(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、引張強度1100MPa以上の超高強度鋼板、超高強度GI鋼板および超高強度GA鋼板の加工性(強度・伸びバランスおよび曲げ加工性)を改善するために、特に金属組織に着目して鋭意検討を重ねてきた。その結果、これら鋼板の金属組織を、マルテンサイト主体として1100MPa以上の引張強度を確保し、且つ第2相としてベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトの軟質相を生成させると共に、ポリゴナルフェライトの生成を抑制し、ベイニティックフェライトの生成を促進し、且つ軟質相の大きさのバラツキ(変動係数)を適切に制御すれば、超高強度領域における加工性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。このうち軟質相の大きさの変動係数は所望の特性を確保するために極めて重要な要件であり、金属組織の分率が上記範囲を満足していてもこの変動係数が本発明の範囲を外れると、超高強度域における強度・伸びバランスおよび曲げ加工性(特に曲げ加工性)が低下することが明らかになった(後記する実施例を参照)。
【0017】
まず、本発明を完成した経緯を説明する。
【0018】
本発明者らは、1100MPa以上の引張強度を確保しつつ曲げ加工時の割れ発生を防止し、且つ強度・伸びバランスを改善するために、鋼板の金属組織をマルテンサイト主体(具体的には、金属組織に対して50面積%以上)とし、ポリゴナルフェライトの生成は抑制し(具体的には、金属組織に対して5面積%以下)、ポリゴナルフェライトよりも硬質で、且つマルテンサイトよりも伸びに優れているベイニティックフェライトを積極的に生成(具体的には、金属組織に対して15面積%以上)させることにした。ところが、このように金属組織を制御することによっても曲げ加工時に割れが発生したり、強度・伸びバランスが依然として悪い場合があった。
【0019】
そこで更に検討したところ、上記ポリゴナルフェライトおよび上記ベイニティックフェライト(以下、まとめて軟質相という。)の大きさのバラツキ(本発明では、円相当直径の変動係数で評価する。)が、曲げ加工時の割れ発生および強度・伸びバランスに大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。上記軟質相の円相当直径を複数回測定したときに、その平均値が同じであっても、測定値にバラツキがあるときには曲げ加工時に割れが発生し易く、しかも強度・伸びバランスが劣化することが判明した。円相当直径の測定値にバラツキが生じている場合は、曲げ加工時に応力が均一に付与されず、円相当直径が大きな軟質相に応力が集中し、また軟質相の大小によって強度と伸びにバラツキが発生すると考えられる。
【0020】
次に、本発明の超高強度鋼板について具体的に説明する。
【0021】
本発明の超高強度鋼板の金属組織は、マルテンサイトと、軟質相であるベイニティックフェライトおよびポリゴナルフェライトとを有している。具体的には、マルテンサイトは、金属組織全体に対して50面積%以上、ベイニティックフェライトは、金属組織全体に対して15面積%以上であり、ポリゴナルフェライトは、金属組織全体に対して5面積%以下に抑制されている。そして、上記円相当直径の測定値のバラツキを変動係数で整理し、この変動係数を1.0以下に抑制されているところに最大の特徴を有している。なお、変動係数とは、測定結果から求められる標準偏差を測定結果の平均値で割った値(標準偏差/平均値)である。
【0022】
主相である上記マルテンサイトは、1100MPa以上の引張強度を確保するために必要な組織である。マルテンサイトが、金属組織全体に対して50面積%を下回ると強度を確保できない。従ってマルテンサイトは50面積%以上、好ましくは60面積%以上、より好ましくは70面積%以上とする。マルテンサイトの上限は、後述するベイニティックフェライトの生成量を確保するために85面積%とする。なお、マルテンサイトが多くなると伸びが劣化し、強度・伸びバランスが悪くなり、加工性が低下することがある。従ってマルテンサイトは、より好ましくは80面積%以下とする。
【0023】
第2相の上記軟質相は、ベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトから構成されており、これらの合計は金属組織全体に対して50面積%未満である。なお、ポリゴナルフェライトは、0面積%であってもよい。
【0024】
上記ベイニティックフェライトは、鋼板の伸びを高め、強度・伸びバランスを改善して加工性を向上させる組織である。また、ベイニティックフェライトは、ポリゴナルフェライトよりも硬質である。従ってポリゴナルフェライトの生成を抑制する一方で、ベイニティックフェライトを積極的に生成させることによって、フェライトとマルテンサイトとの硬度差を小さくでき、曲げ加工性を改善できる。よって本発明では、ベイニティックフェライトは、金属組織全体に対して15面積%以上、好ましくは20面積%以上、より好ましくは25面積%以上とする。ベイニティックフェライトは、上述したマルテンサイト分率の生成量を確保するために50面積%未満とする。なお、ベイニティックフェライトが多くなると、強度の確保が困難となる。従ってベイニティックフェライトは、より好ましくは45面積%以下、更に好ましくは40面積%以下とする。
