特許第5770978号(P5770978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770978
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20150806BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B60R21/264
   B01J7/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-95622(P2010-95622)
(22)【出願日】2010年4月19日
(65)【公開番号】特開2011-225069(P2011-225069A)
(43)【公開日】2011年11月10日
【審査請求日】2013年3月12日
【審判番号】不服2014-7054(P2014-7054/J1)
【審判請求日】2014年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】沼本 賢治
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 平田 信勝
【審判官】 氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−130368(JP,A)
【文献】 特開2009−101806(JP,A)
【文献】 特開平6−183310(JP,A)
【文献】 特開平7−172260(JP,A)
【文献】 特開2008−149873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジング(12)により外殻が形成されており、
筒状ハウジング(12)の一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材(30)で閉塞され、他端側が第2閉塞部材(14)で閉塞されており、
前記筒状ハウジング(12)の内部の第1閉塞部材(30)と第2閉塞部材(14)の間が、ガス発生剤(71)が充填された一つの燃焼室(70)であり、
前記一つの燃焼室(70)が、筒状フィルタ(20)が筒状ハウジング(12)の内周面との間に間隙(22)を形成して配置され、筒状フィルタ(20)の内側にガス発生剤(71)が充填されているものであり、
前記ガス排出口が、少なくとも2つのガス排出口群からなるものであり、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段(17)で閉塞された第1ガス排出口群(16a)と、
前記第1ガス排出口群(16a)とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段(17)で閉塞された第2ガス排出口群(16b)を有しており、
前記第1ガス排出口群(16a)を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群(16b)を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群(16a)が、前記第1閉塞部材(30)と前記第2閉塞部材(14)との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群(16b)が、前記第1ガス排出口群(16a)と前記第2閉塞部材(14)の軸方向中間部又はその近傍に位置している、ガス発生器。
【請求項2】
前記第1ガス排出口群の開口圧力(P1)と前記第2ガス排出口群の開口圧力(P2)が、下記の(a)〜(c)のいずれか1つの手段により調整されるものである、請求項1記載のガス発生器。
(a)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が同じシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口の開口径(d1)と前記第2ガス排出口の開口径(d2)が、d1>d2の関係を満たしている。
(b)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が異なるシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p1)と前記第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p2)が、p1<p2の関係を満たしている。
(c)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が、d1>d2で、かつp1<p2の関係を満たしている。
【請求項3】
前記点火手段が、第1閉塞部材に固定された点火器と、前記点火器を包囲して固定されたカップ状の伝火室ハウジングと、前記火室ハウジング内に充填された伝火薬を有するものであり、
前記カップ状の伝火室ハウジングの底面及び周面には複数の伝火孔が形成されており、
前記カップ状の伝火室ハウジングが、開口部側から前記点火器に被せた状態で固定されたものであり、
前記第1閉塞部材の表面から前記カップ状の伝火室ハウジングの底面までの長さ(L1)と、前記第1閉塞部材と前記第2閉塞部材との軸方向の間隔(L2)が、L1<0.4L2の関係を満たしている、請求項1又は2記載のガス発生器。
【請求項4】
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジング(212)により外殻が形成されており、
前記筒状ハウジング(212)の一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材(230a)で閉塞され、他端側が第2閉塞部材(230b)で閉塞され、さらに前記第1閉塞部材(230a)と前記第2閉塞部材(230b)の間が仕切部材(250)で分離されており、
前記仕切部材(250)で分離された空間の内、第1閉塞部材(230a)と仕切部材(250)の間の空間が、第1ガス発生剤(271a)が充填された第1燃焼室(270a)で、
仕切部材(250)と第2閉塞部材(230b)の間の空間が、第2ガス発生剤(271b)が充填された第2燃焼室(270b)であり、
第1燃焼室(270a)の容量≧第2燃焼室(270b)の容量の関係を満たしており、
前記第1燃焼室(270a)に面した筒状ハウジング(212)の周壁面には、少なくとも2つのガス排出口群からなる複数のガス排出口が形成されており、
前記第2燃焼室(270b)に面した筒状ハウジング(212)の周壁面には、同じ口径の複数のガス排出口(218)が形成されており、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段(217a)で閉塞された第1ガス排出口群(216a)と、前記第1ガス排出口群(216a)とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段(217b)で閉塞された第2ガス排出口群(216b)を有しており、
