(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771135
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】球面状複合多チャンネル圧電振動子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20150806BHJP
A61B 18/00 20060101ALI20150806BHJP
A61F 7/00 20060101ALI20150806BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20150806BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
H04R17/00 332B
H04R17/00 330H
A61B17/36 330
A61F7/00 322
A61B8/00
G01N29/24
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-278782(P2011-278782)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-131849(P2013-131849A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】大矢 茂正
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 崇
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】宮下 俊彦
【審査官】
松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−186617(JP,A)
【文献】
特開平08−289398(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/061912(WO,A1)
【文献】
特開2008−079034(JP,A)
【文献】
特開昭62−068400(JP,A)
【文献】
特開2001−070333(JP,A)
【文献】
特開2001−046387(JP,A)
【文献】
米国特許第5792058(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
A61B 18/00
A61F 7/00
G01N 29/24
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層を、平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体であって、下面側に突き出した球面状に成形された正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板;球面状多チャンネル圧電振動板の下側に付設した球面状吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、球面状吸音材層に埋設したリード線;球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて球面状吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した球面状音響整合層、を含む球面状多チャンネル圧電振動子が複数個、球面状多チャンネル圧電振動板の表面に沿う方向でかつ二次元方向に整列してなり、かつ隣接する球面状多チャンネル圧電振動子を、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続させることにより形成した球面状複合多チャンネル圧電振動子。
【請求項2】
球面状多チャンネル圧電振動子の各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層の接着剤が導電性接着剤である請求項1に記載の球面状複合多チャンネル圧電振動子。
【請求項3】
球面状多チャンネル圧電振動子の各々の上側電極引出箔が、その幅が正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動子の各辺の長さの1/2以下である帯状であって、該帯状の上側電極引出箔が球面状多チャンネル圧電振動板の各辺の中央から外に延びている請求項1に記載の球面状複合多チャンネル圧電振動子。
【請求項4】
下記の工程を含む方法によって得られた球面状多チャンネル圧電振動子を複数個、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続することからなる請求項1に記載の球面状複合多チャンネル圧電振動子製造方法:
(1)圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層を、平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成された、上側電極層が凹状の球面状である正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板を用意する工程;