【0025】
上記ポリゴナルフェライトは、金属組織全体に対して5面積%以下に抑制する。ポリゴナルフェライトは、好ましくは4面積%以下、より好ましくは3面積%以下であり、最も好ましくは0面積%である。
【0026】
上記ベイニティックフェライトとは、転位密度が高い下部組織を意味している。一方、上記ポリゴナルフェライトとは、等軸状のフェライトであり、転位が無いか又は転位密度が極めて低い下部組織を意味している。上記ベイニティックフェライトと上記ポリゴナルフェライトとは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)観察によって以下の通り明瞭に区別できる。
【0027】
上記ベイニティックフェライトおよび上記ポリゴナルフェライトの面積率は、次の様にして求めることができる。即ち、鋼板のt/4位置(tは板厚)における断面を観察できるようサンプルを切り出し、ナイタール腐食し、断面における任意の位置の測定領域(約20μm×約20μm)をSEM観察(観察倍率4000倍)する。このとき、SEM写真では、ベイニティックフェライトは濃灰色で示され、ポリゴナルフェライトは黒色で示される。また、ポリゴナルフェライトは、等軸状で、内部に残留オーステナイトやマルテンサイトを含んでいない。
【0028】
本発明では、上記軟質相(第2相)の円相当直径の変動係数を1.0以下とするところに特徴がある。円相当直径の変動係数が1.0を超えると、軟質相の大きさにバラツキが生じ、曲げ加工性や強度・伸びバランスが劣化する。上記変動係数は小さい程よく、1.0以下、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下とする。
【0029】
上記軟質相の円相当直径は、鋼板のt/4位置(tは板厚)をSEMで少なくとも3視野観察し、観察視野内に存在する軟質相(ベイニティックフェライトおよびポリゴナルフェライト)の全てを対象として測定する。円相当直径とは、軟質相の大きさに着目して、その面積が等しくなるように想定した円の直径を意味する。測定結果から標準偏差を求め、この標準偏差を測定結果の平均値で割って変動係数(標準偏差/平均値)を算出する。
【0030】
上記軟質相の円相当直径は、例えば、標準偏差が0.7〜1.4、平均値が1.1〜1.7μmであることが好ましい。軟質相の円相当直径は、例えば、最小値が0.05μm以上、最大値が3.3μm以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の超高強度鋼板の金属組織は、主相(母相)のマルテンサイトと第2相の軟質相(ベイニティックフェライトおよびポリゴナルフェフェライト)で構成されていればよく、本発明による作用効果を損なわない程度であれば他の金属組織(例えば、パーライト、ベイナイト、残留オーステナイトなど)が生成していてもよい。但し、他の金属組織は、5面積%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは4面積%以下、更に好ましくは3面積%以下である。
【0032】
本発明の超高強度鋼板は、金属組織が上記要件を満足するものであり、該鋼板の成分組成は、C:0.05〜0.25%、Si:0.5〜2.5%、Mn:2.0〜4%、P:0.1%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Al:0.01〜0.1%、およびN:0.01%以下(0%を含まない)を満足している必要がある。こうした範囲を定めた理由は以下の通りである。
【0033】
Cは、焼入れ性を向上させ、またマルテンサイトを硬質化して鋼の強度を確保するために欠くことのできない元素である。従ってCは、0.05%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.13%以上とする。しかしCが0.25%を超えると、強度が高くなり過ぎて伸びが悪くなり、強度と伸びのバランスを改善できず、加工性を向上させることができない。従ってCは0.25%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.18%以下とする。
【0034】
Siは、伸びを劣化させることなく、固溶強化により鋼の強度を高める元素である。またSiは、割れの起点となるセメンタイトの生成を抑制する作用を有している。さらに、Siは、後述するように、Ac
1点を高めて再結晶温度範囲を広げ、再結晶の促進に有効に作用し、上述した変動係数の低減に寄与する元素である。従ってSiは、0.5%以上、好ましくは0.75%以上、より好ましくは1%以上とする。しかしSiが2.5%を超えると、めっき性が劣化する。従ってSiは2.5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下とする。
【0035】
