(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1では、複数のクラッド母材に対して、コア母材外周円にほぼ等しい曲率を持つ円弧面を形成するといった加工処理を施すことが必須となるが、そのような円弧面を形成することは困難である。
【0008】
また、仮に、コア母材外周円にほぼ等しい曲率を持つ円弧面を複数のクラッド母材に形成できた場合であっても、各クラッド母材における円弧面部分には少なからずばらつきが生じるものである。そして、このばらつきに起因してコア母材の配置位置の正確度が低下し、光損失が増大する問題がある。
【0009】
そこで本発明は、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバ用母材の製造方法、及び、マルチコアファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
また、上記課題を解決するため本発明は、マルチコアファイバ用母材の製造方法であって、複数のコアロッド、複数のクラッドロッド及びクラッドチューブを準備する準備工程と、前記クラッドチューブのチューブ内に、隣接するコアロッド同士の中心軸間距離が同程度となる状態、かつ、隣接するロッドにおける外周面の一部分同士が接する状態で、前記複数のコアロッド及び前記複数のクラッドロッドを配置する配置工程と、前記クラッドチューブと、前記チューブ内に配置された複数のコアロッド及び複数のクラッドロッドとを一体化する一体化工程とを備え、前記クラッドチューブにおける長さ方向に直交する方向のチューブ内断面積に対する、前記複数のコアロッド及び前記複数のクラッドロッドにおける長さ方向に直交する方向の総断面積の割合は、0.84以上とされることを特徴とするものである。
【0011】
このような関係にある場合、当該関係が0.84未満となる場合に比べて、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバにおけるコア間距離のばらつきが低減され、光損失を低減できることが分かった。また、クラッドロッド及びクラッドチューブに対してコアロッドの外周形状に合わせるといった特別な加工を施すことなく、マルチコアファイバの光損失を低減できる。こうして、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバ用母材の製造方法が実現される。
【0012】
また、前記割合は、0.84以上0.96以下の範囲内とされるとされることが好ましい。
【0013】
この割合が0.96を超えた場合、コアロッド及びクラッドロッドをクラッドチューブに配置する際、コアロッド及びクラッドロッドの表面に傷が発生しやすくなる。そして、このような傷を有するマルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバは、当該傷に相当する箇所において気泡を含んだものとなってしまうことが分かった。したがって、当該割合が0.96以下とされることで、コアロッド及びクラッドロッドの表面に傷が発生することを抑制し、当該傷から得られる気泡に起因する光損失を防止することができる。
【0014】
また、少なくとも前記配置工程及び前記一体化工程は、粒子数濃度が10000m
−3以下となるクリーンルームで行われることが好ましい。
【0015】
このようにした場合、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバの光損失を、シングルコアファイバの損失レベルと同程度にまで低減することができることが分かった。したがって、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバにおける光損失をより一段と低減することができる。
【0016】
また、前記準備工程では、前記コアロッドの直径と同程度の直径を有する第1のクラッドロッドと、前記第1のクラッドロッドの直径よりも小さい直径を有する第2のクラッドロッドとが準備され、前記配置工程では、前記複数のコアロッド及び前記第1のクラッドロッドが、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、前記複数のコアロッドのうちの少なくとも2以上のコアロッドにおける外周面の一部分が前記クラッドチューブの内周面に接する状態で配置され、前記第2のクラッドロッドが、前記クラッドチューブの内周面に接するコアロッドにおける外周面の一部分と、前記クラッドチューブにおける内周面の一部分と、前記クラッドチューブの内周面に接するコアロッド間に挟まれるロッドにおける外周面の一部分とにそれぞれ接する状態で配置されることが好ましい。
【0017】
このようにした場合、各コアロッドの外径寸法、各第1のクラッドロッドの外径寸法、及び、各第2のクラッドロッドの外寸法にばらつきがあったとしても、クラッドチューブの径方向及び周方向にコアロッドの位置がずれることを抑制することができる。したがって、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバにおける光損失をより一段と低減することができる。
【0018】
