(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771171
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】前窓用ワイパー装置
(51)【国際特許分類】
B60S 1/28 20060101AFI20150806BHJP
B60S 1/18 20060101ALI20150806BHJP
E02F 9/16 20060101ALI20150806BHJP
B60S 1/20 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
B60S1/28
B60S1/18 Z
E02F9/16 E
B60S1/20
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-201453(P2012-201453)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-54942(P2014-54942A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2014年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081569
【弁理士】
【氏名又は名称】若田 勝一
(74)【代理人】
【識別番号】100156018
【弁理士】
【氏名又は名称】若田 充史
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 徹
【審査官】
神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−092012(JP,U)
【文献】
特開2003−267195(JP,A)
【文献】
特開2010−148300(JP,A)
【文献】
特開2003−170812(JP,A)
【文献】
特開平11−235786(JP,A)
【文献】
特開2008−163595(JP,A)
【文献】
特開2006−177117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00 − 1/68
E02F 9/00 − 9/18
E02F 9/24 − 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機キャブの前窓の下方の横枠に設けられた揺動軸を中心に左右揺動可能に取付けられた主ワイパーと、
前記前窓の前面に取付けられる前ガードの左右の側枠のうち、作業用フロント取付け側の側枠の上部に設けた揺動軸を中心に揺動可能に取付けられ、前記前窓のガラスの前記作業用フロント側の上コーナー部を清掃する補助ワイパーと、
前記前ガードに取付けられ、前記主ワイパーの揺動力を前記補助ワイパーに伝達して前記補助ワイパーを揺動させることにより、前記前窓のガラスの作業用フロント取付け側上コーナー部を清掃させる動力伝達装置とを備えたことを特徴とする前窓用ワイパー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の前窓用ワイパー装置であって、
前記前ガードは、前記前窓の一方の側枠に設けた蝶番を中心に開閉可能に取付けられ、
前記動力伝達装置は、前記前ガードを閉じることにより、前記主ワイパーのリンクに着脱可能に嵌まる溝を有する第1の揺動体と、前記前ガードの前記作業用フロント側の側枠に取付けられた第2の揺動体と、前記補助ワイパーの揺動軸と同軸に取付けられた第3の揺動体と、前記第1の揺動体の揺動力を前記第2の揺動体を介して前記第3の揺動体に伝達する連係手段とを備えたことを特徴とする前窓用ワイパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルや解体機等の作業機のキャブに設けられる前窓のガラスを拭くワイパー装置に係わり、特に高所作業に用いる作業機に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
