(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波し、これにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。超音波診断装置は、超音波を送受波する超音波プローブを備えている。超音波プローブには超音波を送受波する振動子、及び振動子へ送信信号を供給或いは振動子からの受信信号を処理するための電子回路等が設けられる。電子回路は、例えば超音波画像として3D画像が得られる3Dプローブに設けられ、超音波プローブと装置本体とを接続するケーブルの本数を低減させるよう、超音波プローブ内でチャンネルリダクションを行うため等に設けられる。振動子及び電子回路に電力が供給され、これらが動作することで超音波の送受波が行われる。振動子及び電子回路等が動作することによってこれらにおいて発熱が生じる。
【0003】
超音波プローブは被検体に当接されて用いられるため、超音波プローブから発生する熱により被検体が侵襲を受けないよう、当接面表面の温度を適切に管理する必要がある。特に、体腔内プローブの場合にはその温度管理が特に重要になる。超音波プローブの表面温度については規定が設けられている。例えば、IEC(International Electrotechnical Commission)においては、患者に使用する超音波プローブは、正常状態で患者が接触する部分の表面温度が43℃を超えてはならない、と規定されている。
【0004】
超音波プローブの当接面、すなわち超音波の送受波面表面の温度を管理するには、送受波面表面に温度センサを設けるのが最も単純な方法である。しかし、送受波面表面に温度センサを配置すると、温度センサの影響で送受波に乱れが生じ、超音波画像が劣化する等の問題が発生する虞がある。したがって、送受波面表面に温度センサを設けるのは適切ではない。
【0005】
従来から、超音波プローブに温度センサを設ける等して超音波プローブの温度を管理することが行われている。
【0006】
特許文献1には、超音波プローブの振動子付近の温度を予測する技術が開示されている。特許文献1に記載された発明においては、温度センサが振動子付近に設けられ、温度予測部が温度センサの出力値を所定時間毎に計測する。温度予測部は、所定時間毎に計測された温度センサの出力値に基づいて、その後の温度上昇を予測している。また、他の方法として、振動子に供給される電圧及び電流を基に振動子における消費電力を計算し、これに基づいて所定タイミング後の温度上昇を予測することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、超音波振動子の駆動電圧と超音波プローブ表面の最大飽和温度との関係を示すテーブルに基づいて、最大飽和温度が許容温度を超えないような駆動電圧にて超音波振動子の駆動させることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、バッキング材に第1及び第2の温度センサを埋設し、2つの温度センサの検知温度に基づいて超音波探触子表面の温度を推定することが記載されている。特許文献3においては、第1及び第2温度センサの検出値Ta及びTb、及び第1温度センサから超音波探触子表面までの熱抵抗Ra、及び第1温度センサから第2温度センサまでの熱抵抗Rbに基づいて、超音波探触子表面の温度を推定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明は、振動子付近の温度管理を行うための発明であり、そのために温度センサを振動子部分に設けている。特許文献1には、振動子付近の温度から送受波面表面の温度を推定することは記載されていない。特許文献1に基づいて送受波面表面の温度管理を行うには、送受波面表面に温度センサを設ける必要があるが、上述の通り送受波面表面に温度センサを設けることは適切ではない。したがって、送受波面表面の温度を計測するにあたっては、特許文献1の技術をそのまま採用することができない。
【0011】
