【実施例1】
【0014】
本実施例では、油圧閉回路システムに片ロッド型の油圧シリンダを用いたときの例を説明する。
図1は、本実施例の油圧閉回路システム10を示す図である。
【0015】
油圧閉回路システム10は、電動機12と、この電動機12により駆動され、両方向に圧油を吐出できる2つの給排ポートを備えた両回転型で固定容量型の油圧ポンプ13と、油圧ポンプ13の2つの給排ポートに管路17,18を介して閉回路を構成するよう接続された片ロッド型の油圧シリンダ11とを備えている。電動機12はコントローラ22からの制御信号15により駆動され、油圧ポンプ13を直接、駆動する。油圧ポンプ13は作動油を管路17又は18を介して油圧シリンダ11に供給し、油圧シリンダ11を駆動する。油圧シリンダ11から排出された作動油は管路18又は17を介して油圧ポンプ13に戻される。
【0016】
油圧シリンダ11は2つの圧力室24,25を有し、圧力室24はピストンロッドが位置していないヘッド側の圧力室であり、圧力室25はピストンロッドが位置するロッド側の圧力室である。管路17,18は油圧シリンダ11の2つの圧力室24,25にそれぞれ接続されている。
【0017】
管路17,18とチャージ回路32の間にフラッシング弁16が接続されている。フラッシング弁16は、コントローラ22からの制御信号23により制御され、管路17,18の低圧側の管路をチャージ回路32に接続するよう切り換わることで、管路17,18の低圧側の管路の流量の過不足を調整する。チャージ回路32は、管路17,18が流量不足となったときに作動油がスムーズに供給されるように、チャージポンプ28とリリーフ弁29により所定の圧力に保たれている。また、チャージ回路32は、管路17,18にそれぞれ設けた逆止弁26、27の入側にも接続され、管路17,18が流量不足となったときに作動油を供給する。また、管路17,18に設けられたリリーフ弁34,35は、管路17,18の圧力が所定の圧力以上になったときに、作動油をタンク30に逃がし油圧閉回路を保護する。
【0018】
コントローラ22は電動機制御部22aとフラッシング弁制御部22bとを有している。電動機制御部22aは、操作レバー装置91からの油圧シリンダ11の動作(移動方向と速度)を指示する操作指令信号92を入力し、この操作指令信号92(操作レバー装置91の指示)に基づいて電動機12の回転方向と回転速度の制御指令値を演算して対応する制御信号15を出力し、電動機12の回転を制御する。これによりコントローラ22は、操作レバー装置91の指示に基づいて油圧ポンプ13の吐出方向と吐出流量を制御する。フラッシング弁制御部22bは、操作指令信号92と管路17及び管路18に設けられた圧力センサ93,94の検出圧力信号20,21を入力し、これらの入力信号(操作レバー装置91の指示と管路17及び管路18の圧力)と電動機制御部22aで演算した電動機12の回転速度(油圧ポンプ13の吐出流量に関連する物理量)に基づいてフラッシング弁16のON/OFF指令値を演算して対応する制御信号23を出力し、フラッシング弁16の切換位置を制御する。
【0019】
図2は、コントローラ22における電動機制御部22aとフラッシング弁制御部22bの処理内容の詳細を示す図である。
【0020】
電動機制御部22aは、電動機回転方向/速度演算部22a−1及び出力部22a−2の各機能を有している。
【0021】
電動機回転方向/速度演算部22a−1は、操作レバー装置91からの油圧シリンダ11の動作(移動方向と速度)を指示する操作指令信号92に基づいて電動機12の回転方向と回転速度の制御指令値を演算し、出力部22a−2はその制御指令値に対応する制御信号を電動機12に出力する。
【0022】
フラッシング弁制御部22bは、低圧側判定部22b−1、補正圧力演算部22b−2、圧力大小判定部22b−3、制御信号演算部22b−4、出力部22b−5の各機能を有している。
【0023】
低圧側判定部22b−1は、圧力センサ93,94の検出圧力信号20,21に基づいて管路17及び管路18のいずれが低圧側かを判定する。また、低圧側判定部22b−1は、操作レバー装置91の操作指令信号92に基づいて操作レバー装置91が電動機12の回転の開始(油圧シリンダ11の動作の開始)或いは逆方向の回転(油圧シリンダ11の動作方向の変更)を指示するときかどうかを判定し、操作レバー装置91が電動機12の回転の開始或いは逆方向の回転を指示するときに、管路17及び管路18のいずれが低圧側かの判定を行う。