前記第1ガス排出口群(216a)を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群(216b)を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群(216a)が、前記第1閉塞部材(230a)と前記仕切部材(250)との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群(216b)が、前記第1ガス排出口群(216a)と前記仕切部材(250)の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第1燃焼室(270a)で発生した燃焼ガスは前記第1燃焼室(270a)に面した筒状ハウジング(212)の周壁面に形成されたガス排出口群から排出され、
前記第2燃焼室(270b)で発生した燃焼ガスは、前記第2燃焼室(270b)に面した筒状ハウジング(212)の周壁面に形成された複数のガス排出口(218)から排出される、ガス発生器。
【請求項5】
前記第1ガス排出口群の開口圧力(P1)と前記第2ガス排出口群の開口圧力(P2)が、下記の(a)〜(c)のいずれか1つの手段により調整されるものである、請求項4記載のガス発生器。
(a)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が同じシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口の開口径(d1)と前記第2ガス排出口の開口径(d2)が、d1>d2の関係を満たしている。
(b)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が異なるシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p1)と前記第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p2)が、p1<p2の関係を満たしている。
(c)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が、d1>d2で、かつp1<p2の関係を満たしている。
【請求項6】
前記第1燃焼室内の点火手段が、第1閉塞部材に固定された点火器と、前記点火器を包囲して固定されたカップ状の伝火室ハウジングと、前記火室ハウジング内に充填された伝火薬を有するものであり、
前記カップ状の伝火室ハウジングの底面及び周面には複数の伝火孔が形成されており、
前記カップ状の伝火室ハウジングが、開口部側から前記点火器に被せた状態で固定されたものであり、
前記第1閉塞部材の表面から前記カップ状の伝火室ハウジングの底面までの長さ(L1)と、前記第1閉塞部材と前記仕切部材との軸方向の間隔(L2)が、L1<0.4L2の関係を満たしている、請求項4又は5記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌に搭載される人員拘束装置などに使用されるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグシステム等に使用されるガス発生器、特に固形ガス発生剤を作動ガス源に使用しているガス発生器では、出力性能の細かな調整のために燃焼内圧を制御する構造が採用されている。とくにガス発生器の作動時の環境温度によって、同じガス発生器でも出力が異なる場合がある。これは環境温度によってガス発生剤の燃焼速度(反応速度)が変わってくるためであり、一般に温度が高いほど早く燃焼する。ここで環境温度とは、季節、地域、車両がおかれている状態(例えば、日陰に駐車されているか、日向に駐車されているか)等における温度を意味する。
【0003】
このような環境温度の違いによる出力の変動を抑制することが試みられている。
特許文献1の図3には、長尺ハウジングのガス発生器22が示されている。ハウジング24の周壁の向かい合う2箇所に大径のオリフィス26と小径のオリフィス28が形成されており、箔32で閉じられている。またハウジング24の端部には、周方向に均等間隔で中径34のオリフィスが形成され、箔32よりも厚さのある箔36で閉塞されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−183310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のガス発生器用膨張器では、オリフィス径とそれを閉塞する箔の厚みを関連づけることにより、環境温度の変化に対応する技術が開示されている。しかし、オリフィス径の大小関係及び箔の厚みと共に、オリフィスの形成位置を関連づけていないため、環境温度の変化に対応させる点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、作動時の環境温度に拘わらず、安定した出力が再現性よく得られるガス発生器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、課題の解決手段として、
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジングにより外殻が形成されており、
その一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材で閉塞され、他端側が第2閉塞部材で閉塞されており、
前記筒状ハウジングの内部が、ガス発生剤が充填された燃焼室であり、
前記ガス排出口が、少なくとも2つのガス排出口群からなるものであり、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第1ガス排出口群と、前記第1ガス排出口群とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第2ガス排出口群を有しており、
前記第1ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群が、前記第1閉塞部材と前記第2閉塞部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群が、前記第1ガス排出口群と前記第2閉塞部材の軸方向中間部又はその近傍に位置している、ガス発生器を提供する。
【0008】
請求項1の発明のガス発生器は、エアバッグ装置等の車両に搭載する人員拘束装置用として適したものである。
【0009】
ガス発生器内のガス発生剤は、作動時の環境温度が高いほど、早く燃焼することが知られている。
そうすると、同じガス発生器であっても、作動時の環境温度が高いほどガス発生剤の燃焼が早くなり、相対的に早くエアバッグを膨張展開させ、作動時の環境温度が低いほどガス発生剤の燃焼が遅くなり、相対的に遅くエアバッグを膨張展開させることになる。
しかしながら、このように環境温度の違いによってエアバッグの膨張展開速度が異なってしまうことは、乗員保護の観点から望ましくなく、改善が要望される。特にこのような現象は、ガス発生器が筒状であり、内部に充填されたガス発生剤の燃焼が、一端側から他端側に進行するタイプのものではより顕著になると考えられている。
