胞での継代に供し、8末端ITRヌクレオチドの配列をウイルス継代数ごとにPCR分析することによりモニターした。オリジナル配列と代替配列とを識別するために、オリジナルITR配列または代替ITR配列のいずれかを特異的に増幅する、異なるPCRプライマーセットを利用した。Ad35.TBS.ori ITRの継代の場合、ウイルス継代ごとの分析により、VPN3とVPN6との間でオリジナル配列が減少すること、およびVPN6において代替配列が出現することが確認された(
図1A)。代替配列は、4回の継代にわたり存続した(
図1A)。人為的に作製したAd35.TBS.altの継代期間中では、代替PCR配列のみが10回のウイルス継代にわたって検出できたため(
図1B)、オリジナル配列への復帰またはゲノムのこの部分内での一般的な不安定性は排除された。
【0092】
さらに、Ad35ベクターと代替ITR配列またはオリジナルITR配列との混合では(これらは、他の点では同一である)、代替ITR配列が増殖し、オリジナルITR配列よりも代替ITR配列が増殖に有利であることが示された。
【0093】
群BベクターであるAd35において、オリジナルITR配列から代替ITR配列への切り替えを検出したので、さらに、オリジナルITR配列または代替ITR配列のいずれかを包含する群Cベクターである、Ad5.empty.ori ITRおよびAd35.empty.alt ITRを分析した。Ad35ベクターによる結果とは対照的に、Ad5は、ITR配列の切り換えを示さなかったが、10回のウイルス継代にわたってオリジナルITRを保持した(
図1C)(しかしながら、下記の実施例8を参照されたい、さらに継代すると、Ad5にも代替配列が見出されたことがわかる)。さらに、代替ITRを包含する人為的に作製したAd5は、10回のウイルス継代にわたって安定であり、オリジナルITR配列に戻らなかった(
図1D)。
【0094】
実施例4.代替ITR配列を包含するAd35は、Ad35.ori ITRに比べ感染後の早期時点でCPEを誘導する。
代替ITRを有するウイルスゲノムの増殖を観察したので、Ad35の場合、代替ITRを有するウイルスは、オリジナルITRを有するものよりも複製に関し有利なはずであると仮定した。これを試験するために、オリジナルITR配列または代替ITR配列のいずれかを包含するAd35ウイルスを使用し、その増殖カイネティクスを分析した。E1補完細胞株へのアデノウイルス感染により誘導されるCPEが、複製速度に対する良好な指標となるので、最初に293細胞を感染させ、100VP/細胞および1000VP/細胞のMOIでの感染後24時間、48時間、72時間、および96時間(hpi)に細胞変性効果を調べた。感染後24時間では、100および1000VP/細胞のいずれでも、CPEは観察されなかった。しかしながら、48hpiでは、100および1000VP/細胞の両方において、進行したCPEが観察され、96hpiでは完全なCPEに発展した。対照的に、Ad35.dE1.ori ITRの場合には、限定的なCPEのみが、感染後のこれらの時点で認められた。
【0095】
実施例5.代替ITR配列はゲノム複製の有利性を付与する。
想定される複製カイネティクスの差を定量化することができるように、qPCR分析を利用して、感染後の種々の時点でのゲノム複製を測定した。より具体的には、293細胞を1000VP/細胞で感染させ、溶解させ、TaqManアッセイを使用するqPCR分析に供して、ウイルスベクター中に存在するCMVプロモーターを検出した。
図2に示すように、Ad35.ori ITRおよびAd35.alt ITRは両方とも、最後の測定時点(90hpi)では約10
10VP/mlの同じ力価まで増殖しているが、Ad35.ori ITRの増殖は遅いことが示される。感染後の早期時点では、Ad35.alt ITRは、急勾配のゲノム増幅曲線を示し、Ad35.ori ITRよりも早期にプラトー期に到達する(
図2A)。これに対して、Ad5の複製カイネティクスは、代替ITRまたはオリジナルITRを包含するウイルスについて差がない(
図2B)。
【0096】
Ad35.alt ITRでは観察されるが、Ad5.alt ITRでは観察されない、このゲノム複製の有利性は、代替ゲノム型の増殖が元々観察されていたPER.C6細胞でも実証された(
図2C〜D)。
【0097】
実施例6.代替ITR配列は、公開されたヒトアデノウイルス配列に提示されている
代替ITR配列が公開されたアデノウイルス配列にも存在するか否かを分析した。そのために、公開されたヒトおよび非ヒトのITRのヌクレオチド1〜8についてアライメントを実施した。ヒトウイルスは、オリジナルCATCATCA配列を主に包含しており、結果として、「保存ヒト配列」として分類した(表1)。
【0098】
