【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、揮発性有機酸を触媒としてスラリーに添加してヘミセルロースの糖化分解反応を行った後、C5糖化液に硫酸を少量添加し、C5糖化液をエアストリッピング処理することによって、C5糖化液中に含有される揮発性有機酸(スラリーに添加された揮発性有機酸及び副成された揮発性有機酸)を容易に回収することが可能であることを見出した。さらに、回収された揮発性有機酸を触媒としてセルロース系バイオマスの別のスラリーに添加すれば、揮発性有機酸によってヘミセルロースをC5糖類に糖化分解させる際の糖化分解効率を連続して向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
具体的に、本発明は、
セルロース系バイオマスのスラリーに揮発性有機酸を添加して、超臨界状態又は亜臨界状態で熱水処理し、セルロース系バイオマスに含有されているヘミセルロースをC5糖類へと糖化分解する第一糖化分解工程と、
前記第一糖化分解工程後のスラリーを固液分離する第一固液分離工程と、
前記第一固液分離工程で得られたC5糖化液に硫酸を添加した後、前記C5糖化液をエアストリッピング処理
又は蒸留処理することによって、前記C5糖化液中に含有される揮発性有機酸を回収する回収工程と、
前記回収工程後のC5糖化液に石灰を添加し、生じた石膏を固液分離することによって、前記C5糖化液に含有される硫酸及び発酵阻害物を除去する第三固液分離工程と、
前記第一固液分離工程で得られた脱水ケーキに水を添加してスラリー化し、超臨界状態又は亜臨界状態で熱水処理することにより、セルロース系バイオマスに含有されているセルロースをC6糖類へと糖化分解する第二糖化分解工程と、
前記第二糖化分解工程後のスラリーを固液分離する第二固液分離工程と、
前記
第三固液分離工程後のC5糖化液と前記第二固液分離工程で得られたC6糖化液とをアルコール発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程によって得られた発酵液を蒸留してエタノールを濃縮する蒸留工程と、
を有し、
前記回収工程によって回収された揮発性有機酸は、前記第一糖化分解工程で前記スラリーに添加される揮発性有機酸の全部又は一部として再利用されることを特徴とする、セルロース系バイオマスを原料とするエタノール製造方法に関する。
【0015】
本発明のエタノール製造方法では、まず、第一糖化分解工程として、セルロース系バイオマスのスラリーに揮発性有機酸を添加して超臨界状態又は亜臨界状態で熱水処理した後、C5糖化液に硫酸を添加してpHを下げる。その後、C5糖化液をエアストリッピング処理することによって、C5糖化液に含有されている揮発性有機酸(スラリーに添加された揮発性有機酸及び副成された揮発性有機酸)を回収する。C5糖化液に含有されている揮発性有機酸は、水溶性の弱酸であるため、不揮発性の強酸である硫酸をC5糖化液に添加し、pHを低下させれば、C5糖化液をエアストリッピング処理することによって、C5糖化液から容易に回収され得る。エアストリッピング処理は、蒸留法と比較して省エネルギーであり、硫酸の使用量も少ないため、硫酸を触媒として使用し、ゼオライトを用いて回収する方法と比較して、回収コストが低い。
【0016】
回収された揮発性有機酸は、後続して別途行われる第一糖化分解工程においてスラリーに添加される。このように揮発性有機酸を触媒として再利用すれば、硫酸を添加する場合と比較すると糖化分解の効率は低いが、揮発性有機酸を最大限有効利用でき、酸回収コストも低いために、ヘミセルロースをC5糖類に糖化分解するためのトータルコストは、硫酸を添加する場合よりも低くなる。
【0017】
本発明でいう「揮発性有機酸」の具体例は、蟻酸、酢酸又は乳酸である。
【0018】