特許文献2に記載された発明においては、プローブ表面の飽和温度、すなわち超音波の送受波を開始してからプローブ表面の温度が平衡状態に至るまでの期間経過後の温度に基づいて超音波振動子の駆動電圧を制御している。したがって、プローブ表面の温度をリアルタイムで管理しているわけではない。特許文献2に記載の発明においては、最大飽和温度が許容温度以上に到達すると判定された駆動電圧では超音波振動子を駆動することができなくなる。したがって、例えば短時間のみ高画質が得られる動作条件を選択する、等の柔軟な使用方法をとることができないことになる。
【0012】
特許文献3に記載された発明においては、温度検出値と熱抵抗の値を考慮すること、及び熱源から発生する熱の一部を熱流量として考慮することが記載されている。しかし、特許文献3に記載された発明においては、温度センサから熱源の位置が離れており、熱応答性が悪いと考えられ、超音波探触子表面の温度の推定精度に影響を与えると考えられる。また、温度センサが超音波探触子の中心軸上に配置されているため、熱源の位置が変わると熱源からの熱抵抗が実際には大きくなるため、温度分布を検出できない。
【0013】
本発明の目的は、超音波プローブの送受波面の表面温度を高精度に推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明は、超音波を送受波する振動子、前記振動子の生体側に設けられた送受波面及び前記振動子に接続された電子回路を含む送受波ユニットと、前記送受波ユニットに設けられた温度検出手段と、を有する超音波プローブと、前記超音波の送受波条件及び前記温度検出手段の検出値に基づいて、前記送受波面の表面温度を推定する温度推定手段と、を含むことを特徴とする超音波診断装置に係るものである。
【0015】
上記構成によれば、超音波プローブの送受波ユニットに温度検出手段が設けられる。上述の通り、送受波面表面に温度検出手段を設けることは適切でないため、上記構成においては、温度検出手段を送受波ユニットに設けている。当該温度検出手段は、超音波プローブの送受波面の表面温度を直接的に検出するものではないため、温度検出手段の検出値に基づいて送受波面表面の温度を推定する必要がある。温度検出手段の検出値に対する送受波面表面の温度は、超音波の送受信条件に応じて変動するため、上記構成においては、超音波の送受信条件を考慮して、温度検出手段の検出値から送受波面表面の温度を推定している。
【0016】
(2)上記(1)の構成において、前記温度推定手段は、前記超音波の送受波条件に基づいて、前記温度検出手段が温度を検出した位置と前記送受波面との間の温度差を推定する温度差推定手段と、前記温度差と前記温度検出手段の検出値に基づいて、前記表面温度を推定する表面温度推定手段とを含むことが望ましい。
【0017】
(3)上記(1)の構成において、前記温度差推定手段は、前記超音波の送受波条件に従って算出される送受波消費電力に基づいて前記温度差を推定することが望ましい。温度検出手段の位置と送受波面表面の温度差は、熱源の消費電力に応じて変動するため、これを考慮することで送受波面表面の推定温度の精度を向上させる。また、前記送受波消費電力には、前記電子回路における第1消費電力、及び前記振動子における第2消費電力が含まれることが望ましい。熱源が複数存在する場合は、各熱源の消費電力を分けて考慮することで表面温度の推定精度がさらに向上する。
【0018】
(4)上記(1)の構成において、前記送受波ユニットは、さらに、前記電子回路と前記振動子との間に介在配置された中継基板を有し、前記温度検出手段は、前記中継基板に設けられることが望ましい。
【0019】
上記構成において、中継基板は、電子回路から見て送受波面が存在する側にあり、電子回路で生じた熱が中継基板を介して送受波面に伝わる。その中継基板に温度検出手段を設ければ、送受波面の温度上昇をもたらす電子回路で発生した熱を直接的にあるいは応答性良く検出できる。もっとも、電子回路内に温度検出手段を配置してもよい。電子回路が振動子よりも熱源として見て大きなものである場合、つまり電子回路が支配的な熱源である場合に、上記構成を採用すれば、表面温度の推定精度を高められる。必要に応じ、振動子近傍に第2の温度検出手段を設け、その検出値を併せて考慮してもよい。中継基板が硬質基板として構成される場合、上記構成によれば、温度検出手段の位置決めを高精度に行うことができる。
【0020】
(5)上記(4)の構成において、前記温度検出手段は、前記中継基板の前記電子回路が配置された面における前記電子回路の近傍に設けられることが望ましい。