また、前記準備工程では、前記コアロッドの直径と同程度の直径を有する第1のクラッドロッドよりも小さい直径を有する第2のクラッドロッドが準備され、前記配置工程では、前記複数のコアロッドが、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、前記複数のコアロッドのうちの少なくとも2以上のコアロッドにおける外周面の一部分が前記クラッドチューブの内周面に接する状態で配置され、前記第2のクラッドロッドが、前記クラッドチューブの内周面に接するコアロッドにおける外周面の一部分と、前記クラッドチューブにおける内周面の一部分と、前記クラッドチューブの内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッドにおける外周面の一部分とにそれぞれ接する状態で配置されることが好ましい。
【0019】
このようにした場合、各コアロッドの外径寸法、及び、各第2のクラッドロッドの外寸法にばらつきがあったとしても、クラッドチューブの径方向及び周方向にコアロッドの位置がずれることを抑制することができる。したがって、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバにおける光損失をより一段と低減することができる。
【0020】
また、前記準備工程では、前記第2のクラッドロッドの直径よりも小さい直径を有する第3のクラッドロッドがさらに準備され、前記配置工程では、前記第3のクラッドロッドが各ロッド間の隙間に配置されることが好ましい。
【0021】
このようにした場合、クラッドチューブのチューブ内に配置される複数のコアロッド、第1のクラッドロッド及び第2のクラッドロッドの位置の位置がずれることをより一段と抑制することができる。
【0022】
また、本発明は、マルチコアファイバの製造方法であって、上記のいずれかに記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法により製造されたマルチコアファイバ用母材を線引きする線引き工程を備える。
【0023】
このような製造方法では、上述したように、クラッドロッド及びクラッドチューブに対してコアロッドの外周形状に合わせるといった特別な加工を施すことなく、マルチコアファイバの光損失を低減できる。こうして、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバの製造方法が実現される。
【0024】
また、本発明は、マルチコアファイバの製造方法であって、複数のコアロッド、複数のクラッドロッド及びクラッドチューブを準備する準備工程と、前記クラッドチューブのチューブ内に、隣接するコアロッド同士の中心軸間距離が同程度となる状態、かつ、隣接するロッドにおける外周面の一部分同士が接する状態で、前記複数のコアロッド及び前記複数のクラッドロッドを配置する配置工程と、前記クラッドチューブと、前記チューブ内に配置された複数のコアロッド及び複数のクラッドロッドとを一体化しながら線引きする線引き工程とを備え、前記クラッドチューブにおける長さ方向に直交する方向のチューブ内断面積に対する、前記複数のコアロッド及び前記複数のクラッドロッドにおける長さ方向に直交する方向の総断面積の割合は、0.84以上とされることを特徴とする。
【0025】
上述したように、この割合が0.84未満となる場合に比べて、マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバにおけるコア間距離のばらつきが低減され、光損失を低減できる。また、クラッドロッド及びクラッドチューブに対してコアロッドの外周形状に合わせるといった特別な加工を施すことなく、マルチコアファイバの光損失を低減できる。こうして、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバの製造方法が実現される。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明によれば、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバ用母材の製造方法、及び、マルチコアファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<マルチコアファイバの構成>
図1は、本実施形態におけるマルチコアファイバの製造方法により製造されるマルチコアファイバ1の様子を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア11と、複数のコア11の外周面を隙間なく囲むクラッド12と、クラッド12を被覆する第1保護層13と、第1保護層13を被覆する第2保護層14とを備える。
を備える。
【0029】
複数のコア11はそれぞれ同じ構成であり、隣接するコア同士のコア間距離(隣接するコアの中心軸間の距離)Λ1は均等とされる。また、各コア11の屈折率はクラッド12の屈折率よりも高くされる。
【0030】
本実施形態の場合、コア数は12つとされ、クラッド12の中心軸CA1の周りに12つのコア11が配置される。これら12つのコア11は、クラッド12の中心軸CA1から等距離とされる。
【0031】
すなわち、マルチコアファイバ1の長さ方向に直交する断面では、6つのコア11の中心とクラッド12の中心を基準とする正六角形の頂点とが一致し、当該6つのコア11において隣接するコア同士の中間にコアがそれぞれ配置される。なお、クラッド12の中心軸CA1は、マルチコアファイバ1の中心軸でもある。