Mnは、焼入れ性を高め、強度を確保するために必要な元素である。従ってMnは、2.0%以上、好ましくは2.3%以上、より好ましくは2.5%以上とする。しかしMnは、後述するように、Ac
1点を低くして再結晶温度範囲を狭くし、再結晶の促進に悪影響を及ぼし、上述した変動係数を大きくする元素である。また、過剰に含有させるとめっき性が悪くなる。更に、過剰に含有させてMnが偏析すると強度が低下する。また、Mnは、Pの粒界偏析を助長し、粒界脆化を引き起こす元素である。従ってMnは4%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは3%以下とする。
【0036】
Pは、粒界偏析して粒界脆化を引き起こす元素である。従ってPは、0.1%以下、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.015%以下とする。
【0037】
Sは、鋼中に硫化物系介在物(例えば、MnSなど)を多く形成し、この介在物が割れの起点なり、加工性(特に、曲げ加工性)を劣化させる原因となる。従ってSは、0.05%以下、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下とする。
【0038】
Alは、脱酸剤として作用する元素である。従ってAlは、0.01%以上、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.03%以上とする。しかし過剰に含有させると、Al含有介在物(例えば、アルミナ等の酸化物など)が増加し、靱性や加工性を劣化させる原因となる。従ってAlは、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
【0039】
Nは、不可避的に含有する元素であり、過剰に含有すると加工性を劣化させる。また、鋼中にB(ホウ素)を含有させた場合には、BNを析出させ、Bによる焼入れ性向上作用を阻害するため、Nはできるだけ低減することが望まれる。従ってNは、0.01%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下とする。
【0040】
本発明に係る超高強度鋼板の基本成分組成は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物である。
【0041】
本発明の超高強度鋼板は、更に他の元素として、以下(a)〜(e)に示される元素を含有してもよい。
【0042】
[(a)Ti:0.10%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素]
Ti、Nb、およびVは、焼入れ性を向上させると共に、金属組織を微細化し、強度を高めるのに作用する元素である。また、これらの元素は、添加により再結晶開始温度を上昇させて再結晶温度範囲を狭め、上記変動係数を増大せしめる元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。しかし過剰に含有すると、上記変動係数が大きくなり、加工性が劣化する。従ってTiは0.10%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.09%以下、更に好ましくは0.08%以下とする。Nbは0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下とする。Vは0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下とする。なお、Tiは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上とする。Nbは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上とする。Vは0.01%以上含有させることが好ましい。
【0043】
[(b)Cr:1%以下(0%を含まない)、Cu:1%以下(0%を含まない)、およびNi:1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素]
Cr、Cu、およびNiは、いずれも強度を向上させるのに作用する元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0044】
Crは、セメンタイトの生成や成長を抑制し、曲げ加工性を改善するのにも作用する元素である。しかし過剰に含有するとCr炭化物が多く生成し、加工性が劣化する。また、Crを過剰に含有するとめっき性が悪くなる。従ってCrは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.7%以下、更に好ましくは0.4%以下とする。なお、Crは、0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.05%以上とする。
【0045】