【0021】
上記構成によれば、超音波プローブにおける主な発熱源が電子回路である場合に、温度検出手段が主な発熱源近傍に設けられることで、発熱量の変化をより早期に検出することができる。
【0022】
(6)上記(5)の構成において、前記温度検出手段は前記中継基板に配置された複数の温度センサにより構成され、前記温度推定手段は、前記複数の温度センサによって検出された複数の温度に基づいて代表温度を特定し、前記代表温度に基づいて前記表面温度を推定することが望ましい。また、前記複数の温度センサは、前記中継基板において前記電子回路の少なくとも両側に配置されることが望ましい。また、前記温度推定手段は、前記複数の温度のうち最も高い温度を前記代表温度として特定することが望ましい。
【0023】
上記構成によれば、温度検出手段は複数の温度センサにより構成される。複数の温度検出値に基づいて特定される代表温度に基づいて表面温度推定する。これにより、例えば表面温度に温度勾配が生じている場合において、最も高い部分の表面温度に基づいて温度管理が可能になる。
【0024】
(7)上記(1)の構成において、前記超音波プローブは体腔内に挿入されるプローブであり、前記振動子は2Dアレイ振動子であり、前記電子回路は前記2Dアレイ振動子に対して複数の送信信号を供給し且つ前記2Dアレイ振動子からの複数の受信信号を処理するチャンネルリダクション機能をもった送受信回路であることが望ましい。
【0025】
(8)上記(1)の構成において、前記送受波面の表面温度に基づいて、前記送受波面の表面温度を低下させるよう前記超音波の送受波条件を制御する制御手段をさらに含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、超音波プローブの送受波面の表面温度を高精度に推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る超音波診断装置の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。超音波診断装置は、一般に、病院等の医療機関に設置され、生体に対して超音波診断を実行する医療上の機器である。
【0030】
プローブ10は、被検体表面に当接され超音波の送受波を行う超音波プローブである。プローブ10は、超音波を送受波する2Dアレイ振動子12、2Dアレイ振動子12と電気的に接続される電子回路14、及びプローブ10内の所定位置の温度を検出する温度検出部16を含んで構成されている。プローブ10は、後述の装置本体18とケーブルにより接続される。或いは無線により接続されていてもよい。本実施形態においては、プローブ10は経食道プローブであるが、プローブ10の種類としては他の種類、例えばコンベックス型やリニア型等であってもよい。
【0031】
2Dアレイ振動子12は、2次元に配列された千数百個の複数の振動素子から構成される。それぞれの振動素子に駆動電圧が供給されると、各振動素子において超音波ビームが形成される。また、各振動素子は被検体から反射してくる反射エコーを受信する。各振動素子が受信した信号は電子回路14に供給される。2Dアレイ振動子12は電力が供給されることで動作し、発熱する。2Dアレイ振動子12における消費電力及び発熱量は、超音波の送受波条件、例えば診断モード、送信電圧、波数、パルス間隔の時間(PRT)、及び周波数等に応じて変動する。
【0032】
電子回路14は、複数機能の回路を1つにまとめたASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含んで構成される。本実施形態におけるASICは、送信サブビームフォーマー及び受信サブビームフォーマーとして機能するものである。2Dアレイ振動子12を構成する振動素子は、複数のグループにグルーピングされている。送信サブビームフォーマーは、グループ毎に、グループ送信信号に基づいて、遅延関係をもった複数の送信信号を生成する。受信サブビームフォーマーは、グループ毎に複数の受信信号に対して整相加算処理を行い、グループ受信信号を生成する。複数のグループ受信信号は、装置本体18内の送受信部32によって処理され、1つのビームデータとなる。上記処理により、プローブ10と装置本体18との間の信号線の本数を低減させている。ASICは電力が供給されることで動作し、発熱する。2Dアレイ振動子12同様、ASICにおける消費電力及び発熱量も超音波の送受波条件に応じて変動する。本実施形態においては、ASICの発熱量は2Dアレイ振動子12の発熱量の約10倍程度であり、プローブ10における主な発熱源はこのASICとなる。