【0032】
<マルチコアファイバの製造方法>
図2は、本実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法は、準備工程P1、配置工程P2、一体化工程P3及び線引き工程P4を主工程として備える。
【0033】
これら工程P1〜P4のうち、少なくとも配置工程P2及び一体化工程P3は、粒子数濃度が10000m
−3以下となるクリーンルームで行われる。
【0034】
≪準備工程≫
図3は、準備工程P1で準備すべき部材を示す図である。
図3に示すように、準備工程P1では、複数のコアロッド20、複数のクラッドロッド30(30A〜30C)及びクラッドチューブ40が、マルチコアファイバ用母材の構成部材として準備される。
【0035】
コアロッド20は、クラッドチューブ40のチューブ内に挿入される円柱状の部材であり、コアエレメント層21と、当該コアエレメント層21の外周面を被覆するクラッドエレメント層22との2層構造とされる。
【0036】
コアエレメント層21の屈折率は、コアエレメント層21の屈折率がクラッドエレメント層22の屈折率よりも高くされる。具体的には、ゲルマニウムがドーパントとして付加された石英でコアエレメント層21を構成し、純粋な石英でクラッドエレメント層22を構成する例が挙げられる。
【0037】
クラッドロッド30は、クラッドチューブ40のチューブ内に挿入される円柱状の部材であり、クラッドエレメント層22と同じ材料で構成される。
【0038】
本実施形態における準備工程P1では、互いに外径の異なる3種類のクラッドロッド30A〜30Cがそれぞれ複数本ずつ準備される。具体的には、第1のクラッドロッド30Aは、コアロッド20の直径Dcと同程度の直径D1を有し、第2のクラッドロッド30Bはクラッドロッド30Aの直径D1よりも小さい直径D2を有し、第3のクラッドロッド30Cはクラッドロッド30Bの直径D2よりも小さい直径D3を有している。
【0039】
クラッドチューブ40は、マルチコアファイバ用母材の外形部分の構成要素となる円管状の部材であり、クラッドエレメント層22及びクラッドロッド30(30A〜30C)と同じ材料で構成される。
【0040】
これらコアロッド20、クラッドロッド30及びクラッドチューブ40の長さはそれぞれ同程度とされる。また、クラッドチューブ40のチューブ内断面積に対するコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)の総断面積の割合は、0.84以上0.96以下の範囲内とされる。
【0041】
なお、クラッドチューブ40のチューブ内断面積は、クラッドチューブ40の長さ方向に直交する断面のうち、クラッドチューブ40の内側面で囲まれる領域の面積のことを意味しており、クラッドチューブ40の内径をDとした場合、π(D/2)
2で表わされる。
【0042】
一方、コアロッド20及びクラッドロッド30の総断面積は、クラッドチューブ内に挿入される各コアロッド20それぞれの長さ方向に直交する断面積と、当該クラッドチューブ内に挿入される各クラッドロッド30それぞれの長さ方向に直交する断面積との総和を意味している。
【0043】
≪配置工程≫
配置工程P2では、準備工程P1にて準備された複数のコアロッド20、複数のクラッドロッド30及びクラッドチューブ40に対して洗浄及び乾燥等の表面加工処理が前処理として施される。なお、この表面加工処理は準備工程P1にて施されても良い。
【0044】
図4は、配置工程P2の様子を示す図である。
図4に示すように、複数のコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)が、隣接するコアロッド同士のコア間距離Λ2が同程度となる状態、かつ、隣接するロッドにおける外周面の一部分同士が接する状態で、クラッドチューブ40のチューブ内に配置される。なお、コア間距離Λ2は、隣接するコアロッドの中心軸間の距離を意味している。
【0045】
具体的には、
図4の(A)に示すように、まず、複数のコアロッド20及び第1のクラッドロッド30Aが、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、複数のコアロッド20のうちの一部のコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。
【0046】
このように配置されることで、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド20がクラッドチューブ40の径方向に位置ずれすることが抑制される。
【0047】
なお、本実施形態ではコア数が12つの場合を例として示しているが、例えばコア数が6つの場合には複数のコアロッド20におけるすべての外周面における一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。また、クラッドチューブ40の中心に配置されるクラッドロッド30Aがコアロッド20に変更されても良い。つまり、複数のコアロッド20のうち少なくとも2以上のコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置されていれば良い。
【0048】
次に、
