(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されているとともに、前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されており、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって平均1〜200μmであり、前記カーボンナノチューブは2μm以上の平均長さを有することを特徴とする電磁波吸収フィルム。
請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収フィルムにおいて、前記金属薄膜がアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなることを特徴とする電磁波吸収フィルム。
請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収フィルムにおいて、前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さがカーボンナノチューブの質量基準で0.01〜0.5 g/m2であることを特徴とする電磁波吸収フィルム。
請求項1〜7のいずれかに記載の電磁波吸収フィルムにおいて、前記カーボンナノチューブ薄層の上にプラスチックフィルムが熱ラミネートされていることを特徴とする電磁波吸収フィルム。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1(a)】本発明の一実施形態による電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【
図1(b)】
図1(a) の電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【
図1(c)】
図1(b) のA-A断面図(カーボンナノチューブ薄層を省略)である。
【
図1(d)】
図1(c) のA'部分を示す拡大断面図である。
【
図1(e)】本発明の他の実施形態による電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【
図1(f)】
図1(e) のB部分(カーボンナノチューブ薄層を省略)を示す拡大断面図である。
【
図2(a)】本発明のさらに他の実施形態による電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【
図2(b)】本発明のさらに他の実施形態による電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【
図2(c)】本発明のさらに他の実施形態による電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【
図3(a)】本発明のさらに他の実施形態による電磁波吸収フィルムの線状痕及び微細穴の詳細を示す部分平面図である。
【
図3(b)】
図3(a) のC-C断面図(カーボンナノチューブ薄層を省略)である。
【
図4】本発明のさらに他の実施形態による電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【
図5(a)】線状痕の形成装置の一例を示す斜視図である。
【
図5(b)】
図5(a) の装置を示す平面図である。
【
図5(d)】複合フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【
図5(e)】
図5(a) の装置において、複合フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【
図6】線状痕の形成装置の他の例を示す部分断面図である。
【
図7】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図8】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図9】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図10(a)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す平面図である。
【
図10(b)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す部分断面正面図である。
【
図11(a)】熱拡散性(放熱性)の評価に用いるサンプル及びアクリル支持板を示す平面図である。
【
図11(b)】アクリル支持板に固定したサンプルを示す平面図である。
【
図11(c)】アクリル支持板に固定したサンプルを示す断面図である。
【
図11(d)】サンプルを示す部分拡大断面図である。
【
図12】サンプルの熱拡散性(放熱性)の評価方法を示す概略図である。
【
図13】サンプルの熱拡散を測定する方法を示す平面図である。
【
図14】実施例1及び比較例1の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図15】実施例1及び比較例1の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図16】実施例1の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図17】比較例1の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図18】実施例2及び比較例2の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図19】実施例2及び比較例2の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図20】実施例1及び5の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図21】実施例1及び5の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図22】実施例6の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図23】実施例6の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図24】比較例3の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図25】比較例3の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図26】比較例4の