特許第5770987号(P5770987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

特許5770987保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン
<>
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000002
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000003
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000004
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000005
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000006
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000007
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000008
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000009
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000010
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000011
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000012
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000013
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000014
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000015
  • 特許5770987-保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770987
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】保持器及びこの保持器を使用する遊星減速機又はエンジン
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20150806BHJP
   F16C 19/46 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   F16C33/54 Z
   F16C19/46
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-196584(P2010-196584)
(22)【出願日】2010年9月2日
(65)【公開番号】特開2012-52622(P2012-52622A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年6月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(72)【発明者】
【氏名】西村 雅
(72)【発明者】
【氏名】中川 勉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰延
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−156393(JP,A)
【文献】 特開2009−162353(JP,A)
【文献】 特開2007−040449(JP,A)
【文献】 実開昭50−090042(JP,U)
【文献】 特開2009−041757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/54
F16C 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深絞り加工によって形成された円筒体を、外径円筒部の両端に内径側に折り曲げられた鍔部と、軸方向の中央部分に内径側にV字状に凹む凹み部とを備えた断面がM型にプレス加工し、このプレス加工によって中央の凹み部の底部を縮径し、または外径円筒部を拡径して底部の肉厚を外径円筒部の肉厚より厚く形成し、このプレス加工した円筒体に、周方向に柱部を介して針状ころを収容する複数のポケットを形成し、上記鍔部と外径円筒部の繋ぎ目の径方向の面取り幅が、軸方向の面取り幅よりも大きいことを特徴とする偏心荷重が付加される用途に使用される針状ころ軸受用の保持器。