【0010】
請求項1のガス発生器では、
(I)ガス排出口群の開口圧力を異ならせること、
(II)開口圧力が異なるガス排出口群の形成位置を異ならせること、
(III)筒状ハウジング内におけるガス排出口全体の配置状態を調整すること、
により、上記課題を解決したものである。
【0011】
要件(I)において、第1ガス排出口群の開口圧力(P1)と第2ガス排出口群の開口圧力(P2)がP1<P2の関係を満たすようにする手段として、下記の(a)〜(c)のいずれか1つの手段を適用できる。
第1ガス排出口群の開口圧力(P1)は、第1ガス排出口群を閉塞するシール手段(例えば、金属製のシールテープのような粘着剤で固着できる金属箔)を開裂乃至破壊させて開口させるために必要な圧力である。
第2ガス排出口群の開口圧力(P2)は、第2ガス排出口群を閉塞するシール手段(例えば、金属製のシールテープのような粘着剤で固着できる金属箔)を開裂乃至破壊させて開口させるために必要な圧力である。
【0012】
(a)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が同じシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口の開口径(d1)と前記第2ガス排出口の開口径(d2)が、d1>d2の関係を満たしている。同じシール手段で閉塞されているとき、開口径が大きい方が開口圧力は小さくなる。
【0013】
(b)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が異なるシール手段で閉塞されており、前記第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p1)と前記第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力(p2)が、p1<p2で、d1=d2の関係を満たしている。開口径が同じであるとき、シール手段の破裂圧力が小さいほど、開口圧力は小さくなる。
シール手段の破裂圧力(p1)とシール手段の破裂圧力(p2)は、それらの材質や厚み等で決まるシール手段固有のものであり、具体的には引張強度で評価する(例えば、特開2003−191816号公報参照)。
【0014】
(c)前記第1ガス排出口群と前記第2ガス排出口群が、d1>とd2で、かつp1<p2の関係を満たしている。
【0015】
なお、さらに開口径の異なる第3ガス排出口群を設けることもできる。第3ガス排出口群の開口径は、d1とd2の中間であるか、又はd2よりも小さな開口径にすることができる。
また、第3ガス排出口群を閉塞するシール手段の破裂圧力は、p1とp2の中間であるか、又はp2よりも小さな破裂圧力にすることができる。
【0016】
さらに(II)、(III)の構成要件については、
第1ガス排出口群を第1閉塞部材と第2閉塞部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置するようにすると共に、
第2ガス排出口群が、第1ガス排出口群と第1閉塞部材の軸方向中間部又はその近傍に位置するようにしている。
さらに第3ガス排出口群を設けるときは、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群の軸方向中間部又はその近傍に位置するように形成することができる。
【0017】
請求項1の発明のガス発生器は、外殻が筒状ハウジングであるから、ディスク状のハウジングを用いたガス発生器と比べると細長い形状となる。
本発明では、筒状ハウジングの外径(D)と長さ(L)の比率(L/D)は1を超えるものが好ましく、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。L/Dの上限値は特に限定されないが、自動車に搭載するエアバッグ装置等の人員拘束装置用のガス発生器であれば、実用上は、実質的に自動車内に取り付けることができる長さに限定される。
【0018】
まず、作動時の環境温度が相対的に低い場合について説明する。
請求項1の発明のガス発生器では、一端側の第1閉塞部材に点火器が固定されていることから、点火器の作動時には、第1閉塞部材側の点火器に近い位置にあるガス発生剤から燃焼が開始され、第2閉塞部材側に向かって燃焼が進行する。
【0019】
そうすると、燃焼初期には、燃焼ガスは第1閉塞部材側に存在する割合が多くなるため、燃焼室内の圧力(燃焼圧力)は、第1閉塞部材側の方が高くなり、ハウジング内で圧力勾配が生じる。
このような圧力勾配が生じているとき、圧力がより高い位置に存在し、かつ開口径(d1)の大きな第1ガス排出口群を閉塞するシール手段が破れて、第1ガス排出口群が開口され、燃焼ガスが排出される。
【0020】
このように第1ガス排出口群から燃焼ガスが排出されると、そこに燃焼ガスの流れが集中する。このため、未燃焼のガス発生剤の燃焼が進行して、燃焼室内部の圧力が変化(上昇)した場合でも、第2ガス排出口群を覆うシール手段は開裂しにくい。
【0021】
そうすると、第2ガス排出口群が開口されないまま、第1ガス排出口群のみから燃焼ガスが排出されることになり、燃焼内圧(燃焼室の圧力)が高いままで維持されることから、燃焼室内のガス発生剤の燃焼が促進される。
【0022】
このように、燃焼初期において燃焼室内に圧力勾配が発生することを利用して、高い圧力領域にある第1ガス排出口群のシール手段を破れやすくすると同時に、低い圧力領域にあり、開口圧力の高い第2ガス排出口群のシール手段を破れにくくすることで、確実に再現性よく開口する排出口(第1ガス排出口群)と、開口しない又は開口しにくい排出口(第2ガス排出口群)が得られる。
【0023】
一方、作動時の環境温度が相対的に高い場合には、ガス発生剤の燃焼速度が大きくなるため、単位時間当たりに発生する燃焼ガスの量が多くなる。そうすると、作動時の環境温度が相対的に低い場合と比べると、燃焼初期における燃焼室内部全体の圧力が高くなり、圧力勾配が小さくなる。
【0024】
このような場合には、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群を覆うシール手段が開裂して開口され、第1ガス排出口群と第2ガス排出口群から燃焼ガスが排出される。このため、燃焼内圧の上昇が抑制され、ガス発生剤の燃焼も抑制される。
【0025】
以上のように動作することで、作動時の環境温度が低いときと高いときの出力性能の差を小さくすることができる。このため、エアバッグシステム用のガス発生器として使用したとき、環境温度が異なる場合であっても、乗員の保護性能を均質で、かつ高いレベルで維持することができる。
【0026】
請求項1の発明のガス発生器は、
第1ガス排出口群と第2ガス排出口群が、第1ガス排出口の開口径(d1)と第2ガス排出口の開口径(d2)が同一であり、全ての開口部が内側からシール手段で閉塞されており、