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図27】比較例4の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図28】実施例8の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図29】実施例8の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図30】実施例8の電磁波吸収フィルムの6カ月後のノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図31】比較例6の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図32】比較例6の電磁波吸収フィルムの6カ月後のノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図33】比較例7の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図34】比較例7の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図35】実施例9の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図36】実施例9の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図37】比較例8の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図38】比較例8の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図39】比較例9の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率P
loss/P
inと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【
図40】比較例9の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図41】比較例10の電磁波吸収フィルムの熱拡散性を示すグラフである。
【
図42】比較例11のグラファイトシートの熱拡散性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0021】
[1] 電磁波吸収フィルム
本発明の電磁波吸収フィルム1は、
図1(a) に示すように、プラスチックフィルム10の少なくとも一面に単層又は多層の金属薄膜11と、カーボンナノチューブ薄層14とが順に形成された構造を有する。
図1(a)〜
図1(d)は、プラスチックフィルム10の一面全体に形成された金属薄膜11に実質的に平行で断続的な多数の線状痕12が二方向に形成された例を示す。
【0022】
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。強度及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0023】
(2) 金属薄膜
金属薄膜11を形成する金属は導電性を有する限り特に限定されないが、耐食性及びコストの観点からアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金が好ましく、特にアルミニウム、銅、ニッケル及びこれらの合金が好ましい。金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、実用的には10μm程度で十分である。勿論、10μm超の金属薄膜を用いても良いが、高周波数の電磁波の吸収能はほとんど変わらない。金属薄膜の厚さは0.01〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmが最も好ましい。金属薄膜11は蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、又はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等の化学気相蒸着法)、めっき法又は箔接合法により形成することができる。
【0024】
金属薄膜11が単層の場合、金属薄膜11は導電性、耐食性及びコストの観点からアルミニウム又はニッケルからなるのが好ましい。また金属薄膜11が複層の場合、一方を非磁性金属により形成し、他方を磁性金属により形成しても良い。非磁性金属としてアルミニウム、銅、銀、錫又はこれらの合金が挙げられ、磁性金属としてニッケル、コバルト、クロム又はこれらの合金が挙げられる。磁性金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましく、非磁性金属薄膜の厚さは0.1μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、両者とも実用的には10μm程度で良い。より好ましくは、磁性金属薄膜の厚さは0.01〜5μmであり、非磁性金属薄膜の厚さは0.1〜5μmである。
図1(e) 及び
図1(f) はプラスチックフィルム10に二層の金属薄膜11a,11bを形成した場合を示す。
【0025】
(3) 線状痕
図1(b)及び
図1(c) に示すように、金属薄膜11に多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bが二方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために
図1(c) では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。後述するように、線状痕12はランダムに付着した硬質微粒子(ダイヤモンド微粒子)を有するパターンロールの摺接により形成されるので、線状痕の間隔Iは横手方向及び長手方向で変わらない。以下横手方向間隔Iについて説明するが、その説明はそのまま長手方向間隔にも当てはまる。線状痕12の幅Wは線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さで求め、線状痕12の間隔Iは、線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さにおける線状痕12の間隔とする。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、本発明の電磁波吸収フィルム1は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0026】