【請求項2】
上記底部の肉厚が、外径円筒部の肉厚の1.5倍以下である請求項1記載の針状ころ軸受用の保持器。
【請求項3】
上記外径円筒部と中央の凹み部の繋ぎ目の径方向の面取り幅が、軸方向の面取り幅よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の針状ころ軸受用の保持器。
【請求項4】
上記鍔部と外径円筒部の繋ぎ目の径方向の面取り幅が、軸方向の面取り幅よりも大きく、上記外径円筒部と中央の凹み部の繋ぎ目の径方向の面取り幅が、軸方向の面取り幅よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の針状ころ軸受用の保持器。
【請求項5】
請求項1〜の保持器を用いた針状ころ軸受。
【請求項6】
請求項の針状ころ軸受を遊星ギヤと遊星ピンの支持部に用いた遊星減速機。
【請求項7】
請求項の針状ころ軸受をコンロッド大端部に用いたエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保持器および転がり軸受に関し、特に、断面がM型をした円筒体からなるM型保持器およびこのようなM型保持器を備えた転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのコンロッド(コネクティングロッド)の大端部や、遊星減速機の遊星ギヤと遊星ピンの支持部には、針状ころ軸受を使用することが多い。
【0003】
このような用途に使用される針状ころ軸受の保持器には、偏芯運動により遠心力が負荷されるため、断面がM型をした円筒体からなるM型保持器がしばしば使用される。
【0004】
従来、このM型保持器の強度と軽量化を両立させるために、M型の中央の凹みの底部の肉厚を他の部位よりも薄くすることが特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−353809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、エンジンのコンロッドのように、遠心力が負荷される使用条件では、保持器が楕円変形することにより、中央の凹みの底部に設けられたころ止めところのすきまが減少し、ころと底部とが接触し易くなるため、底部に応力が集中し、破損に至る懸念がある。
【0007】
また、取付け誤差や偏荷重などによりころがスキューした場合に、保持器をねじる力が発生し、円筒体の外径円筒部と中央の凹み部との繋ぎ目などで破損する懸念がある。
【0008】
そこで、この発明は、保持器が楕円変形したり、保持器にねじるような力が加わった場合においても、保持器の破損を抑えることができるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る針状ころ軸受用の保持器は、周方向に柱部を介して針状ころを収容する複数のポケットを備える円筒体からなり、円筒体は、外径円筒部の両端に内径側に折り曲げられた鍔部と、軸方向の中央部分に内径側にV字状に凹む凹み部とを備えた断面がM型をし、中央の凹み部の底部の肉厚を外径円筒部の肉厚より厚く形成したことを特徴とする。
【0010】
上記凹み部の底部の肉厚は、外径円筒部の肉厚の1.5倍以下が望ましい。
1.5倍を超えると、底部の肉厚が厚くなりすぎて、ころの動き量(径方向のあそび)が確保できなくなるためである。
【0011】
上記凹み部の底部の肉厚と、外径円筒部の肉厚とを変化させるには、プレス加工によってM型の保持器を成形する際に、凹み部の底部を縮径し、または外径円筒部を拡径することによって行うことができるので、特許文献1に開示されているように、円筒体の肉厚を予め部分的に変更しておく必要がなく、成形工程も短縮できる。
【0012】
上記鍔部と外径円筒部の繋ぎ目の径方向の面取り幅を、軸方向の面取り幅よりも大きくし、あるいは上記外径円筒部と凹み部の繋ぎ目の径方向の面取り幅を、軸方向の面取り幅よりも大きくすることによって、外径面の面取り幅を小さくできる。これにより、保持器外径面のストレート長さ(面積)を大きく確保できるので、外径面の接触面圧を低減し、焼き付きや摩耗を防止できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るM型保持器は、凹み部の中央の底部の肉厚が厚く、剛性が高いので、保持器が楕円変形したり、保持器にねじるような力が加わったりした場合においても、破損を抑えることができる。
【0014】
また、このような保持器は、プレス加工によって製造できるので、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一実施形態に係る保持器を、柱部を含む断面で切断した場合の断面図である。