【0033】
温度検出部16は、プローブ10に設けられる温度センサである。温度センサは設置された位置周辺の温度を検出する。本実施形態においては、温度に応じて抵抗値が変動するサーミスタを温度センサとして用いており、サーミスタの抵抗値を取得し、当該サーミスタの温度特性を参照することで温度値を検出している。上述の通り、プローブの送受波面表面の温度を計測するには、温度センサを送受波面に設けるのが一番簡単な方法であるが、温度センサは送受波信号に影響を及ぼし、その結果超音波画像の劣化が生じてしまう。したがって、本実施形態では、2Dアレイ振動子12及び電子回路14を含む送受波ユニットに温度センサを設けている。温度センサは、2Dアレイ振動子12と電子回路14との間に設けられる中継基板に設けられるのが好適である。これにより、2つの発熱源により近い位置に温度センサが配置されることになり、発熱源からの熱をより早期に検出でき、温度管理の応答性を向上させることができる。さらに、温度センサであるサーミスタを基板に配置することで、温度センサの配置精度を向上させることができる。
【0034】
装置本体18は、制御部20、送受信部32、表示処理部34、操作パネル38を含んで構成される。制御部20は、送受波条件設定部22、送受波制御部24、消費電力算出部26、表面温度推定部28、及び警告制御部30を含んでいる。これらの機能はプログラムにより実現され、当該プログラムは装置本体18が有する不図示の記憶手段に記憶される。
【0035】
送受波条件設定部22は、2Dアレイ振動子12における超音波の送受波条件を設定する。送受波条件は、操作者の指示に基づいて設定される。例えば、操作者は操作パネル38を用いて、予め用意される複数の発熱モードから所望の発熱モードを選択する。本実施形態では、発熱モードとして「Low」、「Mid」、及び「High」の3つが用意されている。発熱モード「High」は、超音波診断装置の性能を最大限に活かしたモードであり、高い解像度、高い応答性を有する超音波画像が得られるモードである。一方、発熱モード「Low」は、例えば超音波の送信電圧や波数を低減させたり、PRTを大きくしたりすることにより、超音波画像の画質は劣るものの、発熱が抑えられ長時間使用することができるモードである。発熱モード「Mid」はこれらの中間のモードである。送受波条件設定部22は、入力された発熱モードに応じた送受波条件を設定する。送受波条件には、振動素子の駆動電圧、周波数、波数、パルス間隔の時間(PRT)、診断モード等が含まれる。
【0036】
送受波制御部24は、送受波条件設定部22により設定された送受波条件に基づいて送受信部32を制御し、当該送受波条件において2Dアレイ振動子12及び電子回路14を動作させる。また、送受波制御部24は、送受波条件設定部22或いは表面温度推定部28からの信号に基づいて送受信部32を制御し、プローブ10における超音波の送受波を停止させる制御も行う。具体的には、表面温度推定部28から、プローブ10の表面温度が所定温度(例えば43℃)であることを示す情報を受けた場合には、送受波制御部24は、送受信部32を制御し、直ちに超音波の送受波を停止させる。
【0037】
消費電力算出部26は、送受波条件設定部22において設定された送受波条件に基づいて、2Dアレイ振動子12及び電子回路14における消費電力を算出する。消費電力の算出は、送受波条件と消費電力との関係を示す関数を用いて算出してもよいし、送受波条件と消費電力との対応関係をテーブルの形で予め保存しておき、送受波条件と当該テーブルに基づいて消費電力を特定するようにしてもよい。
【0038】
表面温度推定部28は、消費電力算出部26が算出した消費電力及び温度検出部16の検出値に基づいて、プローブ10の送受波面表面の温度を推定する。送受波面表面の温度の推定の詳細については、
図4を用いて後述する。
【0039】