【0024】
補正圧力演算部22b−2は、管路17及び管路18の低圧側の管路の圧力に所定の制御パラメータを加算して補正圧力を算出する。このとき、好ましくは、電動機制御部22aで演算した電動機12の回転速度から電動機12の回転速度(油圧ポンプ13の吐出流量に関連する物理量)によって変化する可変値として制御パラメータを求め、この制御パラメータを低圧側の管路の圧力に加算する。電動機12の回転速度に代えて油圧ポンプ13の吐出流量を計算し、この油圧ポンプ13の吐出流量によって変化する可変値として制御パラメータを求めてもよい。油圧ポンプ13の吐出流量は油圧ポンプ13の回転数と油圧ポンプ13の容量から求めることができる。油圧ポンプ13の回転数は電動機12の回転速度から求めることができる。油圧ポンプ13の容量は固定容量型の場合一定であり、既知の値である。
【0025】
圧力大小判定部22b−3は、制御パラメータを加算した補正圧力と管路17及び管路18の高圧側の管路の圧力との大小の比較を行い、制御信号演算部22b−4は、低圧側の管路がチャージ回路32に接続するようフラッシング弁16を切り換えるON/OFF指令値を演算する。出力部22b−5は、そのON/OFF指令値に対応する制御信号23をフラッシング弁16のソレノイドに出力する。
【0026】
次に、本実施例の油圧閉回路システムの動作を、比較例を参照しつつ説明する。
【0027】
図3は、比較例として、従来の一般的な油圧閉回路システム40の一例を示す図である。図中、
図1に示した本実施例における要素と同等のものには同じ符号を付している。
【0028】
電動機12はコントローラ42からの制御信号15により駆動され、両回転型の油圧ポンプ13を直接、駆動する。油圧ポンプ13は管路17又は18を介して作動油を油圧シリンダ11に供給し、油圧シリンダ11を駆動する。油圧シリンダ11から排出された作動油は管路18又は17を介して油圧ポンプ13に戻される。管路17,18とチャージ回路32の間にフラッシング弁41が接続され、それぞれの管路17、18の圧力がパイロット圧としてフラッシング弁41に導かれている。そのためフラッシング弁41は、管路17より管路18の圧力の方が低いときは位置41aとなり、管路18とチャージ回路32が連通される。逆に、管路17の方が低いときは位置41cとなり、管路17とチャージ回路32が連通される。
【0029】
従来の油圧閉回路システムの動作を
図4〜
図9を用いて説明する。
図4〜
図9は、油圧シリンダ11を油圧ショベルのアームシリンダとして用い、油圧シリンダ11を最縮長から徐々に伸ばしていくアームクラウド動作を行った場合のものである。
【0030】
油圧ショベル50は、
図4及び
図6に示すように、フロント作業機を構成するブーム51,アーム52,バケット53を有している。ブーム51の基端は車体にピン結合され、ブーム51の先端はアーム52の基端にピン結合され、アーム52の先端はバケット53にピン結合されている。アーム52は、油圧シリンダ11(アームシリンダ)によりブーム51に対して上下方向に駆動される。ブーム51とバケット53の油圧シリンダなどのその他の駆動装置の図示は省略している。
【0031】
図4は、油圧シリンダ11を最縮長から徐々に伸ばしていくアームクラウド動作で、アーム52がブーム51とアーム52のピン結合位置を通る垂線Vに到達する前の姿勢にあるときの油圧ショベルの状態を示し、
図5は、アーム52が
図4の姿勢にあるときの油圧閉回路システム40の状態を示している。
図6は、油圧シリンダ11を最縮長から徐々に伸ばしていくアームクラウド動作で、アーム52がブーム51とアーム52のピン結合位置を通る垂線Vを超えた後の姿勢にあるときの油圧ショベルの状態を示し、
図7は、アーム52が
図6の姿勢にあるときの油圧閉回路システム40の状態を示している。
図8は、アームクラウド動作の過程における電動機速度、ロッド側回路圧力、ヘッド側回路圧力、フラッシング弁位置、シリンダ速度の時系列データを示す図であり、
図9は、負荷反転後のシリンダ速度の低下を防止する場合の電動機速度とシリンダ速度の時系列データを示す図である。