図2】(a)は、この発明の一実施形態に係る保持器をプレス加工により製造する際の底部の縮径と、外径円筒部の拡径により、底部と外径円筒部とに肉厚差が生じる状態の断面図、(b)は、外径円筒部を折り曲げて鍔部を形成する状態の断面図である。
図3】この発明の一実施形態に係る保持器の外径円筒部と鍔部のコーナ部に設けた面取り、および外径円筒部と凹み部の繋ぎ目の面取りを示す拡大図である。
図4】この発明の一実施形態に係る保持器の斜視図である。
図5図4に示す保持器にころを組み込んだ転がり軸受を示す斜視図である。
図6】この発明の一実施形態に係る保持器を製造する際の代表的な製造工程を示すフローチャートである。
図7】鋼板から円筒状部材を形成する工程の概略断面図であり、(A)深絞り工程、(B)穴開け工程、(C)トリミング工程を示す。
図8】押し広げ冶具を示す概略断面図である。
図9】分割金型を組み合わせた状態を軸方向から見た図である。
図10】第一の金型を内径側に移動した状態を示す図である。
図11】第二の金型を上下方向に移動した状態を示す図である。
図12】ネッキング冶具を示す概略断面図である。
図13】分割金型を組み合わせた状態を軸方向から見た図である。
図14】決め冶具を示す概略断面図である。
図15】コンロッドの大端部に保持器付きころを使用した2サイクルエンジンの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図4は、この発明の一実施形態に係る保持器11の斜視図である。
【0017】
保持器11は、周方向に柱部12を介して針状ころ20を収容する複数のポケット13を備える円筒体からなる。
円筒体は、図1の断面図に示すように、外径円筒部14の両端に内径側に折り曲げられた鍔部15と、軸方向の中央部分に内径側にV字状に凹む凹み部16とを備えた断面がM型をしている。この発明で軸方向とは、図4の矢印Aの方向である。
凹み部16は、内径側に凹む傾斜部16aと、この傾斜部16aの内径側の端部に設けられた、外径円筒部14と平行な底部16bを備えている。
底部16bの肉厚tは、外径円筒部14の肉厚tよりも厚く形成している。
【0018】
この底部16bの肉厚tは、外径円筒部tの肉厚の1.5倍以下が望ましい。1.5倍を超えると、底部16bの肉厚が厚くなりすぎて、針状ころ20の動き量(径方向のあそび)が確保できなくなるためである。
【0019】
底部16bの肉厚tを、外径円筒部tの肉厚よりも厚くするには、図2(a)の矢印Cのように、プレス加工の際に、底部16bが縮径され、傾斜部16a、外径円筒部14に向かって拡径されるように加工すればよい。そして、この後、図2(b)に示すように、鍔部15が折り曲げ加工される。
【0020】
したがって、プレス加工の前に、中央部分を肉厚に形成した円筒体を用意する必要はなく、製造工程も短縮することができる。
【0021】
この発明に係る保持器11は、図3に示すように、鍔部15と外径円筒部14の繋ぎ目のコーナ部分の面取りaと、外径円筒部14と傾斜部16aの繋ぎ目の面取りbを、いずれも径方向の面取り幅c、cが、軸方向の面取り幅d、dよりも大きくなるように形成している。
【0022】
このように、径方向の面取り幅c、cを軸方向の面取り幅d、dよりも大きくすることによって、外径円筒部14のストレート長さe(面積)を大きく確保できるので、外径面の接触面圧が低減され、焼き付きや摩耗を防止できる。
【0023】
図5は、保持器11を含む転がり軸受19を示す斜視図である。
転がり軸受19は、保持器11と、複数の円筒状のころ20とを含む。すなわち、転がり軸受19は、保持器付きころである。複数のころ20は、保持器11に設けられた複数のポケット13内に収容され、保持されている。
【0024】
次に、上記した保持器11の製造方法について説明する。
図6は、この発明の一実施形態に係る保持器の代表的な製造工程を示すフローチャートである。また、図7(A)〜(C)は、保持器の素材となる鋼板を中間体である円筒状部材にするまでの代表的な工程の概略断面図である。なお、図7(A)は、深絞り工程、図7(B)は、穴開け工程、図7(C)は、トリミング工程を示す。
【0025】
図6および図7(A)〜(C)を参照して、まず、保持器の素材となる鋼板21の深絞り加工を行い、鋼板21をカップ状に加工する(図6(A)、図7(A))。次に、カップ状の底部22の穴開けを行う(図6(B)、図7(B))。次に、トリミング加工により、鍔部23aをカットし、側部24が軸方向に真直ぐな形状の円筒状部材25を形成する(図6(C)、図7(C))。このように、円筒状部材25を製造することにより、板厚、すなわち、側部24の厚みをほぼ均一とした円筒状部材25を、容易に製造することができる。
【0026】