一方、CuとNiは、いずれも鋼板の耐食性も向上させる元素である。しかし過剰に含有すると、熱間加工性が劣化する。従ってCuは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。Niは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。なお、Cuは、0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。Niは、0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。
【0046】
[(c)Mo:1%以下(0%を含まない)および/またはW:1%以下(0%を含まない)]
MoとWは、いずれも強度を向上させるのに作用する元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、併用しても構わない。しかしMoを過剰に含有させても添加効果は飽和し、コスト高となる。従ってMoは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下とする。一方、Wを過剰に含有させると伸びが悪くなり、加工性が劣化する。従ってWは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下とする。なお、Moは、0.01%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.03%以上、更に好ましくは0.05%以上とする。Wは、0.01%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上とする。
【0047】
[(d)B:0.005%以下(0%を含まない)]
Bは、焼入れ性を向上させて強度を高める作用を有する元素である。しかし過剰に含有すると、熱間加工性が劣化する。従ってBは0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003%以下、更に好ましくは0.001%以下とする。なお、Bは0.0002%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.0003%以上、更に好ましくは0.0005%以上とする。
【0048】
[(e)Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、およびREM:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素]
Ca、Mg、およびREM(希土類元素)は、いずれも鋼中の介在物の形態を制御する作用を有しており、介在物を微細分散させて加工性の改善に寄与する元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。しかし過剰に含有すると却って加工性が劣化する。従ってCaは0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.004%以下、更に好ましくは0.003%以下とする。Mgは0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.004%以下、更に好ましくは0.003%以下とする。REMは0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003%以下、更に好ましくは0.001%以下とする。なお、Caは、0.0005%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.0007%以上、更に好ましくは0.0009%以上とする。Mgは、0.0005%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.001%以上、更に好ましくは0.0015%以上とする。REMは、0.0001%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.00013%以上、更に好ましくは0.00015%以上とする。
【0049】
なお、本発明において、REM(希土類元素)とは、ランタノイド元素(原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの15元素)および原子番号21のSc(スカンジウム)と原子番号39のY(イットリウム)を含む意味である。これらの元素のなかでも、La、CeおよびYよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましく、より好ましくはLaおよび/またはCeを含有するのがよい。
【0050】
以上、本発明の超高強度鋼板について説明した。
【0051】
上記超高強度鋼板の表面には、溶融亜鉛めっき層を形成して超高強度GI鋼板としてもよい。また、GI鋼板の溶融亜鉛めっき層は合金化してもよく、本発明には、上記超高強度GI鋼板に合金化処理を施して得られる超高強度GA鋼板も含まれる。
【0052】
次に、本発明の超高強度鋼板を製造する方法について説明する。
【0053】
