(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記基材層のポリエチレンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン−アクリレート共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多層熱回復物品。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
従来の多層熱回復物品では、例えば基材層のみに酸化防止剤を含有させ、その含有量をブルーム及びブリードが発生しない程度に抑えることが行われている。この多層熱回復物品の構成では、接着剤層は、酸化防止剤を含有していないので、銅によって酸化し易い。また、基材層の酸化防止剤の含有量がブルーム及びブリードが発生しない程度に抑えられているので、イオン化した銅が基材層に移行して基材層を酸化すること、及び多層熱回復物品の周囲の酸素が基材層を酸化することを十分に防止できないという不都合がある。
【0015】
この不都合に対し、本発明者らは、接着剤層にも酸化防止剤を含有させることにより、多層熱回復物品が劣化し難くなることを見出した。これは、接着剤層中の酸化防止剤が銅による接着剤層の酸化を防止すると共に、接着剤層中の酸化防止剤が基材層に移行し、イオン化して基材層に移行した銅による基材層の酸化、及び多層熱回復物品の周囲の酸素による基材層の酸化を防止するためと考えられる。
【0016】
このことから、基材層に含有させる酸化防止剤の量をブルーム及びブリードが発生しない程度に少なくしても、接着剤層に酸化防止剤を含有させることにより、多層熱回復物品の劣化を防止することが考えられる。
【0017】
また、本発明者らは、接着剤層の酸化防止剤の含有量を増やすと接着剤層の酸化誘導温度が上昇し、また、基材層の酸化防止剤の含有量を増やすと基材層の酸化誘導温度が上昇することから、接着剤層及び基材層のそれぞれの酸化防止剤の含有量の範囲を接着剤層及び基材層のそれぞれの酸化誘導温度を指標として決められることを見出した。これらのことから、本発明者らは本発明に至った。
【0018】
すなわち、本発明は、円筒状の基材層と、この基材層の内周面に積層される接着剤層とを備える多層熱回復物品であって、上記基材層が、ポリエチレンと酸化防止剤とを含有し、上記接着剤層が、エチレン−酢酸ビニル共重合体と酸化防止剤とを含有し、上記基材層の酸化誘導温度が255℃以上270℃以下であり、上記接着剤層の酸化誘導温度が255℃以上である多層熱回復物品である。
【0019】
当該多層熱回復物品は、基材層の酸化誘導温度が上記範囲内であり、接着剤層の酸化誘導温度が上記下限以上であるため、基材層の外周面におけるブルーム及びブリードの発生を抑制でき、かつ対銅害性に優れる。また、当該多層熱回復物品は、基材層と接着剤層との酸化防止剤の含有量を調整することで、容易に製造することができる。なお、「酸化誘導温度」とは、示差走査熱量計を用い、酸素雰囲気下にて被測定物を150℃より2℃/分で昇温したとき、発熱による温度上昇がピークとなる温度をいう。
【0020】
上記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤であることが好ましい。このことにより、対銅害性をさらに向上できる。
【0021】
上記接着剤層におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対する酸化防止剤の含有量の下限としては4質量部が好ましく、上限としては14質量部が好ましい。酸化防止剤の含有量が上記下限未満であると、接着剤層及び基材層が酸化し易くなり、多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、酸化防止剤の含有量が上記上限を超えると、コストが高止まりする。
【0022】
上記基材層におけるポリエチレン100質量部に対する酸化防止剤の含有量の下限としては、1質量部が好ましく、上限としては、5質量部が好ましい。酸化防止剤の含有量が上記下限未満であると、基材層が酸化し易くなり、多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、酸化防止剤の含有量が上記上限を超えると、ブルーム及びブリードが発生し易くなるおそれがある。
【0023】
上記基材層のポリエチレンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン−アクリレート共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記基材層のポリエチレンの構成をこのようにすることにより、このポリエチレンの構成と接着剤層に使用されているエチレン−酢酸ビニル共重合体の構成とが類似する。このことにより、接着剤層の酸化防止剤濃度が基材層の酸化防止剤濃度より高くても、酸化防止剤が接着剤層から基材層へ移行し難くなるので、基材層でのブリード及びブルームがより発生し難くなる。
【0024】