次に、上記した方法により得られた円筒状部材25を外径側に押し広げる押し広げ工程(図6(D))について説明する。図8は、この発明の一実施形態に係る保持器を製造する際に使用される押し広げ冶具26の一部を示す概略断面図である。なお、円筒状部材25の軸方向とは、図8中の矢印Bの方向またはその逆の方向を指す。
【0027】
まず、押し広げ冶具26の構成について説明する。図8を参照して、押し広げ冶具26は、径方向の分割線で分割可能な環状の第一の金型27と、2つの環状部材から構成され、軸方向の上下に配置される第二の金型28a、28bと、第一の金型27を内径側へ移動させる移動冶具29とを備える。第二の金型28a、28bは、円筒状部材25を挟んで、対向して設けられる。移動冶具29は、第一の金型27の上方に配置されている。移動冶具29の軸方向の端部30には、軸方向に対して傾斜する第一の傾斜部31が設けられている。
【0028】
第一の金型27は、90°間隔の径方向の分割線で4つの分割金型27a、27b、27c、27dに分割されている。すなわち、4つの分割金型27a〜27dを組み合わせて、1つの環状の第一の金型27を形成する。図9は、4つの分割金型27a〜27dを組み合わせた環状の第一の金型27を軸方向から見た図である。なお、図8では、対向する位置に配置される2つの分割金型27a、27bのみを示している。
【0029】
分割金型27a〜27dには、それぞれ内径側に突出した凸部32が設けられている。凸部32は、分割金型27a〜27dの軸方向の中央部付近に設けられている。また、凸部32を含めた分割金型27a〜27dの内径面33は、保持器の外形形状に沿う面となっている。
【0030】
第二の金型28a、28bは、円筒状部材25を径方向に押し広げる押し広げ金型である。すなわち、第二の金型28a、28bは、保持器の製造装置の構成部材の一つである。第二の金型28a、28bの両方の端部34a、34bには、凹部35が設けられている。凹部35は、両端部34a、34bの径を減ずるように設けられている。具体的には、第二の金型28a、28bのうち、凹部35が設けられている部分の径方向の寸法Dは、凹部35が設けられていない部分の径方向の寸法Eよりも小さく構成されている。また、寸法Dは、円筒状部材25の径方向の寸法Fよりも若干小さく構成されている。なお、凹部35の凹みは、凸部32の突出に対応した形状である。
【0031】
第二の金型28a、28bおよび移動冶具29は、軸方向、すなわち、図8中の矢印Bの方向またはその逆の方向に移動可能である。分割金型27a〜27dは、移動冶具29の軸方向の動きにより、内径側に移動可能である。具体的には、移動冶具29を図8中の矢印Bの方向に移動させると、分割金型27a〜27dはそれぞれ、第一の傾斜部31の傾斜に沿って、外径側の部分が内径側に押され、図8中の矢印Cの方向へ移動する。
【0032】
図8および図9を参照して、円筒状部材25を外径側に押し広げるとともに、円筒状部材25の外形を保持器の外形形状に形成する方法について説明する。まず、円筒状部材25を、分割金型27a〜27dの間であって、上下方向に配置された第二の金型28a、28bの間に配置させる。
【0033】
その後、移動冶具29を図8中の矢印Bの方向に移動させて、分割金型27a〜27dを、矢印Cの方向へ移動させる。そして、円筒状部材25の外径面36に、分割金型27a〜27dの凸部32を当接させる。なお、この状態を、図10に示す。このようにして、円筒状部材25の周りに、保持器の外形形状に沿う形状を有する外形金型である分割金型27a〜27dを配置させる。
【0034】
このように構成することにより、移動冶具29の軸方向の動きだけで、分割金型27a〜27dを内径側に移動させることができる。この場合、第一の傾斜部31により、分割金型27a〜27dを所定の位置に、円滑に、かつ、確実に移動させることができる。
【0035】
次に、第二の金型28a、28bを矢印Bまたはその逆の方向に向かって移動させ、円筒状部材25の両開口部である両鍔部37a、37b側から内部に挿入させる。この状態を、図11に示す。このとき、第二の金型28a、28bの両端部34a、34bには、環状の凹部35が設けられており、上記した寸法関係を有するため、円滑に挿入させることができる。
【0036】
ここで、凹部35が設けられていない部分の径方向の寸法は、凹部35が設けられた部分の径方向の寸法よりも大きく構成されているため、第二の金型28a、28bによって、円筒状部材25を内側から押し広げるようにして挿入する。その後、第二の金型28a、28bの両端部34a、34bが互いに当接するまで挿入する。ここで、第二の金型28a、28bの両端部34a、34bには、分割金型27a〜27dに設けられた凸部32に沿う形状の凹部35が設けられているため、円筒状部材25の側部24のうち、軸方向の中央部を内径側に凹んだ形状にすることができる。このようにして、円筒状部材25の側部24を、断面略V字状にし、分割金型27a〜27dの内径面33に沿う形状、すなわち、保持器の外形形状にすることができる。