警告制御部30は、表面温度推定部28が推定した送受波面表面の温度に基づいて、操作者に送受波面表面の温度を低下させることを促す警告を出力する制御を行う。本実施形態では、送受波面表面の温度が所定値以上(例えば41℃)である場合に警告を出力する。警告は、表示部36に警告メッセージとして表示されるようにしてもよく、音、光等により発せられるようにしてもよい。もちろんこれらの手段を組み合わせた警告としてもよい。
【0040】
送受信部32は、メイン送受信ビームフォーマとして機能する。送受信部32は、送受波制御部24からの信号を受け取り、2Dアレイ振動子12が有する複数の振動素子を駆動するための複数の信号を電子回路14に供給する。また、電子回路14を介して2Dアレイ振動子12からの複数の受信信号を受信する。複数の受信信号は超音波画像形成部(不図示)に送られ、超音波画像形成部において、受信信号に基づいた超音波画像が形成される。
【0041】
表示処理部34は、表面温度推定部28が推定したプローブ10の送受波面表面の温度を表示部36に表示する制御を行う。表面温度の表示はリアルタイムに行うのが好適である。また、警告制御部30から指示を受けた場合には、警告メッセージを表示部36に表示する制御を行う。なお、表示処理部34は、超音波画像形成部において形成された超音波画像を表示部36に表示させる制御も行う。
【0042】
図2は、本実施形態に係る経食道プローブの構造を示す断面図である。
図2に示す保護層50、音響整合層52、複数の振動素子54、複数のバッキング材56、中継基板58、ASIC60、FPC66、及び放熱部材68等が超音波の送受波ユニット70を構成している。
【0043】
保護層50は、音響整合層52以下の層を保護するものである。保護層50は、例えばシリコーンゴム製であってよく、曲率がついていてもよい。保護層50の下に音響整合層52及び振動素子54が備えられているため、保護層50を介して超音波が送受波されることになる。したがって、保護層50の被検体78側の表面が送受波面である。
【0044】
音響整合層52は、振動素子54と被検体78との間の音響インピーダンスの整合を取り超音波の反射を抑えるものである。音響整合層52は、1又は複数の層からなる。音響整合層52を設けることで、好適な超音波画像を得ることができる。
【0045】
振動素子54は、超音波ビーム或いは受信信号を形成するものであり、PZT(ジルコン・チタン酸鉛)等のセラミックスやPMT−PT(マグネシウムニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体)等の単結晶からなる。上述の通り、振動素子54は千数百個設けられる。振動素子54の両側には電極が貼り付けられ、この電極を介して駆動電圧が印加される。駆動電圧が印加されると振動素子54は伸縮と膨張を繰り返すことにより振動し、これにより超音波ビームを発生させる。また、振動素子54は、被検体からの反射エコーを受け、反射エコーにより振動させられると電圧を発生する。これが受信信号となる。
【0046】
バッキング材56は、振動素子54の不要な振動を抑える役割があり、各振動素子54それぞれに設けられる。バッキング材56は、音響インピーダンスの高いハードバッキング(HB)材から構成されることが好ましい。
【0047】
上記保護層50、音響整合層52、振動素子54、及びバッキング材56により2Dアレイ振動子12が構成される。
【0048】
中継基板58は、2Dアレイ振動子12と、電子回路14を構成するASIC60との間に設けられ、両者を電気的に接続するための複数のリード配線62を有する基板である。中継基板58の被検体側面には、2Dアレイ振動子12が電気的に接続される。中継基板58の非被検体側面には、ASIC60が実装される。そして、リード配線62により振動素子54とASIC60とが電気的に接続される。中継基板58は、プローブ10の通常使用にあたって変形しない程度に硬質であることが望ましい。硬質な中継基板58に温度センサを設けることで、温度センサの位置精度を向上させることができるからである。
【0049】