上記接着剤層が、さらに無機フィラーを含有することが好ましい。このことにより、接着剤層の粘度を容易に調整でき、当該多層熱回復物品によって対象物を被覆したときの接着剤層の厚みを均一にすることができる。その結果、接着剤層中の酸化防止剤による効果が均一になり、対銅害性をさらに向上できる。
【0025】
上記基材層が、さらに難燃剤を含有することが好ましい。このことにより、多層熱回復物品が難燃性に優れる。
【0026】
上記基材層が銅害防止剤を含有しないことが好ましい。当該多層熱回復物品においては基材層が銅害防止剤を含有しなくても、多層熱回復物品が対銅害性に優れるようにすることができる。このように、銅害防止剤を含有させないことで多層熱回復物品の製造コストを抑えることができる。
【0027】
また、本発明は、導体及びその外側に積層される絶縁層を有する複数本のワイヤと、上記複数本のワイヤの導体同士が接続された部分に被着された当該多層熱回復物品を熱収縮させたチューブとを備えるワイヤスプライスを含む。
【0028】
当該ワイヤスプライスは、上述のように対銅害性に優れ、劣化し難い当該多層熱回復物品を熱収縮させたチューブを備えている。そのため、当該ワイヤスプライスは、長寿命化が図られ、ワイヤ及びその接続部分の保護、絶縁、防水、防食等の保護状態を長期間維持することが可能となる。
【0029】
さらに本発明は、導体及びその外側に積層される絶縁層を有する複数本のワイヤと、上記複数本のワイヤに被着された当該多層熱回復物品を熱収縮させたチューブとを備えるワイヤハーネスを含む。
【0030】
当該ワイヤハーネスは、上述のように対銅害性に優れ、劣化し難い当該多層熱回復物品を熱収縮させたチューブを備えている。そのため、当該ワイヤスプライスは、長寿命化が図られ、ワイヤの保護、絶縁、防水、防食等の保護状態を長期間維持することが可能となる。
【0031】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る多層熱回復物品、ワイヤスプライス及びワイヤハーネスを説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等な意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【0032】
[多層熱回復物品]
図1〜
図3の多層熱回復物品は、例えば絶縁電線同士の接続部分、配線の端末、金属管等の保護、絶縁、防水、防食等のための被覆として使用される。この多層熱回復物品は、円筒状の基材層10と、この基材層10の内周に積層される接着剤層11とを備える。
【0033】
〔基材層〕
基材層10は、主成分としてのポリエチレンと酸化防止剤とを含有する。「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。基材層10は、加熱されることで縮径するチューブとして形成される。また、基材層10には難燃性を向上させる目的で難燃剤を添加することが好ましい。さらに、この基材層10に必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。そのような添加剤としては、例えば銅害防止剤、滑材、着色剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0034】
<基材層の酸化誘導温度>
基材層10の酸化誘導温度の下限としては、255℃であり、257℃が好ましい。また、基材層10の酸化誘導温度の上限としては、270℃であり、265℃が好ましい。この酸化誘導温度が上記下限未満であると、基材層10が酸化し易くなり、多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、酸化誘導温度が上記上限を超えると、酸化防止剤の含有量が多いために、ブルーム及びブリードが発生するおそれがある。
【0035】
<ポリエチレン>
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン−アクリレート共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。これらのポリエチレンを用いることにより、多層熱回復物品におけるブルーム及びブリードがさらに発生し難くなり、多層熱回復物品がさらに耐銅害性に優れ易くなる。なお、エチレン−アクリレート共重合体としては、エチレンに由来する単位の数がアクリレート単位の数よりも多いものが好ましい。また、ポリエチレンとしては、上述した以外にも超低密度ポリエチレン、エチレンに由来する単位の数の割合が50%以上であるオレフィン系エラストマー等を用いることができる。
【0036】