線状痕12の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.5〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。
【0027】
線状痕12の横手方向間隔Iは1〜500μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、1〜30μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の横手方向平均間隔Iavは1〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、5〜30μmが最も好ましい。
【0028】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロール及びフィルムの相対的な周速、及び複合フィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良く、好ましくは2〜10 mmである。
【0029】
線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは10〜90°が好ましく、30〜90°がより好ましい。複合フィルムとパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、
図2(a)〜
図2(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。
図2(a) は三方向の線状痕12a,12b,12cを有する例を示し、
図2(b) は
四方向の線状痕12a,12b,12c,12dを有する例を示し、
図2(c) は直交する線状痕12a’,12b’を有する例を示す。
【0030】
(4) 微細穴
図3(a) 及び
図3(b) に示すように、金属薄膜11に線状痕12の他に多数の微細貫通穴13をランダムに設けても良い。微細穴13は、表面に高硬度微粒子を有するロールを金属薄膜11に押圧することにより形成することができる。
図3(b) に示すように、微細穴13の開口径Dは線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さで求める。微細穴13の開口径Dは90%以上が0.1〜1000μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜500μmの範囲内にあるのがより好ましい。また微細穴13の平均開口径Davは0.5〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましい。
【0031】
(5) カーボンナノチューブ薄層
線状痕12を有する金属薄膜11の上に、カーボンナノチューブ薄層14が形成されている。カーボンナノチューブは単層構造でも多層構造でも良い。多層カーボンナノチューブは約10〜数10 nmの外径を有し、凝集なしに均一な薄い層に形成し易いだけでなく、導電性に優れているので好ましい。
【0032】
線状痕12を有する金属薄膜11の上に塗布するカーボンナノチューブは2μm以上の平均長さを有する必要がある。カーボンナノチューブは金属薄膜11の線状痕12内に入り込み、金属薄膜11と導通するだけでなく、カーボンナノチューブ同士の接触によっても導通すると考えられる。そのため、カーボンナノチューブが短過ぎると導通が不十分であり、電磁波吸収能が低いだけでなく、熱拡散性(放熱性)も低いと考えられる。カーボンナノチューブの平均長さは、カーボンナノチューブの希薄分散液を塗布したガラス板の顕微鏡写真から画像処理により求めることができる。カーボンナノチューブの平均長さの上限は特に限定的ではなく、カーボンナノチューブの分散性を考慮して決めれば良い。
【0033】
カーボンナノチューブはCo,Ni,Fe等の金属触媒の存在下で形成されるので、未分離の触媒が残留している。特に金属薄膜11がアルミニウムからなる場合、アルミニウムと残留触媒との反応により、アルミニウムが腐食することが分った。そのため、アルミニウム薄膜11に触媒が残留したカーボンナノチューブの分散液を塗布すると、電磁波吸収能及び熱拡散性(放熱性)が経時劣化する。これを防止するために、カーボンナノチューブから金属触媒を除去するのが好ましい。金属触媒の除去は、カーボンナノチューブの水性分散液に硝酸、塩酸等の酸を添加することにより行うことができる。
【0034】
カーボンナノチューブ薄層14は、カーボンナノチューブの質量基準で0.01〜0.5 g/m
2の厚さ(塗布量)を有するのが好ましい。カーボンナノチューブ薄層14が0.01 g/m
2より薄いと、電磁波吸収能の向上及び均一化効果が不十分でり、また0.5 g/m
2より厚いと、カーボンナノチューブの凝集を防止するのが難しく、カーボンナノチューブ薄層14は不均一化する。カーボンナノチューブ薄層14の厚さは、カーボンナノチューブの質量基準でより好ましくは0.02〜0.2 g/m
2であり、最も好ましくは0.04〜0.1 g/m
2である。
【0035】
カーボンナノチューブ薄層は、カーボンナノチューブの脱落を防止するために、バインダ樹脂を含有するのが好ましい。バインダ樹脂としては、エチルセルロース等のセルロース類、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリプロピレンカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。これらのバインダ樹脂を単独で又は組合せて用いることができる。バインダ樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば0.01〜10 g/m
2の範囲内であるのが好ましい。なお、バインダ樹脂の他に公知の分散剤を含有しても良い。
【0036】
線状痕12及びカーボンナノチューブはともにランダムなサイズ及び分布を有するので、ミクロ的には不均一な電磁波吸収構造を形成するが、異なる無数の電磁波吸収構造の存在によりマクロ的には均一な電磁波吸収能を発揮する。
【0037】
(6) 保護層
カーボンナノチューブ薄層14を保護するために、
図4に示すように、カーボンナノチューブ薄層14をプラスチック保護層15で覆うのが好ましい。プラスチック保護層15用のプラスチックフィルムはベースとなるプラスチックフィルム10と同じで良い。保護層15の厚さは10〜100μm程度が好ましい。
【0038】
[2] 電磁波吸収フィルムの製造方法
(1) 線状痕の形成
図5(a)〜