(2)球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上に上側電極引出箔を付設する工程、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びた延長部が形成されている;
(3)上側電極引出箔の上側表面に球面状音響整合層を付設する工程;
(4)球面状多チャンネル圧電振動板の各圧電振動子単位複合体の下側電極層にリード線を取り付ける工程;
(5)球面状多チャンネル圧電振動板の下側に球面状吸音材層を、リード線の端部が露出するように付設する工程;
(6)上側電極引出箔を球面状吸音材側に折り曲げる工程;そして、
(7)上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層を形成する工程;
但し、(3)の工程は、(4)〜(7)のうちのいずれかの工程の後に行なってもよい。
【請求項5】
球面状多チャンネル圧電振動板が下記の工程を含む方法によって得られたものである請求項4に記載の球面状複合多チャンネル圧電振動子製造方法:
(1)大型圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の大型圧電振動板を用意する工程;
(2)大型圧電振動板の大型圧電材料板と下側電極層を平面方向かつ二次元方向に分割して、大型圧電振動板を圧電振動子単位の複合体として形成された、大型多チャンネル圧電振動板を得る工程;
(3)大型多チャンネル圧電振動板の上側電極層に球面状体を押し当てて、下方に突き出た球面状に成形された正方形もしくは長方形の大型球面状多チャンネル圧電振動板を得る工程;そして、
(4)大型球面状多チャンネル圧電振動板を、大型球面状多チャンネル圧電振動板の辺に平行な線に沿って切断して、二個以上の球面状多チャンネル圧電振動板を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の球面状多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化した球面状複合多チャンネル圧電振動子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の患部に超音波を照射し、患部を超音波振動させることによって加熱して治療する超音波治療が行なわれている。この超音波治療用の超音波発信装置では、超音波を集中的に患部に照射するために、超音波の放射面を下面側に突き出した球面状に形成した球面状圧電振動子が広く利用されている。この球面状圧電振動子から放射される超音波の焦点位置を精度良く調整するために、球面状圧電振動子として複数個の圧電振動子単位を二次元方向にかつ球面状に配列した二次元アレイ型の球面状多チャンネル圧電振動子を用いることが検討されている。
【0003】
特許文献1には、球面状(球殻状)の圧電振動板を、複数個の圧電振動子単位(ピエゾ素子群)から形成すると、複数個の圧電振動子単位にかかる駆動電圧を位相制御することによって、焦点位置を任意にコントロールできる旨の記載がある。
【0004】
特許文献2には、球面状(お椀形)に形成された治療用超音波振動子を複数の振動子片に切断して、その切断した複数の振動子片の各々に超音波送波の遅延信号を印加する遅延回路を接続して、治療用超音波振動子から放射される高エネルギー超音波の焦点位置を可変にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−70333号公報
【特許文献2】特開2001−46387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているように、複数個の圧電振動子単位を二次元方向にかつ球面状に配列した球面状多チャンネル圧電振動子は超音波の焦点位置を精度良く調整できるという利点がある。しかしながら、球面状多チャンネル圧電振動子は各圧電振動子単位と外部電源とを電気的に接続する必要があるため、多チャンネル化するのが困難であるという問題がある。すなわち、球面状多チャンネル圧電振動子は一般に、各圧電振動子単位が上下表面に電極層を有していて、上側電極層の上方には患部への超音波の伝搬効率を向上させるために音響整合層が、下側電極の下方には下側電極層から放射される超音波を吸収してノイズを低減させるために吸音材層が付設されている。このため、各圧電振動子単位の上側電極層と下側電極層とをそれぞれ外部電源に接続するのが難しい。なお、特許文献1、2には、圧電振動子単位を外部電源に接続する方法に関する具体的な記載はない。
従って、本発明の目的は、製造が容易な球面状の多チャンネル圧電振動子及び球面状多チャンネル圧電振動子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層を、平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体であって、下面側に突き出した球面状に成形された正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板;球面状多チャンネル圧電振動板の下側に付設した球面状吸音材層;一方の端部が各圧電振動子単位の下側電極層に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように、球面状吸音材層に埋設したリード線;球