マルテンサイトを主体とし、第2相の軟質相を構成するベイニティックフェライトとポリゴナルフェライトの生成バランスを適切に制御し、且つ該軟質相の円相当直径の変動係数を所定の範囲に制御するには、冷延条件、均熱条件、および均熱後の冷却条件を適切に制御することが重要である。即ち、上記成分組成を満足する熱延鋼板を、冷延率CR(%)が下記式(1)を満足するように冷間圧延した後、Ac
3点前後(具体的には、Ac
3点−10℃以上、Ac
3点+50℃以下)に昇温することによってこの昇温過程で充分に再結晶を行い、軟質相の円相当直径の変動係数を所定値以下に抑える。なお、下記式(1)中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を表す。
0.4×CR−400×[Ti]−250×[Nb]−150×[V]+10×[Si]−10×[Mn]+10≧0 ・・・(1)
【0054】
次に、上記Ac
3点前後で均熱処理することによってポリゴナルフェライトの生成を抑制すると共に、マルテンサイトの生成を促進する。そして、冷却する(具体的には、冷却停止温度を550℃以下、450℃以上とする)ことによってベイニティックフェライトを生成させる。
【0055】
以下、本発明の超高強度鋼板の製造方法について具体的に説明する。
【0056】
まず、上記成分組成を有する熱延鋼板を準備する。熱間圧延は常法に従って行えばよいが、仕上げ温度を確保し、またオーステナイト粒の粗大化を防止するために、加熱温度は1150〜1300℃程度とすればよい。仕上げ圧延は、加工性を阻害する集合組織を形成させないように仕上げ圧延温度を850〜950℃として行い、巻き取ればよい。
【0057】
熱間圧延後は、必要に応じて常法に従って酸洗した後、冷間圧延する。冷間圧延は、冷延率CRが、上記式(1)を満足するように行う。
【0058】
上記式(1)は、軟質相の大きさのバラツキを低減するためには加熱中に再結晶を充分行うことが有効であるとの観点に基づき設定されたものである。再結晶の程度は、再結晶開始温度からAc
1点までの再結晶温度範囲と相関があると考えられるため、再結晶温度範囲を広げることによって軟質相の大きさのバラツキを低減でき、最終的に所望とする曲げ加工性と強度・伸びバランスを確保できる。本発明者らは、再結晶開始温度に影響を及ぼす因子として冷延率CR、Ti、Nb、およびVを、Ac
1点に影響を及ぼす因子としてSiおよびMnを抽出し、各因子の再結晶温度範囲への寄与率および軟質相の大きさのバラツキに及ぼす影響について多くの基礎実験を重ねて検討した結果、再結晶温度範囲の程度Zを導出した。
【0059】
上記式(1)に示すように、各成分の含有量との関係で冷延率CRを適切に制御することにより、再結晶温度範囲が充分広げられるため軟質相の大きさのバラツキを小さくすることができる。
【0060】
このうち冷延率CRおよびSiは、再結晶温度範囲の拡大に寄与する正の因子である。詳細には、冷延率CRが大きくなると、導入される歪が多くなるため、再結晶開始温度が低くなり、再結晶温度範囲を広げる方向に作用する。Siは、フェライト生成元素であり、Ac
1点の温度を高くし、再結晶温度範囲を広げる方向に作用する。
【0061】
一方、Ti、Nb、V、およびMnは、上記とは異なる負の因子であり、再結晶温度範囲を狭くする因子である。詳細には、Ti、Nb、およびVは、炭窒化物が再結晶粒の成長を抑制するため、再結晶開始温度を高くし、再結晶温度範囲を狭くする方向に作用する。Mnは、オーステナイト生成元素であり、Ac
1点の温度を低くし、再結晶温度範囲を狭くする方向に作用する。
【0062】
上記式(1)の左辺の値(以下、Z値ということがある。)が正(0以上)であるということは、再結晶温度範囲が広く、昇温過程で充分再結晶が起こり、上記変動係数を低減できることを示している。
【0063】
なお、Ti、Nb、およびVは、必須元素ではなく、これらの元素を含有しない場合は、上記式(1)の該当箇所に「0質量%」を代入してZ値を算出すればよい。
【0064】
冷間圧延後は、Ac
3点−10℃以上、Ac
3点+50℃以下の温度範囲に加熱保持して均熱処理することによって、ポリゴナルフェライトの生成を抑制し、且つマルテンサイトの生成を促進できる。均熱処理温度がAc
3点−10℃を下回ると、ポリゴナルイフェラ
イトが多く生成し、マルテンサイトの生成が抑制され、強度を高めることができない。従って均熱処理温度はAc
3点−10℃以上、好ましくはAc
3点−5℃以上、より好ましくはAc
3点以上とする。しかし均熱処理温度がAc
3点+50℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化し、加工性が悪化する。従って均熱処理温度はAc
3点+50℃以下、好ましくはAc
3点+40℃以下、より好ましくはAc
3点+30℃以下とする。
【0065】
均熱処理時の保持時間は特に限定されず、例えば10〜100秒程度(特に10〜80秒程度)であればよい。
【0066】
なお、Ac
3点(加熱時フェライト変態終了温度)は、下記式(i)に基づいて算出される。式中[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。この式は、「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社発行、William C. Leslie著、p273)に記載されている。