作業機のキャブに設けられる前窓には、例えば特許文献1に開示されているように、ガラスに付着した汚れを除去するワイパー装置が取付けられる。この従来のワイパー装置は、前窓の下枠に設けた回動支点を中心としてワイパーを揺動可能に取付けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−143100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の前窓用ワイパー装置は、ワイパーが扇形に揺動するものであるため、ほぼ四角形をなす前窓のガラスの上コーナー部の清掃ができず、このコーナー部を通してオペレータが見る領域の視界が悪くなるという問題点がある。特に粉塵の付着が起こり易い解体機においては、上コーナー部の視界の悪化が作業性の低下を招くことになる。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、前窓のガラスの上コーナー部の視界を改善できる構成の前窓用ワイパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の前窓用ワイパー装置は、
作業機キャブの前窓の下方の横枠に設けられた揺動軸を中心に左右揺動可能に取付けられた主ワイパーと、
前記前窓の前面に取付けられる前ガード
の左右の側枠のうち、作業用フロント取付け側の側枠の上部に設けた揺動軸を中心に揺動可能に取付けられ、前記前窓のガラスの前記作業用フロント側の上コーナー部を清掃する補助ワイパーと、
前記前ガードに取付けられ、前記主ワイパーの揺動力を前記補助ワイパーに伝達して
前記補助ワイパーを揺動させることにより、前記前窓のガラスの作業用フロント取付け側上コーナー部を清掃させる動力伝達装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の前窓用ワイパー装置は、請求項1に記載の前窓用ワイパー装置
であって、
前記前ガードは、前記前窓の一方の側枠に設けた
蝶番を中心に開閉可能に取付けられ、
前記動力伝達装置は、前記前ガードを閉じることにより、前記主ワイパーのリンクに着脱可能に嵌まる溝を有する第1の揺動体と、前記前ガードの前記作業用フロント側の側枠に取付けられた第2の揺動体と、前記補助ワイパーの揺動軸と同軸に取付けられた第3の揺動体と、前記第1の揺動体の揺動力を前記第2の揺動体を介して前記第3の揺動体に伝達する連係手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、解体機等のように、作業具が高所に位置して作業を行なうことがある作業機において、前窓のガラス上部の作業具側、すなわち作業用フロント側の上コーナー部の汚れを補助ワイパーで拭取ることが可能となるので、作業箇所を見る際の視界が良好となり、作業性が向上する。また、前窓と別体に取付けられる前ガードに動力伝達装置を設けたので、既存のワイパー装置に補助ワイパーを容易に後付けすることが可能となる。
【0009】
請求項2の発明によれば、前窓に対して開閉可能に設けられる前ガードに、主ワイパーのリンクに着脱可能に嵌合される溝を有する受動体を設けたので、主ワイパー側の構造を改変することなく、補助ワイパーと動力伝達装置を容易に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の前窓用ワイパー装置を適用する作業機の一例を示す側面図である。
【
図2】
図1の作業機の前窓の主ワイパーの取付け構造を示す正面図である。
【
図3】
図1の作業機の前窓の主ワイパーの取付け構造を示す側面断面図である。
【
図4】
図1の作業機の前ガードを示す正面図である。
【
図5】(A)は
図1の作業機の前ガードの取付け構造を示す側面図、(B)はその前ガードの枢着部の構造を示す平面図である。
【
図6】本発明の前窓用ワイパー装置の一実施の形態の配置を示す正面図である。
【
図7】本実施の形態の動力伝達装置における主ワイパーの揺動を受動する部分を示す側面断面図である。
【
図8】(A)は
図7のE−E断面図、(B),(C)はそれぞれ動力伝達装置の受動体を
図7のF方向、G方向より見た図である。
【
図9】本実施の形態の補助ワイパーと動力伝達装置の一部を示す側面図である。
【
図10】(A)は本実施の形態の動力伝達装置における主ワイパーの揺動を中継する部分を示す側面断面図、(B)は(A)のI−I断面図である。
【
図11】本実施の形態の補助ワイパーの取付け構造を示す側面断面図である。
【
図12】(A)は本実施の形態の補助ワイパーの背面図、(B)は
図11のK−K断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の前窓用ワイパー装置を適用する作業機の一例を示す側面図である。この作業機は、下部走行体1上に旋回装置2を介して旋回フレーム3を設置し、この旋回フレーム3にパワーユニット4やキャブ5を搭載して上部旋回体を構成する。旋回フレーム3には多関節構造の作業用フロント6を取付ける。この作業用フロント6は、高所における作業を可能とするため、長尺に構成されたものである。すなわち、ブーム8やアーム11は長尺に構成される。この例においては、ブーム8は継ぎ足し式に構成され、このブーム8は、旋回フレーム3に油圧シリンダ7により起伏可能に取付けられる。