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上側表面に付設した上側電極引出箔、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びて球面状吸音材層の側面の少なくとも一部を覆う延長部が形成されており、その上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層が付設されている;そして上側電極引出箔の上側表面に付設した球面状音響整合層、を含む球面状多チャンネル圧電振動子が複数個、球面状多チャンネル圧電振動板の表面に沿う方向でかつ二次元方向に整列してなり、かつ隣接する球面状多チャンネル圧電振動子を、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続させることにより形成した球面状複合多チャンネル圧電振動子にある。
【0008】
本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子の好ましい態様は、次の通りである。
(1)球面状多チャンネル圧電振動子の各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層の接着剤が導電性接着剤である。
(2)球面状多チャンネル圧電振動子の各々の上側電極引出箔が、その幅が正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動子の各辺の長さの1/2以下である帯状であって、該帯状の上側電極引出箔が球面状多チャンネル圧電振動板の各辺の中央から外に延びている。
【0009】
本発明はさらに、下記の工程を含む方法によって得られた球面状多チャンネル圧電振動子を複数個、各々の上側電極引出箔の延長部の表面に付設されている接着剤層を介して電気的に接続することからなる上記本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子製造方法にもある。
(1)圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層を、平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体として形成された、上側電極層が凹状の球面状である正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板を用意する工程。
(2)球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上に上側電極引出箔を付設する工程、但し、該上側電極引出箔は、正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板の各辺から外に延びた延長部が形成されている。
(3)上側電極引出箔の上側表面に球面状音響整合層を付設する工程。
(4)球面状多チャンネル圧電振動板の各圧電振動子単位複合体の下側電極層にリード線を取り付ける工程。
(5)球面状多チャンネル圧電振動板の下側に球面状吸音材層を、リード線の端部が露出するように付設する工程。
(6)上側電極引出箔を球面状吸音材側に折り曲げる工程。そして、
(7)上側電極引出箔の延長部の表面には接着剤層を形成する工程。
但し、(3)の工程は、(4)〜(7)のうちのいずれかの工程の後に行なってもよい。
【0010】
上記本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子製造方法において、球面状多チャンネル圧電振動板は下記の工程を含む方法によって得られたものであることが好ましい。
(1)大型圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の大型圧電振動板を用意する工程。
(2)大型圧電振動板の大型圧電材料板と下側電極層を平面方向かつ二次元方向に分割して、大型圧電振動板を圧電振動子単位の複合体として形成された、大型多チャンネル圧電振動板を得る工程。
(3)大型多チャンネル圧電振動板の上側電極層に球面状体を押し当てて、下方に突き出た球面状に成形された正方形もしくは長方形の大型球面状多チャンネル圧電振動板を得る工程。そして、
(4)大型球面状多チャンネル圧電振動板を、大型球面状多チャンネル圧電振動板の辺に平行な線に沿って切断して、二個以上の球面状多チャンネル圧電振動板を得る工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子は、予め作成した多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化することによって構成されているので製造が容易である。本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子は、圧電振動子単位の上側電極層が吸音材層の側面まで引き出されているので外部電源との接続が容易である。
また、本発明の製造方法を利用することによって、球面状複合多チャンネル圧電振動子を工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従う球面状複合多チャンネル圧電振動子の一例の斜視図である。
【
図2】
図1の球面状複合多チャンネル圧電振動子から音響整合層を外した状態を示す平面図である。