Ac
3(℃)=910−203×[C]
1/2−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]−{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]−700×[P]−400×[Al]−120×[As]−400×[Ti]} ・・(i)
【0067】
均熱処理後は、550℃以下、450℃以上の冷却停止温度まで冷却することによってベイニティックフェライトを生成させる。冷却停止温度が550℃を超えると、ベイニティックフェライトの生成量が少なくなり、曲げ加工性および強度・伸びバランスが低下する。従って冷却停止温度は550℃以下、好ましくは540℃以下、より好ましくは530℃以下とする。しかし冷却停止温度が450℃を下回ると、ベイニティックフェライトが多く生成し、マルテンサイトの生成量が減少し、強度を確保できない。従って冷却停止温度は、450℃以上、好ましくは460℃以上、より好ましくは470℃以上とする。
【0068】
均熱処理温度から冷却停止温度まで冷却するときの平均冷却速度は、パーライト等の生成を防止するために、例えば、1℃/秒以上とすればよい。平均冷却速度が1℃/秒未満では冷却中にパーライト組織が生成し、これが最終組織として残って伸びを劣化する原因となる。平均冷却速度は5℃/秒以上とすることが好ましい。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると100℃/秒程度とするのがよい。平均冷却速度は、好ましくは50℃/秒以下であり、より好ましくは30℃/秒以下である。
【0069】
550℃以下、450℃以上の温度範囲に冷却した後は、この温度範囲で1〜200秒程度(特に超高強度鋼板の場合は100〜200秒程度、後述する超高強度GI鋼板または超高強度GA鋼板の場合は1〜100秒程度)保持することによってベイニティックフェライトを生成させることができ、本発明に係る超高強度鋼板を得ることができる。
【0070】
上記保持後は、得られた超高強度鋼板の表面に、常法に従って溶融亜鉛めっき層を形成することによって本発明に係る超高強度GI鋼板を得ることができる。例えば、めっき浴温度を、400〜500℃として溶融亜鉛めっきを行うことが好ましく、より好ましくは440〜470℃である。めっき浴の組成は特に限定されず、公知の溶融亜鉛めっき浴を用いればよい。
【0071】
溶融亜鉛めっき後は、常法に従って冷却することにより所望組織の超高強度GI鋼板が得られる。具体的には、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することで、鋼板中のオーステナイトをマルテンサイトに変態させ、マルテンサイト主体の金属組織が得られる。平均冷却速度が1℃/秒未満では、マルテンサイトが生成し難く、パーライトや中間段階変態組織が生成するおそれがある。平均冷却速度は5℃/秒以上とすることが好ましい。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると50℃/秒程度とするのがよい。平均冷却速度は、好ましくは40℃/秒以下、より好ましくは30℃/秒以下である。
【0072】
上記超高強度GI鋼板に常法の合金化処理を施すことによって、超高強度GA鋼板を製造できる。即ち、合金化処理は、上記条件で溶融亜鉛めっきした後、500〜600℃程度(特に530〜580℃程度)で、5〜30秒程度(特に10〜25秒程度)保持して行えばよい。合金化処理は、例えば、加熱炉、直火、または赤外線加熱炉などを用いて行えばよい。加熱手段も特に限定されず、例えば、ガス加熱、インダクションヒーター加熱(高周波誘導加熱装置による加熱)など慣用の手段を採用できる。
【0073】
合金化処理後は、常法に従って冷却することにより所望組織の超高強度GA鋼板が得られる。具体的には、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することで、マルテンサイト主体の金属組織が得られる。
【0074】
上記超高強度GI鋼板または上記超高強度GA鋼板には、各種塗装や塗装下地処理(例えば、リン酸塩処理などの化成処理)、有機皮膜処理(例えば、フィルムラミネートなどの有機皮膜の形成)などを行なってもよい。
【0075】
各種塗装に用いる塗料には、公知の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂などを使用できる。耐食性の観点から、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂が好ましい。前記樹脂とともに、硬化剤を使用しても良い。また塗料は、公知の添加剤、例えば、着色用顔料、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤などを含有していても良い。
【0076】