【0032】
アーム52が
図4の姿勢にあるときは、アーム51やバケット53などの重量が駆動力として油圧シリンダ11に作用し、アーム52が
図6の姿勢にあるときは、アーム51やバケット53の重量が負荷として油圧シリンダ11に作用する。
【0033】
図4の姿勢のときの回路圧力は、
図8に示すように、油圧シリンダ11が伸長方向に変位している場合でもアーム51やバケット53などの重量が駆動力として作用するため、油圧シリンダ11のヘッド側の圧力室24及びこの圧力室24に接続された管路17(以下ヘッド側回路という)より油圧シリンダ11のロッド側の圧力室25及びこの圧力室25に接続された管路18(以下ロッド側回路という)の方が高圧となる。そのため、管路18から導かれたパイロット圧により、フラッシング弁41は位置41cとなり、チャージ回路32は低圧側の管路17と連通する。このとき、油圧シリンダ11のヘッド側の圧力室24とロッド側の圧力室25の受圧面積差により低圧側のヘッド側回路は流量不足となるので、チャージ回路32からヘッド側回路に作動油が供給される。
【0034】
さらに油圧シリンダ11が伸長した
図6の姿勢では、アーム51やバケット53の重量が負荷として作用するため、ヘッド側回路とロッド側回路の圧力の大小が逆転して、ロッド側回路よりヘッド側回路の方が高圧となる。そのため、フラッシング弁41は位置41aとなり、チャージ回路32は低圧側の管路18と連通する。このとき、油圧シリンダ11のヘッド側の圧力室24とロッド側の圧力室25の受圧面積差により低圧側のロッド側回路は流量不足となるので、チャージ回路32からロッド側回路に作動油が供給される。
【0035】
油圧シリンダ11が収縮するときには、
図4の姿勢でヘッド側回路が低圧側となり、
図6の姿勢でロッド側回路が低圧側となる。また、このときは、油圧シリンダ11のヘッド側の圧力室24とロッド側の圧力室25の受圧面積差により、油圧シリンダ11の伸長時とは逆に、低圧側回路(
図4の姿勢ではヘッド側回路、
図6の姿勢ではロッド側回路)で流量過剰となり、フラッシング弁41によりチャージ回路32に接続された低圧側回路の圧力がリリーフ弁29の設定圧以上になると、低圧側回路からタンク30へ作動油が排出される。また、油圧シリンダ11が伸長するときと同じように、ヘッド側回路とロッド側回路の圧力(管路17,18の圧力)の大小が逆転するとフラッシング弁41が切り換わる。
【0036】
このようにフラッシング弁41は、受圧面積の異なる2つの圧力室24,25を持つ片ロッド型の油圧シリンダを閉回路に用いたときに発生する流量の過不足を調整する働きをする。
【0037】
ところで、油圧シリンダ11の速度は、推力が大きい方の圧力室が制御側となるので、油圧シリンダ11の伸長時は、
図4の姿勢ではロッド側圧力室25から吐出する流量、
図6の姿勢ではヘッド側圧力室24に流入する流量によって油圧シリンダ11の速度が決まる。したがって、電動機12が一定速度の場合は、
図8に示すように制御側圧力室が切り換わる負荷反転が起きると、受圧面積比の分だけ油圧シリンダ11の速度が低下する。一方、このように制御側圧力室が切り換わる負荷反転が起きるとき、負荷反転の近傍では、ヘッド側回路とロッド側回路の圧力の大小が逆転してフラッシング弁41が切り換わるため、フラッシング弁41の応答遅れにより流量の過不足の調整が遅れると、
図8に符号Aで示すように、負荷反転の近傍で油圧シリンダ11の過渡的な速度変動が発生してしまう。例えば、電動機12の遅れなどを考慮して速度を調整した場合でも、フラッシング弁41による流量調整機能が適正に働かないと、油圧シリンダ11には過渡的な速度変動が発生してしまう。そして、この速度変動は、油圧ショベルのオペレータの操作に反して発生してしまうので、油圧ショベルの操作性を低下させてしまう。また、前記の通り、フラッシング弁41は、ヘッド側回路又はロッド側回路の圧力をパイロット圧として作動するので、これらの回路の圧力脈動によりハンチングが発生して、油圧シリンダ11を振動させてしまうこともある。
【0038】
また、制御側圧力室が切り換わる負荷反転が起きたときの油圧シリンダ11の速度低下を防止するため、一般的には