このポリエチレンのMFR(メルトフローレート)の下限としては、0.1g/10分が好ましく、0.7g/10分がより好ましい。MFRが上記下限未満であると、基材層10を押出成形するのに大きな圧力が必要になる。一方、ポリエチレンのMFRの上限としては、10.0g/10分が好ましく、4.0g/10分がより好ましい。MFRが上記上限を超えると、樹脂が流れすぎ、基材層の形状を均一にすることが困難になる。また、ポリエチレンのmp(融点)の下限としては、100℃が好ましく、105℃がより好ましい。mpが上記下限未満であると、多層熱回復物品が低い温度で熱収縮するので扱い難くなる。一方、ポリエチレンのmpの上限としては、135℃が好ましく、132℃がより好ましい。mpが上記上限を超えると多層熱回復物品を熱収縮させる温度が高くなり、多層熱回復物品で被覆される物品に悪影響を与えるおそれがある。なお、MFRとは、JIS−K6760:1997で規定された押出し形プラストメータを用い、JIS−K7210:1997に準拠して温度190℃、荷重21.6kgの条件で測定した値を意味する。また、mpとは、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS−K7121に規定する方法に従って昇温速度10℃/分で測定したときの融解ピーク温度を意味する。
【0037】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤が好ましい。これら酸化防止剤を用いることにより、対銅害性をさらに向上できる。なお、酸化防止剤としては、上述した以外に硫黄系酸化防止剤及び亜リン酸エステル系酸化防止剤等を単独又は併用で用いることができる。
【0038】
また、基材層10における酸化防止剤の含有量の下限としては、ポリエチレン100質量部に対して1質量部が好ましく、1.5質量部がより好ましい。一方、酸化防止剤の含有量の上限としては、ポリエチレン100質量部に対して5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記下限未満であると、基材層10が酸化し易くなり、当該多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、酸化防止剤の含有量が上記上限を超えると、ブルーム及びブリードが発生するおそれがある。
【0039】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス−[メチレン−3−(3′5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、6−(4−ヒドロキシ−3,5−−ジ−tert−ブチル・アニリノ)−2,4−ビス・オクチル−チオ−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。
【0040】
(アミン系酸化防止剤)
アミン系酸化防止剤としては、4,4’(α、αージメチルベンジル)ジフェニルアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン等を挙げることができる。
【0041】
<難燃剤>
難燃剤としては、
塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェニル、パークロルペンタシクロデカン等の塩素系難燃剤;
1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタン、エチレンビスペンタブロモベンゼン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモエタン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル、テトラブロモ無水フタール酸、ポリジブロモフェニレンオキサイド、ヘキサブロモシクロデカン、臭化アンモニウム等の臭素系難燃剤;
トリアリルホスフェート、アルキルアリルホスフェート、アルキルホスフェート、ジメチルホスフォネート、ホスフォリネート、ハロゲン化ホスフォリネートエステル、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3ジブロモプロピル)2,3ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ポリホスホネート、ポリホスフェート、芳香族ポリホスフェート、ジブロモネオペンチルグリコール、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミ等のリン酸エステル又はリン化合物;
ホスホネート型ポリオール、ホスフェート型ポリオール、ハロゲン元素等のポリオール類;
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンチモン、ホウ酸、モリブテン酸アンチモン、酸化モリブテン、リン・窒素化合物、カルシウム・アルミニウムシリケート、ジルコニウム化合物、錫化合物、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム水和物、酸化銅、金属銅粉、炭酸カルシウム、メタホウ酸バリウム等の金属粉又は無機化合物;
メラミンシアヌレート、トリアジン、イソシアヌレート、尿素、グアニジン等の窒素化合物;