図4の(B)に示すように、第2のクラッドロッド30Bが、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド20における外周面の一部分と、クラッドチューブ40における内周面の一部分と、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッド20における外周面の一部分とにそれぞれ接する状態で配置される。
【0049】
このように配置されることで、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド20がクラッドチューブ40の周方向に位置ずれすることが抑制される。また、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッド20がクラッドチューブ40の径方向及び周方向に位置ずれすることが抑制される。
【0050】
なお、本実施形態ではコア数が12つの場合を例として示しているが、例えばコア数が6つの場合にはクラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッド20はクラッドロッド30Aに変わる。
【0051】
次に、
図4の(C)に示すように、第3のクラッドロッド30Cが各ロッド間の隙間に配置される。このように配置されることで、クラッドチューブ40のチューブ内に配置される複数のコアロッド20、クラッドロッド30A及び30Bの位置ずれが抑制される。
【0052】
≪一体化工程≫
一体化工程P3では、クラッドチューブ40と、当該クラッドチューブ40のチューブ内に挿入されたコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)とが一体化される。
【0053】
具体的には、クラッドチューブ40と、当該クラッドチューブ40のチューブ内に挿入されたコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)とが真空中にて加熱される。
【0054】
このようにすることで、クラッドチューブ40、クラッドロッド30(30A〜30C)及びコアロッド20のクラッドエレメント層22のなかで互いに隣接するもの同士が融着され、当該クラッドチューブ40がおおむね変形することなくチューブ内の隙間が埋まる。この結果、
図5に示すマルチコアファイバ用母材50が得られる。
【0055】
≪線引き工程≫
線引き工程P4では、一体化工程P3にて得られたマルチコアファイバ用母材50の一端を円錐状の凸部として形成する末端加工処理が前処理として施される。なお、この末端加工処理は一体化工程P3にて施されても良い。
【0056】
そして、マルチコアファイバ用母材50が、末端加工処理が施された一端側から線引きされる。具体的には、マルチコアファイバ用母材50が紡糸炉に設置され、当該紡糸炉によってマルチコアファイバ用母材50の凸部が溶融するまで真空中にて加熱される。そして、溶融状態にあるマルチコアファイバ用母材50の凸部が線引きされ、当該線引きされた部分が冷却装置により適切な温度にまで冷却される。
【0057】
この結果、線引きされた部分におけるにおけるコアロッド20のコアエレメント層21がコア11として形成され、コアロッド20のクラッドエレメント層22、クラッドロッド30及びクラッドチューブ40がクラッド12として形成される。
【0058】
次に、クラッド12の周りに保護層を形成する後工程が行われる。すなわち、クラッド12の外周面が例えば紫外線硬化性樹脂で被覆され、当該紫外線硬化性樹脂に対して紫外線が照射されて第1保護層13が形成される。この後、第1保護層13の外周面が例えば紫外線硬化性樹脂で被覆され、当該紫外線硬化性樹脂に対して紫外線が照射されて第2保護層14が形成される。こうして、
図1に示すマルチコアファイバ1が製造される。
【0059】
<効果等>
以上のとおり、本実施形態におけるマルチコアファイバ用母材50及びマルチコアファイバ1の製造方法では、当該マルチコアファイバ用母材の構成部材として、コアロッド20、クラッドロッド30(30A〜30C)及びクラッドチューブ40が準備される。
【0060】
そして、このクラッドチューブ40のチューブ内断面積に対するコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)の総断面積の割合は、0.84以上とされる。
【0061】
このような関係にある場合、当該関係が0.84未満となる場合に比べて、マルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバ1におけるコア間距離Λ1のばらつきが低減され、光損失を低減できることが分かった。また、クラッドロッド30及びクラッドチューブ40に対してコアロッド20の外周形状に合わせるといった特別な加工を施すことなく、光損失を低減できる。こうして、光損失を簡易に低減し得るマルチコアファイバ用母材50の製造方法及びマルチコアファイバ1の製造方法が実現される。
【0062】
また本実施形態の場合、クラッドチューブ40のチューブ内断面積に対するコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)の総断面積の割合は、0.96以下とされる。
【0063】