中継基板58には、温度センサであるサーミスタ64が設けられる。本実施形態では、サーミスタは2つ設けられている。サーミスタ64は、中継基板58の非被検体側面、すなわちASIC60と同一の面に設けられるのが好ましい。特に、サーミスタ64をASIC60の近傍に配置することで、ASIC60の熱の変動をより早期に検出することが可能になる。さらに、ASIC60において発生した熱が空気中を伝わってくる輻射熱も併せて検出することが可能になる。サーミスタ64は、フリップチップ実装やリフロー実装によって中継基板58に実装される。
【0050】
サーミスタ64は、複数設けられるのが好適である。サーミスタ64が複数箇所に設けられることで、プローブ10内の複数箇所の温度を検出することができる。例えば、診断モードとして、超音波の送信と受信とを別々の振動素子54により行うCW(Continuous Wave)ドプラ方式が選択されている場合には、送信を行う振動素子54と、受信を行う振動素子54との間、及び送信用振動素子に対応するASICの送信用部分と、受信用振動素子に対応するASICの受信用部分との間において発熱量に差が生じる場合がある。そして、この発熱量の差に起因して、送受波面表面において温度勾配が発生する場合がある。このような場合に、複数箇所において検出された温度値に基づいて、送受波面表面において温度勾配が発生していることを推定することができ、且つ、より高い温度に基づいて超音波送受信の制御を行うことができる。サーミスタ64の配置については、
図3を用いて後述する。
【0051】
FPC(Flexible Printed Circuits)66は、振動素子54、ASIC60、及びサーミスタ64等と装置本体18とを接続するものである。FPC66は、中継基板58に電気的に接続されており、中継基板58を介して振動素子54等と接続されている。
【0052】
放熱部材68は、ASIC60に接するよう配置され、ASIC60において発生した熱を空気中或いは筺体76等へ逃がしやすくするためのものである。放熱部材68は振動素子54で発生した超音波が放射面と反対面に伝播した波を吸収する機能を備えていてもよい。
【0053】
筺体76は、プローブ10の筺体である。本実施形態では、プローブ10は経食道プローブであるため、患者の食道へ挿入し易いようその先端は砲弾型となっている。
【0054】
図3は、中継基板の平面図である。
図3には、中継基板58におけるASIC60及び複数のサーミスタ64の配置例が示されている。
図3(a)の例では、ASIC60及びサーミスタ64が中継基板58の長手方向に並ぶよう配置されており、ASIC60の両側にサーミスタ64が配置されている。
【0055】
CWドプラ方式で超音波が送受信されている場合は、複数の振動素子54が送信用と受信用に分かれることになる。例えば、
図2において左半分が送信用振動素子72となり、右半分が受信用振動素子74となる。この場合、
図3に示すように、送信用振動素子72及び受信用振動素子74に対応して、ASIC60も送信用部分80と受信用部分82とに分けられる。例えば、送信用振動素子72の発熱量は受信用振動素子74の発熱量より大きく、また送信用部分80の発熱量は受信用部分82の発熱量よりも大きくなる等、両者において発熱量の差が生じる。そして、この発熱量の差に起因してプローブ10の送受波面表面において温度勾配が生じることになる。
【0056】
このとき、
図3(a)におけるサーミスタ64aが検出する温度は、サーミスタ64bが検出する温度よりも高くなる。したがって、2つのサーミスタ64の検出温度が異なることをもって、プローブ10の送受波面表面において温度勾配が生じていることを推定できる。そして、例えば複数のサーミスタ64のうち最も高い温度検出値を代表温度として特定し、当該代表温度に基づいてプローブ10の送受波面の表面温度を算出することで、送受波面の表面温度の一部のみが所定温度を超えているような場合であっても、超音波の送受波を停止する等適切な制御を行うことが可能になる。
【0057】
図3(b)及び(c)にはサーミスタ64の他の配置例が示されている。
図3(b)及び(c)にはサーミスタ64が4つ配置されているが、もちろんこれ以上の数のサーミスタ64を設けるようにしてもよい。サーミスタ64の数を増やすことにより、より詳細な温度勾配を把握することが可能になる。サーミスタ64の位置は、例えば、CWドプラ方式におけるASICの送信用部分80及び受信用部分82の配置等に応じて決定されてよい。
【0058】