シリコーン系ポリマー、フェロセン、フマール酸、マレイン酸等のその他の化合物などが挙げられる。これらの中でも、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤が好ましい。臭素系難燃剤及び塩素系難燃剤は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記難燃剤の含有量の範囲は、例えば臭素系難燃剤の場合、下限としては、ポリエチレン100質量部に対して1質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。また、上限としては、ポリエチレン100質量部に対して50質量部が好ましく、40質量部がより好ましい。上記難燃剤の含有量が上記下限未満であると、難燃性付与の効果が得られないおそれがある。また、上記難燃剤の含有量が上記上限を超えると、熱回復物品として必要な靭性や伸びが悪くなるおそれがある。
【0043】
<銅害防止剤>
銅害防止剤としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、2,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド等を挙げることができる。基材層10に銅害防止剤を含有させることによって、銅害を防止することが期待されるが、当該多層熱回復物品では、基材層10及び接着剤層11に酸化防止剤を含有させるので、銅害防止剤を含有させなくとも構わない。このように、高価な銅害防止剤を含有させないことによって、多層熱回復物品の製造コストを抑えることができる。
【0044】
上記銅害防止剤の含有量の範囲は、例えば銅害防止剤が3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾールの場合、下限としては、ポリエチレン100質量部に対して0.5質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。また、上限としては、ポリエチレン100質量部に対して10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。上記銅害防止剤の含有量が上記下限未満であると、銅害防止剤の効果が得られないおそれがある。また、上記銅害防止剤の含有量が上記上限を超えても、銅害防止効果の向上が得られない。
【0045】
〔接着剤層〕
接着剤層11は、主成分としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体と酸化防止剤とを含有する。接着剤層11は、多層熱回復物品が被覆する被覆部分と基材層10との密着性を高め、防水性等を向上させるためのものである。また、接着剤層11には、多層熱回復物品に形成された後での粘度を調整する目的で無機フィラーを添加することが好ましい。さらに、この接着剤層11に必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。そのような添加剤としては、例えば銅害防止剤、劣化抑制剤、粘度特性改良剤、難燃剤、滑材、着色剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、粘着剤等が挙げられる。
【0046】
<接着剤層の酸化誘導温度>
接着剤層11の酸化誘導温度の下限としては、255℃であり、258℃が好ましい。
また、接着剤層11の酸化誘導温度の上限としては、270℃が好ましく、265℃がより好ましい。上記酸化誘導温度が上記下限未満であると、接着剤層11及び基材層10が酸化し易くなり、多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、上記酸化誘導温度が上記上限を超えても、接着剤層11及び基材層10の酸化防止効果の向上が得られない。
【0047】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体>
エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルの含有量の下限としては12質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、19質量%がさらに好ましい。また、上記酢酸ビニルの含有量の上限としては46質量%が好ましく、35質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましい。上記酢酸ビニルの含有量が上記下限未満であると、十分な柔軟性が得られないおそれがある。一方、上記酢酸ビニルの含有量が上記上限を超えると、接着剤層11の押出成形時に、接着剤層11を形成するための接着剤組成物がダイス、金型等に固着し、取扱いが困難となるおそれがある。
【0048】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRの下限としては、50g/10分が好ましく、100g/10分がより好ましい。MFRが上記下限未満であると、接着剤層11を押出成形するのに大きな圧力が必要になる。また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRの上限としては、600g/10分が好ましく、500g/10分がより好ましい。MFRが上記上限を超えると、樹脂が流れすぎ、接着剤層の形状を均一にすることが困難になる。