第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P1)と第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P2)が、P1<P2の関係を満たしているものでもよい。
このガス発生器も、上記の請求項1のガス発生器と同様に動作して、同じ作用効果を得ることができる。
【0027】
請求項1の発明のガス発生器は、
第1ガス排出口の開口径(d1)と第2ガス排出口の開口径(d2)がd1>d2の関係を満たしており、かつ第1ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P1)と第2ガス排出口群を閉塞するシール手段の開口圧力(P2)が、P1<P2の関係を満たしているものでもよい。
このようにして開口径とシール手段の破裂圧力を関連づけることにより、燃焼時の出力性能の調整能力がより高められる。
【0028】
また本発明のガス発生器では、上記(I)〜(III)の構成要件に加えて、特定構造の点火手段を用いることにより、より上記した作用効果を高めることができる。
【0029】
また請求項4の発明は、課題の他の解決手段として、
両端が閉塞され、周面にガス排出口を有する筒状ハウジングにより外殻が形成されており、
前記筒状ハウジングの一端側が、点火手段が固定された第1閉塞部材で閉塞され、他端側が第2閉塞部材で閉塞され、さらに前記第1閉塞部材と前記第2閉塞部材の間が仕切部材で分離されており、
前記仕切部材で分離された空間の内、第1閉塞部材及び点火手段に近い空間が、第1ガス発生剤が充填された第1燃焼室で、第2閉塞部材に近い空間が、第2ガス発生剤が充填された第2燃焼室で、第1燃焼室の容量≧第2燃焼室の容量の関係を満たしており、
前記第1燃焼室側に形成されたガス排出口が、少なくとも2つのガス排出口群からなるものであり、
前記少なくとも2つのガス排出口群として、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第1ガス排出口群と、前記第1ガス排出口群とは軸方向に離れて、
周方向に形成され、内側からシール手段で閉塞された第2ガス排出口群を有しており、
前記第1ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P1)と前記第2ガス排出口群を開口させるために必要な圧力(開口圧力:P2)がP1<P2の関係を満たしており、
前記第1ガス排出口群が、前記第1閉塞部材と前記仕切部材との間の軸方向中間部又はその近傍に位置しており、
前記第2ガス排出口群が、前記第1ガス排出口群と前記仕切部材の軸方向中間部又はその近傍に位置している、ガス発生器を提供する。
【0030】
請求項4の発明のガス発生器は、軸方向に配置された2つの燃焼室を有するデュアルタイプのガス発生器である。
【0031】
請求項4の発明のガス発生器は、先に作動する燃焼室の容量(ガス発生量)が大きいもの(第1燃焼室の容量>第2燃焼室の容量)と、2つの燃焼室の容量が同じもの(第1燃焼室の容量=第2燃焼室の容量)に適用できる。
【0032】
このガス発生器では、容量の大きな第1燃焼室に対して、上記した請求項1の発明と同じ構造(要件(I)〜(III)を満たす構造)を適用したものである。また、要件(I)を実施するための手段は、上記した(a)〜(c)のいずれか1つの手段を適用できる。
【0033】
デュアルタイプのガス発生器では、
第1燃焼室の点火手段が先に作動して、第2燃焼室の点火手段が遅れて作動する場合(中速走行時の衝突)、
第1燃焼室の点火手段と第2燃焼室の点火手段が同時に作動する場合(高速走行時の衝突)、
第1燃焼室の点火手段のみが作動する場合(低速走行時の衝突)、
の3つの作動が可能であるが、いずれの作動状態においても、第1燃焼室においては上記した請求項1の発明と同じ作用効果が得られる。
【0034】
本発明では、第1燃焼室を形成する部分の筒状ハウジングの直径(D)と長さ(L)の比率(L/D)は1を超えるものが好ましく、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。L/Dの上限値は特に限定されないが、自動車に搭載するエアバッグ装置等の人員拘束装置用のガス発生器であれば、実用上は、実質的に自動車内に取り付けることができる長さに限定される。
【0035】
また請求項4の発明のガス発生器では、上記(I)〜(III)の構成要件に加えて、第1燃焼室において特定構造の点火手段を用いることにより、より上記した作用効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のガス発生器は、作動時の環境温度に違いがある場合であっても、安定した出力性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明のガス発生器の軸方向断面図である。
図2】本発明の別実施形態であるガス発生器の軸方向断面図である。
図3】本発明のさらに別実施形態であるガス発生器の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(1)図1のガス発生器
図1により、本発明のガス発生器を説明する。
ガス発生器10の外殻容器は筒状ハウジング12からなり、その周壁面には、ガス排出口が複数形成されている。
【0039】
筒状ハウジング12の開口部13aは、円板形状の第1閉塞部材(ボス)30で閉塞されている。第1閉塞部材30には、その中心部を貫通して、公知の電気式の点火器25が取り付けられている。
【0040】
第1閉塞部材30には、点火器25を包囲して伝火室ハウジング40が取り付けられている。伝火室ハウジング40内は伝火室45となっており、公知の伝火薬やガス発生剤が充填されている。
【0041】
伝火室ハウジング40はカップ状のものであり、底面41、周面42、開口部周縁に形成されたフランジ部43を有しており、フランジ部43が第1閉塞部材の表面30aに当接されている。底面41には、伝火薬やガス発生剤が漏れ出ない大きさの複数の伝火孔41aが形成されている。
【0042】
第1閉塞部材30の表面30aから伝火室ハウジングの底面41までの長さ(L1)と、第1閉塞部材30と第2閉塞部材14との軸方向の間隔(L2)は、L1<0.4L2の関係を満たしていることが好ましく、L1<0.2L2の関係を満たしていることがより好ましい。図1の実施形態では、L1=0.16L2である。
【0043】
1とL2の関係において、L1の長さが大きいほど、即ち底面41が第2閉塞部材14側に近づくほど、ガス発生剤71全体が燃焼しやすくなるが、その場合には、ガス発生剤71を充填する空間が小さくなり、充填量が減少してしまう。逆にL1の長さが小さいほど、即ち底面41が第1閉塞部材30に近づくほど、ガス発生剤71全体が均一に燃焼しにくくなる。
そこで上記したL1とL2の関係を満たすようにすることで、ガス発生剤71全体の燃焼性と充填量を満足させることができる。
【0044】
筒状ハウジング12の開口部13bは、円板形状の第2閉塞部材14で閉塞されているが、予め開口部13bが閉塞されたものを用いることもできる。
【0045】