図5(e) は線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。この装置は、(a) 金属薄膜-プラスチック複合フィルム100を巻き出すリール21と、(b) 複合フィルム100の幅方向と異なる方向で金属薄膜11の側に配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側で金属薄膜11の反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) 複合フィルム100の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向にかつ金属薄膜11の側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜11の反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 第一及び第二のパターンロール2a,2bの間で金属薄膜11の側に配置された電気抵抗測定手段4aと、(g) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜11の側に配置された電気抵抗測定手段4bと、(h) 線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルム1を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0039】
図5(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bが複合フィルム100に接するので、複合フィルム100の金属薄膜11は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの縦方向位置を調整することにより、各パターンロール2a,2bの金属薄膜11への押圧力を調整でき、また中心角θ
1に比例する摺接距離も調整できる。
【0040】
図5(d) は線状痕12aが複合フィルム100の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。複合フィルム100の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)aと複合フィルム100の進行方向bとは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子が金属薄膜11と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点B’から点A’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0041】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群12A,12Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bの複合フィルム100に対する角度、及び/又は複合フィルム100の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、複合フィルム100の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、
図5(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のように複合フィルム100の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、複合フィルム100の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ
2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を
図1(b) 及び
図2(c) に例示するように変更することができる。
【0042】
各パターンロール2a,2bは複合フィルム100に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接により複合フィルム100は幅方向の力を受ける。従って、複合フィルム100の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの縦方向位置及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ
3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。複合フィルム100の蛇行及び破断を防止するために、複合フィルム100の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0043】
図5(b) に示すように、ロール形の各電気抵抗測定手段4a,4bは絶縁部40を介して一対の電極41,41を有し、それらの間で線状痕付き金属薄膜11の電気抵抗を測定する。電気抵抗測定手段4a,4bで測定した電気抵抗値をフィードバックして、複合フィルム100の走行速度、パターンロール2a,2bの回転速度及び傾斜角θ
2、押えロール3a,3bの位置及び傾斜角θ
3等の運転条件を調整する。
【0044】
複合フィルム100に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、
図6に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ
1に比例する金属薄膜11の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、複合フィルム100の蛇行の防止にも寄与できる。
【0045】
図7は、
図2(a) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流に複合フィルム100の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で
図5(a)〜
図5(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cは複合フィルム100の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール30bは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。第三のパターンロール2cの下流側に電気抵抗測定ロール4cを設けても良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0046】
図8は、
図2(b) に示すように四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3dを設けた点で
図7に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、