【
図3】(a)は
図1の球面状複合多チャンネル圧電振動子を構成する球面状多チャンネル圧電振動子の正面図、(b)はその要部拡大図である。
【
図4】(a)は本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子の製造に用いることができる大型圧電振動板の一例を示す平面図、(b)はその正面図である。
【
図5】(a)は
図4の大型圧電振動板の下側電極層と圧電材料板とを溝によって分割して得た大型多チャンネル圧電振動板の底面図、(b)はその正面図である。
【
図6】
図5の大型多チャンネル圧電振動板を下方に突き出た球面状に成形した状態を示す正面図である。
【
図7】(a)は
図6の大型球面状多チャンネル圧電振動板の溝に樹脂を充填した状態を示す底面図、(b)はその正面図である。
【
図8】(a)は球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極引出箔を付設した状態を示す平面図、(b)はその正面図である。
【
図9】
図8の球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層の上に音響整合層を付設した状態を示す正面図である。
【
図10】
図9の球面状多チャンネル圧電振動板下側電極層の下にリード線と吸音材層とを付設した状態を示す正面図である。
【
図11】本発明に従う球面状複合多チャンネル圧電振動子の別の一例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子は、複数個の球面状多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化したものである。球面状多チャンネル圧電振動子は、二次元アレイ型の圧電振動子であり、圧電材料板の各表面に上側電極層と下側電極層とを形成してなる正方形もしくは長方形の圧電振動板の圧電材料板と下側電極層を、平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位の複合体であって、下面側に突き出した球面状に成形された正方形もしくは長方形の球面状多チャンネル圧電振動板を含む。球面状多チャンネル圧電振動板の上側電極層(すなわち、圧電振動子単位の上側電極層)は、上側電極層の上に付設された上側電極引出箔の延長部を、隣接する多チャンネル圧電振動子の上側電極引出箔の延長部と接着剤層を介して電気的に接続することによって、球面状複合多チャンネル圧電振動子を構成する全ての多チャンネル圧電振動子の上側電極が一つの共通電極として外部に引き出されている。一方の球面状多チャンネル圧電振動板の下側電極層(すなわち、圧電振動子単位の下側電極層)は吸音材層に埋設したリード線によって、各圧電振動子単位が独立して外部に引き出されている。
【0014】
次に、本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子の構成を添付図面の
図1〜3を用いて説明する。
図1は、本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子の一例の斜視図である。
図2は、
図1の球面状複合多チャンネル圧電振動子から音響整合層を外した状態を示す平面図である。
図3は、
図1の球面状複合多チャンネル圧電振動子を構成する球面状多チャンネル圧電振動子の正面図である。
【0015】
図1において、球面状複合多チャンネル圧電振動子は、X方向とY方向の二次元方向にそれぞれ二個ずつ整列させた四個の球面状多チャンネル圧電振動子1から形成されている。球面状多チャンネル圧電振動子1は、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを形成してなる圧電振動板5の圧電材料板2と下側電極層4を、樹脂6が充填された溝7で平面方向かつ二次元方向に分割した圧電振動子単位8の複合体であって、下面側に突き出した球面状に成形された球面状多チャンネル圧電振動板9を含む。球面状多チャンネル圧電振動板9の下側には球面状吸音材層10が付設されている。球面状吸音材層10には、リード線11が、一方の端部が各圧電振動子単位8の下側電極層4に電気的に接続し、そして他方の端部が露出するように埋設されている。一方、球面状多チャンネル圧電振動板9の上側電極層3の上側表面には、上側電極引出箔12が付設されている。上側電極引出箔12は、球面状多チャンネル圧電振動板9の各辺から外に延びて吸音材層10の側面の少なくとも一部を覆う延長部12aが形成されており、その延長部12aの表面には接着剤層13が付設されている。隣接する球面状多チャンネル圧電振動子1は、各々の上側電極引出箔12の延長部12aの表面に付設されている接着剤層13を介して電気的に接続されている。上側電極引出箔12の上にはさらに球面状音響整合層14が付設されている。球面状音響整合層14は、球面状多チャンネル圧電振動板9の溝7に対応した位置に、樹脂15が充填された溝16が設けられている。
【0016】
本発明の球面状複合多チャンネル圧電振動子では、各球面状多チャンネル圧電振動子1は、全体で表面が球面状となるように、球面状多チャンネル圧電振動板9の表面に沿う方向に整列している。但し、球面状複合多チャンネル圧電振動子の表面は、真球面状でなくともよく、X方向とY方向とで曲率半径が異なっていてもよい。
【0017】