【0012】
ブーム8には、中継ブーム9が油圧シリンダ10により回動可能に取付けられ、この中継ブーム9に長尺アーム11が油圧シリンダ12により回動可能に取付けられる。アーム11の先端には作業具14が油圧シリンダ15およびリンク16,17により回動可能に取付けられる。この例の作業具14は解体用の破砕具について示しており、作業機が解体機を構成する場合について示している。
【0013】
図2は前窓の主ワイパーの取付け構造を示す正面図、
図3はその側面断面図であり、
図3には
図2のキャブ5にガード28,29,31を付加して描いてある。主ワイパー20は前窓21を拭くゴム付きのワイパー本体22と、このワイパー本体22を垂直姿勢に保ったまま揺動可能に支持する平行リンク23とからなる。平行リンク23を構成する一方のリンク23aは前窓21の下方の横枠24に設けた揺動軸25に取付けられている。この揺動軸25は横枠24の内側に取付けられた電動モータ26により揺動され、これにより、ワイパー本体22は垂直姿勢を保ったまま左右に揺動し、前窓21のガラスの2点鎖線で囲まれた領域27を擦動して付着した汚れを落とす。
【0014】
図3において、28は前窓21の前面を覆って前窓21を飛来物から保護する前ガード、29は同じくキャブ前面の下窓30の部分を覆う下ガード、31は同じく天窓を覆う上ガードである。
図4の正面図に示すように、各ガード28,29,31は、金属フレームを格子状に組んだものである。
【0015】
図5(A)の側面図および
図5(B)の平面図に示すように、前ガード28は、キャブ5の作業用フロント取付け側である右側の側枠5aに設けた取付け座33に蝶番34を介して回動可能に取付けられる。なおこの取付け座33および蝶番34はキャブ前面の左側の枠に設けてもよい。
【0016】
図6は前ガード28に取付けられる補助ワイパー35およびこの補助ワイパー35に主ワイパー20の揺動を補助ワイパー35に伝達する動力伝達装置36の構成を示す正面図である。この動力伝達装置36は、
図4、
図6に示すように、前ガード28の下枠28aの中央に取付けられ、主ワイパー20の揺動を受ける第1の揺動体38と、前ガード28の作業用フロント側の側枠28b(
図4、
図9参照)に取付けられた第2の揺動体40と、補助ワイパー35の揺動軸41と同軸に側枠28bの上コーナー部に取付けられた第3の揺動体42と、第1の揺動体38の揺動力を第2の揺動体40に伝達する連係手段44と、第2の揺動体40の揺動力を第3の揺動体42に伝達する連係手段45とを備える。本実施の形態においては、揺動体38,40,42として周囲に周方向に等間隔に溝を設けたローラを用い、連係手段44,45として、ローラの溝に嵌る凹凸を形成したベルトを用いている。
【0017】
図7は第1の揺動体38の前ガード28に対する取付け構造と、第1の揺動体38と主ワイパー20との結合構造を示す側面断面図である。
図7に示すように、前ガード28の下枠28aに第1の揺動体取付け用のブラケット49をボルト47およびナット48により取付ける。そしてこのブラケット49にボルト50およびナット51により軸受52,53を介してローラからなる第1の揺動体38を回動自在に取付ける。すなわち、
図7のE−E断面図である
図8(A)に示すように、ボルト50は第1の揺動体38の中心の孔38aより小径であり、ボルト50に対して第1の揺動体38は回動可能である。
【0018】
54は前記主ワイパー20の揺動を受けて揺動する受動体であり、この受動体54は、この受動体54をそれぞれ
図7のF方向、G方向に見た図である
図8(B)、(D)に示すように、主ワイパー20側の面にリンク23aに嵌まる溝54aを設けたものである。この受動体54は、ボルト56により第1の揺動体38に固定して取付けられる。
【0019】
図9は第2、第3の揺動体40,42の前ガード28に対する取付け構造を示す側面図、
図10(A)は第2の揺動体40の前ガード28に対する取付け構造を示す側面断面図、
図10(B)は(A)のI−I断面図である。これらの図に示すように、前ガード28の作業用フロント側の側枠28bの下部に第2の揺動体取付け用のブラケット60をボルト58およびナット59により取付ける。そしてこのブラケット60にボルト61およびナット62により軸受63,64を介してローラからなる
第2の揺動体40を回動自在に取付ける。
【0020】
図11は第3の揺動体42の前ガード28に対する取付け構造を示す側面断面図、
図12(A)は補助ワイパー35の背面図、
図12(B)は