筒状ハウジング12内は燃焼室となり、筒状フィルタ20が筒状ハウジング12の内周面との間に間隙22を形成して配置されている。筒状フィルタ20の内側にガス発生剤71が充填されている。なお、伝火室ハウジングの周面42と筒状フィルタ20の間にはガス発生剤71は存在していない。図1では、L/D=3.5である。ここでLは、端部12aから端部12bまでの長さである。
【0046】
筒状フィルタ20は、ガス発生剤71の燃焼ガスを冷却・濾過する作用と共に、伝火室ハウジングのフランジ部43の支持部材としても機能している。
【0047】
筒状フィルタ20は、端面20aがフランジ部43に当接され、端面20bが第2閉塞部材14に当接されている。そして、筒状フィルタ20は、第1閉塞部材30が端部12aをかしめる(即ち、内側に折り曲げる)ことで軸方向に押圧されており(即ち、圧力を加えた状態で押しつけられており)、第2閉塞部材14が端部12bをかしめることで、さらに軸方向に押圧されている。このため、筒状フィルタ20が支持部材となり、フランジ部43も軸方向に押圧されて固定されている。
【0048】
図1では、端部12b側の筒状ハウジング12に対して、内側に突き出された環状凸部15aが形成されており、この環状凸部15aにより、筒状フィルタ20の半径方向の位置決めがなされている。
【0049】
第1閉塞部材30と端部12aとの間、第2閉塞部材14と端部12bとの間には、必要に応じてOリング等のシール部材を配置してもよい。
【0050】
筒状ハウジング12の周壁面に形成されたガス排出口は、複数の第1ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第1ガス排出口群16aと、複数の第2ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第2ガス排出口群16bからなるものである。
【0051】
第1ガス排出口群16aにおける第1ガス排出口の数は2〜12が好ましく、4〜10がより好ましい。
第2ガス排出口群16bにおける第2ガス排出口の数は2〜12が好ましく、4〜10がより好ましい。
【0052】
第1ガス排出口群16aは、全ての第1ガス排出口が第1閉塞部材30と第2閉塞部材14との間の軸方向中間部(1/2L2に等しく、線X1で示される位置)又はその近傍に形成されている。第1ガス排出口群16aの形成位置は、ガス排出口の中心と線X1が一致している場合と、ガス排出口の範囲内を線X1が通っている場合を含む。
【0053】
第1ガス排出口群16aの形成位置を線X1にすることで、第2閉塞部材14側のガス発生剤71も燃焼されやすくなる。なお、第1ガス排出口群16aは、線X1よりも少し第1閉塞部材30側又は第2閉塞部材14側に寄った位置に形成されていてもよい。例えば、第1閉塞部材の表面30aからの長さがX1(ここで1/2L2=X1)を中心として0.8×1/2L2〜1.2×1/2L2の範囲に第1ガス排出口群16aが入るようにする。
【0054】
第2ガス排出口群16bは、第1ガス排出口群16a(即ち、線X1)と第2閉塞部材14の軸方向中間部(即ち、線X2)に形成されている。第2ガス排出口群16bの形成位置は、ガス排出口の中心と線X2が一致している場合と、ガス排出口の範囲内を線X2が通っている場合を含む。
【0055】
第2ガス排出口群16bは、第1ガス排出口群16aの形成位置に応じて、前記線X2よりも第1閉塞部材30側又は第2閉塞部材14側に寄って(X2を中心として0.8×1/2L2〜1.2×1/2L2の範囲)位置していてもよい。
【0056】
第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bは、第1ガス排出口の開口径(d1)と第2ガス排出口の開口径(d2)がd1>d2の関係を満たしており、全ての開口部が内側から同じ金属製(アルミニウム製等)のシールテープ17で閉塞されている。この手段により、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bの開口圧力(P1とP2)の大小関係が調整されている。
【0057】
なお、「同じシールテープ」は、同じ破裂圧力のシールテープの意味であるから、材質や厚み等が異なっていても、同じ破裂圧力であれば同じシールテープとなる。シールテープは、全体として1つのシールテープでもよいし、2枚以上の同じシールテープを使用したものでもよい。
【0058】
1とd2の比率はガス発生剤71の単位時間当たりのガス発生量等により調整されることが好ましいが、d1/d2の比率は1.5〜2.1の範囲にすることができる。
【0059】
次に、図1のガス発生器の動作を説明する。
点火器25の作動によって、伝火室45内部の伝火薬が燃焼する。このとき燃焼生成物(高温ガスや火炎)が伝火孔41aを通過して、燃焼室70のガス発生剤71を着火させる。
【0060】
ガス発生剤71の燃焼によって発生した燃焼ガスは、フィルタ20を通過する間に冷却、浄化され、間隙22に流れ、シールテープ17を破り、ガス排出口から排出される。
【0061】
この過程において、環境温度が相対的に低い場合(例えば、冬季の自動車の車内は、夏季の自動車の車内に比べて相対的に環境温度が低い)には、次のように動作する。
【0062】
点火器25が作動すると、伝火室45からの火炎等が伝火孔41aから噴出され、ガス発生剤71が着火燃焼される。このとき、ガス発生剤71の燃焼は、伝火室ハウジング40の周辺から開始され、徐々に第2閉塞部材14側に進行する。このため、燃焼初期には、燃焼室70内部に圧力勾配が発生する。
【0063】
つまり、燃焼初期には、ガス発生剤71の燃焼によって発生した燃焼ガスは、第1閉塞部材30側に存在する割合が多くなるため、燃焼室70内の圧力(燃焼圧力)は、第1閉塞部材30側の方が高くなる。
このような圧力勾配が生じているとき、圧力がより高い位置に存在し、かつ開口径(d1)の大きな第1ガス排出口群16aを閉塞するシールテープ17が破れて、第1ガス排出口群16aが開口され、燃焼ガスが排出される。
【0064】
第1ガス排出口群16aが開口され、燃焼ガスが排出されると、そこに燃焼ガスの流れが集中しやすいことと、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bが、上記したように離れて形成されていることから、未燃焼のガス発生剤71の燃焼が進行して、燃焼室70内部の圧力が変化(上昇)した場合でも、第2ガス排出口群16bを覆うシールテープ17は開裂しにくい。
【0065】
このため、第2ガス排出口群16bが開口されないまま、第1ガス排出口群16aのみから燃焼ガスが排出されることになり、燃焼内圧(燃焼時の筒状ハウジング12内の圧力)が高いままで維持される(燃焼内圧の低下が抑制される)ことから、ガス発生剤71の燃焼が促進される。
【0066】
このように、燃焼初期において燃焼室70内に圧力勾配が発生することを利用して、高い圧力領域にあり、開口圧力が低い第1ガス排出口群16aのシールテープを破れやすくすると同時に、低い圧力領域にあり、開口圧力が高い第2ガス排出口群16bのシールテープを破れにくくすることで、確実に再現性よく開口する排出口(第1ガス排出口群16a)と、開口しない排出口又は開口しにくい排出口(第2ガス排出口群16b)が得られる。