本発明では、球面状多チャンネル圧電振動子1の上側電極層3は、各圧電振動子単位8の共通電極となるため、上側電極引出箔12を上側電極層3の上に全体的に付設する必要はない。上側電極引出箔12は、
図2に示すように、球面状多チャンネル圧電振動子の各辺の長さの1/2以下である帯状の導電箔から形成されていることが好ましい。帯状にすることによって球面状にしたときに皺ができにくくなるからである。
【0018】
球面状多チャンネル圧電振動子1の吸音材層10は、
図3(a)に示すように、球面状多チャンネル圧電振動板9の各辺からわずかに突出した突出部10aが形成されていることが好ましい。吸音材層10の突出部10aの厚み(T
1)、上側電極引出箔12の延長部12aの厚み(T
2)そして接着剤層13の厚み(T
3)は、その合計の厚み(T
1+T
2+T
3)が、球面状多チャンネル圧電振動板9の溝7の幅(T)の1/2の長さであることが好ましい。こうすることによって、隣接する球面状多チャンネル圧電振動子1の圧電振動子単位8の間隔を、球面状多チャンネル圧電振動板9の溝7の幅と同じにすることができるからである。
【0019】
圧電振動板5の材料には、圧電セラミック及び圧電単結晶を用いることができる。圧電セラミックの例としては、ジルコン・チタン酸鉛(PZT)を挙げることができる。圧電単結晶の例としては、マグネシウムニオブ酸塩とチタン酸鉛との固溶体、亜鉛ニオブ酸とチタン酸鉛との固溶体、スカンジウムニオブ酸鉛とチタン酸鉛との固溶体を挙げることができる。
【0020】
上側電極層3及び下側電極層4の材料の例としては、銀、金、銅などの金属を挙げることができる。球面状多チャンネル圧電振動板9の溝7に充填されている樹脂6及び音響整合層14の溝16に充填されている樹脂15の例としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。リード線11の材料の例としては、銅線、金線及びアルミニウム線などの金属線を挙げることができる。上側電極引出箔12の材料の例としては、銅箔及び金箔のなどの金属箔を挙げることができる。吸音材層10の材料としては、フィラーを充填したエポキシ樹脂及びゴムを挙げることができる。音響整合層14の材料の例としてはエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0021】
接着剤層13の接着剤は導電性接着剤であることが好ましい。但し、通常は非導電性接着剤として利用されるエポキシ系接着剤であっても接着剤の厚さを薄くすることによって、導電性接着剤として作用することがあり、本発明でも接着剤層13の接着剤としてエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0022】
次に、
図3に示す球面状多チャンネル圧電振動子の製造方法の一例を、添付図面の
図4〜10を参照しながら説明する。
【0023】
図4は、球面状多チャンネル圧電振動子の製造に用いる大型圧電振動板の一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。球面状多チャンネル圧電振動子の製造に際しては、先ず、
図4に示すように、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを形成してなる大型圧電振動板5aを用意する。大型圧電振動板5aは、例えば、圧電材料板2の各表面に上側電極層3と下側電極層4とを成形して、上側電極層3と下側電極層4と間に電界を印加して、圧電材料板2を分極することによって製造することができる。大型圧電振動板5aは、正方形もしくは長方形の四角形とする。
【0024】
次に、
図5に示すように、大型圧電振動板5aの下側電極層4と圧電材料板2とに平面方向かつ二次元方向に延びる溝7を形成して、圧電振動板5の下側電極層4と圧電材料板2とを分割する。
図5の(a)は大型圧電振動板5aの下側電極層4と圧電材料板2とを溝7によって分割した状態を示す底面図、(b)はその正面図である。この溝7によって分割されることによって、大型圧電振動板5aは複数個の圧電振動子単位8の複合体である大型多チャンネル圧電振動板9aに成形される。溝7の深さは、圧電振動板5全体の厚さの80%以上とすることが好ましく、80〜95%の範囲とすることが特に好ましい。
【0025】
次に、
図6に示すように、大型多チャンネル圧電振動板9aの上側電極層3に球面状体(図示せず)を押し当てて、下方に突き出た球面状に成形された大型球面状多チャンネル圧電振動板9bとする。
図6は、下方に突き出た球面状に成形した大型球面状多チャンネル圧電振動板9bの正面図である。
【0026】
次に、
図7に示すように、大型球面状多チャンネル圧電振動板9bの溝7に樹脂を充填する。
図7の(a)は、溝に樹脂を充填した大型球面状多チャンネル圧電振動板9bの底面図、(b)はその正面図である。樹脂を充填した後、大型球面状多チャンネル圧電振動板9bの溝7に沿った切断線で切断して、複数個の球面状多チャンネル圧電振動板とする。
【0027】
なお、球面状多チャンネル圧電振動板の製造に際しては、溝を形成した圧電振動板を球面状に成形する前に切断して、小型の圧電振動板とした後に球面状に形成してもよい。また、球面状多チャンネル圧電振動板は、球面状に形成した圧電材料板の上下表面に電極層を形成して、球面状の圧電振動板を製造し、次いで球面状の圧電振動板に溝を設けて多チャンネル化する方法によって製造してもよい。