図9上段に示すように、負荷が反転するタイミングで、電動機12の速度を高くして油圧ポンプ13の吐出流量を増やすことで、油圧シリンダ11の速度を一定に保ち操作性の低下を防いでいる。しかし、この場合も、負荷反転の近傍では、ヘッド側回路とロッド側回路の圧力の大小が逆転してフラッシング弁41が切り換わるため、フラッシング弁41の応答遅れにより流量の過不足の調整が遅れると、
図9下段に符号Bで示すように、負荷反転の近傍で油圧シリンダ11の過渡的な速度変動が発生してしまう。そしてこの場合も、その過渡的な速度変動は油圧ショベルの操作性を低下させたり、フラッシング弁41のハンチングにより油圧シリンダ11を振動させてしまうという問題を生じる。
【0039】
次に、本実施例の油圧閉回路システムの動作を説明する。
【0040】
図10は、アーム52が
図4の姿勢にあるときの油圧閉回路システム10の状態を示し、
図11は、アーム52が
図6の姿勢にあるときの油圧閉回路システム10の状態を示している。
図12は、アームクラウド動作の過程における電動機速度、ロッド側回路圧力、ヘッド側回路圧力、フラッシング弁位置、シリンダ速度の時系列データを示す、
図8と同様な図であり、
図13は、負荷反転後のシリンダ速度の低下を防止する場合の電動機速度とシリンダ速度の時系列データを示す、
図9と同様な図である。
【0041】
前述したように、アーム51が
図4の姿勢にあるときに油圧シリンダ11を伸長方向に変位して行うアームクラウド動作では、アーム51やバケット53などの重量が油圧シリンダ11に駆動力として作用するため、ヘッド側回路よりロッド側回路の方が高圧となる。また、油圧シリンダ11が伸長した
図6の姿勢では、アーム51やバケット53の重量が負荷として油圧シリンダ11に作用するため、ヘッド側回路とロッド側回路の圧力の大小が逆転して、ロッド側回路よりヘッド側回路の方が高圧となる。
【0042】
ここで、油圧シリンダ11のヘッド側回路(管路17側)の圧力をPh、ロッド側回路(管路18側)の圧力をPrとすると、油圧シリンダ11を伸長していくときに、
図3に示す従来のフラッシング弁41と同じ動作をさせるには、ヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の圧力Prのいずれが低圧側であるかを判定し、
Ph>Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16aとなるように(
図11参照)、
Ph=Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16bとなるように、
Ph<Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16cとなるように(
図10参照)制御信号23を与えてやればよい。
【0043】
本実施例では、コントローラ22のフラッシング弁制御部22bの低圧側判定部22b−1及びフラッシング弁制御部22bにおいて、上記のような低圧側の判定とフラッシング弁16の位置の切り換えを行っている。これにより本実施例のフラッシング弁16も、受圧面積の異なる2つの圧力室24,25を持つ片ロッド型の油圧シリンダを閉回路に用いたときに発生する流量の過不足を調整することができる。
【0044】
しかし、ヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の圧力Prを単に比較してフラッシング弁16を切り換えただけでは、従来例のようにフラッシング弁16の遅れによる油圧シリンダ11の速度変動やフラッシング弁16のハンチングが発生してしまう。そこで、本実施例では、フラッシング弁16の遅れによる速度変動を抑制するために、ヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の圧力Prの低圧側の圧力に所定の制御パラメータを加算してから圧力の大小の比較を行い、制御信号23を演算することで、低圧側回路とチャージ回路32が接続するタイミングを早くしている。
【0045】
具体的には次のようである。
【0046】