【0067】
一方、環境温度が相対的に高い場合では、ガス発生剤71の燃焼速度が大きくなるため、単位時間当たりに発生する燃焼ガスの量が多くなる。そうすると、燃焼初期における燃焼室70内部全体の圧力が高くなり、圧力勾配が小さくなる。
【0068】
このような場合には、第1ガス排出口群16aを覆うシールテープ17と共に、第2ガス排出口群16bを覆うシールテープ17も開裂され、それらが開口され、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bから燃焼ガスが排出される。このため、燃焼内圧の上昇が抑制され、ガス発生剤71の燃焼も抑制される。
【0069】
以上のとおり、図1のガス発生器10は、環境温度の違いによる出力性能の変化の抑制効果をより高くすることができ、即ち、作動時の環境温度が低いときと高いときの出力性能の差を小さくすることができる。このため、エアバッグシステム用のガス発生器として使用したとき、環境温度が異なる場合であっても、乗員の保護性能を均質でかつ高いレベルで維持することができる。
【0070】
図1のガス発生器10は、第1ガス排出口群16a(開口圧力P1)、第2ガス排出口群16b(開口圧力P2)に加えて、さらに開口径の異なる第3ガス排出口群(開口圧力P3)を形成することができる。
第3ガス排出口群(開口径d3)は、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bの間に形成でき、このときはd1>d3>d2の関係(開口圧力P1<P3<P2の関係)となり、
第2ガス排出口群16bと第2閉塞部材14の間に形成でき、このときはd1>d2>d3の関係(開口圧力P1<P2<P3の関係)となる。
【0071】
図1のガス発生器10は、上記したものと同じ作用効果を得るため、第1ガス排出口の開口径(d1)と第2ガス排出口の開口径(d2)を同一にして、第1ガス排出口群16aを閉塞するシールテープ17aの破裂圧力(p1)と第2ガス排出口群16bを閉塞するシールテープ17bの破裂圧力(p2)がp1<p2の関係を満たすようにすることもできる。この手段により、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bの開口圧力(P1とP2)の大小関係が調整されている。
【0072】
図1のガス発生器10は、上記したものと同じ作用効果を得るため、d1>d2の関係を満たし、かつp1<p2の関係を満たすようにすることもできる。この手段により、第1ガス排出口群16aと第2ガス排出口群16bの開口圧力(P1とP2)の大小関係が調整されている。
【0073】
(2)図2のガス発生器
図2により、別実施形態のガス発生器100を説明する。
図2のガス発生器100は、図1のガス発生器10とは、筒状フィルタ20と2つの部材からなる筒状リテーナを組み合わせて用いていることと、ガス排出口が異なっている。その他については図1のガス発生器10と同じである。
【0074】
筒状フィルタ20は、端面20bが第2閉塞部材14に当接され、端面20aが、リテーナ(或いは第1リテーナ)80とスペーサ(或いは第2リテーナ)90の組み合わせからなる支持部材により支持されている。なお、リテーナ80とスペーサ90を1つの筒状リテーナとしてもよい。
【0075】
リテーナ80は、環状平面81、環状平面81の内周縁から筒状ハウジング12の軸方向に延ばされた環状内周面82、環状平面81の外周縁から環状内周面82とは逆方向に延ばされた環状外周面83からなる。
【0076】
リテーナ80は、環状平面81がフィルタ20の端面20bに当接され、環状内周面82は筒状フィルタ20の内周面に当接されている。
【0077】
スペーサ90は、周壁部91、周壁部91の一端側(筒状フィルタ20側)に形成された第1環状平面92、周壁部91の他端側(第1閉塞部材30側)に形成された第2環状平面93からなる。
【0078】
周壁部91は、筒状ハウジング12の内周面と環状外周面83に当接され、第1環状平面92は環状平面81に当接され、第2環状平面93はフランジ部43に当接されている。
【0079】
筒状ハウジング12には、内側に突き出された2つの環状凸部15b、15cが軸方向に間隔をおいて形成されている。リテーナ80の環状外周面83は、2つの環状凸部15b、15cの間に挟まれて位置している。これにより、リテーナ80と、それと組み合わせるスペーサ90の位置決めがなされる。なお、環状凸部15cと正対する部分のスペーサの周壁部91は、図示するように内側に凹んだ状態になっている。
【0080】
図2のガス発生器100では、筒状フィルタ20、リテーナ80、スペーサ90の3つの部材の組み合わせが、図1で示す筒状フィルタ20と同様に伝火室ハウジング40の支持部材として機能している。
【0081】
このように図2のガス発生器100では、3つの部材の組み合わせが支持部材として機能する点で部品点数が多くなるが、図1のガス発生器10と比べると、伝火室ハウジング40の周面42の外側空間が広くなる(燃焼室70の容積が増加する)という効果が得られる。このため、その分だけガス発生剤71の充填量も増加できる。そして、増加したガス発生剤71の着火性を高める観点から、図2のガス発生器100では、伝火室ハウジング40の周面42にも、燃焼生成物が排出される伝火孔42aが形成されている。
【0082】
筒状ハウジング12の周壁面に形成されたガス排出口は、複数の第1ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第1ガス排出口群116aと、複数の第2ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第2ガス排出口群116b、複数の第3ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第3ガス排出口群116cからなるものである。
【0083】
第1ガス排出口群116aは、全ての第1ガス排出口が第2閉塞部材14と第1閉塞部材30との間の軸方向中間部(線X11)に形成されている。第1ガス排出口群116aは、線X11よりも第1閉塞部材30側又は第2閉塞部材14側に寄って(X11(ここで1/2L2=X11)を中心として0.8×1/2L2〜1.2×1/2L2の範囲)位置していてもよい。第1ガス排出口群116aの形成位置を線X1にすることで、第2閉塞部材14側のガス発生剤71も燃焼されやすくなる。
【0084】
第3ガス排出口群116cは、第1ガス排出口群116a(即ち、線X11)と第2閉塞部材14の軸方向中間部(即ち、線X13)に形成されている。第3ガス排出口群116cは、第1ガス排出口群116a及び第2ガス排出口群116bの形成位置に対応させて、線X13よりも第1閉塞部材30側又は第2閉塞部材14側に寄って(X13)を中心として0.8×1/2L2〜1.2×1/2L2の範囲)位置していてもよい。
【0085】