【0049】
<酸化防止剤>
接着剤層11の酸化防止剤には基材層10と同様の酸化防止剤を用いることができる。また、接着剤層11における酸化防止剤の含有量の下限としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して4質量部が好ましく、6質量部がより好ましい。一方、酸化防止剤の含有量の上限としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して14質量部が好ましく、9質量部がより好ましい。酸化防止剤の含有量が上記下限未満であると、接着剤層11及び基材層10が酸化し易くなり、多層熱回復物品が劣化するおそれがある。また、酸化防止剤の含有量が上記上限を超えても、接着剤層11及び基材層10の酸化防止効果の向上が得られない。
【0050】
<無機フィラー>
無機フィラーとしては、有機処理層状珪酸塩、有機処理膨潤性雲母、炭酸カルシウム、カーボン等を挙げることができる。無機フィラーを含有させることによって、接着剤層11の粘度を容易に調整でき、接着剤層11の厚みを均一にすることができる。その結果、接着剤層11中の酸化防止剤による効果が均一になり、対銅害性をさらに向上できる。
【0051】
上記無機フィラーの含有量の範囲は、例えば無機フィラーが有機処理層状珪酸塩の場合、下限としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して0.5質量部が好ましく、2質量部がより好ましい。また、上限としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して40質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。上記無機フィラーの含有量が上記下限未満であると、無機フィラーの効果が得られないおそれがある。また、上記無機フィラーの含有量が上記上限を超えると、接着剤層の柔軟性が低下するおそれがある。
【0052】
(有機処理層状珪酸塩)
有機処理層状珪酸塩とは、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト等の層状珪酸塩(粘土鉱物、クレー)を有機処理したものである。層状に積層した珪酸塩平面の間には、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等の中間層カチオンが存在して層状の結晶構造を保っている。層状珪酸塩を有機処理することでこの中間層カチオンが有機カチオンとイオン交換される。このように有機化合物が珪酸塩平面の表面に化学的に結合して層間に導入(インターカレーション)されることで珪酸塩平面間の層間距離が大きくなり、熱可塑性樹脂への分散性が向上する。層状珪酸塩としては天然品、合成品のいずれも使用できる。
【0053】
<銅害防止剤>
銅害防止剤としては、基材層10の銅害防止剤と同様のものを挙げることができる。接着剤層11に銅害防止剤を含有させることによって、銅害を防止することが期待されるが、当該多層熱回復物品では、基材層10及び接着剤層11に酸化防止剤を含有させるので、銅害防止剤を含有させなくてもよい。このように高価な銅害防止剤を含有させないことによって、多層熱回復物品の製造コストを抑えることができる。
【0054】
<劣化抑制剤>
劣化抑制剤は、多層熱回復物品が被着される被着体の劣化を、抑制するためのものである。典型的には、劣化抑制剤は、絶縁電線の被覆層あるいは多層熱回復物品の接着剤層11に含まれる塩基性成分に起因する絶縁層の割れの発生を抑制するためのものである。この劣化抑制剤は、粘度特性改良剤としての役割をも果たしうる。劣化抑制剤としては、被着体が劣化する要因に応じて選択すればよいが、例えば塩基性成分に起因する被着体の劣化を抑制する場合、塩基性成分による脱塩酸反応が生じることを抑制する化合物、又は塩酸反応により生成した塩化水素、塩化物イオン等を捕捉もしくは中和することができる化合物を使用することができる。このような劣化抑制剤としては、例えば活性白土、ハイドロタルサイト、リンを有する酸化防止剤(酸価10mgKOH/g以上)等を挙げることができる。これらの劣化抑制剤を接着剤層11に含有させることで、例えば窒素含有化合物を吸着し、アニオンを取り込み、脱塩酸反応により生じた塩化水素を捕捉する等して接着剤層11の塩基性成分に起因する被着体の劣化を抑制できる。
【0055】
[多層熱回復物品の製造方法]
多層熱回復物品は、例えば以下の工程により製造することができる。
(1)基材層10を形成するための基材層樹脂組成物、及び接着剤層11を形成するための接着剤組成物を調製する工程
(2)基材層樹脂組成物及び接着剤組成物を溶融押出成機を用いて押出成形することで多層押出成形品を形成する工程
(3)多層押出成形品を拡径させて多層熱回復物品とする工程
【0056】
(1)組成物の調製工程