【0037】
次に、上記した方法により得られた円筒状部材25にフランジを形成する鍔部折曲げ工程について説明する。鍔部折曲げ工程は、円筒状部材25の両鍔部37a、37bを径方向に所定の角度折曲げるネッキング工程(図6(E))と、ネッキング工程の後、両鍔部37a、37bを軸方向に垂直な方向に折曲げる決め工程(図6(F))とを含む。図10は、この発明の一実施形態に係る保持器を製造する際において使用されるネッキング冶具38の一部を示す概略断面図である。
【0038】
まず、ネッキング冶具38の構成について説明する。図12を参照して、ネッキング冶具38は、上記した第一の金型27と、2つの環状部材から構成され、上下方向に配置される第三の金型39a、39bと、円筒状部材25の内径側に配置され、径方向の分割線で分割可能な環状の第四の金型40と、第四の金型40の内径側に配置される挿入冶具41とを備える。第三の金型39a、39bは、軸方向、すなわち、矢印Bの方向またはその逆の方向に移動可能である。第三の金型39a、39bは、押し広げられた円筒状部材25の鍔部を内径側に折曲げる鍔部折曲げ金型である。すなわち、第三の金型39a、39bは、保持器の製造装置の構成部材の一つである。挿入冶具41は、棒状の部材である。
【0039】
第四の金型40は、45°間隔の径方向の分割線で8つの分割金型40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hに分割されている。すなわち、8つの分割金型40a〜40hを組み合わせて、1つの環状の第四の金型40を形成する。図13は、組み合わされた8つの分割金型40a〜40hを軸方向から見た図である。なお、図12では、対向する位置に配置される2つの分割金型40a、40bのみを示している。
【0040】
分割金型40a〜40hの外径面42はそれぞれ、側部24が断面略V字状の円筒状部材25の内径面43に沿う形状である。すなわち、軸方向の中央部が、内径側に凹んだ形状である。分割金型40a〜40hをそれぞれ円筒状部材25の内部に組み入れ、その中央に挿入冶具41を配置させることにより、分割金型40a〜40hの外径面42は、ほぼ隙間なく、円筒状部材25の内径面43と当接する。また、分割金型40a〜40hの軸方向の両端部には、軸方向に対して傾斜した第二の傾斜部44が設けられている。
【0041】
第三の金型39a、39bの両端部には、その径方向の中央部が凹んだ凹部45が設けられている。凹部45の外径側には、軸方向から傾斜した第三の傾斜部46が設けられている。第三の傾斜部46の傾斜は、第二の傾斜部44の傾斜に沿う形状である。
【0042】
次に、図12および図13を参照して、円筒状部材25の両鍔部37a、37bを内径側に所定の角度折曲げるネッキング方法について説明する。まず、分割金型27a〜27dの中央に配置させた円筒状部材25の内径側に、第四の金型40を構成する分割金型40a〜40hをそれぞれ挿入し、外径面42が内径面43に当接するように配置させる。この場合、分割金型27a〜27dは分割されているため、それぞれの分割金型27a〜27dを容易に挿入することができる。円筒状部材25は、第一および第四の金型27、40によって、径方向に固定された状態となる。
【0043】
次に、第三の金型39a、39bを軸方向に動かし、上下方向から円筒状部材25に向かって移動させる。そうすると、円筒状部材25の両鍔部37a、37bを、第二および第三の傾斜部44、46の形状に沿って、内径側に所定の角度押し曲げることができる。このようにして、第三の金型39a、39bの軸方向の動きにより、ネッキングを行う。こうすることにより、後の工程で、容易に、両鍔部37a、37bを内径側の軸方向に垂直な方向に折曲げることができる。また、第三の金型39a、39bおよび第四の金型40により、正確に折曲げることができる。なお、折曲げられた両鍔部37a、37bの外径面は、最終的には保持器の幅面となる。
【0044】
その後、両鍔部37a、37bを軸方向に垂直な方向に折曲げる決め工程を行う。まず、決め工程に使用される決め冶具47の構成について説明する。図14は、この発明の一実施形態に係る保持器を製造する際において使用される決め冶具47の一部を示す概略断面図である。図14を参照して、決め冶具47は、上記した第一の金型27と、挿入冶具41と、上記した第三の金型39a、39bと同様、円筒状部材25の上下方向に配置される第五の金型48a、48bと、上記した第四の金型40と同様、円筒状部材の内径側に配置される第六の金型49とを備える。