図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向と平行にすることができる。
【0047】
図9は、
図2(c)に示すように直交する二方向に配向する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bが複合フィルム100の幅方向と平行に配置されている点で
図5(a)〜
図5(e) に示す装置と異なる。従って、
図5(a)〜
図5(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、
図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向にし、
図2(c) に示す線状痕を形成するのに適している。
【0048】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、複合フィルム100の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。複合フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ
2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。複合フィルム100の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0049】
線状痕形成装置に使用するパターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜1,000μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜200μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に50%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0050】
特許第2063411号に記載の方法により線状痕12を有する金属薄膜11に多数の微細穴13を形成することができる。微細穴13を形成するのに用いるロール自体は線状痕形成用ロールと同じで良い。微細穴13は、線状痕形成用ロールと同様に鋭い角部を有するモース硬度5以上の多数の微粒子が表面に付着したロールと平滑面のロールとの間隙に複合フィルム100を同じ周速で通過させることにより形成できる。
【0051】
(2) カーボンナノチューブ薄層の形成
電磁波吸収フィルム1の少なくとも一面に形成された線状痕12を有する金属薄膜11にカーボンナノチューブ分散液を塗布し、自然乾燥することにより、カーボンナノチューブ薄層14を形成する。カーボンナノチューブ分散液は、(a) 有機溶媒にカーボンナノチューブ及び必要に応じて分散剤を配合したもの、又は(b) 有機溶媒にカーボンナノチューブ、バインダ樹脂、及び必要に応じて分散剤を配合したものである。分散液中のカーボンナノチューブの濃度は0.01〜2質量%が好ましい。カーボンナノチューブの濃度が0.1質量%未満であると十分な塗布量が得られず、また2質量%超であるとカーボンナノチューブが分散液中で凝集するおそれがあり、均一なカーボンナノチューブ薄層が得られない。カーボンナノチューブの濃度はより好ましくは0.01〜1質量%であり、最も好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0052】
バインダ樹脂を配合する場合、分散液の粘度及びカーボンナノチューブの均一分散性の観点から、カーボンナノチューブ分散液中のバインダ樹脂の濃度は0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0053】
カーボンナノチューブ分散液に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等の低沸点溶媒の他に、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールのアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールのアルキルエーテルアセテート類、ターピネオール等のテルペン類が挙げられる。
【0054】
カーボンナノチューブ薄層14がカーボンナノチューブの質量基準で0.01〜0.5 g/m
2の厚さを有するように、カーボンナノチューブ分散液の塗布量を濃度に応じて決める。カーボンナノチューブ分散液の塗布方法は限定的ではないが、均一な薄層14を得るためにインクジェット印刷法等が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の塗布は一回でする必要がなく、できるだけ均一なカーボンナノチューブ薄層14を得るために複数回に分けて行っても良い。
【0055】
(3) プラスチック保護層
カーボンナノチューブ薄層14を保護するためにプラスチックフィルムからなるプラスチック保護層15を熱ラミネートするのが好ましい。PETフィルムの場合、熱ラミネート温度は110〜150℃で良い。
【0056】
[3] 電磁波吸収フィルムの性能
(1) 電磁波吸収能の評価
(a) 伝送減衰率
伝送減衰率Rtpは、
図10(a) 及び
図10(b) に示すように、50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板120と、絶縁基板120の下面に接合された接地グランド電極121と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン122,122と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン122,122に接続する同軸ケーブル123,123とで構成されたシステムを用い、マイクロストリップラインMSLにノイズ抑制フィルムの試験片TPを粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの入射波に対して反射波S
11の電力及び透過波S
12の電力を測定し、下記式(1):
Rtp=-10×log[10
S21/10/(1-10
S11/10)]・・・(1)
により求める。
【0057】
(b) ノイズ吸収率
図10(a) 及び
図10(b) に示すシステムにおいて、入射した電力P
in=反射波S
11の電力+透過波S
12の電力+吸収された電力(電力損失)P
lossが成り立つ。従って、入射した電力P
inから反射波S
11の電力及び透過波S
21の電力を差し引くことにより、電力損失P
lossを求め、P
lossを入射電力P
inで割ることによりノイズ吸収率P