第一固液分離工程によって得られる脱水ケーキ(固形物)は、水を添加してスラリー化され、第二糖化分解工程において、超臨界状態又は亜臨界状態で熱水処理されることにより、セルロース系バイオマスに含有されているセルロースがC6糖類へと糖化分解される。第二糖化分解工程後のスラリーは、第二固液分離工程によって、脱水ケーキとC6糖化液とに固液分離される。
【0019】
前記第一糖化分解工程において、揮発性有機酸は、0.1質量%以上10質量%以下の濃度となるように前記スラリーに添加されることが好ましい。
【0020】
第一糖化分解工程において、揮発性有機酸を触媒として有効に機能させるためには、セルロース系バイオマスのスラリー中の揮発性有機酸濃度を0.1質量%以上とすることが好ましい。一方、揮発性有機酸濃度が10質量%を超えると、それ以上の濃度になってもpHが低くなりにくいため、糖化効率のさらなる改善は見込めないという問題が生じる。
【0021】
第一糖化分解工程において、スラリーに添加された揮発性有機酸の消費量が多く、揮発性有機酸の副成が少ない場合には、糖化液に含有される揮発性有機酸濃度は低くなり、回収される揮発性有機酸量も少ない。すると、糖化液から回収された揮発性有機酸をすべてセルロース系バイオマスのスラリーに添加しても、スラリー中の揮発性有機酸濃度を0.1質量%以上10質量%以下に調整することができない。
【0022】
そこで、そのような場合には、糖化液から回収された揮発性有機酸の全部を第一糖化分解工程でスラリーに添加される揮発性有機酸として再利用すると共に、反応系外から揮発性有機酸をスラリーに添加することによって、スラリー中の揮発性有機酸濃度(回収された揮発性有機酸と、反応系外から供給される揮発性有機酸とを合計した濃度)を0.1質量%以上10質量%以下に調整することが好ましい。スラリーに添加された揮発性有機酸は、糖化液から回収して再利用されるため、反応系外から添加すべき揮発性有機酸量は、糖化分解工程において消費される量だけで足りるために、少量で済む。
【0023】
一方、第一糖化分解工程において、スラリーに添加された揮発性有機酸の消費量が少なく、揮発性有機酸の副成が多い場合には、糖化液に含有される揮発性有機酸濃度は高くなり、回収される揮発性有機酸量も多い。このような場合には、糖化液から回収された揮発性有機酸の一部をセルロース系バイオマスのスラリーに添加することにより、スラリー中の揮発性有機酸濃度を0.1質量%以上10質量%以下に調整することが可能である。
【0025】
回収工程によって、C5糖化液には強酸である硫酸が少量含有されることになるため、そのままでは糖化液を発酵工程に移行させることができない。そこで、C5糖化液に石灰を添加することによって、C5糖化液中に残存する硫酸を中和し、石膏として沈殿させて固液分離すれば、C5糖化液中の硫酸を効果的に除去することが可能である。
【0026】
本発明では、回収工程において硫酸が使用されるが、揮発性有機酸を遊離させる目的で使用されるために、特許文献6に開示されている技術と異なり、硫酸の使用量は少ない。そのため、中和のために使用される石灰量も少なくて済み、硫酸の中和コストが低い。また、石膏の生成量も少ないために、糖化液からの石膏の除去も容易である。
【0027】
ここで、C5糖化液中には、揮発性有機酸以外にも、C5糖類の過分解物であるフルフラール又はヒドロキシメチルフルフラールのような副成物が含有されている。これら副成物も、アルコール発酵を阻害するが、C5糖化液に石灰を添加すると、これら副成物が石膏に吸着される。そのため、固液分離によって石膏をC5糖化液から除去することによって、これら副成物も同時に除去することが可能である。
【0028】
前記第三固液分離工程は、石膏をシックナー又は沈殿槽によって固液分離する固液分離工程であることが好ましい。
【0029】
前記第三固液分離工程で石膏を除去されたC5糖化液(沈殿槽の上澄水)は、逆浸透膜装置によって濃縮されることが好ましい。
【0030】
本発明の上記目的、他の目的、特徴及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。