基材層樹脂組成物は、樹脂成分、必要に応じて添加剤を溶融混合機により混合することで調製できる。溶融混合機としては、公知のもの、例えばオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、単軸混合機、多軸混合機等を使用できる。
【0057】
接着剤組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酸化防止剤、及び必要に応じた添加剤を溶融混合機により混合することで調製できる。溶融混合機としては、基材層樹脂組成物を調製する場合と同様のものを使用できる。
【0058】
(2)多層押出成形品形成工程
多層押出成形品は、基材層樹脂組成物と接着剤組成物とを公知の溶融押出成形機を用いて、基材層樹脂組成物及び接着剤組成物を同時に押出成形することで、基材層10に対応する外層の内周面に接着剤層11に対応する内層が積層されたものとして形成される。多層押出成形品は、外層の構成材料を架橋することにより、耐熱性を向上させてもよい。架橋方法としては、例えば電離性放射線の照射による架橋、化学架橋、熱架橋等の方法が挙げられる。
【0059】
多層押出成形品の寸法は、用途等に応じて設計することができる。多層押出成形品の基材層10に対応する層の寸法は、一例において、内径及び肉厚のそれぞれが、1.0mm〜30mm及び0.1mm〜10mmとされる。多層押出成形品の接着剤層11に対応する層の寸法は、一例において、内径及び肉厚のそれぞれが、0.1mm〜10mm及び0.1mm〜8.5mmとされる。
【0060】
(3)多層押出成形品の拡径工程
多層押出成形品の拡径は、多層押出成形品を融点以上の温度に加熱した状態で内部に圧縮空気を導入する等の方法により所定の内径となるように膨張させた後、冷却して形状を固定させることで行われる。このような多層押出成形品の拡径は、例えば多層押出成形品の内径が2倍〜4倍程度となるように行われる。このようにして多層押出成形品を拡径させて形状固定したものが多層熱回復物品となる。
【0061】
[利点]
当該多層熱回復物品は、基材層10の酸化誘導温度が上記範囲内であり、接着剤層11の酸化誘導温度が上記下限以上であるため、基材層10の外周面におけるブルーム及びブリードの発生を抑制でき、かつ対銅害性に優れる。
【0062】
また、当該多層熱回復物品は、基材層10と接着剤層11との酸化防止剤の含有量を調整することで、容易に製造することができる。
【0063】
〔ワイヤスプライス及びワイヤハーネス〕
本発明の多層熱回復物品は、例えば導体を被覆する絶縁層がポリエチレン(PE)であるPE電線又はPEケーブル、絶縁層がポリビニルクロライド(PVC)であるPVC電線又はPVCケーブル等のワイヤの保護、絶縁、防水、防食等のために使用することができる。具体的には、多層熱回復物品は、ワイヤスプライス及びワイヤハーネスに適用することができる。
【0064】
図4は多層熱回復物品をワイヤスプライスに適用した例を、
図5及び
図6は多層熱回復物品をワイヤハーネスに適用した例を示している。
【0065】
図4のワイヤスプライスは、一対のワイヤ20の導体線21同士を撚って接続し、この接続部分に
図1の多層熱回復物品を熱収縮させたチューブ1を被着したものである。ワイヤ20は、PE電線若しくはPVC電線等の絶縁電線又はケーブルである。ワイヤ20としては、例えば最外層に位置する絶縁層が、ポリビニルクロライドを主成分とするものが使用される。絶縁層におけるポリビニルクロライドの含有量は、例えば50質量%以上95質量%以下である。このようなワイヤスプライスにおいて、チューブ1は、接続部分の保護、絶縁、防水、防食等に寄与することができる。
【0066】
図5及び
図6のワイヤハーネスは、複数本のワイヤ30を
図1の多層熱回復物品を熱収縮させたチューブ1により結束し、複数本のワイヤ30の端部に多ピンコネクタ31を設けたものである。ワイヤ30は、
図4に示したワイヤスプライスのワイヤ20と同様のものである。このワイヤハーネスにおいて、チューブ1は、単に各ワイヤ30を結束する役割を果たすだけでなく、個々のワイヤ30を保護する等の役割を果たす。
【0067】
なお、本発明のワイヤスプライスとワイヤハーネスとは、厳格に区別できない場合があり、ワイヤスプライスであって、なおかつワイヤハーネスであるという場合もあり得る。
【0068】
<他の実施の形態>
本発明の多層熱回復物品は、
図1〜
図3に示したチューブ状に基材層10が形成された多層熱回復物品に限らず、例えば
図7に示したキャップ状に基材層10Aが形成された多層熱回復物品であってもよい。この多層熱回復物品は、多層熱回復物品の一端部を加熱収縮させて一端部を閉じることで、キャップ状の基材層10Aの内周面に接着剤層11Aを配置させたものである。この多層熱回復物品は、例えば配線の端末処理に好適に使用することができる。
【0069】
本発明の多層熱回復物品は、基材層と接着剤層とを個別に押出成形することで形成してもよい。この場合の多層熱回復物品は、押出成形後に膨張させた基材層の内部に接着剤層をセットし、これを被着体に被着させた上で基材層を収縮させることにより使用される。
【0070】