本発明において塗料形態に特に限定はなく、あらゆる形態の塗料、例えば、溶剤系塗料、水系塗料、水分散型塗料、粉体塗料、電着塗料などを使用できる。また塗装方法にも特に限定にはなく、ディッピング法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法、電着塗装法などを使用できる。被覆層(めっき層、有機皮膜、化成処理皮膜、塗膜など)の厚みは、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0077】
本発明の超高強度鋼板は、超高強度で、しかも加工性(曲げ加工性および強度・伸びバランス)に優れているため、自動車用強度部品、例えば、フロントやリア部のサイドメンバ、クラッシュボックスなどの衝突部品をはじめ、センターピラーレインフォースなどのピラー類、ルーフレールレインフォース、サイドシル、フロアメンバー、キック部などの車体構成部品に使用できる。
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0079】
下記表1または表2に示す成分組成(残部は、鉄および不可避不純物)のスラブを、1250℃に加熱し、仕上げ温度を900℃として熱間圧延した後、酸洗してから下記表3または表4に示す冷延率CR(%)で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。なお、下記表1において、REMは、Laを50%程度、Ceを30%程度含有するミッシュメタルを用いた。また、下記表1または表2に、各スラブの成分組成と上記式(i)に基づいて算出したAc
3点の温度を示す。また、下記表3および表4に、冷間圧延時の冷延率CRとスラブの成分組成に基づいて、上記式(1)の左辺の値(Z値)を算出して示す。
【0080】
得られた冷延鋼板を平均昇温速度10℃/秒で下記表3または表4に示す均熱温度まで加熱し、この温度で50秒間保持して均熱処理した後、下記表3または表4に示す冷却停止温度まで平均冷却速度10℃/秒で冷却し、この温度で50秒間または180秒間保持した。下記表3または表4に、下記表1または表2に示したAc
3点の温度に基づいて算出した「Ac
3点−10℃」および「Ac
3点+50℃」を示す。また、冷却停止温度での保持時間を示す。
【0081】
上記保持後、得られた一部の冷延鋼板には溶融亜鉛めっきを施してGI鋼板を製造するか(No.9〜14)、溶融亜鉛めっき後、更に加熱して合金化処理を行い、GA鋼板を製造した(No.1〜8、15〜24)。なお、No.25〜33は、これらのめっき処理を行っていない冷延鋼板ままのものである。
【0082】
GI鋼板は、上記保持後、460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬(浸漬時間50秒程度)させて溶融亜鉛めっきを施した後、室温まで平均冷却速度10℃/秒で冷却して製造した。
【0083】
GA鋼板は、上記溶融亜鉛めっきを施した後、550℃に加熱し、この温度で20秒間保持して合金化処理を行ってから室温まで平均冷却速度10℃/秒で冷却して製造した。
【0084】
下記表3または表4にめっきの種類(GIまたはGA)を示す。なお、表中、「無し」は、めっきを施していない冷延鋼板を示している。
【0085】
得られた冷延鋼板、GI鋼板またはGA鋼板の金属組織を次の手順で観察し、マルテンサイトおよび軟質相(ベイニティックフェライトおよびポリゴナルフェライト)の分率を測定した。
【0086】
《金属組織の観察》
鋼板の金属組織は、板幅方向に対して垂直な断面を露出させ、この断面を研磨し、更に電解研磨した後、腐食させたものをSEM観察した。観察位置はt/4位置(tは板厚)とし、SEMで撮影した金属組織写真を画像解析し、マルテンサイト、ベイニティックフェライト、およびポリゴナルフェライトの面積率を夫々測定した。観察倍率は4000倍、観察領域は20μm×20μmとし、観察は3視野について行い、平均値を算出した。算出結果を下記表3または表4に示す。
【0087】
また、上記金属組織写真(3視野分の写真)を画像解析し、軟質相(ベイニティックフェライトおよびポリゴナルフェライト)の円相当直径を測定し、その標準偏差を算出した。また、測定結果の平均値を算出し、標準偏差と平均値から変動係数(標準偏差/平均値)を算出した。下記表3または表4に、標準偏差、平均値、変動係数を示す。また、下記表3または表4には、測定結果のうち、円相当直径の最小値および最大値を併せて示した。
【0088】
図1に、上記式(1)の左辺の値(Z値)と、軟質相の円相当直径の変動係数との関係をグラフに示す。
図1から明らかなように、Z値が0以上となるように冷延率CR(%)を制御すれば、軟質相の円相当直径の変動係数は1.0以下に抑えられる傾向が読み取れる。
【0089】
次に、得られた冷延鋼板、GI鋼板またはGA鋼板の機械的特性および加工性を調べた。
【0090】
《機械的特性》
鋼板の圧延方向に垂直な方向と試験片の長手方向が平行になるようにJIS 5号引張試験片を鋼板から採取し、JIS Z2241に従って引張強度(TS)および伸び(EL)を測定した。測定結果を下記表5に示す。本実施例では、引張強度が1100MPa以上のものを「超高強度」(合格)とした。