【0045】
第五の金型48a、48bは、第三の金型39a、39bとほぼ同様の構成であり、異なる点は、両端部が軸方向に垂直な方向の平面50で構成されている点である。平面50の表面粗さRaは、0.5μm以下にすることが好ましい。第五の金型48a、48bもまた、押し広げられた円筒状部材25の鍔部を内径側に折曲げる鍔部折曲げ金型である。すなわち、第五の金型48a、48bは、保持器の製造装置の構成部材の一つである。また、第六の金型49は、第四の金型40とほぼ同様の構成であり、異なる点は、端部が軸方向に垂直な方向の平面51で構成されている点である。
【0046】
ネッキング工程により、両鍔部37a、37bが所定の角度、内径側に折曲げられた円筒状部材25の内径側に、挿入冶具41を用いて、第六の金型49を配置させる。その後、上下方向から、第五の金型48a、48bによって両鍔部37a、37bを押す。そうすると、両鍔部37a、37bは、平面50、51によって、軸方向に垂直な方向に折曲げられた形状となる。このようにして、軸方向に垂直な方向のフランジを形成する。この場合、予め、上記したネッキング工程によって、両鍔部37a、37bが所定の角度、内径側に折曲げられているため、平面50、51によって、外径側に折曲げられることはない。このようにして、両鍔部37a、37bが内径側の軸方向に垂直な方向に折曲げられたフランジを形成する。
【0047】
その後、円筒状部材25の側部をポケット抜きしてころを保持するポケットを形成する(図6(H))。最後に、熱処理を施し、最終的な保持器を得る(図6(I))。なお、要求される特性や機能、用途等、必要に応じて、その表面にメッキ被膜処理等を施してもよい。
【0048】
以上のように、保持器は、側部が軸方向に真直ぐな円筒状部材の両開口部側から、径方向に凹んだ凹部を有し、円筒状部材の軸方向に動く押し広げ金型を挿入して、円筒状部材を外径側に押し広げ、押し広げられた円筒状部材の鍔部を、円筒状部材の軸方向に動く折曲げ金型によって、内径側に折曲げて製造されている。したがって、金型の上下方向の動きだけで、容易に、上記した構成の保持器を製造することができる。
【0049】
ここで、上記工程をトランスファプレスによって、一貫して製造することにしてもよい。コイニング加工は、金型を軸方向に動かして行っているため、上記した押し広げ工程および鍔部折曲げ工程と共に一貫して行うことができる。したがって、さらに生産性を向上することができる。
【0050】
なお、このようにして製造された保持器のポケットにころを組み込んで、保持器付きころを製造する。
【0051】
このような保持器付きころは、たとえば、コンロッドの大端部に有効に利用される。図15は、コンロッドの大端部に、上記した保持器付きころを使用した2サイクルエンジンの縦断面図である。図15を参照して、2サイクルエンジン61は、回転運動を出力するクランク軸64と、混合気の燃焼により直線往復運動を行うピストン66と、クランク軸64とピストン66とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド65とを有する。クランク軸64は、回転中心軸71を中心に回転し、バランスウェイト72によって回転のバランスをとっている。
【0052】
コンロッド65は、直線状棒体の下方に大端部74を、上方に小端部75を設けたものからなる。クランク軸64は、コンロッド65の大端部74に、ピストン66とコンロッド65を連結するピストンピン73は、コンロッド65の小端部75に、それぞれ転がり軸受67を介して回転自在に支持されている。
【0053】
ガソリンと潤滑油とを混合した混合気は、吸気孔68からクランク室63へ送り込まれてから、ピストン66の上下動作に応じてシリンダ62の上方の燃焼室70へ導かれ燃焼される。燃焼された排気ガスは排気孔69から排出される。
【0054】
上記したコンロッドの大端部に備えられ、クランク軸を支持する転がり軸受には、上記した保持器付きころが使用される。
なお、上記の実施の形態においては、転がり軸受は、保持器付きころとしたが、これに限らず、内輪や外輪等の軌道輪を備えた転がり軸受についても適用される。
【0055】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明に係る保持器は、破損の恐れが少ないため、長寿命が要求される、遊星減速機の遊星ギヤと遊星ピンの支持部、汎用エンジン、農機用エンジンまたは2輪車用エンジンのコンロッド大端部などに有効に利用される。
【符号の説明】
【0057】
11 保持器
12 柱部
13 ポケット
14 外径円筒部
15 鍔部
16 凹み部
16a 傾斜部
16b 底部
20 針状ころ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15