この割合が0.96を超えた場合、コアロッド20及びクラッドロッド30をクラッドチューブ40に配置する際、コアロッド20及びクラッドロッド30の表面に傷が発生しやすくなる。そして、このような傷を有するマルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバ1は、当該傷に相当する箇所において気泡を含んだものとなってしまうことが分かった。したがって、当該割合が0.96以下とされることで、コアロッド20及びクラッドロッド30の表面に傷が発生することを抑制し、当該傷から得られる気泡に起因する光損失を防止することができる。
【0064】
また本実施形態の場合、配置工程P2及び一体化工程P3は、粒子数濃度が10000m
−3以下となるクリーンルームで行われる。
【0065】
このようにした場合、マルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバ1の光損失を、シングルコアファイバの損失レベルと同程度にまで低減することができることが分かった。したがって、マルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバ1における光損失をより一段と低減することができる。
【0066】
また本実施の形態の場合、複数のコアロッド20及び第1のクラッドロッド30Aが、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、複数のコアロッド20のうちの一部のコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。
【0067】
また、第2のクラッドロッド30Bが、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド20における外周面の一部分と、クラッドチューブ40における内周面の一部分と、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッド20における外周面の一部分とにそれぞれ接する状態で配置される。
【0068】
このようにした場合、各第1のクラッドロッド30Aの外径寸法、及び、各第2のクラッドロッド30Bの外寸法にばらつきがあったとしても、クラッドチューブ40の径方向及び周方向にコアロッド20の位置がずれることを抑制することができる。したがって、マルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバ1における光損失をより一段と低減することができる。
【0069】
また本実施の形態の場合、第3のクラッドロッド30Cが各ロッド間の隙間に配置される。このようにした場合、クラッドチューブ40のチューブ内に配置される複数のコアロッド20、クラッドロッド30A及び30Bの位置の位置がずれることをより一段と抑制することができる。
【0070】
<変形例>
以上、実施形態が一例として説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0071】
例えば上記実施形態では、クラッドチューブ40の中心軸周りに12つのコアロッド20のコア間距離Λ2が均等になるよう各ロッドを配置する配置形態が適用された。しかしながら、各ロッドの配置態様は上記実施形態以外を適用可能である。
例えば、
図4の(C)に示した上記実施形態における第1のクラッドロッド30Aをコアロッド20に変更した配置形態が適用可能である。この配置形態を適用した場合、準備工程P1では、第1のクラッドロッド30Aを準備することが省略される。一方、配置工程P2では、19つのコアロッド20が、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、6つのコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。また、第2のクラッドロッド30B及び30Cは、上記実施形態の場合と同様にして配置される。
また、
図6に示す配置形態が適用可能である。この
図6における配置形態では、クラッドチューブ40の中心軸周りに6つのコアロッド20が配置され、当該6つのコアロッド20の周りにさらに6つのコアロッド20が配置される。これら12つのコアロッド20におけるコア間距離は均等とされる。このような配置形態を適用した場合、配置工程P2では、第1のクラッドロッド30Aがクラッドチューブ40の中心に配置され、12つのコアロッド20が、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、6つのコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。また、5つの第2のクラッドロッド30Bを単位として、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッドにおける外周面の一部分と、クラッドチューブ40における内周面の一部分と、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド間に挟まれるコアロッド20における外周面の一部分とにそれぞれ接する状態で、第2のクラッドロッド30Bが配置される。なお、この
図6では、5つの第2のクラッドロッド30Bが単位とされているが、単位とすべき第2のクラッドロッド30Bの数は2以上の様々な数とすることができる。第3のクラッドロッド30Cは、上記実施形態の場合と同様にして配置される。