第2ガス排出口群116bは、線X11と線X13の軸方向中間部(即ち、線X12)に形成されている。第2ガス排出口群116bは、第1ガス排出口群116a及び第3ガス排出口群116cの形成位置に対応させて、線X12よりも第1閉塞部材30側又は第2閉塞部材14側に寄って(X12を中心として0.8×1/2L2〜1.2×1/2L2の範囲)位置していてもよい。
【0086】
第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cの形成位置は、それぞれのガス排出口の中心と線X11、線X12、線X13が一致している場合と、ガス排出口の範囲内を線X11、線X12、線X13が通っている場合を含む。
【0087】
第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cは、第1ガス排出口の開口径(d11)、第2ガス排出口の開口径(d12)、第3ガス排出口の開口径(d13)が、d11>d12>d13の関係を満たしており、全ての開口部が内側から同じ金属製(アルミニウム製等)のシールテープで閉塞されている。この手段により、第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cの開口圧力(P1、P2、P3)の大小関係が調整されている。
【0088】
なお、「同じシールテープ」は、同じ破裂圧力のシールテープの意味であるから、材質や厚み等が異なっていても、同じ破裂圧力であれば同じシールテープとなる。シールテープは、全体として1つのシールテープでもよいし、2枚以上の同じシールテープを使用したものでもよい。
【0089】
11、d12、d13の比率は、ガス発生剤71の単位時間当たりのガス発生量等により調整されることが好ましいが、d11/d12の比率は1.1〜1.3の範囲にすることができ、d12/d13の比率は1.5〜2.1の範囲にすることができる。図2に示すガス発生器100では、d11=3mm、d12=2.4mm、d13=1.4mmである。
【0090】
図2のガス発生器100は、環境温度により、
第1ガス排出口群116aのみが開口する作動状態、
第1ガス排出口群116aと第2ガス排出口群116bが開口する作動状態、
第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cが全て開口する作動状態、
を実施することができる。
このため、図1に示すガス発生器10と比べると、環境温度に応じた出力性能のより細かい調整ができるようになる。
【0091】
図2のガス発生器100は、上記したものと同じ作用効果を得るため、第1ガス排出口の開口径(d11)、第2ガス排出口の開口径(d12)、第3ガス排出口の開口径(d13)を同一にして、第1ガス排出口群116aを閉塞するシールテープ117aの破裂圧力(p11)、第2ガス排出口群116bを閉塞するシールテープ117bの破裂圧力(p12)、第3ガス排出口群116cを閉塞するシールテープ117cの破裂圧力(p13)が、p11<p12<p13の関係を満たすようにすることもできる。この手段により、第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cの開口圧力(P1、P2、P3)の大小関係が調整されている。
【0092】
図2のガス発生器100は、上記したものと同じ作用効果を得るため、d11>d12>d13の関係を満たし、かつp11<p12<p13の関係を満たすようにすることもできる。この手段により、第1ガス排出口群116a、第2ガス排出口群116b、第3ガス排出口群116cの開口圧力(P1、P2、P3)の大小関係が調整されている。
【0093】
(3)図3のガス発生器
図3により、別実施形態のガス発生器200を説明する。ガス発生器200は、燃焼室が2つあるデュアルタイプのものであり、一方の燃焼室において、図1で示された構造が適用されている。
【0094】
ガス発生器200の外殻容器は筒状ハウジング212からなり、内部は、仕切板(仕切部材)250で軸方向に2室に分離されている。仕切板250は、筒状ハウジング212に間隔をおいて形成された、内側に突き出された2つの環状凸部214a、214bにより、位置決めされると共に、半径方向に押圧されている。
【0095】
第1閉塞部材230a側の室が、第1ガス発生剤271aが充填された第1燃焼室270aとなり、第2閉塞部材230b側の室が、第2ガス発生剤271bが充填された第2燃焼室270bとなる。
第1燃焼室270aを形成する部分の筒状ハウジングの直径(D)と長さ(L=図3のL3)の比率(L/D)は2.5である。
【0096】
第1燃焼室270aに面した筒状ハウジング212の周壁面には、複数のガス排出口(3つの異なる開口径のガス排出口)が周方向に形成され、第2燃焼室270bに面した筒状ハウジング212の周壁面には、複数のガス排出口(同じ開口径)218が周方向に形成されている。
【0097】
第1燃焼室270a側の開口部213aは、円板形状の第1閉塞部材(ボス)230aで閉塞されている。第1閉塞部材230aには、その中心部を貫通して、公知の電気式の点火器25aが取り付けられている。
【0098】
第1閉塞部材230aには、点火器25aを包囲して伝火室ハウジング240aが取り付けられている。伝火室ハウジング240a内は伝火室245aとなっており、公知の伝火薬やガス発生剤が充填されている。
【0099】
伝火室ハウジング240aはカップ状のものであり、底面241a、周面242a、開口部周縁に形成されたフランジ部243aを有している。底面241aには、伝火薬やガス発生剤が漏れ出ない大きさの複数の伝火孔244aが形成されている。
【0100】
第1閉塞部材230aの表面231から伝火室ハウジングの底面241aまでの長さ(L1)と、第1閉塞部材230aと仕切板250との軸方向の間隔(L3)は、L1<0.4L3の関係を満たしていることが好ましく、L1<0.2L3の関係を満たしていることがより好ましい。図3の実施形態では、L1=0.13L3である。
【0101】
第1燃焼室270a内は燃焼室となり、筒状フィルタ220が筒状ハウジング212の内周面との間に間隙22aを形成して配置されている。なお、伝火室ハウジングの周面242aと筒状フィルタ220間の空間には第1ガス発生剤271aは存在していない。
【0102】
筒状フィルタ220は、第1ガス発生剤271aの燃焼ガスを冷却・濾過する作用と共に、伝火室ハウジングのフランジ部243aの支持部材としても機能している。
【0103】
筒状フィルタ220は、端面220aがフランジ部243aに当接され、端面220bが仕切板250に当接されている。そして、筒状フィルタ220は、第1閉塞部材230aが端部212aをかしめる(即ち、内側に折り曲げる)ことで軸方向に押圧され(即ち、圧力を加えた状態で押しつけられ)、仕切板250に押しつけられている。このように筒状フィルタ220が支持部材となることにより、フランジ部243aも軸方向に押圧されて固定されている。
【0104】
図3では、環状凸部214aにより、筒状フィルタ220の半径方向の位置決めがなされている。第1閉塞部材230aと端部212aとの間には、必要に応じてOリング等のシール部材を配置してもよい。