本実施例では、速度変動を抑制するために制御パラメータPsを導入し、コントローラ22のフラッシング弁制御部22bの低圧側判定部22b−1において、ヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の圧力Prのいずれが低圧側であるかを判定し、その後、補正圧力演算部22b−2において、操作レバー装置91が電動機12の回転の開始(油圧シリンダ11の動作の開始)或いは逆方向の回転(油圧シリンダ11の動作方向の変更)を指示するときに、低圧側の管路の圧力に所定の制御パラメータを加算してから、圧力大小判定部22b−3において、制御パラメータを加算した補正圧力とヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の高圧側の管路の圧力との大小の比較を行う。そして、制御信号演算部22b−4において、例えばヘッド側回路(管路17側)の圧力Phがロッド側回路(管路18側)の圧力Prより低いときは、
Ph+Ps>Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16aとなるように、
Ph+Ps=Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16bとなるように、
Ph+Ps<Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16cとなるように制御信号23を与える。すなわち、ヘッド側回路の圧力に制御パラメータPsを加算してから圧力の大小を比較して、フラッシング弁16を切り換える。
【0047】
このようにすることで、
図12に示すように、ヘッド側回路の圧力が制御パラメータPsだけ持ち上がるので、ヘッド側回路の圧力とロッド側回路の圧力の大小が逆転するタイミングが、時間Δtだけ早くなる。そのため、フラッシング弁16の切り換え動作は、制御パラメータPsの加算がないときに比べて早くなり、フラッシング弁16の遅れによる油圧シリンダ11の速度変動を減少させかつフラッシング弁16のハンチングを防止し、フラッシング弁16の動作を安定させて油圧シリンダ11の操作性を向上させることができる。
【0048】
また、
図13に示すように、負荷が反転するタイミングや電動機12の遅れを考慮して、電動機12の速度を変えて油圧ポンプ13の吐出流量を増やしてやれば、負荷が反転した後も油圧シリンダ11の速度を一定とすることができ、油圧シリンダ11の操作性を向上させることができる。このときの電動機12の速度は、油圧シリンダ11の移動方向を考慮して、ヘッド側圧力室24とロッド側圧力室25の受圧面積から換算すればよい。この制御は、電動機制御部22aの電動機回転方向/速度演算部22a−1において行うことができる。負荷が反転したかどうかはフラッシング弁制御部22bの圧力大小判定部22b−3における判定結果から知ることができる。
【0049】
次に、制御パラメータPsを電動機12の回転速度に応じて変化させる場合の実施例を説明する。
【0050】
電動機12は、操作レバー装置91の操作指令信号92に応じた回転速度が得られるが、高回転速度時での制御パラメータPsを、低回転速度時に用いると、負荷反転時において、油圧シリンダ11の速度が不安定になることが想定される。そのため、電動機12の回転速度に応じて制御パラメータPsを設定することで、より良好な安定性が得られる。
【0051】
図14は、電動機12の回転速度に対し、良好な安定性が得られるPsを解析的に求めた値をプロットした図である。
【0052】
図14は、横軸に電動機12の回転速度、縦軸に制御パラメータPsを取り、○点は電動機12の回転数に対する良好な安定性が得られるPsを解析的に求めた値をプロットしたもの、線は各○点から得られる近次式線を表している。
【0053】
コントローラ22のフラッシング弁制御部22bの補正圧力演算部22b−2は、
図14の特性を有し、この特性を用いて、油圧ポンプ13の吐出流量に関連する物理量である電動機12の回転速度から制御パラメータPsを求める。
図14では、電動機12の回転速度がVのとき、制御パラメータPs=P、電動機12の回転速度が0.5Vのとき、制御パラメータPs=0.4P、電動機12の回転速度が0.25Vのとき、制御パラメータPs=0、さらに電動機12の回転速度が0.25Vを超えるまでは、制御パラメータPs=0としている。電動機12の回転速度0.25VからVの範囲と、その範囲での制御パラメータPsを用いて線形近似し、その近似式から制御パラメータPsを求める。なお、本実施例では線形近似を用いたが、他の近似方法を用いてもよい。そして、