さらに、
図7に示す配置形態が適用可能である。この
図7における配置形態では、クラッドチューブ40の中心に1つのコアロッド20が配置され、当該中心軸周りに6つのコアロッド20が配置される。これら7つのコアロッド20におけるコア間距離は均等とされる。このような配置形態を適用した場合、準備工程P1では、第1のクラッドロッド30Aを準備することが省略される。一方、配置工程P2では、7つのコアロッド20が、隣接する3つのロッドの中心を結ぶ断面形状が三角形となる状態、かつ、6つのコアロッド20における外周面の一部分がクラッドチューブ40の内周面に接する状態で配置される。また、クラッドチューブ40の内周面に接するコアロッド20のなかで隣接するコアロッド20それぞれにおける外周面の一部分と、クラッドチューブ40における内周面の一部分とにそれぞれ接する状態で、第2のクラッドロッド30Bが配置される。第3のクラッドロッド30Cは、上記実施形態の場合と同様にして配置される。
なお、
図4の(C)に示した上記実施形態におけるロッドの配置形態と、
図6及び
図7に示したロッドの配置形態はあくまで例である。要するに、クラッドチューブ40のチューブ内断面積に対するコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)の総断面積の割合が0.84以上となる条件を充足していれば、上記実施形態及び変形例以外の様々な配置形態を適用することができる。
また、上記条件を充足していれば、コアロッド20及びクラッドロッド30の本数を2以上の様々な本数とすることができ、当該コアロッド20及びクラッドロッド30の形状を上記実施形態及び変形例以外の様々な形状とすることができる。
さらに、上記条件を充足していれば、1種類のクラッドロッド30A、30B又は30Cだけを用いるようにしても良く、互いに外径が異なる複数種類のクラッドロッドを用いても良く、コアロッド20の外径よりも大きい外径を有するクラッドロッドを用いても良い。さらに、上記条件を充足していれば、配置工程P2及び一体化工程P3が粒子数濃度が10000m
−3を超えるクリーンルームで行われていても良い。
【0072】
また上記実施形態では、一体化工程P3が行われた後に線引き工程P4が行われたが、当該一体化工程P3と線引き工程P4とが同時期に行われても良い。一体化工程P3と線引き工程P4とを同時期に行う場合、上記配置工程P2を経て得られるクラッドチューブ40と、当該クラッドチューブ40のチューブ内に挿入されたコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)との一端を円錐状の凸部として形成する末端加工処理が施される。
その後、クラッドチューブ40が紡糸炉に設置され、当該紡糸炉によってクラッドチューブ40と、当該クラッドチューブ40のチューブ内に挿入されたコアロッド20及びクラッドロッド30(30A〜30C)との一端が一体化しながら線引きされる。
このようなマルチコアファイバの製造方法を適用した場合であっても、上記実施形態におけるマルチコアファイバの製造方法と同様に、光損失を簡易に低減することができる。
【0073】
なお、上述のマルチコアファイバ用母材50の製造方法及びマルチコアファイバ1の製造方法は、上記実施形態及び変形例に示された内容以外に、適宜、本願目的を逸脱しない範囲で組み合わせ、省略、変更、周知技術の付加などをすることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例・比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0075】
上記実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法を用いて、
図4の(C)に示す配置形態のクラッドチューブ40と各コアロッド20及びクラッドロッド30とを一体化した10種類のマルチコアファイバ用母材それぞれからマルチコアファイバを試作した。これらマルチコアファイバを実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例2として、当該マルチコアファイバの寸法及び特性を下記表1に示す。
【表1】
【0076】
また、上記実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法を用いて、
図6に示す配置形態のクラッドチューブ40と各コアロッド20及びクラッドロッド30とを一体化した5種類のマルチコアファイバ用母材それぞれからマルチコアファイバを試作した。これらマルチコアファイバを実施例9〜実施例13として、当該マルチコアファイバの寸法及び特性を下記表2に示す。
【表2】
【0077】
さらに、上記実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法を用いて、
図7に示す配置形態のクラッドチューブ40と各コアロッド20及びクラッドロッド30とを一体化した5種類のマルチコアファイバ用母材それぞれからマルチコアファイバを試作した。これらマルチコアファイバを実施例14〜実施例16及び比較例3〜比較例4として、当該マルチコアファイバの寸法及び特性を下記表3に示す。
【表3】
【0078】