本発明のワイヤスプライスは、ワイヤ同士の接続部分に多層熱回復物品が被着されたものであればよく、1本のワイヤを複数本のワイヤに接続したもの、複数本のワイヤ同士を接続したもの又は配線の端末処理のように複数本のワイヤの端部をまとめて接続したものであってもよく、その他の形態とすることもできる。
【0071】
本発明のワイヤハーネスは、複数本のワイヤを平面状に束ねた、いわゆるフラットハーネスとして構成することもでき、その他の形態とすることもできる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例及び比較例]
基材層及び接着剤層の構成を変えて実施例及び比較例の多層熱回復物品を製造した。具体的には、多層熱回復物品を上述した多層押出成形品形成工程及び拡径工程により、表1及び表2に示す構成で製造した。多層押出成形品の基材層10に対応する層における外径を4.6mmとし、内径を2.8mmとし、肉厚を0.9mmとした。また、多層押出成形品の接着剤層11に対応する層における外径を2.8mmとし、内径を0.6mmとし、肉厚を1.1mmとした。そして、拡径工程によって外径が7.5mmになるように多層押出成形品を拡径した。このようにして、No.1〜11の多層熱回復物品を実施例とし、No.12〜17の多層熱回復物品を比較例として製造した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
表1及び表2における各成分の詳細は以下の通りである。なお、以下に示すMFRは、JIS−K6760:1997で規定された押出し形プラストメータを用い、JIS−K7210:1997に準拠して温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0077】
高密度ポリエチレン:MFR0.8g/10分、mp130℃、密度0.95g/ml
低密度ポリエチレン:MFR1.5g/10分、mp108℃、密度0.92g/ml
直鎖状低密度ポリエチレン:MFR0.8g/10分、mp120℃、密度0.92g/ml
エチレン−エチルアクリレート共重合体:MFR0.4g/10分、mp104℃
銅害防止剤:3−(N−サリチロイル)アミノー1,2,4−トリアゾール
臭素系難燃剤:1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタン
エチレン−酢酸ビニル共重合体1:酢酸ビニル含量28wt%、MFR150g/10分
エチレン−酢酸ビニル共重合体2:酢酸ビニル含量28wt%、MFR400g/10分
酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトールテトラキス[3−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
酸化防止剤2:アミン系酸化防止剤、4,4’(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
有機処理層状珪酸塩:層状珪酸塩(白石工業株式会社の「オスモスN」<比表面積9m
2/g>)を塩化ジメチルジステアリルアンモニウムで処理
【0078】
<基材層及び接着剤層の酸化誘導温度>
No.1〜17の多層熱回復物品における基材層及び接着剤層の酸化誘導温度を表1及び表2に示す。この酸化誘導温度は、示差走査熱量計(株式会社島津製作所の「TA−60」)を用い、酸素雰囲気下にて150℃より2℃/minで昇温し、発熱による温度上昇がピークとなる温度として求めた。
【0079】
<多層熱回復物品の評価>
No.1〜17の多層熱回復物品の評価として銅接触老化試験及びブルーム確認を行った。評価結果を表1及び表2に示す。銅接触老化試験及びブルーム確認の詳細は以下の通りである。
【0080】
(銅接触老化試験)
1.0mmφの銅棒に多層熱回復物品を被せ、150℃で2分間加熱して熱回復物品を収縮させた。その後、158℃で168時間加熱し、銅棒を抜き取り、熱回復物品の引張試験を実施して伸びを測定した。引張速度は、500mm/分とした。伸びが100%以上を合格としてAとし、伸びが100%未満を不合格としてBとした。
【0081】
(ブルーム確認1)
膨張工程完了時に多層熱回復物品の表面にブルーム及びブリードが生じていないものを合格としてAとし、表面にブルーム又はブリードが生じているものを不合格としてBとした。
【0082】
(ブルーム確認2)
室温で3ヶ月間保管した後において多層熱回復物品の表面にブルーム及びブリードが生じていないものを合格としてAとし、表面にブルーム又はブリードが生じているものを不合格としてBとした。
【0083】
(結果)
N0.1〜11の多層熱回復物品は、銅接触老化試験における伸びがいずれも100%以上で合格であり、ブルーム確認1及びブルーム確認2も合格であった。一方、N0.12〜17の多層熱回復物品は、銅接触老化試験、ブルーム確認1、又はブルーム確認2のいずれかで不合格となった。
【0084】
また、N0.1〜11の多層熱回復物品は、上記銅接触老化試験のような高温試験に合格するので、UL規格の125℃の耐熱性を満足することが期待される。