Ph+Ps>Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16aとなるように、制御信号23を与え、
Ph+Ps=Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16bとなるように、制御信号23を与え、
Ph+Ps<Pr
のとき、フラッシング弁16が位置16cとなるように、制御信号23を与える。これにより、電動機12の回転速度が広い範囲で安定した油圧シリンダ11の動作が得られる。
【0054】
図14で電動機12の回転速度が0.25V以下のとき、油圧シリンダ11の速度は比較的遅くなるので、フラッシング弁16の遅れは相対的に無視できることから、制御パラメータPs=0とできる。これにより、低速時における制御の安定性を確保できる。
【0055】
ヘッド側回路(管路17側)の圧力Phとロッド側回路(管路18側)の圧力Prのいずれに制御パラメータを加算するかの判定(すなわち、ヘッド側回路(管路17側)とロッド側回路(管路18側)のいずれが低圧側かの判定)は、電動機12の起動時(油圧シリンダ11の動作の開始時)や電動機12の回転方向が変わるとき(油圧シリンダの動作方向が変わるとき)に行えばよい。前述したようにこの判定は、コントローラ22のフラッシング弁制御部22bの低圧側判定部22b−1において行う。
【0056】
また、頻繁に操作レバー装置91を操作して起動、停止や回転方向の変化があるときには、フラッシング弁制御部22bの低圧側判定部22b−1において、一定の時間が経過するまでは再判定を行わず、判定値を維持するようにする(遅延処理或)。これにより頻繁にフラッシング弁16が切り換わり油圧シリンダが振動的になる現象を回避することができる。
【0057】
また、ここまでは油圧シリンダ11が伸長するときについて説明してきたが、油圧シリンダ11が収縮するときも同じように、解析や実測などにより適正な制御パラメータPsを求めておき、電動機12の回転方向(油圧シリンダ11の動作方向)により制御パラメータPsを使い分ければよい。電動機12の回転方向に代え,操作レバー装置91の操作方向により制御パラメータPsを使い分けてもよい。
【0058】
また、ここまでの実施例では、制御パラメータPsを近似式によって求める例を説明したが、電動機速度(油圧ポンプ13の吐出流量に関連する物理量)に対する制御パラメータの値をマップとして記憶しておき、線形補間などにより求めてもよい。
【0059】
さらに、電動機12の停止時には、フラッシング弁16を位置16bとなるように制御すると、フラッシング弁16から作動油が流入、流出しないので、油圧シリンダ11の位置を保持することができる。
【0060】
また、本実施例では、電動機11の速度と制御パラメータPsの関係を用いたが、管路17,18の圧力と電動機11の速度から油圧ポンプ13の吐出流量を求め、油圧ポンプ13の吐出流量と制御パラメータPsの関係を用いてもよい。
【実施例3】
【0064】
油圧閉回路システムに片ロッド型の油圧シリンダを用いたときの更に他の実施例について説明する。
【0065】
図16は、本実施例の油圧閉回路システム70を示す図である。なお、
図16の油圧閉回路システム70のうち、既に説明した図に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0066】
本実施例において、
図1の油圧閉回路システム10と異なる点は、エンジン(原動機)71により、吐出量を変えることができる両傾転型の油圧ポンプ72を駆動している点である。エンジン71は、図示しないエンジンコントロールダイヤル等の操作装置により目標回転数が設定され、電子ガバナなどの燃料噴射装置により燃料噴射量が制御され、回転数とトルクが制御される。
【0067】
この両傾転型の油圧ポンプ72は、回転方向と回転速度が一定でも傾転方向と傾転角を変えることにより、吐出と吸入の方向や流量を変えることができるので、エンジン駆動に適している。油圧ポンプ72はその傾転方向と傾転量を変えるためのレギュレータ78を備えている。
【0068】