loss/P
inを求める。
【0058】
(2) 放熱性の評価
電磁波吸収フィルム1の放熱性は、その一部に与えられた熱がフィルム全体に拡散する速度により評価する。具体的には、
図11(a) に示すように、電磁波吸収フィルム1の長方形サンプル200(100 mm×50 mm)と、電磁波吸収フィルム1のサンプル200と同じ大きさの長方形開口部202を有するアクリル支持板201(200 mm×100 mm×2 mm)とを準備し、
図11(b) 及び図11(c) に示すようにサンプル200をアクリル支持板201の開口部202に幅10 mmの接着テープ(セロハンテープ)203により固定する。
図11(d) に示すように、サンプル200は電磁波吸収フィルム1のカーボンナノチューブ薄層14側に厚さ100μmのPETフィルム205を積層したものである。
【0059】
図12に示すように、サンプル200が露出するようにアクリル支持板201を載置しえる開口部211を有する固定板210に、サンプル200を固定したアクリル支持板201を固定し、サンプル200の下方50 mmの位置に熱源としてニクロム線ヒータ220を載置し、サンプル200の上方350 mmの位置に赤外線サーモグラフィ装置230(NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製の「サーモギアG100」)を固定する。熱源230によるサンプル200の直径約10 mmの加熱領域(ホットスポット)251は中央に位置する。
図13に示すように、中央の加熱領域251の中心点における温度(最高域温度)Tmax、及び各隅から対角線上20 mmの距離に位置する点252,253,254,255における温度t1,t2,t3,t4をそれぞれ赤外線サーモグラフィ装置230により自動計測する。温度t1,t2,t3,t4の平均を最低域温度Tminとし、それらの平均を平均温度Tavとする。最高域温度Tmax、最低域温度Tmin及び平均温度Tavの変化を比較し、熱拡散性(放熱性)を評価する。
【0060】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール32a,32bを有する
図9に示す構造の装置を用い、厚さ16μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に真空蒸着法により形成した厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜11に、
図2(c)に示すように直交する二方向に配向した線状痕を形成した。線状痕付きアルミニウム薄膜11の光学顕微鏡写真から、線状痕は下記特性を有することが分った。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
間隔Iの範囲:2〜30μm
平均間隔Iav:20μm
平均長さLav:5 mm
鋭角側の交差角θs:90°
【0062】
外径が10〜15 nmで平均長さが3μmの多層カーボンナノチューブ(触媒除去済み)をメチルエチルケトンに分散させた濃度1質量%のカーボンナノチューブ分散液(1質量%の分散剤を含有)を、エアブラシにより線状痕付きアルミニウム薄膜11に塗布し、自然乾燥させた。形成されたカーボンナノチューブ薄層14の厚さ(塗布量)は0.064 g/m
2であった。その後、アルミニウム薄膜11に120℃で厚さ16μmのPETフィルムを熱ラミネートし、電磁波吸収フィルム1のサンプルを得た。
【0063】
上記電磁波吸収フィルムサンプルから切り出した試験片TP(55.2 mm×4.7 mm)の各々を
図10(a) 及び
図10(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲の入射電力P
inに対する反射波の電力S
11及び透過波の電力S
12を測定した。段落[3] の(1) 及び(2) に記載の方法により、0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。結果をそれぞれ
図14及び
図15に示す。
【0064】
比較例1
実施例1と同様に作製した線状痕付きアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ分散液を塗布せずに作製した電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して、実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。結果をそれぞれ
図14及び
図15に示す。
【0065】
図14及び
図15から明らかなように、実施例1は比較例1より高い伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。これから、カーボンナノチューブ薄層14の形成により伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inが向上することが分かる。
【0066】
また
図11〜
図13に示す方法(段落[3] (2))により、22℃及び34%の湿度の条件で実施例1及び比較例1の電磁波吸収フィルム1の熱拡散性(放熱性)の評価を行った。結果をそれぞれ
図16及び
図17に示す。
図16及び
図17から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14を形成した実施例1の電磁波吸収フィルムは、カーボンナノチューブ薄層14を形成していない比較例1の電磁波吸収フィルムより高い熱拡散性を有していた。
【0067】
実施例2、比較例2
金属薄膜11をニッケルにより形成した以外実施例1及び比較例1と同様にして電磁波吸収フィルム1を作製し、各電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して、実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。結果をそれぞれ
図18及び
図19に示す。
図18及び
図19から明らかなように、実施例2は比較例2より高い伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。これから、ニッケルからなる金属薄膜11の場合でも、カーボンナノチューブ薄層14の形成により伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inが向上することが分かる。
【0068】
実施例3
