【実施例】
【0044】
以下に、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに詳しく述べる。
【0045】
〔実施例1〕
(1)光触媒組成物の製造
2gのヘキサメチレンテトラミン、5mlの20重量%TiCl
3水溶液、および5mlの蒸留水を混合後、耐圧容器に入れ、250℃で10分間反応させ、窒素ドープ酸化チタンを析出させた。その後、生成物を遠心分離し、蒸留水およびアセトンで洗浄し、60℃で一晩真空乾燥させた。得られた窒素ドープ酸化チタン粉末、およびアタパルジャイト粉末(中国江蘇省淮源鉱業有限公司製、商品名:高粘凸凹棒粉)の所定量をメノウ乳鉢を用い軽く乾式混合し、光触媒組成物(本件複合体)である粉末状の試料を得た。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で7:3(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%)となるように混合し、試料1を得た。
【0046】
(2)透過電子顕微鏡(TEM)観察
アタパルジャイト粉末および上記方法によって得られた試料1のTEM(日本電子製、商品名:JEM−2010)による撮影画像を
図2、
図3に示す。
図2(a)〜(c)は、アタパルジャイト粉末のTEM写真であり、(a)、(b)(c)の順に倍率が高くなっている。
図2(a)、(b)に表れているように、アタパルジャイト粉末は、粒径が5〜50μm程度の不揃いな塊状粉末であるが、
図2(c)に示すようにさらに高倍率で観察すると、針状粒子の凝集体であることが分かる。
図3は、アタパルジャイト粉末と、試料1(本件複合体)のTEM写真である。
図3(b)に示すように、試料1の本件複合体においては、針状粒子の周囲に窒素ドープ酸化チタン粒子が分散していることが観察された。
【0047】
(3)比表面積および細孔測定
アタパルジャイト粉末、窒素ドープ酸化チタン、および上記方法によって得られた試料1について、これらの比表面積と細孔をBET法・BJH法により測定した結果を表1に示す。アタパルジャイト粉末および窒素ドープ酸化チタン粉末はいずれも約200m
2/gの大きな比表面積を有するため、複合化後の試料1(本件複合体)の比表面積の値は殆ど変化しなかったが、細孔容積の増加が認められた。これは、アタパルジャイト針状粒子と窒素ドープ酸化チタン粒子の複合化によって架橋構造が成形され、新たな細孔が形成されたことによるものと考えられる。
【0048】
【表1】
【0049】
(4)一酸化窒素(N0)分解測定
上記方法によって得られた試料1の光触媒活性について、種々の波長の光照射によるNOガスの分解測定によって評価した。NOガスの分解は、内容積373cm
3の通流式反応器を用いて行った。本測定では、試料1の粉末0.2gをガラスホルダ(長さ20mm、幅16mm、深さ0.5mm)の窪み部分に入れ、当該ガラスホルダを反応器の中央底部に載置した。光源は450W高圧水銀ランプが用いられ、反応器に照射される光の波長は、フィルタを選択することによって調整された。当該フィルタとしては、290nmを超える波長(>290nm)についてはパイレックス(登録商標)ガラスが用いられ、400nmを超える波長(>400nm)についてはケンコー製(商品名:L41 Super Pro)が用いられ、510nmを超える波長(>510nm)については富士製のトリアセチルセルロースフィルタが用いられた。反応器内に通流させるガスは、NO濃度2ppmの窒素ガスと、空気とを1:1の割合で混合したガス(NO濃度1ppm)を用い、当該混合ガスの流量は200cm
3/minとした。反応器を通過したガスのNO濃度は、窒素酸化物分析計(ヤナコ製、商品名:ECL−88A)を用いて測定された。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0050】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(本件複合体)を製造したが、本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1と異ならせた。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:1(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が50重量%)となるように混合し、試料2を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料2を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0051】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(本件複合体)を製造したが、本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1,2と異ならせた。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:3(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が25重量%)となるように混合し、試料3を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料3を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0052】
〔比較例1〕
本比較例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(複合体)を製造したが、当該複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1〜3と異ならせた。本比較例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:9(複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が10重量%)となるように混合し、試料4を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料4を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0053】
〔比較例2〕
本比較例では、窒素ドープ酸化チタン粉末を試料5として用いた。窒素ドープ酸化チタンの製造は、実施例1と同様の方法で行った。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料5を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0054】
〔比較例3〕
本比較例では、市販の酸化チタン粉末(デグサ製、商品名:P25)を試料6として用いた。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料6を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0055】
〔比較例4〕
本比較例では、アタパルジャイト粉末を試料7として用いた。アタパルジャイト粉末は、実施例1で使用したものと同じものを用いた。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料7を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を
