【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、課題の解決手段として、
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジングにより外殻が形成されており、
その一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材で閉塞され、他端側が第2閉塞部材で閉塞されており、
前記筒状ハウジングの内部が、ガス発生剤が充填された燃焼室であり、
前記ガス排出口が、少なくとも2つのガス排出口群からなるものであり、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第1ガス排出口群と、前記第1ガス排出口群とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第2ガス排出口群を有しており、
前記第1ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群が、前記第1閉塞部材と前記第2閉塞部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群が、前記第1ガス排出口群と前記第2閉塞部材の軸方向中間部又はその近傍に位置している、ガス発生器を提供する。
【0008】
請求項1の発明のガス発生器は、エアバッグ装置等の車両に搭載する人員拘束装置用として適したものである。
【0009】
ガス発生器内のガス発生剤は、作動時の環境温度が高いほど、早く燃焼することが知られている。
そうすると、同じガス発生器であっても、作動時の環境温度が高いほどガス発生剤の燃焼が早くなり、相対的に早くエアバッグを膨張展開させ、作動時の環境温度が低いほどガス発生剤の燃焼が遅くなり、相対的に遅くエアバッグを膨張展開させることになる。
しかしながら、このように環境温度の違いによってエアバッグの膨張展開速度が異なってしまうことは、乗員保護の観点から望ましくなく、改善が要望される。特にこのような現象は、ガス発生器が筒状であり、内部に充填されたガス発生剤の燃焼が、一端側から他端側に進行するタイプのものではより顕著になると考えられている。
【0010】
請求項1のガス発生器では、
(I)ガス排出口群の開口圧力を異ならせること、
(II)開口圧力が異なるガス排出口群の形成位置を異ならせること、
(III)筒状ハウジング内におけるガス排出口全体の配置状態を調整すること、
により、上記課題を解決したものである。
【0011】
要件(I)において、第1ガス排出口群の開口圧力(P1)と第2ガス排出口群の開口圧力(P2)がP1<P2の関係を満たすようにする手段として、下記の(a)〜(c)のいずれか1つの手段を適用できる。
第1ガス排出口群の開口圧力(P1)は、第1ガス排出口群を閉塞するシール手段(例えば、金属製のシールテープのような粘着剤で固着できる金属箔)を開裂乃至破壊させて開口させるために必要な圧力である。
第2ガス排出口群の開口圧力(P2)は、第2ガス排出口群を閉塞するシール手段(例えば、金属製のシールテープのような粘着剤で固着できる金属箔)を開裂乃至破壊させて開口させるために必要な圧力である。
【0012】
(a)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が同じシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口の開口径(d
1)と前記第2ガス排出口の開口径(d
2)が、d
1>d
2の関係を満たしている。同じシール手段で閉塞されているとき、開口径が大きい方が開口圧力は小さくなる。
【0013】
(b)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が異なるシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p
1)と前記第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p
2)が、p
1<p
2で、d
1=d
2の関係を満たしている。開口径が同じであるとき、シール手段の破裂圧力が小さいほど、開口圧力は小さくなる。
シール手段の破裂圧力(p
1)とシール手段の破裂圧力(p
2)は、それらの材質や厚み等で決まるシール手段固有のものであり、具体的には引張強度で評価する(例えば、特開2003−191816号公報参照)。
【0014】
(c)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が、d
1>とd
2で、かつp
1<p
2の関係を満たしている。
【0015】
なお、さらに開口径の異なる第3ガス排出口群を設けることもできる。第3ガス排出口群の開口径は、d
1とd
2の中間であるか、又はd
2よりも小さな開口径にすることができる。
また、第3ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力は、p
1とp
2の中間であるか、又はp
2よりも小さな破裂圧力にすることができる。
【0016】
さらに(II)、(III)の構成要件については、
第1ガス排出口群を第1閉塞部材と第2閉塞部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置するようにすると共に、
第2ガス排出口群が、第1ガス排出口群と第1閉塞部材の軸方向中間部又はその近傍に位置するようにしている。
さらに第3ガス排出口群を設けるときは、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群の軸方向中間部又はその近傍に位置するように形成することができる。
【0017】
請求項1の発明のガス発生器は、外殻が筒状ハウジングであるから、ディスク状のハウジングを用いたガス発生器と比べると細長い形状となる。
本発明では、筒状ハウジングの外径(D)と長さ(L)の比率(L/D)は1を超えるものが好ましく、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。L/Dの上限値は特に限定されないが、自動車に搭載するエアバッグ装置等の人員拘束装置用のガス発生器であれば、実用上は、実質的に自動車内に取り付けることができる長さに限定される。
【0018】
まず、作動時の環境温度が相対的に低い場合について説明する。
請求項1の発明のガス発生器では、一端側の第1閉塞部材に点火器が固定されていることから、点火器の作動時には、第1閉塞部材側の点火器に近い位置にあるガス発生剤から燃焼が開始され、第2閉塞部材側に向かって燃焼が進行する。
【0019】
そうすると、燃焼初期には、燃焼ガスは第1閉塞部材側に存在する割合が多くなるため、燃焼室内の圧力(燃焼圧力)は、第1閉塞部材側の方が高くなり、ハウジング内で圧力勾配が生じる。
このような圧力勾配が生じているとき、圧力がより高い位置に存在し、かつ開口径(d