さらに、1〜6ヌクレオチドがCATCATCAと異なる配列が同定され、「変異ヒトアデノウイルス配列」と命名した。「変異配列」の中で優勢な配列は、本発明者らもAd35由来ベクターを継代することにより同定した代替配列CTATCTATであった。非ヒト配列のアライメント(表I)により、CATCATCAが最も頻度の高い配列であることがわかる。さらに、代替配列、例えば、以前に同定された代替配列GATGATGTが見出される。この配列は家禽アデノウイルスで見出されている。公開されたITR配列の大多数は、de Jong(de Jong et al.,2003,Curr Top Microbiol Immunol 272:187−211;King & van der Vliet,1994,EMBO J 13:5786−5792)による複製モデルと一致しており、複製開始中のジャンピングバック機構に必要とされる、小規模な、2、3、または4ヌクレオチドの直列反復配列を有する。
【0099】
表Iに示す公開されたITR配列は、天然のITR配列のバランスのとれた表現になっていない可能性があることに留意されたい。一部の場合では、ITRの末端ヌクレオチドは、配列決定されたものではなく、単にCATCATCAと推定されたものである。さらに、配列決定する前に、診断スワップ(diagnostic swap)からアデノウイルスを増殖させることがヌクレオチド変化をもたらし得る数回の複製サイクルを含むことは一般的である。それにもかかわらず、長期間のウイルス宿主の共進化の後にも、オリジナル配列CATCATCAが依然として天然に検出されることが注目される。したがって、代替配列CTATCTATは天然よりも細胞培養で有益性が高い可能性がある。
【0100】
実施例7.継代が繰り返されると、種々の細胞株でITR配列の切り替えが起こる
オリジナルITRから代替ITRへの切り替えの観察が、作製したE1補完細胞株に限定された現象であるということを除外するために、オリジナルITR配列CATCATCAを含有するAd35野生型ウイルスを種々の細胞型で継代した。したがって、Ad35野生型を、A549、HEK293、PER.C6、Hep2、HeLa、およびMRC5細胞上で、完全なAd35野生型ゲノムを含有するプラスミドを使用してレスキューした。広範囲に種々の細胞型を提供するように、特定の細胞株、例えば、種々の組織に由来する、カルシノーマおよび非カルシノーマ起源の細胞株、上皮性および繊維芽細胞性の細胞株、および種々の倍数体(表III)を選んだ。
【0101】
表IIIの結果から、代替ITRへの切り換えは、ヘルパー細胞株であるHEK293細胞およびPER.C6細胞について、VPN10で観察されるが、切り換えまたは混合表現型が、後半の継代数とはいえ、他の試験細胞株についても観察されることがわかる。
【0102】
実施例8.継代の延長により、試験したアデノウイルスの大多数において、ITRの不均一性または代替ITR配列への完全なシフトが誘導される
種々の血清型に基づくアデノウイルスベクターについて、代替CTATCTAT配列への切り替えが一般的であるか否かを検討した。このために、Ad26、Ad48、Ad49、Ad11(a)、Ad50、およびAd5に由来するアデノウイルスベクターを、PER.C6細胞上で継代した。プラーク精製後にウイルスベクターをVPN15まで継代し、VPN10およびVPN15において配列決定により分析した。加えて導入遺伝子の相違による効果を排除するために、2つの異なる導入遺伝子を各ベクター血清型に含めた。
【0103】
このセットの実験結果を表IVに示す。驚くべきことに、Ad48を除くすべての試験ベクターが、代替ITR配列に切り替わるか、または混合表現型を示すことが見出され、これらのベクターは、ウイルス継代数が後になると変換されることが示唆された。Ad5については、本発明者らが前に観察したことと一致して、オリジナルITR配列は、VPN10においては存続したが、VPN15において混合し始めた。これに対して、Ad48に由来するベクターは、オリジナルITR配列をVPN15まで保持する唯一のベクターであった。
【0104】
しかしながら、安全策として、本発明者らは、大量培養の間に、または継代の延長後にゲノム末端で生じる突然変異によって起こり得るバッチ不均一性を防止するために、Ad5に基づくものまたはAd48に基づくものさえ含むすべての組換えアデノウイルスに、本発明による代替ITR配列を備えさせることを提案する。これにより、基本的にすべてのアデノウイルス粒子のゲノムが、本発明による5’末端配列CTATCTATを含む、組換えアデノウイルスのバッチが得られることが保証される。さらに、この代替ITR配列を包含するアデノウイルスベクターのレスキューは、ワクチンベクターの製造を加速することができる。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】