【0091】
《加工性》
鋼板の加工性は、(a)TS×ELの値と、(b)曲げ試験の結果を総合して評価した。
【0092】
(a)上記機械的特性の測定結果からTS×ELの値を算出し、算出結果を下記表5に示す。TS×ELの値が15000MPa・%以上の場合を合格(○)、15000MPa・%未満の場合を不合格(×)と評価し、評価結果を下記表5に示す。
【0093】
(b)曲げ試験は、鋼板の圧延方向に垂直な方向と試験片の長手方向が平行になるように鋼板から切り出した20mm×70mmの試験片を用い、曲げ稜線が長手方向となるように90°V曲げ試験を行った。曲げ半径Rを適宜変化させて試験を実施し、試験片に割れが発生することなく曲げ加工できる最小曲げ半径R
minを求めた。最小曲げ半径R
minが2.3×t(tは板厚)以下の場合を曲げ加工性に優れている(合格○)、2.3×t(tは板厚)を超える場合を曲げ加工性に劣っている(不合格×)と評価し、評価結果を下記表5に示す。
【0094】
本実施例では、TS×ELの値が合格(○)で、且つ、V曲げ試験の結果が合格(○)の場合を「加工性に優れる」と評価し(総合評価○)、TS×ELの値および曲げ試験の結果のうち、少なくとも一方が不合格(×)の場合は「加工性に劣る」と評価した(総合評価×)。
【0095】
ここで、上記式(1)を下記式(2)のように変形した左辺の値(400×[Ti]+250×[Nb]+150×[V]−10×[Si]+10×[Mn]−10)をX値とし、この値を下記表3または表4に示す。
【0096】
また、冷延率CRとX値との関係を
図2に示す。
図2中、○は、引張強度が1100MPa以上で、且つ加工性に優れる結果を示しており、×は引張強度が1100MPa以上であるが、加工性に劣る結果を示している。また、
図2に示した直線は、X値=0.4×CRを示している。なお、
図2には、表3および表4において、鋼中成分および製造条件[上記(1)式を除く]が本発明の要件を満足する例(No.1〜7、9〜12、15、17、18、20、22〜33)についてプロットした。
400×[Ti]+250×[Nb]+150×[V]−10×[Si]+10×[Mn]−10≦0.4×CR ・・・(2)
【0097】
図2から明らかなように、冷延率CRとX値が上記式(2)で規定する関係を満足すれば、1100MPa以上の引張強度と加工性を両立できることが分かる。
【0098】
下記表1〜表5から次のように考察できる。
【0099】
No.2、4、6、7、9、11、12、15、17、20、23〜28、31、33は、本発明で規定する要件を満足する例であり、引張強度1100MPa以上の超高強度で、且つ、加工性(強度・伸びバランスおよび曲げ加工性)に優れている。
【0100】
No.1、3、5、10、16、18、22、29、30、32は、Z値が0を下回っており、式(1)を満足しないため、軟質相の円相当直径の変動係数が1.0を超えて大きくなり、加工性を改善できていない。
【0101】
本発明において、軟質相の円相当直径の変動係数が曲げ加工性と強度・伸びバランスの確保に大きな影響を及ぼしていることは、例えば表3のNo.2、3(鋼種B、鋼種Cを使用)、No.4、5(鋼種Dを使用)、No.22、23(鋼種Qを使用)、No.26、29(鋼種T、鋼種Vを使用)、No.31、32(鋼種X、鋼種Yを使用)を対比することによって確認することができる。即ち、これらはいずれも、本発明で規定する好ましい鋼中成分を満足する鋼種を用い、金属組織の分率も本発明で規定する要件を満足する例であるが、変動係数が小さく制御された例(No.2、4、23、26、31)は所望の特性(曲げ加工性と強度・伸びバランス)を確保できているのに対し、変動係数が大きい例(No.3、5、22、29、32)は、少なくともいずれか一方の特性が低下した。変動係数が大きくなった上記例は、Z値のみが本発明で規定する要件を外れる例であり、Z値の制御が変動係数の制御に重要な要件を及ぼすことも確認された。
【0102】
No.8は、均熱温度が低過ぎるため、ベイニティックフェライトを所定量以上生成させることができず、ポリゴナルフェライトが多く生成した例である。また、軟質相の円相当直径の変動係数が1.0を超えて大きくなっている。従って、加工性を改善できていない。
【0103】
No.13は、Siが少ない例であり、TSが大きくなる反面、ELが低下し、強度と伸びのバランスが悪い。また、V曲げ試験の結果も悪い。従って加工性を改善できていない。
【0104】
No.14は、Mnが少ない例であり、焼入れ性が低下し、マルテンサイトが少なく、ポリゴナルフェライトが多く生成したため、TSが1100MPaを下回っている。
【0105】
No.19は、冷却停止温度が高い例であり、ベイニティックフェライトが少なくなり、強度と伸びのバランスが悪くなっている。従って加工性を改善できていない。
【0106】
No.21は、冷却停止温度が低い例であり、マルテンサイトの生成量が少なくなり、ベイニティックフェライトの生成量が多くなった結果、TSが1100MPaを下回っている。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】