線状痕の交差角θsをそれぞれ30°,60°及び90°とした以外実施例1と同様にして電磁波吸収フィルム1を作製し、各電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して、実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。6 GHzの周波数の入射波に対する伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを表1に示す。表1から明らかなように、30°〜90°の交差角θsのいずれでも高い伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。
【0070】
実施例4
カーボンナノチューブ分散液の塗布量を下記表2に示すように変化させた以外実施例1と同様にして作製した各電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して、実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。6 GHzの周波数の入射波に対する伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを表2に示す。表2から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14の厚さが0.01〜0.1 g/m
2の範囲内では、高い伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを示すが、上記範囲外の厚さでは伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inの向上効果は不十分であった。
【0071】
【表2】
注:(1) 多層カーボンナノチューブ。
【0072】
実施例5
アルミニウム薄膜11の厚さを0.08μmとした以外実施例1と同じ方法で作製した電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ
図20及び
図21に示す。
図20及び
図21から明らかなように、実施例5の伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inは実施例1とほぼ同レベルであった。これから、線状痕を有する金属薄膜とカーボンナノチューブ薄層14とを組合せた本発明の電磁波吸収フィルム1は、金属薄膜の厚さに関係なく優れた電磁波吸収能を有することが分かる。
【0073】
実施例6
下から順に厚さ50 nmのNi層及び厚さ100 nmのCu層からなる二層構造の金属薄膜を用いた
以外実施例1と同じ方法で作製した電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ
図22及び
図23に示す。
図22及び
図23から明らかなように、金属薄膜が二層構造の場合も高い伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。
【0074】
比較例3
厚さ16μmの二軸延伸PETフィルムの一面に真空蒸着法により形成した厚さ0.05μmのニッケル薄膜11に、線状痕を形成することなく実施例1と同じ方法で厚さ0.060 g/m
2のカーボンナノチューブ薄層14を形成した。得られたサンプルから切り出した試験片TPに対して伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ
図24及び
図25に示す。
図24及び
図25から、線状痕のないニッケル薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成しただけでは、十分な電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0075】
比較例4
厚さ16μmの二軸延伸PETフィルムに金属薄膜を形成することなく実施例1と同じ方法で厚さ0.061 g/m
2のカーボンナノチューブ薄層14を形成した。得られたサンプルから切り出した試験片TPに対して伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ
図26及び
図27に示す。
図26及び
図27から、線状痕付き金属薄膜なしにカーボンナノチューブ薄層14だけを形成した場合、十分な電磁波吸収能が得られないことが分かる。
【0076】
実施例7
厚さ16μmの二軸延伸PETフィルムに実施例1と同じ方法で線状痕付きアルミニウム薄膜11及びカーボンナノチューブ薄層14を形成したサンプルから、下記表3に示すサイズの小片を10枚切り出し、各小片の6 GHzにおける伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ表3に示す。Rtp及びP
loss/P
inの値が小さいのは、小片の面積が試験片TP(55.2 mm×4.7 mm)の面積より小さいからである。表3から明らかなように、本発明の電磁波吸収フィルム1は小片化しても伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inの値のバラツキが小さかった。これは、ランダムに形成された線状痕のバラツキがカーボンナノチューブ薄層14により平均化されたためであると考えられる。
【0078】
比較例5
厚さ16μmの二軸延伸PETフィルムに実施例1と同じ方法で線状痕付きアルミニウム薄膜11を形成したサンプル(カーボンナノチューブ薄層14は形成していない。)から、下記表4に示すサイズの小片を10枚切り出し、各小片の伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ表4に示す。表4から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14を形成していない電磁波吸収フィルムを小片化すると、伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inの値のバラツキは、カーボンナノチューブ薄層14を有する実施例7のものより大きくなった。
【0080】
実施例8、比較例6
カーボンナノチューブ分散液として、キシレン/イソプロピルアルコール(IPA)=6/4の混合溶媒98質量%に、外径10〜15 nmで平均長さ3μmの多層カーボンナノチューブ(触媒除去済み)0.5質量%を均一に分散させ、さらに1.5質量%のポリメチルメタクリレート(PMMA)を溶解したものを用いた以外、実施例1と同様にして実施例8の電磁波吸収フィルム1を作製した。この電磁波吸収フィルム1から切り出した試験片TPに対して実施例1と同じ方法でノイズ吸収率P
loss/P
inを測定し、またこの電磁波吸収フィルム1から切り出したサンプルに対して実施例1と同じ方法で熱拡散性(放熱性)の評価を行った。ノイズ吸収率P
loss/P
inを
図28に示し、熱拡散性(放熱性)の評価を