サーミスタ64が複数設けられた場合の代表温度の決定方法としては、上記のように単純に最も高い検出温度を代表温度とする他、例えば複数のサーミスタ64を近接してサーミスタ群として配置し、サーミスタ群それぞれの温度検出値の平均値を代表温度とするようにしてもよい。これにより各サーミスタにおける検出温度の誤差の影響を低減させることができる。サーミスタ群を複数配置し、各サーミスタ群の平均値のうち最も高い温度を代表温度としてもよい。
【0059】
図4は、熱回路網を示す図である。物体間の温度差、熱流、熱抵抗の関係は電気回路における電圧、電流、抵抗と類似の関係にあるため、物体間の温度差、熱流、熱抵抗を電気回路に類似の熱回路網として表現することができる。熱回路網90は、電気回路のGNDと同記号である基準温度92、電気回路の直流電源と同記号である熱源、及び電気回路の抵抗と同記号である熱抵抗94を含んでいる。簡単のため、熱回路網90では熱源を1つとしている。
【0060】
熱回路網90においては、基準温度92を外気の温度としている。熱源は
図2におけるASIC60である。熱抵抗94は、プローブ10が含む各物体の温度の伝わりにくさを表す値であり、単位は(℃/W)である。例えば、ASIC60と送受波面表面との間に配置された熱抵抗R
a1は、ASIC60と送受波面表面との間の物体、すなわち中継基板58、リード配線62、バッキング材56、音響整合層52、及び保護層50等の熱抵抗の合成抵抗を示す。各物体の熱抵抗は、実験等により予め求めておく。
【0061】
以下、
図1及び
図4を参照して表面温度推定部28によるプローブ10の送受波面表面の温度の推定方法について説明する。表面温度推定部28は、以下の式に基づいてプローブ10の送受波面表面の温度を推定する。
(送受波面表面温度T
2)=(温度センサ検出温度T
1)+(温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差)+(1次遅れ要素)・・・式1
(温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差)=α×消費電力W・・・式2
(1次遅れ要素)=β×exp(−Δt/K)・・・式3
【0062】
式1における(温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差)とは、サーミスタ64の配置位置と送受波面表面との間の温度差であり、具体的には式2により推定される。また、式1において、熱源から送受波面表面までに熱が到達するまでの時間差を考慮し、(1次遅れ要素)を加えている。
【0063】
式2におけるαは、熱源から温度センサまでの熱抵抗の値から、熱源から送受波面表面までの熱抵抗の値を引いた値である。例えば、熱回路網90において、熱源であるASIC60から温度センサまでの熱抵抗であるR
c1が2(℃/W)であり、ASIC60から送受波面表面までの熱抵抗であるR
a1が6(℃/W)である場合、αは2−6=−4となる。式2における消費電力Wとは、熱源であるASIC60の消費電力である。ASIC60の消費電力が1Wである場合、温度センサ(サーミスタ64)の配置箇所と送受波面表面との間の温度差は、−4×1=−4(℃)と推定される。
【0064】
式3におけるβは、熱源の消費電力に応じて変動する変数である。また、Δtは超音波送受波開始からの経過時間(sec)であり、Kは時定数である。
【0065】
複数の熱源が存在する場合は、熱源毎に温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差を算出し、式1の(温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差)の項目として、各熱源についての値を合計した値を用いればよい。例えば、熱源としてASIC60と振動素子54の2つが存在する場合、まずASIC60から温度センサまでの熱抵抗の値から、ASIC60から送受波面表面までの熱抵抗の値を引いた値を求めこれをα
1とし、α
1とASIC60の消費電力W
1を乗じた値α
1W
1を算出する。次に、振動素子54から温度センサまでの熱抵抗の値から、振動素子54から送受波面表面までの熱抵抗の値を引いた値を求めこれをα
2とし、α
2と振動素子54の消費電力W
2を乗じた値α
2W