【0028】
次に、
図8に示すように、球面状多チャンネル圧電振動板9の上側電極層3の上に上側電極引出箔12を付設する。
図8の(a)は上側電極引出箔12を付設した球面状多チャンネル圧電振動板9の平面図、(b)はその正面図である。上側電極引出箔12は、圧電振動板5の各辺から外に延びる延長部12aが形成されている。上側電極引出箔12と圧電振動板5の上側電極層3とは、導電性接着剤などの接着剤で接着してもよいし、溶接してもよい。
【0029】
次に、
図9に示すように、球面状多チャンネル圧電振動板9の上側電極層3の上に音響整合層14を付設する。
図9は、上側電極層3の上に音響整合層を付設した球面状多チャンネル圧電振動板9の正面図である。音響整合層14を付設する方法としては、例えば、球面状多チャンネル圧電振動板9の上側電極層3の上に、上側表面に溝が、球面状多チャンネル圧電振動板9の溝に対応する位置に形成されている音響整合材料板を載せて圧着して、次いで溝に樹脂を充填する方法を用いることができる。
【0030】
次に、
図10に示すように、球面状多チャンネル圧電振動板9の下側電極層4の下にリード線11と下側電極層4の下に吸音材層10とを付設する。
図10は、下側電極層4の下にリード線11と吸音材層10とを付設した球面状多チャンネル圧電振動板9の正面図である。下側電極層4にリード線11を付設する方法としては、半田付けやワイヤーボンディングなどの方法を用いることができる。吸音材層10を付設する方法としては、未硬化の吸音性樹脂材料を下側電極層4の下に流し込んだ後、硬化させる方法を用いることができる。また、吸音材層10とリード線11とを同時に付設する方法としては、圧電振動子単位の間隔でリード線を埋設した球面状吸音材料板を用意して、これを下側電極層4に貼り付ける方法を用いることができる。
【0031】
そして、球面状多チャンネル圧電振動板9の各辺から外に延びている、上側電極引出箔12の延長部12aが吸音材層10の側面の少なくとも一部を覆うように、延長部12aを吸音材層10側に折り曲げた後、その延長部12aの表面に接着剤層13を付設する。
【0032】
なお、上側電極引出箔の上側表面に球面状音響整合層を付設する工程は、球面状多チャンネル圧電振動板の下側電極層にリード線を取り付ける工程、球面状多チャンネル圧電振動板の下側に球面状吸音材層を付設する工程、上側電極引出箔を球面状吸音材側に折り曲げる工程のいずれかの工程の後に行なってもよい。
【0033】
本発明において、球面状複合多チャンネル圧電振動子を構成する球面状多チャンネル圧電振動子の個数には特には制限はない。X方向、Y方向に三個以上の球面状多チャンネル圧電振動子を配列してもよい。また、球面状多チャンネル圧電振動板の厚さが異なる多チャンネル圧電振動子、すなわち、送受信可能な超音波の周波数が異なる多チャンネル圧電振動子を組み合わせてもよい。
【0034】
図11は、球面状多チャンネル圧電振動板9の厚さが異なる多チャンネル圧電振動子を組み合わせて複合化した複合多チャンネル圧電振動子の一例の正面図である。
図11において、三個の球面状多チャンネル圧電振動子のうちの中央に配置されている球面状多チャンネル圧電振動子1aは両端に配置されている球面状多チャンネル圧電振動子1bと比較して、球面状多チャンネル圧電振動板9の厚さを薄くしてある。すなわち、中央の球面状多チャンネル圧電振動子1aは両端の球面状多チャンネル圧電振動子1bと比較して、送受信可能な超音波の周波数が高い。この球面状複合多チャンネル圧電振動子は、中央の球面状多チャンネル圧電振動子1aにて高周波の超音波を送受信して患者の内部観察を行ない、両端の球面状多チャンネル圧電振動子1bにて低周波で高エネルギーの超音波を患者の患部に送信して、患部の治療を行なう超音波治療用圧電振動子として利用することができる。送受信可能な超音波の周波数が異なる球面状多チャンネル圧電振動子を組み合わせる場合は、配列方向の中心に対して、送受信可能な超音波の周波数が対称となるように球面状多チャンネル圧電振動子を配列することが好ましい。例えば、四個の球面状多チャンネル圧電振動子を配列する場合には、中央の二個の球面状多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の二個の多チャンネル圧電振動子を低周波用とする。また。五個の多チャンネル圧電振動子を配列する場合には、中央の三個の球面状多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の二個の球面状多チャンネル圧電振動子を低周波用としてもよいし、中央の一個の球面状多チャンネル圧電振動子を高周波用とし、両端の四個の球面状多チャンネル圧電振動子を低周波用としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1、1a、1b 球面状多チャンネル圧電振動子
2 圧電材料板
3 上側電極層
4 下側電極層
5 圧電振動板
5a 大型圧電振動板
6 樹脂
7 溝
8 圧電振動子単位
9 球面状多チャンネル圧電振動板
9a 大型多チャンネル圧電振動板
9b 大型球面状多チャンネル圧電振動板
10 球面状吸音材層
10a 吸音材層の突出部
11 リード線
12 上側電極引出箔
12a 上側電極引出箔の延長部
13 接着剤層
14 球面状音響整合層
15 樹脂
16 溝
17 切断線