図11のK−K断面図である。これらの図に示すように、前ガード28の側枠28bの上部に、第2の揺動体取付け用のブラケット66をボルト67およびナット68により取付ける。そしてこのブラケット66に、ボルトからなる揺動軸41およびこれに螺合するナット70により、軸受71,72を介してローラからなる第3の揺動体42を回動自在に取付ける。補助ワイパー35はレバー73とこのレバー73に固着したゴム74とからなる。この補助ワイパー35は、レバー73の一端に形成した環状部73aを第3の揺動体42に形成した小径部42aに嵌めてこの環状部73aをボルト75により第3の揺動体42に固定して取付ける。
【0021】
この実施の形態においては、前ガード28を閉じた状態で
図6、
図7に示すように、第1の揺動体38に設けた受動体54の溝54aを主ワイパー20のリンク23aに嵌める。この状態でワイパー駆動用の電動モータ26を正逆に回転
させ、主ワイパー20を揺動させると、この揺動がそれぞれローラからなる第1の揺動体38、第2の揺動体40と第3の揺動体42およびベルトからなる連係手段44,45を介して補助ワイパー35に伝達され、補助ワイパー35が揺動する。ここで、当然のことながら、主ワイパー20のワイパー本体22の揺動と補助ワイパー35の揺動において、両者が互いに干渉しないように、補助ワイパー35の取付け位置、長さ、揺動タイミング、揺動体38,40,42の直径を設定する。
【0022】
図6において、27は前窓21のうち、主ワイパー20で拭取る領域を示し、76は補助ワイパー35により拭取る領域を示す。
図6に示すように、主ワイパー20により拭取る領域27は前窓21の主要な領域であるが、主ワイパー20は扇状に揺動するため、前窓21の上部の左右の領域には主ワイパー20により拭取れない領域が生じる。この拭取れない上コーナー部のうち、作業用フロント側のコーナー部は補助ワイパー35により拭取られる。
【0023】
このように、本実施の形態によれば、従来は拭取れないために放置されていた前窓21における作業用フロント側の上コーナー部の汚れが拭取られるため、作業箇所の視界が良好となり、作業性が向上する。特に解体機においては、解体作業によって塵埃が発生して前窓21に付着しやすく、その上、解体箇所が高い際には、オペレータは前窓21の作業用フロント側の上コーナー部を通して解体箇所を目視するケースが多いため、この部分の視界の向上は作業を的確に行なう上で重要な効果を発揮する。
【0024】
また、本実施の形態においては、前窓21と別体として取付けられる前ガード28に動力伝達装置36を設けたので、主ワイパー20が既存のワイパーである場合に、補助ワイパー35とその動力伝達装置36を容易に後付けすることが可能となる。
【0025】
また、本実施の形態においては、前窓21に対して開閉可能に設けられる前ガード28に、主ワイパー20のリンク23aに着脱可能に嵌合される溝54aを有する受動体54を設けたので、主ワイパー20側の構造を改変することなく、補助ワイパー35と動力伝達装置36を容易に提供することが可能となる。
【0026】
本発明の前窓用ワイパー装置は、視界向上のためにキャブ5が傾斜したり、上下およびまたは前後に変位する作業機にも適用でき、作業用フロント6に取付ける作業具にも破砕具やバケット以外の作業具が用いられる場合にも適用できる。また、動力伝達装置36の揺動体38,40,42や連係手段44,45としては、実施の形態で示したローラ−ベルト方式以外に、例えばスプロケット−チェーン方式や、リンク連結方式などの他の方式を用いることができる。また、本発明は、主ワイパー20が平行リンクを用いるものではなく、単に1本のリンクが揺動する構造のものにも適用可能である。その他、本発明を実施する場合、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加を行なうことができる。
【符号の説明】
【0027】
1:下部走行体、2:旋回装置、3:旋回フレーム、4:パワーユニット、5:キャブ、6:作業用フロント、20:主ワイパー、21:前窓、22:ワイパー本体、23:平行リンク、23a:リンク、24:前窓の横枠、25:揺動軸、26:電動モータ、27:主ワイパーの拭取り領域、28:前ガード、28a:下枠、28b:側枠、29:下ガード、31:上ガード、33:取付け座、34:蝶番、35:補助ワイパー、38:第1の揺動体、40:第2の揺動体、41:揺動軸、42:第3の揺動体、44,45:連係手段、49:ブラケット、52,53:軸受、54:受動体,54a:溝、60:ブラケット、61:ボルト、62:ナット、63,64:軸受、66:ブラケット、71,72:軸受、73:レバー、74:ゴム、75:ボルト、76:補助ワイパーの拭取り領域