また、コントローラ73は、ポンプ傾転制御部73aとフラッシング弁制御部73bとを有している。ポンプ傾転制御部73aは、操作レバー装置91からの油圧シリンダ11の動作(移動方向と速度)を指示する操作指令信号92を入力し、この操作指令信号92(操作レバー装置91の指示)に基づいて両傾転型の油圧ポンプ72の傾転方向と傾転角の制御指令値を演算して対応する制御信号77を油圧ポンプ72のレギュレータ78に出力し、油圧ポンプ72の傾転を制御する。これによりコントローラ73は、操作レバー装置91の指示に基づいて油圧ポンプ72の吐出方向と吐出流量を制御する。フラッシング弁制御部73bは、操作指令信号92と管路17及び管路18に設けられた圧力センサ93,94の検出圧力信号21,22を入力し、これらの入力信号(操作レバー装置91の指示と管路17及び管路18の圧力)とポンプ傾転制御部73aで演算した油圧ポンプ72の傾転角(油圧ポンプ72の吐出流量に関連する物理量)に基づいてフラッシング弁16のON/OFF指令値を演算して対応する制御信号23を出力し、フラッシング弁16の切換位置を制御する。
【0069】
図17は、コントローラ73におけるポンプ傾転制御部73aとフラッシング弁制御部73bの処理内容の詳細を示す図である。
【0070】
ポンプ傾転制御部73aは、ポンプ傾転方向/傾転角演算部73a−1及び出力部73a−2の各機能を有している。
【0071】
ポンプ傾転方向/傾転角演算部73a−1は、操作レバー装置91からの油圧シリンダ11の動作(移動方向と速度)を指示する操作指令信号92に基づいて油圧ポンプ72の傾転方向と傾転角の制御指令値を演算し、出力部73a−2はその制御指令値に対応する制御信号を油圧ポンプ72のレギュレータ78に出力する。
【0072】
フラッシング弁制御部73bは、低圧側判定部73b−1、補正圧力演算部73b−2、圧力大小判定部73b−3、制御信号演算部73b−4、出力部73b−5の各機能を有している。これら各部の機能は、補正圧力演算部73b−2を除いて、
図2に示した実施例1のものと実質的に同じである。
【0073】
補正圧力演算部73b−2においては、電動機制御部22aで演算した電動機12の回転速度に代え、ポンプ傾転制御部73aで演算した油圧ポンプ72の傾転角(油圧ポンプ72の吐出流量に関連する物理量)を用い、この傾転角によって変化する可変値として制御パラメータを求め、この制御パラメータを低圧側の管路の圧力に加算して補正圧力を算出する。また、補正圧力演算部73b−2では、
図14に示した電動機速度と制御パラメータPsとの関係と同様に、ポンプ傾転角と制御パラメータPsの関係をマップもしくは近似式で求め、その関係を用いて
図14の場合と同様に傾転角によって変化する可変値としての制御パラメータを演算する。
【0074】
もし、エンジン71の回転速度の変動による両傾転ポンプ72の吐出流量の変動が大きい場合は、補正圧力演算部73b−2にエンジン71の回転速度も与えて、その値を用いてポンプ吐出流量を計算し、ポンプ吐出流量から制御パラメータPsをマップもしくは近似式で求めればよい。
【0075】
補正圧力演算部73b−2、圧力大小判定部73b−3、制御信号演算部73b−4、出力部73b−5において、求めた制御パラメータPsを加算して圧力判定を行い、フラッシング弁16に制御信号23を与える点は、これまでの実施例と同じである。
【0076】
また、
図1の実施例において
図13を用いて説明したのと同様、制御側圧力室が切り換わる負荷反転が起きたときの油圧シリンダ11の速度低下を防止するため、負荷が反転するタイミングで油圧ポンプ72の傾転角を増加させて油圧ポンプ72の吐出流量を増加させるものに本実施例を適用してもよく、これにより負荷が反転した後も油圧シリンダ11の速度を一定とすることができ、油圧シリンダ11の操作性を向上させることができる。このときの油圧ポンプ72の傾転角は、油圧シリンダ11の移動方向を考慮して、ヘッド側圧力室24とロッド側圧力室25の受圧面積から換算すればよい。この制御は、ポンプ傾転方向/傾転角演算部73a−1において行うことができる。負荷が反転したかどうかは圧力大小判定部73b−3における判定結果から知ることができる。
【0077】
このように、駆動源がエンジン71の場合でも、本実施例の構成とすることで、フラッシング弁16の動作を安定させ、油圧シリンダ11の操作性を向上させることができる。