【0105】
筒状ハウジング212の一端開口部213bは、円板形状の第2閉塞部材230bで閉塞されている。第2閉塞部材230bには、その中心部を貫通して、公知の電気式の点火器25bが取り付けられている。
【0106】
第2閉塞部材230bには、点火器25bを包囲して伝火室ハウジング240bが取り付けられている。伝火室ハウジング240b内は伝火室245bとなっており、公知の伝火薬やガス発生剤が充填されている。
【0107】
伝火室ハウジング240bはカップ状のものであり、底面241b、周面242b、開口部周縁に形成されたフランジ部243bを有している。底面241bには、伝火薬やガス発生剤が漏れ出ない大きさの複数の伝火孔244b形成されている。
【0108】
第2燃焼室270b内には、筒状フィルタ221が筒状ハウジング212の内周面との間に間隙22bを形成して配置されている。なお、伝火室ハウジングの周面242bと筒状フィルタ221間の空間には第2ガス発生剤271bは存在していないから、この空間は実質的に第2燃焼室270bとして機能しない。
【0109】
筒状フィルタ221は、第2ガス発生剤271bの燃焼ガスを冷却・濾過する作用と共に、伝火室ハウジングのフランジ部243bの支持部材としても機能している。
【0110】
筒状フィルタ221は、端面221aが仕切板250に当接され、端面221bがフランジ部243bに当接されている。そして、筒状フィルタ221は、第2閉塞部材230bが端部212bをかしめる(即ち、内側に折り曲げる)ことで軸方向に押圧され(即ち、圧力を加えた状態で押しつけられており)、仕切板250に押しつけられている。このように、筒状フィルタ221が支持部材となることにより、フランジ部243bも軸方向に押圧されて固定されている。
【0111】
図3では、環状凸部214bにより、筒状フィルタ221の半径方向の位置決めがなされている。第2閉塞部材230bと端部212bとの間には、必要に応じてOリング等のシール部材を配置してもよい。
【0112】
第1燃焼室270aに面した筒状ハウジング212の周壁面に形成されたガス排出口は、複数の第1ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第1ガス排出口群216aと、複数の第2ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第2ガス排出口群216b、複数の第3ガス排出口(全て同一の開口径を有している)からなる第3ガス排出口群216cからなるものである。各群ごとに異なるシールテープ217a、217b、217cで内側から閉塞されている。これらのシールテープは、金属製(ステンレス製等)のものである。
【0113】
第1ガス排出口群216aは、全ての第1ガス排出口が第1閉塞部材230aと仕切板250との間の軸方向中間部(線X21)に位置に形成されている。第1ガス排出口群216aは、線X21よりも第1閉塞部材230a側又は仕切板250側に寄って(X21(ここで1/2L3=X21)を中心として0.8×1/2L3〜1.2×1/2L3の範囲)位置していてもよい。第1ガス排出口群216aの形成位置を線X21にすることで、仕切板250側のガス発生剤271aも燃焼されやすくなる。
【0114】
第3ガス排出口群216cは、第1ガス排出口群216a(即ち、線X21)と仕切板250の軸方向中間部(即ち、線X23)に形成されている。第3ガス排出口群216cは、第1ガス排出口群216a及び第2ガス排出口群216bの形成位置に対応させて、線X23よりも第1閉塞部材230a側又は仕切板250側に寄って(X23を中心として0.8×1/2L3〜1.2×1/2L3の範囲)位置していてもよい。
【0115】
第2ガス排出口群216bは、線X21と線X23の軸方向中間部(即ち、線X22)に形成されている。第2ガス排出口群216bは、第1ガス排出口群216a及び第3ガス排出口群216cの形成位置に対応させて、線X22よりも第1閉塞部材230a側又は仕切板250側に寄って(X22を中心として0.8×1/2L3〜1.2×1/2L3の範囲)位置していてもよい。
【0116】
第1ガス排出口群216a、第2ガス排出口群216b、第3ガス排出口群216cの形成位置は、それぞれのガス排出口の中心と線X21、線X22、線X23が一致している場合と、ガス排出口の範囲内を線X21、線X22、線X23が通っている場合を含む。
【0117】
第1ガス排出口群216a、第2ガス排出口群216b、第3ガス排出口群216cは、第1ガス排出口の開口径(d21)、第2ガス排出口の開口径(d22)、第3ガス排出口の開口径(d23)が、d21>d22>d23の関係を満たしている。この手段により、第1ガス排出口群216a、第2ガス排出口群216b、第3ガス排出口群216cの開口圧力(P1、P2、P3)の大小関係が調整されている。
【0118】
21、d22、d23の比率は、ガス発生剤71の単位時間当たりのガス発生量等により調整されることが好ましいが、d21/d22の比率は1.1〜1.3の範囲にすることができ、d22/d23の比率は1.5〜2.1の範囲にすることができる。図3に示すガス発生器200では、d21=3mm、d22=2.4mm、d23=1.4mmである。
【0119】
第1ガス排出口群216aを閉塞するシールテープ217aの破裂圧力(P11)、第2ガス排出口群216bを閉塞するシールテープ217bの破裂圧力(P12)、第3ガス排出口群216cを閉塞するシールテープ217cの破裂圧力(P13)は、P21<P22<P23の関係を満たしている。この手段により、第1ガス排出口群216a、第2ガス排出口群216b、第3ガス排出口群216cの開口圧力(P1、P2、P3)の大小関係が調整されている。
【0120】
図3に示すガス発生器200では、P21を基準としたとき、P22は1.7倍、P23は2.1倍に設定している。
【0121】
図3のガス発生器200は、環境温度の変化により、
第1ガス排出口群216aのみが開口する作動状態、
第1ガス排出口群216aと第2ガス排出口群216bが開口する作動状態、
第1ガス排出口群216a、第2ガス排出口群216b、第3ガス排出口群216cが全て開口する作動状態、
を実施することができる。
このため、図1に示すガス発生器10と比べると、環境温度に応じた出力性能のより細かい調整ができるようになる。特に図3のガス発生器200は、開口圧力が、開口径とシールテープの破裂圧力の両方で調整されていることから、出力性能のよりいっそう細かい調整ができる。
【0122】
以上の図1図3に示すガス発生器は、いずれも助手席エアバッグ用システムに使用されるガス発生器として適している。
【符号の説明】
【0123】
10 ガス発生器
12 筒状ハウジング
14 第2閉塞部材
16a 第1ガス排出口群
16b 第2ガス排出口群
17 シールテープ
20 筒状フィルタ
25 点火器
30 第1閉塞部材
40 伝火室ハウジング
45 伝火室
70 燃焼室
71 ガス発生剤
図1
図2
図3