2を算出する。そして、式1における(温度センサの温度検出位置と送受波面表面との間の温度差)の項目としてα
1W
1+α
2W
2の値を用いればよい。
【0066】
図5は、本実施形態に係る超音波診断装置の制御部の動作順序を示すフローチャートである。以下、
図1、
図2及び
図5を参照しながら本実施形態に係る超音波診断装置の制御部の動作の流れを説明する。
【0067】
ステップS10において、操作者は発熱モードを選択する。操作者は、操作パネル38を操作し、発熱モード「Low」、「Mid」、「High」のいずれかを選択する。
【0068】
ステップS12において、送受波条件設定部22は、操作者により入力された発熱モードに基づいて、超音波の送受信条件を設定する。
【0069】
ステップS14において、消費電力算出部26は、ステップS12で設定された超音波の送受信条件に基づいて、振動素子54及びASIC60の消費電量を算出する。
【0070】
ステップS16において、表面温度推定部28は、温度センサの検出温度T
1を取得する。具体的には、サーミスタ64の抵抗値を読み取り、サーミスタ64の温度特性に基づいて読みとった抵抗値に対応する温度を検出温度T
1として取得する。
【0071】
ステップS18において、表面温度推定部28は、送受波面の表面温度T
2を推定する。表面温度T
2は、上述の通り、温度センサの検出温度T
1及び熱源である振動素子54及びASIC60の消費電力に基づいて推定される。
【0072】
ステップS20において、表面温度推定部28は、推定された表面温度T
2が第1閾値及び第2閾値を超えているか否かを判定する。本実施形態においては、表面温度T
2が第1閾値より小さい場合は特に何も制御を行わない。表面温度T
2が第1閾値以上であり、第2閾値より小さい場合は、警告を発する。表面温度T
2が第2閾値である場合は、直ちに超音波の送受波を停止させる制御を行う。第1及び第2閾値は任意に設定されてよいが、本実施形態では、IECの規定を考慮し、第1閾値を41℃、第2閾値を43℃に設定している。
【0073】
ステップS20において、表面温度T
2が第1閾値より小さい場合は、ステップS14に戻り、ステップS14からステップS20までの処理を再度行う。ステップS20において表面温度T
2が第1閾値以上であり第2閾値より小さい場合は、ステップS22に進む。
【0074】
ステップS22において、警告制御部30は、表示
処理部34に指示を送り、表示部36に警告メッセージを表示させる。警告メッセージには、例えば、ステップS18で推定された表面温度T
2の値、推定された表面温度T
2が超音波の送受波が停止される第2閾値に近いことを示すメッセージ、及び発熱の少ない発熱モードに切り替えることを操作者に促すメッセージ等が含まれる。ステップS22で警告メッセージを表示した後、再度ステップS14からステップS20の処理を行う。
【0075】
ステップS20において、表面温度T
2が第2閾値である場合には、ステップS24に進む。ステップS24においては、送受波制御部24は送受信部32を制御し、直ちに超音波の送受波を停止させる。このとき、同時に、表面温度T
2が第2閾値に達したため超音波の送受波を停止したことを示すメッセージを表示部36に表示するようにしてもよい。
【0076】
以上説明したように、本実施形態においては、送受波面の表面温度T
2の推定を繰り返し行っており、表面温度T
2の推定値をリアルタイムに得ることができる。これにより例えば、長時間使用すると表面温度T
2が制限温度に達してしまうような動作モードを短時間のみ使用する等の柔軟な使用方法を取ることが可能になる。また、使用中に表面温度T
2が制限温度に達した場合は強制的に超音波の送受波が停止され、表面温度T
2が制限温度に近付いた場合は警告が発せられるので、操作者の不注意による被検者の侵襲を防ぐことができる。
【0077】
図6は、推測表面温度と実測表面温度を示すグラフである。グラフ100(*印)は表面温度推定部28が推定した送受波面表面の温度を表し、グラフ102(太線)は送受波面表面の実測値を表し、グラフ104(黒ドット)は温度センサの検出値を示す。グラフ100とグラフ102を比較して分かるように、本実施形態によれば、送受波面表面の温度を高精度に推定することができる。