図4に示す。
【0056】
図4に示す各試料についての測定データから分かるように、試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)、試料6(酸化チタン単独)、および試料7(アタパルジャイト単独)について、NO分解光触媒活性は、窒素ドープ酸化チタン、酸化チタン、アタパルジャイトの順に優れる。窒素ドープ酸化チタンは、紫外線照射および可視光照射でのNO分解光触媒活性に優れている。酸化チタンは、紫外光照射でのNO分解光触媒活性は優れるものの(窒素ドープ酸化チタンより劣る)、可視光照射でのNO分解光触媒活性は大幅に低下する。アタパルジャイトは、紫外線照射ではNO分解光触媒活性を有するが、可視光照射ではNO分解光触媒活性を殆ど有さない。なお、不純物を含有しない純粋なアタパルジャイトは光触媒活性を有さない筈であるが、本測定で使用したアタパルジャイトは、光触媒活性を示した。このアタパルジャイトの光触媒活性は、当該アタパルジャイトに含まれる微量の酸化チタン(TiO
2)に起因するものと考えられる。
【0057】
これに対し、実施例1〜3の試料1〜3(本件複合体)については、紫外線照射および可視光照射のいずれにおいても優れた光触媒活性を示した。より具体的には、試料1〜3(本件複合体)は、紫外線照射において、いずれも試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)よりも優れたNO分解光触媒活性を示し、波長510nmを超える可視光照射下でも、試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)と同程度の優れたNO分解光触媒活性を示した。窒素ドープ酸化チタンを70重量%配合した場合(試料1)には、すべての波長の光照射(紫外線照射および可視光照射)において、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)よりも優れたNO分解光触媒活性を示した。また、窒素ドープ酸化チタンを25重量%しか配合しなかった場合(試料3)でも、窒素ドープ酸化チタン(試料5)と同程度またはそれより高いNO分解光触媒活性を示した。
【0058】
図4に示す測定結果から理解されるように、実施例1〜3の試料1〜3(本件複合体)において、当該試料1〜3に含まれるアタパルジャイトは、光触媒活性の改善に重要な役割を果たしていることを示している。このことは、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)のNO分解光触媒活性とアタパルジャイト単独(試料7)のNO分解光触媒活性とを対比するだけでは想定できない結果であるが、上記したような複合化による細孔容積の増加により優れたガス吸着能が発揮され、当該吸着能によって光触媒反応が促進されたことによると考えられる。
【0059】
なお、本件複合体については、上述したように、窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%の場合(試料1)に最も優れた光触媒活性を示した。この理由としては、窒素ドープ酸化チタン量が増えると光触媒能が向上する一方でガス吸着能が低下し、アタパルジャイト量が増えるとガス吸着能が向上する一方で光触媒能が低下するが、窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%付近において、アタパルジャイトのガス吸着能と窒素ドープ酸化チタンの光触媒能とがマッチングするためと考えられる。
【0060】
〔実施例4〕
(5)アセトアルデヒド分解測定
上記の実施例1の方法によって得られた試料1の光触媒活性について、可視光照射によるアセトアルデヒドの分解測定によって評価した。アセトアルデヒドの分解は、内容積500cm
3のバッチ式反応器を用いて行った。本測定では、試料1の粉末0.2gをガラス板上に塗布し、当該ガラス板を反応器の中央に配置した。光源は2.0W青色LEDランプが用いられ、照射光の波長は445nmであった。反応器内のガスは、アセトアルデヒド濃度(初濃度)が120ppmとされた。可視光の照射時間に応じた二酸化炭素(炭酸ガス)の濃度を測定した。炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0061】
〔実施例5〕
本実施例では、上記の実施例2の方法によって得られた試料2について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料2を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0062】
〔実施例6〕
本実施例では、上記の実施例3の方法によって得られた試料3について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料3を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0063】
〔比較例5〕
本比較例では、上記の比較例2で用いた試料5(窒素ドープ酸化チタン粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料5を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0064】
〔比較例6〕
本比較例では、上記の比較例3で用いた試料6(酸化チタン粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料6を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0065】
〔比較例7〕
本比較例では、上記の比較例4で用いた試料7(アタパルジャイト粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料7を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を
図5に示す。
【0066】
図5に示す各試料についての測定データから分かるように、アセトアルデヒドが炭酸ガスまで分解されていることが確認できた。本測定では、アタパルジャイト単独(試料7)でも酸化チタン単独(試料6)と同程度のアセトアルデヒド分解光触媒活性を示した。本件複合体(試料1〜3)のアセトアルデヒド分解光触媒活性は、窒素ドープ酸化チタンの含有率が増加するのにつれて増加し、窒素ドープ酸化チタンを70重量%配合した場合(試料1)には、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)の場合よりも優れた光触媒活性を示した。
【0067】
なお、上記実施例等においては、光触媒組成物を構成するアタパルジャイトが微量の酸化チタン(TiO
2)を含む場合を例に挙げて説明したが、本発明の光触媒組成物を構成するアタパルジャイトとしては、酸化チタンを含有しないものであってもよい。酸化チタンを含有しないアタパルジャイトを用いて光触媒組成物を構成した場合においても、上記したような窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトの複合化によって細孔容積が増加し、光触媒活性が改善するものと考えられる。