1)の大きな第1ガス排出口群を閉塞するシール手段が破れて、第1ガス排出口群が開口され、燃焼ガスが排出される。
【0020】
このように第1ガス排出口群から燃焼ガスが排出されると、そこに燃焼ガスの流れが集中する。このため、未燃焼のガス発生剤の燃焼が進行して、燃焼室内部の圧力が変化(上昇)した場合でも、第2ガス排出口群を覆うシール手段は開裂しにくい。
【0021】
そうすると、第2ガス排出口群が開口されないまま、第1ガス排出口群のみから燃焼ガスが排出されることになり、燃焼内圧(燃焼室の圧力)が高いままで維持されることから、燃焼室内のガス発生剤の燃焼が促進される。
【0022】
このように、燃焼初期において燃焼室内に圧力勾配が発生することを利用して、高い圧力領域にある第1ガス排出口群のシール手段を破れやすくすると同時に、低い圧力領域にあり、開口圧力の高い第2ガス排出口群のシール手段を破れにくくすることで、確実に再現性よく開口する排出口(第1ガス排出口群)と、開口しない又は開口しにくい排出口(第2ガス排出口群)が得られる。
【0023】
一方、作動時の環境温度が相対的に高い場合には、ガス発生剤の燃焼速度が大きくなるため、単位時間当たりに発生する燃焼ガスの量が多くなる。そうすると、作動時の環境温度が相対的に低い場合と比べると、燃焼初期における燃焼室内部全体の圧力が高くなり、圧力勾配が小さくなる。
【0024】
このような場合には、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群を覆うシール手段が開裂して開口され、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群から燃焼ガスが排出される。このため、燃焼内圧の上昇が抑制され、ガス発生剤の燃焼も抑制される。
【0025】
以上のように動作することで、作動時の環境温度が低いときと高いときの出力性能の差を小さくすることができる。このため、エアバッグシステム用のガス発生器として使用したとき、環境温度が異なる場合であっても、乗員の保護性能を均質で、かつ高いレベルで維持することができる。
【0026】
請求項1の発明のガス発生器は、
第1ガス排出口群と第2ガス排出口群が、第1ガス排出口の開口径(d
1)と第2ガス排出口の開口径(d
2)が同一であり、全ての開口部が内側からシール手段で閉塞されており、
第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P
1)と第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P
2)が、P
1<P
2の関係を満たしているものでもよい。
このガス発生器も、上記の請求項1のガス発生器と同様に動作して、同じ作用効果を得ることができる。
【0027】
請求項1の発明のガス発生器は、
第1ガス排出口の開口径(d
1)と第2ガス排出口の開口径(d
2)がd
1>d
2の関係を満たしており、かつ第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P
1)と第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P
2)が、P
1<P
2の関係を満たしているものでもよい。
このようにして開口径とシール手段の破裂圧力を関連づけることにより、燃焼時の出力性能の調整能力がより高められる。
【0028】
また本発明のガス発生器では、上記(I)〜(III)の構成要件に加えて、特定構造の点火手段を用いることにより、より上記した作用効果を高めることができる。
【0029】
また請求項4の発明は、課題の他の解決手段として、
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジングにより外殻が形成されており、
前記筒状ハウジングの一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材で閉塞され、他端側が第2閉塞部材で閉塞され、さらに前記第1閉塞部材と前記第2閉塞部材の間が仕切部材で分離されており、
前記仕切部材で分離された空間の内、第1閉塞部材及び点火手段に近い空間が、第1ガス発生剤が充填された第1燃焼室で、第2閉塞部材に近い空間が、第2ガス発生剤が充填された第2燃焼室で、第1燃焼室の容量≧第2燃焼室の容量の関係を満たしており、
前記第1燃焼室側に形成されたガス排出口が、少なくとも2つのガス排出口群からなるものであり、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第1ガス排出口群と、前記第1ガス排出口群とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第2ガス排出口群を有しており、
前記第1ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群が、前記第1閉塞部材と前記仕切部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群が、前記第1ガス排出口群と前記仕切部材の軸方向中間部又はその近傍に位置している、ガス発生器を提供する。
【0030】
請求項4の発明のガス発生器は、軸方向に配置された2つの燃焼室を有するデュアルタイプのガス発生器である。
【0031】
請求項4の発明のガス発生器は、先に作動する燃焼室の容量(ガス発生量)が大きいもの(第1燃焼室の容量>第2燃焼室の容量)と、2つの燃焼室の容量が同じもの(第1燃焼室の容量=第2燃焼室の容量)に適用できる。
【0032】
このガス発生器では、容量の大きな第1燃焼室に対して、上記した請求項1の発明と同じ構造(要件(I)〜(III)を満たす構造)を適用したものである。また、要件(I)を実施するための手段は、上記した(a)〜(c)のいずれか1つの手段を適用できる。
【0033】
デュアルタイプのガス発生器では、
第1燃焼室の点火手段が先に作動して、第2燃焼室の点火手段が遅れて作動する場合(中速走行時の衝突)、
第1燃焼室の点火手段と第2燃焼室の点火手段が同時に作動する場合(高速走行時の衝突)、
第1燃焼室の点火手段のみが作動する場合(低速走行時の衝突)、
の3つの作動が可能であるが、いずれの作動状態においても、第1燃焼室においては上記した請求項1の発明と同じ作用効果が得られる。
【0034】
本発明では、第1燃焼室を形成する部分の筒状ハウジングの直径(D)と長さ(L)の比率(L/D)は1を超えるものが好ましく、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。L/Dの上限値は特に限定されないが、自動車に搭載するエアバッグ装置等の人員拘束装置用のガス発生器であれば、実用上は、実質的に自動車内に取り付けることができる長さに限定される。
【0035】
また請求項4の発明のガス発生器では、上記(I)〜(III)の構成要件に加えて、第1燃焼室において特定構造の点火手段を用いることにより、より上記した作用効果を高めることができる。