なお、上記表1〜表3における充填率は、上述したクラッドチューブ40のチューブ内断面積に対するコアロッド20及びクラッドロッド30の総断面積の割合を意味している。また、上記表1〜表3におけるコア間距離の標準偏差は、試作したマルチコアファイバにおいて隣接するすべてのコア同士のコア間距離に対する標準偏差であり、当該コア間距離Λ1は光学顕微鏡で測定している。
【0079】
さらに、上記表1〜表3における接続損失は、波長1550nmにおける接続損失であり、当該接続損失をLsとし、設計上のコア位置と、試作時のコア位置との偏差をdとし、コア11のモードフィールド径を2ωとした場合、次式
【数1】
を用いて計算した値である。ただし、コア配置に起因する接続損失を評価するため上記(1)式におけるモードフィールド径2ωは一定の値としている。
【0080】
また、上記表1〜表3におけるファイバ内泡は、試作したマルチコアファイバ内に含まれる気泡の有無の確認方法については、まず、試作したマルチコアファイバのすべてのコアについて、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)試験を実施して、ファイバ長手方向における損失データを得る。そして、この損失データから異常箇所を確認し、異常箇所がある場合、その異常箇所部をサンプリングして、顕微鏡によりファイバ内泡の有無を確認した。なお、ファイバ内泡が存在する場合、泡の存在によってコアの外径が大きく変動し、損失も変動するため、OTDR試験を用いることによって検出が可能となる。
【0081】
ここで、上記表1〜表3における実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例4のコア間距離の標準偏差と充填率との関係を
図8に示す。また、上記表1〜表3における実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例4の接続損失と充填率との関係を
図9に示す。なお、
図8及び
図9における「構造1」は上記表1のマルチコアファイバに対応し、「構造2」は上記表2のマルチコアファイバに対応し、「構造3」は上記表3のマルチコアファイバに対応している。
【0082】
図8に示すように、充填率が大きいほどコア間距離の標準偏差が小さくなった。このことから、充填率が大きいほどマルチコアファイバにおけるコア位置のばらつきを抑えることができていることが分かった。
【0083】
一方、
図9に示すように、充填率が大きいほど接続損失が低減されており、当該充填率が0.84以上とされた場合には実質的な接続損失がおおむねなかった。このことから、上記実施形態におけるマルチコアファイバ1の製造方法を用いて、0.84以上の充填率となるマルチコアファイバ用母材からマルチコアファイバを製造した場合、当該マルチコアファイバの接続損失を低減できることが分かった。加えて、マルチコアファイバ用母材におけるロッドの配置形態が異なっていても、当該マルチコアファイバ用母材から製造されるマルチコアファイバの接続損失を低減できることが分かった。
【0084】
他方、上記表1〜表3に示すように、充填率が0.96を超えるマルチコアファイバ用母材からマルチコアファイバを製造した場合には、当該マルチコアファイバ内に気泡が確認された。このことから、0.96以下の充填率となるマルチコアファイバ用母材からマルチコアファイバを製造した場合には、マルチコアファイバ用母材におけるコアロッド及びクラッドロッドの表面に生じる傷に起因する気泡を抑制し、光損失を防止することができる。なお、
図9において、充填率が0.96を超えるマルチコアファイバ用母材からマルチコアファイバの接続損失が小さくなっている理由は、当該マルチコアファイバに気泡がないものと仮定して上記(1)式により接続損失を計算しているからである。
【0085】
次に、上記表に示す実施例1〜実施例6及び実施例10〜実施例13のマルチコアファイバにおける光損失と、当該マルチコアファイバを試作するときの配置工程P2及び一体化工程P3でのクリーンルームの粒子数濃度との関係を
図10に示す。具体的に
図10の(A)は上記表に示す実施例1〜実施例6に対応し、
図10の(B)は上記表に示す実施例10〜実施例13に対応している。
【0086】
なお、
図10に示すプロットは、マルチコアファイバにおけるすべてのコアそれぞれについて測定した波長1550nmにおける光損失の平均値である。また、
図10に示す粒子数濃度は、市販のパーティクルカウンターを用いて、粒子径が0.5μm以上の大気中の粒子を対象として測定した。
【0087】
図10に示すように、粒子数濃度が高いほど光損失が増加していることが分かる。ところで、実施例1〜実施例6で用いたコアロッド20からシングルコアファイバを試作し、当該シングルコアファイバにおける光損失を測定したところ、0.196dB/kmであった。また、実施例10〜実施例13で用いたコアロッド20からシングルコアファイバを試作し、当該シングルコアファイバにおける光損失を測定したところ、0.188dB/kmであった。
【0088】
したがって、粒子数濃度が10000m
−3以下となるクリーンルームで配置工程P2及び一体化工程P3を行って、上記実施形態におけるマルチコアファイバの製造方法を用いれば、マルチコアファイバ用母材50から製造されるマルチコアファイバの光損失を、シングルコアファイバの損失レベルと同程度にまで低減することができることが分かった。