図29に示す。また実施例8の同じ試験片TPに対して6カ月後にノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果を
図30に示す。
図29から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14がバインダ樹脂を含有する実施例8の電磁波吸収フィルム1も、良好な熱拡散性を有していた。
【0081】
触媒を除去していない以外実施例8と同じカーボンナノチューブの分散液を用いて、実施例8と同様にして比較例6の電磁波吸収フィルムのサンプルを作製し、同様にノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果を
図31に示す。また同じサンプルに対して6カ月後に同じ方法でノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果を
図32に示す。
【0082】
図28及び
図30から明らかなように、触媒除去済みのカーボンナノチューブを用いた実施例8の電磁波吸収フィルム1では電磁波吸収能の経時劣化はほとんど認められなかった。これに対して、
図31及び
図32から明らかなように、触媒を除去していないカーボンナノチューブを用いた比較例6の電磁波吸収フィルム1では電磁波吸収能の大きな経時劣化が認められた。
【0083】
比較例7
平均長さ1μmの多層カーボンナノチューブ1.0質量%と、PMMA 1.0質量%とを含有するカーボンナノチューブ分散液を用いた以外実施例1と同様にして電磁波吸収フィルムを作製し、それから切り出した試験片TPに対して実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。結果をそれぞれ
図33及び
図34に示す。
図33及び
図34から明らかなように、比較例7の伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inはいずれも比較例1と同程度であった。これから、カーボンナノチューブの平均長さが2μm未満であると、カーボンナノチューブ薄層14の効果がほとんど得られないことが分かる。
【0084】
実施例9
カーボンナノチューブの濃度を1.3質量%に変更した以外実施例8と同様にして、電磁波吸収フィルム1を作製し、実施例1と同じ方法でノイズ吸収率P
loss/P
in及び熱拡散性(放熱性)を測定した。結果をそれぞれ
図35及び
図36に示す。
図35及び
図36から明らかなように、カーボンナノチューブの濃度を変更しても、得られる電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能及び熱拡散性はほとんど変化しなかった。
【0085】
比較例8
厚さ16μmのPETフィルムの一面にアルミニウム薄膜11を形成せずに、実施例8と同じカーボンナノチューブ分散液を塗布したサンプルに対して、実施例1と同じ方法でノイズ吸収率P
loss/P
inの測定及び熱拡散性(放熱性)の評価を行った。結果をそれぞれ
図37及び
図38に示す。
【0086】
比較例9
厚さ16μmのPETフィルムの一面に形成した厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜11に線状痕を形成せずに、実施例8と同じカーボンナノチューブ分散液を塗布したサンプルに対して、実施例1と同じ方法でノイズ吸収率P
loss/P
inの測定及び熱拡散性(放熱性)の評価を行った。結果をそれぞれ
図39及び
図40に示す。
【0087】
比較例10
厚さ16μmのPETフィルムの一面に厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜11を形成しただけのサンプルに対して、実施例1と同じ方法で熱拡散性(放熱性)の評価を行った。結果を
図41に示す。
【0088】
図39〜
図41から明らかなように、線状痕を形成しないアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成した比較例9の電磁波吸収フィルム、及び線状痕を形成しないアルミニウム薄膜11を形成しただけの比較例10の電磁波吸収フィルムでは、ノイズ吸収率P
loss/P
inが低いだけでなく、熱拡散性(放熱性)も低かった。これから、(a) アルミニウム薄膜単独では十分な電磁波吸収能及び熱拡散性(放熱性)が得られないこと、及び(b) 線状痕のないアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成しても十分な電磁波吸収能及び熱拡散性(放熱性)が得られないことが分る。勿論、
図37及び
図38から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14だけを形成した比較例8の電磁波吸収フィルムも十分な電磁波吸収能及び熱拡散性(放熱性)を有していなかった。
【0089】
線状痕を形成したアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成しない比較例1の電磁波吸収フィルムと、線状痕を形成したアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成した実施例8の電磁波吸収フィルム1とを比較すると、熱拡散性(放熱性)が著しく向上したことが分かる。これから、線状痕を形成したアルミニウム薄膜11とカーボンナノチューブ薄層14との組合せにより、それぞれ単独で用いた場合に比べて格段に向上した熱拡散性(放熱性)が得られることが分かる。
【0090】
比較例11
パナソニック株式会社製のPGSグラファイトシート(厚さ17μm)に対して、実施例1と同じ方法で熱拡散性の評価を行った。結果を
図42に示す。
図42から明らかなように、グラファイトシートの熱拡散性は本発明の放熱性電磁波吸収フィルムより劣っていた。
【0091】
参考例1
線状痕を一方向(二軸延伸PETフィルムの長手方向)のみ形成した以外実施例1と同様にして電磁波吸収フィルムを形成し、それから第一の試験片TP(線状痕がその長手方向と一致する。)及び第二の試験片TP(線状痕がその横手方向と一致する。)をそれぞれ切り出し、実施例1と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを測定した。6 GHzにおける伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率P
loss/P
inを表5に示す。表5から明らかなように、一方向の線状痕を有するアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ薄層14を形成した電磁波吸収フィルムは、高い電磁波吸収能を有するものの、その異方性は大きかった。